1
自分以外、誰もいない教室で、ひとり、溜め息を洩らす。
「あーぁ、今日は新作の発売日だって言うのに、補習だなんてツイてないよ。
僕一人だけ、監督が鉄人だなんてまず逃げ出せやしないよ」
そう呟くと、数日前……
すなわち、観察処分者に認定された出来事を思い返した。
「
それでもぼくは後悔はしていない。
あの子の、テディベアを買おうとしていた子の笑顔が見れたんだから。
「それにしても、まだ鉄人がこないな。」
なら、このまま黙って帰ってしまおうか。
そんな考えが頭に過ぎる。
行き着けのお店だから、今から直接お店に向かっても、引換証は無いが予約限定版を買えるだろう。
そう思って、机に広がっていた筆記具類を纏めようとした時、若干控えめに教室の扉が開いた、ようやく鉄人が来たのだろうか?
自然と扉の方に目が行くのは当然だろう。
「あ、あのすいません。 先生に言われてプリントを持って来ました」
そしてそのプリントを持ってきた人物が誰かわかると思わず僕は自分の目を疑った。
「え゛? ひ、姫路さん? どうしたの?」
教室に入ってきたのは鉄人ではなく、姫路さんだったんだから。
「西村先生が急にご用事が入ったみたいで、これを届けるように、と伝言を……」
そう、言われて差し出されたプリントを受け取ると、確かにプリントの余白に鉄人の字でその旨が書き込まれていた。
そしてその下に小さく
「終わるまで帰宅を許さず、職員室の私の机に提出する事」
と書かれていた。
パラパラと数枚のプリントを見渡すが、どれも結構難しい問題ばかりだ。
これじゃあ結構時間も掛かっちゃうだろうな。
「ありがとう、姫路さん、ごめんね、迷惑かけて」
プリントから目を離すと、わざわざ一階の職員室からここまでプリントを届けに来てくれた姫路さんにお礼を言う。
「大丈夫ですよ、授業について聞きたい事があって職員室に行った帰りでしたから。」
そう言って、天使のような微笑みを浮かべる姫路さん。
畜生、可愛すぎる!
「むしろ、遅くなってしまって迷惑をかけてしまったのは私の方ですから、謝るのは私の方なんですよ?」
「え? それってどういう事?」
「ええっと、私が職員室に来たとき、西村先生はちょうど吉井君にプリントを届けようと職員室を出るところだったんです。
そこでプリントを受け取ったんですが、船越先生もご用事だそうで、プリントはそのまま、そのまま授業の質問を訊きに行ってしまって……」
そう言う事か、我慢して教室に残ってて良かったよ。もし帰っていたら姫路さんに無駄足を踏ませてしまったことになっちゃうからね。
僕は帰り支度なんかしてない、断じてだ。
「あ、あのそれで……遅くなってしまったお詫びなんですが」
ああ、姫路さんはいい人だ、僕はそんな事気にしないのに。
「プリントでわからない所が有ったら言ってください、教えてあげますから」
Why?
落ち着け、落ち着くんだ、
耳はかっぽじったか?
頬は抓った?
教室のスミで声を殺してうるうる感動にむせび泣く心の準備はOK?
「い、良いの? 姫路さん、かなり遅くなっちゃうけど」
「かまいませんよ? 人に教えるのも勉強になりますから」
あはははははは、ぃやったぁぁぁぁ!
まるで勝利の鍵を手に入れた盟主のような歓声をあげたくなる衝動を必死で抑える。
これから行う補習も、嫌だった事がまるで嘘のようにわくわくしてきた。
ちなみに、船越先生のご用事とは合同コンだったりする。
そこ、言い方古いとか言わない。