「ごめんね、姫路さん。僕の所為で帰るの遅くなっちゃったでしょ?」
プリントがすべて片付き、職員室の鉄人の机に置いて学校を出ると、外はもはや夕日も沈む所だ。
「構いませんよ吉井君。わたし、結構楽しかったですから」
そう言って微笑みを向ける姫路さんに気恥ずかしさを覚え、つい顔を背ける。
ああ顔があつい、多分顔も真っ赤だろう。
「どうしたんです? 吉井君」
急に顔を背けた僕に、姫路さんが不安そうに声をかける
どうしょう会話になりそうな話題は何か無いのか……
「ぼ、僕も楽しかったよ、姫路さん ま、また教えてくれると嬉しいかな」
何を言ってるんだ僕は姫路さんとまた2人っきりになりたいと言ってるのと同じだろうでも実際そんな機会があればうれしいかなと思うけど恥ずかしいから言えないけど現にその意志を告げてしまった訳でいかん混乱してきたこういう時は素数を数えるんだ。素数は1と自分の数でしか割る ことのできない孤独な数字、僕に勇気を与えてくれる。1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21
「はい、いいですよ?」
ほら姫路さんだって嫌がってるじゃないか嫌われちゃったじゃないか数秒前の僕を殴りに行きたいよ、時間よ止まれ。
「よ、吉井君!? どうしたんですか!! いきなり自分の頭を殴りだして!」
羞恥にぽかぽかと頭を殴つける僕に心配の声をかけてくれる、その様はまるで天使のようだ。
「だ、大丈夫だよ。 ちょっと個人的な気分の問題で現実逃避したくなっただけだから」
若干荒れた息を整えながら答える。
「そうですか、それじゃあ何時にしますか? お勉強」
「えっ?」
「一緒にお勉強しましょう、ってお話です。 わたしとしては今度の土曜日が好ましいのですが」
「じゃあ、土曜日に……」
「あ、吉井君。私、帰り道さっきの角右でした」
そうして一言二言、言葉をかわしていると、姫路さんは慌てて来た道を引き返して行った。
僕はその姿が見えなくなるまでぼんやり手を振っていたが、正気に返ると電信柱に勢いよく頭を叩き付けた。
痛みのあまり額から血が流れ、星が飛んだ。
「痛い!! 夢じゃない!」
これが現実だと確認すると、額の怪我もそのまま、スキップ混じりで家路についた。
バカの吉井がとうとう正気を失ったと言う噂を知ったのは後々の話である。
鉄人は用事から帰ってきて、書いた覚えのない「終わるまで帰宅を許さず、職員室の私の机に提出する事」の文字に首を捻ったという。