青色うさぎはソフトクリームの夢を見るか   作:くどりん

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 駆けろ。
 絶望がその身を喰らう前に。
『ついてきやがれ』


プロローグⅡ『騎士と依頼請負人』

魔物。

 それは人族や、獣人族をはじめとした亜人族などとは異なり、生命活動をマナだけで維持する存在を指す。温厚な種であれば大気中のマナを摂取するだけで周囲に危害を与えることはない。しかし、そう言った存在は極めて稀少であり、魔物と称される多くは周囲の生物を喰らい、その内包するマナを吸収することでより強い種へと成長しようとしている。

『魔物の生態とその特性について/著者:ぽー』より抜粋――

 

 

 風が吹き荒れていた。

 寂寥とした荒野の岩肌を削り、鬱蒼とした木々の枝葉散らしながら、3つの影が交差を繰り返しながら駆け抜けていく。

 1つはただひたすらに前進することに専念しており、もう1つがそれを護衛するように迫る最後のそれを外側へと弾き飛ばしている。スピードでは最後の巨体が勝っているが、追い縋る度に護衛の存在に進路を逸らされ、徐々に苛立ちとも焦りとも取れる気配が感じられるようになってくる。

「ーーーーーーーー!!」

 形容し難い悍ましさを孕んだ咆哮が耳朶を振るわせる。

 振り返った先には幾度となく剣戟を浴びせた存在が、しかし傷一つない姿でこちらへと再度押し寄せてくる。

 ――再生が速過ぎる!

 保有する膨大なマナが成せる業を前に、一向に相手の体力を削れている実感が湧いてこない。大見得を切った手前、相手に背を向けている現状に情けなさを感じてしまうが、今は己の未熟さに嘆いている場合ではない。

 数度切り結んだことで相手の異様さを身に沁みて感じ、今は先行する男に促されるまま逃走へと身を投じたのだが、

 ――このままでは、向こうよりこちらの体力が先に尽きてしまう……!

 巨大な影――TOIKIが左後方から迫り来るのを感じ、得物の騎士剣を下段に構える。接触まで猶予が僅かにあったが、膨らむ殺気を察知し、振り向きざまに逆袈裟斬りを放つ。直感頼りの一撃はしかし、TOIKIが伸ばしてきた舌を切り裂き、追従の速度を鈍らせた。

 流れる汗を払う暇もなく、青年――かぷこーんが先行する男に問い掛ける。

「なにか策があるんですよね!?」

「当たり前だ! 黙って付いてこい!」

 男が振り返ることなく言葉を送ってくる。手には漆黒の刀身を持つ大剣が握られており、更に背には武器を収めていたはずの鞘がその形状を変化させて、桃色の体毛を纏った存在を包み込み、男に背負わせている。駆ける動きに淀みはなく、まるで手にした大剣や背負う存在の重さなど感じていないかのようだった。

 ――見た目以上に筋力があるのか、あるいは……

 男の様子に意識を向けそうになったが、TOIKIがこちらを追い越す、あるいは押し潰そうと跳躍してきたのを見て、直ぐさま相手の進路を塞ぐように身体を割り込ませる。

 体内のマナに意識を向け、その奔流を手にした刀身に纏わせるように放出していく。意のままに操作されたマナは、やがて翡翠を彷彿とさせる輝きを放ち、周囲の大気を巻き込み吹き荒ぶ。

 風の型――風刃乱舞。

 一振りのもと放たれた無数の鎌鼬が相手の顔全体に裂傷を刻んでいく。

「ーーーーーーーー!?」

 瞬きの間に幾度となく切り裂かれ、血飛沫――ではなく、マナを多分に含んだ魔血と呼ばれるものが淡い白光と共に散り、悶絶の悲鳴が上がる。

「こいつも受け取れ!」

 空中で体勢を崩したTOIKIへと、前を走っていたはずの男が追撃を掛けに転進してきた。男が持つ漆黒の大剣が茶褐色のマナを帯び始める。そして、

「金剛砕破ッ――!!」

 主要属性である地の力が込められた極厚の斬撃――最早打撃と呼べる一撃がTOIKIの頭上へと叩き込まれた。威力重視のその攻撃は、TOIKIの頭部を陥没されると共に、こちらの数十倍はある体躯を地面にめり込ませた。

「今のうちだ!」

 男はTOIKIの様子を確認する間も惜しんで、再び全身で風を切り始めた。

 置いていかれないように自分も身を翻すが、視界の端では先程のダメージを急速に修復していくTOIKIの姿があった。

 恐らく、男の狙いは相手のマナ切れなのだろう。魔物の生命活動はマナによって維持されている。通常の生物と同様に傷を負えば血が流れるが、魔物はマナさえあれば傷を修復させることが出来る。裏を返せば、体内のマナを枯渇させてしまえば、その命が尽きることとなる。

 ならばこそ、TOIKIにダメージを与え続ければ、いつかはその命を刈り取ることとなるのだが、

「マナの供給源を引き剥がしても、そう簡単にはいかねぇか!」

 男が舌打ちまじりに悪態をつく。

 マナの供給源とは、その背に負ったワンダーラビットのことなのだろう。ワンダーラビットは無限とも呼べる膨大なマナを保有するという逸話が噂で囁かれている。その特性ゆえに、ワンダーラビットを手中に収めようとする者が後を絶たないが、ワンダーラビット側もそれを察してか、いつの間にか人々の前から姿を消してしまったのである。

 生きる伝説の生物が目の前にいることに込み上げるものを感じるが、今はそれを飲み込み、この逃走劇を無事に生き残ることに意識を集中させていく。

 

 

 大地を踏み締める脚が、酸素を取り込む肺が、早鐘を打ち続ける心臓が熱を帯びていく。

 迫る魔の手から逃れるために一心不乱に疾駆する。

 ――こんな戦い方しか出来ないのは、何とも情けねぇが……

 仇敵相手に時間稼ぎでどうにかしようとしている状況にやるせなさを覚えるが、正攻法では敵わないことは今までの経験で痛感させられている。

 余程ワンダーラビットを奪われたことに焦りを感じているのか、TOIKIの動きは今までにない速さを発揮している。想定以上の動きに自分一人ではすぐに追いつかれているところだが、それをどうにか押し留められているのは、背後で縦横無尽に攻防を繰り広げている騎士の活躍があればこそだ。

 ――西領諸国の騎士、だったか……

 世界樹の根――領根によって分断された大陸西部は、ぽぽぽ神教と呼ばれる宗教国家群が統治されており、ぽぽぽ神からの加護を受けたとされる騎士達が各国の王侯貴族を守護することで有名である。

 ――そんな騎士様が何だってこんな所に……

 過ぎる疑問はしかし、視界が開けたことで脳裏の片隅へと追いやられる。

 眼前に広がる荒野には所々で地割れが起きており、容易に飛び越えることが出来ないほどに大地を引き裂いている。

「どうしますか!?」

 背後の騎士もこの光景を捉えたようで、こちらに今後の算段を伺ってくる。いつの間にか追い詰められたと思って、その声音には薄らと困惑の色が滲んでいる。

「ここで良いんだよ!」

 相手の不安を端的に払拭するよう声を張り上げる。

 目指す地点は既に決まっている。事前にマーキングしておいた場所へと進路を修正する。

 騎士も、背後に迫るTOIKIもこちらに誘導されるように付いてくる。

 ――もう少し……!

 目標の場所がはっきりと見えてきた。だがそこで、周囲に変化が訪れる。

「Aaaaaaaaaーーーー」

 機能が失いつつある声帯で無理矢理喉を振わせた呻き声の群が、こちらの進路を塞ごうと押し寄せてくる。

「――ゾンビの群!」

 今までの追走劇ではTOIKIを恐れてか、凶暴な魔物達も野生の勘を頼りに距離を取っていたが、ここに来て魔物とは異なる知性を失った魔性の存在が、こちらの行く手を阻もうとしてくる。 

 無念を抱えたまま命を落とし、聖職者によって魂を浄化されずにいたことで化生の者へと成り果てた存在が、生ある者を死の暗闇へと引きづり込もうとしてくる。通常であればその動きは緩慢で、距離を取ることは容易なのだが、ゾンビの身体能力は基となったヒトのそれに左右される。深淵領域と呼ばれる魔窟、それもその奥地で息絶え存在がただの凡人であるわけがなく、機敏な動きでこちらを押さえ込もうとしてくる。

「しゃらくせぇ!!」

 男が怒気を込めた咆哮と共に大剣で屍肉の群を薙ぎ払っていく。

 如何に身体能力が高いゾンビであっても知性を失っている以上、高度な駆け引きなど出来る訳もなく、暴風の如き様相で振りまかれる力を前に、次から次へとただれた肉片を撒き散らしながら、吹き飛ばされていく。

「深淵領域に挑むほどの連中が、随分と未練がましいじゃねぇか!!」

 家族がいたのだろう。愛する伴侶や子が、掛け替えのない仲間がこの者たちにもいたのだろう。その者たちを残して逝くことに無念を抱き、このような化け物へと身を堕としてしまったのだろう。

 だが、ここは深淵領域。人類が生きることを拒む絶望の園。ある者は未踏の領域に眠る神秘を解き明かさんとし、ある者はまだ見ぬ財宝を探し求めて――あるいはこの地に巣くう怪物たちを駆逐するために足を踏み入れたはずである。なのに、

「覚悟が足りてなかったようだ、なぁ!」

 裂帛の気迫を乗せて一閃。吹き飛ばされ、生々しい音と共に身を打ちつけた死人たちが、僅かに蠕動を繰り返したが、やがてその活動を完全に停止させていく。

 ゾンビを止める方法はいくつか存在する。

 主流となるのは聖職者による浄化だが、その未練を払うことでゾンビは元の動かぬ屍肉へと還っていく。生前の未練を満たすこと、あるいは先程男がやってみせたように、未練を抱くことが不甲斐ないものだと突きつけその魂を打ち砕くやり方である。中には未練の内容が異なり、動きを止めない者がいるが、多くは男の叱責を受けて、力無く横たわっていく。

「……あまり感心しませんね」

「高貴な騎士様のお気には召さなかったようだな」

 刺さる視線を無視し男は前へと突き進む。背後のTOIKIも足元を掬われそうになるのを煩わしそうに蹴散らしながら追い掛けてくる。

 ゾンビ達が織り成す肉壁を抜けると、遂に目的の場所へと辿り着いた。

 そこは巨大な裂け目を眼下に臨む場所だった。

 底まで見通すことが出来ぬ裂け目は、幅10メートルは下らない巨大なものだった。

「かぷこーん!」

 刻んだ目印を確認し、騎士へと手を差し伸ばす。その背後でTOIKIが開口し、こちらごとワンダーラビットを捕らえようしてくる。未だ活動を続けるゾンビの群もまた追い縋ってくるのが見える。

 騎士がこちらの手を掴んだ瞬間、持てる力の全てで跳躍する。だが、その身は裂け目を飛び越えることはなく、向かいの崖手前で重力の鎖に搦め取られてしまう。

「ーーーーッ!?」

 かぷこーんが息を呑むのが分かる。だが、男は臆することなく振り返り、こちらを追って身を投じたTOIKIを見つめて、口角を吊り上げる。

 瞬く間に視界が裂け目の入り口が遠ざかっていき、その大半をTOIKIやゾンビの群で埋め尽くしていく。男は身を翻して、漆黒の世界を見据える。すると、壁面の一角から微かな光が漏れ出ているのが見える。男は腕を振り、光の元に向かうよう姿勢を整えていく。そして、

「離すんじゃねぇぞ!!」

「ーーーー!!」

 かぷこーんの手に力が込められるのを感じながら、男は得物を光目掛けて突き立てる。直後、全身に衝撃が走り、右腕から肩に掛けて引き千切られそうな力が走るが、自慢の膂力で何とか堪える。

 軋む身体に表情を歪める中、TOIKIとゾンビの群が次々に眼前を通り過ぎていく。

「ざまぁみやがれ」

 そう溢した直後、驚愕に眼球を膨れ上がらせていたTOIKIの口内から、伸縮自在な舌がこちらへ向けて放たれる。

 一瞬の油断。男が反応を起こす前に、それが眼前へと迫る。だが、TOIKIの舌がこちらに届くことはなかった。

「風刃乱舞!」

 かぷこーんが放った風の刃が迫る舌を切り刻み、TOIKIの姿はゾンビ達と深い闇の底へと飲み込まれていった。

「悪い……助かったぜ」

 どういたしまして、と何でもない風に振る舞うかぷこーんを崖の突き出した一角へと下ろし、自身もその横に降り立つ。

 そこは絶壁の中腹にぽっかり空いた穴の眼前であり、そこの直上に大剣を突き立てたことで地の底に叩きつけられることを免れたのである。

 穴の大きさは大の大人が辛うじて通れるほどの大きさで、内部からは何かしらの光源があるのか、淡い光が溢れ出している。

「ここは?」

「TOIKIを探してる途中で見つけてな……中の回廊を抜ければ、深淵領域の端近くまで行ける」

 急ぐぞ、と男は騎士を急かして中へと入っていく。

 ――あれで倒せたとは思わねぇ……

 いつまた遭遇するとも分からない状況では安堵することも叶わず、少しでも早くこの場から遠ざかろうと足を進める。

 

 

 内部は鍾乳洞のような様相で、露出した岩肌は至る所が発光しており、こちらの歩みを助けてくれている。入り組んだ構造かと思いきや、ほぼ一本道で迷うことなく、深淵領域の中であるにも関わらず魔物の気配もなかったため、順調に先へと進めている。

 会話らしい会話もないままおよそ3時間ほど歩き続けたところで、開けた空間へと到着したところで、一息付くこととなった。

 男が背負っていた鞘だったものを下ろし、身動ぎ1つせずに包まれて存在を横たわらせる。すると、鞘だったものが自然と解け、桃色の体躯を解放する。

 かぷこーんは適当な岩に腰を下ろし、

「TOIKIは、あれで倒せたわけじゃないですよね……?」

 道中気になったことを男へと投げかける。男は懐に忍ばせていたボックスと呼ばれる収納型魔道具から水嚢を取り出し喉を潤すと、

「あれで倒したってのは楽観が過ぎるな」

 だからこうして一心にここまで歩を進めてきたのである。かぷこーんもその言葉を抵抗なく受け入れる。

 ――あれで倒せるようなら災害級の魔物とは言われない、か……

「まぁ、この辺は魔鉱石で覆われているからな。濃すぎるマナが阻害してくれるおかげで、こいつのマナを補足するのは難しいはずだ」

 男が静かな呼吸を繰り返すワンダーラビットを示し、そう補足してくる。

 マナは生物の体内に取り込まれることで、個々の波形を象るようになる。その特性により、他者の体内にあるマナを操作することが出来なくなる一方、マナを感知する能力が高いものにとっては遠く離れた所からでも見つけられる目印となる。だが、回廊を形成する一帯の岩石――発光と共にマナを放出し続ける魔鉱石が、個々人のマナを覆い隠す役割を果たしていた。

 ――だと良いんですが……

 言い知れぬ不安が過ぎるが、言葉にするのも憚られて、かぷこーんは頭を振る。

「ところで……」

 話題を切り替えようと、もう一つ気になっていたことを指摘する。

 未だ意識を取り戻さないワンダーラビットに視線を送り、

「何か着せてあげましょうか」

「あ……」

 獣人特有の体毛に覆われた体であるが、今の”彼”は何も身に着けていない状態である。同性ではあるが流石に忍びなく感じ、かぷこーんは自分が持つボックスから衣類を取り出すことにした。

 

 

「聞いてもいいですか?」

 移動を再開してしばらくした頃、後ろを歩くかぷこーんから声を掛けられる。

 なんだ、と先を促してやると、青年が少しの間を置いて、

「ギルドの英雄、とらさん……ですよね? 何故こんなところに一人で?」

「英雄ってのはよしてくれ」

 それに一人なのはお前もだろう、と即座に返しそうになるがそれを押さえて、逆に質問の意図を問い掛ける。

「それは……仲間も連れずにTOIKIの討伐に来たのか、ってことか?」

「ええ。ギルドの案件であれば、あれだけの相手に対して一人で事に当たるとは思えません。近くに仲間の方がいたようには見えませんでしたので、あなた個人がTOIKIを狙っていたということかと」

 危急の状況でよく観察していたと感嘆の息が漏れる。

 ――正騎士の名は伊達じゃないってことか……

 振り返り、その相貌を観察する。まだあどけなさを残した整った顔立ちからは、疑念に満ちた眼差しは向けられておらず、純粋に気になったから聞いたといった様子が伺える。

 かぷこーんのその態度に毒気を抜かれた男――とらは嘆息交じりに言葉を紡いだ。

「よくある話だ……俺の故郷はあいつに滅ぼされたんだ」

 今でもその時の光景ははっきりと思い出せる。

 焼け焦げた肉と鮮血の臭い。立ち込める黒煙の中から姿を現した異形の存在が、こちらを飲み込もうと口を広げて迫りくる。

 その後、どうして自分が生き残ったのかは、理由は分からない。

「その後の記憶がなくてな……気付いたら3年近く経っちまっててな。ギルドに保護されてからはそのまま世話になって、今日まで食い繋いできたってわけだ」

 ぽっかりと空いた記憶の空白から目を逸らすように必死に生きてきた。最初は生きるために無我夢中だったが、今では依頼請負人(コントラクター)としての仕事にやりがいを感じているのも確かだ。だが、ふとした瞬間に脳裏を焼き付いた光景が心を蝕み、全てを失った力のないあの頃へと引き戻される。

だから、

「復讐、ってのもあるが……それ以上に、弱かったあの頃の自分との決別のためだな」

 そのためにも、TOIKIを討つのは自分でありたいという個人的な理由で単独行動を行っていたのである。

「では、組織というのは?」

「しっかり覚えてやがったか……」

 だが、こちらの勘違いで濡れ衣を着せられた身としては気になるところではあるのだろう。謝罪の意も兼ねて、自身が知りうる情報を開示する。

「組織ってのは、俺がTOIKIを追う上で見つけた連中でな。詳しいことは分からねぇが、TOIKIの力を使って……新世界? ってやつを作ろうとしてる胡乱な奴らだ」

「新世界、ですか……」

 聞かされたかぷこーんも呆気にとられた様子で目を丸くしている。

 TOIKIを狙うこちらの前に幾度となく現れては妨害し、最近では民間人を巻き込むようなテロリストまがいな動きが見られ、ギルドとしても危険な集団として注意が呼びかけられているほどである。個人的にもTOIKI討伐を阻む相手として、煩わしさを募らせている。

「それで、そっちはどうなんだ?」

「どう、とは?」

 話の流れが途切れた所で、今度はこちらが問い掛けると、またしてもかぷこーんが面食らった様子で聞き返してくる。

「こっちのことを話したんだ。そっちも話してくれても良いんじゃねぇか? 例えば」

 かぷこーんの懐を指差し、

「あのソフトクリームみたいなもんについて、とかな」

「それは……」

 かぷこーんが言い淀むのを見て、こちらが勘違いで襲い掛かった際に見せられたそれが、何か特別な物であると確信する。

 ――正直な奴だな……

 人には言えない何かであるなら、表情や態度を取り繕って誤魔化すことも必要だろう。だが、目の前の彼にはそんな思考すら浮かんではいないのだろう。良く言えば実直なのだろうが、色々な人種と相対してきた身からすればあまりにも世慣れしていないように見える。

 少ないやり取りの中で腹芸や謀などからは縁遠い存在なのだろう、と勝手に推測する。そうでなければ、それを狙っているかもしれない相手に対して不用意に見せつけることもしないだろう。

 ――腕は確かなんだがな……

 今日知り合ったばかりの相手だが、その先行きに不安を覚えてしまい、つい口から助言の言葉が出てしまう。

「人には言えないようもんなら、もうちょっと気を付けな。流石に、顔に出過ぎだと思うぜ」

「え……」

 言われ、顔に手を当てるかぷこーんを尻目に、やれやれと肩を竦める。

「さっきの質問は忘れてくれ。下手に知っちまうと碌でもないことに巻き込まれそうな気がするしな」

「……そう言ってもらえると、助かります」

 目に見えて安堵するかぷこーんを見て、こちらも深入りせずに正解だったと感じる。

 ――ソフトクリームなんて気の抜けた見た目だが、相当ヤバいもんかもな……

 古代遺物の類かあるいは政争の道具に使われる何かか、などと取り留めもない想像が浮かんでくるが頭を振って思考を追い払っていく。

「さてと、先を急ぐぞ」

「は、はい!」

 呼び掛けにかぷこーんも歩調を速めていく。

 延々と続く地下回廊に、淡々と二人の足音が響いていった。

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