[妖怪横丁]
大百足の猛毒で倒れてしまった修司はメタルバードに背負われ、鬼太郎の案内の元《妖怪横丁》に向かっていた。
真っ暗闇の中、メタルバードは鬼太郎にただただ着いていくことしかできなかった。
「……お、おい鬼太郎、ホントにこの先にその《妖怪横丁》ってとこは有るんだろうな…」
メタルバードが鬼太郎に問い掛けると、鬼太郎は先頭を走りながら答える。「ああ、《妖怪横丁》は何処にでも在って何処にも無いって言われる、一種の特殊な空間世界だよ」
「ど、何処にでも在って何処にも無いって……な、何だかいい加減だな」
鬼太郎の返答にメタルバードが呆然とすると、続けて目玉おやじもメタルバードに説いた。
「まぁ、普段は人間との世界と繋がってはいないが、妖怪だけしか使えぬ抜け道を通れば日本全国どこにでも行けるのじゃ」
「ど、何処にでも……! い、意外に便利なんだな……!」
と、メタルバードが目玉おやじの説明を聞き終えた直後。
「……あっ、もう妖怪横丁にでるよ」
鬼太郎が暗闇の中を抜け出ると、そこにはとてもとても賑やかな通りが広がっていました。
「ふ、ふへぇぇ……こ、こんな横丁がアニメタウンにあったんだな……!」
「正確には、アニメタウンの中にも横丁に通じている抜け道があるんだよ」
「へぇ……此処にはお前の様な妖怪たちだけしか住んでいないのか?」
「ああ、そうだよ。中には人間達の開拓で居場所が無くなって、此処に住みついている妖怪もたくさんいるけど、みんな気の良い連中だよ。きっと、メタルバードや修司さんの事も話せば仲良くしてくれるよ」
「あ、ああ。そうでなくちゃ困る。こ、このままだと修司が……」
そう鬼太郎と会話しているメタルバードに背負われている修司の容態に異変が。
「う、ううぅ……」
「うむ、いかん。毒が体を蝕んできおった。早く手を施さなければ手遅れになるぞい」
「え、ええっ!? は、早く治さねえと…」
「急ぎましょう、妖怪アパートに砂かけや子泣きが居るはずだ」
こうして3人は鬼太郎の言う妖怪アパートに向かった。
「おや、鬼太郎。お客さんかい?」
「ああ、かわうそ。砂かけは今いるかい?」
「うん居るよ。お~いっ、砂かけの婆さん、鬼太郎がやってきたよ~」
妖怪かわうそが呼ぶと、店内から老婆の妖怪が姿を現す。
「……うん? おやおや鬼太郎どうしたんだい、何か用事かい?」
「ああ砂かけ。この人の症状を見てほしいんだ……」
「この人……!? な、なんじゃい!? この銀色の変な鳥は!?」
砂かけ婆は初めて見るメタルバードに驚き警戒する。
「初対面で失礼な婆さんだな。まっ、今はそれは置いといて……おいっ婆さん! オレの背中に背負っている奴を助けてくれ!」
メタルバードが自身が背負っている修司を砂かけに見せ付ける。
「うむ、この少年は……人間か?」
「ああ、アニメタウンの市長さんだよ」
「しっ、市長!? こ、こんなにお若いのに……?」
驚く砂かけ婆に目玉おやじが事情を説明する。
「この少年は大百足の毒にやられてしまったんじゃ、何とか助けられんかのう……」
「お、大百足の? わ、解った。何とか家にある砂かけ特性の解毒剤で介抱してみよう」
「あぁ、ありがとう砂かけ」「お、恩に着るぜ、婆さん…」
砂かけ婆の介抱に、鬼太郎もメタルバードも感謝する。
そして修司は砂かけ婆が管理人をしている妖怪アパートの一室で看病された。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「どうだい、砂かけ。治りそうかい?」
寝かされるも呼吸が乱れている修司を看病する砂かけ婆に鬼太郎が問い掛ける。
「うむ、解毒剤の効果で毒の効力は減ってはいるが……あくまで一時的にしかすぎん。もっと強力な解毒剤で無ければ……」
「うん、そうかい……そんな薬、横丁にあるかな……」
鬼太郎が悩む中、メタルバードが激しく戸惑う。
「お、おい……しゅ、修司は……修司はもう助からないって言うのかよ?」
戸惑うメタルバードを、砂かけ婆と目玉おやじが宥める。
「そう慌てるな、超獣族の者よ。今どうすれば良いか考えておるわい……」
「その通り、まだ望みを捨ててはならん。必ず救いだせる手だてがあるはずじゃ……」
「くっ……見ているだけが、こんなにも忍びないとは……」
傍観に徹するしかない現状に苛立つメタルバードに鬼太郎が不思議がる。
「……何だか凄く、この人間に対して思い入りがあるね」
「あ、ああ。まあな……」
メタルバードは深刻そうな険しい面持ちで呟き返した。
[超獣族の過去]
修司の容態を気にする中、鬼太郎がふとメタルバードに訊ねる。
「……ねえ、聞いても良いかい?」
「うんっ、何だ?」
「……どうして君たち超獣族は滅んで……いや、滅びかけてしまったんだい?」
「ああ、じ、実はな……」
メタルバードは悲痛な真顔で鬼太郎に昔話を語り始めた。
「お、オレたち超獣族の文明、いや……一つの王家の一族でまとめられていた種族だったんだ……」
「……王家による……」
「オレたち超獣族はその名の通り、超人的な力を一人一人持っている特殊な存在で、それぞれが自分の能力に似合った仕事もしていれば、優秀な頭脳の持ち主は科学者として一族の文明を造り上げてきたんだよ」
「………………」
「その文明はかなり高度な物で、医療技術や特殊な金属を作る技術、更には自身の能力を調査・それを更に飛躍的に上げる研究までも行われていたんだよ」
「……そんな超獣族がなぜ……」
「……ある日のことだった、人間がオレたち超獣族の存在に気づき、その高度な文明はもちろん俺たち一人一人が持っている特殊能力にすら、恐怖の対象として見てしまったんだ……!」
「………………!」
「そして……人間達は特殊な武器で……生物の細胞全てを破壊できる特別な武器を使って俺たち超獣族を根絶やしに……虐殺していったんだ……!」
メタルバードは苦虫を噛み潰したような、苦悶の表情をして語り終えた。
「……人間に対抗しようと考えなかったの? 君たちの文明なら人間達と対抗できる力はあったと思うけど…」
鬼太郎が問い掛けると、メタルバードは複雑そうな顔で答えた。
「い、いや……その……超獣族の、お、王が……最高権威のある超獣族の王が人間達と武力衝突するのを躊躇ったんだ…」
「……何でまた」
「……お、王は【武力による衝突は更なる種族間の溝を広げる】として、オレたち超獣族は……一向に戦おうとしなかった」
「その王様と残りの超獣族は……」
「お、王は……自身の王座に座ったまま、眼前に立ち塞がった人間達に向かって……和解への話をしようとしたんだが……人間達は容赦なく王を……こ、殺したんだよ……!」
「…………」
「……そして、生き残った超獣族は様々な生き物に姿を変えて、人目を避け生き続けている……」
「……君も、その一人かい?」
「い、いや……オレは自分の生まれた時の姿を変え続けてまで生活したくなくて……たまに人の目を避ける時しか変身能力を使わないんだ」
「……そんな超獣族の君がなぜ、あの少年と…人間である修司さんと行動しているんだい?」
人間を恨んでいてもおかしくないメタルバードに鬼太郎が訊ねると、メタルバードは修司に突いて語り始める。
「あ、あいつはな……常に自分の心にある闇の部分に苦しんでいたんだ……」
「心の……闇?」
「ああ、言ってなかったがオレは《テレパス》つまり他人の心や考えが読める能力を持っているんだよ。まぁ、初対面の奴には余り効果が無かったり、自分自身でも人間の考えなんてエグイだけだろうからって普段から余り使わない様にしているんだよ。だけど修司は周りの、どの人間とも違った精神を……心を持っていたんだ……!」
「他の人間とは、違う?」
「ああ、あいつの心はまるで……そう簡単に言えば深い深い闇、しかもとても純粋でまるで自分も惹き込まれそうな不思議でそして……悲しい闇なんだ」
「純粋で、悲しい闇……」
「最初に奴の心を読んだ時、悲しみに満ちた闇が俺の脳裏に入り込んでな……一瞬気を失いそうになっちまいそうだったのを、覚えている」
「……」
「オレは奴に何かしらの興味を抱いてな。あいつの目の前に現れたんだ。すると、やつは最初は驚いていたがすぐに俺と打ち解けていってくれて……オレ自身もこいつと一緒にいるときが何だか楽しくなってきちまってよ」
「……そうかい、君にとっては……大事な親友なんだね、この修司って子は」
「ま、まあ・……大事ってわけでもないけど、い、居なくなるのも何だか話し相手が居なくなるみたいで虚しくってよ……」
メタルバードが自分の住んでいた王国で起こったこと、そして修司に会った経緯を鬼太郎に話し終わったすぐ後、一人の女の子が妖怪アパートに訪れた。
[メタルバードと猫娘]
「鬼太郎! 人間の少年を連れて来たって聞いたけど……」
「ああ、猫娘。彼なら……」
訪ねてきた猫娘に鬼太郎が答えていると、メタルバードの様子が一変した。
「ウ、ウッホ~!! めっちゃカワイイ子じゃないか~!!!」
猫娘を見た途端、メタルバードの様子が豹変する。
「な、なに? この変な鳥?」
初見のメタルバードに戸惑う猫娘に、メタルバードは胸を張って自己紹介する。
「ウオッホンっ、改めて自己紹介させていただきます、お嬢さん。オレの名は【メタルバード】アニメタウンの市民の安全と平和を護るヒーローです! こんなところで貴女様の様な可憐な娘さんに出会えるとは。これもまた運命……ってやつですかね」
「は、はぁ……ど、どうも……」
そうして差し伸べられた手を取って握手を交わし合うメタルバードと猫娘。
そんなメタルバードを見て、鬼太郎が平然とした態度で言う。
「君……さっきとはずいぶんと性格が違うね」
「い、いや~。オレ様、カワイイ子には目が無くてね~♡まさか妖怪にもこっんなカワイ子ちゃんがいたとは♡」
そんなメタルバードに猫娘は呆れる中、彼女は鬼太郎に訊ねた。
「……き、鬼太郎……そ、そういえば此処に運ばれたって言う人間の男の子っていうのは?」
「あ、ああ…今奥の部屋で寝かせているよ。大百足の毒にやられて苦しんでいるんだ」
「お、大百足の……そ、それでその子、助かるの?」
「いや、それは解らない。今は砂かけ特性の解毒剤で少しは毒の効力が弱まっているみたいだけど……それも、一時的でしかないみたいなんだ……」
「そ、そう…私も此処に来る途中、砂かけ婆さんに事の事情を聞いて駈けつけたんだけど……私の力では何もできないみたいだし……」
と、猫娘が自分達だけでは修司の容態を回復させられないと悲嘆していると、メタルバードが猫娘に言い放つ。
「そ、そんなことねえよ! 君みたいなカワイイ子に心配してもらえるだけ、修司は果報者だよっ!!」
「……さっきから私に対してこんなに喋ってくる、この銀色の妖怪は?」
「い、いやいや! お嬢さん、オレは妖怪ではなく超獣族の生き残り、アニメタウンのヒーローで……」
「それはさっき聞いたわ。ちょ、超獣族って……」
メタルバードに警戒する猫娘に鬼太郎が安心させる様に話し掛ける。
「大丈夫。彼はこんなだけど、とても心優しいし、今寝込んでいる市長さんの友達なんだ。とても彼の事を心配してくれているんだよ」
「しっ、市長さん!? 確か今、人間達の間で話題になっている、アニメタウンに就任してきたばかりの若い市長、小田原修司さんなの!? な、なんでまたこんな事に……?」
「うん。僕が大百足の騒ぎに駈けつける前に、この市長さんとメタルバードがすでにその場にいてね。大百足と一戦やっていたらしいんだけど、市長さんがすでに大百足の毒キバにやられてしまった後だったんだ」
「そ、そんな! メタルバードはともかく、市長さんは人間じゃない! なんでまた大百足と戦っていた訳!?」
鬼太郎の説明に驚く猫娘にメタルバードが事情を話した。
「あ、あいつはな……この街からマモノやそういった類の存在から市民を護りたいと前々から願っていてな。そ、それで大百足に対してもこんな無茶を……」
「人間達の間でも、新しい市長さんは新しい政策や法律を作ったり、マモノなんかに破壊された街や道路を真っ先に修繕しているって話を聞いたわ。相当この街を護りたいって言う想いがあったんでしょうね……」
「うん、妖怪相手に無茶な事をしたのは感心できないけど、街のみんなのために頑張っていたのは素晴らしい事だ。なんとか助けられる方法があればいいんだけど……」
「グッ、グスッ……そ、そんなに修司の事心配してくれるんだなぁ。お、お前たち妖怪ってモンは、ウグッ」
妖怪達の優しさに泣き出すメタルバードに鬼太郎と猫娘が話し返す。
「当たり前だよ、人間だからって放って置くことはできないよ。何より、こんなに素晴らしい市長さんなら誰だって助けたいって願うのが当然でしょ?」
「鬼太郎は妖怪だけど、人間の事も放ってはおけないのよ。鬼太郎は昔っから悪い妖怪に苦しめられている人間を助けてきたのよ」
「そ、そうか……き、鬼太郎! お、お前も修司の言っていたとおり、正真正銘のヒーロー、英雄なんだな」
「そ、そんな……え、英雄ってほどでもないよ」
メタルバードに称賛される鬼太郎は謙遜するも、猫娘が笑顔で鬼太郎を評価する。
「そんなことないわよ。鬼太郎は妖怪横丁でもみんなから認められている存在よ」
「ね、猫娘……」
「いや~お熱いネお二人さん♪熱くってオレの金属のボディが溶けちまいそうだ♪」
「い、いやね~! そ、そんな何も、ホントの事言わなくても良いじゃない~」
猫娘は恥ずかしさの余り、メタルバードの体を思いっきし叩いてしまったが、余りの硬さに自身の手が真っ赤になってしまう。
「い、イッタ~~い!! な、何なのよこの硬さは!?」
「お、お嬢さん。良い忘れていましたが、今のオレの体は金属並みに硬くて、並大抵の衝撃には耐えられるんだよ……」
「そ、そんな大事なこと先に言いなさいよ~! フシャー」
猫娘は余りの痛さに思わずキレてしまい、猫目でメタルバードに怒鳴りつけた。
「えっ、えっ~~~!!?」
猫娘の怒ったネコ目の表情に、さすがのメタルバードも一瞬怯んでしまう。
「い、いや~……まさか猫ちゃんがそんな顔して怒るとは。だ、だけど怒った顔もカワイイ……よ、て……」
「「……?」」
突然様子が変わったメタルバードに、鬼太郎も猫娘も戸惑い出す。
「……! こ、この強烈な臭いは……!?」
「ニオイ?」
鬼太郎が不思議がると、メタルバードが説明する。
「お、オレたち超獣族は、身体的能力もその他の種族とは飛躍的に違って…五感も他の種族より敏感なんだよ…! ウプッ……ホ、ホントにこの強烈な悪臭は……!?」
「悪臭といえば、この横丁では一人だけ……!」
突然の悪臭に苦しむメタルバードに対し、猫娘は不機嫌そうな顔を浮かべていた。
[恐山の妖怪病院]
「お~い鬼太郎~。人間が運び込まれたってそこで聞いたんだが……」
妖怪アパートに全身、真っ黄色の物凄い悪臭を放つ小汚い男が来た。
「ねずみ男……」「いったいアンタ何しに来たのよ?」
鬼太郎と猫娘が応対すると、ねずみ男は返答する。
「い、いやな……どんな人間が運び込まれてきたのか……し、心配になってよ」
「ねずみ男も市長さんである修司君の心配をしに来てくれたんだね」
「しっ、市長!? あ、あの若くしてアニメタウンの市長に就いたあの市長、小田原修司か!? そ、その市長様が此処に運び込まれていたとは……!」
「……アンタ、何でどこの誰かも分からない人間の心配なんかしてるの? それに、相手が街の市長さんと解った瞬間、目が輝いていたわよ。おおかた、何か金持ちの人間が運び込まれているならその人間に媚を売って大金を占めようと目論んでここに来たわね……!」
「そ、そんな……ひ、人聞きの悪い……」
「アンタの考えなんて見え見えなのよ!! シャッーー!!」
「ひっ、ひぃ~」
ねずみ男は猫目で怒鳴りつけた猫娘に驚き、怯えきっていた。
「……な、何なんだコイツ……猫ちゃんと仲悪そうだし……何より……い、息ができない程臭え……」
ねずみ男が放つ悪臭に苦しむメタルバードに鬼太郎が説明する。
「メタルバード、あいつはこの横丁に住みついているねずみ男、いつも猫娘とは相性が悪いんだよ」
「へ、へぇ……そ、それにしても……よ、妖怪にも……い、いろんな奴がいるんだな……ウッ!(マ、マジで頭が狂いそうな悪臭だ……!!)」
妖怪アパートに集まった4人がそれぞれ思い思いの話をしていたその時、砂かけ婆と目玉の親父が外で話をしていた鬼太郎達を呼んだ。
「お、おい!鬼太郎っ」
「おいっ鬼太郎! 市長さんの容態が何やら変化してきたぞ」
「え! も、もしかして助かるんですか修司君」
「いんや、症状が少し安定しただけでまだ安心できる余地までいっておらん……」
「そ、そうですか……」
「このままだと……! 何とか助けられる方法は無い訳!?」
砂かけ婆の説明に鬼太郎も猫娘も不安が募る中、目玉おやじが語り出した。
「うむ、そこで鬼太郎。主とメタルバードに話があるのじゃ」
「は、話?」「な、なんだ……?」
目玉の親父は二人に、修司の今の症状の状態と、修司を救えるかもしれない手段を話した。
「……うむ、この者の体力はもちろん、身体の回復力、そして適応能力は他の人間より非常に優れておる。ゆえに、今はお婆の解毒剤だけで持ちこたえてはおるが、それもいつまで持つか……」
「……」「……」
「そこで、もしかしたら彼を救える方法が恐山の山中にある妖怪病院にならあるかもしれん」
「よ、妖怪病院! し、しかしあそこは本来妖怪専門の病院なのでは……?」
「うむ、そうじゃ。しかし、この子の並はずれた体力と身体能力なら妖怪病院で治療を受けさせることが可能かもしれん。何よりこの子を救い出すには、他に手だてが見つからんのじゃ」
「お、おい。その妖怪病院って……?」
目玉おやじの話を聞いて戸惑うメタルバードに、鬼太郎が説明する。
「う、うん。本来は妖怪を専門に治療・療養してくれる妖怪専用の病院なんだ。だけど妖怪の猛毒を治せる術もあったはずだから、もしかしたら其処で治療してもらえば……」
「う、うん……良くは解らねえが、そこでなら修司を救えるかもしれないって言うんだな?」
「ああ、もしかしたら助けられる可能性はあるよ」
「よ、よし! スグに行こう! た、確か恐山だったな!? 俺のも場所ぐらいは解る」
「い、いや……普通の人には見つからない場所にひっそりと建っているから簡単には見つけられないんだよ。僕が連れて行くから大丈夫だよ」
「いや! 修司はオレの相棒だ!! 俺が付いていってやらねえと……!」
このメタルバードの嘆願に鬼太郎も折れてしまう。
「解った、君も一緒に来て」
メタルバードは修司を背中に背負い妖怪アパートの外に出ると、鬼太郎は空に向かって大声で叫んだ。
「一反木綿~!」
すると空から白くて薄い一枚の布が飛んできた。
「へ~い、鬼太郎どん。何かご用かばってん」
「な、何だ!? この布っきれは?」
謎の布切れに驚くメタルバードに、鬼太郎が紹介する。
「彼は一反木綿。彼に修司君を。恐山まで乗せて行って貰うんだ。一反木綿、彼を恐山まで乗せて行ってくれ」
「へ~い、鬼太郎どんの頼みとあらぁ~聞かねえ訳にもいかねえでゴワス」
「ご、ゴワス???」
一反木綿の口調に戸惑うメタルバードに鬼太郎が笑顔で答える。
「ははっ、彼は九州の方の妖怪で、薩摩弁て言う方言で喋っているんだよ」
「そ、そうなのか……ど、どちらにしても一反木綿とやら、修司をよろしく頼む」
「へ~い、任せるでばってん」
一反木綿は修司を乗せて空に舞い上がった。
「うっ、うぐ……こ、この人間結構重いばってん…」
「そうか……それじゃあ一反木綿は修司君だけ乗せて恐山へ。僕はカラスたちに連れて行ってもらいながら付いていくよ」
「へ、へい……」
こうして一行は、妖怪病院のある恐山に向かった。
鬼太郎はカラスたちで吊り上げられ、空を滑空する術で一行と共にそれを飛んで恐山に向かうのだが、その中には猫娘となぜかねずみ男も付いてきていた。
「アンタなんで付いてくるわけ?」
「い、いやな……な、何となく」
一方のメタルバードは自身の飛行能力で自力で飛んでいたのだが、鬼太郎の使うカラスを使った飛行術に驚いていた。
「ま、まさか……カラスに吊られて空を飛ぶ奴がいたとは……」
すると、そんな発言をしたメタルバードに目玉が口を発した。
「ハッハッハッ、お主ずいぶん驚いておるのう。これもまた鬼太郎が持つ不思議な神通力だからこそ成し得る術なのじゃよ」
「は、はぁ……そ、そうですか」
彼らがそうこうしている間に、一行は恐山の山中にあると言う妖怪病院に着いた。
一行は、そこで病院の医院長に訳を話し修司の介抱をお願いした。
「……という訳なのじゃよ医院長、彼は人間ではあるが並はずれた身体能力があるから此処での治療も可能なはずじゃ……」
「うむ…彼を苦しめているのが大百足の毒……すなわち妖怪の毒素であるのなら治せるかもしれん。何より鬼太郎さんと目玉の親父さんからの頼みとあらば聞かないわけにもいきませんしなぁ」
「い、医院長先生!」
「これはこれは……ホントに感謝しますぞ」
「よ、良かった~。これで市長さん助かる訳ね」
「グヒヒ……助かったら謝礼の少しは出してくれるかな……¥」
「ねずみ男っ!アンタ本心が丸聞こえよ!!」
「ヒッ、ヒエェェッ!!」
お金にがめついねずみ男は猫娘に顔面を思いっきり爪で引っ掻かれてしまう。
「ふぅ~、これで修司は助かる訳だな。安心したら疲れた……そうだっ。変身も解いとくか」
メタルバードの体が光り出し、光が収まった時には元の変身怪獣に戻っていた。
「あ、貴方……その姿は」
「へへ……お嬢さん、これが俺の本当の姿なんだぜ」
「ひえぇぇ……コイツはぶったまげたぜ……お前こんな成りだったんだな……」
「ウプッ……お、お前はとにかく近づくな! ま、まだテメエの悪臭には慣れてないんだ……!!」
「そ、そいつは酷いなぁ……」
「酷いのはアンタの悪臭よ!」
変身怪獣と猫娘がねずみ男の悪臭に対して文句を言い合っていると、鬼太郎が変身怪獣に話し掛ける。
「ははは……メタルバード、それが君の本当の姿なんだね」
「あ、ああ……これが本来のオレの姿なんだ。いつもはこの特殊な金属を普段は首飾りにしているんだけど、合言葉である掛け声とこの金属の中に組み込まれたコンピューターが反応して、オレの体と同化してくれるんだよ」
変身怪獣の説明を聞いて目玉おやじも興味を抱く。
「ほっほう……これは凄い、正しく超獣族の文明が生み出した高度な技術の結晶じゃのう。しかし、お前さん何でまたこんな物を……むっ、そ、それにお主、その金属の形は……!?」
そのとき、修司の容態を見ていた院長が部屋から出てきた。
「い、医院長先生……」「し、市長さんは……」
鬼太郎と猫娘が問い掛けると、院長は答えた。
「うむ、もう大丈夫じゃ。人間とは思えない程の異常な身体能力もあってな、あれなら数日もあれば回復するじゃろ……それに、彼自身もまだ弱ってはいるが既に意識を戻して、今少し話をしてたところじゃ」
「そっ、そうですかっ」「よ、よかった……ホントに良かった~」
変身怪獣は半ベソを掻きながら、安堵したかのごとくその場で膝をついた。
そして全員、修司が安静にしている病室に入り、今までの経緯を修司に話した。
「修司、体の方はまだダメか……」
「あ、ああ……体を起こしたいんだが思う様に動かなくて……」
変身怪獣に問い掛けられた修司は苦しそうな顔を浮かべる。
「無理しなさんな、あれだけ長時間、大百足の毒に耐えていられただけでも奇跡的じゃ。今は無理せず体を休めておきなさい」
「あ、ああ。すまない。そうさせてもらうよ目玉の……え~と……」
「ははは、ワシの事なら【目玉】でも【目玉の親父】でもどちらでも呼んでも構わんよ」
「目玉の親父さんは妖怪横丁はもちろん、妖怪の世界の間でもかなり顔が広くって、何よりこの鬼太郎の父親でもあるのよ」
この猫娘の説明を聞いて、修司も変身怪獣も驚愕した。
「ちっ、父親!?」「お、お前たち親子だったのか!?」
修司と変身怪獣は驚いて、思わず叫んでしまった。
「あ、ああ。訳有って父さんはこんな姿になってしまったんだけど、今も昔の僕の自慢の父さんなんだよ」
「は、ははっ……き、鬼太郎、そんなにワシを褒めんでくれよ……」
目玉の親父が恥ずかしそうに顔を赤くし照れていた時、目玉の親父が思い出したように問いだした。
「おっ、おいっ。た、確かお主、名はなんと申すんじゃったかの……」
「ああ目玉の。彼は俺の相棒で変身怪獣と自分で名乗っています。あとは彼から聞いていませんか?」
「う、うむ……か、彼が今は滅んだ超獣族の生き残りの一人でアニメタウンで【メタルバード】と呼ばれとるヒーローであることは聞いたが……」
「なっ、なにっ!? ほ、滅んだって……へ、変身怪獣、俺はそんなこと一言も聞いてないぞ!?」
驚く修司の反応を見て、鬼太郎が変身怪獣に問い掛ける。
「何だい、君は彼に自分たち種族がどうなったのか教えてないのかい?」
「ウっ………」
戸惑いを隠し切れてない変身怪獣に修司が問い詰める。
「おい、どうしたんだよ!? 何で黙っているんだよ! お前が話してくれないなら、話を聞いた鬼太郎から聞きとるしかないが……!」
「わ、解った! お、オレから話すから……」
変身怪獣は、自分たち超獣族が過去にあった経緯を、そしてどの様な末路を辿ったか、自らの口から修司に伝えた。
「……という訳なんだ。オレたち超獣族は昔、人間の軍隊って奴らに滅ぼされて……」
「変身怪獣……」
修司は少し無言で考え、そして変身怪獣に話し掛けた。
「すまねえな。お前の辛い気持ちに気づいてやれなくて……」
「しゅ、修司……」
「しかし、お前が俺の事を友として認めてくれているなら……お、俺も少しはお前を友として信じようと努力するし、な、何よりお前たち超獣族に対しての詫びと謝罪も含めて、お前たち超獣族と人間が共に共存できる世界を築いていこうじゃないか……!」
「あ……相棒~。グスッ」
「おい泣くなよ……俺の相棒なら少しは強がれ」
「あ、ああ解った……」
涙を拭うメタルバードに、目玉おやじが訊ねる。
「……ところでお主、変身怪獣と名乗っておるようじゃが、本名ではあるまいな」
「あ、ああ。一応修司や周りの奴等には俺の事をそう呼んでもらっている…」
「なるほどのぉ。しかしお主、本当は……」
次の瞬間、目玉おやじは衝撃の質問を変身怪獣に投げ掛ける。
[変身怪獣の正体]
「……お主、本当は超獣族の王家の一員なのでは……」
「!!!!!!!!」
「お、王家の……!?」「ええっ?」
「おいおい、マジかよ!? つまりこの超獣族の兄ちゃんは王族の一員ってわけか?」
「へ、変身怪獣……ど、どうゆうことだ……?」
質問に驚愕する変身怪獣に、その内容に一驚する鬼太郎と猫娘とねずみ男、そして修司。
「な、なんでオレが王家の一員だって言うんだ……」
「うむ、お主がメタルバードに変身する際に使ったあの鳥の形をした金属、あの鳥に似た形は古代より超獣族王家の紋章、つまり《エンブレム》なのじゃ。それを身に付けていると言う事は……」
すると変身怪獣は観念したかのように自白し始めた。
「……へっ。どうやらこの目玉の親っさんにはバレちまっていたようだな」
「へっ、変身怪獣! お、お前……!!」
「ああ、俺は確かに超獣族の王族の一員……いや、王家継承者……滅びる前の超獣族の王国では俺は王子だったんだ……!」
『おっ、王子~!?』
変身怪獣の告白に驚愕する一同。
「ああ、オレは父である王からあの王国滅亡の日に、人間達に誰にも気づかれないよう俺を国王の一室にある隠し部屋に身を潜めさせられていたんだよ……!」
「じゃあ、君が横丁で僕に話してくれた王は……」
鬼太郎が神妙な面持ちで訊ねると、変身怪獣は悲痛な面持ちで答えた。
「ああ、オレの父上だ。父上はオレを部屋の隠し部屋に押し込んだ後、人間達が父上を包囲したんだ。それでも父上は他種の種族との共存を願い和解の話をしようとしたが……聞き入れてもらう事も無くそのまま殺害された……」
「変身怪獣、お前……」
変身怪獣の過去を知って衝撃を受ける修司に、変身怪獣は真剣な顔で言った。
「修司、俺がお前やウッズ、更には鬼太郎達にまで黙っていたのは、オレを超獣族の王族で無く一人の超獣族として見てもらいたかったからなんだ。どちらにしろ、黙っていてすまない」
これに対して修司は平然と変身怪獣に突っ返す。
「……別に謝ることねえだろ? それにお前も何気に細けえことを気にするんだな?」
「……へっ?」
「お前がどこの誰でどの種族だったとしても、お前が王族だろうが貴族だろうが俺たちの友情には関係ねえだろ?お前はいつだって俺の相棒、俺の仲間なんだよ」
「あ、相棒……お前って奴は……」
修司と変身怪獣が互いの友情を再確認し合う。
「グスッ、男同士の友情……泣けてくるわね」
「ああ、二人は本当に固い絆で結ばれているんですね。ねえ、父さん……」
「う、うむ…ワシも年甲斐もなく泣けてきおったわい……しかしお前さん、変身怪獣とやら。お主の本名はまだ聞いておらぬぞ?」
感動する鬼太郎と猫娘だが、目玉おやじは再度変身怪獣に本名を訊ねた。
「い、いや……お、オレの本名はホント勘弁してくれよ。余りにも王族らしいキザったらしい名前でよ。オレの事は本当に【変身怪獣】って呼んでくれればそれでいいよ……」
「……まぁ、お前がそれでいいならそう呼んでやる……まぁ、いつかは本名も判明する日が来るかもな」
修司も今はまだ変身怪獣と呼んでも良いかなと思い始める。
5人が会話をしていると、病室に医院長が入ってきた。
「ふぉっふぉっふぉっ……皆さん話が盛り上がっているところ悪いですが患者はしばらくは安静にしていなければいけませんので一旦、部屋の外に出てもらえませんかね?」
「は、はい。解りました、後の事はお願いします医院長先生」
「ではワシらは一旦妖怪横丁に戻って、彼が回復して退院できるまで待っているとするか」
院長に頷く鬼太郎に目玉おやじの。
「お、オレはこの事を市長であるコイツの秘書、ウッズに今夜起こった事と修司がしばらく入院している事を伝えてくるよ」
「ふあぁぁ、今夜はホントに疲れたわ。まぁ、それにしても市長さんが助かって良かったわ」
変身怪獣が報告に向かうと宣言する中、猫娘は眠気に勝てない様子。
「それじゃあ僕らはこれで。修司君、また退院する時に迎えに来るよ」
「あ、ああ。ありがとうな鬼太郎。俺はもう少し横になって寝ているよ」
「それじゃあ、お大事に。ホラッ、ねずみ男、アンタも早くっ」
「あ、ああ解ったよ……」
鬼太郎が修司と話す中、猫娘はねずみ男を病室から引きずり出していた。
と、一行が部屋を出ようとした時、ねずみ男は修司の右手に巻き付けられている数珠玉に気が付いた。
「うむっ……ニヤッ」
ねずみ男は怪しい笑みを浮かべる。
鬼太郎達が妖怪病院を出て、カラスたちに吊り上げられて帰っていこうとしたその時、鬼太郎を呼び止める声が聞こえてきた。
「お~いっ、鬼太郎~!」「あ、蒼兄さん」
それは街中で出会って、それ以降姿の見えなかった蒼坊主だった。
「いんや~、みんなを追ってあれから走り回ったんだが……なんだ、恐山に来ていたのか……直接横丁に行ったとばかり……」
「あ、蒼兄さん……ま、まさかあの後迷って、そのまま此処の妖怪病院まで来てしまったわけですか?」
「あ、ああ……ま、まぁっ、細けえ事は気にすんな鬼太郎! ガハハハハ……そ、それよりもあの若い市長さんは助かったのかい?」
蒼坊主が訊ねると、目玉おやじが笑顔で返事する。
「うむ、心配するな青坊。お主が迷っている間に、ちゃ~んと鬼太郎達と此処まで運んで治療を受けさせてもらったからのう」
「め、目玉の……そんな言い方ないだろう」
蒼坊主は苦笑し、鬼太郎達は思わず笑ってしまう。
そして、蒼坊主を含めた鬼太郎一行は妖怪横丁に戻り、変身怪獣は自身の翼で直接修司の自宅に向かい、ウッズに今夜あった事情を話にいった。
そんな中、カラスに吊られながら、ねずみ男は一人熟考してた。
(……あの修司って奴の右手にあった数珠玉、見た事ねえ品物だったが、もしかしてかなりのお宝かも……グヒヒ、隙を見てあの数珠をかっぱらって売りさばけば……¥)
果たしてねずみ男の目論み通り、聖龍の龍玉である数珠玉は、ねずみ男に奪われてしまうのだろうか。
そして今後、修司が辿る運命は。