[助けられなかった存在]
「ムーンパワーアタッーク!」
「ウギャアァァァ…」
セーラームーン達は何とか協力し合って妖魔を倒すことに成功した。しかし同時に妖魔に切りつけられ崖に落ちた街の新市長・修司の安否が気になっていた。
「あの市長さん、無事かしら…」
「あの出血の量も凄まじかったけど、何より崖から転落したとなると尚更…」
「この下の森は薄暗くて迷いやすいし、何よりもう夕暮だから私たちも探しに行ったらこっちも迷って出られなくなるし…」
「…っ、だからあの時さっさと逃げていれば良い物を!」
「ちょっとマーズ、そんな言い方ないでしょ!」
セーラームーンにマーキュリー達が心配する中、マーズが悔しそうに呟くのを聞いてヴィーナスが言い寄る。
するとマーキュリーが深刻そうな面持ちで語り出す。
「そうですわ、確かにあの人の言動には多少問題があったけどただ単に市長として街や市民を護りたかっただけかもしれないわ」
しかし、このマーキュリーの台詞を聞いてもマーズは納得いかなかった。
「私たちですら命の危険があるのに何の力も無い人間が出しゃばったって迷惑なだけなのに……! 本当に逃げていれば良かったのに……」
マーズはつい、男嫌いな一面が出てしまったが心の奥底では自分達のトークに夢中になってしまっていた事と、そんな時間があれば無理にでも修司をあの場から引き離せていたかもしれない事実、更に目の前で救えたはずの人が救えなかった現実に嘆いていた。
「レイちゃん、そんな落ち込まないでよ。強気なレイちゃんが弱気になっているとわ、私まで泣けてきちゃうよ~~」
「グスッ、この泣き虫うさぎ!」
弱気なマーズを前に思わず泣き出すセーラームーンに続き、マーズも後悔の念から悔し涙を浮かべていた。
[修司の正体と経緯]
彼女達が落胆しているとき、崖の下では…
「ううぅ、か、体が重い。クソッ意識が…な、無くなりかけている…」
妖魔に切りつけられた切り傷からは未だに出血が止まらず、更に地面に叩きつけられた衝動でさすがの修司も弱り切っていた。
「お、俺はこんなところで人生終わらせてなるものか。か、必ず英雄による英雄の、平和を守る正義の集団を作り上げ…俺自身も悪役共と戦えるまでに強くなってみ、みせ・・…る……」
修司は完全に意識を失ってしまった。その時、修司の頭の中に誰かが修司を呼び起こした。
「我を持ちだす者、我を望む者、我を所持する者よ。我の声に、問いに答えよ」
「誰だ…俺を呼ぶのは…?」
「我はこの世界の、いやこの星の大自然を護り司る聖龍の1体、草花の守護龍・樹木龍で有るぞ」
「じゅ、樹木龍…だと!? ま、まさか龍玉から俺に対して問いかけているのか?」
驚く修司に樹木龍は話し掛け続ける。
「ほほお、少しは話が通じやすいな。いかにも、我の祠を破壊してまでも我の御神体である龍玉を持ちだして。お主は一体何を企んでおるのだ。事と内容によっては主を生かすも殺すも出来うるのだぞ。無論、お主の本心を読み解く事も可能な上、嘘まがい事は通じぬぞ」
「じゅ、樹木龍。俺はみんなを、この街に住む二次元人を守り抜きたいんだ!」
「何のために」
「誰かを守るのに理由なんて野暮なものは要らねえ。あるとしたら…俺は彼らに助けられ、今も助けられている種族の1人なのさ」
「…種族だと?」
「俺はこの二次元界とは別次元、そう三次元界から来た人間だ」
「さ……三次元人だと!? バカな! 次元が違うのにどうやって来たのだ?」
今度は逆に驚く樹木龍に、修司は説明した。
「俺は今まで、三次元人の汚れた部分を見て育ってきた。しかし、そんな三次元界でも人類全面戦争や環境破壊があと1歩のところで食い下がっているのは、俺は二次元人達のお陰だと信じている」
「………………」
「だが、そんな二次元人が俺たち三次元人が勝手に作った敵キャラに傷つけられたり、与えられてしまった非業の運命を辿るのが忍びなくなってしまった……くっ、三次元人の都合の良い様にされる二次元人が不憫でならねえ!!」
「…しかし決められし運命(さだめ)を変えるのは並大抵のことではないぞ」
「そんなの百も承知だっ! それに神々は言ってくださった。二次元人には想いや祈りの力を奇跡の力にしたり三次元人に夢や理想を与える力があるように、俺たち三次元人には運命を切り開くすなわち運命をも変える力があると…!」
「……! か、神々だと!? 一体お主の話している神々とはいったい何者なのだ!?」
「彼らは俺と同じ三次元人でこれまた同じ二次元人達を心の底から愛していた……そう、自分達の子供の如く! 俺は自分の祈りと彼らの気持ちが一致したからこそ、神々は俺をこの二次元界にお送りくださったのだ」
「そ…その神々とは…」
樹木龍の問い掛けに、修司は毅然とした心境で答えた。
[二次元世界を創造した三次元人]
「彼れは通称《オール・トゥーサム》と呼ばれる二人の三次元人の名を組み合わせて呼ばれてる。彼らはこの二次元界を最初に創造した偉大なる存在なんだ…」
「だから、誰だと言うのだ! その二人のこの世界の創造主とは!?」
「オールはウォルト、トゥーサムはオサム。ウォルトは最初にこの二次元界全ての基礎を作り上げたウォルト・ディズニー! オサムは日本の二次元界を発展・途上させた形で日本二次元界の基礎を作り上げた手塚治虫だよ!!」
「な、何と! それぞれ真に平和と夢を信じながら逝っていきおった者どもではないか!!」
修司からの事情を聴いた樹木龍は考えた。
この世界の偉大なる創造主、手塚治虫とウォルト・ディズニーが二次元人たちの未来を考え送り込んできたこの三次元人なら、自分たち聖龍の一族の危機をも救えるかもしれないと。
「……本来生身の人間に力を与えることは危険極まりない行為であるため、あまり勧められないが今のお主を救える唯一の手段がある…」
「そ、それは何なんだ…」
「まずは主にはこの街やその付近に隠されている龍玉を探し出すと言う事だ。まずはこの樹木龍の龍玉を除けば残るのは火炎・雷・水・氷・風・岩石の龍玉じゃ。これらを探し出し、見事に7つ集められれば主は正真正銘の聖龍使いにしてしんぜよう」
「そ、それは本当か!?」
「うむ、しかし龍玉とは別に封印されている聖龍使い専用の武者鎧を探し出す必要もある。封印は我ら聖龍に認められ、龍玉を持つことを許された者のみにしか解けぬ」
「更に、真の聖龍使いになったからには主には他者を護る以外に別の役割も果たしてもらわなければならない」
「べ、別の役割…?」
「そうじゃ、そもそも聖龍とはこの星の大自然を司る自然そのものなのじゃ。しかし、ここ数年人間達の勝手な開拓とやらで自然のバランスが著しく狂ってしまってきた。そして、大自然を司る聖龍を束ねる聖龍使いはその自然を護る使命を背負わなければならないのじゃ。主にはその使命も果たしてもらわなければならぬのだぞ」
「簡単に言やあ、自然保護の活動みたいなもんだろ…」
「そんな簡単な問題ではない。もしも後世でこの自然界に人間が不必要な存在だと発覚したならば、主には人間達を除外してもらわなければならないかもしれない。まぁ、今は考慮の余地は多少はあるから良いが…」
修司は悩んだ。将来人間が邪魔な存在で消さなければいけないと言う事は、自分が愛してやまない二次元人達も消滅させなければいけないと言う事だ…。
しかし修司は多少悩んだだけですぐに思い立った。
「解った、その聖龍使いとしての使命も果たそう。しかし、同時に俺の野望にも人肌貸してくれねえか? あっ龍だから人肌じゃなく鱗かな…?」
「野望……だと。二次元人を護る他に何か目的があるのか?」
「そうだ、俺はこの世界で戦い続けている英雄達を1つの集団としてまとめていき、最終的には世界すべての治安をそう、正義と平和を絶対的に守護できる英雄軍を作り上げるのが俺の最終目的だ……!」
「……なるほどな。主の様に巨大な野心に目覚め、野望を夢を叶えようとする者は歴史上には数えきれないほどおる。しかし夢半ばで絶命したり最後には非業の死を迎える者も多いのが現実だ」
「それでも、夢を見ないよりはマシな人生だろうよ。人間、1度っきりの人生だ、思った通りに生きなきゃ勿体ねえよ」
「……うむ、決意は固いようだな。では主には聖龍使いになるための最初の力を与えよう。と言ってもワシが龍玉になって主の右手首に数珠として撒きつくだけだがな」
「……どんな効果があるんだよい」
「樹木、すなわち草花は命の象徴。たくましき生命力を表しておる。どんな厳しい環境でも耐え抜き、生き抜く事ができるうえ凄まじき生命力でいかなる傷や病も治ることであろう。身につければそれらの力を多少は借りられようぞ。まぁ、人間の体はそんな都合良くできておらんし限りというものがあるがな」
「………………」
「では主の生き様、拝見させてもらいながら共に付いていこうぞ」
[選ばれた少年の目覚め]
樹木龍の声が途切れた直後、修司は山の中で目を覚ましました。崖から落ちて時間が経っているのか辺りはすでに真っ暗闇だった。
「イテテテ、今のは全部夢だったのかって……アレ!!?」
修司は自分の体を見て驚きました。妖魔に切りつけられた小さな傷はもちろん、あんなに出血がひどかった大きな傷もキレイさっぱり消えていた。
しかも、右手にはあの龍玉と同じエメラルドグリーンの小さな玉が1個だけ付いた数珠がかかっていたのです。
「夢じゃないのか、服は変わらずズタボロのままだが傷だけは消えているし何よりこの数珠は……アッ、痛え」
修司は急いで帰路に着こうとしましたが、体の痛みはそのまんま残っていたのです。それに薄暗い森の中どっちに進めばいいのか解らず迷いかけていた時。
「そっちの道じゃないよ」
いきなり声が聞こえたのです。
「だっ、誰かいるのか?」
辺りに耳を澄ませて何処からの声かと確認してみると、何と修司のすぐ横の木から声がしたのです。
「そ、そんなバカな…」
修司が呆然としていると小さい龍玉になっていた樹木龍が声をかけてきました。
「そんなに驚くなバカ者め。草木はな、ちゃんとお主ら人間同様に生きておるのじゃよ。ちゃんと彼らの話を聞こうとする意思があれば自ずと耳に入るのじゃよ」
修司は理解し、木々達の声を頼りに無事に森を抜ける事が出来ました。
「さ~てとっ遅くなっちまったしウッズに電話で来てもらうか…って俺今財布ねえや…」
[お忘れかもしれないが、この話の時代設定は今から何十年も前。無論携帯電話などは無い…]
一方、此方は修司の自宅兼市長オフィス。山から帰ってこない修司を心配してアッコ達が待機していた。
「修司、一体どこに行っちゃったの?」
「こんなに音沙汰無しだなんて絶対に何かあったに違いないわよ!」
「あ、案外山の中でマモノと出くわして襲われてたり…」
「大将っ!縁起でもない事言わないでよ!!」
心配するアッコとモコに言う大将の一言に、アッコが半泣きしながら怒鳴ったのを見て一同驚愕し一気に空気が重くなった。
「まぁ、修司様の事ですしヒョッコリ帰ってくるかもしれませんよ。何せ自由気ままに生きるのがあの人の人生観なんですし…」
ウッズはそう言ってアッコ達に紅茶とサンドウィッチを差し出した。
「あの人はあまり他人の意見を聞かず[我が道を行く]タイプの人ですからね。まぁだからこそ自分の信じている信念を曲げない強い人なんですけどね」
「し…信念?」
アッコが訊ねると、ウッズは穏やかな顔で答えた。
「ええ、この街がマモノと呼ばれている存在から市民達を護ろうと自分から進んで市長に立候補したんですよ。周りの人達はマモノという厄介事を背負いたくない人たちばかりでしたし」
そう話しながらテーブルの上にサンドウィッチやお茶を並べるウッズ。
「まぁ、お腹が空いたら余計に気持ちが塞ぎこんじゃいますし少しは食べてくださいよ。な~に、修司様なら絶対に帰って来ますよ。例えマモノにメタメタにされてもね」
ウッズはそう言って塞ぎこんでいたアッコ達をなだめながら手作りのサンドウィッチを食べさせ、落ち着かせていった。
[市長の帰還]
と、その時玄関のドアベルが鳴り響いた。みんな驚き、ウッズが慌てて玄関に寄った。
「は、はーい。どなたですか」
「ウッズ俺だよ、開けてくれ~。腹ペコでヘトヘトだぁ~」
声の主は修司だった。あの後修司は自力でアニメタウンの郊外から中心部である自宅まで歩いて来たのだ。痛みが走り、空腹の絶頂の状態で。
「しゅ、修司!無事だったのか~!」
「みんな修司が帰ってこないからマモノにやられたんじゃないかって話していたのよ」
「いや~スマンスマン…」
心配して駆け付けた大将やモコの後ろからアッコが暗い顔をして修司に問い詰めた。
「一体なんで、こんなに遅くなった訳」
「い、いや~マモノ騒ぎで慌てて下山しようとしたら遭難しかけて…今から2時間前ぐらいにやっと森を抜け出られて…」
と、修司が苦笑いしながら弁明していると。
なんとアッコは、いきなり修司に平手打ちを喰らわせた。
「ア、アッコ…?」
「何で…何で何の連絡も寄こさなかったの!?みんなこんなにも心配していたのよ、少しはみんなの事を考えてよ!!」
「す、すまない。小銭も無かったし電話したくてもできなかったんだよ…。いや、本当にゴメン!」
修司はみんなの目の前で思いっきり土下座をした。プライドの高い修司が土下座するなんて皆は驚いたがアッコは。
「私だけでなくみんな同じ気持ちだったのよ、ちゃんとみんなに謝って! それに、その服なに!? なんでそんなにズタボロなのよ~」
「山ん中駆け回っていたら木の枝やイバラなんかで服が裂けちゃってな…」
修司はみんなには自分がマモノと一戦やった事よりもマモノに隙を疲れて致命傷を負わせられた事を言うのをプライドが許さなかった。何より、その後の樹木龍との会話や聖龍使いとしての使命も同時に伏せておこうと考えていた。
「どちらにしろ、今日はみんなに心配かけたな。もう今日は遅いからこれで解散にしよう。ウッズ、みんなを大型車に乗せてそれぞれの家まで送ってやってくれ」
「はい、畏まりました」
玄関前に車を移動させ、みんなが車に乗り込み最後にアッコが乗ろうとしたしたとき修司が止めた。
[感じつつある心]
「あ、アッコ」「…なによ」
不機嫌そうな顔を未だに浮かべるアッコに、修司は率直に謝った。
「今日は本当に心配かけちまって済まねえな」
「本当に反省してるの?」
「し、してるとも。その証拠にお前が許してくれるなら何でもする覚悟だ」
「ホントウに~???」
「ホっ、ホントだとも!」
するとアッコは途端に笑顔を浮かべると、修司に提案する。
「…それじゃあねぇ、もうすぐ期末テストがあるから明日学校が終わったらモコと三人で火川神社で合格祈願に付き添ってよ」
「って、モコが一緒なら別に俺がいなくても構わないんじゃ…」
「修司だってテスト受けるんだし、何よりさっき何でも言う事聞くって言ったじゃん!」
「……解ったよ、付き添いでも何でも一緒に行くよ」
「フフフッ素直でよろしい。それにね…」
と、アッコは修司の耳元でこう囁いた。
「火川神社にも聖龍伝説の言い伝えがあるっていうわよ」
修司はこの発言で一気に生気が活気に満ちた。
「そ、そうなのか、じゃあ行ってみる価値はありそうだな」
そう会話を終えると、アッコ達はウッズの運転するワゴン車で家まで送ってもらった。
「ふぅ~今日はホントに色んな意味で疲れたよ。まぁ聖龍伝説には一歩近づけたし何をすればいいか目標も決まった! 残る龍玉ははあと6個! 更に聖龍使い専用装具の武者鎧まで付いてくるなんて、最強のワンセットじゃないかっ!!しかし、今はまず風呂に入ってこの体の痛みを和らげる事に専念しよう。明日には火川神社で調査をするわけだしなぁ」
修司は地下にある大浴場でゆったりと寛ぎながら体の痛みを癒していた。
しかし、アッコに平手打ちを食らった左の頬の痛みはまだ、真っ赤なもみじ模様と共に残っていた…