舞台は7月中旬、修司達はアッコの両親の好意でアニメタウン沿いの海辺へ海水浴兼バーベキューしにきた話であります。
[海を楽しむ市長とその一行]
7月中旬、夏休みに入ったばかりの猛暑の日々に、アッコの両親が海辺でバーベキューをしようとクラスメイトである修司やモコ、大将たちを誘ってアニメタウンの海岸にやってきた。
此処は通称アニメタウンビーチと呼ばれる砂場で多くの市民が利用していた。
「パパーー、コンロとガスボンベは何処に運べば良~い?」
「ああ、こっちだこっちだよアッコ」
アッコの父親は広い砂場で自分たちがバーベキューをやるためのスペースの場所取りに追われていた。
「はーい、修司パパの居る所までよ」
「ヘイヘイ…うんしょっ」
修司はアッコと協力してコンロやガスボンベはもちろん、食材まで運ぶのを手伝っていた。
「いや~、悪いですね、市長さんに手伝ってもらうなんて…」
「い、いや。わざわざ自分も誘ってもらえたんですし、手伝えることがあったら何でも言ってください」
「はっはっは、ありがとう。君も向こうで大将君たちと遊んでてもいいんだよ」
少し離れたところでは大将とギョロ・ゴマ、それに少将がトラに跨って水遊びしているし、モコは弟のカン吉とその親友ガンモの相手で手が離せない様子が伺えた。
そんな修司に同じく準備をしているアッコ母が声を掛ける。
「そうよ、まだお昼まで時間があるんだし修司君もアッコも遊びに行っていいわよ。後の準備は全部パパがやってくれるんだし☆」
「えっ……そ、そうだぞ。バーベキューの準備はパパに任せなさい! 子供は元気に遊ぶのが基本だぞっ」
「解りました、では最後のこの荷物を車からそっちまで運んだらお言葉に甘えます……」
修司は最後の荷物をアッコの父親のところに運ぶ終わると、アッコに腕を掴まれ
「それじゃ荷物も全部降ろしたし、修司あっちに行って貝殻拾い手伝ってよ♪」
「えっ~~。貝殻拾いって…お前5年にもなるのにまだそんな幼稚な事やっているのか?」
「何よ~。キレイな貝殻集めて眺めるのは海に来た美少女のたしなみでしょ!?」
「美少女っ? どこだ、どこに居るんだ? その美少女って奴は……」
「……! も~~~う! からかうのもいい加減にしてよ! いいから今日1日ぐらいは私につきあってよね!」
修司の言動に頬を膨らませて立腹するアッコは、修司の耳を引っ張る。
「わっ、解ったから耳はやめろ耳は! 俺の福耳が更にデッカクなっちまう…」
「福耳が大きくなれば幸福になれるからいいじゃない…」
アッコに福耳を引っ張られながら、修司はそのままアッコに連れてかれてしまう。
そんな修司とアッコの情景を見て、アッコの両親は思わず微笑む。
「フフフ、アッコったら、あの修司君って子の事になるといつも以上に活発になるわねぇ」
「ああ全くだ。転入初日もアッコを体を張って助けてあげたって言う話も耳にしたしな」
「フフ、二人はあのまま人気のない岩場まで行きそこで愛の儀式を…♡」
「……! お、おいママ!! そんなまだ早すぎる!!」
「もうパパったら本気にしないで、冗談よ冗談。だけどあの二人本当に仲がいいわよね。パパもそう思わない?」
「い、イヤイヤ。まだアッコは小学生だ。男と付き合うにはまだ早すぎる……」
「女の子がね、男の子を好きになる年齢なんて決まってないのよ? ……そう、パパと私だって……」
「……う、うむ…」
「此処は大人の私たちにできることは、遠くからそっと見守ることぐらいよ☆」
妻である母親の言葉に、父親は難しい心境を抱えていた。
[修司とアッコ]
一方、アッコに無理やり連れて来られた修司はアッコに言われるまま貝殻集めをしてた。
「おーーいアッコ、何だかこの辺には良い貝殻なんて落ちてないぞ(あ~あ、本当なら夏休み利用して色々と聖龍や英雄について調査しようと思っていたのに……)」
修司は最初、この海水浴に行く誘いを断ったのだが、アッコの強引な説得で渋々来ることになってしまっていた。
と、此処で修司はある異変に気付く。
「……お、おーい! アッコ! 何処に居る? 返事してくれー!」
さっきまですぐ近くに居たアッコの姿が見えなくなり、修司は一気に不安がよぎった。
(な、何かあったのか? も、もしや海に……!)
修司は慌てて海の方に入り辺りを見回しましたが、海原にはどこにもアッコの姿が見えない。
「お……オーーイ! アッコーー! ど、どこに居るんだよー!!」
修司は海から再度、海岸を見渡してみると……修司の居たところから少し離れた別の砂場でアッコが塞ぎこんでいました…。
「ア、アッコーーっ」
修司は慌ててアッコのところに駆けつけた。
「アッコどうした、どこか怪我でもしたか? ぐ、具合が悪いのか?」
そんな修司の問いにアッコは答えません。
「待ってろ、すぐにオバサンとオジサンのところに助けを呼んでくるからな!」
修司がアッコの両親のところに助けを呼ぼうとその場を離れようとした時に、アッコはいきなり修司の足を掴んできました。
「ア、アッコ…?」
「だ、誰も呼ばないで……お願いだから離れないで……」
アッコは顔を真っ赤にして息苦しそうに修司を見つめます。
「あ、ああ。解った。気持ちが落ち着くまで側にいるよ……」
今まで見た事のないアッコの顔に、修司は動揺していた。
普段誰にでも明るく振る舞っているアッコの異常な様子に、修司は尋常じゃない空気を感じていた。
(こ、こんなときなんて話しかければ良いんだ。な、何より今アッコはどんな心境なんだろう……あああ!! こんな時こそ変身怪獣のようなテレパスがあれば便利なのに~~!!)
「……………………」
修司が一人、内心激しく焦燥している一方でアッコは未だに何も話す様子は無かった。
[心の変化]
修司とアッコの二人はそのまま10分はじっとして何も話せなかった。
「………………………」
重い空気の中、最初に第一声を放ったのはアッコの方でした。
「ねぇ、修司……」
「! な、なんだ……」
「……みんなの事どう思ってる?」
突然のアッコからの問い掛けに修司は戸惑いながらも返答する。
「……み、みんなってモコや大将にギョロ・ゴマ、少将にチカ子、ガンモにカン吉の事か?」
「う……うん」
「そ、そうだなぁ……モコはお前の幼馴染でクラスでは一番お前の事を知っている女であの大将たちにも負けない勝気なところもあるけど、弟思いの良い姉さんとしての一面もあるしなぁ……」
「………」
「大将たちは常に3人一緒ってイメージで親分肌の大将は男気があって人情肌もある奴だし、俺はいやな奴とは思っていないぜ。これはモコと同じだけど、弟思いでもあるしな。少将はいつも飼い猫のドラに乗って兄貴の大将みたいに強くなりたいって聞くし、チカ子はみんなの噂話が好きなくせに自分がどこから来ているのか誰にも解らせてくれないみたいだしな。カン吉は姉が反面教師の役割をしているのか、読書と勉強が得意なのは良いが気が弱いのがタマに傷だな。ガンモは家が豆腐屋だけあって、豆腐に関する豆知識がハンパねぇけどそれなのに将来は落語家を目指しているからな」
「…………わ、私の事は、どう…思…う?」
このアッコの質問に修司は背筋をピンと伸ばして反応する。
「!! お、お前の事か!? ……そ、そう、だな…い、いつも誰にでも明るく振る舞って…誰にでも優しく接する事が出来て…と、友達思いで…よ、四字熟語で言えば、天真爛漫な女ってところかな?」
「天……真……ランマン?」
「あ……えっ、え~と…つ、つまり変に自分を飾り立てることなく自然なままの姿で……生まれつきの素直な心を持つ者をあ、表わしていて……」
「………………………」
「よっ、よーするに!! 明るくて純粋な女ってことだよ!!」
「……………!」
修司は顔を真っ赤にしてしまい、今にも倒れそうな勢いで話した。
そんな修司を見て、アッコも踏ん切りを付けたかの如く修司に問い出した。
「修司はっ……修司はそんな私の事どう思っているの!?」
「は、ハァ…? さっきも言っただろ!? 天真爛漫で明るくて純粋で…」
「ち……違う! 私が聞きたいのはそんなことじゃないの!」
「!!」
「し、修司は……わ、私の事……その……い、異性として……女の子としてどう見てくれている!?」
「そ! それは……大事な……と、友達として……だな……」
「……修司ってズルイよ」
「???!!」
アッコの発言に修司が激しく戸惑う中、アッコは包み隠さず打ち明ける。
「修司が転校してきてまだ半年も経ってないけど……修司が周りの誰よりもカンが鋭いのもちゃんと気づいているのよ……」
「………」
「あなたが周りの誰よりも相手の気持ちやその場の空気に敏感に感じて、その場の状況に対して自己的とはいえ的確に行動できていること、私が気付いてないと思った?」
「…………」
「あなたは周りの人間がどうなろうと知った事じゃないみたいな、他人事だからどうでもいいように振る舞っているけど……あなたの場合は全部本心の裏返しよ!」
「……!」
「誰かの事なんてどうでも良いと振る舞っている反面、誰かの力になりたいと本当は願っている……誰にも相手されたくないと振る舞っているけど! 本当は1人が嫌で、辛くて、苦しくて……ただ素直になれないからそんなに孤独に囚われているだけなんでしょう!?」
「………………………………」
「本当は修司が優しさに満ちている人だって、少なくとも私は解っているわ。この前のキャンプ場の河原で起きたあのマモノの事件だって……! 本当は修司も何らかの形で巻き込まれていたんでしょ!?」
「……ア、アッコ!」
この時修司は、アッコが人知れず自分を心配してくれていたのだと痛感させられる。
「私、普段は鈍くさい所があるのは自覚してるわ。だけどあの時、帰って来た修司の服の裂け方……いいえ! あれはイバラや木の枝なんかじゃない、れっきとした鋭い刃物みたいなもので何か所も切られた痕なんでしょ!?」
「……(アッコ、そこまで感づいていたのか……)」
全てを見通していたアッコの言葉に修司が愕然とする中、アッコは自身の辛い心中を打ち明ける。
「わ、私怖いの……せっかく会えたのに……せっかく友達になれたのに……ま、また……どっか行っちゃうんじゃないかって……」
「……アッコ」
「修司、貴方は私の気持ちに気づいているはずよ。だから…だから、私が望む言葉を今此処で私に向かって言って欲しいの……」
「……アッコ……」
二人の間に緊迫した空気が流れていた。
[chapter:二人の新たなる物語]
「……アッコ」「……修司」
2人は黙って互いの顔を見つめ合い、そのまま数十秒間なにも話さないまま時間が過ぎた。
最初に行動を起こしたのは修司だった。彼はアッコの両肩を掴むとグイッと彼女の顔を自分に近付けたのです…。
「!? しゅ、修司?」
驚くアッコに、修司は真剣に打ち明けた。
「アッコ。い、今から俺の言う事を良~く聞いて欲しい」
「……う、うん」
戸惑うアッコを眼前に、修司は語り始める。
「アッコ、俺はな詳しくは話せないが人と関わりを持つのが苦手な存在なんだよ。いや、ある意味人を信じたり友好的になることができない男なんだよ!」
「え……そ、それってつまり、どういうこと?」
「俺は誰かと親友になってもすぐに多少のトラブルで関係がダメになってしまったり絶交されたり、ときには此方から関係を絶ってきたことも少なくはない。俺は心のどこかで友と自分を認めてくれた奴だけでなく、自分を産み落としてくれた両親すら疑いや疑心の眼差しでみてきたんだ。だからこそ母親ともすぐにケンカしてしまうし、そんな奴等と関係をスッパリ絶ちたくて、遠いこの街の市長になって引っ越して来たんだよ…」
「そ……そんな、実の親まで……」
「ああ、そうだ。実の親まで信じられないんだよ俺は。そんな生まれつきなんだよ! だ、だから誰かに愛されたり誰かを愛そうとする事も俺にはできないんだよ!! ……俺は生まれつき……孤独なんだよ」
修司の寂しさと孤独に満ちた顔を見て、アッコは決意した。
「そ、それだったら今からでも誰かを、そうまずは1人1人から信じて行こうと頑張ろうよ!」
「………………?」
「確かに、世の中には嘘を平気で突く人が居るから人間不信に落ち込んでいってしまう人だって多いわ。だけど人ってのは1人じゃ生きていく事が出来ない存在でもあるのよ!」
「アッコ……」
「少なくとも私の周りには、私たちの親友には平気で嘘をついたり人を傷つけるような人はいないから安心して。そりゃ大将たちは少し乱暴だけど人情肌のある根は良い奴らだって修司も言ったじゃない」
「アッコ。お、お前……」
するとアッコは修司の両腕をしっかり掴み、修司の顔を見つめながらこう言い放った。
「それに、私は絶対に修司の側から離れないから! 修司がずっと孤独で居続けなきゃいけないなら少しでも孤独じゃないって感じさせてあげるわ! 例えそれがトンデもないお節介だったとしても!!」
「ア、アッコ……お前は……!」
修司は思わず泣きかけた。しかし強情で他人に弱いところを見せたくない修司は顔に力を入れて無理にでも涙をひっこめた。そんな修司をアッコは何も言わず、優しく抱きしめるのだった。
[水の祠]
「みんな~お肉が焼けたわよ~」
「うお~肉だ肉だ」
「大将ちゃんと野菜も食べなさいよね、ほらっカン吉もよ」
アッコ母に呼ばれて肉にがっつく大将と弟のカン吉に告げるモコ。
みんながワイワイ楽しく食事している後ろで修司が一人で肉を頬張っていた。
「ハイ修司、貴方の分」
そう言ってアッコが修司の食べる分の肉や野菜を持ってきた。
「……あ、ああ。ありがとう……」
修司は先ほどの岩場でのアッコとのやり取りに未だに挙動不審な心情だった。
「あ、あのなアッコ」「うん、な~に?」
お肉を頬張りながら返事するアッコに、修司は照れながらお願いする。
「さ、さっきの岩場での事なんだけど……できればみんなには黙っていてほしいんだよ……」
「……何も言わなくて良いの?」
「ああ、みんなには変な気使わせたくないし……その……」
「……! ああ、解った解った! 誰にも言わないでおくわ」
「あ、あぁ……すまねえな……」
「クスッ、修司ってホントに恥ずかしやがり屋なんだから♪」
アッコは最後に、修司に小声で発言してみんなの話の輪の中に入っていきました。
「ンっ、修司君どうしたんだい。顔が真っ赤だよ」
「ちょ、ちょっと日に当たりすぎてのぼせたみたいです。少し海の家の中で休ませてもらいます…」
アッコ父に訊ねられた修司はそう言うと、海の家に入り横になった。
昼食が終わり、大将・ギョロ・ゴマの3人が話していた。
「よ~しっお前ら。今日はこのゴムボートでどこまで遠くまで行けるか、力の限り試すぞ!」
「し、しかし大将~」
「下手に遠くの海まで行ったら引き返せないかもしれませんで」
「な~にっ。今日は海岸沿いの天気は快晴・風力も安定した穏やかな気候だってお天気おねえさんが言ってたから大丈夫だ」
「「ホ、ホントに大丈夫なのかな~……」」
一方、海の家で休んでいた修司の耳に店主夫婦の雑談から思わぬ話が聞けた。
「ねえアンタ、そろそろ自治会に頼んであの祠修繕するなり解体するなりしてもらわない?」
「フムッ、祠ってあの海岸沿いの小高い崖の上にポツーンっておっ建っている古びた祠か?」
「そうだよ、今にも壊れかけているのに……アレで強い風が来たらひとたまりも無く吹き飛ばされちまうよ。危険だって話がありゃウチの店に来る客足にだって少なからず影響は出るかもしれないし……」
「だけどなお前、あの祠は聞くところに寄るとアニメタウンが出来上がる以前からあそこに建っていて水神様を崇めている祠だって聞いたぞ? もう少し考えてみようぜ」
この夫婦の話を耳に入れた修司は反応した。
(祠? 水神様? もしかして水の聖龍を祀っているのか? それだと龍玉もそこに……!)
と、其処にアッコが海の家を覗きに来た。
「修司~気分良くなったー? これからモコと一緒に泳ぐんだけど修司も一緒にって……あれ居ない」
修司は店主夫婦の話を聞いて、すぐに起き上がり話にあった祠に走っていた。
「話によるとずいぶん壊れかけているっていうし、もしも祠の中に龍玉があったら一大事だ……!」
修司は話にあった海岸沿いの恥っこの小高い崖に来た。上方には話の通りにボロボロではあるが祠があった。
「あ、あれが話にあった祠……確かに今にでもぶっ壊れそうだ」
いきなり風が強くなり、海が荒れてきた。もうすぐ荒波と共に強風がやってくる。
修司は何の躊躇も無く崖を登り始めた。目的はただ1つ、祠の中を確かめ龍玉があるかどうか確認するためである。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
粋を乱しながらも、遂に修司は祠にたどり着いた。
修司は半ば強引に祠の開き戸を開けた。すると中にはご神体と思われる玉が。
「こ、これなのか……?」
修司は恐る恐る、右手の2個の龍玉をその玉に近付けてみた。もしも本物の龍玉なら共鳴して光り輝くはずだからだ。
玉は青く、しかもまるで深い深い水の如く透き通ったそれはキレイな青い光を放った。
「我の眠りを覚まし者、我を望む者、よくぞ我を見つけ出した…」
「ア、アンタは水を司る水龍だな。話は後だ、この祠はもうすぐ壊れるかもしれない! アンタも早く来い!」
「そうせかすな、若いの。人は焦れば焦るほど失敗も多くなり最悪己の身を滅ぼしてしまうことも珍しくは……」
「あ~~~! お説教は後で何時間でも聞いてやるから早くいくぞ!!」
修司は青い玉を手に取り、崖を駈け降りた。
「やれやれ、せっかちな者が聖龍に認められてしまったわい…」
水龍はそう愚痴ると他の龍玉と同じく右手の数珠の1個になった。
「……やれやれ。何とか嵐が来る前に龍玉を回収できたな、さてと俺も早くみんなのところに戻るとするか…」
その時、海の方から声が聞こえてきました。
「お~~~いっ! 誰か助けてくれ~~~!!」
「んっ? この声は……まさか!」
[現れたピンクのイルカ]
「お~~~いっ!誰か助けてくれ~~~!!」
「オ、オールが流されて動けないよ~」
「うわ~~んっ。だからこんな遠くまで来たくなかったんだよ~~!」
なんと大将・ギョロ・ゴマが荒れ狂う海のど真ん中で立ち往生していたのです。
「あ、あのバカ共! クソッ、俺が助けを呼び言っている間に余計遠くに流されるかもしれないしな……」
修司は迷った。しかしその時、アッコの言葉が脳裏に浮かんできた。
[誰かの事なんてどうでも良いと振る舞っている反面、誰かの力になりたいと本当は願っている]
[修司が優しさに満ちている人だって、少なくとも私は解っているわ]
そんなアッコの台詞を思い出した修司は、荒れ狂う海に単身飛び込み、急ぎ大将たちのいるゴムボートまでたどり着いた。
「しゅ、修司……!」「「修司!!」」
「ギョロ・ゴマ、俺はこのままバタ足でボートを動かすからお前達は前方で岸のある方角を示してくれ!」
「へ、へい…」「わ、解った…」
「大将は体力があるなら俺の隣に来て一緒にバタ足で船を動かせ! 生き延びたいなら必死で足を動かせよ!!」
「お…オゥ、解った!」
4人はそれぞれ役割を分担して何とかボートを岸まで誘導しようと奮闘していた…
そのころ、海の家付近。アッコ達が戻ってこない大将たちを、そして行方が解らない修司の安否を気にしていた。
「いや~こりゃまいったな。小規模だが嵐が来るぞこりゃ」
「沖に出て行った子供たち、無事でいれば良いんだけど」
「修司君もさっきから姿が見えないし…」
「確か、海の家の中で休んでいたはずなんだけど」
海の家を経営する夫婦にアッコ両親も心配する中、モコとアッコも不安を過らせていた。
「でもアッコが呼びに行った時はもう修司は居なかったっていうし……ねぇアッコ?」
「……う、うん! そうなのよ……(修司ったら、何処に行っちゃったの……)」
その時、別の海の家の店主が慌ててやってきた。
「お~~い、大変だぁ。向こうの海で子供たちがボートで沖の方に流されちまってるぞぉ!」
「え、ええ!? ま、まさか赤塚君たちが…」
「確認してみたら子どもたちは全部で4人らしい」
この別店主の返答を聞いたモコとアッコも驚いてしまう。
「えっ!? 確か大将たち3人だけで海に出たはずじゃあ…」
「も、もしかして修司!?」
『えええ~~~!?』
アッコの返答に思わず一驚する一同。
「とにかく、今沿岸警備隊に通報したからすぐに助けが来ると思うんだが……」
「で、でも。その前にもっと遠くに流されたり最悪転覆なんてしたら……」
別店主とアッコ母の言葉にみんなにも不安がよぎる。
(どうしよう。修司も心配だけど大将たちだってこのままじゃあ……よしっ!)
アッコはみんなの目を盗んで人気のない浜辺まで移動。
そしてアッコは腰のポーチからコンパクトを取り出して呪文を唱える。
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、イルカさんにな~れ~」
イルカに変身したアッコはそのまま荒れ狂う海に飛び込んだ。
一方、修司達の方は思う様にボートが岸に近づけず、修司も大将も体力が限界になっていた。
「ハァ、ハァ、ギョロ・ゴマ。岸までどれくらいになった!」
「そ、それがぁ」
「まったく近寄っている気配なんてありませんよ」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
大将の方はすでに体力の限界を超えていた。
「た、大将。お前はボートに上がって少し休め。もう限界なんだろ?」
「ば、バカ言え……お前の方こそ上がって休めよ……」
互いに相手の体力を気遣う修司と大将。
「し、修司、すまねえな。俺たちのヘマなのにお前まで巻き込んじまって……」
「それは違うだろ。俺が勝手にお前らのボートまで泳いできただけだ」
「な……なんで俺たちを? いつもケンカしてばかりなのに……」
「バカヤロー、ダチを助けるのに理由なんていらねえだろう」
「しゅ、修司~~っ!」「「修司~!」」
「バ、バカっ。泣く暇があったら早く岸にたどり着けるように努力しやがれ!」
「う、うん。そうだな」
感動する三人に喝を飛ばす修司。
4人は何とか沖には流されないよう頑張っていたが、ついに大将が力尽きボートから手を離してしまいそうに。
「う、う~……」
大将が手を離しかけた時修司が大将の腕を掴む。
「修司……ウプッ」
「大将、ゼッテエに離すんじゃねえぞ!」
「修司、俺はもうダメだ……腕を放してくれ……」
「「た、大将ーー」」
「何バカ言ってやがる! 夏休みもまだ始まったばかりだぞ。新学期だってまたお前とケンカして勝たなきゃならねえ……」
「……お願いだ修司、腕を放してくれよ。お前に何かあったらアッコが……アッコがよ……!」
「!! 大将……お前……!」
「俺、以前からアッコの事を……だけどお前が転校してきてからアッコはお前の事ばかり……ホントは悔しいけどよ、俺はアッコが幸せと感じてくれるならそれでいいんだ!!」
「………………」
「だから修司、俺の分まで生き延びてくれ……そしてアッコを幸せにしてくれよ……!」
「た、大将……」
「せめて、アッコにあったら伝えてくれ。俺、本気でお前に惚れていたってよっ!! じゃあな、修司! ギョロ! ゴマ!」
大将は強引に修司の腕を振りほどいた
「大将ーー!!」「「大将~~!」」
大将が荒波の中に消えかけるのを、修司もギョロもゴマも見ているしか出来なかった。
と、その時。
一瞬、不思議な音が聞こえたと思いきや大将が海からまるで起こされるかのようにボートの上に吹き飛ばされる。
「????!」「「?!」」
「い、一体何がどうなって……」
修司達が唖然としていると、修司も何かに尻を押し上げられてボートの中に入れられる。
「しゅ、修司!」「「修司っ」」
「な、何が起こっているんだ……!?」
状況が呑み込めない4人が海の方に目をやると、何とピンクのイルカが顔を海面から出していた。
「イ、イルカ!? しかもピンクの……!」
「バカな! この辺の海域にはイルカはいないはずだ! しかもピンクイルカなんてインドネシアやオーストラリアの1部の海域でしか生息していないんだぞ!? なんで日本の、しかもアニメタウン海域に居る訳???」
4人が出現したピンクイルカに驚いている最中、そのイルカが4人の乗ったボートを押し出した。
「あ、あれぇ? このイルカ、俺たちのボートを押しているぞ」
「一体どこに」「向かっているんですかね」
大将達が困惑している中、4人の乗ったボートは岸の見える海域まで押し戻されていた。
「や、やった~岸だ、海岸だ~!」
「俺たち助かったんですね!?」
「うん……うん……」
と、その時、沿岸警備隊もその場に到着した。
「お~~い、みんな無事か~!」
「今助けるからな、もう少しの辛抱だ」
「「「ウワ~ン、ウワ~ン」」」
警備隊の隊員達に発見されて大将たち3人が嬉し泣きしている中、修司は近くにあのピンクイルカが居なくなっていることに気付いた。
「あ、あれ……あのイルカは……」
思えばあのイルカが居なければ、大将はあのまま海に落ちていたし、自分たちも早々に沿岸警備隊に助けられなかったかもしれないと修司は不思議に思った。
[chapter:ひみつ]
「良かったわねえ、みんな無事で」
「だけど、海の天気は変わりやすいって言うしもう遠くの海まで行かない様にな」
「はいっ、もうこんな事2度と致しません!」
「「もうしません~」」
アッコの両親に注意されて、助かった喜びで泣き叫ぶ大将達。
一方、砂浜に続く石階段では、修司は自分達を助けたイルカの事を考えていた。
(あのイルカ、一体なんだったんだ? 普通のイルカとは思えないし、まるで意図的に俺たちを助けた見たいだったし……)
そんな考え事をしている修司に、大将とギョロ・ゴマが話しかけてきた。
「修司、さっきはありがとな……」
「「ありがとうございますぅ!」」
「な~に。もう済んだ事だ、気にすんな」
「そ、それと……助けてもらって何なんだけど……海の上で俺が言った事は……その……アッコには黙っていてほしいんだよ……」
「……ああ、解ったよ。お前って案外好きな女に自分の気持ちを素直に伝えられないんだな」
「よ、余計な御世話だ!」
「フフ、まぁ俺は言わないでおいてやるが、あの女は案外カンが鋭いぞ。もしかして、もうお前の気持ちに気づいているかもしれない」
「ま、まさか……そ、それによ。今アッコが惚れているのはお前何だからな。アッコを泣かすんじゃねえぞ」
「……ああ、俺なりに努力してみるさ。それにさっき助けてもらってって言ったけど俺は何もしてないぜ。正確にはあのピンクのイルカにお前らも俺も助けられた訳なんだしな」
「そうそう、あのピンクのイルカってあの後どこに消えたんだろうな?」
「さあな、気づいたらどっか行っちまってたし。何よりこの日本でピンクのイルカが存在するのが不自然だよ…」
そう修司と大将たちが話していると、アッコが何処からともなくやってきた。
「お~いっ、みんな~」「あっ、アッコ」
駆け付けるアッコにモコが声を掛ける。
「ハァハァ、4人とも無事?ボートに乗っていたのは大将たち3人と修司だって聞いて……」
「あ、ああ。俺たちのボートが沖に流されているのを見て修司が助けに来てくれたんだよ」
「い、いや。だから俺は結局何もできなかったし……」
「どっちにしろ、4人とも無事で良かったわ」
そう修司や大将達の無事を喜ぶアッコに、母親とモコが問い掛ける。
「それはそれで良かったけど、アッコは今の今まで何処に行ってたの?」
「そうよ~。4人とも安否が取れないからって心配していたのにアッコまで居なくなっちゃうんだから~」
「あ、ああ。ちょっと、いろいろ……」
アッコが挙動不審な態度で話していると、アッコの父親が皆に呼び掛けた。
「さぁさぁ、もう夕方だしみんな車に乗って~!」
「ンン~っ今日は嵐にあって大変だったわね」
「お、俺もう疲れた~~……」「アッシらもです~……」」
「……………」
背筋を伸ばすモコに、疲労困憊の大将達を尻目に修司は思慮に耽っていた。
「修司、早く車に乗って~。もう帰るのよ~」
「あ、ああ。今行く」
そんな修司をアッコが呼ぶと、修司は皆と同様にアッコ父が運転する車に搭乗する。(今日は色んな事があったな……アッコには俺の本心気づかれたり伝えたり、大将たちを助けに行ったり。それにしても本当にあのイルカは何だったんだ……?)
英雄やその敵たち、そして聖龍伝説にしか興味の無かった修司はまだ、それ以外の不思議な力を持つ者たちの存在に気づいていない。無論、加賀美あつこに対しても。
そして、そんな加賀美あつこに自分の気持ちを理解され、修司もまた自分の心の闇の部分についてアッコに打ち明ける。そんな二人が今後どんな夏休みを送るのか。