「・・・・」
焼死事件が起きてから一週間が経った。
俺のサイドキックが犯人を懸命に探してくれているが、依然見つかってはいない。
・・・・あの報告書を読んで以来、頭の中がかき混ぜられたかのように思考がまとまらない。
見間違いであってくれと、他人のそら似であると思いたかった。
だが、俺の罪がそう思うことを許してはくれない。
間違いない、見間違えるわけがない。
燈矢だ、今の息子とは違う。
俺が本来いるべき未来にいた、荼毘となってしまった燈矢だ。
・・・・俺以外の誰かが未来からやってきていることは想定していた。
だが、それはヴィランの連中か、あるいは知り合いのヒーローであると考えていた。
無意識に、息子がやってくることを考えないようしていたのだ。
いつから過去に来ていた、最近なのか、それとも俺と同じタイミングか。
写真を見る限り、俺の記憶と変わらない姿から、少なくとも俺と同じ時期ではないと考えられる。
「・・・・このタイミングで現れたのは、たまたまなのか」
偶然監視カメラに映りこんでしまったのか、それとも故意か。
壁に描かれた文字、俺に見せるためかわからないが、俺を意識していることは間違いない。
「・・・・」
燈矢は今の俺を見てどう思っただろうか。
楽しそうに笑う息子と娘。
微笑む母。
そこにいる父。
そして、もう一人の自分。
炎の耐性を得て自由に個性を使えるようになり、俺との訓練を心行くまで行いNo.1ヒーローへの道を着実に進んでいる。
そんなもう一人の自分を見て、燈矢はどう思った。
「・・・・っ」
歯を食いしばり、手の皮膚に爪が食い込んで血が出る。
否が応でもつきつけられる。
俺の罪滅ぼしは・・・・・
「・・・・燈矢、お前は何をするつもりだ」
自分の知る過去と全く違う光景。
それを見た燈矢は何を思い、行動するだろうか。
『さぁ一緒に堕ちよう轟炎司!!地獄で俺と踊ろうぜ!!!』
燈矢の言葉が脳裏に蘇る。
それならいい、喜んで共に地獄へ落ちよう。
もともとそのつもりだったのだ、躊躇う理由などどこにもない。
だが・・・・燈矢の怨嗟が俺だけに向くとは限らない。
自分とは違うもう一人の自分。
きっと荼毘となった燈矢がずっと望んでいた姿だっただろう。
それを見て、その嫉妬が、怨嗟が、もう一人の自分に向いていたら。
そして、幸せそうに笑う家族に向いたら。
「・・・・っ」
燈矢、頼む。俺だけにしてくれ。
俺だけなら、何をしようと構わない。
頼むっ。
全部俺のせいだ、過去に来ても結局何も変わってなどいなかった。
間違いだったんだ、過去に来た時にやはり死んでおくべきだったんだ。
だからまた間違えた。
「・・・・俺は、罪滅ぼしなど、何も」
そうだ、考えなくともわかっていたことだ。
目を逸らし、罪滅ぼしになっていると思い込もうとしていただけだ。
俺が罪滅ぼしするべき相手は荼毘となった燈矢と、家族たちであって今の家族たちではない。
俺はただただ、今の家族にそれを重ね、罪滅ぼしをしている気になろうとしていただけなんだ。
「・・・・っぅ、うぅ、ぅぅ」
涙が零れ落ちた。
何をやっていた、俺は何をやっていたんだ。
もっとやれることがあったはずだ。
未来へ戻る方法をなんとしてでも探し、本来の彼らに罪滅ぼしをするべきだったんだ。
だが、微笑む冷と楽しそうに日々を過ごす燈矢たちを見て、戻りたくなくなっていた。
無意識のうちにこの居心地がいい空間から離れたくなっていたんだ。
「……見つけなくては、燈矢がこれ以上誰かを傷つける前に」
いつ家族に炎を向けるかわからない。
会って、話さなければいけない。
息子とは戦えない。
俺の命で、納得してもらうしかない。
それに、心配はそれだけではない。
「・・・・オールフォーワンが狙っているのは燈矢だ」
転弧が言っていたオールフォーワンの発言。
別の誰かを狙っているという言葉。
点と点が繋がってしまった。
奴の狙いは間違いなく燈矢だと、確信できた。
俺と同じく未来から来た存在、そして怨嗟に燃える強烈な意思。
どちらも奴が欲するものに間違いない。
オールフォーワンが燈矢を見つける前にこちらで保護しなくてはならない。
そうしなければ未来の情報は奪われ、燈矢の力をやつの思い描く破滅へ利用されてしまう。
決戦時の燈矢はすでにいつ崩れてもおかしくはなかった。
写真の姿は安定しているように見えたが、実際にこの目で見ないことには安心はできない。
「見つけなければ、オールフォーワンよりも早く」
その焦りを握り締め、俺は事務所から外へ飛び出した。
◇
最近、お父さんの様子がおかしい。
みんなはいつも通りだっていう。
確かに表情や態度はいつも通りだけど、心の中ですごく悲しんでいるように僕は感じていた。
それになんだか警戒しているようにも思う。
僕や夏雄兄、冬姉にはお父さんの知り合いだって言う人たちが近くにいるようになった。
燈矢兄も色々なヒーロー事務所を回っていたけど、最近はずっとお父さんのところにいるらしい。
わからないけど、何かがあったんだっていうのはわかった。
お父さんに直接聞いてみたけど、何も心配はないと言うだけで何も教えてはくれなかった。
「・・・・むー」
「よそ見してんじゃねぇぞ!!」
「わっ」
耳にかっちゃんの怒号が届く。
咄嗟に氷を出してかっちゃんが来る場所に壁を作る。
けれどそれを読んでいたのか躱され、そのまま僕はかっちゃんに倒されてしまった。
「俺の勝ちだ。んで次はてめぇだ転弧!!」
「あはは、元気」
僕を倒したかっちゃんがそのままの勢いで転弧くんへ突っ込んでいく。
爆発をぶつけまくるかっちゃんを転弧くんは笑いながら体をくねくねさせて躱していた。
移動することなく躱されるかっちゃんは目をどんどん尖らせながら吠えまくる。
「焦凍くん、大丈夫?」
「・・・・うん」
僕に近づいてきた出久くんに小さく返事をしながら立ち上がる。
今日はお父さんもオールマイトもいない。
来たのは転弧くんだけだった。
最近は訓練をしに来てくれるのは転弧くんとそのお友達たちが多い。
どうやらお父さん達は今すごく忙しいらしい。
「・・・・転弧くん、お父さんのことで相談があるんだけど」
そう言って僕は転弧くんにここ最近のお父さんの様子のことを相談する。
僕が声をかけると、転弧くんは即座にかっちゃんを腕に抱え込んで無力化し、そのまま話を真剣に聞いてくれた。
「・・・・確かに最近のエンデヴァーさんは色々抱え込んでるね。いやそれを言うなら僕が初めて会った時からずっとだったと思うけど」
「うん、転弧くんもお父さんが変なのわかるんだ」
「てか離せや!!」
「僕の場合は少し事情を知ってるからってのもあるんだけど。そうだね、どうしようか」
かっちゃんを抱えたまま考え込む転弧くんを僕はじっと見つめる。
出久くんは状況を飲み込めていないのか慌てながらも黙って話を聞いていた。
「とりあえず言えることは、エンデヴァーさんは君たちの日常を守ろうとしているんだ。最近サイドキックの人たちが君たちの周りにいるからわかると思うけど、誰かが君たちを狙っている」
「・・・・」
「あ、あのもしかして前に僕達の前に現れたおじさんですか?」
出久くんが心当たりがあったみたいでそう転弧くんに質問する。
それに対し転弧くんは肯定も否定もせず、そのまま言葉を続けた。
「僕がここにいるのも、みんな守るためっていう理由もあるんだ。相手を見つけるためにはどうしても離れないといけないから」
「・・・・それがお父さんが変になってる理由なの?」
僕がそういうと転弧くんは難しい顔をする。
それを見て、きっと理由はそれだけじゃないんだと思った。
「・・・きっと、エンデヴァーさんの中の『普通』をすることが出来ていないのが原因だろうね」
「普通?」
「そう、焦凍くんはお母さんやお姉さん、お兄さんたちと笑顔で過ごすのが普通。出久くんや勝己くんもそうだと思う」
「えっと、はい」
「それがなんだよ!ていうか早く降ろせや!!」
転弧くんの言葉に出久くんとかっちゃんも同意する。
それに頷きながら転弧くんは言葉を続けた。
「みんなにとっての当たり前、それが普通だ。当たり前のようだけど、これがないと人の心はすぐに弱ってしまう」
「エンデヴァーの普通も焦凍くんと同じで家族と楽しく過ごすことなんじゃないんですか?」
出久くんのもっともな言葉に僕も同意する。
でも、転弧くんはそれに曖昧な返事で返した。
「もちろんそれもあるけれど、エンデヴァーさんにはそれ以外に別の『普通』があって、でもそれが出来ていないんだ。だから苦しんでる・・・・・ごめん、僕に言えるのはここまでなんだ」
「・・・・お父さんの普通」
考える。けど、何も思いつかない。
僕は泣いてるお父さんを助けたくて、ヒーローを目指すようになった。
なのに、今の僕はお父さんを助けることも一緒にいることもできない。
そんなの、嫌だ。
お父さんがずっと辛いままなんて、そんなの。
悔しくて、悲しくて、目に涙が浮かんで落ちた。
「・・・・ヒーローは他人を守るために家族を傷つける、か。この場合は他人ではないけれど」
「え?」
「ううん、ごめん何でもない」
転弧くんの言葉に首を傾げれば、彼は苦笑いを浮かべながら言葉を濁す。
でも、転弧くんは僕の前でかがみ、目線を合わせながら口を開く。
「きっといつか、エンデヴァーさんがその『普通』を教えてくれる日が来ると思う。その時はどうか、その普通を受け入れてあげてほしい。それは家族である君たちにしかできないことだから」
「・・・・うん」
転弧くんの言いたいことを僕はちゃんと理解できていないと思う。
けれど、大切なことだって思った。
だから、僕は転弧くんを見ながら頷いた。
そうしていると、訓練室の扉が開き、燈矢兄が姿を現す。
「おー、キッズたちが集合してる。ていうか転弧、なんで爆豪くん抱えてんの?」
「あ、忘れてた」
「殺すぞ!!」
笑いながらかっちゃんを離す転弧くん。
それを見ながら燈矢兄が口を開く。
「ていうか聞いてくれよ。さっき俺のそっくりさんと会ったんだ」
「燈矢兄のそっくりさん?」
「・・・・」
僕の言葉に燈矢兄が頷く。
そして首を傾げながらその時の状況を僕らに説明してくれた。
「なんか学校から家に帰ってる途中でさ、商店街の間にある路地裏から青い炎がちらっと見えたんだよ。それで気になって寄ってみたら白髪の男が炎出しながら立ってたんだ」
「・・・・それで、燈矢はどうしたの?」
「いや気味悪かったし、それに近くにいたお父さんのサイドキックの人達が急いで追いかけていったからそれからは知らねぇ。でも怖いだろ?髪とか体格、個性もそっくりだった」
「・・・・」
燈矢兄の話を聞いた転弧くんは真剣な表情で何かを考え込む。
それを見ながら、何か良くないことが起ころうとしているんじゃないかって、そういう予感が過り、そっと自分の手を握り締めた。
◇
「その話は本当か!オールマイト!!」
「間違いないよ」
オールマイトからの報告に俺は思わず声を張り上げる。
そんな俺の問いにオールマイトは真剣な表情で頷いた。
「オールフォーワンが現れる場所がわかった」
それは、燈矢捜索から三か月が経とうとしていた時のことだった。
目撃情報はある、こちらの燈矢の近くに現れたことすらあった。
荼毘となった燈矢は間違いなく俺の家族を狙っていることは明白だった。
だが、途中でどうしても見失ってしまい接触は叶っておらず、鬱屈した日々が続いていた矢先の出来事だった。
もともと燈矢の捜索と平行してオールフォーワンの居場所も探してはいた。
俺の未来の情報でオールマイトとオールフォーワンは一度戦い、お互いに致命傷クラスの傷をつけ合っていることは知っており、どこかのタイミングで接敵することになるだろうと推測していた。
だが、その具体的な日時や場所はわからず、今まで地道にオールマイトの知り合いの刑事、そしてグラントリノといった限られた者達の手で探していたのだ。
そんなある日、サーナイトアイの予知によって事態は動いた。
「ナイトアイが奴との接触の疑いがあると睨んでいた男の予知を見たところ、とある廃工場でオールフォーワンと接触する未来を見たそうだ。その男は無個性、察するにオールフォーワンから個性を譲渡してもらおうとしているのだと思われる」
「・・・・では、その奴らが接触するタイミングで我々が押し入り、奴を制圧するという流れか」
「その通り、すでに校長にも相談している。優秀で信頼できるヒーローを応援に呼んでくれるとのことだ」
そう言ってその呼ばれるヒーローたちの情報を俺に伝える。
その中には俺が必ず呼ぶべきだと考えていた男の名もあった。
「イレイザーヘッドも呼んでくれていたか。流石は校長だ」
イレイザーヘッド、その個性は『抹消』、見た者の個性を一時的に使用不可にする個性。
オールフォーワンなどの凶悪な個性持ちとの対決にあの男の力があるとないとでは被害が遥かに違う。
未来での決戦でも彼の力は大いに役立ってくれていた。
聞けば、どうやら彼はまだ教師はしておらず、プレゼントマイク、そしてラウドクラウドというヒーローの三人で共同の事務所を立ち上げて活動しているらしい。
まだ雄英高校を卒業し、立ち上げてから数年しか経っていない。
いきなりオールフォーワンとの戦いは危険だが、それを差し引いても彼の力は必須だ。
「これも君が忠告をしてくれていたおかげさ。そうじゃなければ私は一人で戦い、君の言う未来の通りになっていただろうからね」
「・・・・」
そう、こいつの力が強すぎることでこれまでオールマイトは一人で全てを解決してきた。
俺はそんなことは出来ん、弱いことは自覚している。
だから未来での決戦の時もみなの力を借りたのだ。
そしてそのおかげで奴を追い詰めるところまではたどり着いていた。
俺でたどり着けるなら、こいつなら仕留めるところまでも行くことは出来るだろう。
「力の衰えはどうだ」
「……転弧少年に力を譲渡してから確実に力がなくなっていっている。このペースならあと5、6年で、私の力は完全に消える」
「・・・・」
その言葉を俺は黙って受け入れる。
わかっていたことだ、転弧に力を渡したと聞いた時にそのことも聞いた。
だが、本来やつの引退はもう少し後の出来事になるはずだ。
それが、変わってしまった。
「心配しなくても大丈夫さ。それは先の話、奴と戦う力はまだまだ十分にある。それに、転弧少年がプロヒーローになって表に姿を現せるようになるまで引退はしないと決めている」
「・・・・そうか」
何度か転弧の戦闘能力を見る機会があったが、凄まじいの一言に尽きた。
現時点で中学生な彼では身体が出来上がっておらず、力を100パーセント無傷で使うことは出来ないらしいが、代わりにその他の歴代継承者達の個性の使い方が群を抜いている。
未来で緑谷から聞いた各個性の熟練度を、今の転弧は遥かに凌駕している。
ワンフォーオール自体の力に頼らずも、オールフォーワンと戦えるのでは思えるほどに。
だが、転弧を今回の戦闘に加えることはない。
彼はまだヒーローの資格を持っていない身の上でなにより中学生だ、命がけの戦いに臨ませるにはあまりに早すぎる。
今回の戦いは俺、オールマイト、グラントリノを中心にナイトアイ、イレイザーヘッドなどの個性でサポートできるヒーロー達を後ろに固めて挑む。
もともとオールマイトとイレイザーヘッドのタッグであれば完封できる戦いだ。
個性さえ消してしまえば、オールフォーワンはただの力を待たぬヴィランになり下がる。
死柄木弔の場合は脳無と同じように肉体改造を行い、個性無しでも超人的な身体能力を獲得していた。
しかしそれは『ドクター』の力によってだ。
あの男はすでに捕まり、今もタルタロスに収監されている。
仮にオールフォーワンが個性なしでも超人的な身体能力を有していたとしても、それはオールマイト以上の力を発揮することは出来まい。
同等以下であれば、オールマイトが力技でやつをねじ伏せて終わる。
オールマイトとイレイザーヘッドの二人がいる現場に現れた時点でどんなヴィランだろうと詰みとなるに決まっている。
「・・・・奴さえ捕まえることが出来れば、ひとまず燈矢を狙う者はいなくなる」
まだオールフォーワンに捕まっていない、と思いたいが。
仮に捕まってしまっていたとしても今回の戦いに勝てば救助につなげられる。
まずはオールフォーワンとの決着をつける。
そして、燈矢とも。
「・・・・ここで、全てを終わらせる」
俺が過去に来た意味を、ここで。
◇
決戦の朝。
もうすぐオールフォーワンとの戦闘が始まる。
現在俺たちはあえていつも通りの行動を行っている。
おそらくだが、オールフォーワンは俺たちの位置を把握している可能性がある。
そんな俺たちが自分が現れる場所に付近にいたら不審がられ、その場に現れないだろう。
だから直前まで俺たちは普段通りの行動を行い、奴が現れる直前に他のヒーローたちの個性を使って一気に移動する。
「・・・・お父さん、どこか行くの?」
「む、焦凍か」
玄関で外を見ていると、目を擦りながら焦凍がこちらにやってきていた。
「ああ、少し出てくる。今日は遅くなるから俺を待たずに晩御飯を食べるんだぞ」
「・・・・うん」
そう言って頷くが、まだ何か言いたそうに焦凍は身体をもじもじとさせる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・お父さん、辛いことがあったら僕に言っていいんだよ?」
「・・・・何をいっているんだ?」
「・・・・痛いと涙が出るし、辛いと泣きたくなる。前にテレビで言ってたの。泣くのは痛いことや辛いことを和らげるために流すんだって」
「・・・・ああ」
焦凍の言いたいことがわからず、口を挟むことなく焦凍の言葉を待ち続ける。
「お父さん、目では見えないけど、いつも泣いてる。泣いてるのは辛いことがあったから。だから、僕に教えてほしい。お父さんの辛いことをなんとかしてあげたいから」
「・・・・っ」
焦凍の優しい言葉、それは俺には優しすぎるものだった。
俺は焦凍を抱きしめて感謝を伝える。
「ありがとう。その言葉だけで俺は十分だ」
「・・・・教えてくれないの?」
「・・・・いつか終わりが見えた時に、教える。その時は焦凍に俺の話を聞いてほしい」
「・・・・うん」
焦凍を離し、俺は家を出る。
このまま事務所へ向かうフリをする。
そして途中で瞬間移動系の個性を持つヒーロー達の力を借りて一気に移動する手はずだ。
上手くいけば、今日で全てが終わる。
終わってなお、俺が生きていたのなら今日の約束を果たそう。
そのために、オールフォーワン、やつをここで確実に倒す。
「・・・・燈矢」
お前とも、今日で。
事務所へ向かう途中に見える瀬古杜岳を見る。
あそこは、未来で燈矢が焼け死んだと思っていた場所。
俺がよく訓練に使っていた場所で、燈矢も一人であそこで鍛錬をしていた。
あそこで力を見てほしいと待つ燈矢に俺は行くことをせず、結果、燈矢は力を制御できず自身を燃やした。
「・・・・」
過去に戻ってからあそこには行っていなかった。
だが荼毘となった燈矢がいると知って、何度か訪れたんだ。
だが何もなく、落胆、そして安堵を覚えた。
あそこは俺にとって複雑な場所だった。
「・・・・なんだ」
その場所が燃えているように見えた。
森の中で何かが燃えている。
鍛え上げた視力と経験がそこに何かあるという違和感を覚えさせた。
ほんのわずかに見えた炎の光、それは燈矢が出した炎で起こった山火事の光景が脳裏に蘇らせた。
「・・・・まさか、そこにいるのか。燈矢!!」
気が付けば俺は瀬古杜岳に向けて走り出していた。
全力で向かいながら冷静な部分が俺にオールフォーワンとの戦いがあることを知らせる。
だが、わかってなお俺は自身の足を止めようとはしなかった。
「・・・・っ、燈矢」
走りながらオールマイトと俺のサイドキック達に電話で状況を伝え、オールフォーワンとの戦いに参加できない可能性と周辺住民の避難を伝える。
たとえ俺がいなくとも、オールマイトとイレイザーヘッドがいれば何とでもなるはずだ。
だが、あそこには俺が行かなくてはならない。
「・・・・燈矢!!」
◇
「・・・・貴様は、オールフォーワンではないな」
ナイトアイの予知によって特定した場所に私達は乗り込んでいた。
限られた時間の中で準備し、決行した作戦。
いつも通りの日常を送っていると装わせ、私達はオールフォーワンが現れる場所に一気に乗り込んだ。
私が突入し、中にいる二人を視認した瞬間に違和感を覚えた。
中にいたのは情報通りの小悪党に、そして宿敵であるオールフォーワンだった。
だが目の前に映るオールフォーワンを見た瞬間、過去に感じた強烈なプレッシャーを何も感じなかったのだ。
私が現れたことに気づいた奴は何かをしようとしていたが、イレイザーヘッドの個性によって何も発動できず途惑っていた。
そのまま私は奴に接近し、奴を拘束。
・・・・拘束できてしまった。
あまりにも拍子抜け過ぎる。
この時点で私は確信していた。
「貴様は誰だ!本物のオールフォーワンはどこにいる!!」
「くく!はははははははは!!!あの方のおっしゃっていた通りだ!!」
取り押さえたオールフォーワンのなりをした男は笑う。
そしてそのまま私に向かって口を開いた。
「あの方からの伝言だオールマイト!君たちは未来の力に頼り過ぎた、未来という情報に慣れてしまった君たちは予知で見た未来を絶対とし疑わなかった。だからこんな簡単な罠にひっかかるんだぜ!!」
「っ!!くっそぉぉ!くるぞみんな!!!」
私がそう叫んだ直後、どこからか数十人以上のヴィラン達が姿を現す。
見覚えのある連中ばかり、こいつらはヒーローから逃れた凶悪なヴィラン達だ。
はめられた、ナイトアイの予知を逆に利用して私達をここに誘い込んだんだ!
「・・・・まずい」
迫るヴィランを吹き飛ばしながら私の中に焦燥感が生まれる。
姿が見えないオールフォーワン、奴はどこに行った?
作戦決行前にエンデヴァーからかかってきた電話の内容。
彼の息子が姿を現したかもしれない。
作戦の直前だぞ、あまりにもタイミングが良すぎる。
しかし、彼は止まらず私の返事も待たずにすぐに切ってしまった。
もう、これだけで十分だ。
奴がどこに向かったかなど誰でもわかる。
彼が、危ない!!
「・・・・・くっ!エンデヴァー!!!」
私の叫びが廃工場に響き渡った。