瀬古杜岳の森の中を荒い息を吐きながら走り抜ける。
俺の目には未だに光が見えた。
その光は近づくにつれてはっきりとし、やがてそれは青い炎だとわかった。
それを見て、あそこで待っているのは燈矢だと確信した。
「・・・・燈矢、待っていてくれ。今度こそ俺はお前を、最後まで見るから」
足から炎を噴出させ加速する。
すでに俺の頭の中は燈矢のことでいっぱいでオールフォーワンとの戦いのことなどは消えてしまっていた。
そうして進み、ついに目的の場所に到着する。
そして、そこで待っていた人物が俺の視界に収まる。
「お父さん、来てくれたんだな」
「・・・・燈矢、なのか」
「あの時は来てくれなかったのに、今回は来るんだな。それもあの新しい家族のおかげかよ」
「・・・・」
目の前にいたのは俺の知る燈矢の姿そのままだった。
白髪に、焼け焦げた肌、そして俺と同じ瞳。
その全てが記憶の通りだった。
「こっちに来て!ずっとお前のことを見てたぜお父さん!!ずいぶんと幸せそうに過ごしてたじゃねぇか!!俺にしたこと!焦凍や家族にしたことを忘れて呑気なものだなぁ!!」
「・・・・」
「罪滅ぼしのつもりだったか?だったらとんだ見当違いだ!あんなのは俺じゃない、ただの他人だ!俺を見ろよエンデヴァー!!」
森の中に燈矢の声が響く。
身体から蒼炎を漏らしながら。
「・・・・お前は」
「まぁいいさ!あんたが幸せになればなるほどその幸せを壊せばあんたの顔がより歪むんだからなぁ!さぁ今度こそ一緒に堕ちよう轟炎司!地獄で俺と踊ろうぜぇ!!」
身体中から蒼炎を吐き出し、周囲を飲み込みながら荼毘はそう嗤う。
それを俺はじっと見つめ、言葉の続きを口にする。
「お前は誰だ」
「・・・・」
「貴様は燈矢でも荼毘でもない。下手くそな芝居はやめろ」
燈矢の姿をした相手を睨みつける。
実際に見て、話を聞いた瞬間にわかった。
こんなのが燈矢であるはずがない。
俺の知る荼毘となった燈矢はもっと強烈な感情を俺にぶつけて来た。
だが目の前の男はただ同じ声で同じ言葉を口にするだけ、そこに感情はない。
「・・・・やれやれ、バレちゃったか。騙されてくれていたら楽だったんだけど」
燈矢の声を真似た存在が本性を現す。
相手の身体が突如として歪み、骨格が変形していく。
骨や体が軋む音が聞こえ、まるで人がスクラップにされていっているかのような光景に顔を歪める。
やがて元の身体に戻ったのか音は止み、本来の相手が姿を現す。
そして、想像通りの相手に顔をしかめた。
「・・・・やはり貴様か。オールフォーワン」
「バレてしまったのが残念だよ。やはり強烈な感情を持つ者の演技は僕には向いていないようだ」
「っ、なぜ貴様が
あの燈矢の存在を知っているのは俺以外にいる。
俺が未来の情報を教えたオールマイト達だ。
だがそれは存在だけ、どういった姿だったのか、そしてどういった言動を口にしていたのか知らない。
それは俺の頭の中にあるだけで、奴が知りようがないはずだ。
「むろん、僕の個性の力さ」
そう言った直後、オールフォーワンの姿が再び変形する。
瞬く間に身体が変わり、その大人の身体から、今度は幼少期の頃の燈矢へと姿を変えた。
「個性『トラウマ』。対象者のトラウマとなった人物に変身することが出来る。人限定で、モノや事象にはなれないが見るだけで発動できる。良い個性だろう?変身した人物の個性は真似できないが、僕ならどうとでもなる」
「っ!!それで、俺の記憶の中の燈矢に変身していたのか!!」
変身の種を聞き思わず歯を食いしばる。
どこまで人の気持ちを弄べば気が済むのだこの男は。
「この個性の面白いところはね。対象者のトラウマとなっている記憶を見つけ変身する性質上、相手の記憶を少し見ることが出来るのさ!もちろんトラウマとなった時の記憶だけになるけどね」
「・・・・まさか」
「そう!察しの通り!この燈矢君に変身した時に君の中でトラウマとなっている記憶が僕の中になだれ込んできた!!」
元の姿に戻ったオールフォーワンが笑みを浮かべながらそう告げる。
その言葉を聞き、頭の中が真っ白になりそうになった。
「もともと君のことは怪しいと思ってはいたが、記憶を覗いて確信した。なにせこの世界では起こっていない出来事が君の中にはあった。エンデヴァー、君は未来から来たのだろう?」
「・・・・」
確信している様子のオールフォーワンに内心で顔を歪ませる。
まさか、そんな方法で俺の記憶を覗くとは。
黙る俺を見ながら奴は大げさに手を広げながら口を開く。
「君の記憶を見た感想だが。いや、最高だったよ!!まるで良質な映画を見ているかのようだった!!」
「・・・・黙れ」
「君が息子や妻に行ってきた非道!そして燈矢くんを見捨て荼毘となるまで君は全く気が付かなかった!!ああ、驚いたよ!こんな男がNo.2ヒーローだったなんて!!」
「黙れ!!」
怒りのままに炎を奴に出しそうになり、寸前でなんとか耐える。
耐えろ、やつは煽り、俺の冷静さを奪おうとしている。
奴がここにいるということはオールマイト達の方にはいないのだろう。
作戦がバレていて、奴に利用されてしまったと考えるのが妥当。
この状況は、奴が俺と単独で会うために仕組んだ罠だ。
そんな俺の様子を見て奴は笑う。
「こうして罠にはめられたことに気が付いたかい?察しの通りオールマイト達の前にいる僕は偽物さ。冷静なら気が付けた簡単な仕掛け、だが君は気が付けなかった。僕の言葉で視野が狭まっていたのさ」
「・・・・貴様の言葉でだと?」
「志村転弧から聞いただろう?僕が誰かを狙ってるって、そして現れた荼毘を見て君は狙われてるのは彼だと錯覚してしまった!それを防ぐため、君は僕を一刻も早く捕まえたかっただろう!そして現れたチャンス、君はそれを疑うなんてことは出来なかった!!全て僕の計画通りに動いてくれたよ!」
「……転弧に漏らした言葉はそのためにわざとか」
「当然だろう?まぁこんなことしなくても未来の力に頼りきってしまっていた君たちに疑うという選択肢は見えていなかっただろうけどね」
「・・・・」
全て、奴の掌の上だったということか。
今になってそのことに気づき、掌に力がこもる。
ならば、奴が俺を狙う理由は一つ。
「貴様の狙いは俺の持つ未来の情報か」
「もちろんそれも目的の一つさ。ただほしいのはもう一つあってね、それは君の感情だよ」
「俺の感情だと?」
その言葉に眉を顰める。
だが、それと同時に心当たりがあった。
奴の目的であるワンフォーオールの奪取。それをやり遂げるために必要なもの、それが強烈な意思、感情だ。
「前々から注目していたのさ。君の力への渇望にはね、そして記憶を覗いてさらにほしくなった!子供を家族を歪ませてまで求める頂点、力への欲求!その身を焦がすほどの意思と感情がほしい!!それを奪うための個性を探し、最近ようやく手に入れたのさ!」
「それがこうして俺と二人になりたがった本当の理由か」
「ああそうさ、だが君にとっては朗報さ!僕が過去の記憶と感情を奪えば君の抱いている罪悪感だって消える。そうすれば今の家族たちと心から向き合えるじゃないか!どうだい?悪い話ではないだろう?」
「っ、そんなわけがあるかぁ!!」
この感情も罪悪感も全て俺のものだ。
俺が償わないといけないものだ。
それを貴様に渡してたまるものかぁ!!
「赫灼熱拳 ジェットバーン 貫!!」
過去に戻ってから研鑽を積み、改良した技をやつにぶつける。
侮るなよ、一対一なら容易いと考えたか。
元より俺は貴様を一人で倒す気で日々を過ごしていたのだ!
「いきなりはひどいじゃないか」
「・・・・効いていないのか」
直撃した炎の中から無傷のやつが現れる。
未来の情報から奴に超再生はないはず。いや、俺のトラウマから超再生の存在に気が付いたのか。
「熱吸収、君に会うことを決めているのに何も対策をしていないわけがないじゃないか」
「・・・・何かと思えば熱吸収、そんなものは吸収上限まで叩き決めばいいだけのことだ!!」
炎を纏い相手へと突撃する。
それを見たオールフォーワンは右手をあげるだけだった。
「っ!!」
瞬間、奴の右手から炎と爆風が吹き荒れる。
その衝撃は凄まじく、森の木々となぎ倒していった。
これは吸収した俺の炎を放出したのか。
ただ放出されただけでなく他の個性でさらに威力をあげている。
「当然その対策もしているさ。素直に記憶をくれるとありがたい」
「ほざけ!」
吸収したのを放出する間もない連続攻撃を行う。
炎を両手に宿し、背中から噴出した炎による勢いで一気に加速する。
「バニシングフィスト!!」
圧出した炎を解放し奴にぶつける。
熱吸収、その個性は何度か見たことがある。
今の鍛え上げた俺の炎を吸収できる回数はせいぜい2、3回が限度だろう。
ならば連続攻撃で一気に上限を超えさせる!
「バニシングジェットバーン!乱!!!」
炎を纏った拳を奴にぶつける瞬間に炎を噴出し加速、そしてインパクトの瞬間に逆噴射し攻撃を加えながら腕を反動で引き戻す。
そして再び炎を噴出させ加速。
これを両腕で行い乱打とする!
「燃え尽きろ!!」
「やはりNo.2ヒーロー!素晴らしい乱打だけど、オールマイトと比べたら遅い!」
「っ!?」
奴の身体から凄まじい衝撃と光、そして暴風が吹き荒れる。
衝撃反転、それに光、風の個性の併用か。いやそれだけじゃない!
「ヘルカーテン!!」
俺へと迫る衝撃たちを炎の壁で防ぐ。しかしその壁を突き抜けて奴の腕から飛び出した醜悪な顔を模した物体が俺へと衝突する。
「がっっ!!」
「吸収した炎も返すよ」
吹き飛ばされる俺を追いかけるように個性により強化され蒼炎となった炎が俺へと迫る。
それを咄嗟に手から炎を爆発させ無理やり身体の向きを変える。
そのまま爆豪がしていたように爆発の反動で身体を動かし蒼炎を躱しながら奴の元へ戻る。
「おいおい、しつこいぜ」
「ああそうだ、俺はしつこい!」
何度吹き飛ばされようと、その度にお前の元に戻り攻撃をぶつけよう。
今日ここでお前を倒す、それが今ここにいる俺の使命だ。
炎を奴にぶつけ、それを吸収、防御と切り替えながら耐えられる。
そうして俺の攻撃の隙間に奴の攻撃が炸裂する。
だが俺もそれを読み躱し、その隙に攻撃を叩きこむ。
それは奴の炎対策を貫通しダメージを与えられてはいるが、ダメージ量が足りていない。
このまま削り合いになれば身体に熱が籠り弱体化していく俺の方が不利か。
「動きが少しずつ鈍くなっているよエンデヴァー。君の弱点は知っている」
「貴様こそ、強力な個性の組み合わせを増やし過ぎれば身体に負荷がかかるのは知っている。貴様こそ無理をしているだろう」
「ああ、それについては驚いているよ!まさか僕の攻撃をこうも防げるとは!」
そう言いながら奴は手をかざし個性を使用する。
漆黒に硬質化した爪と竜を模した雷、目では見えない衝撃波。
「ヘルカーテン、ヘルスパイサー!!」
爪と雷竜を五指から出した熱線で切り裂き、見えない衝撃波を壁で防ぐ。
防ぐことは出来る、だがそれだけだ。
奴は俺を殺すのではなく弱らせることを目的にしている。
ゆえにより強力な個性の組み合わせ、奴の身体自身も崩壊させるほどのものは使えない。
いやそもそも再生系の個性がないのであればそれほどの個性の組み合わせは元から無理なのか。
どちらにせよ、か細い勝利を探し出すしかない。
「・・・・僕は君を殺すわけにはいかないってことを理解し、積極的に攻めてきているね。ならばあえてレベルをあげる。エンデヴァー、頼むから死なないでくれよ?」
「安心しろ、死ぬのは貴様だ」
「あははは!君じゃ無理だよ!バネ+膂力増強+押し出し+雷撃+レーザー+透明化」
「っ!!?」
奴の言葉を聞いた瞬間、身体が無意識のうちに上空に上がっていた。
次の瞬間。見えない、しかし今までよりも強力な一撃が迫るのを感じた。
当たればよくて瀕死、オールフォーワンめ、殺す気で動き出したか。
こんなものを地上に向けて放たれれば森どころか周辺の家々まで被害が出る。
オールマイトの後にサイドキックにここで戦闘になる恐れがあることは伝えてある。
今頃大急ぎで避難をしていることだろう。
彼らを信じているが、やつが大規模攻撃を始めた以上、戦場は空にしなければならない。
「赫灼熱拳――――」
「遅い!!」
言い終わる前に奴の言葉と同時に凶悪な攻撃が俺を飲み込もうと迫る。
過去の俺ならこの攻撃はもちろん、数十回前の攻撃の時点ですでに死んでいる。
だが、今の俺ならば。
「赫灼熱拳――――剛翼!!」
瞬間、俺の背中に翼が生える。
炎の翼を展開し、その速度を以て攻撃を躱す。
そしてそのまま地上にいる奴へと急降下した。
「は?」
「バニシング、アッパー!!」
渾身のアッパーを奴に叩き込み、インパクトの瞬間に拳と身体全体から炎を出して奴を上空へと吹き飛ばす。
吹き飛ばした奴を追いかけるため、翼をはためかせて一気に奴に追いつく。
「ヘルブラスト!!」
「っ!?」
放出した炎弾をやつは防ぐ。しかしその隙に俺は奴の懐に飛び込んだ。
ここだ、奴が突然変わった俺の速度に対応しきる前に勝負に出る。
「なんだその速さは!」
「燃え尽きろ!」
奴に組み付き、体中の炎を瞬間的に圧縮する。
新たに技を生み出そうとも、元からある必殺技を鍛え上げようと、変わらずもっとも信頼できる技。
熱吸収などで吸収できる熱量ではないぞ。
再生能力のない貴様はこの技には耐えられん。
「プロミネンス バァァァァァン!!!」
「――――――っ!!」
身体から放出された超高熱が奴を飲み込む。
奴の身体がその熱量に耐えきれず、焦げていくのがわかる。
しかし、それは途中までだった。
「熱耐性×9+熱吸収×2+熱変換+熱遮断、これだけやっても完全には耐えられないか」
「がっ!?」
組み付いていた奴の身体から棘が突き出る。
効いていないと判断したことで、貫かれる前に離れることが出来たが完全には避けきれなかった。
「・・・・プロミネンスを防いだか」
「こっちも驚いたよ。その炎で出来た翼の羽一枚一枚から高圧縮の炎を出して推進力にしているのかな?すばらしいコントロールだ」
「ふん、いくら炎耐性の個性を使おうと炎無効ではない以上耐えられる限度がある。いつまでも攻撃を耐えられると思うなよ」
「は!負け惜しみかい?」
そう言いながら奴は攻撃の手を再開する。
俺のヘルスパイサーに似た高密度のエネルギーが込められた複数の熱線。
それを剛翼を操作しギリギリで躱す。
「ところでトラウマの記憶を見た限り君は精神だけがこちらに来て、肉体はこの過去の世界のものなのだろう」
攻撃をしながら奴は絶えることのない微笑みのまま言葉を発する。
それを聞いて顔をしかめる。
再び奴の口撃が始まったか。
「肉体は過去のもの、その体にあったもともとのエンデヴァーの精神はどこにいったのだろうね?」
「・・・・」
「君がこっちに来た時に押し潰してしまったのかな?本来の自身を殺し成り代わった気分はどうだいエンデヴァー」
「・・・・っ」
的確に弱みをつかれた言葉、それは俺の動きをわずかに鈍らせる。
動揺を奴は見逃さず突かれる。
奴の攻撃をくらい空中を吹き飛び剛翼の推進力でなんとかとどまる。
「ふむ、まるで本当に羽が生えていた者の動きだ。それも未来の力かな?それとも誰か翼をもつお友達に教えてもらったのかい?」
「貴様が知ることはない!」
吸収した炎を放出する気配はない、吸収上限を超えて使えなかったか。
プロミネンスは防がれたが完全にではない。
防がれたがダメージは与えることは出来た。
しかし先ほどのプロミネンスで身体に一気に熱が溜まってしまっている。
打ててあと一発、打ちどころを考えなくてはならない。
・・・・それでもダメならあの技しかない。
「フレイムガーデン!!」
波上の炎を広げ俺たちが浮かんでいる空を覆う。
奴を不利に俺が有利なフィールドを作り出す。
「へぇ」
「ヘルスパイサー!!」
指から放出した高熱線を奴にぶつける。
それを奴は躱そうとした、しかし。
「っ!?」
躱しきれず咄嗟に防御系の個性を使用することで防いだ。
だが、その隙を見逃しはせん!
「バニシングフィスト!!」
炎の拳で奴の防御を砕き奴の顔を殴り飛ばす。
炎は吸収されたが、それでも衝撃を受けた奴は血を吐きながら吹き飛ばされた。
「・・・・陽炎現象のようなものかな。君の技が歪んで距離感が狂う」
そう言って空気を押し出したのか衝撃で炎の波を吹き飛ばす。
しかし飛ばされた炎がすぐに復活し空を地面のように覆う。
「面白いけど無意味だ、それにこれからは技を出す暇も与えない」
そう言った直後、奴の身体から夥しい量の竜があふれ出る。
炎、雷、氷、骨や毒などさまざま個性をドラゴンの形にしたか。
「厄介だな」
剛翼で滑空し迫る竜たちを躱そうと動くが量が多すぎて捌ききれない。
躱せないなら切り刻む。
「ヘルス」「させないと言ったじゃないか」
俺が技を出す前に奴の攻撃が胴体に直撃する、それに怯んだ隙に大量の竜に俺は飲み込まれた。
体中を嚙みつかれ、血やそれぞれの個性による攻撃を受ける。
「っ!!ぐぁっ!!」
竜たちの牙が身体に食らいつき、それぞれの竜に付与された個性が俺の身体を蝕む。
それに耐えながら奴に狙いを定める。
圧縮し溜めた熱を身体に纏い竜たちを溶かす。
それを見た奴は笑いながら口を開く。
「またプロミネンスかい?それは効かないと先ほどわかっただろうに」
「そのセリフは完全に防いでから言ってみるがいい」
とはいえ攻撃によって奴とは距離がある、これでは躱される恐れが強い。
奴もそれがわかっていて余裕の様子。だが、
「赫灼熱拳 火花」
「っ!!?」
俺がそう言った直後、奴の周囲に大爆発が連続して起こる。
フレイムガーデンの効果は陽炎による錯覚で技を躱しにくくするだけではない。
その炎からは火の花が咲き、火紛を飛ばす。
先ほどのは奴の周りに溜まっていた火粉が爆発したのだ。
長年の鍛錬により自分の生み出した炎ならば放出したものも遠隔で少し操れるようになった。
狙い撃ち作った隙、ここに賭ける。
「赫灼熱拳 プロミネンスバーン!!」
俺の最強の技、その威力はたやすく纏わりついていた竜たちを一瞬で焼き消していく。
そして炎はそのまま奴にまで到達した。
「――――っ!!」
炎に飲み込まれた奴が顔をしかめる。
そして一気に身体が焼け焦げていくが、やはり途中で止まり回復していく。
奴が持つ炎耐性系の個性達を抜けなければ奴に致命傷を与えることが出来ない。
だが、俺の中での最強技はこのプロミネンスバーン。
そう最強技はプロミネンスバーン――――だった。
「・・・・」
炎を放出しながら一瞬の迷い。
だがそれもすぐに断ち切る。
この技はプロミネンスバーンを超える技を編み出そうと考えるうちに得た裏技。
俺の個性『ヘルフレイム』、その力は体内で炎を生成しそれを纏い、放出することが出来る。
その生成される炎は俺の身体、正確には体内に宿る個性因子が作りだしている。
そして個性因子が作り出せる炎の火力には限度がある。
理由は個性因子自体の炎への耐性。
その耐性を超えれば因子は自身の炎に耐えきれずそのまま燃え尽きる。
この因子の耐性は人それぞれ、燈矢は身体の炎耐性は俺よりも低い。
だが個性因子自体の炎耐性は俺よりも高い、だから俺よりも火力を上げることが出来た。
個性因子の炎耐性が火力の限界。
だがそれは、因子が燃え尽きることさえ許容するのなら火力自体は今よりも上げることが出来るのだ。
そしてその火力には限界などない。
一発限りの大技、打てば俺の中の因子は燃え尽き、俺は無個性になる。
「・・・・オールフォーワン、貴様をここで逃せば数えきれないほどの人々の未来を阻むだろう」
そうはさせん。
ここで貴様を倒す、それは俺の責務。
たとえ個性を失おうと・・・・ここで貴様を倒せるのなら躊躇う理由などない!!
「っ!?火力が上がっていく?なんだ、何をしているエンデヴァー」
「はぁっっ、あぁ、がぁぁぁぁぁぁ!!!!」
身体から放出する炎の火力が上がる。
その火が増すにつれ、その色は赤から白、そして蒼炎へと変わり、さらに色が変わり続ける。
「ぐぁ!?エンデヴァー!!」
「貴様を今日ここで終わらせる!!」
さらに火力を上げる。
俺の中の個性因子たちが自身の炎に耐えきれず燃えていく。
だが構うものか。
「限界を超えろ」
限界のそのさらに向こうへ。
この校風が大嫌いだった。
だが今は叫ぼう。
心から。
「プルスウルトラ!!!」
「ぐぅっ、僕の身体が焼けていく。炎耐性を超えて」
俺の最後の技が奴の耐性を貫き始める。
終わりだオールフォーワン。
プロミネンスを超える最後の技にして。
全てを燃やす星の最後の炎。
「スーパーノヴァァァァァァァァァァ!!!!」
「っっ―――――!!」
周囲に被害を出さぬよう一点に凝縮された一撃が奴を飲み込む。
その炎は奴の姿をかき消し、燃えカスになった灰すら残さず俺の目から消え失せた。
◇
「あ、はぁ、っ」
放出した炎の先に奴はいない。
プロミネンスバーンをくらっていて奴は脱出できていない、確実にくらった。
「っ、身体が」
奴の攻撃によって重症になった身体、そして今もなお燃え続ける個性因子。
それが俺の体力と気力を奪っていく。
剛翼も維持できなくなり、空から地面へと落下する。
「ぐぅ!」
地面に接触する直前に最後の力で炎を噴出し衝撃を和らげる。
そのまま地面を転がり木にぶつかって止まる。
「はぁ、はぁ、オールマイト達は」
もはや通信機器を触ることすらできない。
身体が燃えるように熱い、いや実際に燃えているか。
このままでは無個性になるどころか命すら落としそうだ。
なんとか連絡をし手当をしなければ。
「・・・・驚いたよ」
通信機器を探る俺の耳に聞きたくない男の声が届いた。
歯を食いしばりながらそちらに向く。
そこには絶望が立っていた。
「・・・・あれを耐えたのか」
「ギリギリだったよ。隠していた君対策の個性も含めて全て貫かれた」
「・・・・」
ボロボロとなった奴の姿を見る。
体中が焼け焦げ、左腕と右足が焼失している。
超再生はなくとも回復の個性があるのか少しずつ回復しているように見えるがその速度は牛歩。
まさに瀕死の状態、だがそれでも奴は生きて俺の前に立っている。
「持っている個性を総動員してギリギリしのぎ切った。発動する個性の選別、守るべき部位の取捨選択、一手でも間違えれば死んでいた」
「・・・・」
「誇るといいNo.2、君はNo.1を超えていた」
そう言いながら奴はゆっくりと俺のところまでやってくる。
こちらに近づくオールフォーワンに抵抗をしたいが身体が言うことを聞いてくれない。
そして奴の手が俺へと迫る。
「ぐぁ!」
「君の未来の記憶と感情をもらう」
顔を掴まれ待ち上げられる。
ぐっ、身体が動かん。出来るのはせいぜい睨みつけるぐらい。
奴の掴んだ腕から何かが流れ込んでくるのがわかる。
その謎の力は俺の頭へと纏わりついた。
「・・・・なるほどね、これが未来の記憶か」
「っ!俺の記憶を」
「まずは見ただけさ、奪うのは少し時間がかかるんだ。はぁ、一気に記憶を見ると頭が痛いな、今の僕の身体ではこれだけでもダメージがある」
「や、めろ」
震える身体を動かして手に炎を纏わせる。
しかしそれを見たオールフォーワンが俺の腕に漆黒の棒を突き刺した。
「がっ!?」
「抵抗しないでくれ。何度も言うが記憶を奪われるのは君にとっては良いことだろう。トラウマとなった記憶がなくなるのだから」
「っ、そ、れは、俺の罪だ。忘れて楽になるなど許されない。全てをかけて償うと決めた消してはならない過去だ!!」
突きさされた棒から腕を離し奴の腕を掴む。
身体が焼けるように熱い、痛みと震えも止まらない。だがそれでも奪われるわけにはいかない。
炎を絞り出して腕に纏う。
それを奴はじっと見つめていた。
「・・・・記憶の前に、まずは」
そう言った直後、俺の中から炎が消える。
・・・・個性を取られた。
感じた感覚にそう確信する。
「・・・・俺の個性を奪ったか」
「ああ、抵抗されるのも面倒だからね。それにこの個性で君の息子たちを焼くのも一興だろう?」
そう言って奴は微笑む。
俺を怒らせる言葉を言ったつもりだろう。
だが、貴様は馬鹿なことをした。
今俺の個性を奪うことがどういうことなのか、それを身をもって味わえ。
「ふ、それは無理だな」
「・・・・なにを言、っっがぁぁぁぁ!!?」
俺の言葉に眉を顰めた奴の言葉は続かなかった。
なぜなら奴の身体が突如として燃え上がったからだ。
スーパーノヴァにより燃え尽きようとしていた俺の個性因子。
それを取り込めばどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
貴様は自ら火種を取り込んだのだ。
◇
「っっっ、何が起こった!?」
突如として僕の身体を襲った異変。
エンデヴァーの個性を取り込んだ直後、突然内側から焼かれるような強烈な痛みに襲われた。
いや実際に燃えている、内側から炎が漏れ、身体が発火している。
「ぐぅ!!」
あまりの痛みにエンデヴァーを掴んでいた手を離し後ずさる。
これは、奪った個性因子が燃えている。
なるほど、エンデヴァーが放った最後の技、あれはこのリスクを背負って発動できるものだったのか。
くそ、それを知らずに僕が奪ってしまった!
「っっ!?まずい、僕の個性達が」
僕の奪ってきた個性達に襲い掛かる異変に焦燥感を覚える。
燃えていたエンデヴァーの個性因子、その炎は僕の中にある他の因子にも燃え移り凄まじい勢いで炎の範囲を広げている。
これは、さっき見たアメリカNo.1ヒーロー、スターアンドストライプとの戦闘時よりも悪質だ。
状況を見るにあれは奪った個性『ニューオーダー』が内側で暴れていた結果だ。
きっとそういうルールを与えていたのだろう。
暴れたあれの個性は溜めていた他の個性達を蹂躙していたようだが、それはいずれ静まったはずだ。
だが、今の状況は違う!
燃え広がっていく火は他の個性達に燃え移り続け、最後の一つを燃やしきるまで止まらない。
このままでは僕の個性は全て消えてしまう。
「っぐぅぅ!エンデヴァー!」
個性を、奴自身のを含め燃えている個性を全てエンデヴァーに与えなくては。
これだけの個性を与えれば、この男の身体は持たない。
だから死ぬ前に一度に全てを与えるしかない。
「エンデ、ぐぁ!!?」
奴の方へ向いた瞬間、横頬に衝撃が走る。
片足では身体を支えられず倒れそうになるのを個性で支える。
その衝撃の先を見れば瀕死のはずのエンデヴァ―が立ち上がり拳を振り切っていた。
「ふぅ、はぁ、っ貴様は、ここで倒す」
「っ死んでもおかしくない重傷に加え無個性、そんな君に何が出来る!」
「それが、ここで足を止める理由になどなるかぁ!!」
迫るエンデヴァーを個性で拘束しようと手をかざすが、内側から燃える炎がそれを阻む。
っ、炎のせいで個性の発動が。
「あ゛あ゛!!!」
「がふっ」
二度目の拳が僕の顔面を捕らえる。
なんだこの威力は、今目の前にいるのは瀕死の男だぞ。
なんなんだこれは、なんなんだこいつは!!!
「っジェ、ットバーン!」
技名を叫びながら振り抜かれる拳、当然炎は伴っていない。
だが、身体に届く衝撃は実際に放たれた技よりも重かった。
「バニ、シング、フィストォ!!」
「っ、調子にのるなよ」
殴られながら個性を発動し奴の身体を貫く。
攻撃を受けた奴の口からは血が漏れ、白目をむく。
だが、それでもこの男は歯を食いしばり身体をひねる。
まずい、これ以上はこの男が死ぬ、だが攻撃をうけるわけには。
防御の個性を発動しようとするが、その瞬間使おうとした個性が燃える。
「っ!?」
「オールフォーワン!」
次の個性を選択する一瞬の間、その隙に奴の拳が目の前までやってきていた。
今にも命が消えそうな男の拳が、その時はなぜか大きく見えた。
「っデ、トロイト・・・・スマァァァァァァシュ!!」
その技名と共に放たれた拳、その瞬間やつの姿がオールマイトと被る。
今この男が何を思い浮かべながら殴っているのか身体に教えられた。
オールマイトの真似事か。それを受けて倒れるわけには。
吹き飛ばされそうになる身体を背中から鋲突を出して耐える。
そして目の前の瀕死の男に手を伸ばした。
「・・・・本当に危なかったよ」
追い詰められたヒーローとは本当に恐ろしい。
記憶を覗いて得た教訓を今まさに体感した。
触れたエンデヴァーの身体に火種となっている個性、およそ百以上のものを一気に流し込む。
「がっ」
「・・・・へぇ、弾け飛ぶと思っていたけど」
一気に取り込むことになった大量の個性因子たち、いくら燃えて小さくなっているとはいえ耐えるとは思わなかった。
燃えて消えそうな個性達はまともに使用することは出来ないだろう、時間をかけて揃えた個性が消えたのは口惜しいがここは割り切ろう。
燃えていた個性が消えたことで軽くなった身体を動かす。
将来の布石のために殺すつもりはなかったけど、記憶と感情を奪った後でここで殺しておいたほうがいい。
その確信させるほどの気迫があった。
「死んで今度こそ息子と再会するといい」
僕の変装じゃない本当の息子に会えるんだ、君も本望だろう?
そう思いながら手を伸ばす途中で背後から熱気を感じた。
「っ」
咄嗟に個性で背後に防御を張ればその直後に蒼炎が視界を満たした。
・・・・これは。
「お父さんから、離れろよ!!!」
「・・・・轟燈矢か」
僕を睨みつける子供、エンデヴァーの息子である轟燈矢がそこにいた。
ここに誰も来られないように近くで僕の部下たちが暴れていたはずだったけど、無視してきたのかな?
いや一緒にいたであろう志村転弧に任せて来たか。
彼は死にかけのエンデヴァーを見て顔を青ざめさせ、その後に憎しみを宿した瞳で僕を見据える。
「離せって、言ってるだろうが!!!」
「悪いけど今の君に興味はないんだ」
迫る蒼炎にエンデヴァーを持ち上げて盾にする。
それを見た彼は慌てて攻撃を中止した。
そしてその隙を狙い鋲突を伸ばして彼の身体に突き刺す。
「ぐっ!?」
「君の力はサポートアイテムあってのものだろう」
身体につけられていた彼のサポートアイテムを砕く。
エンデヴァーの記憶からその位置や効果は把握済み。
轟燈矢はサポートアイテムがなければ自身の炎に焼かれてしまう。
これで彼はもう個性をまともに使えない。
「ぁが、っ、と、燈矢、逃げろ、逃げてくれ」
「へぇ、まだ意識があるのか」
大量の個性投与に加えて因子が燃えることで身体も焼かれている。
どうして生きているのか不思議だった。
「嫌だ、いやだよ!!お父さん見捨てて逃げるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
身を焼くのも気にせず彼はその身に炎を纏い飛ばしてくる。
そしてその後に続くように氷もぶつけてきた。
この氷もまたサポートアイテムの力が大きい。
アイテム頼りの力は脆い。
迫る炎と氷を吹き飛ばし、死角から竜化させた複合個性を噛みつかせる。
冷静さも失って視野も狭くなっている、命をかけた実戦経験のない彼にこの場は早すぎたね。
電気と衝撃を複合させた竜の牙は彼のサポートアイテムを容易く砕く。
そのまま彼に食らいついた個性は木々を薙ぎ倒しながら彼を飲み込んだ。
「と、燈矢」
「安心しなよ、彼は殺さない。もしかしたら利用できるかもしれないからね」
今のでエンデヴァーから記憶と感情を奪えるほどの余裕はなくなった。
残念だが、回復のためすぐにここを離れなくては。
それに、ここでエンデヴァーを彼の目の前で殺せばどうなるだろう。
記憶にある荼毘となった彼は強烈な感情を宿していた。
なら目の前にいる轟燈矢もまた同じ量の感情を抱くことができるはずだ。
今度はそれを奪い僕のものにしよう。
「エンデヴァー、君の死は僕からオールマイト達に伝えておくよ」
微笑みながら今度こそエンデヴァーに死を送る。
個性を発動させる直前、またしても炎が迫るのを感じた。
「君に似てしつこいね」
ため息を吐きながら炎を弾き飛ばすために個性を振るう。
「うっ!?」
しかし、予想以上の威力に力が足りず僕が吹き飛ばされてしまった。
どういうことだ?威力が桁違いに上がっている。
「・・・・燈矢、なぜ、お前はその技を」
エンデヴァーからの驚愕の声を僕の耳が拾う。
その声を聞いて彼の方を向く。
僕が出した竜を吹き飛ばして彼が姿を現す。
「・・・・思い出せないけど、誰かが教えてくれたんだ。この技を、そして母さんの個性の引き出し方も」
「・・・・どういうことかな?」
その状態は知っていた。
エンデヴァーの記憶にその姿はあった。
だがその技は未来の技、それも彼の弟の轟焦凍の技のはず。
・・・・いや、記憶を見る限り、彼も使ってはいた。
「・・・・まさか」
ある可能性を考えながら、目の前にいる轟燈矢を見据える。
その体の中心からは二つの色の炎が交わり燃えていた。
「赫灼熱拳 燐。これでお前を倒してお父さんを助ける!」
そう言って怯えも恐れもなく僕を睨む。
彼の様子を見て予想を確信に変える。
・・・・いいだろう。僕の予想通りだとするのなら、ねじ伏せて全てを僕のものにするだけだ。