エンデヴァー逆行物   作:デッテユー

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十三話

『・・・・ここは?』

 

暗い。

闇の中にいるかのようだ。

 

それに身体も妙だ。

感触、感覚が何もない、まるで体そのものがないかのような。

 

『・・・・浮遊感がある、上にいけるのか』

 

闇の中では自分の身体がどうなっているのかわからない。

ただ手をかくイメージをすれば上に移動することが出来た。

 

上に浮かび続けて少しすると、不意に光が俺を満たす。

それに一瞬だけ目をくらませるが、すぐにその光が空を照らす太陽だとわかる。

 

『・・・・身体がない、どうなっているのだ』

 

光によって視界を得た俺は自身の状態を確認する。

すると視界に映るはずの腕や足や胴体、どの部位も映ることがなかった。

 

『・・・・魂だけの状態とでもいうのか』

 

状況を分析しあり得る可能性を口にする。

目もないのに視界があるし、言葉も出るのは変だが。

 

魂だけの状態、それが表すことはつまり。

 

『・・・・死んだのか、俺は』

 

今の俺の状況がそう告げている。

俺が覚えているのはオールフォーワンとの決戦。

 

最後、奴の個性全てを使った攻撃に対し俺はうちに宿る個性の力と燈矢の力を借りて奴と戦った。

そして、オールフォーワンの攻撃を打ち破り、奴の姿が消えたのを確認して意識を落とした。

 

・・・・おそらく俺はあそこでそのまま命を落としたのだろう。

 

怪我の具合から死んだことに違和感など覚えない、むしろ当然の結果だとも思う。

 

ただ気がかりなのは、燈矢たちだ。

 

あの後、燈矢は他の者達はどうなった。

あれからどれくらいの時が経った。

 

そもそもここはどこだ。

 

一度に様々な疑問が浮かび上がる。

ひとまずすぐに確認できそうな現在地を探るために周りを見る。

 

そしてどこにいるかはすぐにわかった。

 

『墓地か』

 

周りを見れば一目瞭然、墓石と供えられた花々があるのだから。

そして俺が浮かび上がった場所にある墓、そこに見覚えのある苗字が描かれていた。

 

『・・・・やはり俺の墓だったか』

 

轟。

 

墓石に書かれていた苗字を見て、本当に俺が死んだことを知ることになる。

先ほどの暗闇は地面、いや棺の中か。

 

骨となった俺の身体から魂が抜けだしこうして俺となっているのかもしれない。

 

・・・・これからどうするべきだ。

 

死んだ俺に何が出来る、幽霊状態の俺の姿が他人に見えるとは思えないし触ることもできないだろう。

 

だがここでじっとしているわけにもいかん、ひとまず燈矢たちの無事だけでも確認したい。

 

そう思い墓地から離れようと足は、ないが踵を返そうとしたところで誰かがこちらにやってきていることに気が付いた。

 

『あれは』

 

やってくる学生服を着た人物の姿が見え、俺の動きが止まる。

あれは、いやまさか・・・・そんなはずは。

 

『・・・・焦凍』

 

まだ小学生の焦凍、ではない。

俺のもっともよく知る高校生になった焦凍だった。

 

一瞬、俺が死んでから長い時が経ってしまい、焦凍が成長したのかと思った。

だが、顔に残る火傷の痕がそれを否定する。

 

なによりその表情や雰囲気が、俺が本来いた世界の焦凍だと気づかせた。

 

『・・・・』

 

焦凍は俺に気づくことなく通り過ぎる、

 

・・・・やはり俺のことは見えていないか。

 

もしかしたらと思ったが。

俺の前まで来た焦凍は俺の墓石のところで足を止める。

 

花や線香などはない。

俺の墓参りに来たのであっているのか?

 

・・・・焦凍がここにいるということは、ここは本来の世界。

俺は戻ってきたのか。

 

最初に過去に戻った時に校長が言っていた。

 

身体自体は過去の俺のもの、だが精神だけが未来から来たと。

つまりこの今、魂だけの状態の俺が過去に行っていて、肉体自体はこの墓の下にあった。

 

そしてオールフォーワンとの決戦でまた死に、ここに魂が戻ってきたということなのだろうか。

 

「・・・・くそ親父」

 

『っ!?』

 

俺の墓の前に立ち、手を合わせたりもせずにただ俺の名を呼ぶ焦凍。

ここが本来の世界ならば、あれから一体どうなったのだろうか。

 

死柄木弔やオールフォーワンとの戦いは。

被害や状況は。

 

こうして焦凍が生きていることから戦いは終わったようではあるが。

 

そんな俺の疑問を焦凍がたまたま答えてくれた。

 

「・・・・なんであんただけが死んでんだよ」

 

俺だけ、か。

・・・・いや、待て。それはつまり。

 

「緑谷や爆豪も、オールマイトも生きてる。燈矢兄もギリギリ俺の氷が間に合って自爆を止められた・・・・あんただけだ、あんただけが死んだんだぞ!俺らに罪滅ぼしするんじゃなかったのかよクソ親父!!」

 

『・・・・』

 

焦凍の言葉を聞いて放心状態になる。

燈矢が生きている?いやならば、燈矢の中にいたのはなぜだ。

 

俺が混乱している間も焦凍は俺の墓の前で叫び続ける。

 

「燈矢兄はずっと謝ってる、俺とお前にだ。母さんも冬姉も、夏兄だってずっと暗い顔してる!なぁ、こんな終わり方でいいのかよ!なぁ!!」

 

『・・・・』

 

「なんとか言えよ!くそ親父!!」

 

・・・・。

 

焦凍の言葉に俺は何を言えばいい。

ただただ俯くことしかできなかった。

 

見れば、焦凍の頬には涙が伝っていた。

 

それを見て、吐き出すように言葉を焦凍に向ける。

 

『・・・・すまない、焦凍。本当に』

 

今の俺の声が焦凍に聞こえるとは思えない。

これはただの自己満足に過ぎん。

 

死んだ俺は生きている焦凍達に出来ることなど何も・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?親父!?」

 

 

『・・・・っっ!!?聞こえているのか焦凍!!』

 

「なっ、は?親父の声が聞こえる、なんだ、ついに俺もおかしくなったか?」

 

『おかしくなっていない!俺はここにいるぞ!焦凍ぉぉぉぉぉ!!』

 

声を張りあげる。

そうすると俺のいる場所を焦凍がじっと睨みつけ始めた。

 

「・・・・どうなってんだ?そこにいるのか、親父」

 

『ああ、どうやら魂だけの状態となっているようだが』

 

「・・・・詳しく説明しろ」

 

『ああ、俺も聞きたいことばかりだ』

 

そこから俺と焦凍は互いの今の現状を説明する。

と言っても俺の言えることが気が付いたら棺桶の中から魂として外に出て来ただけ。

 

・・・・過去に行ったことを除けばだが。

 

ひとまずその説明はせず、焦凍から俺が死んでからのことを聞く。

 

どうやらすでに戦いは終わり復興作業中らしい。

オールフォーワンはオールマイト、爆豪、みんなの力で倒し、死柄木弔は緑谷が倒したらしい。

 

そして、燈矢は自爆する寸前に冷に冬美、夏雄たちがやってきて冷やして止めようとしていたらしい。

だが間に合わず爆発寸前のタイミングで焦凍の技が間に合い止められた。

 

・・・・俺にその記憶はない。

 

俺が覚えているのは燈矢を抱えて飛び立とうとした時だけ。

どうやら死んだことでその瞬間から少し前までの記憶が抜け落ちていたらしい。

 

そうして燈矢は生き残った。だが瀕死なことは変わらず、ゆっくりと死に向かっているという。

 

「・・・・燈矢兄、最初は意識があったけど、今は寝たきりだ。でも、穏やかな表情をしてる」

 

『・・・・そうか、とにかく全員生き残ってくれていてよかった』

 

その説明を聞いて、燈矢の状況をなんとなく察する。

おそらく俺とは違い半端な形で過去に行っていたのではないだろうか。

 

例えば意識がある時はこちらで、意識がない時は過去に、という感じで過去と未来と行き来していたのでは。

 

「とりあえず、先生たちに相談してみるか。あんたの声が聞こえるのは俺だけなのかも知りたいし、生き返るのは無理でも何か別の入れ物に魂をいれるなりなんなりして」

 

今後のことを考える焦凍に俺も話をしようとしたタイミングで、俺に異変を感じ取った。

何か、引っ張られるような感覚だ。

 

俺の魂と何かが、線のようなもので繋がっていて引っ張られるような。

なんだ、まさか成仏?それとも地獄に堕ちようとしているのか?

 

だが上にも下にも引っ張られているわけでない。まるでワープしようとしているかのような感覚。

その感覚を得て、俺に直感が走った。

 

『・・・・過去に戻ろうとしているのか』

 

「過去?何の話だ?」

 

『・・・・』

 

まだ引っ張る力はそこまで強くない。

説明する時間があるか。

 

『信じられない話だろうが、俺は今の今まで過去の世界にいた』

 

「・・・・過去の世界だと?」

 

『最初は本当に過去だったが、今となってはパラレルワールドと言った方が正しいか』

 

「・・・・説明しろ」

 

焦凍の言葉に頷き、俺は自身の今までをなるべく簡潔に説明する。

俺の説明に焦凍は顔をしかめ、理解できない顔をしていた。

 

まぁ当然だろう、俺でも実体験でなければ信じられん。

 

理解できないと思いながらも説明する。

過去に戻った俺が償いになると考え、一から家族と過ごして俺の精一杯を以て接してきたことを。

 

燈矢は荼毘にならず雄英高校に通っていること、そしてオールフォーワンとの戦い。

そこで意識を落として今に至ることを。

 

全てを聞いた焦凍は頭を抱えていた。

 

「・・・・なにしてんだあんた」

 

『・・・・』

 

項垂れる焦凍に対し俺は気まずくなり黙る。

しかしずっと黙っているわけにもいかず、俺は今まさに過去に戻されようとしていることを焦凍に伝える。

 

それを聞いた焦凍は予想と違い慌てる様子もなく俺の話を聞いた。

 

『あまり時間がないようだ、だが待っていてくれ。必ずここに戻ってくる』

 

こうして戻ることが出来たのだ、ならばもう一度ここに戻ってくることだってできるはずだ。

今度は魂だけでなく肉体も一緒に。

 

「・・・・仮に戻れたとして、そっちにいる俺達を捨てることがあんたに出来るのか?」

 

『・・・・』

 

焦凍の質問に俺が黙る。

捨てる、なんてことは・・・・できん。だが俺が償うべきなのはこの世界にいる焦凍たちなのだ。

 

黙る俺に焦凍はため息を吐く。

 

「正直半信半疑だし文句もたくさんあるが、全部棚上げして言いたいことが二つある」

 

『・・・・なんだ』

 

「罪滅ぼしでやり直したってのはもういい。だが俺達とそっちの世界にいる俺たちは別人だ、償いのために俺らと重ねるなんてことはやめろよ。どう考えてもダメだろ、ちゃんとそっちの家族を見ろ」

 

『・・・・そうだな、その通りだ』

 

思っていたことを改めて焦凍に指摘され頷く。

俺の言葉を聞いた焦凍は次の言葉を口にする。

 

「それで二つ目だが、今のあんたがあっちの家族を捨てて戻ってくるのは無理だろ。だからこっちの世界とあっちの世界を繋げる方法を探すべきだ」

 

『・・・・つなげる方法か』

 

確かに二つの世界と自由に行き来することが出来るのならそれに越したことはない。

向こうの家族を捨てることなく俺は罪の償いをすることが出来る。

 

・・・・どちらの家族にも説明が必要になるが。

 

「それと聞いた感じ、こっちとそっちじゃ時間の流れが違う。こっちはあんたが死んでからまだ一か月も経ってねぇ。なのにそっちじゃもう何十年も経ってんだろ。こっちの方が時間の流れが遅いんだ、これをなんとかしねぇと」

 

『・・・・』

 

確かに、焦凍の言う通り時間の流れがおかしい。

 

まるで、過去の世界がこっちの世界の時間に追いつこうとしているかのようだ。

 

だがこっちの世界の追いついたとして、時間の流れが同じにならなかった場合が厄介だ。

もしあちらの世界が早いままなら、こっちの一か月はあっちの十年以上に相当する。

 

出来る限り急いで調べなくてはな。

 

『おそらくだが、燈矢が鍵になる。俺がいた世界の燈矢の中に荼毘となった燈矢が確かにいた。きっと世界が繋がっているんだ』

 

「・・・・わかった。燈矢兄に聞いてみる」

 

焦凍が頷いたのを確認した瞬間、今までとは違う強烈な引力が俺を襲う。

これは、もう時間か。

 

そのことを焦凍に伝え、最後に言いたいことを言っておく。

 

『・・・・焦凍、こうしてまた会えて嬉しかった。正直、もう二度と会えないと思っていた』

 

「・・・・こっちのセリフだ、くそ親父」

 

俯きながらそう答える焦凍、そして見えないはずの俺を見ながら小さく言葉を口にする。

 

「・・・・またな」

 

『……っ、ああ! また会おう。必ず!』

 

身体がなくてよかった、おかげで泣いてることがバレない。

そう安心していると、焦凍がため息を吐いた。

 

「泣いてんじゃねぇよ、くそ親父」

 

その言葉を聞きながら、俺は引力に引かれ、そのまま意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ここは、戻ってきたのか?」

 

再び目を覚まし周りを見る。

 

しかしそこに広がる景色は見慣れた我が家の天井でも、病室の天井でもなかった。

 

視界にはなにもなかった、ただただ真っ白な世界が広がっているだけ。

どういうことだ?まさか過去に戻ったのではなくあの世に来たということなのか?

 

その考えが浮かび青ざめる。

先ほど焦凍と再会の約束をし別れたばかりだというのに、これはまずいぞ。

 

『精神世界だ、お前の中のな』

 

「っ!?」

 

『ようやく戻ってきたか』

 

妙に聞き慣れた声が傍で届きそちらを見る。

すると、そこには一人の男がいた。

 

「・・・・俺、なのか?」

 

『・・・・』

 

そこにいたのはもう一人の俺だった。

だがその姿は若い、二十代前半の俺だった。

 

『感謝するんだな、俺が繋がりをたどってお前をこっちに戻してやった』

 

その言葉にこいつが俺をこちら側に戻したことを知る。

この俺は、まさか。

 

「お前は、この世界にいた本来の俺なのか?」

 

『・・・・』

 

答えない、それが俺の疑問が正解だということを示す。

俺自身の精神世界だとこの男は言った、つまり。

 

「消えてなどなかったのだな。お前は俺がこの世界に来てからもずっとここにいたのか」

 

『・・・・ああ、お前の目を通して見ていたぞ』

 

もう一人の俺の言葉に安堵を得る。そうか、よかった。てっきり俺は。

だがそうなると別の疑問が生まれる。

 

「なぜ俺をここに戻した。本来この世界にいるべきなのはお前だろう」

 

『・・・・今更の話だ。ずっとお前の中で見てきた、家族をそしてお前自身を』

 

そう言って俺は語る。

自身の中にあった野望、それは子供に託すことでしか出来ないものと考えていたと。

だが。

 

『・・・・こんな道があったとは思わなかった。お前は強くなった、俺が限界だと決めた先を行き、オールマイトとの、超えられない崖すらも足をかけた。俺はお前の行く道をまだ見ていたい、それがお前を戻した理由だ』

 

「・・・・そうか」

 

その理由を聞き頷く。

俺の行く道か、だがもう俺には個性が。

 

『わかったらさっさと起きろ、家族がお前を待っているぞ』

 

「・・・・わかった。ひとまずはそれでいい」

 

精神の中にいるのなら話はいつでもできるはずだ。

話を聞く限り、俺は眠っている状態。おそらくオールフォーワンとの戦いからずっとだろう。

 

きっとみんなが心配している。早く起きなくては。

 

 

 

 

 

 

「・・・・今度こそ、起きたか」

 

見慣れた家の天井、ではない病院の天井だ。

病院のベッドに俺は寝ていたらしい。

 

身体を起こす、倦怠感と体中から鈍い痛みが襲う。

痛む、だが思っていたほどではない。

 

怪我がある程度治っている、あれからどれくらい時間がたった。

 

「・・・・誰か、いないのか?」

 

焦点が定まりきらない視界で、周囲を見回す。

すると俺が寝ているベッドの端で女性が寝ていることに気が付いた。

 

「冬美?寝ているのか」

 

「・・・・んん、寝ちゃってた」

 

俺の声に反応した彼女が目を覚ます。

そして身体を起こす俺と目が合った。

 

「「「・・・・」」」

 

少しの間、無言の冬美と目が合う。

そしてゆっくりと彼女の瞳から涙が零れ落ち、俺に抱き着いてきた。

 

「っ!!?」

 

「うわぁぁぁぁん!!お父さんが起きたよ――!!!」

 

痛む身体で抱き着く彼女を受け止める。

事情を聴きたいが、泣く彼女を前にそんなことは言えない。

 

大粒の涙で顔を濡らす彼女の頭を撫でる。

冬美の声で近くにいた看護師が気づいたのか俺が起きているのを見て慌ててどこかに走っていった。

 

「お父さん二カ月も寝てたんだよ!?私もお母さんもみんなすっごく心配してたんだから!」

 

「・・・・そんなに寝ていたのか」

 

いや、俺は一瞬とはいえ元の世界にいた。

あっちとこっちでは時間の流れが違うのだ、それくらいは経っていても不思議ではないか。

 

「他のみんなはどうしてる」

 

「ちょうどもうすぐ来ると思う、みんなで交代しながらお父さんを見てたから」

 

そう冬美が言った直後、複数の者達が走ってくる音が廊下に響く。

そして俺が休んでいた病室の扉が勢いよく開いた。

 

「「「お父さん!?」」」

 

勢いよく開かれた扉からは燈矢、夏雄、焦凍が顔を覗かせる。

誰もが俺の顔を見た瞬間、目に涙が浮かんだ。

 

全員が泣きながら俺に飛びつこうとした時、冬美がストップをかけた。

 

「ちょっとお父さん怪我人!!抱き着いたら傷が開いちゃうでしょ!!」

 

「「いやお前が言うなよ!」」

 

現在進行形で俺に抱き着いたままの冬美に燈矢と夏雄からツッコミが入る。

2人と冬美が口論するのを聞きながら燈矢の状態を確認する。

 

どうやら怪我はなさそうだ。

 

安心から息を吐いていると冷が部屋に入ってきた。

そして俺を見てみなと同じように涙を浮かべた後、騒ぐ三人とそれを見てオロオロとしている焦凍を見てため息を吐いた。

 

そして騒ぐ三人を叱り大人しくさせた後、俺に向かっていつもの微笑みを浮かべた。

 

「・・・・目が覚めてよかったわ、本当に心配したんだから」

 

「すまない・・・・心配をかけたようだな」

 

「・・・・っ、本当よ」

 

そう言って冷は手で顔を覆いながら涙をこぼす。

しばらく静寂が場を支配し、やがて医者と看護師がやってくる。

 

そのまま診察に移り、身体の状態を説明される。

 

俺が病院に運ばれた時、死んでもおかしくないほどの重傷だったそうだ。

だが徐々に俺の身体は再生を続けていたらしく、そのおかげで命を取り留めたという。

 

どうやら戦いが終わった後も個性達に命を救われたらしい。

 

・・・・本当に頭が上がらない。

 

そして、個性についてだが俺は無個性になっていると思っていたがそうではないようだ。

 

「・・・・俺に個性がまだ」

 

意識を取り戻してから感じてはいた。

うちに宿る炎を、個性を。

 

手に意識を落とせば炎が現れて纏うことが出来た。

だが、その炎は『ヘルフレイム』が作るオレンジの炎でない。

 

「・・・・色が変わっていく」

 

手を覆う炎が一定時間ごとに様々な色に変化していくのだ。

火力による色の変化ではない、その色は赤から黄色、緑、青、ピンクと様々な色となっている。

この変化を俺が眠っている間に病院が調べていたらしく、説明してもらった。

 

俺の最後の技であるスーパーノヴァによって個性因子は燃え尽きた。

それは『ヘルフレイム』だけでなくオールフォーワンによって与えられた個性達も全てだ。

 

だが、医者たちの話を聞くに燃えカスとなって残った因子たちがそれぞれで集まり、一つの個性を作り上げたという。

 

実際にその様子を見ていたわけでないから推測とのことだが、この炎からは確かに他の個性の意志のようなものを感じた。

 

「・・・・ありがとう」

 

様々な色に変化する炎に礼を告げる。

まだこの炎の能力についてはわからないが、どうやら彼ら、彼女達はヒーローとしてのエンデヴァーを救おうとしてくれたようだ。

 

医者の話を聞き終えた俺は再び家族との話に戻る。

心配そうに俺を見つめる燈矢に気になっていた質問をする。

 

オールフォーワンとの戦いのその後。

 

うちに宿るもう一人の燈矢について。

 

俺の質問に燈矢は前者については答えてくれた。

あの後、オールマイト達がやってきて、周辺のヴィランを捕まえたこと。

 

・・・・オールフォーワンの死体は見つかっていないらしい。

 

そして俺は病院に運ばれ、そのまま今の今まで寝ていた。

そこまで聞き前者のあれからのことの大体を理解した。

 

だが後者については。

 

「もう一人の俺?何言ってんだお父さん」

 

「・・・・いや、すまん何でもないんだ」

 

首を傾げる燈矢に俺はそれ以上の言葉をやめる。

俺はあの時、燈矢の中に荼毘となった燈矢を感じた。

 

いるはずだ、だが今の燈矢はそれを認識できていないのか。

 

「・・・・お父さん、変なこと聞かれたついでに俺も変なこと聞くんだけど」

 

何かを考えるように顎を手で押さえる燈矢が口を開く。

そして、その名を口にした。

 

「・・・・荼毘って知ってる?なんかお父さんに聞かれた瞬間に、その言葉が頭に浮かんでさ」

 

首を傾げながらそう口にする燈矢。

それを聞き、俺は燈矢に、いや家族全員に本当のことを話す覚悟を決める。

 

「・・・・ああ、知っている。そのことでみんなに聞いてほしい話がある」

 

真剣な表情の俺に全員が黙り聞く体勢に入る。

 

本来いた世界に戻り、焦凍に言われた言葉が蘇る。

 

こっちの家族に俺の償いを押し付けてはならない。

 

どちらも大事な家族だが、重ねて見てはダメなのだ。

 

これからはちゃんとこの世界の家族を見る。そのためにこの話を話すのがケジメだ。

 

「……信じられないだろうが、俺は今から17年前、未来からこの世界に飛ばされてきた」

 

俺の言葉に全員がぽかんと口を開ける。

その様子を見ながら俺は言葉を続ける。

 

「未来の、俺が本来いた世界。そこの俺はどうしようもない程の愚か者で家族を傷つけ、罪を犯した」

 

きっと信じられないだろう。

だが、話すことをやめるわけにはいかない。

 

「今から話すのは愚かな男の話だ、そしてお前たちへの謝罪であり、これからの話になる」

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、もう一人の俺」

 

『・・・・』

 

夢の中に入り、忘れていた夢の内容を思い出した俺は荼毘に向かってそう声をかける。

荼毘は何も言わずその身の炎を揺らしていた。

 

「お父さんから聞いたよ。お前は別世界の俺なんだってな、お父さんに見てもらえずに暴走してみんなに迷惑かけたバカ野郎らしいじゃん」

 

『・・・・ああ、そうだ。俺は荼毘となった燈矢。お前の言うどうしようもないバカ野郎だ』

 

「・・・・」

 

俺の言葉を肯定し、自虐気味にそう答る荼毘に俺は少し黙った後に再び口を開く。

それは謝罪とこれからのことについて。

 

「ごめん、正直今も半信半疑っていうか。実感がいまいち湧かないんだ、未来の話とかお父さんの罪、償いの話も聞いたけどショックとかはなくて、むしろ話を聞いて償いを続けてるお父さんのことが心配になった」

 

『・・・・』

 

「お父さんはお前にひどいことをしたんだよな。それに俺とお前を重ねて見てたらしいし、俺は怒るべきなのかもしれないけど、怒る気に全くなれないや。だからごめん」

 

俺以外の家族もだいたい同じような感じだと思う。

 

怒ったり悲しんだりするには実感が足りず、むしろそんなことより一生をかけて償い続けるというお父さんが心配だった。

 

お父さんはこれからは別世界の俺達と重ねず、俺達をちゃんと見ると言っていたけど、俺らからしたら十分すぎるほどちゃんと見てくれていたんだ。

 

たとえフィルター越しだったとしても『見ていた』ってことはちゃんと真実なんだから。

 

『別に俺に謝る必要なんかねぇよ』

 

「でも、俺はお父さんに見てもらえたのにお前は見てもらえなかった。それはあんまりだろ」

 

『・・・・俺はもう十分満足してる』

 

「はぁ?なんで満足してんだよ」

 

『……お前を通して俺は夢を見れた。お父さんが見てくれてNo.1を目指す最高の世界を。この夢が見れただけで俺はもう満足なんだよ』

 

そう言って荼毘は炎の姿で笑う。

本当に心から嬉しそうに。

 

それを見て俺は思わず荼毘に向かって叫んだ。

 

「なんで満足してんだよ、俺に自分の夢を預けてそれで満足かよ!!」

 

『は?』

 

「お前自身が叶えなくていいのかよ!お前がお父さんに見てもらって、No.1を目指さなきゃ意味なんてないだろ!!」

 

俺と荼毘、同じ燈矢だけどお父さんが言っていたように俺たちは別の人間だ。

それなのに、自分のやりたかったことを別の人間がやって満足なんて、俺だったら嫌だ。

 

『俺はもう終わった人間なんだよ。そんな夢、いまさら見られやしねぇ』

 

「・・・・お父さんの話だと、荼毘はまだそっちの世界で生きてるんだよな?」

 

『ああ、まぁ・・・・ギリギリだけどな。寝ている時だけ、俺はこの世界にいる。自分でもどうなってるのかわからねぇが』

 

「・・・・じゃあ、死んだらお前はずっとこっちにいるのかな」

 

この世界の荼毘は不安定だ。

姿は炎だし、夢から覚めると俺は夢のことを忘れてしまう。

 

でも、お父さんの話を聞いてその原因がわかった気がした。

 

お父さんは完全に死んだことでこっちの世界に来た。

でも荼毘は死にかけではあるけど生きている、だから夢の世界で炎の状態でしかいられないんじゃないか。

 

最初の荼毘は小さな炎だったけど、時間が進むごとに姿が俺に近くなっていった。

それは本体の荼毘が死に近づいているからじゃないか?

 

きっと荼毘が向こうで死ねばこっちに完全にやってこれる。

勘だけど俺もこの世界の記憶を忘れずにすむはずだ。

 

だったら。

 

「俺と二人でNo.1を目指そうぜ、この世界でさ。そうすりゃ俺とお前の夢の両方が叶えられるだろ」

 

『・・・・何言ってんだ、これはお前の身体で、お前のとこの世界だろ』

 

「それを言うならお父さんはそっちの世界出身だろ、とにかく俺はお前が満足してるのが気に食わねぇ」

 

そう言いながら俺はあの時のことを思い出す。

きっとこいつは。

 

「お父さんと一緒にプロミネンスを出した時、自分でも信じられないような火力が出た。あれはお前が手を貸してくれたんだろ?」

 

『・・・・』

 

「俺一人じゃあの火力は出せねぇ。それにNo.1に絶対なれると思えるほど楽観視も出来ない。年下のくせに俺よりもすげぇ奴を俺は知ってる」

 

あいつもNo.1を目指してるって言っていた。

オールマイトとはまた違う次代の平和の象徴になるって笑顔で。

 

「……あいつを超えないとNo.1にはなれない。でも正直俺一人じゃ厳しい。だから荼毘、お前の力が必要なんだよ!」

 

そう言って俺は荼毘に向かって手を差し出す。

荼毘は少し黙った後、躊躇い気味に俺へと手を伸ばす。

 

ゆっくりとその手は俺の方に伸び、俺の手に触れる手前でまた降ろされる。

 

「ふん!」

 

『っな!?』

 

俺は荼毘の炎の手が降りきる前に強引に掴む。

あ、やっぱり熱くないな。

 

『・・・・手、放せ。俺の夢をかなえる・・・・そんなの余計なお世話だ』

 

荼毘は俯きながらそう答える。

それを聞いた俺は鼻で笑いながら答える。

 

「あ?余計なお世話だぁ?お世話してるつもりなんてねぇよ」

 

『・・・・』

 

「それにお前に同情したからじゃないぞ。お前も同情なんてされたくないだろ。俺はお前が相棒として傍にいてくれたら心強いから言ってるだけだ」

 

俺の言葉を聞いて、荼毘は掴んだ手を振りほどくことなく黙ったまま固まる。

そのまま少しの時間が経ち、やがてゆっくりと荼毘は口を開いた。

 

『・・・・くそ、もう消したはずだったのに、また燃えてきやがった。おい、責任ちゃんととれよ燈矢。俺にまた火をつけたのはお前だぞ』

 

「ああ、その炎はもう消えないさ」

 

『はっ、消えそうなら俺がお前を燃やして薪にしてやるよ』

 

そう言い合いながら俺たちは笑う。

 

この日以降、不思議と俺は夢から覚めても記憶を忘れることはなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぼ、僕もあなたみたいなヒーローになれますか?』

 

 

『こ、こんな危険な個性だけど、お兄さんみたいにカッコいいヒーローになれますか?』

 

僕は当時のことを思い出す。

 

個性が初めて発現し暴走したあの日。

 

オールマイトと同じくらい憧れることになったヒーローと出会った日。

 

そのヒーローに、僕もヒーローになれると言ってもらえた日。

 

あれから時が流れ、僕は雄英高校に入学した。

 

みんなを笑顔で助けることが出来る最高のヒーローを目指して。

 

「いよいよだな緑谷くん」

 

「う、うん!そうだね飯田くん」

 

一年A組の控室の中からでも外からの歓声が聞こえてくる。

僕はその声を聞いて心臓の音をより高めていく。

 

そんな僕をよそにクラスのみんなは緊張したりしなかったりとそれぞれで盛り上がる。

 

「ついに来たぜ体育祭!くぅ!俺テレビに映るのかな!?やべぇテンション上がって来た!」

 

「ぶふっ!ダメ、うち、個性使いすぎてアホになった上鳴がテレビに映ると思ったらっ!ぶふほっ!」

 

少し離れたところで上鳴くんと耳郎さんが騒ぎ、それを飯田くんが注意をしに行っている。

それに苦笑いを浮かべながら自分の手を見つめる。

 

オールマイト、転弧さん、見てくれているかな。

もし、見てくれているのなら恥ずかしいところを見せるわけにはいかないな。

 

「デクくんすごい緊張してるね!私もうさっきから心臓がバクバクだよ!」

 

「あはは、緊張は、ね。でも同じくらいワクワクもしてるんだ」

 

麗日さんの言葉に僕は笑顔で答える。

もう泣き虫な僕じゃない。エンデヴァーのところで焦凍くんたちと訓練して強くなった自信がある。

 

「今日は、僕が勝つ」

 

培ってきたものを今日出し切るんだ。

 

「俺も負けないぞ出久」

 

僕の言葉に焦凍くんが応える。

彼の強さはこの身が十分知っている、でも負けるつもりもないよ。

 

「勝負だ、焦」「俺も負けん!轟!今日こそ俺がお前に勝つぞー!!」

 

僕が焦凍くんの言葉に精一杯の決め顔で応えたところに夜嵐くんが被せてくる。

なんでだろう、僕と焦凍くんがこういう場面になった時はいつもこうなるんだよね。

 

推薦試験で焦凍くんに負けたのが悔しかったのか夜嵐くんは焦凍くんをライバル視してよく絡んでる。

夜嵐くんもすごい個性の持ち主だ、僕は個性的に相性が悪いから対戦になった時のために対策を考えておかないと。

 

「てめぇじゃ無理だクソデク、俺がトップになる」

 

焦凍くんが夜嵐くんと話している間をかっちゃんが通って僕にそう言い放つ。

その僕を睨む真っすぐな視線を僕も正面から受け止める。

 

かっちゃんに対してはエンデヴァーの訓練時の勝負では僕の方が負け越している。

でも今日は負けられない。

 

「俺が勝つ。てめぇは負けて俺の踏み台になりやがれ」

 

「ううん、勝つのはぼ」「でも前の戦闘訓練で爆豪、緑谷に完封されてたよな。ほら爆豪、飯田と緑谷、麗日のチームでさ」

 

またしても僕の精一杯の決め顔は横で話を聞いていた上鳴くんに遮られる。

あ、それはあくまで状況設定とかっちゃんの行動が良い感じに作戦にハマっただけで、僕単体の実力とかじゃ。

 

僕がそう言う前にかっちゃんが個性と関係なく感情が爆発する。

 

「あ゛あ゛!!?殺すぞクソアホ顔!!」

 

「俺だけ悪口じゃねそれ!?他のみんなはクソの後にそれぞれの特徴つけるじゃん!?クソ髪とかさ!」

 

「いやそれって上鳴の特徴がアホ顔ってことじゃん」

 

「全員静粛に!入場の時間だぞ!雄英生徒として恥ずかしくない行動をするんだ!」

 

叫ぶかっちゃんに飯田君の注意が入る。

それに対してかっちゃんは噛みつきながらも全員が入場の準備を始める。

 

そうして控室を出て廊下を進み、観客の人達の視界に僕らが映る。

全員が僕たちを見てさらに歓声を上げた。

 

それを見て、これから僕がやることを考え緊張で息を飲みこむ。

 

やがて普通科、経営科、サポート科などの全てのクラスの人達が集まる。

一年の主審であるミッドナイトの声が僕らの耳に届く。

 

 

 

「選手代表!!1-A!緑谷出久!!」

 

 

 

「は、はい!!」

 

ミッドナイトの声に肩を跳ね上げながら前に進む。

緊張で右足と右腕、左足と左腕を同時に動かしながら進む。

 

事前に先生から聞いてたけど、心臓が壊れそうだ!

 

「そういや緑谷、入試一位通過だったよな」

 

「で、爆豪が二位だっけ?」

 

「・・・・クソが」

 

僕の通り過ぎた後ろからそんな声が聞こえる。

それに苦笑いを浮かべていると、すれ違いざまに麗日さんが笑顔で声をかけてくれた。

 

「デクくんなら大丈夫だよ」

 

「・・・・ありがとう」

 

その言葉で不思議なくらい緊張が和らいだ。

そうだ、こんなところで緊張している場合じゃない。

 

転弧さんはもうずっと先にいる。

 

彼に追いつきたい。

 

これは、彼に追いつく最初の関門なんだ。

 

「宣誓!我々選手一同は――――」

 

学校の生徒、先生、観客、テレビの向こう側の人達、全員の視線を感じながら僕は言い淀むことなく選手宣誓を終える。

 

そして、その後すぐに第一種目の発表が始まった。

 

「今年の第一種目は、障害物競走!!」

 

始まる、見ててください。

 

僕が来たってみんなに知らしめます!

 

 

 

「ちょっとちょっと!何してるの燈矢兄!!雄英の体育祭始まってるって!!」

 

事務所の休憩室で私と燈矢兄、それにバーニンさんの三人でテレビの先を見つめる。

 

いよいよ、始まる。

 

焦凍、それに緑谷くんに爆豪くん、三人をちゃんと応援しなきゃ。

 

・・・・だというのに。

 

「はぁ・・・・くそがぁぁぁぁぁぁ」

 

離れた場所で項垂れている燈矢兄を見てため息を吐く。

この兄は、あれからもうどれだけ時間が経っていると思ってるのやら。

 

「もう燈矢兄!いい加減立ち直って!!」

 

「・・・・冬美にはわからねぇんだ。この悔しさが、この無気力感が」

 

「二位だってすごいことでしょ!!前回はホークスに負けたけど今回は取り返したじゃない!」

 

「一位以外は全部最下位と同じなんだよ!!」

 

そう言って悔しさで室内を転がり回る燈矢兄。

それを見たバーニンは指を指しながら笑う。

 

「はははは!受ける!これがうちの事務所のトップの姿!」

 

「・・・・はぁ」

 

ヒーロービルボードチャートJP。

事件解決数、社会貢献度、国民の支持率などを集計し発表されるヒーロー番付。

 

毎年二回発表されるそれに、燈矢兄は今回、第二位だったのだ。

 

ちなみに三位はホークス、前回ホークスが二位で燈矢兄は三位で、今回順位が逆転した。

 

私は二位だってすごいことだと思う。お父さんも長い間二位だったけど、それでも私にとってお父さん以上にカッコいいヒーローはいなかった。

 

順位なんかより、もっと大事なことがあると私は思う。

なのに、この兄ときたら。

 

「・・・・はぁ」

 

「まぁまぁあのバカはほっといて私らで見ようぜ」

 

「そうですね」

 

バーニン。

燈矢兄が事務所を立ち上げてから彼のサイドキックとしてこれまで一緒に頑張ってくれている頼りになる方だ。

私も卒業してから燈矢兄の事務所に就職したけど、毎日騒がしくて苦労が絶えない。

 

私達が始まった障害物競争を見ていると、急に静かになった燈矢兄がいつもの発作を起こす。

 

「・・・・ああ!?俺のせいだぁ!?元はと言えば荼毘があの時火力調整ミスったのが原因だろうが!!」

 

「出た燈矢名物一人漫才」

 

そう言って一人で騒ぐ燈矢兄を面白そうに笑うバーニン。

私は事情を知っているだけに二人が本気で喧嘩しているのだろうと考え再びため息を吐く。

 

「・・・・はぁ、愛しの妹たちに会いたい」

 

「よんだ?」

「よんだ?」

 

私の心から漏れた声に反応する二つの声。

その声を聞いた瞬間、私はそちらを勢いよく振り向く。

 

そこには私の癒しがいた。

 

「お姉ちゃんの妹その一!小夏です!!」

 

「お姉ちゃんの妹その二!小雪です!!」

 

小さな頭に小さな手をかざし、敬礼する小さな女の子が二人。

 

瓜二つの顔に体型、声。

 

違いは二人の髪の色と髪型だけ。

 

小夏は真っ赤な髪に一部真っ白な髪。

小雪は真っ白な髪に一部真っ赤な髪。

 

小雪は左を、小夏は右を、それぞれ色が違う一部分をサイドテールにした可愛らしい髪型。

 

私の愛しの妹で双子の小夏と小雪。

 

「「二人で最強ヒーロー!夏雪シスターズ!!お姉ちゃんとテレビを一緒に見たくて参上しました!!」」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!可愛いすぎ!!!おいでおいで!私の膝の上で一緒に焦凍お兄ちゃんの応援しようね!!」

 

「「わーい!!」」

 

私の潤いと癒しであるマイシスターズ、小雪と小夏の登場で一気に疲れが吹き飛ぶ。

 

三人で一緒にテレビを見れば、ちょうど焦凍が映る。

 

足と背中から炎を出して空を飛び、迫るロボットを氷で凍らせていた。

 

焦凍、この日のために頑張っていたものね、お姉ちゃん、しっかり応援するから。

お父さんも今頃お母さんと一緒に見ているはず。

 

私達家族全員、しっかり見てるから。

 

「だから燈矢兄!いい加減落ち着いて!!」

 

「俺じゃなくて荼毘に言え!!」

 

「・・・・たく、おい燈矢。いや、()()()()()()

 

ため息を吐いたバーニンが燈矢兄に口を開く。

そして、その名を口にする。

 

「No.1ヒーローからその名を受け継いだんだろ?だったらもう少し落ち着けって」

 

「・・・・おう」

 

彼女の言葉に燈矢兄は大人しくなり私達の傍に来てテレビを見つめ始める。

そう、燈矢兄はお父さんからそのヒーロー名を受け継いだ。

 

二年前、No.1ヒーローだったお父さんは引退、オールマイトの時のように殿堂入りという形でヒーロービルボードチャートの順位には載らなくなったけど、その名は永遠に刻まれた。

 

オールマイトが引退してからの三年半、お父さんはNo.1ヒーローとして日本の平和を守り続けた。

 

あの日の死闘がテレビ中継されてからお父さんの人気が爆発。

 

もともと色々な世代から人気を集めていたけど、あれ以来、支持率がさらに増えた。

 

お父さんは進化した個性を使いこなし、オールマイトの引退によって一時増加した犯罪を一瞬で鎮めるに至った。

 

そんなすごいヒーロー名を燈矢兄は受け継いだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()、転弧くん、燈矢兄、ホークスと若い世代がしめるヒーロー番付。

 

新しい時代がやってきたと世間は騒いでいる。

 

そして。

 

「私らの次の世代も、今頑張ってるよ」

 

私はテレビでトップ争いをする三人を見つめる。

 

きっと次にエンデヴァーを受け継ぐのは。

 

 

 

 

 

 

「行けー!!出久くん!そこだー!!」

 

「うお!?あのバカでけぇロボットを崩壊させやがった!」

 

「出て来たロボット達、かぁいくないです」

 

「・・・・」

 

テレビに映る少年少女たちの姿を私の弟の転弧とその友達のヒミコちゃんとスピナーが楽しそうに見つめ、応援している。

 

マグ姉が経営してるスナックで私達は座りながら雄英高校の体育祭を見ていた。

スナックにはマグ姉の友達のスタッフもいて弟たちと一緒に楽しそうに見ている。

 

私も一緒に見て楽しみたいけど、どうしてもそんな気分になれなかった。

 

「・・・・・」

 

楽しそうに笑っている転弧を見て、どうしても暗い気持ちになる。

 

志村転弧、今の彼をみんなはこう呼ぶ。

 

 

 

 

()()()()()()、新たな平和の象徴と。

 

 

 

 

私の弟はその力だけじゃなく、ヒーロー名すらも彼から受け継いだ。

 

そして弟はその名にふさわしい実力を見せ、今はかつてのオールマイトと同じ一位の座にいる。

 

姉弟ヒーローを目指していた頃が懐かしい。

私は結局ヒーローにならず転弧の立ち上げた事務所で事務員をして彼を手伝っている。

 

みんなの普通を守る。

 

それが転弧が掲げる信念だ。

 

ヒーローも、ヴィランにも、それぞれ大切にしている普通がある。

 

でもその普通は人によっては社会や家族、周りの普通とうまく合うことが出来ない人もいる。

 

それによって苦しんでいる人達を転弧は救いたいんだ。

 

自分の中の普通を否定されたり行えなくなった人たちがヴィランになる。

 

だから、そんな泣いてる人達に手を差し伸べてあげれば、ヴィランは生まれない。

 

そう言って微笑みながら転弧は色々な人に手を差し出してきた。

拒絶されたり、傷つけられようとも何度でも。

 

その手をボロボロにさせながら。

 

……その結果がNo.1ヒーロー。

 

弟の優しさに救われ、仲間になってくれた人達も大勢いる。

でも、その優しさを利用する悪人も大勢いた。

 

その悪人たちにも転弧は変わらず手を差し出し続ける。

このままじゃ、弟はいずれ。

 

「・・・・バカ」

 

「おいおい弟にバカとは言ってやるなよ。まぁ同感だけどな」

 

そう言って私の頭に誰かが手を置く。

上を向けば見慣れた女性が私を見て微笑んでいた。

 

「レディ・ナガン」

 

元公安直属ヒーロー。

そして現在は転弧のサイドキックとして一緒にいてくれる頼れる人だ。

 

彼女は微笑みながら口を開く。

 

「隣いいか?」

 

「うん」

 

私が頷くとレディ・ナガンは席に座り、マグ姉にいつものお酒を注文する。

そしてグラスを傾けながら私に向けて口を開く。

 

「ああいうバカは死んでも直らねぇよ。言うだけ無駄だ」

 

「・・・・でも」

 

私はマグ姉が入れてくれたジュースグラスを握り力を込める。

以前、サー・ナイトアイが言っていた言葉が私の中で締め付けてくる。

 

『転弧・・・・ヴィランを助けようとするのはもうやめるんだ』

 

『・・・・』

 

『その精神は素晴らしい。だが・・・・このまま進めば君に待っているのは破滅だ』

 

偶然だった。

たまたま転弧とナイトアイが話しているのを聞いてしまった。

 

『君は強い。君は将来オールマイト、エンデヴァーが苦しめられた巨悪さえも圧倒し、地に伏せさせる。だが!!君はその巨悪にさえ手を差し伸べ、そして殺されてしまう!!』

 

・・・・え。

 

声が出そうになる口を必死に押さえた。

転弧が・・・・殺される?

 

私の動揺をよそに二人の話は続く。

 

『そうして君とヴィランはどちらも死ぬ。だがその差し出す手さえなければ君は死なない!未来は簡単に変えられるんだ!!』

 

ナイトアイの荒い声が飛ぶ。

それに対し転弧は黙ったままだ。

 

『世の中には救いようのない人間はいる!残念だがそれは事実だ!わかってくれ、私は君を失いたくない』

 

『・・・・ナイトアイ』

 

ナイトアイの声、言葉。そこからは心から弟を思う気持ちが込められていた。

それに対し、転弧は静かに答えた。

 

『それでも僕は――――』

 

最初、二人の関係は決していいものではなかった。

 

でも、今はこうして心から信頼し合っている。

 

その関係が今・・・・終わろうとしていた。

 

 

 

 

「・・・・心配だよな」

 

そう言って私の頭を撫でる。

されるがままになりながら私は離れた席で笑いながら友達と話す弟を見る。

 

最近になって思う。

 

あのまま、窮屈だったけど優しい家族の元でずっと暮らしていた方が彼は幸せだったんじゃないかと。

 

ヒミコちゃんもスピナーも、ヒーローではない普通にこの街で暮らす彼の友達だ。

 

そんな二人と一緒にいる転弧はヒーローの時の優しい微笑みではなく年相応に笑う。

 

きっとこれが転弧の普通なんだ。

 

みんなの普通を守る。

その中に彼は自分自身を入れていない。

 

「あいつは強いけど、それ以上に泣けるぐらい優しいよ。そんなあいつに私は救われたし、ついていきたいって思った。でもそれがいずれあいつを殺す」

 

「・・・・」

 

彼女はナイトアイと転弧のやり取りを知っている。

レディ・ナガンはそれを知って、彼を守ると言った。

 

「あのバカを守るのが私の仕事だ。もちろん私だけじゃない、他の仲間も同じ思いだよ」

 

「・・・・ありがとうございます」

 

レディ・ナガン以外にも彼のサイドキックとなってくれたプロヒーローは大勢いる。

その中には彼女のように元公安ヒーローだって。

 

「礼はいらねぇよ。私はあいつの作る未来を見たいだけだし、そしてこの街がその未来の形だ。私は好きだぜこの街」

 

「うん・・・・私も好き」

 

転弧が事務所を構えるこの街は少し特別だ。

 

いわば彼の夢の形。

 

この街はあらゆる普通を受け入れる、そういう場所なんだ。

 

血が好きで、大好きな人の血がみたいという普通を持つ女の子。

 

異形という普通を持って生まれ、周りが決めた普通に潰された男の子。

 

戦うことが好きで命をかけた闘争を求める者。

 

社会の普通を守るために自分の普通を殺してしまった者。

 

みんなが持つ普通をこの街はそのままに受け入れる。

 

彼がプロヒーローになってからあらゆる手段を通じて呼びかけ、トップヒーローの莫大な影響力、財力さえも全て使い作りあげた場所。

 

周りからは必ずこんな街はすぐに崩壊すると言われていたけど、この街は生まれてからずっと安定している。

それはきっと、この街にいる人たちみんなが転弧のことを好きだから。

 

「ナイトアイも今は喧嘩して離れてるが、いずれ戻ってくる。あいつが死ぬなんてふざけた未来は全員で変えるぞ」

 

「うん、絶対に」

 

そう言って私達二人はグラスをぶつけ一気に飲み干す。

 

絶対に弟を殺されてたまるもんか。

 

 

 

 

 

 

最近になってよく立ち寄るようになった静かな飲食店。

 

そこに俺と、()()の二人で扉を開けて入る。

そしていつもの席に座りメニュー表を眺める。

 

「私はいつものでいいかな、()()()()()()()()()()?」

 

「俺もいつものでいい」

 

店員に注文を済ませ、コップに注がれた水を口に運ぶ。

そしてコップをテーブルに置いた後に目の前の男と視線を合わせる。

 

「それで俊典、今日の話だが」

 

「はっはっはっは!いや、なんか君に名前で呼ばれるのはなんかこう、すごくムズムズするよね!名前を呼び合ってけっこう経つけど慣れないな!」

 

「こっちのセリフだ。だがもう互いにヒーロー名で呼び合うのは違うだろう」

 

「ああ、私達の名はすでに託したのだから」

 

そう言って俊典は笑う。

オールマイト、エンデヴァー。

 

その名を名乗るのは今は俺達ではない。

転弧、燈矢の二人、次代の象徴達に託したのだ。

 

俺たちが二人がその名を渡した夜、たまたま目の前の男と出会った。

 

普段なら絶対にしなかったが、あの時は少しこいつと話したい気分だったのだ。

 

そして夜の街で普段飲まない酒を二人して飲み、それが互いのことを話すきっかけとなった。

そこからは不思議と二人で集まり話すようになり今に至る。

 

あれだけ嫉妬し、憎んでいた男と今はこうして二人で話しているとは、未来とは読めないな。

 

「炎司、君には感謝しているんだ。君がいたから私は何の憂いもなく引退という道を選べた。想像よりも早くなくなっていく力に焦ることがなかったのは、転弧少年の成長の早さももちろんだが、君という頼りになる存在がいてくれたからだ」

 

「・・・・この強さは俺の力ではない。俺はただ恵まれただけだ」

 

右手に炎を纏い見つめる。

あれからも変わらず支えてくれるこの炎。

 

この炎にはあの時力を貸してくれた者達の力が宿っている。

炎の色によってその力を顕現させ、熱と一緒に放出する。

 

その力は俺の熱がこもるという弱点を無くすだけではなく、様々な可能性を与えてくれた。

 

個性の意志が俺の背を押してくれる。だから俺はNo.1ヒーローとしての責務を全う出来た。

 

「……何回この話をするつもりだ。いい加減話をさせろ」

 

「すまない、ついね。それで今日は未来の話か?」

 

「ああ、予想通り二つの世界が繋がるタイミングはこちら側の時間が向こうに追いついたタイミングになる」

 

燈矢の中にいる燈矢に向こうの時間は確認、意思疎通をある程度だがしている。

過去への移動、いや平行世界への移動。

 

この現象について明確な原理は未だわかっていない。

 

だがうちにいるもう一人の俺との話によってあちら側とのつながりを少し認識できるようになった。

長い時をかけて作り上げたサポートアイテムの力とこの繋がりを使ってあちら側とこちら側を繋ぐ扉を作る。

 

だが二つの世界を繋ぐというのはあまりにも未知数な現象。

燈矢という事例があるが、それでも何が起こるかはわからない。

 

あらゆる可能性を考慮し慎重にことを運ばなければならない。

 

そのためには、倒しておかなければならない男がいる。

 

「オールフォーワン、奴との決着をつけなくてはな」

 

あれから探しているが未だ見つかってはいない。

生きているはずだ、俺の記憶から得た未来の知識を使い何かを企んでいるに違いない。

 

「ああ、ナイトアイから聞いた予知の件もある。転弧少年を殺すなど、私が絶対にさせん」

 

そう言って俊典は目に炎を宿す。

力がなくなったとはいえ、身体は変わらず鍛え抜かれた巨体のままだ。

 

衰えぬように鍛え続けてきたのだ。そして、最近になってついに俊典が望んでいた物が作られた。

 

「海の向こうにいる親友の手を借りて完成した私専用のボディースーツ。これで私もまた戦える」

 

そう言ってサポートアイテムが変形した姿のスーツケースを見せる。

俺があちらの世界で説明を受けたサポートアイテムの改良版だ。

 

もともとこいつの身体はワンフォーオールという巨大な力に耐えられるほど強い肉体だ。

そしてこちら側で俊典は重傷となる怪我を負わず変わらず肉体は全盛期。

 

ならば多少無茶な作りの強化アイテムだろうとこいつは完璧に使いこなす。

 

「俺も奴との決着はまだついていない。今度こそ引導を渡してやる」

 

俺も俊典もヒーロー名を託した。

 

だが、それでもこの時だけは今一度名乗らせてもらう。

 

「やるぞ、オールマイト」

 

「ああ、エンデヴァー」

 

奴の決戦、その時だけ俺達はトップヒーローへと戻ろう。

そうしてこの世界で全てに決着をつける。

 

その後にもう一度会おう、焦凍、みんな。

 

「さて、あとはいつも通り世間話でも」

 

「・・・・ともいかないようだな」

 

俺たちの聴覚がそれを捉える。

誰かが助けを呼ぶ声がする。

 

俺と俊典は即座に店を飛び出し現場に急ぐ。

 

俺は炎を纏い、俊典はサポートアイテムを部分装着し速度を一気に上げ、そのまま店を破壊し現金を漁るヴィラン共の前に到着する。

 

俺と俊典が一瞬目を合わせ意思疎通を図る。

そして互いの意図を理解し、それぞれ左右に別れて敵に近づく。

 

「っ!?はあ!?お前、エンデバ」

 

「赫灼熱拳 雷炎」

 

はじける炎を纏い、こちらに気づき逃げようとする男にぶつける。

この力の効果は雷撃。

 

炎と同時に身体に雷撃による痺れが襲い敵を一瞬で無効化できる。

 

「テキサス スマァァァァッシュ!!」

 

俺の横で敵の攻撃を無力化した俊典の拳が敵の鳩尾に炸裂する。

サポートアイテムなしでも奴の拳をくらえば俺でさえ吹き飛ぶ、目の前の男に耐えられるわけがない。

 

「なん、で、お前ら二人同時は、ズルだろ」

 

そう言ってヴィランはその場に崩れ落ちる。

その様子を見ていた店の店員が指を震わせながら俺達を指さし口を開いた。

 

「あ、ああああなた達はもしやオー」「「名乗るほどの者ではない」」

 

それだけ言って俺達はヴィランを担ぎ現場を後にする。

名乗るのは今ではない。

 

今の俺たちは。

 

 

「「ただの通りすがりのヒーローだ」」

 

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