エンデヴァー逆行物   作:デッテユー

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後日談1

死穢八斎會。

 

その組織との出会いは僕がヒーローインターンでナイトアイ事務所にやってきた時のことだった。

 

サー・ナイトアイ。

 

オールマイトの元サイドキックで、彼の引退後に転弧さんのサイドキックとなる。

でも、何かがあったのか詳細は知らないけどナイトアイは転弧さんの元を離れた。

 

それでも僕の憧れの二人を支えてきたヒーローだ。

そんなすごいヒーローからインターンの招待が来た時点で行くことは決めていた。

 

ナイトアイは僕の体育祭の様子を見てくれていたようで個性のコントロール、分析力が優れていると褒めてくれた。

 

体育祭での僕の最終成績はかっちゃんに負けて三位、一位は焦凍くんだったけど、それでも僕を選んでくれたのは嬉しかった。

 

体育祭の後の職場体験でも招待をしてくれていたみたいで、その時は転弧さんの事務所に即決してしまっていたから見逃してしまい悪いことをしてしまったな。

 

・・・・えっと、話を戻すと、ここでは死穢八斎會という小さな指定ヴィラン団体の捜査中だった。

 

そしてその捜査中に・・・・僕と通形先輩はエリちゃんと出会ったんだ。

 

『いかな・・・・いで』

 

僕の服を掴んで震える彼女が忘れられない。

 

あの時彼女を追いかけていたらと思わない日はなかった。

 

でも・・・・それも今日で終わらせる。

 

「デクくん、行こう!」

 

「うん、麗日さん」

 

「俺達でエリちゃんを助けようぜ!」

 

「ケロ、そうね」

 

同じように今回のエリちゃん奪還作戦に召集された麗日さん、切島くん、蛙吹さん。

僕らは全員で手を合わせて作戦の成功を誓う。

 

そして開始されたエリちゃん救出作戦。

 

多くのヒーローと警察と共に死穢八斎會の本拠地に乗り込んだ。

 

最初の敵の奇襲に対し麗日さんと蛙吹さんのいるリューキュウ事務所で対応し、残った僕達で先に進む。

 

「ここだ、この下に隠し通路がある」

 

そう言ってナイトアイが通路の横にあった物置スペースをいじる。

彼の個性『予知』によって組織の人間がここを通る様子を確認し、エリちゃんまでの最短ルートを捕捉してくれていた。

 

忍者屋敷を思わせる仕掛けによって扉が地下へと通じる扉が出現する。

そこから現れるヤクザたちを捕縛し、そのまま下へと下っていく。

 

「おい壁があるぞ!行き止まりじゃねぇか!!」

 

「俺見てきます!」

 

「いえ、僕の個性で崩した方が早いです!」

 

個性を使って壁を透過しようとする通形先輩に声をかけて前に出る。

 

本来続くはずの道に出現している壁、どう考えても時間稼ぎに作られたものだ。

その壁がいくら分厚く仕掛けがあろうと僕の手なら。

 

「崩れろ」

 

右手で壁に触れ、個性を発動させる。

すると廊下を塞いでいた壁がボロボロと一瞬で崩れていき、僕らの視界に先へと続く通路を映す。

 

「なるほど、治崎の分解して治す個性ならこういうことも可能なのか」

 

「いきましょう!」

 

早くエリちゃんのところへ!

 

「っ!?」

 

そう急かす僕の足に、いや踏みつける地面が突如として揺れる。

そして先ほどまで真っすぐ繋がっていた通路が歪み、僕らの行く手を塞ぐ形へと変化した。

 

これは、警察の人達が事前にリストアップしてくれたヤクザたちの個性にあった。

 

物に入り、自在に操る個性『擬態』。

 

それによってコンクリートに入った相手が通路を操っているんだ。

 

だとしても!

 

「進む進路さえわかっていれば崩壊で壁を崩して強引に進んでいけます!」

 

歪んだ道を走り、邪魔する壁を崩壊させていく。

天井が崩れないように崩壊の範囲を調整し、必要な部分だけに個性を適用させていく。

 

これくらいの厚さの壁なら崩すのに数秒もいらないし体力も使わない。

時間稼ぎをさせてたまるものか。

 

「イレイザー消せへんのか!」

 

「本体が見えないとどうにも」

 

ファットガムの言葉に先生は周囲を見回しながら答える。

 

先生の個性は見ることで発動する。

相手の姿さえ見せることが出来れば先生の個性で即座に無力化できるのに。

 

「っ!?」

 

進路妨害が通じないとわかった相手は戦法を変えて来た。

壁から一部のコンクリートが変形し、僕らを潰そうと襲い掛かり始めた。

 

「切島くん!」

 

「おうよ!」

 

それを僕と切島くんで破壊しさばいていく。

しかしそれによって僕らの足が止まってしまい、時間を稼がれる。

 

通形先輩は自身の個性によって壁を透過して先へと進んだ。

 

けど壁を無視して進むことが出来ない僕らは若干の足止めを余儀なくされた。

 

このままじゃダメだ、この足止めも効かないと敵が判断すれば次の策を打ってくる。

 

壁全てを一気に狭めて僕達を圧死させず、一部のコンクリートだけを突き出して潰そうとしているのはおそらく操作上限の限界か、体力の消耗が激しいから。

 

でも敵が限界を超える、もしくは体力温存を考えずにそれを実行してくる可能性だって十分にある。

 

そうなる前に考えろ。この状況を今すぐ覆す打開策を。

 

「・・・・そもそも相手はどうやって僕らを見ているんだ。通路を一体化しているのなら僕らが踏みしめているコンクリートから伝わる振動から?それとも、どこか壁の一部に本体が入りこんでいて、そこから直接自分の目で見ている?もし完全に身体とコンクリートが同化しているのなら砕かれたコンクリートは自身の一部と同じ、ダメージがある以上、迂闊に操作は出来ないはず、だったら同化ではなくただ中に入り込んで操作しているだけの可能性が高い」

 

「おお!これが出たってことは何かわかったのか緑谷!」

 

「うん。ごめん切島くん、少し僕を守ってほしい、集中するから身動きがとれなくなる」

 

僕の考え通り、同化ではなくコンクリートの中に入り込んでいるだけなら探し出せる。

右手で地面に触れて集中する。

 

崩壊のコントロール。

 

個性に目覚めて、エンデヴァーのところで訓練を始めてから雄英に入学するまでずっと個性に関してはこれだけに集中して訓練を行ってきた。

 

その結果、僕は指で触れた物全てを崩壊させるのではなく()()()()()()()()()()()調()()が出来るようになった。

 

まず崩壊の手順は僕の指から()()()()()()()()()()()()()()()()、その波が物を崩していく。

 

崩壊を操れるようになったのは、この波を感知、コントロールができるようになったからだ。

 

触れた物に対して波を通して全体像を把握、そして崩したくない場所からは波を遠ざける。

こうすれば崩壊したくない箇所を選ぶことができた。

 

これを一体化している通路に適用する。

 

「・・・・」

 

指から崩壊の波を送り、その内部までを知覚していき、波が人を通った感覚を探していく。

生き物の感覚は長年の訓練で身体に染み付いている、波がそこを通ればすぐにわかる。

 

そして。

 

「・・・・見つけた」

 

敵の居場所を特定し、相手のいる周りにのみ崩壊を発動させる。

 

しかし、発動させた後に突如として僕らがいた地面が消え、空中に投げ出された。

 

下は別の部屋になっているから落下死はない。けど。

 

空中で身動きの取れない僕に向かって壁の一部が迫ってきた。

 

「っ!先生!斜め右の天井!!」

 

集中し、壁に向かって個性を発動していた影響で迫る壁への対処が間に合わない。

でも崩壊は間に合った。

 

元に戻ろうとしている天井に向かって指を指す。

 

僕が指さした場所を先生が見た。

 

「なっ個性が」

 

崩壊させた天井から落ちてきた敵の姿が先生の前に晒され、個性を封じられる。

それによって僕へぶつかった壁の勢いも止まるけど、ぶつかった衝撃は消えてくれない。

 

「ぐっ」

 

踏ん張りの利かない空中で受けた衝撃は僕を吹き飛ばす。

そして飛ぶ進行方向を見れば僕がぶつかるであろう場所に穴が開いていた。

 

これは、僕を分断する気か。

 

「緑谷――!!!」

 

「僕は大丈夫!先に進んでください!!」

 

僕を助けるために穴に入りこんでしまえば敵の思う壺だ。

通形先輩は先に行っている、プロヒーロー達は一秒でも早く追いつかないといけない。

 

僕のために時間は無駄に出来ない。

 

「うっ」

 

飛ばされた先にある穴の中に吸い込まれる。

穴は想定よりもずっと深く、僕は滑り落ちてどこまでも下っていく。

やがて穴は僕を別の部屋へと運んだ。

 

「いった、ここは。みんなとどこまで離れて」

 

すぐに辺りを見回す。

広いけどライトの明かりが小さくて暗い部屋だ。

 

相手が意味もなくこの部屋に連れて来たとは思えない。

おそらく敵がいる。

 

「やっと来たか!待っていたぞ!!」

 

薄暗い闇の中に巨体を持つ相手が現れる。

死穢八斎會共通のマスクをした大男、間違いなく敵だ。

 

「っ!」

 

まずい、転がって落とされた衝撃が抜けきってなくて回避に移れない。

鍛え抜かれたであろう膨れ上がった肩から放たれる拳を見て、僕はとっさに地面に触れて敵の足元を崩壊させる。

 

それによって照準の崩れた相手の拳が僕の真横を通りすぎ、接触した床を砕く。

 

・・・・これはくらったらアウトだ。

 

距離をとって敵を分析する。

 

増強型の個性か、警察からのリストを頭の中で思い出すけど特徴に合う人物はすでに麗日さん達が相手をしている。

つまりこの人はリストにない相手だ。

 

・・・・それに、もう一人いる。

 

薄暗い闇の中で大男の近くにやってきた男の姿を捉える。

おそらくあの人もリストにない個性持ちの可能性が高い。

 

「咄嗟に地面を砕いて躱したか。いいなお前、さぁ俺と喧嘩をしよう!!」

 

「・・・・すいませんが、あなたに付き合っている時間はありません」

 

接近戦主体の相手に対してなら僕に分がある。

さっきのように敵の足元を崩し、敵に触れさえできれば無力化できる。

 

地面にいつでも触れるように低姿勢で敵に突っ込む。

問題はもう一人の個性、

 

タッグで迎え撃っているこの状況、間違いなく増強型と相性の良い個性。

遠距離系の個性?それとも別の何かか、何にしても対応してみせる。

 

地面に触れて波を相手の足元に流す。

 

そして怯んだ隙に一気に敵に触れて

 

「・・・・これは、壁、いやバリアか」

 

敵に触れる直前に膜のようなエネルギーが彼らを覆う。

なるほどわかりやすい、攻めと防御で役割分担しているわけか。

 

だったらこの後即座にカウンターが来る。

 

「邪魔するな天蓋!俺はこいつと一対一で喧嘩がしたいんだ!!」

 

そう言って男がバリアの中から拳を振りかぶる。

そして振り下ろされる直前にバリアが消え、障害物のなくなった拳が僕へと迫る。

 

・・・・大丈夫、思い出せ。

 

迫る敵の右の拳を半身を逸らしてギリギリで躱し、腕に一瞬触れる。

そして次に飛んでくる左を飛んで躱し、そのまま身体を宙返りの要領で反転し相手の腕に手を乗せて逆立ちする。

 

「身軽だな!」

 

一撃必殺の技は焦凍くんの技でいつも体感してきたし、速く動く相手はかっちゃんで慣れている。

2人とライバルとして競い続けるためには身体強化訓練は必須だった。

 

相手の攻撃をいなし、触れる。それが僕の基本戦術。

 

そのために腕力などの力を高めることよりも柔軟な身体と動体視力を鍛えることを優先した。

 

個性のコントロールによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いっ、なんだ?俺の腕が」

 

「・・・・僕の個性であなたの()()()()()()()()()()()

 

相手の腕から飛び降りて何が起こったかを相手に説明する。

 

一瞬触れた相手の両腕、その内部にある骨に崩壊の波を浸透させた。

そして威力を抑えて崩壊の手前の崩れやすくする状態にとどめる。

 

波で相手の身体を把握し、肉体の構造をイメージする。

子供の頃からの勉強で身体の中身がどうなっているのか、肉体の構造、骨の詳細なイメージだって出来る。

 

そのイメージを当てはめて力を流せば、こんな風に相手の骨のみに崩壊を当てることもできるんだ。

 

「安静にしていれば自然治癒で治ります。でも無理に動かせば腕の骨が砕けます」

 

「だからどうした!!そんなことで俺が喧嘩をやめるわけが、っ」

 

気にせず拳を振り上げた瞬間、相手は痛みで唸って動けなくなる。

これで一人は無力化、後はもう一人のバリアを砕く。

 

「っ!?来るな!!」

 

そう叫びバリアを張る。

でも、その力は僕と相性が悪い。

 

「砕かせてもらいます」

 

この指が触れた個所からバリアが崩れ、崩壊していく。

雄英高校に入ってから始まった個性伸ばしの訓練。

 

それによって今の僕は触れることさえできれば個性によって生じたエネルギーだろうと崩壊させることが出来るようになった。

 

炎は触れるとダメージがあるし、風は掴めないから使えないけどバリアなら別だ。

 

「スマッシュ!!」

 

砕けたバリアの中に侵入し、敵の顎に拳を入れてかちあげる。

そのまま相手は白目をむき、地面に倒れて気絶した。

 

これで二人とも無力化した、早くみんなのところに戻らないと。

 

「うっ!?」

 

嫌な予感がして反射的に右に飛ぶ。

すると僕がいた場所を拳が通り過ぎた。

 

振り向けば両腕を脆くさせて戦闘不能にさせた大男がいた。

 

「・・・・まだだ、まだ俺は死んでない。喧嘩を続けさせろ!!」

 

そう言って僕に向かってボロボロの腕を振るってくる。

これだけ激しく動けば骨が砕けているはず、なのにこの人は。

 

「・・・・」

 

振るわれた拳を拳で受け止める。

 

「ぐあ!?」

 

力は入れていない、それでも敵はうめき声を上げる。

誰が見ても戦闘不能だ、なのに彼から感じる戦意は衰えてはいない。

 

「・・・・あなたは、どうして喧嘩が好きなんですか?」

 

砕けた両腕を震わせながら振りかぶる男に質問する。

この人は、転弧さんの事務所で会った人たちと似ている。

 

「単純だよ、命を賭すことでしか生まれぬ力!そのぶつかり合い!俺はそれが好きなんだ!お前の力はあの男に似ているな!いいぞ!俄然燃えて来た!!」

 

その言葉を聞いて心の中で納得する。

きっとこの人は。

 

「・・・・命をかけた戦いがある生活、それがあなたの()()なんですね」

 

転弧さんのところで出会った彼のサイドキックであるプロヒーロー、マスキュラーなどがそうだった。

 

戦うことが生活の一部になっていて、溢れる力を抑えることが出来ないんだ。

 

「・・・・今は無理ですが、いつか再戦しましょう。あなたの普通を受け入れてくれる場所に案内します」

 

本当はこんな話をしている場合ではない。

だけど、何も言わず立ち去ることは出来なかった。

 

だからせめて、これだけは伝えないと。

 

「・・・・」

 

僕の言葉に相手は静かになる。

やがて、振り上げていた拳をゆっくりと降ろした。

 

「・・・・俺に再戦を告げた男は初めてだ。いいなお前、ああ約束だ!必ずもう一度俺と喧嘩だ!」

 

「うん、約束する」

 

僕が頷くと男は満足したように声を鳴らした。

それを見て僕はエリちゃんの元に向かうために周囲を見回す。

 

ここがどこか把握できていない、闇雲に動いてもダメだ。僕が通ってきた穴から戻るのが最短か。

 

「オバホのところならそこの扉から右に出て、上に繋がる階段に向かえ。それが近い」

 

「っ!ありがとうございます!!」

 

礼を告げて教えてくれた扉を開けて走る。

そして走りながら思う。

 

先ほどの男が言っていた僕と似ている力を持つ男について。

それは間違いなく治崎のことだ。

 

分解して修復する個性。

 

その『分解』の部分が僕の『崩壊』と似ているのだろう。

 

「・・・・」

 

崩壊の恐ろしさは僕が一番わかってる。

 

人の命を簡単に奪えてしまう個性。

 

治崎はそれをためらいなく人に向ける。

 

「・・・・急がなきゃ」

 

足に力を込めて階段を駆け上がる。

階段を登り切って見えた通路を走る。

 

とはいえ無数に広がっている通路、ナイトアイの案内なしだと厳しい。

 

「っ!!音が、これは戦闘音だ!!」

 

そう遠くない場所で誰かが戦っている。

 

しかも音の大きさから伝わる戦況は尋常じゃない。

確実に治崎の仕業だ!

 

「音の方向の壁を崩して最短を」

 

崩壊を発動させ近道を作り出す。

そうして近づくにつれ音が大きくなり、僕の中で焦りを加速させていく。

 

早く、早く、治崎のところに!

 

そして僕を遮る最後の壁を崩壊させた瞬間。

 

「・・・・ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!先生!!緑谷が」

 

「わかってる!俺が助けにいくからお前は先に」

 

「・・・・待て、その前に目の前の奴らの対処が先だ」

 

動こうとする二人に声をかけて止める。

 

緑谷が一人分断され、私達が下の階に落とされた。

幸い通路を操っていた入中は緑谷とイレイザーヘッドの力によって無力化し私が気絶させた。

 

だが最後の抵抗だとしても何もなく下に落としたとは考えにくい。

そして予想通り、私達の目の前に三人の敵が現れる。

 

全員リストにあった者達、どれも厄介な個性だ。

 

最善の行動を考える中、サンイーターが前に出る。

 

「こいつらの相手は俺一人で充分だ」

 

その言葉と共に敵を拘束していくサンイーター。

彼がここをなんとかしたとして、残るは治崎のところに向かう要員と緑谷のところにいく要員。

 

「・・・・」

 

緑谷が落ちた穴は最初こそ大きいが奥に行くにつれて狭くなっている。

 

あれでは大人は無理、通れるのは同じ体格のレッドライオットの一人だけ。

だが同じ学生の彼を向かわせては意味がない。

 

ならば。

 

「サンイーターにここは任せ、我々全員で治崎のところへ向かいます」

 

「っ!!待ってください!緑谷がまだ!」

 

「彼もヒーローだ。それにデクの強さは君たちの方がよく知っているだろう」

 

それだけ言ってサンイーターが敵を拘束している間に先に進む。

 

私のところに来る前から彼の力はすでに完成されていた。

 

ここにいるような奴らに後れを取る彼ではない。

 

私の言葉を聞き、彼らも一瞬の迷いの後に私に続いて通路を進む。

 

・・・・本来ならもっと十分な戦力を用意したかった。

 

だがこの作戦と同じタイミングで開始されている異能解放軍の残党を逮捕する計画によってトップヒーローのほとんどがあちらに向かっている。

 

かつてのオールマイトとエンデヴァー率いるトップヒーロー達によってリーダーであるリ・デストロとほとんどの幹部を含む構成員が逮捕された。

 

だが残った残党が年月をかけて再び集まり力をつけていっていることがわかった。

 

・・・・そしてさらに、その裏にはオールフォーワンの存在も確認されている。

 

ギガントマキアに加えて凶悪なヴィラン達を従えているのもわかった。

 

これによって転弧たちトップヒーローはあちらに集中せざるを得なくなった。

 

こちらの作戦を遅らせることも検討したが、オールフォーワンが出現すれば混乱が必ず起こる。

それに乗じて逃げられでもしたらもう治崎たちの行方を追うことは出来ない以上、ここしかなかった。

 

・・・・私が見た予知が脳裏に過る。

 

正確にはわからないが私の見た予知と時期もおそらく一致している。

 

この戦いで転弧が死ぬ可能性が高い。

 

・・・・それなのに私は。

 

「っ!」

 

ダメだ、今は任務に集中しろ。

向こうにはオールマイトとエンデヴァーもついている。

 

彼らならば予知など変えてしまうに違いない。

 

・・・・そうに決まっている。

 

「・・・・歪に作られた壁がある、あれを壊してくれ」

 

「わかりました!!」

 

通路を塞ぐ壁をレッドライオットが破壊する。

すると通路から視界が開け、広い空間が姿を現した。

 

そして同時に視界に飛び込んできた状況に目を見開く。

 

倒れている側近三人、そしてボロボロの治崎。

 

歪な壁に覆われた空間。

 

そして

 

「エリ、ちゃんは、後ろにいます」

 

満身創痍のミリオと彼女の姿。

 

「奴の個性を消した!一気にたたみかけるぞ!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

「まかせい!!」

 

私がミリオ達の救助に向かう間にイレイザーヘッドが治崎の個性を消し、ファットガム、ロックロック、レッドライオットが攻める。

 

それに反撃をしようと治崎が手を地面に当てるが当然何も起こらない。

だが、個性を消されたことに気づいた治崎が次の手を打つ。

 

「ちっ起きろクロノォ!!」

 

瞬間、イレイザーヘッドに敵の攻撃が入る。

それによって隙が生じ、治崎が個性を取り戻す。

 

「全て無駄だ!!」

 

瞬間、地面が砕け無数の巨大な棘が出現する。

私はミリオと彼女を抱いて下がり、状況を分析する。

 

ファットガム、ロックロック、レッドライオットは無事。

警察の人達は開けた通路にいて無事。

 

だがイレイザーヘッドがいない、さっきのでどこか別の場所に移動させられたか。

 

「レッドライオット!警察の人達と共に二人を安全なところへ!」

 

「させるわけがないだろ!!」

 

再び放たれる分解と修復による攻撃。

それを前に出たファットガムとロックロックが防ぐ。

 

「いくらトゲ攻撃をしようと全部俺の身体に沈むだけや!」

 

「ああ、俺もトゲを止めて防げる。今のうちに早くいけ!」

 

2人に頷いてレッドライオットがミリオと彼女を抱えて離れる。

そうしてる間に奴が動いた。

 

「・・・・ああ、本当に鬱陶しい。こんな奴らに俺の計画を台無しにされてたまるか」

 

そう言って奴は近くに転がっていた味方と、そして自分自身を分解した。

 

そして。

 

「っなんだよこの化け物」

 

ロックロックから漏れた言葉に内心で同意する。

自らと仲間を砕いた奴は修復、合体し異形の存在へと成った。

 

「壊理を返せぇ!!」

 

その言葉と共に放たれる分解の力、だが異形になろうと二人は防ぐ。

そして私が遠距離から攻撃をしつつ敵の腕を折る!

 

『お前らの個性と発動条件を教えろ』

 

そうしてうまく相手の攻撃を捌く最中、奴の腕から口が生えてそう告げた。

 

その言葉を聞いた瞬間、私達の口が勝手に話し始める。

これはリストにあった別の者の個性。

 

まさか合体した相手の個性も使えるのか。

 

っっ、しまった、私の個性と発動条件がバレた。

それだけじゃない、他の二人の個性と弱点すらも。

 

「なるほどな。そいつら二人は直接触れちまえば終わりだな」

 

そう言って治崎がこちらに突っ込んでくる。

しかも奴は個性を使い私達に話をさせ続けてくる。

 

戦闘の最中に、これでは息継ぎのタイミングが。

 

「ぐぁ!?」

 

ロックロックが地形変化によって生まれたトゲを捌ききれずくらってしまう。

それをカバーするためにファットガムが壁になる。

 

そしてそれを予測し奴は彼を直接触れて殺そうと動いた。

 

「―――――っ」

 

口を動かしながら特殊押印を飛ばして奴をけん制する。

それが奴の腕に直撃し折るが、異形と化した奴には四本の腕がある、これでは止まらない。

 

「死ね」

 

治崎がファットガムに触れる。

 

瞬間、彼が弾け飛ぶ姿が脳裏に浮かんだ。

 

しかしファットガムの身体は弾け飛ばず、服の一部が壊れただけだった。

 

あれは触れていない、服に触れただけだ。

 

「はっ!脂肪の燃焼による煙で気づかんかったか!俺は今痩せて服のサイズが合ってへんねん」

 

見ればファットガムの姿が変わっていた。

痩せており、そして右手には強大な力が集約されているのが見えた。

 

だが体格に合わなければ当然服は落ちる。なのに服は落ちず膨らんだままその場にとどまっている。

 

・・・・いやそうか、ロックロックの個性で服を固定させて騙したのか。

 

「お前の攻撃で溜まったエネルギー、全部返すわ!!」

 

その言葉と共に右手を治崎に向けて振り抜く。

しかし。

 

「その技はさっきお前から聞いた」

 

渾身の一撃は無情にも躱される。

そして躱され無防備になった彼に今度こそ手を伸ばす。

 

「させん!」

 

「施錠解除!」

 

私が押印を飛ばし腕を止め、その隙に個性を解除したロックロックがファットガムを引っ張り腕から遠ざける。

しかしそれでも奴は止まらない。

 

「その状態だと個性は死んだも同然なんだろう?」

 

そうして再び訪れる地形変動による攻撃が二人を襲い飲み込む。

 

「「がっ」」

 

飲み込まれた二人のいる場所から鮮血が舞った。

 

「・・・・くっ!」

 

それを見て自分の無力さに歯を食いしばる。

 

せっかくミリオがこれまで頑張ってくれていたというのに、こんな。

 

二人への攻撃の隙に治崎に接近し触れる。

 

これで私の個性の発動条件は達成した。

 

私の頭に先の未来の映像が流れてくる。

一秒先の未来を見る、そして敵の行動を読み躱し反撃する。

 

遠い未来を見る必要などない。一秒先の未来を見て倒す。

 

極限の戦闘をこなす最中、私の脳内に走馬灯のように記憶が蘇る。

 

オールマイトとの出会い、そして別れ。

 

そして転弧との出会い。

 

『貴様が志村転弧か』

 

『うん、そういうあなたはサー・ナイトアイだよね』

 

最初は決して仲は良くなかった。彼にはユーモアの欠片もなくただただ非力な子供に見えた。

 

オールマイトのような力強い笑みなどではなく、優しい微笑み。

 

その微笑みを守るべきものたちに向けるのはわかる。だが奴はあろうことかヴィランにさえ向けた。

 

理解できなかった、そいつを救う暇があるのならもっと救うべき者達がいるはずだと彼に言った。

 

そんな私の言葉に彼は言う。

 

『でもそれじゃあ、彼らのヒーローには誰がなってあげられるの?』

 

そう言って彼は私の目を見据える。

あの時の彼の瞳からはオールマイトと同じ強い信念を感じられた。

 

『ならなきゃ、ううん、なりたいんだ。彼ら(ヴィラン)のヒーローに』

 

その言葉と微笑みを私は忘れることはなかった。

 

そうして共に任務をこなす時、転弧が大怪我をした。

大したことのないヴィラン、そんな相手に彼が歩み寄り、結果重傷を負うことになる。

 

『・・・・』

 

彼の事務所には優秀な治療班はいる、怪我は治る。

しかし、彼は時たまこのような大怪我を負って帰ってくる。

 

彼の力なら一瞬で決着がつけられるというのに、その力を行使しない。

その結果、そのヴィランの心は救われたかもしれない、だがこんなことを続けていたら彼の身が持たない。

 

『・・・・』

 

病室で眠る彼の身体に触れ、予知を発動させる。

オールマイト同様、彼にも自分の未来は見なくていいと言われていた。

 

しかし怖かった、安心したかった。

 

未来で変わらず優しい微笑みを浮かべる彼の姿を見たかったんだ。

 

だが、未来は最悪を示した。

 

重傷の状態で崩れゆくオールフォーワン。

 

相対するのは無傷に近い状態の転弧。

 

彼はワンフォーオールの力を使いこなし、あの巨悪を圧倒した。

 

その形を失い消えていくオールフォーワンはその手を彼に伸ばす。

 

『―――――』

 

『―――――』

 

予知では話している内容までは見れない。

 

しかし二人が何かを話した後、転弧は崩れる奴の手を掴んでしまった。

 

数秒もしないうちに消えていくはずなのに。

 

『―――――』

 

掴んだ手を見たオールフォーワンは笑い、何かを言った後、その姿を消す。

 

その後、突如として転弧は血を吐き出し倒れ伏す。

 

血は止まらず彼の倒れる地面は血だまりが出来上がり、やがて彼の瞳から光が消えた。

 

ここで予知は終わる。

 

強制的に予知が終わる、それは彼の死を示していた。

 

自分の安心のために見てしまった最悪の未来。

今までどんなに足掻いても未来の結果は変えることが出来なかった。

 

・・・・恐ろしい考えが頭を過った。

 

私が未来を見ることでその者の未来を決定してしまっているのではないかと。

 

 

 

ならば、彼を殺したのは―――――。

 

 

 

 

「終わりだ」

 

「・・・・っ」

 

奴の生み出したコンクリートのトゲが私の胴体を貫き、右腕を吹き飛ばす。

身体を襲う激痛に歯を食いしばりながら未来を見る。

 

「・・・・未来を、みんなが助ける未来を」

 

縋るように覗いた未来の終着点。

 

 

それは血で濡れていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・ぁ」

 

僕の口から無意識にそんな音が漏れた。

視界に映るのは身体をトゲに貫かれたナイトアイ。

 

彼の右腕が僕の視界の端で飛んでいく。

 

そのまま呆然としながら周囲を見回す。

ぐちゃぐちゃに変形した空間の中にいるのは治崎、そしてナイトアイ。

 

そして血だらけで動かないファットガムとロックロック。

 

視界の奥では切島君が泣きながらファットガムたちに向けて走っていた。

 

状況は理解している、けど頭に入ってこなかった。

 

「また誰かが来たか。しかし・・・・ずいぶんと遅れてきたなヒーロー」

 

僕に気づいた治崎がそんな言葉を僕に投げる。

それを受け取った瞬間、目の前の状況に感情が追い付いた。

 

「なに、してるんだ、治崎ぃぃぃ!!!!」

 

「その名は捨てた」

 

その瞬間、僕に向かって襲い掛かる分解の衝撃波。

それに対し僕も地面に手をつける。

 

「手加減はなしだ!!!」

 

普段かけている崩壊のリミッターを外す。

僕の制御下を離れた崩壊の力は一瞬で地面を割り、治崎の分解とぶつかる。

 

「っ!?なんだと」

 

分解し攻撃的な形に修復された床は僕の崩壊に触れて粉となっていく。

そしてそのまま治崎のところまで迫った。

 

「ちぃ!!」

 

再度分解を発動させ僕の崩壊の波と自分のいる範囲と分断し防がれる。

 

「っぁ、はぁ」

 

手を襲う強烈な痛みに顔をしかめる。

崩壊のリミッター解除。

 

個性の制御をあえて捨てることで暴走させ、崩壊の速度と範囲を一気に上げることができる。

これを使うと崩壊させたくない場所は選べないし身体への負担も大きい。

 

だけど今はそんなことどうでもいい。

 

あいつを倒せればそれでいい!

 

「お前だけは許さないぞ治崎!!」

 

「鬱陶しい、英雄症候群の病人どもが!!」

 

迫る地形攻撃に崩壊を当て崩す、そして治崎が生んだ障害物によって僕を視界から外す。

その隙に腕に取り付けたサポートアイテム『黒鞭』を使い天井へと飛び上がる。

 

このサポートアイテムは転弧さんの黒鞭を参考にサポート科に作ってもらったものだ。

腕に取り付けた装置から伸縮するゴムを飛ばす、その先端は吸着するようになっていて何かに触れるとくっつく。

 

役割は移動手段と僕の手が届かない場所にいる相手に触れられるようにするため。

 

障害物で視界から消えて僕が天井に移動したことに相手は気づいていない。

このまま天井から奴に触れて無力化する!!

 

『お前の個性について教えろ』

 

「僕の個性は崩壊、五指で触れた物を崩壊させることができる。っ!!?」

 

「そこか」

 

突如として僕の口が勝手に動き個性について話し始める。

しかもその声で治崎に場所がバレた。

 

この個性はリストにあった別の人間の個性のはず、どうして治崎が使えるんだ。

 

「ぐっ」

 

攻撃が来る前に黒鞭を別の場所に飛ばして移動する。

くそ、もうこの技での奇襲は使えない。

 

「崩壊か、どんな個性かと思えば俺の下位互換。お前の力じゃ俺に勝てない」

 

「・・・・」

 

確かに治崎の言う通りだ。

 

向こうは分解した後に修復が出来るのに対し僕は崩壊させるだけ。

 

その崩壊の出力さえも無理をしなければ相手に負ける。

 

完全な上位互換。

 

「・・・・だとしてもここで諦めてたまるかよ!」

 

何か策を考えろ。

状況が悪い、重傷者が多すぎる。

 

ファットガムにロックロック、特にナイトアイは今すぐ手当をしないと。

 

エリちゃんはどこだ、先生は、通形先輩は、警察の人達も姿が見えない。

 

「緑谷、無事だったんだな。よかった」

 

「切島くん、悪いけど状況の説明を」

 

「っ、ああ」

 

涙を流した切島くんから説明を受ける。

エリちゃんと重傷の通形先輩は警察が保護、先生は分断され姿が見えない。

 

そしてあの異形の姿の治崎は他の人間と融合した結果。

 

「治崎は僕が倒す。切島くんはナイトアイたちを避難させて」

 

「何言ってんだよ!俺も一緒に『壊理!!お前のせいでまた人が死ぬぞ!!これが望みなのか!』

 

そう叫んだ治崎が地面を分解させながら突っ込んでくる。

それに対し僕も崩壊を発動させ相殺。

 

今、エリちゃんは警察と一緒、いくら叫ぼうと問題ない。

 

治崎も遠距離攻撃じゃ埒が明かないと判断して直接触りにきた。

それは望むところだ。

 

「行って切島くん!!」

 

「~~~っ!!ああ!!わかったよちくしょう!!」

 

切島くんと別れて僕も治崎に突っ込む。

 

よく見ろ、敵の動きを、次の行動を!

 

「・・・・右、からの分解」

 

敵の腕をしゃがんで躱し、同時に他の腕からの分解に崩壊で対応する。

そして相手に触ろうとしたところで出現したトゲに阻まれる。

 

それを崩壊で防ぎ数歩距離をとる。

 

大丈夫、かっちゃんよりは遅い。

 

爆破を使った高速戦闘を相手に動体視力はずっと鍛えて来た。

 

手数が多かろうと崩壊を使えば対応できる。

 

「・・・・左の大振り、地面からの攻撃」

 

相手の攻撃をインプットして癖を探す。

一度、一度でいいから治崎に触れる。

 

その時に崩壊の波を骨じゃなくて脳に流す。

 

・・・・これは下手したら障害が残る可能性だってある危険な技だ。

 

脳に崩壊の波を送ると危険を察した脳は強制的に意識を落とす。

 

これは危険だから他人には試せず自分で練習してきた。

バレたら怒られるどころじゃすまないからこっそりとだけど。

 

危険な技だけど今はこれしかない。

 

「・・・・何か企んでるな『何を企んでるか教えろ』

 

「加減した崩壊を脳に流して強制的に気絶させる、っっそれ卑怯だぞ!!」

 

強制的に作戦をバラされて思わず叫ぶ。

でもこの技に関しては相手に気づかれても関係ない。

 

「知っていてもこの技は食らえば防げない!」

 

個性や技を知られるなんてプロになれば前提条件。

知られても対策出来ないのが強さだ!

 

「互いに触れたら勝ちの試合、それなら腕が多い俺の方が有利だよな」

 

「いいや、僕の方が有利だ」

 

生まれた時から腕が四本あったわけじゃない。いきなり腕が四本増えてもそれを自在には操れない、むしろ意識が割かれ動きが鈍る。

 

動きの読み合いはおそらく互角、身体能力はパワーは向こうが上で身軽さは僕が上。

 

勝負は五分、相手を欺いた方が勝つ。

 

「っ」

 

出現した壁を砕き、後ろに下がる。

ふさがった視界、その死角の左右から変形した地形が襲い掛かってくる。

 

崩壊を下に集中し、穴を掘ってそこに一瞬隠れやり過ごす。

 

『どこに――――』

 

声を聞き終える前に崩壊の音で奴の声をかき消す。

僕が聞こえなければ個性は発動しない。

 

そのまま相手の足元に崩壊を流し崩す。

その瞬間に穴から飛び出し、黒鞭も駆使して一気に接近する。

 

「ぐ!?」

 

虚をついた隙を使い治崎の腕に触る。

しかし、その腕は僕が触る前に分解され消える。

 

「自分の腕を」

 

「問題ない、すぐに修復できる」

 

「っまだ僕の方が早い!!」

 

分解を腕に使った時間を使い再び腕を振るう。

でも隙をついていない攻撃は躱される。

 

だからこれは囮だ。

 

触れたら終わりの手、誰だってそこを警戒する。

 

でもそれは逆に言えば他の警戒が緩くなっているということ。

 

僕の戦闘スタイルは手、でも・・・・足技がないとは言っていない!

 

「っ!?足を」

 

右腕を右から左に大振りし敵の注意を左に送る、そしてそのまま腕を振った勢いを利用して右足で一気に蹴り抜く。

 

「スマァァァァシュ!!」

 

相手の顎へ特殊なブーツを履いた足を叩きこむ。

これもサポートアイテム、強化シューズ。

 

こういった手を囮にして足技を使うために蹴力を強化してくれる発目さん作のベイビーだ。

 

入った。

 

相手を気絶に持っていく蹴り技はグラントリノから文字通り身体で教え込まれた。

確実に決まったという確信があった。

 

しかし。

 

「・・・・一手遅かったな」

 

一瞬白目をむいた治崎だったけどすぐに意識を取り戻した。

見れば腕の一本が奴自身に触れていた。

 

・・・・気絶する前に自身を修復してダメージを消したのか。

 

逆に隙を作ってしまった僕に治崎の手が伸びる。

 

「まだだ、まだ諦めない」

 

左腕に取り付けていたサポートアイテムから黒鞭を出して遠くの壁に吸着させ引っ張り、身体を引き寄せる。

それによってギリギリ治崎の腕を躱す。

 

「逃がさん」

 

「っ!?」

 

治崎の手から出現したトゲが僕の腕と足を貫いた。

小さな破片になっていたコンクリートを修復したみたいだ。

 

痛みに耐えながら黒鞭に引っ張られてそのまま距離をとる。

 

・・・・利き腕の右腕と左足を貫かれた。

 

「・・・・っっ」

 

痛みを無視して動かそうとするけど痙攣するだけで動いてくれない。

神経がやられた?どっちにしろこれじゃあ右手の崩壊が使えない上に移動が出来なくなった。

 

震える右腕を押さえながら治崎を睨む。

ここで僕が倒れたらエリちゃんを追いかける。

 

絶対にここに留めて置かないとダメだ。

 

「・・・・やっと来たか壊理」

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いて治崎の視線の先を追う。

そこにはたった一人で通路から出て来たエリちゃんの姿が見えた。

 

どうして戻って、警察は。

 

通路の奥に目をやれば警察がヤクザと戦闘をしているのが見えた。

この隙に戻ってきてしまったんだ。

 

エリちゃんは僕の様子を見て顔を青ざめさせている。

 

まずい、すぐに引き返すように言わないと。

 

「エリちゃん!」「もう遅い」

 

瞬間、エリちゃんのいた地面が盛り上がり、治崎がいるところに彼女が飛ばされる。

ダメだ、このままじゃエリちゃんが治崎のところに。

 

「っ、さ、せるかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

両足に力を込め、地面を踏みしめる。

貫かれて穴があいた左足から血が噴き出すけどそんなことはどうでもよかった。

 

動け、動けよ!!今駆け出さなくて何がヒーローだ!!

 

彼女に治崎の腕が触れそうになる、その光景を見た瞬間。

 

「っあああぁぁぁっぁあ!!!」

 

僕の中で何かが切れた音がした。

それは堪忍袋の緒だったのか足の神経だったのかその両方だったのかもわからない。

 

けれど次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()でエリちゃんの元へ駆け出していた。

 

その速度を以て治崎の腕がエリちゃんを掴む前に彼女を抱いて離れる。

 

『・・・・なんだその速度は』

 

「ぐぅっ、エ、リちゃんは、渡さない!!」

 

高速移動の勢いそのままにエリちゃんを抱いて治崎から離れる。

 

個性を使って僕に聞き出そうとするけど勝手に口が動くことはなかった。

なぜなら僕自身も理由がわからないのだから。

 

……さっきの移動、速かったけど代償付きだったみたいだ。

 

無事だったはずの右足がひしゃげてる。

その痛みに顔が歪みそうになるのを耐えてエリちゃんを抱いて治崎から隠す。

 

「・・・・なんで、もうやめて、殺されちゃうよ」

 

見ればエリちゃんは震えながら泣いていた。

その様子を見た治崎が個性によりエリちゃんの心を暴く。

 

『壊理、こいつ一人でこの状況をなんとかできると思うか?』

 

「・・・・思わない」

 

そう言って俯く彼女はさらに震えを増す。

そして僕を掴む手を緩め始めた。

 

『なら、お前はどうするべきだ?』

 

「・・・・戻る。だから、みんなを元に戻して!」

 

そう言ってエリちゃんは僕から離れ治崎の元に向かおうとする。

 

それを僕はより強く彼女を抱いて引き留めた。

 

「っ、なんで、離して!このままじゃお兄さんが殺されちゃう!」

 

エリちゃんの身体は震えていた。

怖いはずだ、怖いに決まってる。なのに僕らのために治崎のところに行こうとしている。

 

泣きながら僕を見る彼女に僕は当時の僕を思い出した。

 

個性に目覚め、かっちゃんを傷つけ、恐怖の象徴のような男が目の前に現れた。

 

あの時ほど怖くて震えた日はなかった。

 

そんな時に僕に転弧さんは。

 

 

 

 

 

「―――――大丈夫だよ。僕がエリちゃんを守るから」

 

 

 

 

「・・・・え」

 

「僕も死なない、治崎を倒してみんな助ける」

 

微笑んで告げたその言葉にエリちゃんの涙が止まる。

 

あの時、怖くてどうしようもなかった時。

 

彼の微笑みとこの言葉であれほど怖かった気持ちが吹き飛んだ。

 

この身で体験したからこそわかる、微笑みと言葉が安心を与えてくれるということを。

 

あの時もらった温もりを今度は僕がエリちゃんに送ろう。

 

「守る?そんな個性で何を守る、お前の力は人を壊す力だ」

 

「違う」

 

僕だって最初はそう思った。

でも優しい人が違うと言ってくれた。

 

ヒーロー向きの個性だって。

 

これは誰かを傷つけるための力じゃない。

 

 

この個性は。

 

 

「僕のこの個性は、泣いてる子を守るための力だ」

 

「・・・・っ」

 

「病人が、だったら守ってみせろ!!」

 

そう言って地面に触れた治崎が個性を発動させ地面を分解させ僕らを襲う。

それに対し、僕も崩壊を発動させて力を衝突させる。

 

「・・・・ふー」

 

崩壊を発動させた右腕から血が溢れる。

どうにかしてこの腕と足を動かせるようにしないと戦えない。

 

さっきの限界突破の脚力の理由がわかれば少しは起死回生のチャンスになるかな。

 

作戦を模索している最中、僕の視界に光が漏れた。

 

「エリちゃん?」

 

その光はエリちゃん、正確には彼女の角から漏れていた。

 

彼女から発せられたエネルギーが僕へと移るその瞬間、変化が起きた。

 

「うわっ!?」

 

手から伝わる崩壊の感覚が変わったのだ。

突然の変化に驚きながらも力を維持する。

 

すると感覚だけじゃなく視界でも変化が起きた。

 

「地面が」

 

崩壊によって崩れていた地面が歪な形となって戻ったのだ。

 

それはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これは崩壊の個性に何か変化が?

その変化を見て慌てて左手で支えていたエリちゃんをいったん地面へと降ろす。

 

個性発現時のように個性が暴走して彼女を崩壊させたなんて笑えない。

 

彼女を下ろして自分の身体を確認し、さらなる変化に気づく。

 

怪我をしていた右腕と左足が元に戻ったのだ。

それ以外にも痛めていた身体の怪我全てが治っている。

 

これはまさか。

 

「エリちゃん、君の個性なのか」

 

「・・・・」

 

僕の言葉にエリちゃんは答えない。

しかし、その答えを治崎が口にした。

 

「巻き戻す。それが壊理だ、触れたもの全てが『無』に巻き戻る。呪われてるんだよそいつの個性は」

 

その言葉にエリちゃんが震える。

それを見て、僕は。

 

「・・・・何を言ってるんだ?」

 

治崎の言葉に僕は睨みつけながら返す。

ボロボロだった身体が元に戻った、これはきっと彼女がそう願ったからだ。

 

願いに個性は応える。

 

「僕の怪我を治してくれた、彼女の願いに個性が応えたんだ。とっても優しい個性じゃないか」

 

「・・・・っ」

 

言葉を治崎に返しながら考える。

身体の変化はエリちゃんの個性でわかる。

 

でも、『崩壊』の個性の変化はなんだ?

さっきまでと今ではうちに感じる個性の力が明らかに違っている。

 

まるで全く違う『個性』が中で生まれたような感覚だ。

 

「・・・・」

 

エリちゃんの個性は『巻き戻し』。

 

だとしたら一体、()()()()()()()()()()

 

「っぐぅっ!?」

 

いくつもある疑問に答えを出す前にさらなる変化が僕を襲う。

まるで内側から引っ張られるような今まで感じたことのない感覚。

 

「力が制御できていないんだ、偶然発動は出来たが止め方がわからないんだろう。俺に渡せ、分解して止めるしか方法はないぞ」

 

「絶対やだ」

 

エリちゃんを背負い、黒鞭で僕に巻き付ける。

個性についてはわからない、これから探っていくしかない。

 

だけど、いきなり増強系個性以上の力を出せたのは予想がついた。

 

偶然でも発動できたことで感覚は覚えてる、使えるはずだ。

 

「エリちゃん、力を貸してくれるかい」

 

僕の予想通りならこれを使えばさっきみたいに身体が壊れる。

 

だけど、エリちゃんの力があればそれをノーリスクで使える。

 

・・・・崩壊のリミッターを外すように、脳が身体にかけているリミッターを外し、いや壊す。

 

 

 

 

 

「リミットブレイク」

 

 

 

 

 

 

緑谷出久。

 

彼の予想は正解だった。

 

人は生命の危機に瀕した時、普段かけているリミッターを解除し100パーセントの力を解放できる。

 

それは火事場の馬鹿力と呼ばれるものだ。

 

普段使えている人の力とはどれくらいか、いくつか答えは出ているがそれは未だ断言はされず年月が増すたびに答えが塗り替えられている。

 

特に現代、個性因子を宿した人間においては。

 

例えば脳無という例がある。

 

肉体改造によってあれらはオールマイト並みのパワーを誇る。

あれらは死体、リミッターなど存在しないのだ。

 

それは個性を使わなくても肉体改造だけで人はそこまで到達できるという証明だった。

 

だがそれは当然死体であり、肉体改造をした脳無だからこその芸当。

 

普通の人間がリミッターを解除できるのは()()()()()()()()()()()()()などの限定的な状況くらいしかない。

 

だが、緑谷出久はその限定的な状況を何度も体験していた。

 

彼が生み出した、脳に崩壊の波を送り、強制的に気絶させる技。

その訓練をあろうことか彼は自分の身体で練習していたのだ。

 

それだけでなく骨を脆くさせる訓練も自分で試し続けそれを体得。

 

一歩間違えれば死を迎える身体。

 

崩壊の波が身体を駆け巡る度に彼の脳はそのうちに宿るリミッターに亀裂を入れていく。

 

そして治崎との戦闘を経て、そのリミッターは壊れるに至った。

 

それが彼の身体に起きた変化の一つ目。

 

そしてその変化はもう一つある。

 

二つ目、それはその個性『崩壊』について。

 

これは今はまだ緑谷出久の知らない事実。

 

彼の個性が生まれ持った個性ではなく、オールフォーワンによって与えられた個性であること。

 

それも明確な悪意をもって。

 

悪意をもって与えられた個性『崩壊』、それの元の形は違っていた。

 

巨悪はある個性の『複製』から本来あった因子の一部を抜き取り、その個性の形を歪ませた。

 

可逆性を取り払われた個性は破滅の力のみを宿し、その個性の名を『崩壊』へと変えた。

 

個性『オーバーホール』。

 

治崎の持つ個性、それこそが『崩壊』の原型。

 

本来であれば『崩壊』が元の形を取り戻すことなどなかった。

 

だが、その理を壊す存在と出会ってしまった。

 

壊理、個性『巻き戻し』。

 

その個性の力が彼に宿る個性へと触れた。

 

かすかに残っていた可逆性の因子の一欠片、それが『巻き戻り』、本来の形を取り戻していく。

 

それは、彼女の願いが運んだ奇跡だった。

 

こうして緑谷出久の個性は巻き戻り、その本来の『個性』へ姿を取り戻す。

 

奇しくもオリジナルを持つ相手と敵対するタイミングで。

 

泣いている少女を救うため、ヒーロー(レプリカ)は今、ヴィラン(オリジナル)へと挑む。

 

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