『お母さん、これほしい』
『・・・・ダメ、エンデヴァーは高い』
外に出たいと騒ぐ俺に母は一度だけ外に連れて出してくれた。
連れていかれたおもちゃ売り場、そこのヒーローコーナー。
俺は人気ヒーローのエンデヴァーのぬいぐるみを欲しがったが、買ってもらえず代わりに安売りされていた鳥のぬいぐるみを渡された。
当然俺は文句を言ったけど、母は取り合ってくれず家に戻される。
『啓悟ォ!街に何ばしに行った!!バレんと思ったか小賢しい!!』
そう言って父は俺を殴る。
父は昔、端金欲しさに人を殺し、母が父を匿い俺を生んだ。
父も母もぶっ壊れてたから、こうはならないとじっと耐えていた。
『・・・・』
助けてほしいと思ったことは何度もあった。
でもヒーローがいるのはテレビの向こう側、アニメと変わらない架空の存在で俺のところに助けには来れない。
だから俺はじっと耐えた。こうはならないと、正しい人であろうと。
そんな時、転機が訪れた。
『あん人、捕まっちゃったって』
母は茫然としながらそう口にする。
捕まえたのは、エンデヴァーだった。
瞬間、架空は現実となった。
こんな母に生活能力がなく、俺の救助活動をたまたま見ていた公安に俺が入ることを条件に母の生活を保障することとなった。
『辛いトレーニングになるだろうけど、大丈夫かい啓悟くん』
『・・・・その前に、どうしてもほしい物があります』
母と別れた俺は以前に連れてきてもらった店に入り、おもちゃコーナーを進む。
そして、母には買ってもらえなかった物、エンデヴァーのぬいぐるみを手に取る。
それを公安の人に買ってもらい、受け取ったぬいぐるみを抱きしめる。
『・・・・俺も、この人みたいになれますか?』
俺の質問に頷いたのを見て、進む道を決める。
ここがオリジンだ、この人のようになりたいと願い、俺は今も進み続けている。
◇
『どーもー、公安所属ヒーローのホークスでーす』
瞬間、俺の額に銃口を突き付けられる。
うんまぁ、そうなるよね。
『・・・・公安のヒーローが今更私らに何の用だ?』
『とりあえず、銃口を下ろしてくれません?』
両手を上げ、砕けた調子で笑いながらお願いする。
俺の調子を見て、レディ・ナガンは警戒しながらも腕から出た銃を下ろしてくれた。
流石にいきなり過ぎたか、でも来るなら早くしたかったんだよな。
『いや特別用はないんです。ただ元同業者に挨拶をしておこうと思いまして。ほら、こういうのは早い方がいいでしょ』
本当はもっと早く会いに行きたかったけど、公安の目を盗んで接触するとなるとタイミングが。
俺の言葉に彼女は目を細めて答える。
『それを素直に信じられるほど、公安を信用してねぇんだよ私は』
『まぁそうでしょうね。公安からは二人には関わるなって言われてますし、俺の正体もバラさないように言われてます』
『バラしてんじゃん』
俺の言葉にトゥワイスがツッコむ。
実際俺がここにいるのは独断だ、言わないように指示されているのも本当。
『だからこれは秘密でお願いします。じゃ、俺の用はそれだけなんで』
『は!?それだけ!?』
彼の驚きに笑いながら翼を広げて飛び立つ。
本当に用はそれだけだ。
俺はただ、二人にこのことを言わずだまし討ちの様なことをしたくなかっただけ。
調べた限り、彼女達が公安の機密を漏洩させたりはしていない。
ただ、いつか上司から二人のことを探れなんて命令が来た時に騙して聞くなんてことはしたくない。
それだったら俺の正体をバラして堂々と聞きに行く。
そのために今日は二人に会いにきた。
『今度は飯でも行きましょ。うまい飯屋紹介します』
『・・・・』
俺の言葉に彼女は答えない。
まぁ、最初はこんなところでしょ。
その反応に苦笑いを浮かべながら飛び立つ。
さーて、任務に戻りますかね。
最近は特に忙しい、なにせオールマイトが引退した年だ。
その分ヴィランの犯罪率が上がってる。
平和の象徴がいなくなってヴィランが活性化しているんだ。
でも、こんなのはすぐに収まる。
なにせ次にNo.1になったのは。
『っと、メールか』
携帯のバイブレーションを感じて目を通す。
そして、届いたメールの内容を読み目を見開く。
『・・・・マジっすか』
送信先を再度確認した後にそんな言葉が俺の口から洩れる。
内容は理解できる、けど。
『・・・・やれやれ、デビューしたてのヒーローをこき使いますね』
携帯を閉じて笑う。
とあるヒーローからのチームアップ要請。
しかも任務の内容はなかなかにハードそうだ。
正直まだ会うことはないと思っていたけど、来たからには断るわけにはいかないな。
俺の憧れが困ってる、だったら手を貸さないわけにはいかないでしょ。
◇
『・・・・』
『ここの焼き鳥マジうまいっすね』
『ああ』
店員さんが運んでくれる焼き鳥をどんどん手に取り食べていく。
エンデヴァーさんにつれてきてもらった店、俺好みの味だ。
黙々と食べるエンデヴァーさんと手に串をいくつも持ちながら頬張る俺。
そして、それを無言で眺める燈矢くん。
『燈矢くん、食べないんっすか?だったらもらっていいっすよね』
食が進んでいない燈矢くんの前にある皿から焼き鳥を拝借する。うん、うまい。
そうしていると、燈矢くんが小刻みに震え始める。
『・・・・なん』
『え?』
『なんでこうなったーーー!!!』
俺達三人がいるテーブルを叩きながら立ち上がった燈矢くんが吠える。
それを聞いてもエンデヴァーさんは無言、代わりに隣のテーブルで他のヒーロー達とテーブルを囲っていたバーニンが注意をしていた。
『燈矢うるせぇぞ、ここは事務所じゃねぇんだからな』
『これが黙っていられるか!なんでてめぇがいるんだホークス!』
『そりゃエンデヴァーさんが晩御飯おごってくれるって言うからですけど』
吠える燈矢くんに俺は理由を答える。
ていうかここにいる全員が同じ理由でしょ。
『うぐ、お父さん、なんでこいつを』
『・・・・これからしばらくの間、ここにいる全員に無理をかけることになる。これはその労いの一環だ』
燈矢くんの質問にエンデヴァーさんは静かに答える。
わかりきっていたその内容を聞いて燈矢くんは言葉を詰まらせる。
エンデヴァーさんの事務所、そして燈矢くんの立ち上げた事務所に俺のところ。
他にも多くのヒーローがここにいる、全員が今回彼が要請したチームアップメンバーの方々だ。
『オールマイトが引退し、これからしばらく日本は荒れるだろう。新たにトップとなった俺一人の力でそれを抑えられればよかったが、そうはいかん。みなの協力が必要だ』
『・・・・』
エンデヴァーさんの言葉に全員が耳を傾ける。
ゆっくりと語るその声に聴く人たちの内側に熱が宿っていく。
語り終える頃には全員の目に力が宿っていた。
『・・・・だからってこいつを呼ばなくても』
ふてくされる燈矢くんに俺は笑いながら焼き鳥を突き出す。
それで俺を睨むが、そのままじっとしていればため息を吐きながら焼き鳥を受け取った。
『なぁ、なんで燈矢の奴はあんなにホークスを嫌ってんだ』
『あーなんか妙に縁があって会うんですよ。それでよく燈矢を煽ってキレさせてる』
『しかもあれだ、前回のチャートで燈矢は七位でホークスは八位。そしてホークスは初の十代でのトップテン入りで騒がれてて面白くねぇんだ』
『聞こえてんぞてめぇら!!』
後ろで小声で話すバーニン達の話を聞いて燈矢君が再び吠える。
面白くなって俺も話に加わる。
『まぁまぁ落ち着いて、支持率俺以下、七位の燈矢くん』
『よーし、表出ろ!焼き鳥にしてやる』
キレた燈矢君を後ろからバーニン達が取り押さえる。
羽交い締めにされた彼は、荼毘もなんか言え!なんでこいつの時は大人しいんだよ!と謎の発言を口にしていた。
そのまま燈矢くんのテンションに当てられて場は騒がしくなっていく。
俺も一緒になって笑い、みんな酒を飲んで酔っていった。
そんな中、エンデヴァーさんだけが静かだった。
◇
『うぐぅ、気持ちわりぃ』
『酔いやすいくせに飲み過ぎなんだよバカ』
バーニンの肩を借りながら項垂れる燈矢くん。
それを見て彼女は呆れながらため息を吐いていた。
力ない燈矢くんを見てエンデヴァーさんが口を開く。
『燈矢、うちに帰れそうか?』
『だ、大丈夫』
『あーいいですよエンデヴァー。私がこのまま運んで、うちらの事務所の仮眠室に放り投げとくんで』
明らかに大丈夫じゃなさそうな燈矢くんをバーニンがそう言って連れていく。
あれは二日酔いになるな、今度からかおう。
『エンデヴァーさんは家に戻るんですか?』
『いや事務所に戻る。お前は飛んで行かないのか?』
『やだなぁ、飲酒飛行は犯罪っすよ』
『飲んでないだろ』
エンデヴァーさんの指摘を笑って流す。
飛んで行かない理由?そんなの簡単だ。
少しこの人と話がしたかった、それだけだ。
『聞きたいことがあるんですけど、いいですか?』
『ああ』
『なんで新人でしかも面識もない俺にチームアップ要請をしたんですか?』
俺が八位だとしても、俺は新人でエンデヴァーさんと面識もない。
確かに今回の件は日本全てが対象だから九州を拠点にしている俺を呼ぶことも納得もできるけど、それでも俺である理由が思いつかなかった。
『お前の実力は信用できる。今回は特に速度が重要、それでお前を呼ばない理由がない』
『・・・・俺を信用ね。それってエンデヴァーさんの技にある『剛翼』が関係してたりします?』
『・・・・』
俺の質問にエンデヴァーさんは黙る。
彼とオールフォーワンの激闘で使い、それ以降になっても使う技。
その技を使った時、エンデヴァーさんの背中には炎の翼が生まれる。
まるで俺の剛翼と同じように。
別に俺のを真似したとは思ってない。
彼がそれを使っていた時、そもそも俺はデビューしておらずエンデヴァーさんは俺のことと認識すらしていない。
だからこそ、気になっていた。彼がその技にたどり着いた経緯を。
『・・・・昔、お前と似た男としばらく行動を共にしていた時期があった。あの技は、その男の翼を俺なりに再現したものだ』
彼は黙った後、ゆっくりと語り始めた。
それは俺の知らないエンデヴァーさんの過去だった。
『俺に似た男?へぇ、それは知りませんでした。その方は友達ですか?』
『・・・・いや、なんだろうな。仲間という表現が正しいか。俺が立ち上がれない時に支えてくれた大事な仲間だ』
そう言ったきり、エンデヴァーさんは口を閉じる。
俺もそれ以上は聞かず、やがて駅のホームに到着した。
駅に到着したところで彼と別れる。
去り際、彼は俺に向けて短い言葉を送った。
『ホークス、あまり抱え込むなよ。俺でいいならお前の力になる』
それだけ言って、エンデヴァーさんは俺の返事を待たず駅の中へ行ってしまう。
俺はしばらくその場から動かず、手で頭をかきながら小さく口を開く。
『・・・・本当、なんでそんなに俺のことを』
俺が公安に所属していることを知っている?もしかしたら俺の過去のことすらも。
彼の発言から様々な憶測が頭を過るが、頭を振って全て追い出す。
『もう十分支えてもらってますよ』
その言葉を残し、俺は上空へと飛び立つ。
ヒーローが暇になる社会を目指して。
◇
「・・・・妙だ」
周囲に飛ばした剛翼の羽から伝わる振動から周囲の状況を探知していく。
現状はヒーローが優勢。
奴さん達も強いがそれ以上にヒーロー側の実力が上回ってる。
警戒対象だった外典は今、燈矢くんが相手をしている。
戦況はこっちに傾いていっている。
だがその中に妙な連中がいる。
「・・・・日本のヴィランじゃないな」
見たことのないヴィランがチラホラ見える。
リストになかった連中だ、しかも実力が高い。
「邪魔だヒーロー!」
「はぁ!!いいなおい!楽しくなってきたじゃねぇか!!」
マスキュラーの攻撃を防ぎ、さらには口から光線を出して反撃するヴィラン。
それを身体に筋繊維を纏って防ぐマスキュラー。
ヤバいな。
あのマスキュラーと戦っている奴は特に。
フォローに行きたいところだが、マスキュラーの性格上厳しそうだ。
転弧くんならマスキュラーも何も言わないだろうけど、彼はまだ動かせない。
「強そうなヴィランがいるな!蹴っ飛ばす!!」
「っ!?」
その声と共に光線を吐いていたヴィランの口を上から蹴り、強制的に閉ざす。
あれはミルコか。
「ぐぁ!?くそ、やってくれたな」
敵は口から煙を出して呻く。
その隙に彼女は身体を捻り、その鍛え上げた足を奴に振り下ろした。
「ルナアーク!!」
頭に強烈なかかと落としを食らった相手は地面に亀裂を作りながら顔をめり込ませる。
それを見て、防御態勢だったため動けなかったマスキュラーが吠える。
「てめぇ!俺の獲物を横取りしやがったな!!」
「早い者勝ちだろ」
悪気無しでそう告げるミルコにマスキュラーのこめかみに血管が浮かぶ。
「ざけんな殺すぞ!じゃあ代わりにてめぇが俺の相手をしろ!!」
「いいぞ、生意気だな!蹴っ飛ばす!」
超至近距離で顔を突き合わせる二人、その下に倒れていたヴィランがゆっくりと起き上がったのが見えた。
・・・・あれは、もうあの二人に任せるか。
再び激戦が始まったフィールドから目を外す。
オール・フォー・ワン、それにギガントマキア。
この二人が出てこない限り、転弧くんは動かせない。
最前線に彼を出した場合、他の敵との戦闘の際に奴らが出てきたら対応が遅れてしまうからだ。
パワーのない俺ではせいぜい時間稼ぎが限度、まともに戦えるのは転弧くんと燈矢くんの二人ぐらいだ。
だからこそ、早く見つけたいんだけど、剛翼で居場所を感知できない。
なんだ、何を狙っている。
出現が遅れれば遅れる程、そっちが不利になっていくぞ。
「お!ホークスじゃねぇか!」
「二週間ぶり!」
「元気か?」
思考にふける俺に聞き慣れた声が届く、しかも複数も。
いやまぁ、剛翼で気づいてはいたんですが、マジっすか。
「増えたんですね」
空から地面に降りて彼に話しかける。
俺の言葉にいっぱいいる彼の中から一人が代表して答えた。
「おうよ!ここから俺の独壇場だ!お前も増やしてやるから待ってな!」
「いや今は採寸する暇ないでしょ」
彼の言葉に苦笑いを浮かべる。
まさかここに来て彼が本来の力を取り戻すなんて。
公安がなんて言うかな。
「あんまり増やしすぎて危険なことしないでくださいよ。あなたを捕まえるなんてのは勘弁です」
「わかってるって!これが終わったらまた飯行こうな!お前も早く公安やめてうちに来いよ!」
「ええ、うまい手羽先の店があるんで紹介しますよ」
彼の言葉に俺も笑顔で答える。
ほんと、危険なことだけはしないでくださいよ。
公安は現状、あなた達に対しては特にアクションを取る気はない。
俺が入る以前の公安のトップは部下を捨て駒にする人だったみたいで、危なかったが今は違う。
機密を言いふらさないならあなた達にはノータッチ。
せいぜい俺がたまに会いに行って監視するくらいだ。
このまま闇のことなんて忘れて楽しそうにやってくれてたらいい。
俺も協力する。
「さて、これでまたさらに俺らが有利だ。流石にそろそろ動いてくるはずだけど」
・・・・っと、言ってる傍から来たか。
羽が振動をキャッチする、いやこれはもう羽を使うまでもない。
足から伝わる振動で敵の隠れていた場所がわかった。
見つからないわけだ、奴は地面に潜っていたんだ。
「・・・・転弧くん!!」
俺が彼に連絡を入れるのとほぼ同時、地面から奴が現れる。
視線を上げて見上げるが、現れたヴィランの全容は地上では把握できない。
デカい、実物はここまで大きいのか。
ギガントマキア。
エンデヴァーさんから事前に情報は聞いていた、歩く災害だと。
確かにこのサイズで暴れられたら被害もバカにならない。
「ヒーローを壊す、それが主の命令だ」
そう言いながら奴は手を攻撃用に変化させ、こちらに向かって振り下ろそうとしてくる。
敵味方関係なく薙ぎ払う気か。
「おいおいやばいぞ!ホークス!お前だけでも飛んで逃げろ!」
「いやまぁ、大丈夫でしょ」
空を覆う手を見上げてそう口にする。
俺の言葉の後、疾風と共にギガントマキアに何かが飛来する。
瞬間、衝撃と共に手が弾かれ、空が再び姿を現した。
「流石ナンバーワン」
手を弾き飛ばした彼は黒鞭を伸ばしギガントマキアを拘束しようと動く。
何本もの黒鞭がギガントマキアの身体を回り、拘束が進む。
しかし、それを黙って受け入れるほど敵も甘くはない。
「主の指示を、ヒーローの殲滅を!!」
「・・・・すごい力だね」
純粋な腕力で、あの転弧の黒鞭を引きはがしていく。
完全に剝がされる前に、彼が次の手に移る。
「・・・・ワン・フォー・オール100パーセント+発勁+黒鞭」
一瞬で敵の懐に飛び込んだ転弧くんは黒鞭で腕を覆い、その後に紫電のようなエネルギーを纏い腕を振り上げる。
振りあがった拳はギガントマキアに接触すると同時に強烈な突風を起こし、ギガントマキアの巨体を上空へと飛ばした。
「しゅ、の指示、を」
腹にあの強烈な一撃を受けてなおギガントマキアは動く。
しかしさすがに堪えたのか、その動きはぎこちない。
その隙に転弧くんは細い黒鞭を幾重にも編み込み、より複雑で、強固なものを作っていく。
それも高速で複数。
「黒縄、そして黒衣」
縄のように編み込まれた黒鞭をギガントマキアの両手首と両足首に巻きつかせ拘束する。
その後、通常の黒鞭を再展開し、まるで服を着せるように奴を覆い、一瞬で黒鞭による黒の衣服を奴に着せる。
「・・・・まるでベストジーニストだ」
「あ、マジでジーニストに教えてもらったらしいぜ」
俺の独り言にトゥワイスが答えてくれる。
ギガントマキアが彼の拘束を外そうと暴れるが、黒鞭が千切れる気配はない。
あの巨大なヴィランを一瞬で制圧、本当に転弧くんだけ別次元だな。
「・・・・っと、トゥワイス下がって」
「へ?」
言葉と同時に羽を動かして増えた彼らを移動させ、俺も動く。
すると俺らがいた場所に敵の攻撃が炸裂し地面を傷つける。
「・・・・髪に、布ね。それらがあんたらの個性か」
目の前に現れた女と男の二人。
敵の個性を把握し出来ることを想定する。
転弧くんはまだギガントマキアの完全な拘束を終えていない。
今の彼にヴィランは近づけさせない。
「剛翼」
翼を展開し、低空飛行で動き回り狙いを乱す。
俺の動きにギリギリくらいついてきた彼らは俺が次に移動するポイントに攻撃を放つ。
「誘っただけだよ」
俺が行くと思わせたポイントから急旋回し一気に敵に接近する。
羽を硬質化させ剣とし迫る髪と布を切り裂いて敵の懐に飛び込む。
「少し大人しくしてもらおうか」
二対の羽の剣で彼らを斬り伏せ地面に寝かせる。
こいつらにいくつか聞きたいことがある、
「あんたら何者?本当に異能解放軍?」
異能開放軍の連中はリ・デストロの解放をと熱意をもって俺達と戦っている。
だけど、しばらく戦場を見ていたら何人かそうではない者がいた。
目の前の二人のような冷静な目をしている者たち。
「・・・・ナイン」
女の方が小さな声でそう呟いた。
その言葉に眉をひそめていると、不意に転弧くんの大声が届く。
「ホークスそこから離れて!!」
その真剣さから全力で離れる。
瞬間、俺がいた地面から竜のような異形が顔を出した。
それは上空にいる俺を追いかけてくるが、それよりも早く上空へと上がり回避する。
地面から飛び出た竜は地面から這い上がる。蛇のような長い胴体で、その先を辿れば一人の男に繋がっていた。
こちらを睨む男の傍に、俺が倒した二人がやってきていた。
その男の放つ雰囲気から今までの奴らとはレベルが違うことを察する。
オール・フォー・ワン以外にまだ厄介なのがいたのか。
しかし、厄介な男はこいつだけじゃなかった。
「オールマイト、あのお方から貴様を捕らえろという命令だ」
「っ!!転弧くん!!」
彼のいた地面が突如砕け、中に埋まっていた様々な金属が飛び出して彼を拘束しようと動く。
それを察していた転弧くんは上空へと浮かび、迫る金属を蹴りで吹き飛ばしていく。
が、さらなる敵が彼へと迫る。
「スマァァァァシュ!!」
聞き覚えるのある声と共に文字通り黄金の拳が転弧くんへ飛んできていた。
その声の発信源を辿れば、そこには転弧くんにその名を送ったかつてのオールマイトの姿があった。
「君もオールマイトなんだね!奇遇だな!俺もオールマイトだ!!」
「確かにそれは奇遇だ」
黄金の拳を躱した転弧くんがオールマイトのところへ飛び、蹴りを行おうと足を振るう。
あれは偽物か、じゃないと転弧くんが攻撃を止めないわけがない。
躊躇なく足を振るう彼を見てそう判断する。
紫電を宿した蹴りが炸裂する直前、転弧くんの前に別の者が割りこむ。
「・・・・」
完全に振り抜く直前に割り込んだそいつに転弧くんの蹴りが入る。
彼の力の余波で風が起こる、しかし肝心の相手には届いていなかった。
奴の個性なのか、逆に転弧くんが自身の蹴りをくらったかのように吹き飛んだ。
「転弧くん!!」
吹き飛んだ彼を見て思わず叫ぶ。
いや彼はあれぐらいで倒れはしない、問題は。
「主の命令」
転弧くんが吹き飛んだことで拘束が緩み、ギガントマキアが再び動き出そうと暴れ始める。
やばい、こいつらに加えてギガントマキアまで暴れられたら手に負えなくなるぞ。
「よそ見をしてる余裕があるのか?」
「っ!?」
再び迫る竜を空を飛んで躱す。
動きは比較的遅い、これなら問題ない。
だが、これだけで終わってはくれないよな。
本体である男を視界に入れ続けていると、こちらに向かって手を向けているのが見えた。
そして相手の指が光ったと思った瞬間、奴の手から光線がこちらに飛んでくる。
「・・・・竜にビーム、関連のない二つの個性。オール・フォー・ワンの仕業か」
ビームを躱し、こちらを食らおうと口を開ける竜を速度をあげて引き離す。
転弧くんは大丈夫か、吹き飛んでいった彼のところに行きたいところだが、この男を何とかしないと難しい。
羽を飛ばせばその分俺の速度が落ちる、それを目の前の男相手にするのは少しきつい。
絶え間ないビームともう一体増え二体となった竜の連撃を捌き、反撃に出ようと上空から急降下する。
そのまま相手に接近しようとした瞬間、俺のいた空よりもさらに上、天から雷が落ち俺に直撃した。
「がっ!?」
3つ目の個性。
クソ、上からか。予想外の場所からの攻撃をもろにくらい動きを硬直させてしまう。
その隙を相手は逃してくれず竜の顎が俺へ食らいついた。
「く、そ」
固めた羽を口の中で飛ばして完全に口を閉じ切らせてはいないが、それでも動けない。
「ホークス!!」
転弧くんの声が耳に届くけど、それを遮るようにさっき彼の邪魔をした三人のヴィランの声が響く。
向こうは三人がかりか、くそ。
「おおおおおおおお!!!」
俺の傍では後数秒で拘束から脱するギガントマキアが見える。
この状況を変える手を考える。すると俺の肌がある感覚を覚えた。
「・・・・遅いんすよナンバー2」
「赫灼熱拳・朧 バニシングフィスト!!」
太陽を思わせる熱が上空から飛来しギガントマキアと俺の相手をしている男を飲み込む。
男の方がバリアのようなものを出し炎を防ぎ、ギガントマキアは身を焦がしながらも健在だった。
「げ、二人とも耐えやがった。火加減間違えたか?」
「燈矢くん、熱いんすけど。氷の方使ってくださいよ」
「嫌だ」
そう言いながら身体から放つ温度を俺が耐えられるくらいの熱まで下げてくれる燈矢くん。
すいませんね、俺も転弧くんも熱耐性ないもんで。
「ていうか燈矢くんじゃねぇ。仕事の時はエンデヴァーって呼べ」
「いやぁ、その名は燈矢くんにはまだ早いでしょ」
「こいつらの前にてめぇを焼くぞ!」
「あはは、二人とも無事でよかった」
俺と燈矢くんが騒いでいると、横に転弧くんが降り立つ。
遅れて彼の相手をしていた敵達も敵側に合流する。
そうするとオールマイトの偽物さんが転弧くんに向かって大声で叫ぶ。
「二人のオールマイト。これはどちらが真のオールマイトか決めなくてはな!!」
「わかった、じゃあ決めようか」
「「・・・・」」
パチモンのオールマイトの発言に俺と燈矢くんは引き、微笑んで頷く転弧くんにえぇっという表情を向ける。
ノリ良すぎでしょ転弧くん。
「おい、こいつ大丈夫か」
味方からも引かれているようで先ほど金属を操っていた男が偽物を指さしながら他の男たちに話しかける。
「私は彼との契約を達成するだけだ」
「同じく、契約を達成し私は無個性となる」
「・・・・まぁ俺もあの方の指示に従うだけだが」
全員の視線が転弧くんに注がれる。
彼等に加えてギガントマキア、その他のヴィラン達もまだいる。
そして未だ現れないオール・フォー・ワン。
一気に戦況が読めなくなった。
「何考えてるか知らねぇが、全員倒せば終わりだろ。行くぞオールマイト」
「うん、エンデヴァー」
燈矢くんが転弧くんと共に前に出る。
どうやら二人で戦う気のようだ。俺はその間に周囲の避難と敵の狙いを探れってことかな。
「・・・・」
ここまで現れないとなると、オール・フォー・ワンはここにはいない可能性が出てくる。
いないとして、どこにいる。
この状況で一人で逃げて、せっかく集めた戦力を失うのはデメリットが大きすぎる。
彼等を捨て石にしてまで行うこと、それはなんだ。
「・・・・まさか」
一つの考えが過り、冷や汗を流す。
もし俺の考えた通りなら、早急に対処しないと手遅れになる。
しかし、目の前のヴィラン達を無視できるほどの余裕はない。
せめて連絡だけでもと俺は耳に取り付けた通信装置を使い、連絡を繋ぐ。
対"個性"最高警備特殊拘置所 タルタロスへ。
◇
「・・・・やはり来たか」
突如として上空に出現したプレッシャーが、奴が現れたことを俺に知らせる。
隣にいる俊典も同じように気配を感じ取り、上空へ目を向けていた。
「まさか君たちがいるとはね」
このタルタロスの上空から忘れもしないあの声が届いた。
その姿は全身を黒ずくめの装備で固められており、俺が過去に与えた傷がどうなったのか確認できない。
奴、オール・フォー・ワンは俺達を見下ろしながら言葉を発する。
「異能解放軍、そしてギガントマキアを含めた強力なヴィラン達。それらを囮にしたタルタロスの奇襲を読まれていたか」
「貴様の考えそうなことだ」
もちろん向こうが本命の可能性も十分にあった。
だがあちらには燈矢にホークス、それに転弧もいる。
俺達は万が一に備えここに密かに待機していた。結果としてその万が一が当たってしまったが。
「驚かされたよ。それに意外だった、君はともかく、横にいる男まで一緒とはね」
そう言ってオール・フォー・ワンは俺の横に並ぶ俊典に顔を向ける。
視線を受け、俊典は一歩前に出て奴を見据える。
「当然いるとも、お前との決着はまだついてない」
「ワン・フォー・オールを譲渡し終え、今の君は何の力もないだろう」
そう煽るオール・フォー・ワンに対し、俊典は笑みを浮かべて手に持つスーツケースを掲げる。
そして俊典の声に反応しスーツケースは形を変え、彼の親友が手掛けた強化スーツへと姿を変える。
「無個性でも私はヒーローだ。ヴィランである貴様を前に引く理由はない」
「・・・・君たちを殺すのはまだ先の予定なんだが、来られてしまったのなら仕方がないか」
オール・フォー・ワンは肩をすくめながらそう言って手をこちらに向ける。
その言葉と共に戦闘態勢に入るオール・フォー・ワンに対し、こちらもタルタロスの設備が迎撃のタイミングを伺う。
俺も炎を纏い、俊典の、いやオールマイトの横に並ぶ。
「今の君たちのことをこう呼んでもいいのかな?オールマイト、そしてエンデヴァー」
「ああ、そうだ」
よくわかっているではないか、オール・フォー・ワン。
過去に定めた決まり事、俺達は再び訪れる奴との戦いの時だけ、かつての名を名乗ると決めていた。
それが今まさにこの瞬間だ。
「行くぞ、オールマイト」
「ああ、エンデヴァー」
互いに名を呼び合い、奴へさらに足を踏み出す。
奴との最後の戦いが、今始まった。