エンデヴァー逆行物   作:デッテユー

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二話

「ふむ、個性の複製はまずまず。しかし脳無の完成にはまだ時間がかかるのぉ」

 

儂自身の頭の中で思い描く姿にはまだ時間と素材が足りぬ。

病院の奥にある秘密の研究施設。

 

その中で椅子に座り、視界一面に広がる景色に溺れる。

 

目の前に広がるのは培養液に浸かる試作の脳無たち。

そして今まで集めてきた個性たちが入ったカプセルの数々。

 

これら全ては彼に捧げるためのものじゃ。

待っていてくれオールフォーワン。

 

すぐにお主の期待に応えられる成果をあげてみせよう。

 

そのためにも優秀な個性を持つ者たちを見つけ、その力を手に入れなくては。

 

「いや、それはもう無理だな」

 

「・・・・んん?」

 

はて?どこからか空耳が。

 

儂が首を傾げた瞬間、離れた先にある扉が突如轟音と共に弾け飛んだ。

 

「・・・・へ?」

 

吹き飛んだ扉の向こう、爆炎をかき分けて一人の男が姿を現す。

なぜじゃ、なぜここに来ることが出来る。

 

「なぜなら、俺が来たからだ」

 

「エ、エ、エ、エンデヴァーーーー!!?」

 

全身から汗を吹き出しながらそう叫ぶ。

バレた!?バカな、ここの存在を知るのは儂以外にはオールフォーワンしかおらん。

 

ゆえにここの場所はバレるはずがないというのに!!

 

見れば先頭を行くエンデヴァーに続いて続々と他のヒーローたちが姿を現してきている。

ま、まずい!とにかく考えるのは後じゃ!ここは逃げるのを最優先に。

 

「まだ試作もいいところじゃが、起きろ脳無たちよ!!」

 

起動スイッチを押して脳無たちを目覚めさせる信号を送る。

これで時間が稼げる。

 

その隙に手に入れたばかりのワープの個性を使って別のアジトへ。

 

「無駄だ。電気信号の妨害はすでにしてある。貴様が出来ることなど全て把握済みだ」

 

「・・・・」

 

脳無たちを起こすための信号を送るがうんともすんとも言わん。

なぜじゃ、なぜここまで全てを把握されておる。

 

「・・・・どうやら心配は杞憂だったようだな」

 

堂々とした姿のエンデヴァーが儂の目の前までやってくる。

 

「ダメじゃ、嫌じゃ!儂はこんなところで捕まるわけにはいかぬ!!」

 

まだ儂の研究成果の一割も彼に捧げていない!!

これからなんじゃ、これからもっと彼と血香る睦まじい日々が続くんじゃ!

 

「いいや終わりだ」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

「・・・・何事もなく捕まえることが出来たな」

 

拍子抜けの結果に思わずそんな声が漏れる。

校長の働きかけにより、雄英高校の教師及び、その他のプロヒーローたちが即座に集結し今回のドクター捕縛を開始できた。

 

戦闘に備えての病人、スタッフの避難。

そして前回の戦闘の経験から電気系統への対策、存在する可能性のある脳無の情報共有。

 

前回の内容を生かすことで今回はドクターに何もさせずに捕らえることに成功した。

 

現在あそこにあった個性の複製品、脳無の試作個体たち、さらにやつが行ってきた非道の数々を示す資料を全て押収し調べている。

 

その危険な内容からやつは特例中の特例として刑の確定を待たずに特殊拘置所へと送られる手はずになっている。

 

情報規制しニュース報道もやつが拘置所に送られてから、これでオールフォーワンが知るころにはドクターは『タルタロス』の中、迂闊には手を出せなくなった。

 

「あの男が出てくる可能性を考え、すぐに対応できるように私は待機していたが、杞憂だったようだ」

 

「・・・・オールマイト」

 

留置所へと運ばれるドクターを見ていた俺の隣に筋肉ダルマが現れる。

やつの言葉に小さく息を吐きながら答える。

 

「ああ、これでわかったことがある。今のところ相手側に未来の情報を持つ者はいないだろう」

 

相手が俺と同じように先の未来の情報を知っていたのなら、すぐさまアジトを移しどこかに身を潜めていたはずだ。だが突撃した時にあの男の様子は完全に虚を突かれてパニックになっていた、情報はないと見ていいだろう。

 

「エンデヴァー、これでオールフォーワンは警戒を始める。どこから情報が漏れたと、確実に水面下で探りにくるはずだ」

 

「貴様に言われずともわかっている。俺から情報が漏れるようなミスはせん」

 

敵が未来の情報を持っていないのなら、この情報の価値は計り知れない。

なぜなら俺たちは敵の行動の先を読み、常に先手で行動することが出来るのだから。

 

「君の情報がなければ私の師匠のご家族に奴の魔の手が伸びていたと思うとゾッとする。本当にありがとう」

 

「・・・・やめろ、貴様に礼を言われると寒気がする」

 

「ハッハッハッハ!熱の個性の君なら寒気なんて問題ないさ!でも本当に感謝しているんだ、何か私にしてほしいことがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

「・・・・なら、一つ頼みがある」

 

やつの言葉を聞いて一つだけある頼み事を依頼する。

昨日から考えていたことだ。

未来を変えるため、家族全員が笑って過ごすために必要なこと。

 

「貴様の知る中でもっとも優秀なメカニックを紹介してくれ」

 

 

 

 

 

「・・・・冷」

 

「はい、なんですか?」

 

ドクター捕縛から一か月が過ぎた今日。

 

朝の日課である庭に置いてある植物たちの世話を冷と二人で行う。

 

最初に買ってきた苗から今はさらに数が増えた。

 

二人で園芸店に顔を出し、好きな花を買い揃えていっている。

 

園芸店にいる者たちからなぜ俺がこんなところに!?という顔をされたが、まぁするだろうな。

 

首を傾げながらこちらを見る冷に言おうとした言葉が喉に詰まる。

 

言え、恥ずかしがるな、彼女を幸せにすると決めたのだろう。

 

 

「は、花畑を見に行かないか?」

 

「え?」

 

 

「・・・・少し距離があるが、綺麗な花畑があると聞いた。よかったら、今日二人でそこに行かないか?」

 

「―――――それって」

 

「・・・・」

 

これ以上何を言えばいいかわからず花の世話に集中するフリをして顔を彼女から逸らす。

 

おい、エンデヴァー、いや轟炎司、お前はもう46歳だろう。

なに照れて言葉に詰まってるんだ、いい年したおっさんが照れるな気持ち悪い。

 

俺が脳内で自己嫌悪に浸る最中、冷の返事が返ってくる。

 

「ふふ、では急いで準備をしますね。もう少し早く言ってくれたらよかったのに」

 

「あ、ああすまん」

 

少しの文句を共に冷は薄く笑いながら家の中へと戻っていく。

 

「本当は昨日のうちに言うつもりだったのが、言うタイミングを逃して・・・・・誰に言い訳しているんだ俺は」

 

今庭には俺一人しかいない、当然この言い訳は誰にも聞こえない。

せいぜい聞いているのは目の前の花たちくらいだ。

 

「・・・・」

 

俺は無言で花への水やりを再開する。

聞かなかったことにしろと賄賂を渡すかのように入念に水をやった。

 

 

 

 

 

「・・・・ふむ、原因がわからないな」

 

半年前、何の脈絡もなくドクターが捕まった。

おまけに裁判などを飛ばして最短で「タルタロス」に収監された。

 

僕が知った頃にはすでに遅く、彼を助けることが非常に困難になった。

 

「・・・・」

 

本当に妙だ。

ドクターは僕の右腕に等しい、当然その分守りも厳重にしていた。

 

場所も隠蔽はもちろん、もし監視が入ればすぐに気づけるようにしていた。

だからヒーロー側がドクターを探ろうとすればすぐにわかるはず、なのに今回何もわからなかった。

 

しかもドクター逮捕からのこの半年間、僕が密かに進めていた計画の一部が突如として崩壊したことが何回もある。

これらを知っているのは僕だけだ、つまりバレようがない。

なのに、現実はそうはいかなかった。

 

他にも水面下で調べた結果、妙な動きも見受けられる。

 

「……まるで未来を知っているかのようだね」

 

現在僕の行動すべてに先手を取られている。

こんなことは僕の思考を盗むか、未来を知っていないと難しい。

 

そして僕の思考を盗まれたのなら気付くと確信できる。

つまり可能性が高いのは未来の方か。

 

・・・・明確な変化があったのは半年前。

 

確実に何かが起こっている。

オールマイト、やつも確実に関わっている。

 

原因、この状況を作り出した元凶を割り出す必要がある。

 

何人か候補がいるが、もっとも怪しいのは。

 

「・・・・君かな?エンデヴァー」

 

半年前とそれより前では僕の把握している彼の精神が大きく異なっている。

今の彼からは前々からあった力への執着が感じられない。

 

彼に何かが起こったんだ。考え方が大きく変わるような何かが。

 

「・・・・相手の手札がわからない以上、下手には動けないが、少し調べる必要がありそうだ」

 

 

 

「・・・・」

 

無言で部屋のベッドの上で横たわる。

過去に戻ってそろそろ1年になる。

 

この1年は激動の日々だった。

ヒーローとしての活動、これは過去を記憶している俺からすれば随分と動きやすかった。

 

過去に助けていた出来事はもちろん、過去に助けることが出来なかったものも記憶があったことで解決、救うことができた。

 

当時、20歳の頃の俺の技量では難しかったことが今の俺なら遂行することが出来る。

それによって救えた命が増えたことは素直に喜ばしい。

 

それに重要な事件もいくつも防げた。

オールフォーワンの息がかかった事件は未来で調べていた、その知識によって事前に防ぐことが出来たのは大きい。

 

確実にやつの力を削っている。

心外だが、オールマイトとも連携し、スムーズに動けているのも大きい。

 

そして、冷との生活もこの1年でずいぶんと変わった。

 

花の世話もさらに本格化し、ガーデニングへと発展している。

鉢だけでなく庭いじりも始めて、冷と共にガーデニングを楽しむことができている、と思う。

 

炊事洗濯も一緒にし、休みの日は共に過ごした。

この1年で俺に出来る限りのことは尽くしたとは思う。

 

これで、あとは冷次第だ。

 

俺と一緒にいてもいいと思ってくれているのならいいが、そうじゃないなら素直に諦めるしかない。

 

「・・・・」

 

いや、諦めたくない。

もう一度、息子たちに会いたい。

罪を、償いたいんだ。

 

「・・・・炎司さん、起きていますか?」

 

「む、ああ」

 

部屋の明かりをつけて冷の声に答えると、ゆっくりと部屋の襖が開いて彼女が入ってくる。

横にしていた身体を起こし、彼女に向き合う。

 

部屋に入った冷は立ったまま無言で俯いている。

 

「・・・・」

「・・・・」

 

互いに無言のまま時計の秒針の音だけが場を支配する。

今、彼女がここに来た理由、それはあの時の答えを伝えるためなのだろうか。

 

じっと彼女の言葉を待っていると、やがて冷は口を開く。

 

「あの日から1年が経ちました。だから、返事をしに来たんです」

 

「・・・・ああ、答えを聞かせてくれ」

 

どんな答えだろうと受け入れる、そう自分に期待する。

不安が身体を浸し、燈矢たちの顔が脳裏に浮かんだ。

 

すごい勢いで蕎麦を食べる燈矢と焦凍、それを見て笑う冬美と夏雄。そしておかわりの蕎麦をつぐ冷。

全員が笑っていて、俺はその場にいない。

 

過去に戻ってからずっと、そんな光景が寝る間に浮かぶ。

 

この夢の光景を実現させたい。

それが償いになると信じている。

 

「・・・・私の実家はもともと名家でしたが、今はそれも崩れ貧しい生活となっていました。そんな時にあなたからの声がかかり、両親は喜んで私を嫁に出しました」

 

「・・・・ああ」

 

「私にとれる選択肢は限られていたけど選んで進んだのは私の意思で、せめてその先では頑張って笑っていようと思っていたんです」

 

「・・・・」

 

「でも、気づいたんです」

 

そう言った後、彼女は微笑む。

この1年で毎日見るようになった彼女の微笑みを。

 

「頑張らなくても笑えるって、あなたの隣でなら」

 

「・・・・冷」

 

「離婚はしません、これからも末永くよろしくお願いします」

 

そう言って彼女はこちらに向けて頭を下げてくる。

その言葉に、目頭が熱くなるのを感じた。

 

・・・・何を感動しているんだ俺は、救われたとでも思ったか?そんな資格は俺にはないだろう。

 

熱くなった心を冷静に諭す。

そして頭を下げる冷に向かってこちらも頭を下げる。

 

「こちらこそありがとう。そしてこれからもよろしく頼む」

 

「はい、では・・・・今度は私が約束を果たす番ですね」

 

「・・・・ん?約束を果たす?」

 

「はい」

 

そう言った直後、彼女は俺の前で服を解いていく。

 

突然のその行動に俺は呆ける。

そうしている間にも彼女はゆっくりと俺に見せるようにその身に纏う布を下ろしていった。

 

やがて彼女の肌が露になる。

 

ガーデニングを始めて日に当たっているというのに変わらず真っ白な肌。

 

その白い肌から汗が浮かび、それが首から下に落ち、彼女の胸の谷間へと消えていく。

 

それをじっと見ている自分に気づき、そこでようやく冷静になる。

 

「ま、待て冷!?何も今すぐそんなことをしなくても」

 

「・・・・私も女なので、その、こういったことも求めてしまうといいますか。というか1年も一緒なのにキスもないというのは女性としてのプライドが傷ついているんですけど」

 

肩から胸の谷間までの服を開けさせた彼女がこちらへと寄ってくる。

それを見て、俺の身体の二十代の欲が姿を現す。

 

いや、俺が彼女に触るなど、そんなことが許されるはずが。

 

罪悪感、そして若い身体に溢れる欲、そして燈矢たちへの想いがそれぞれ身体でせめぎあう。

 

 

「・・・・明かりを、消してくれますか?」

 

俺にくっついた冷が上目遣いでそう言いてくる。

それを聞き、俺は、俺は。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁぁ」

 

そっと部屋の明かりを消した。

 

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