エンデヴァー逆行物   作:デッテユー

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エピローグ

エピローグ

 

ここは轟家。

 

時に熱く、時に冷たく、そしていつも暖かな場所。

 

そんな家に今日も賑やかな声が響く。

 

「未来の最強ヒーロー!小夏!!」

 

「同じく最強ヒーロー!小雪!!」

 

轟家の末っ子たちが元気に自作のヒーローポーズを決める。

自信満々だが、寝起きで寝ぐせ付きである。

 

そんな二人につられ、最近になってやってきた新たな末っ子も恥ずかしそうにポーズを決めていた。

 

「エ、エリ!!」

 

小夏が右腕を、小雪が左手を掲げ、その間で真っ赤な顔で両手をあげる少女――エリ。

 

個性『巻き戻し』をその身に宿し、その力を死穢八斎會の治崎の計画に利用されていた少女。

事件解決後、その力のコントロールのため、そして保護者のいない彼女の新たな住居としてここ轟家が選ばれた。

 

「いいね最高に熱いねエリちゃん!」

 

「いいね最高にクールだねエリちゃん!」

 

そう言って満面の笑みで彼女の両腕に抱き着く轟家の姉妹。

同い年の少女たちのストレートな感情をぶつけられ、彼女は照れたように俯く。

 

エリがここにやってきて約二週間。

 

その間、轟家の末っ子たちは常に彼女と一緒にいた。

 

昼間も夜も、ご飯の時もお風呂の時も寝る時も。

 

彼女の過去など知らない二人はお構いなしに彼女を笑顔で連れまわす。

 

「よーし!お兄ちゃん達を起こしにいこう!!」

 

「まずはナツオ兄ちゃんから!!」

 

そう言って走り出す彼女達についていけずエリは出遅れる。

慌ててついていこうと足を動かそうとするが、足が出ずに俯いてしまう。

 

今まで同年代の子供、それも同じ女の子と接したことのないエリにとってどう行動すればいいのかわからないのだ。

それを知ってか知らずか、動けない彼女の両手を二人が戻り握る。

 

そして、絶やすことのない満面の笑みを浮かべて口を開く。

 

「「行こ!エリちゃん!!」」

 

「う、うん!」

 

二人に連れられ、エリは走り出す。

 

その顔に笑みを浮かべながら。

 

それに彼女は気づいていない。

いや、自分が笑うことが出来なかったことも知らなかった。

 

彼女の中にある過去が、トラウマが、彼女を笑うことを許さなかったのだ。

 

しかし、そんなものは少女たち―――小夏と小雪には関係ない。

 

 

個性のトラウマ?

 

辛い思い出?

 

治崎の幻影?

 

そんなもの、この小さなヒーロー達は簡単に吹き飛ばす。

 

絶えることないその笑顔が、陰ることのないその明るさが。

彼女に笑顔を見せ、エリ本来の性格を取り戻させていた。

 

特別なんて必要ない、轟家の当たり前によって闇は気が付けば溶けて消えていた。

 

「まずはナツオ兄ちゃん!!と見せかけてお父さんとお母さんにダイブ!!」

 

「とりゃー!!」

「と、とりゃー」

 

急にUターンした小夏と小雪が、さっきまで一緒に寝ていた父と母のところに飛び込む。

 

父、エンデヴァーに飛び込んだのは小雪とエリ。

小さな二人の身体が飛び込んできたところで衝撃は小さく、軽く受け止めたエンデヴァーが二人を抱いて布団から起き上がる。

 

「小雪とエリか。おはよう」

 

そう言って二人の頭を撫でるエンデヴァー、二人は撫でられて嬉しそうに頬を緩めていた。

隣では同じように小夏が母を起こし撫でられていた。

 

その後交代して父と母にそれぞれ撫でられた三人は他の兄弟たちを起こしに走り出し消える。

それを見届けたエンデヴァーは自身も起きようと立ち上がり部屋を出る。

 

「待って」

 

それを妻である冷が止めた。

なにか用かと彼女を見るエンデヴァーに彼女は微笑む。

 

「まだ撫でていない人がいるようですが?」

 

「・・・・」

 

微笑んでそんなことをいう妻にエンデヴァーは黙る。

 

特に関係ないが、轟冷。今年で45歳である。

 

「・・・・そうだな」

 

それだけ言って部屋に戻り冷の頭を撫でるエンデヴァー。

それで満足した冷は真面目な表情に変えて口を開く。

 

「・・・・もうすぐ行くのよね」

 

「・・・・ああ、あと数か月で向こうの世界と時間が重なる」

 

二人が告げたその内容はエンデヴァーが元の世界に行くまでの時間だった。

他の世界に渡る技術、それは信頼できる科学者たちと荼毘による向こうの世界の共有によってすでに実現していた。

 

オールフォーワンを含め凶悪なヴィランの動きがなくなった今、あとは世界が重なる瞬間を待つだけの段階だった。

 

「・・・・炎司さん、帰ってきてくれる?」

 

「もちろんだ。俺はお前たちも、向こうもどちらも捨てることはしない」

 

エンデヴァー自身、不誠実なことをしている自覚はある。

ある意味で浮気のような状態なのだ、今彼の中にはそういった罪悪感が渦巻いている。

 

それに対し冷は安心したように微笑み話題を続ける。

 

「向こうの世界の私は、あなたに対してあまり仲良くはないのよね」

 

「・・・・・・・・・ああ、そうだ。だがそれは俺の自業自得だ」

 

冷の言葉を肯定し、しかし彼女の印象を悪くさせないように自身を責めるエンデヴァー。

その様子に申し訳なさそうな表情した後、彼女は微笑みを浮かべる。

 

「だったら、私の方が一歩リードですね」

 

「・・・・なんのだ?」

 

「決まってます。正妻ポジションについてです」

 

「・・・・」

 

得意げに微笑む彼女にエンデヴァーは内心頭を抱える。

この状況を作り出したのは自分である手前、彼は何も言えない。

 

向こうにいる冷がこちらの自身を見たらと思うとエンデヴァーの背筋から汗が止まらなくなる。

いやそれを言うと轟家全員がそうなのだが。

 

あと特に関係ないが、轟冷は今年でよんじゅうg

 

 

 

 

◇

 

 

「崩壊」

 

僕へと迫る氷の波に対して飲み込まれる前に左手で触れる。

その瞬間、氷は粉々に砕け散り眼前の焦凍くんの姿を視界におさめる。

 

今度は炎の攻撃が来る。

 

彼の攻撃モーションを見ながら僕はさらに力を発動させる。

崩壊、からの修復。

 

力を伝え、砕いた氷を作り直しその攻撃の方向を焦凍くんに向けなおす。

 

「っ、マジで修復できるのか!」

 

迫る氷は準備していた炎で相殺される。

その隙に次の攻撃を仕込む。

 

地面に崩壊の波を送り、崩す部分を焦凍くんの足元に指定する。

大きくは崩壊させない、気づかない程度に脆くさせるだけ。

 

それでも修復は適用される。

 

「一気に行くよ!」

 

氷の蒸発によって発生した煙をかきわけて突っ込む。

それに対し崩壊持ちの僕に近づかれたくない焦凍くんは距離を空けるために足を動かす。

 

でも。

 

「っ!いつの間に足を固定して」

 

彼の足元の地面を修復による形状変化で足を捕まえていたんだ。

不意を突かれた焦凍くんは僕に隙を見せる。

 

行ける!このまま一気に!

 

行けると確信し彼に触れる寸前、焦凍くんが笑ってるのが見えた。

 

「赫灼熱拳・燐」

 

直後、先ほどとは明らかに威力の違う一撃が飛び出てきて吹き飛ばされる。

これは、焦凍くんの新技か。

 

「強くなってるのはそっちだけじゃないぞ出久」

 

そう言って笑みを浮かべる焦凍くんの胸には二つの違う色の炎が交わっていた。

焦凍くんの発言に僕も同じく笑みを浮かべる。

 

僕は転弧さんを。

焦凍くんは燈矢さんを。

 

僕たち二人の目標は遥か先の頂点にいる。

 

こんなレベルじゃまだまだ満足は出来ない。

もうすぐ僕らは二年になる、早く次のステージに行くんだ。

 

「死ねぇぇぇ!!!」

 

僕らが互いに笑みを浮かび合っていると聞き覚えのあり過ぎるフレーズと声が届く。

その方向を見ればすごい顔のかっちゃんが僕の方へと飛んできていた。

 

「ほわ!?」

 

咄嗟に上半身だけを後ろに倒し、かっちゃんの腕をギリギリで躱す。

そのまま彼に目を向ければ目をものすごく鋭くさせたかっちゃんがそこにいた。

 

「個性が強化されたんだってなクソデク!!俺も混ぜろや!!」

 

そう言って吠えるかっちゃんに慌てて呼ばなかった理由を説明していると、僕らがいた訓練所にクラスのみんながやってくるのが見えた。

 

僕の個性『崩壊』。

 

その変化をしばらくの間僕はみんなに秘密にしていた。

原因がわからなかったからだ。

 

何かの拍子で暴走なんてことにならないように先生たちには事情を説明して秘密で訓練をしていた。

それと同時にリカバリーガールから医療の知識も教えてもらえるようにお願いした。

 

もし僕の個性が治崎と同じ効果があるのなら重傷患者だって治せるようになるかもしれない。

 

僕の個性でもっと大勢の人を助けられるようになるのだったら学ばない理由がなかった。

 

「すっごい反射神経だねデクくん。イナバウアーしとるよ!!」

 

僕の状態を見てそう褒めてくれる麗日さんに何を言えばいいかわからず少し早口でお礼を告げる。

そしてそれを皮切りに一斉にクラスのみんなから個性について聞かれだす。

 

それになんとか答えていると、視界の端に何かが見えた。

 

「・・・・お尻?」

 

地面に浮き出たお尻。見覚えるのあるお尻だった。

 

「――――桃がなってるよ!!」

 

「っっ!!通形先輩!!」

 

お尻だけ生えた地面から彼が姿を現す。

彼を見つけて笑顔で近づいた僕がギャグをスルーしてしまったせいで通形先輩は少し悲しそうだった。

 

「個性戻ったんですね!!」

 

「ああ、エリちゃんのおかげだよね!」

 

そう言って笑う彼に僕もつられて笑う。

あの事件の後、通形先輩は個性を使えなくなっていた。

 

けれど、かつての僕と同じようにエンデヴァーのところで個性の使い方を習ったエリちゃんが通形先輩の個性を治してくれたんだ。

 

通形先輩の話では人体に使うのは危険だったけど、未来を見たナイトアイがその安全性を保障してくれたらしい。

 

「個性も戻って、これで来年からは転弧さんの事務所のサイドキックですね」

 

「うん、ナイトアイはオールマイトのところに戻ったから俺もそのまま一緒に行けることになった」

 

そう言って笑う通形先輩を見て、僕も追いつかなきゃと拳に力を入れる。

 

「といっても今のナイトアイは忙しくてずっと事務所にいないから暇なんだけどね!」

 

「ああ、転弧さんと一緒に世界中を飛び回ってるから」

 

朝携帯でチェックした限り、転弧さんは今日本にいない。

今の彼は日本の平和の象徴ではなく、世界中の平和の象徴になろうとしているのだから。

 

「というわけで俺が修行を見るよ!かかっておいでよ!!」

 

「っ!お願いします!!」

 

治崎との戦闘経験のある先輩とのバトルはこれ以上ない経験になる。

僕は喜んで通形先輩の提案を受けた。

 

「俺も混ぜろや!!」

 

「俺も、お願いします」

 

「あ!俺も!!」

 

かっちゃん、焦凍くん、夜嵐くんが訓練に参加する。

それを見たクラスのみんなも手をあげて訓練への参加を希望した。

 

 

 

 

そして漏れなく全員通形先輩に腹パンされた。

 

 

 

◇

 

「転弧、次はテキサス州の街だ」

 

「うんわかった」

 

行先を掴んだ転弧は黒鞭で作った特製の家に私とナガンを入れ飛び上がる。

ワンフォーオールと変速、発勁、浮遊。これらの個性の併用によって今の彼は文字通り世界中を飛び回っていた。

 

「少しは転弧を休ませろナイトアイ」

 

「それを言って聞けば苦労しない」

 

そんなことは私が一番言いたい。

だが言っても聞くわけがないことは予知しなくてもわかる。

 

今の彼は世界中の人々から手を伸ばされているのだから。

 

「・・・・」

 

あの日、私が個性消失弾を撃ち込む寸前に彼は口を開いた。

 

そして、弾を撃ち込まれるのを拒否した。

それではオールフォーワンを救えないと。

 

そして彼は私達が見守る中で自身の内に精神を潜らせオールフォーワンと話をしたらしい。

 

どう説得したのかはわからない。

 

だが結果として転弧は個性を失うことなくこうして生きてヒーローをしている。

それも前よりもさらに力をつけて。

 

ワンフォーオール(一人はみんなのために)。

 

彼の中に宿る個性。

 

だが今は違う。

 

オールフォーオール(全てはみんなのために)。

 

ワンフォーオールとオールフォーワンの個性が合わさり、一つの個性となった。

 

それはつまりオールフォーワンの精神が彼に混じったことになる。

だが彼曰く奴は大人しいらしく初代ワンフォーオールの与一さん達の監視の下、傍にいるようだ。

 

どうしてそうなったのかは詳しくわからない。

だが、今の彼はオールフォーワンの力も使える。

 

それはすなわち、個性を奪い譲渡することが出来るということ。

 

その力こそが今の転弧の状況を作り出した。

 

まずこの力を持った転弧は個性によって苦しむ人達、異形系の個性を本人が望むのならもらうことにした。

そして自分の力を全世界に伝え、苦しむ人たちに呼びかけた。

 

それが今の現状。

 

個性に苦しむ人から個性をもらい、個性がなく苦しむ人には個性を与える。

 

異形系の個性は因子の形を少し変え、別の個性にして返したりもした。

 

加え、タルタロスなどの監獄に収監されている犯罪者から個性を取り上げることでその危険性を格段に下げることにも成功。

犯罪者に対し過剰な警備を割く必要がなくなり囚人たちは監獄内である程度だが自由を手に入れた。

 

「・・・・」

 

空を高速で進む転弧を見つめる。

力を持てば当然各国は警戒する。

 

今の転弧が暴れればあのスターアンドストライプでさえ止めることは出来ないだろう。

 

ゆえに転弧は彼女の新秩序を使って自身にルールを作った。

 

『志村転弧は害意や悪意、敵意を抱いた時点で心臓を止めて死ぬ』

 

それを各国のトップたちが直接見る場で行い、彼は信用を作り出した。

 

スターの力は常に一つ使用不可になるが、転弧の暴走を抑えられるのならば安いものだろう。

 

だがこれによって転弧は戦闘を行うことが出来なくなった。

いや実際には出来るのだが、万が一億が一、ヴィランとの戦闘中に敵意を抱いた時点で死ぬことになる。

 

彼に接近してくるヴィラン達は大勢いる。

それらから転弧を守るのが私たちの役割だ。

 

「・・・・はぁ、しょうがねぇ」

 

ため息を吐いたナガンが特別に調整された携帯からどこかに電話をかける。

ほどなくして繋がったそれを転弧に向けた。

 

「転弧、お前のお姉様からだ」

 

「うっ、華ちゃんからか」

 

スピーカーモードにして向けられた携帯を黒鞭の隙間から見て転弧は微妙な顔をする。

言われることを予想したのだろう。

 

『コラ転弧!!いい加減帰ってきなさいよ!!』

 

「いやでも」

 

『でもじゃない!一週間の一度は休養でこっちに帰ってくる約束でしょ!!みんな待ってるわよあくしなさい!!』

 

「ぐぐっ」

 

有無を言わせぬ言葉に転弧は言葉を詰まらせる。

転弧は華に弱い。

 

というよりヒーローではない華、トガ、スピナー、彼女達には転弧はヒーローとしてではなく志村転弧として接してしまうのだ。

 

これは彼らが仲間ではなく家族、そして友達だからだろう。

私達に出来ない、転弧を日常に連れ戻す大切な役割だ。

 

『ヒミコちゃんも何とか言ってやって!』

 

『転弧くん、帰ってこないのですか?』

 

「うっいやでも困ってる人がいっぱいいて」

 

「そのためにトゥワイスでお前自身を増やして回ってるんだろうが」

 

なお食い下がる転弧にナガンが口を挟む。

そう、トゥワイスで増やした転弧もオールフォーワンの力が使えるのだ。

 

ワンフォーオールの強化こそないが、個性の受け渡しが可能なら問題にはならない。

まぁ、その分身が消えればもらった個性も一緒に消えてしまうが。

 

『おい転弧、俺と新作のゲームをする約束だったろ』

 

華、トガにスピナーも説得に加わる。

それによって観念したのか転弧は戻ることを承諾する。

 

「ほんと、世話の焼けるヒーローだ」

 

そう言いつつナガンの顔には笑みが浮かんでいた。

 

私はこっそりと転弧に対して予知を発動させる。

 

「ふ、ああ。本当にその通りだ」

 

予知で見た未来に私は笑みを浮かべる。

 

私の目には仲間たちにもみくちゃにされ苦笑いを浮かべる転弧の未来の姿が映っていた。

 

 

 

 

◇

 

『転弧、戻るようでよかった』

 

日本に戻る孫を見て安心から息を吐く。

私が言っても転弧は聞かないからね、こういう時に華は頼りになる。

 

『苦労しているみたいだね』

 

『・・・・』

 

もはや聞き慣れてしまった声に私はうんざりとしながら振り返る。

するとこちらに向かってムカつく微笑みを浮かべるオールフォーワンの姿があった。

 

『おいおいそんな顔しないでくれよ。今や僕たちは立派な仲間じゃないか』

 

『それはない、絶対ない』

 

奴の言葉に即答する。

他の人達も私の言葉に何度も首を縦に振っていた。

 

それに対し奴はひどいなぁと言いながらも笑っている。

奴のそんな姿を見て私は思わず愚痴がこぼれる。

 

『ほんと、なんでこいつがここにいるんだ』

 

『それはもちろん志村転弧、彼が望んだからさ』

 

『・・・・兄さんはこれで本当に満足してるの?』

 

相変わらず考えが読めない相手に与一さんがそう切り出す。

それに対し奴は変わらず穏やかな態度で答える。

 

『与一、過去に一緒に読んだコミック。あれを僕は最後まで読まなかっただろう?』

 

『・・・・うん』

 

『あれはね、先がわかって読むのをやめたんだ。魔王が倒される、そんなつまらない展開。先が読めた物語程つまらないものはない』

 

『・・・・何が言いたい』

 

話をはぐらかされていると感じた駆動さんが口を開く。

それに対し奴は笑いながら言葉を続けた。

 

『僕はね、これから彼がどうなるのか知りたいんだ!彼がヒーローのままなのか、それとも悪に落ち魔王となるのかをね』

 

『ふざけてるのか、転弧が魔王なんかになるわけがないだろ!』

 

『そうかい?そうだといいね』

 

奴の発言にキレた私を見て笑うオールフォーワンに思わず殴りたくなるが堪える。

一度殴った時に大げさなくらい痛がってウザかったからだ。

 

『今や転弧は世界中から求められる存在だ、これまでと比較にならないほどの人間の感情に晒されることになる。人の欲望の底知れなさを舐めたらいけない、これから先、醜い欲望を一身に受けていくだろう』

 

『・・・・・』

 

『僕は予想するのが好きでねぇ。けれど先が読めない今の状況がとても楽しい。そして、僕の予想通りに彼が魔王になったのなら、嬉しいなぁ』

 

『おい、やっぱこいつぶっ倒した方がよくないか』

 

『賛成っすね』

 

笑う元魔王を万縄さんが黒鞭で縛り上げていく。

それをオールフォーワンは笑いながら受け入れていた。

 

『ほらもっと構ってくれよ与一、転弧が言っていただろう?僕は寂しがりやなんだ』

 

『……うん、まぁ、うん』

 

黒縄で縛られた兄を見て与一さんは何とも言えない表情になる。

確かにオールフォーワンの言葉は正しいのかもしれない。

 

誰だって少なからず欲望ってのがある。

そしてそれを叶えられる存在、転弧がいるとわかれば求めてしまうのだろう。

 

でも。

 

『転弧は魔王にならない』

 

それだけは断言できる。

私は、私の孫を信じている。

 

『はは、別の世界で死柄木弔になった前例があるのを知っているだろうに。まぁいいよ。どっちに転ぼうと、人々は彼のことを、そして僕のことを忘れないだろうからね』

 

そう言って笑って地面に転がっているオールフォーワンを蹴って奥に転がしていく。

 

・・・・これから先こいつとずっと一緒?嫌すぎる。

 

『もう私、ずっと精神世界から外に出てようかな』

 

『おいズルいぞ、俺も』

 

『俺も行きたい』

 

結局、与一さんを残して私らは外の世界に逃げ出す。

 

『・・・・兄さん、当たり前だけど嫌われてるね』

 

去っていく私らを見送った与一さんが再び微妙な顔を兄に向けていた。

 

 

◇

 

「・・・・あーやる気出ねぇ」

 

力の抜けた兄の声を聞き、私は何度目かもわからないため息を吐く。

目を向ければそこには魂が抜けたように口をあけてボーっとする燈矢の姿があった。

 

「もうお兄ちゃん!いい加減やる気出してよ!No.1ヒーローでしょ!!」

 

「・・・・それだよ。俺からやる気を奪う原因はそれなんだ」

 

私の言葉を聞いて項垂れる兄に思わず頬を引きつらせる。

一体何回同じことを言えばいいんだ。

 

「しょうがないでしょ!転弧くんは今じゃ世界のヒーローなんだから!!」

 

新たな力を得た転弧くんは世界から求められることとなり、日本だけにいられなくなった。

 

それに伴い、日本のヒーローランキングからはお父さん達と同じように殿堂入りとして姿を消した。

 

転弧くんがいなくなったことで自動的にNo.2だった兄がNo.1の座に就くことになった。

 

「・・・・父さんもこんな気持ちだったのかな」

 

そう言ってボーっと上を見る。

動かない兄に私ももう面倒になり適当に声をかける。

 

「そんなに暇なら彼女でも作って結婚して落ち着いたら?もういい年なんだし」

 

まぁ、No.1にしか興味にない兄にそんなものが出来るとは思えないけど。

 

・・・・はぁ、早く小夏と小雪、そしてエリちゃんに会いたい。

 

最近になって新たに加わった天使によって私の日常に潤いが増えた。

彼女達がヒーローになって事務所を立ち上げた暁には速攻でここを出て彼女達のところに行くつもりだ。

 

いやその前に焦凍のところに行こう。うんそうしよう。

 

「はぁ?そんなもん・・・・あーいやなんでもないわ」

 

「え?なに?」

 

「なんでもねーよ。仕方ないな、トップの責務はちゃんと果たさないとな」

 

一瞬こっちに視線を送った燈矢兄はそれだけ言って事務所を出ていく。

 

「・・・・え?どういうこと?」

 

何とも言えない状況の中、私は一人事務所に残されることになった。

 

 

 

◇

 

「・・・・いよいよか」

 

秘密裏に作られた特殊な施設の中で俺はそう呟く。

腕には普段つけていない特殊なリングが取り付けられている。

 

これこそが今までの研究の成果であり、俺がいた本来の世界に渡るためのアイテムだ。

 

このアイテムを使えば元の世界に渡れる・・・・はずだ。

 

「・・・・」

 

絶対とは言えない、実験もできないぶっつけ本番となる。

理論上は行き来出来るはずだが、もしかしたら向こうに渡れたとしてもこっちに帰ってこれないかもしれない。

 

だが、そんなリスクがあったとしても俺は向こうの世界に行きたい。

 

いや行かなくてはいらない。俺を待っている人達が、果たさなくてはならない責任があるのだから。

 

「炎司さん」

 

振り返れば冷、そして燈矢たちがいる。

家族だけじゃない、俊典やホークス、これまでで縁を結んできた人たちがいた。

 

「いってらっしゃい」

 

「・・・・ああ、行ってくる」

 

微笑んで見送ってくれるみんなに俺も答え、アイテムを起動させる。

 

その瞬間、リングから光が漏れて俺を包み込む。

さらに身体に歪みと引っ張られるような感覚が襲う。

 

これは以前元の世界からこっちに来た時と同じ感覚だ。

 

その感覚に逆らわず身を委ねる。

やがてその感覚は消え、光も収まってきた。

 

「・・・・」

 

光が消えたのを確認し目を開ける。

すると俺の視界に映ったのはついさっきまでいた研究所ではなく全く別の場所になっていた。

 

「・・・・も、戻ってきたのか?」

 

周囲を確認する。

 

人がいる、全員日本人。

建物はあるが崩壊しているものが多い。

 

見たところ復興作業中のようだ。

 

「ここは、研究所があった場所と同じところか」

 

周囲の様子を確認し見覚えのある建物がいくつもあった。

世界を跨いだのならあっちの世界で俺がいた場所と同じところに移動したと考えれば納得がいく。

 

「・・・・」

 

息を飲みながら街を進む。

街を歩き、確認すればするほどここが同じ場所だと理解できた。

 

それと俺を見た周囲の人たちの反応も気になる。

 

「・・・・あれってエンデヴァーじゃね?」

 

「え、嘘。でもエンデヴァーって」

 

「流石に似てるだけだろ」

 

俺を見つけた人たちは全員驚いた顔、まるで死人を見たかのような顔をする。

その反応を見ながら俺は空を飛び、目的の場所を目指す。

 

行くべき場所はいくつもある。

だが、最初に行くべき場所は一つしかない。

 

「・・・・」

 

高速で移動しながら目的の場所に近づくと同時に心臓が早まるのを感じた。

いま、あの家があるのかもわからない。あったとしてみんながいるとも限らない。

 

それでも。

 

「・・・・あ」

 

目的の場所に到着しそこを視界に収める。

あった。変わらずそこに。

 

冷たちがいる、新たに建てた家が。

 

「・・・・」

 

空から地面に降り立ち、玄関の扉の前で止まる。

扉を開けようと手を伸ばし、止まる。

 

見れば、震えているのがわかった。

 

「・・・・なんてザマだ」

 

情けない自身の身体に文句をいいつつ、意を決して扉を開ける。

開けようとして、鍵がかかっていることに気が付いた。

 

「・・・・」

 

無言で扉から手を離し、震える指先でインターホンを押す。

すると家の中に音がなり、やがてこちらに向かって足音が聞こえてくる。

 

「・・・・っ」

 

震える身体を抑えつけ、扉が開かれるのを待つ。

 

「はーい」

 

聞き慣れた声、冬美の声と共に扉が開く。

そして、彼女の姿が目に入った。

 

「どちらさまで・・・・・」

 

言葉の途中で俺を見たのか、冬美の動きが止まる。

俺も動かず冬美を見る。

 

顔だけ見ても火傷の跡がはっきりと見えた。

それであの時のことを思い出す。

 

やはり、焦凍の言う通り荼毘となった燈矢を止めるためにあそこにいたのだな。

 

その姿に思わず目を細めると、冬美が俺と同じように身体を震わせていることに気が付いた。

 

「・・・・えっと、あれ?お、お父さん?あ、あれ?な、なんで?」

 

「・・・・焦凍から聞いていないのか?」

 

てっきり焦凍から俺が別の世界にいることが伝わっていると思っていたが違ったようだ。

冬美は俺を信じられないものを見る目で見つめている。

 

「事情があって今まで死んだことになっていた。理由はみんなが集まってから説明する」

 

「・・・・ふえ?」

 

俺の言葉に冬美が言ったのは言葉とも言えないそんな声だけ。

じっと俺を見て身体をさらに震わせている。

 

それを見て俺は逆に落ち着くことが出来た。

 

「冬美、落ち着け。俺は生きている、生きていたんだ」

 

正確には死んでいるが、今は混乱するだけだろう。

俺の言葉に彼女はゆっくりと俺の身体に触れ、存在を確かめていく。

 

そして最後に自分の頬をつねった。

 

「・・・・痛い。あれ?じゃあほんと?ほんとにほんとにお父さんなの?」

 

「ああ、そうだ」

 

「・・・・」

 

俺の言葉に冬美は動きを止め、やがてその瞳に涙が浮かべ始めた。

そして震える身体のまま俺に抱き着いた。

 

抱き着いた冬美は言葉にならない声を出しながら静かに泣き続ける。

俺はそれを黙って受け入れた。

 

家から他の者の気配はない、どうやらいるのは冬美だけだったようだ。

 

「・・・・」

 

冷たちは、焦凍はどこへと考えていると泣き止んだ冬美がゆっくりと離れる。

そして服で溢れる涙を何度も拭き、やがて俺に向かって微笑みを浮かべてくれた。

 

「いっぱい言いたいことがあるけどまずはお父さん」

 

涙を流しながらも浮かべる微笑み、そして。

 

「おかえりなさい」

 

「・・・・ああ、ただいま」

 

その言葉に気が付けば俺の目からも涙が零れ落ちていた。

 

 

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