「・・・・赫灼熱拳」
拳に炎を宿し、目の前の黒い皮膚に向かって振り絞る。
敵は雄たけびを上げながら俺を殺そうと拳を放ってくるが、その動きは単調で避けるのは簡単だ。
個性『肉体強化』+『瞬発力』+『雷撃』
カウンターの要領で振り絞った拳を叩きこむ。
それぞれの個性を宿す炎を纏った拳を受けた脳無は声も上げずに一撃で撃沈した。
地面に伏した脳無を見つめる。
情報捜索中に接敵したが、やはり俺の知る脳無を同じか。
今集めた情報から察するに、この世界は未だオールフォーワンが健在の世界。
いや、それよりももっと深刻な状況か。
・・・・一刻も早く冬美の居場所を特定し救出しなければ。
「・・・・敵は制圧した。もう出てきていいぞ」
隠れた場所で俺を見ていた何者かに声をかける。
敵意は感じない、おそらくこの世界の人間。
気配から一般人ではない、ヒーローか。
「・・・・」
俺の言葉から少しして物陰から誰かが姿を現す。
暗闇から照らされたその姿を俺は視界に収め、そして。
「・・・・ん?」
俺の口からは怪訝な声が漏れた。
◇
「・・・・」
手を差し伸べる僕に対して俯く彼女。
それを見て僕は目を伏せる。
ここは、僕が死柄木に負けた世界。
そう考えるとこの現状に納得が出来てしまう。
そのまま二人で黙っているとかっちゃんと轟くんがこっちにやってくる。
「緑谷、無事か」
「・・・・うん」
轟くんの言葉に答えつつ、横にいるかっちゃんに目を向ける。
かっちゃんは、俯く彼女をじっと見つめていた。
その表情は困惑を宿している。
「・・・・お前は」
俯く彼女が口を開く。
だけどそのあとの言葉は続かない。
まるでそこから先の言葉を口にするのを躊躇っているかのように。
「・・・・っ」
一度彼女は口を噤み、けれど歯を食いしばった後に僕を真っすぐ見る。
そしてその言葉を口にした。
「・・・・本当に、出久なの、か?」
「・・・・」
僕はそれにすぐに答えることが出来なかった。
その言葉にはどれほどの思いが込められているのだろう。
視線の先にはかっちゃんにそっくりの女の子。
彼女は助けを、求めるような顔をしていた。
期待する言葉はきっと・・・・けれど僕は。
「・・・・ごめん、違うんだ」
目を伏せ、言葉を絞り出す。
彼女の期待した言葉を僕は出せなかった。
「・・・・僕は君の知っている緑谷出久じゃない」
僕は今の僕たちの現状について簡単に説明する。
信じられないような話だろう。
それでも彼女は黙って僕の話を聞いてくれた。
そうして僕の話を聞き終えた彼女はゆっくりと口を開く。
「・・・・つまりお前は私の知ってる出久じゃなくて、別世界から来た緑谷出久ってわけだな」
「・・・・うん」
「・・・・・・・・・・そっか」
僕の返事に彼女が短く返事をして、黙る。
彼女に対し僕も何も言えず気まずい空気だけが流れる。
その流れを変えたのはかっちゃんだった。
「俺達のことは話した、今度はそっちの番だ」
かっちゃんは黙る彼女を真っすぐ見ながら質問を口にする。
「この世界の現状、轟の姉貴を攫った男、知ってること全部教えろ。そんで後はてめぇについてだ」
「・・・・あ?私についてだ?」
「ああそうだパクリ女」
パクリ女とかっちゃんは彼女のことを指す。
その意味はよくわかる、だってあまりにも彼女は似ているから。
僕の視界にかっちゃんと彼女が同時に映る。
二人を同時に見てやっぱりそっくりだと改めて思った。
「・・・・爆豪
かっちゃんは自分のプロフィールを簡単に説明していく。
いま、かっちゃんが何を確かめようとしているのかわかった。
この世界は僕たちの世界とほぼ同じように進んでいる。
こっちの世界には別の僕がいたし、二つの世界には同一人物がいる。
けれど、全く同じではない。
この現状がそうであるように大なり小なり二つの世界で異なる点があっても不思議ではない。
「・・・・そうだと思いたかねぇが、てめぇはこっちの世界の俺か?」
「・・・・」
かっちゃんの質問に彼女は情報を整理しているのか黙る。
けれどすぐに口を開き、その答えを口にした。
「・・・・個性、学校、家族、他の奴との関係、全部一緒だ。これで他人ってのは無理があるか。名前は少し違うが」
そう言って彼女は立ち上がり、自身の名前を口にする。
「・・・・私は爆豪
「ああ!?パクリはてめぇだろうが!!」
彼女の言葉に目を尖らせるかっちゃん。
いや、どっちもパクリというわけでは。
「・・・・っと、誰か来たぞ。親父と、あれは?」
黙って状況を見ていた轟くんが視線を別の方向に向ける。
僕もそっちに目を向ければエンデヴァーがこっちにやってくるのが見えた。
騒ぎと聞いてやってきたのだろう。
・・・・それはいいんだけど、その横にいるのは。
「と、轟くん?」
まだ距離があるけど、エンデヴァーの隣には見覚えのある姿がある。
綺麗に赤と白に分かれた髪、それにあのコスチューム。
間違いなく轟くんだ。
「・・・・」
横に目を向ければ轟くんがいる。
ということはあっちの人はこの世界の轟くんなんだろう。
こっちの世界のかっちゃんが単独で行動していたのではなく轟くんと一緒だったんだ。
「エンデヴァーと出会ったんだ。合流して状況を伝えよう」
手を上げながら二人に近づく。
向こうも気が付いたのだろう、横にいた轟くんがこっちを見て固まったのが見えた。
それを見て気づく。
こっちの世界の僕は死んでいるんだ、彼から見たら幽霊、もしくは偽物になる。
さらに自分と同じ轟くんが横にいるんだから混乱は必至。
エンデヴァーが横にいるから状況の説明をしてくれていたらいいんだけど。
「・・・・っ!!」
離れた場所から僕らを見た轟くんが固まった後に駆け出してくる。
「え、あっ!待って!僕らは!」
必死な様子でこっちに走ってくる彼に慌てて口を開く。
まずい、やっぱり敵だと思われた!?
慌てて誤解を解くための言葉を考えている間にも彼はどんどん近づいてくる。
そうして彼の姿が良く見えるようになるにつれて違和感に気が付いた。
・・・・なんか、身体が、あれ?顔も。
また嫌な予感が走る。
近づいてくればくるほど彼の姿がはっきりを視界に映る。
彼、いやこれは。
「・・・・と、轟、さん?」
「っ!!緑谷!!」
目の前のやってきた轟くん、その姿はかっちゃんと同じ。
どう見ても女の子だった。
固まる僕に対し、走ってきた彼女は止まらない。
それどころか全力で僕に向かって抱き着いてきた。
「んんん!!?」
予想外の行動に受け身も何もしていなかった僕は彼女の勢いに負けて押し倒される。
地面に倒され、彼女は僕にしがみつくようにくっ付いてくる。
と、轟くんも、かっちゃんと同じように女の子に?
混乱する頭に彼女の行動がさらに拍車をかける。
そして真っ白になった僕に脳に、不思議な感触が届いた。
なんだろう、懐かしい、柔らかい感触。
「っっ!!また、会えた」
抱き着く彼女が声を震わせながら口を開く。
その言葉を聞いて顔を上げて僕の身体に顔を埋める彼女に視線を向ける。
それと同時に、懐かしい柔らかな感触の正体を理解した。
そうだ、この世界の轟くんは女の子。
だったら、身体も変化している。
その変化の象徴が、僕に当たっていた。
「おっっっ!!?」
ぱい。
僕の知る轟くんにはない柔らかなものが当たっていた。
い、いや!落ち着け僕!今は彼女を起こして状況の説明をしないと!
「なぁぁにやってんだ半分女!!殺すぞ!!」
空を見ればすごい顔で僕を、というか轟さんを見る彼女がいた。
「・・・・」
彼女の言葉に轟さんは答えず無言のまま僕に抱き着き続ける。
それに対し彼女の目はどんどん吊り上がっていくのが見えた。
それを見て冷や汗を流す。
助けを求めるためにかっちゃんと轟くんを見れば、ただただ呆然としていた。
それと同時に何ともいえないような表情もしている。
二人に助けは期待できず、エンデヴァーに目を向ければ同じように何とも言えない表情をして口を閉じていた。
「・・・・」
泣く彼女に僕はどう対応したらいいかわからず、黙ったまま今の状況を受け入れることしか出来なかった。
◇
「・・・・」
俺の目の前で緑谷に抱き着く少女を見る。
彼女は轟
名前を、轟
話を聞く限り、この世界の俺の娘になる。
目の前の状況を見る限り、爆豪も同じように性別が入れ替わっているようだ。
そのまま周りの様子を確認する。
倒れた脳無、爆破の後がある地面、焼け焦げた状態の緑谷、そして今の様子。
「・・・・どうやらこっちもこっちで色々あったようだな」
「・・・・そっちもあったみたいだな」
同じように状況を見守っていた焦凍と軽く情報を共有する。
予想通り、彼女はこっちの世界の爆豪か。
その話を聞き、彼女から得た情報を口にする。
「・・・・彼女はこっちの世界の焦凍だ。それと、こっちの世界の俺は死んでいる。それによって彼女とひと悶着あった」
「「・・・・」」
俺の話を焦凍と爆豪が無言で聞く。
死んだ俺が目の前にいるんだ、彼女は混乱していた。
そこからなんとか事情を説明し今に至る。
「ひとまず安全なところに移動しよう。保護した子供達も早く連れて行かねぇと」
焦凍の提案に全員が同意する。
その言葉に緑谷に抱き着いていた彼女も離れ、涙をぬぐいながら口を開く。
「・・・・緑谷は、私の知ってる緑谷じゃないんだよな」
「・・・・うん」
「・・・・」
彼女の言葉に緑谷は重そうな頭を縦に振って肯定する。
それを見た彼女は辛そうにしながら顔を俯かせた。
「・・・・親父から聞いてわかってはいたんだ。半信半疑だけど、死んだ親父がこうしているし、けど、こうして見たら、っ、わ、私の知ってる緑谷そのままで、っっ」
拭っても溢れてやまない涙を落としながら彼女は声を震わす。
それを見て全員の表情に影が出来る。
そんな中、こちらの世界の爆豪が口を開いた。
「・・・・雄英に戻るぞ」
それだけ言って歩き出す彼女に全員がついていく。
雄英高校か、確かにそこなら安全だ。
だがそれは俺たちの知る世界の話、この世界では。
「・・・・機能してんのか」
同じ疑問を持った爆豪がそう質問する。
それに対し彼女はまだ見えない雄英を見るかのように遠くを見る。
「・・・・いま日本はほとんどの場所が無法地帯になってる。そんな中で雄英を含めていくつかの場所で安全地帯を作ってんだ」
無法地帯、それはすでに実感している。
こうも脳無がやすやすと歩き回っている現状だ。まともに生活など出来るはずはない。
今のこの状況で雄英がきちんと稼働していることは・・・・・言いたくはないが低いと考えてしまう。
「・・・・死柄木、いやオールフォーワンは今も」
「・・・・ああ」
「・・・・」
緑谷の言葉に短く答える爆豪。
それが全ての答えだった。
「・・・・詳しい話は雄英で先生たちから聞け。それといず・・・・緑谷、エンデヴァー、お前らは変装しとけ。理由は言わなくてもわかんだろ」
「「・・・・」」
その言葉に俺と緑谷は黙る。
ああ、理由などすぐにわかる。
死んだNo1とワンフォーオール継承者のデク。
この二人が生きて雄英に、いや一般の人々の前に現れればどうなるか。
荒廃し命の危険が付きまとう世界で、心に余裕のない人々の前にだ。
・・・・歓迎などされるわけがない。
「・・・・わかった。気を遣わせてすまない」
「・・・・雄英には当然A組が全員いる。会わねぇようには難しいだろうから、私がお前らと会う前に全員に説明する」
「・・・・ごめん」
彼女に嫌な説明させてしまうことへの申し訳なさから、緑谷から言葉が漏れた。
緑谷の言葉に彼女は目を背けながら小さく声を呟いた。
「・・・・特に出久の」
何かを言いかけて爆豪は口を閉じる。
そのまま前へと向き直り、止めていた足を動かし始めた。
「・・・・とにかく私が説明するまであいつらには見られるな」
そう言ったきり、彼女は話すのをやめる。
そのまま無言で歩き続け、やがて目的地へと到着した。
「・・・・ここは無事だったか」
荒廃してしまった世界の中でなお、俺の母校は無事にその姿を残していた。
◇
「・・・・ここは無事だったか」
エンデヴァーのその言葉を聞きながら僕も学校を見上げる。
僕の知る雄英よりも損壊があるけれど、しっかりその機能が生きていることがわかった。
外には警戒しているロボットやプロヒーロー達が見える。
機能が生きていれば強化されたセキュリティもあるのだろう。
「・・・・ちょっと待ってろ」
一般の人達に見つからないように雄英の裏口から入るため二人が門を守るヒーロー達に事情を説明してくれる。
ヒーロー達は僕たちを見てめちゃくちゃ驚いていた。
その後どこかに、たぶん校長や、もしかしたらオールマイト達に連絡しているようだった。
「・・・・まずはプロヒーロー達のとこだ」
門が開かれ雄英の中に案内される。
中は僕たちの居る世界と同じように綺麗に保たれていて、一瞬元の世界に帰ってきたのかと錯覚してしまう。
そんな気持ちを胸に秘めながら僕達は歩き続け、雄英の会議室へと向かう。
「・・・・」
会議室の扉を爆豪さん達が開き、僕らもそこに続く。
この場所も良く知っている。
そして、知っているのは会議室の中だけじゃなかった。
「・・・・緑谷」
「っ、相澤先生」
そこにいたのは、相澤先生だった。
その横にプレゼントマイクや他の先生たちの姿が見える。
気になったのは、足と目が無事だということ。
僕の世界の相澤先生は片足と片目を失っていた。
けれど目の前の先生は五体満足の状態だった。
まぁ、それと言えばこの世界のかっちゃんも右腕でガンガン爆発させていたけど。
「・・・・あの、せんせ「動くな」
先生の目が赤く光り、髪が上がる。
それは先生が抹消の個性を使っている合図だ。
視線は僕達、特に僕を見ている。
僕を見ながら先生がこっちに近寄り、手を伸ばしてくる。
「え、あの、いいっ!?」
「・・・・個性じゃない、それに仮面の類でもないか」
先生は僕へ手を伸ばしたらと思ったら、いきなり僕の頬をひっぱり、その後身体全体を触っていく。
「・・・・爆豪からの通信で聞いてはいたが、こいつは」
僕とエンデヴァーへ視線を送った相澤先生は片手で顔を覆い、表情を隠す。
「・・・・相澤先生、ぼくは」
「・・・・通信で話を聞いた時、俺は罠だと思った。オールフォーワンが俺たち全員の心を折るための罠だと」
「・・・・」
先生の言葉に開いた口を閉じる。
当然の判断だと思った、普通に考えれば平行世界から来たということを信じるより僕の偽物だという可能性がずっと高いし現実で起こりえることだ。
「それでも連れて来たのは、平行世界という言葉に心当たりがあったからだ。オールフォーワンの手下の一人にそう考えられる力を持つ男がいる」
「っ!!それは本当か!!」
相澤先生の言葉にエンデヴァーが反応する。
もしその話が本当なら、轟くんのお姉さんを連れ去った男の可能性が出てくる。
「教えろ!その男は何者だ!今はどこにいる!!」
エンデヴァーが声を荒げながら相澤先生に詰め寄る。
その声に相澤先生は落ち着いてくださいと言葉を発し、口を開く。
「・・・・その前にそちらについて詳しく教えてください。どういう世界から、どうして来たのか。そっちの二人も、まぁ爆豪と轟と聞いているが、正直半信半疑もいいとこです」
「・・・・」
「・・・・こっちとしては死んだと思っていた生徒がいきなり現れたんです・・・・今の気持ちを察してくれると助かります」
そう言って個性を解いた先生が顔を俯かせる。
そして、小さな声で呟くのが聞こえた。
「・・・・残酷だな」
「・・・・」
その言葉に、僕は何も答えることが出来なかった。
◇
「・・・・白髪の男、名を
イレイザーヘッドに俺達の事情を説明した後、気になっていた例の男の情報を聞くことになった。
その名に聞き覚えはない。
ヴィラン連合にも、今まで捕まえて来たヴィラン、その他の者たちの中にもなかった。
だが、その苗字はよく知っていた。
「っ、氷叢だと」
その苗字は冷の旧姓、つまり彼女の実家の名だ。
なぜ冷の実家の者がヴィランに、いやそれは過去にも事例があった。
外典、リ・デストロの部下であった男、あれも氷叢の者だと後にわかったからだ。
ではなぜその男が冬美を、しかも別の世界の彼女を狙う。
その理由がわからない。
そこまで考え、嫌な考えが背筋を走った。
あの男が残した発言、あれは冬美と関係者、しかもある程度の友好があったような口ぶりだった。
冷や夏雄からあの男に言われた言葉も聞いている、まるで仲の良い人間に向けるような態度だったと。
そして、この世界の俺はすでに死んでいる。
そこまで考え、嫌な予感を覚えてしまった。
「・・・・
後ろのいたこの世界の焦凍に声をかける。
間違いであってくれと願いながら
「・・・・冷は、冬美は、夏雄は、家族のみんなは無事なのか」
「・・・・」
俺の言葉に、彼女は何も答えなかった。
ただただ顔を俯かせ、口を開く様子はない。
それが、俺の問いへの答えだった。
「・・・・っ」
この世界の俺は、何をしていた。
なにを、なぜ。
「・・・・すいませんが、話を続けます。その男の個性を最初我々はワープだと考えていました。それだけでも厄介でしたが、その本質は違った。あれは全く異質な力です」
「・・・・」
イレイザーヘッドが気を使っては話を続けてくれる。
俺もなんとか意識を切り替える。
今は冬美を救うことが何よりも大事だ。
「あれは、異なる世界すら跨ぐ。その異質な力に気づかず我々は後手に回らされた・・・・そして死柄木に緑谷が」
「・・・・なるほどな。だがその状況で雄英含めまだ日本が無事なのはなぜだ」
緑谷が敗北した場合、あの死柄木の力ならば日本は瞬く間に崩壊していただろう。
オールフォーワンの考えで日本を残したとしても雄英をそのままにしておく理由がわからなかった。
「今世界中のヒーローがオールフォーワンと戦ってくれているからです。緑谷の、我々全員の戦いを見て立ち上がってくれました」
その言葉を聞いて納得する。
世界中のヒーローや兵器を相手しているのだとしたら、日本がまだ無事なこともわかる。
だが緑谷の敗北、それはつまりワンフォーオールは。
「・・・・戦ってはくれていますが、状況は依然最悪です。アメリカのスターアンドストライプを始めトップヒーローが奴を倒そうと今も戦ってくれていますが、それでも力が足りない」
「・・・・」
スターアンドストライプ、彼女が生きているのか。
イレイザーヘッドの口から語られるこの世界の状況、ここに至るまでの過程は俺達の世界で経た過程とは異なっているようだ。
考えてみれば当然か。
性別の逆転、それだけでも十分なバタフライエフェクトを生むだろう。
別の世界に飛んだ経験から些細なことがもたらす変化の大きさはよく知っている。
「その氷叢 繋は今、どこにいる」
「奴は基本的に死柄木の近くにいます。なので今はアメリカでしょう。しかしその気なれば世界中どこでもワープで移動されてしまいます」
「・・・・奴に会うには死柄木との接触がほぼ必須ということか」
・・・・いいだろう。
どっちにしろこの世界の状況を見て見ぬふりは出来ない。
死柄木と接触することが必須ならば、あの男もまとめて倒し、冬美を救い出す。
「・・・・俺はまだイレイザーヘッドたちと話をしていく。お前たちは休んでいろ、もう遅いし色々ありすぎた」
三人とこの世界の焦氷たちにそう告げる。
特に緑谷は精神的にきついだろう。
それに事態は想定よりも最悪だ。
この戦いに三人は巻き込めん。
俺の言葉に従って部屋を後にする彼らにイレイザーヘッドが口を開く。
「・・・・緑谷」
「っ、はい」
背中を向けていた緑谷に声をかけ、名を呼ばれた彼は振り返る。
緑谷の名を呼んだイレイザーヘッドは顔を歪め、涙をこらえているように見えた。
口を開き、何かを口にしかけ、言葉をやめる。
その後長い息を吐いて言葉を口にした。
「・・・・この世界の人間じゃないお前に、こんなことを頼むのはおかしいとはわかってる、だが」
「・・・・」
「・・・・あいつらを、頼む。たとえ別の世界でも、生きているお前がいるんだとわかれば、それは希望になる」
「っっ、せ、先生。ぼくは」
「・・・・頼む」
その言葉だけを残し、彼は口を閉じる。
まだ何かを言いたそうな緑谷を焦凍と爆豪がひっぱり部屋から出ていく。
そして彼らがいなくなった後、俺はイレイザーヘッドに声をかけた。
「・・・・言いたかった言葉は、あれでよかったのか」
「・・・・別の世界の緑谷に言うことではないので」
そう言った後、彼らが出ていった扉を見つめた彼は、ゆっくりを目を閉じた。
◇
エンデヴァーの言葉に従って僕らは二人の後を歩く。
この世界でも雄英の構造は変わっていない。
二人がどこに向かっているかなんてわかっていた。
やがてたどり着いた場所は僕達A組が暮らしている寮だった。
「・・・・ここにA組のみんなが」
「・・・・ああ、もう全員戻ってきてるはずだ」
「・・・・」
その言葉に僕は口を閉じながら先ほど先生から言われた言葉を思い出す。
「・・・・私らが先に入る。お前らは待ってろ」
「・・・・」
入り慣れた場所なのに、心臓の音が激しくなっていくのがわかった。
視線の先にはロビーが見え、耳には聞き慣れた友達の話し声が届いた。
「そっちはどうだった」
「・・・・ダメだ、脳無がいっぱいで思うように動けねぇ」
「うちらも一緒、どんどん日を追うごとに増えてる感じ」
「急いで避難できてない人達を助けねぇとダメだってのに、クソ!」
声の主は障子くん、瀬呂くん、耳郎さん、切島くんの声だ。
他の人達の声だって聞こえる。
・・・・かなりの人がロビーにいる。
聞き慣れすぎた皆の声に無意識に足が向かいそうになるのに気づく。
違う、目の前にいるみんなは僕の知る彼等じゃない。
「・・・・性別が変わってんのは俺と轟だけかよ」
皆の変わらない声からそれを察したかっちゃんからそんな言葉が漏れた。
それになんと答えたらいいかわからず苦笑いを浮かべる。
「・・・・てめぇら、話しがある」
彼女の声が耳に入り、それと同時に心臓から嫌な鼓動が響いた。
全員がその言葉に会話をやめて静かになる。
「・・・・今、寮の扉の前に――――」
彼女の説明が始まる。
僕らの名前が出た瞬間、全員がざわついたのがわかった。
そんな雰囲気を感じながら彼女の説明が続く。
「おい!いくらなんでも言っていい冗談と悪い冗談が!」
峰田くんの荒げた声が届いた。
彼だけじゃない、みんなが口を開き、それぞれ言葉を口にしていた。
それを彼女達は黙って聞き、また口を開く。
それを繰り返し、やがて全員が静かになってしまった。
少しして、この世界のかっちゃんと轟さんが僕らの前に戻ってくる。
「・・・・説明した、全員こい」
かっちゃんの言葉に僕らは無言のまま足を進める。
すぐにロビーに入り、僕の視界にみんなの姿が現れる。
「・・・・」
この世界でも変わらないA組のみんなの姿がそこにあった。
そして、僕の視界に入ったということは当然その逆も。
「―――――ぁ」
その声は誰からのものかわからない。
一人、あるいは全員からだったのかもしれない。
みんな、僕を見てただただ呆然としていた。
そんな彼らを見て、僕は思わず顔を歪める。
「・・・・みんな」
「――――っっ!!」
僕の声と同時に全員が同時に動きだしていた。
気が付けばみんなが一斉に僕の方へ駆け出していた。
「「「「みどりやぁぁぁぁぁ!!!」」」
全員が涙を浮かべながら僕に抱き着く。
僕に抱き着きながら全員が泣きながらそれぞれ口を開く。
「生きてた、緑谷が生きてたよぉ!!」
芦戸さんが大粒の涙を流しながらそう口を開く。
そのすぐ横で同じように葉隠さんも泣いている声が聞こえた。
「ば、爆豪!ふざけんなよな!どっからどう見てもオイラの知ってる緑谷じゃんかよ!っっ悪い冗談はやめろって言っただろ!」
芦戸さんの言葉を聞いた峰田くんが泣きながらかっ、爆豪さんを睨みつけている。
その言葉に彼女は無言だった。
「み、緑谷くん、っっっっ」
「・・・・飯田君」
止まらない涙を拭う彼を見る。
僕が彼の名前を呼べば、嗚咽を漏らしながら俯いてしまう。
「緑谷!お前マジでっっ、くそ、顔見るだけで涙が止まんねぇ」
「心配かけさせんなよぉぉぉ!!俺の心配が当たっちまったあの日はほんと俺ぇもう」
「・・・・切島くん、上鳴くん」
みんな、泣いていた。
そんな彼らを見て、僕の心臓が張り裂けそうになる。
思わず顔を歪め、目から涙が漏れた。
・・・・違うんだ、みんな。
・・・・僕は。
「・・・・ほ、本当に、っ、緑谷ちゃんなの?」
蛙吹さんのその言葉に僕は口にするのを躊躇う。
爆豪さんからみんな僕の説明を受けている。
だから、わかってるはず。
・・・・それでも、ということなんだろう。
涙を流す蛙吹さんは、不安そうな表情を浮かべて僕を見る。
「・・・・うん。だけど、僕は、その」
涙を流し続けるみんなにこのことを伝えるのを躊躇う。
けれど、言わないとダメだ。
そうじゃないと、この世界の僕が。
・・・・あくまで僕は、この世界では部外者なんだから。
「・・・・僕は、みんなの知ってる緑谷出久じゃ「――――言わないで」
僕のその言葉は途中で被せられる。
その声の正体は僕のすぐ近くから聞こえて来た。
・・・・そう、彼女から。
「・・・・麗日さん」
「っっ、わかってる。わかってる、けど、今は、言わないで」
僕を抱きしめる麗日さんは俯きながらそう口にする。
そんな彼女は、静かに泣いていた。
その言葉に僕は口を閉じる。
広いロビーに僕を含め、みんなの泣く声だけが響いていた。