「君たちはどうしてヒーローを目指すんだい?そして、どんなヒーローになりたい?」
その質問を受けてから長い時間が経った。
その間もオールマイトは僕たちのところに来てくれていて、答える機会はいくらでもあった。
けれど僕は、あの質問への答えを未だに返せずにいる。
どうしてヒーローになりたいのか、どんなヒーローになりたいのか。
ただ漠然とヒーローに憧れてなりたいと思っていた僕はその答えを持っていなかった。
オールマイトのように大勢の人を救えるようなヒーローに憧れる。
けれど、『無個性』の僕ではそんなことできない。
だったら僕でもなれるヒーローを考えてみたけど、あの質問に答えられるようなヒーロー像が出てこなかった。
あれからヒーローになるために身体を鍛えるようになった、けど無個性というハンデはそう簡単に埋まってくれない。
華ちゃんもまだオールマイトに答えを言っていないらしい。
どうやら僕の答えを待ってくれているみたい。
焦る気持ちと裏腹に答えが出ないまま時間だけが過ぎていく。
「・・・・」
現実逃避、と言われると何も言えないけど僕はゲームをするのが好きでよくやっている。
特に好きなのはオンラインで色々な人と協力しながら進めていくゲームだ。
そんな中で一番ハマっているのがゲームを夜の間はずっとやっている。
そうしてゲームをするうちにオンライン上で仲間が出来て、今はその中で一番仲の良い子とクエストに出ていた。
『おいキツネ!そっちいったぞ!』
『うん任せて』
画面上に出るフレンドからの文字に返事をしながら向かってくる敵を撃つ。
レベル上げによってステータスは十分、あとはしっかり狙って。
僕の作ったキャラが敵に向かって攻撃を行う。
そしてその攻撃はしっかりと当たり、そのまま敵は報酬を残して消えていった。
『やったなキツネ』
『うん、ありがとうスピナー』
苦戦した敵を倒し終えて一息つく。
ついでに今ログインしているフレンドを確認してみるけど、どうやら僕とスピナーだけみたいだ。
もういい時間だし、僕もそろそろ終わろうかな。
『なぁ、次はここのクエストいかないか?』
ログアウトすることを伝えるために文字を打っている途中でそんなメッセージが届く。
う、うーん流石にこれ以上起きていると学校で寝てしまう。
『ごめん、明日起きれなくなるから今日はここまでで』
『そうか、わかった』
『スピナーはまだ起きてて大丈夫なの?明日眠くなるよ?』
まだやる気なスピナーにそんなことを質問する。
このフレンドのスピナーとは出会いはたまたまだけど、やってるゲームの趣味があって付き合いが結構長くなってきた。
それでいつもスピナーは遅くまでやっていて気になってはいたんだよね。
『おれ、引きこもりだから大丈夫、いくら寝ても誰も俺に用なんてないしな』
「・・・・え」
画面に表示された文字を見て固まる。
そのまま僕が返事をできずにいると、続けて文字が送られる。
『あー俺は異形型の個性だからいろいろ言われて嫌になって引きこもってんだ。だから時間はいくらでもある。俺はもう少しやってから寝るわ、おやすみ』
その言葉に僕は何と返すべきかわからなくて『おやすみ』とだけ送ってログアウトする。
そしてベッドに寝転がって先ほどのことを考えてみる。
・・・・どう答えたらよかったんだろう。
考えて答えが出ずに胸の中がモヤモヤする。
前に話した時に僕と同じくらいだから、10歳か11歳だってことがわかった。
そんなスピナーが引きこもりになっている。
異形という個性をその身に宿したという理由で。
それを聞いて、僕は
◇
「父さん、ここはどう解くんだ?」
「ああ、ここはだな」
勉強机に広がる教科書を見て悩む夏雄から質問を受け、俺は答えていく。
中学受験を控える夏雄は現在勉強に勤しんでいる。
塾に通わせてもよかったが、家の方が落ち着くと言う夏雄の意見を採用してこうしてわからない部分は俺が教えるようにしている。
「父さんって勉強できるんだな。やっぱヒーローって頭よくないとダメなの?」
「・・・・いやヒーローによるな。あったほうがいいが、なくても最悪問題ない」
サイドキックのような自身の弱点を補う方法はいくらでもある。
もちろん勉強が出来るに越したことはないが。
「そうなんだ、じゃあ俺もヒーローになれるかな?お父さんの個性は継がなかったけどお母さんの個性は継いでいるんだし」
「・・・・夏雄はヒーローになりたいのか?」
「まぁ俺もエンデヴァーの息子だし、そりゃ憧れはあるよ。でも俺は兄ちゃんみたいにずっと訓練はしんどくて出来ないからなぁ」
「・・・・決めるのはお前だ。どんな選択でも俺が協力する」
「うん、ありがと」
そう言って笑う夏雄を見て俺は複雑な感情を抱く。
今の夏雄は俺に対して負の感情はない。
冷を母親として見るように、俺のこともただの父親として見てくれている。
・・・・それが俺の中の罪悪感を刺激する。
俺の知る夏雄なら、俺とこうして二人っきりになることも、ましてや勉強を教えてくれと頼むようなこともしなかった。
家族想いな夏雄は罪を犯した俺を許さず、それでも俺に償う機会はくれていた。
そんな夏雄は、俺の前にはいない。
・・・・今の俺は、本当に罪を償えているのか?
今の冷は俺の知る彼女と違い、俺に微笑みを向けてくれる。
子供たちが寝静まった後は二人の時間も大事にしたいといい近くにくる。
そんな彼女に対して俺はどう対応したらいいかわからず、結局彼女に押し切られてしまう。
燈矢は俺を超えるヒーローになるために毎日訓練をし、今まさに雄英への推薦受験を行っている最中だ。
今の燈矢の実力はプロヒーローと比べても上位に位置する。
過去の高校入学時の焦凍と比べても今の燈矢の方が実力は上だ、だから確実に受かるだろう。
二度と荼毘にさせまいと見続け、望む限り訓練に付き合った。
無論、訓練以外にも共にだ。
冬美も夏雄にも出来る限り丁寧に向き合ってきたつもりだ。
そのおかげか今の家庭はとても安定しているように思える。
だが・・・・そんな家庭を見ても俺は、自分が罪を償えているとは到底思えないんだ。
しかし、そう思っていても今の俺に出来ることはこれしかない。
・・・・これしか、ないんだ。
「・・・・」
「父さんどしたの?」
「いや、何でもない勉強を続けよう」
暗い思考を心に大切にしまいながら勉強を再開する。
そして夏雄に勉強を教えている時、夏雄の部屋の襖が勢いよく開いた。
「お父さん夏くん、ただいま!推薦受験終わった!!」
「おかえり兄ちゃん。どうだった?」
「楽勝過ぎてビビった!あっでもめちゃくちゃデカいロボットが出たんだ!それでそいつをプロミネンスで倒してやったぜ!!」
「すげー!!」
自慢げに語る燈矢に夏雄が素直に賞賛を送る。
弟からの賞賛を受けた燈矢が次に俺に目を向ける。
その表情から何を期待しているか察する。
それを見て俺は燈矢の頭を撫でながら口を開いた。
「・・・・さすが燈矢だ。辛い訓練を乗り越えた成果が出たな」
「へへ!でしょ!でも余裕過ぎて『とっておき』を使えなかったのが残念だったなぁ。あ、あと試験開始前に無駄に元気な女に話しかけられたんだよ、なんか燃える髪の個性だったんだけど」
「・・・・ふむ」
燈矢の話からその女の特徴を聞いて思い浮かべる、すると俺の知る一人の女性が思い浮かんだ。
まさかバーニンか?確かに彼女は燈矢と年が近かったから不思議ではないが。
俺の将来のサイドキックの一人である彼女は向上心が強く、どんどんその頭角を現していっていた。
そんな彼女が燈矢のクラスメイトになるならば、いい刺激になるだろう。
「その子とは共に切磋琢磨しなさい。きっとお前のためになる」
「え?まぁお父さんがそういうならそうするけどさ」
俺の言葉に不思議に思いながら頷く燈矢。
さて、今日は燈矢も疲れただろう、あとは部屋で休ませたほうがいい。
俺がそういうと、燈矢は首を横に振る。
「全然余裕!だから訓練!っていいたいけど夏くんの勉強中か。みんなはどこ?庭?」
「ああ、冬美も焦凍も冷と一緒にガーデニング中だ」
「んーじゃあそっちに報告がてら混じってくるよ」
「ああ」
そう言って燈矢は夏雄の部屋から姿を消す。
そして夏雄の勉強に戻りながら俺の思考は別の方へ離れていく。
燈矢は順調にヒーローへの道を進んでいる。
冬美も夏雄もそれぞれのやりたいことを探しながら日々を過ごしている。
焦凍も自由に過ごしている。
俺が今までさせてきたように無理やり訓練はさせず、むしろ冬美や夏雄、それに外の友人たちと遊ぶように言っている。
最近は燈矢がしている訓練に影響されてか自分も鍛えてくれと言ってくるが・・・・俺としては複雑だ。
嬉しい気持ちは当然ある。だが今の俺は、焦凍にはヒーロー以外の道も考えてほしいと思っている。
・・・・俺は焦凍にヒーローの道しか与えていなかった。
嫌がる焦凍を訓練所へ引きずり、吐こうと鍛錬をやめさせなかった。
他の家族との接触を禁じ、止めようとする冷を黙らせ焦凍を俺の野望を継がせるために利用した。
あんなことをしていなかったのなら、焦凍は別の道を選んでいたかもしれない。
焦凍は自分で選んだと言っていたが、それは、その道しかなかったからだ。
だからこそ過去に戻った今、焦凍にはヒーロー以外の道も与えてやりたい。
その上でヒーローを選ぶと言うのなら俺も手伝おう。
・・・・それでいいはずだ。
「父さん大丈夫?なんか難しい顔してるけど」
「いや、何でもない。それとここ間違っているぞ」
「うわマジだ」
夏雄の間違いを指摘して計算方法を教える。
胸には変わらず罪悪感が燻り続けていた。
◇
「ふっ!やっ!!」
学校近くの公園で身体を鍛える。
答えは出ないけど、それでも動きを止めたくなかった。
でも運動を始めてわかったことがある。
「やっ!!っ!?」
蹴りのモーションをしている時に軸にしていた足が滑り盛大にこける。
・・・・残念ながら僕はそこまで運動神経がいいわけじゃなかったらしい。
「お前は身体能力自体は悪くないが運動神経はいまいちじゃのう」
「うぅ」
僕の訓練を見てくれているグラントリノからそんな言葉が漏れる。
ここで訓練を始めてから毎日こうして付き合ってくれている。
ヒーローで忙しいはずなのに僕のために申し訳がないな。
「いてて、はぁ・・・・今日も擦り傷でいっぱいだなぁ」
毎日ここで特訓をしているけど、何かしらのミスで怪我をしてしまい血が流れてしまっている。
あまり大きな傷が出来るとお母さんに心配させちゃうし気をつけないと。
「だが、確実に身体の使い方をわかってきておる。気長にやりなさい」
「はい!」
「・・・・ぁ、わぁ」
「ん?」
声がした気がして何となく横を見る。
すると僕の視界に女の子が入った。
その女の子を見て僕はいつもの子かと思いながらこけた体勢から立ち上がる。
僕が見ていることに気が付いた彼女はどこかに行ってしまった。
「・・・・」
グラントリノも気が付いていて、女の子がいたところをじっと見つめていた。
あの子は僕がここで特訓を始めているうちに、いつの間にか現れるようになった子だ。
いつも少し離れた場所で僕を見て、視線を向ければどこかに行き、また少ししたら戻ってくる。
正直僕としては失敗ばかりを見せてしまっているから恥ずかしいし、あまり見ないでほしいんだけど。
・・・・いいや、そんなことより。
「グラントリノ」
「なんだ?」
「・・・・僕のネット友達の話なんだけど」
僕は昨夜のことをグラントリノに説明する。
そして僕の話を聞いた彼は難しい顔をしていた。
「・・・・異形系への迫害か。都会の方ではだいぶマシになってきたが、田舎の方じゃそれはまだまだあるのが現実だ」
「・・・・なんとかできないの?」
「異形系への差別ってのはずっと続いてる問題だ・・・・普通の人間は周りと違う存在を嫌うからな。なくそうとしてはいるが、こればっかりは時間をかけて全員が慣れていくしかねぇ」
「・・・・そんなの、みんなが慣れるのを待ってなんていたらスピナーはずっと」
難しい問題だって言うのは子供の僕でもわかる。
でもそんなの、あんまりだ。ヒーローはなんでスピナーを助けてあげないんだ。
そもそも異形だからって、みんなと違うからってどうしていじめられないといけないんだ。
普通の人間、グラントリノはそういうけれど、普通ってなんだろう。
お父さんは僕にヒーローの話をするのをダメといい、それがこの家の普通だと言った。
わからない、みんなが言う普通の意味が。
ただわかっていることは、その普通によってスピナーはいじめられているってこと。
普通とは違う、そのたった一つの理由で。
「・・・・」
悩む僕をじっとグラントリノは見つめる。
その表情は、色々な感情が混ざった複雑な表情をしていて、どうしてそんな表情をしているのか、僕にはわからなかった。
◇
「・・・・なぁ、俊典よ」
「なんですかグラントリノ」
「お前は転弧をどうするつもりだ」
「・・・・」
俺の質問に俊典は何も言わない。
何も言わないが、その顔を見ればわかる。
どうするか、決めかねているんだろうな。
「あの子の頼みで軽く鍛えてやってはいるが、まだお前の問いへの答えは出ていないみたいだ」
「ええ、そうでしょうな。その理由の一つはきっと、転弧少年が無個性だからでしょう」
「・・・・」
その言葉に今度は俺が黙りこむ。
ヒーローってのは命がけの仕事だ、人の命を助けるために自分の命をかける。
当然そのためには力がいる。
それがわかっているからこそ、未だにあの子は答えが出せないんだろう。
だが、いつまでも待っているわけにもいかん。
「最近、あの子の周りにヴィラン連合のメンバーが集まってきてる。まるで吸い寄せられるようにな」
「・・・・やはりそうですか」
俊典がエンデヴァーから聞いた未来の情報。
それによれば転弧がヴィランに堕ちた後、仲間を集めヴィラン連合という組織を作ったらしい。
その連合のメンバーたちの情報はエンデヴァーによって共有され、警察の手も借りて現在の居場所も特定している。
その中には今はまだ悪事に染まっていないただの子供の者もいる。
「トガヒミコ、そして今日あの子からスピナーという名前が出た。着々と集まっているぞ。出会うのが運命だって言ってるかのようにな」
あの子が訓練している様子を遠くから見ていた女の子、あれがトガヒミコだ。
近くに住んでいることは知っていた、だからと言ってまさか会うことになるとは。
一応調べたところ、あの子は個性カウンセリングを受けている最中みたいだ。
それにスピナー、情報が少なくて特定できていなかったが、まさかこんなところで出会うとはな。
「今のところ問題ないが、あまり近づけさせたくはないな」
「グラントリノは転弧少年がヴィランになると思っているのですか」
「バカいえ、そんなわけあるか。優しい子だあの子は」
俊典の言葉に拳骨と共に答える。
俺に言葉を聞いてすぐに頭を下げた俊典を見てため息を吐く。
今のこいつが何を考えているのか、なんとなくわかった。
「力をあの子に渡すか悩んでるな?」
「・・・・いえ、考えはしましたが渡すつもりはありません。ワンフォーオールを渡せば奴に狙われる理由が増えるだけだ」
「ああ、そうだな」
無個性の彼に力を与えるという点だけで言えば効果的だろう。
だが、ワンフォーオールの力には危険が伴う。
なにせ、転弧の祖母である志村がそれによって殺されたんだからな。
「お前が未来で力を託すっていう緑谷はどうなんだ?もう生まれているんだろう?」
「ええ、エンデヴァーの息子さんである焦凍少年と同い年ですから5.6歳ぐらいでしょう」
「見に行かねぇのか?」
「気にはなりますがもっと緑谷少年が成長してからにしようかと。私が安易に会いに行っても少年に危険を与えるだけだ」
「・・・・そうだな」
俊典の考えに頷く。
その後もこれからのことを考え話し合う。
これからの未来のために。
・・・・この日の数日後、まさかあんなことになるとは夢にも思わなかったがな。