エンデヴァー逆行物   作:デッテユー

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六話

「・・・・本当に昔から異形個性の人達への差別があったんだ」

 

パソコンから歴史の情報を調べる。

それでわかったのは自分と違う者への差別。

 

都心部ではそれもなくなってきているようだけど、それは本当に最近なんだ。

 

「見た目が違うだけで、どうしてそんな」

 

僕にはよくわからない。

ただずっと心がモヤモヤする。

 

そもそも、いじめるっていうのがもう嫌だ。

お父さんとの出来事を思い出すから。

 

「・・・・助けてあげられないかな」

 

グラントリノに言ったけど難しそうな顔をするだけだった。

そうだよね。ヒーローはヴィランや災害から人を助けるのが仕事なんだから。

 

きっと、この問題はヒーローが助けられる範囲のギリギリ外側なんだ。

だったらスピナーは僕が助けないと。

 

そんな答えが僕の中で湧き上がる。

 

だって、スピナーは僕の友達だ。

顔も知らない、どこにいるかも。それでも一緒にゲームして楽しいんだ。

それだけの理由があればヒーローじゃなくたって助けに行きたくなる。

 

「・・・・」

 

僕は無言でパソコンからゲームを立ち上げる。

そして中に入っているソフトを起動する。

 

ローディングが終わってすぐにオンラインになっているプレイヤー名を確認する。

そして、スピナーがオンラインになっているのを見つけた。

 

僕はその名前を見てしばらく悩んでマウスを握ったまま固まる。

でも、勇気を出してスピナーに向かってメッセージを送った。

 

『スピナー』

 

『おう、昨日ぶり』

 

僕がメッセージを送るとすぐに返信をくれる。

そして今何をしているかと確認すればアイテム整理をしているようだ。

 

クエストをしているわけではないみたいだし、これならゆっくり話すことが出来そうだ。

 

『ちょっと聞きたいことがあって、いきなりなんだけど通話してもいい?』

 

僕がそう言うとスピナーからしばらく返事が来なくなる。

いきなり過ぎたかなと不安が過るけれど、そのまま待つ。

やがてスピナーから返事が来た。

 

『いいけど、珍しいな』

 

その返事を見て胸をなでおろしながらチャットから通話へと切り替える。

相手に通話許可を申請すればすぐに許可され、相手へと繋がる。

 

そしてスピナーの声が僕に耳に届いた。

 

「聞こえるかキツネ」

 

「うん、聞こえるよスピナー」

 

「なんか変な感じだな、メッセージではけっこうやり取りしてたけど」

 

「あはは、そうだね」

 

そこからしばらくの間取り留めのない雑談をする。

そしてお互いの緊張が取れたと思ったタイミングで今回の目的を話した。

 

「今日電話したのはスピナーのいる環境についてなんだ」

 

「・・・・」

 

僕がそう言うとスピナーからの返事が返ってこなくなる。

でも耳に届く音から声は聞こえているはず。

 

僕は黙っているスピナーに言葉を続ける。

 

 

「・・・・君が外見でいろいろ言われて引きこもっているって聞いてどうしてもほっとけなくて、せめて話を聞きたいって思ったんだ」

 

「・・・・別に、大したことじゃねぇよ。聞いても何も面白くない」

 

「それでも、聞きたいんだ。スピナーは僕の、友達だから」

 

僕の本心を伝える。

顔も知らないネット友達がいきなりなんだと思っているかもしれない。

だけど、今の僕はそんなことを気にするよりもスピナーをなんとか助けたくていっぱいいっぱいだった。

 

「・・・・まぁお前になら言ってもいいか。俺はヤモリに似た外見をしていてな、普通とはかけ離れた見た目だ。そんな見た目で出来ることはヤモリっぽく壁に張り付くことくらい、まさにクソ個性だ」

 

「・・・・」

 

「おまけに俺の家は個性に力を入れている家系でな。クソ個性の俺に居場所なんてなかった、中にも外にも俺に味方なんていないのさ」

 

「っ、辛いことを聞いてごめん」

 

彼が話してくれた内容は想像通りであり、そして重い話だった。

スピナーの話を聞いて、ちゃんと考えていた返事が頭の中から消えてしまった。

 

「いや大した話じゃないし、ていうか今度はお前のことを教えろよ。俺ばっかりずるいぞ」

 

「う、うん!えっと僕も、家も普通だと思う。ただ僕は無個性で、それで学校で色々言われたりはしてる、もちろんスピナーほどじゃないけど」

 

「・・・・そうなのか」

 

「うん、それでお父さんがヒーローを嫌っていて家では―――」

 

僕はスピナーに自身の過去を話していく。

無個性のこと、それで色々言われたこと。

 

そして家にあったヒーローについてのルール。

オールマイトのことはさすがに言えなかったけど、僕にあった過去の出来事は話せるだけ話した。

 

「そっか、お前もいろいろあったんだな。クソみたいな環境はどこにでもあるか、そこの環境にある普通に外れたことをすれば攻撃される」

 

「・・・・うん、そうだね」

 

「・・・・まぁそういう気持ちはわかるんだけどな。俺もゲームではビジュアルがいいキャラを選ぶし、パーティで決めたルールを守らないやつがいたらイライラもする」

 

「・・・・うん、僕もだ」

 

知らず知らずのうちも僕たちも同じことをしている。

ゲームのこととはいえ、相手の気持ちを深く考えずに。

 

「でも、現実とゲームは違うよ」

 

「まぁな。あー俺をいじめるやつらヒーローに捕まらねぇかな。人を傷つけてるんだからヴィランだろあいつら」

 

「・・・・」

 

「あ、知ってるか?異形系でヴィランになるやつってけっこう多いんだ。俺さあいつらの気持ちわかるよ」

 

「え?」

 

不意に発せられた言葉にそんな声が漏れる。

僕の小さな声をよそにスピナーは話を続ける。

 

「なんていうかさ、目じゃ見えない壁があるんだ。でもその壁は自分の一人じゃ超えられない、周りから押されて徐々にその壁を登っていくんだ」

 

「・・・・超えるとどうなるの?」

 

「解放される、たぶん全部から。周りから押されて、壁が超えられるくらいまで来たら最後は自分の意思で超える。そうして超えた奴らがヴィランになるんだって思う……俺にはそんな勇気ねぇけど」

 

「スピナー、僕は」

 

「あーもうやめやめ、ゲームに戻るぞ。通話も切るから」

 

そう言って通話を終わろうとするスピナー。

それを僕は慌てて止める、だってまだ僕は何もできていない。

 

「待って!僕は君の力になりたくて!」

 

「・・・・別にいいさ。俺はこうして引きこもってゲームしてるのが楽しいんだ」

 

そう言った後、僕との通信を切るスピナー。

 

彼の声が聞こえなくなったパソコンを黙って見つめる。

頭の中でスピナーの言葉が繰り返される。

 

どうやったらスピナーを助けられるんだろう。

彼をいじめている人たちを説得する?彼がいる場所からこっちに連れてくる?

 

子供っぽい簡単な考えしか出てこない自分が嫌になる。

 

「・・・・僕はどうすればいいんだろう」

 

オールマイトに相談する?

彼ならきっとなんとかしてくれる。それだけの信頼がオールマイトにはある。

ヒーローの中でもやっぱり彼だけは別格なんだ。

 

でも・・・・これだとオールマイトの力に頼るだけで僕自身は何もしていない。

 

きっとこの問題はずっとスピナーに付きまとっていく。

その度にオールマイトに頼る?他に似たような子と出会った時も?

 

「・・・・」

 

これ以上の考えは、今の僕は思い浮かぶことが出来なかった。

 

 

 

「っ!!やぁ!!」

 

「足の振り方が雑!」

 

「うぐっぅ!」

 

グラントリノに逆にカウンターを受けて吹き飛ばされる。

そのまま地面を転がってうめき声が漏れる。

 

頭の中が昨日のことでいっぱいでろくに集中していないのが自分でわかる。

もちろんグラントリノも気が付いているんだろう、僕を見てため息を吐いた。

 

「集中できてないな、昨日言っていたネット友達の件か?」

 

「・・・・うん」

 

僕はグラントリノに昨日スピナーと話したことを伝える。

するとグラントリノは頭をかきながら口を開く。

 

「ほっとけねぇのか?」

 

「・・・・うん。だからせめて話だけでもって聞いてみたんだけど、本当に聞くだけで何も出来なかった」

 

もっと気が利いたことを言えたんじゃないか?

僕がスピナーがほしい言葉を探し当てていたら少しは彼の心を楽にできたんじゃないだろうか。

 

「・・・・ただただスピナーに辛い話をさせただけで、余計なことしちゃった」

 

そう言って俯く僕にグラントリノが近づいてくる。

そしてそっと僕の頭に手を置いた。

 

「転弧、ヒーローの本質ってやつを知ってるか?」

 

「・・・・本質?」

 

首を傾げる僕にグラントリノは歯を見せて笑う。

そして、その言葉を僕に送った。

 

「余計なお世話ってのがヒーローの本質なのさ。俺の盟友の言葉だ」

 

「余計なお世話が、ヒーローの本質?」

 

その言葉を繰り返し、身に染み込ませる。

考える僕の頭を撫でながらグラントリノは笑う。

 

「そして、その盟友の血が今お前に流れてる。立派なヒーローの血とそして意思がお前にはある」

 

その言葉を聞いてグラントリノが言っている意味を理解する。

彼の盟友、同じヒーローで僕と血が繋がってる人なんて一人しかいない。

 

「っ!!じゃあ!この言葉はおばあちゃんの」

 

僕の言葉にグラントリノは頷く。

そっか、おばあちゃんの言葉なんだ。

そして、そのおばあちゃんの、ヒーローの血が僕には流れてるんだ。

 

「ふふ、血かぁ。なんだか嬉しいな」

 

視線を落として自分の手へ向ける。

怪我をして手からは血が流れていた。

 

その血を見た後にぎゅっと手を握る。

 

「・・・・血」

 

「え?」

 

小さな声が耳に届いた。

その音が聞こえた方へ目を向ければ、そこにはいつもの女の子が木の後ろから顔を覗かせていた。

 

木から顔を出した女の子と目が合う。

いつもなら気が付いた瞬間に逃げていた少女は、今回は逃げずにいる。

 

それどころか、嬉しそうに顔を綻ばせて木の陰からこちらへと出てきた。

 

「えへへ、今、血の話してた?」

 

「え?え?」

 

「血の話をして、嬉しそうに自分の血を見て笑ってたよね!ね!!」

 

「え?う、うん」

 

「――――――っ」

 

僕が頷くと彼女はさらに喜色を顔に覗かせて一気に僕の傍へとやってくる。

いきなりの急接近に僕は思わずのけぞる。

 

そんな僕を気にすることなく女の子は至近距離までやってきて満面の笑みを浮かべる。

 

 

心から嬉しそうに。涙まで浮かべて彼女は笑っていた。

 

僕はそんな彼女を見て、先ほどまでの驚きを忘れて見惚れてしまう。

 

こんなに嬉しそうに笑う人を、僕は初めて見た。

 

「私も血、好きなんだぁ!!嬉しいなぁ、嬉しいなぁ!!同じ人に会えたよぉ!!」

 

僕から離れ、楽しそうにクルクルと回る彼女を見つめる。

そんな彼女に僕は状況がよくわからず口を開く。

 

「あの、一体なんのはな、むぐっ」

 

言葉の途中で急に口をふさがれる。

横を見ればグラントリノが僕の口を押えていた。

 

「・・・・すまん、少し彼女の話を聞いてあげてくれないか」

 

「ぷは。う、うん」

 

そう言われて、僕は再び彼女へと向き直る。

するとちょうど回転をやめた彼女が僕へと近づいてきた。

 

「私ね!ずっとあなたが気になってたんだぁ!いつもボロボロで血を流してて、かっこいいなぁって」

 

「か、かっこいい!!?」

 

前半の言葉は置いといて、カッコいいという言葉が僕の胸に響く。

・・・・えへへ、お母さん以外で初めて言われたかも。

 

「ねぇねぇ、お名前はなんていうの?」

 

「転弧、志村転弧だよ」

 

「私はヒミコ!渡我被身子!!てんこ君!もっと血を流した方がもっとカッコよくなるよぉ」

 

「そ、そう?えっとまぁこれから訓練するから自然とそうなるかな」

 

「えへへ!知ってる!ずっと見てたから!」

 

そう言って笑うヒミコちゃんに僕は苦笑いを浮かべる。

そうしていると、ずっと黙っていたグラントリノが口を開く。

 

「ヒミコちゃんでいいか?俺はグラントリノという、転弧の知り合いだ。よろしくな」

 

「うん!」

 

「君はどうして血が好きなんだ?」

 

「え?好きだから、血流してるの、カァイイしキレーなの」

 

「・・・・それは、両親や知り合いから何か言われなかったかい?」

 

グラントリノが彼女と話し始めてから状況がよくわからなくて聞きに徹する。

そうしていると、グラントリノの質問でずっと嬉しそうだった彼女の笑みが止まる。

 

「お母さんも、お父さんもダメって言う。チウチウするのダメって、それに笑うのもダメだって」

 

「――――え?」

 

彼女の言葉に頭に疑問が湧く。

固まる僕を置いて彼女の言葉が続く。

 

「どうして普通になれないの、普通に生きてよって言われる、それで普通になるためのお部屋に連れていかれるの」

 

「・・・・個性カウンセリングのことだな」

 

その言葉、聞き覚えがあった。

テレビでやっていたのは、個性によって生まれた異常を正し、社会に適合させるためのカウンセリングとか。

 

「みんな、普通にしろって言うの。よくわからない、私は普通なのに。普通じゃないって言うの」

 

「・・・・」

 

そういうヒミコちゃんは笑うのをやめたまま少し俯く。

それを見たグラントリノは悲しそうにしながら口を閉じた。

 

そうして少しの静寂が訪れた後、不意に彼女が顔をあげる。

 

「だからね!てんこちゃんに会えて嬉しかったの!!私以外にも同じ人がいるんだって!すっごく嬉しかったの!」

 

「・・・・ヒミコちゃん」

 

その笑顔を見て、僕は思ってしまった。

 

――――ああ、彼女も同じなんだ。

 

彼女の言っていることの半分も理解できてないけど、それでもわかってしまった。

 

ヒミコちゃんも自分の中の普通を否定されたんだ。

 

僕がお父さんに否定されたように。

 

スピナーが周りの人達から否定されたように。

 

自分にとっての普通を否定され周りの普通を押し付けられている。

 

だからだろうか、彼女の今の気持ちを理解できたような気になり、その感情のまま僕の口は開く。

 

「ヒミコちゃんの笑顔、僕は好きだよ!ヒミコちゃんみたいに心から笑う人初めて見た。見惚れちゃったんだ」

 

「・・・・ほんと?」

 

「うん!それに僕も血が好きだ。大好きで憧れなおばあちゃんと血が繋がってるって理由でヒミコちゃんのとは少し違うかもだけど」

 

これは本音だ。

グラントリノの言葉を聞いて、血によって僕とおばあちゃんが繋がってるって気が付いた。

それが、嬉しかったんだ。

 

「・・・・えへへ!」

 

僕の言葉を聞いて、彼女はさらに嬉しそうに顔を綻ばせる。

それを見て、僕も思わず笑顔になった。

 

お互いに笑い合っていると、不意に彼女が僕に向かって言う。

 

「ねぇねぇ、チウチウしていい?」

 

「チウチウ?」

 

「うん!私てんこ君の好き!だからね!チウチウして、てんこ君になりたいの!」

 

「・・・・えっと」

 

意味がわからず首を傾げてしまう。

すると横で聞いていたグラントリノが口を挟む。

 

「・・・・彼女の個性に関係しているんだろう。チウチウは血を吸う、そしてその血を吸うことで血の持ち主に変身できるんじゃないか?」

 

「ああ、そういう」

 

さすがヒーローだなぁ、さっきの話で彼女の個性までわかっちゃうなんて。

グラントリノはじっと僕を見つめる。

 

どうするんだ?と僕に言うかのように。

彼女のこのお願いは、僕がヒーローになりたいって言うのと同じこと。

 

彼女の中の普通から生じる欲求なんだ。

 

だとしたらそれを否定して拒否はしたくない。

 

「うんいいよ!」

 

「ほんと!?」

 

「・・・・あまり吸い過ぎないようにな。俺がダメといったらやめるんだぞ」

 

グラントリノの言葉に頷きながら彼女は僕に近づく。

そして、彼女に向けた僕の手に吸い付いた。

 

「~~~――っ!?」

 

彼女の舌が僕の手を舐めていく。

かすり傷だけどそこを舐められて痛みが走る。

 

それに少しくすぐったくて手をひっこめそうになってしまう。

 

だけどひっこめそうになる手を止めて、彼女を見つめる。

 

僕の手を舐める彼女の表情は角度的によく見えない。

けれど、僕の手に冷たくて温かい何かが落ちるのを感じた。

 

そのまま少しの間じっとしているとグラントリノの声がかかり、それを聞いたヒミコちゃんは素直に離れる。

そして離れた彼女は、泣いていて、それでいて笑っていた。

 

「・・・・ありがどう」

 

「――――うん!」

 

その笑顔を見て、僕も笑顔で応えた。

涙を流す彼女は腕でそれを拭きながら口を開く。

 

「また・・・・チウチウしてもいい?」

 

「うんもちろん!毎日ここで訓練してるからおいでよ!」

 

「っ!!うん!!絶対来るね!毎日来るね!!」

 

僕の言葉に彼女は笑う。

その笑顔はやっぱり本当に嬉しそうで、僕は彼女の笑顔が好きになっていた。

 

そのまま彼女は僕達から離れていく。

その途中で彼女の姿が僕と同じになっていて、少し驚いた。あれが彼女の個性なんだろう。

 

そして彼女が見えなくなるまで見送った後、グラントリノが僕の頭に手を置く。

 

「転弧よくやった」

 

「え?」

 

「・・・・悪かったな。お前が彼女に対してどう接すのか見たかった。だから口出しを最低限にしていたんだ」

 

「どうして?」

 

意味がよくわからず理由を聞く。

するとグラントリノは笑みを浮かべながら答えた。

 

「お前がヒーローを目指すのなら、泣いてる女の子をほっといていいはずがない。だから、お前がどうやって彼女を笑顔にするのか見たかった。あの子の抱える問題は簡単じゃない、個性カウンセリングだって万能ではないしな。あのままではきっと彼女は周りと自分のギャップに潰されていただろう」

 

その言葉を聞いて納得する。

そして同時に彼女の笑顔が頭の中に蘇った。

 

「お前は確かにあの子のヒーローになってたぞ」

 

「――――うん!!」

 

グラントリノの言葉に泣きそうになりながら頷く。

そうしていると、グラントリノは彼女が消えた方向へ目を向けながら口を開く。

 

「ああいう子はどうしてもいるんだ。この個性社会、その名の通り、全員が違う個性をもって暮らしている。だけどみんなが暮らしやすくするために個性の使用を禁じた」

 

「・・・・」

 

「それが間違いとは俺は思わん。だが、抑圧すればそれに反発するもの、適合できない者は出てくる。そんな者達は潰されてしまうか、ヴィランになって反発するかになっちまう」

 

その話を聞いてスピナーのことを思い出す。

適合できない、したくても生まれた個性によってそれが出来ない人たちがいる。

 

スピナー、それにヒミコちゃんもきっとそう。

 

社会が決めたこの『普通』に適合できないんだ。

 

「・・・・ヒミコちゃんがヴィランになっちゃうってこと?」

 

「そうならないために今日お前が手を差し伸べたんだ。ヴィランになっちまえばヒーローは戦わないといけなくなる。だから、そうなる前に手を差し伸べられるならそうするべきだ」

 

「・・・・」

 

ヴィランになってしまえば戦わないといけない。

それはわかる。ヴィランは犯罪を犯して他の人を傷つけるから。

 

でも、そんなヴィランの人達もそうなる前はヴィランじゃなくて、助けを求める人達だったんだ。

 

その人たちは手を伸ばしていたけど誰もその手をとってくれなかっただけで。

 

もし、スピナーとヒミコちゃんがヴィランになっていて、僕がヒーローになっていたら、僕は二人と戦わないといけないの?

 

・・・・そんなの嫌だ。

 

ヴィランになったら()()()()()()()()、そんなの間違ってる!

 

「―――――あ」

 

自分の中で浮かんだ言葉がそのままストンと僕の奥底に落ちた気がした。

 

『君たちはどうしてヒーローを目指すんだい?そして、どんなヒーローになりたい?』

 

オールマイトが僕達に言った質問。

今なら答えられる。

 

僕は。

 

 

 

 

 

「はっはっはっはっは!!私が転弧君をぉ迎えに来た!」

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

上空から聞き覚えのある声が響くと同時に僕たちの近くに爆風が起こる。

 

その風に目を閉じ、そして再び開けた時、僕の視界に彼がいた。

 

「オールマイト!」

 

「やぁ転弧少年!君の家で待ってたんだぜ私!でもお父さんの視線がきつくて思わず迎えに来ちゃったよ!」

 

「いい加減慣れろ、相変わらず妙に気が小さい奴だ」

 

オールマイトの言葉にグラントリノがため息を吐く。

それを見て誤魔化すように笑うオールマイトに思わず笑ってしまう。

 

そんな僕を見たオールマイトが笑うのをやめてじっと僕を見た。

 

「何かあったのかな転弧少年、君の雰囲気が変わったように見える」

 

「――――はい」

 

その言葉に僕はオールマイトの目を見ながら頷く。

 

「オールマイトが僕たちに聞いたヒーローになりたい理由とどんなヒーローになりたいか、その答えが出たんだ」

 

「・・・・聞こうか」

 

真剣な表情で僕の答えを待つオールマイト。

そんな彼を見ながら僕は口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は―――――ヴィランも助けられるヒーローになりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?」

 

「友達が二人いるんだ。でも二人はみんなが決めた普通ではいられなくて、想像したくないけど・・・・もしかしたらヴィランになっちゃうかもしれない」

 

それを想像して、想像してしまった自分が嫌になった。

でも歯を食いしばって言葉を続ける。

 

「ヴィランになったらヒーローを目指す僕は二人と戦わないといけない、でもそんなの嫌だ!戦うんじゃなくて助けたいんだ」

 

心からの気持ちを吐露する。

2人と戦うのなら、僕はヒーローになんてならない。

 

 

それなら僕は、ヴィランでいい。

 

 

助けを求めている人に手を伸ばしていいのはヒーローだけ、そんな理由はどこにもないんだから。

 

 

「誰も伸ばしてる手を掴んであげないからヴィランになるんだ!だったら僕がその手を掴んであげたい!それが余計なお世話だったとしても!!」

 

「―――――っ!!」

 

僕のおばあちゃんが言っていたという言葉。

その言葉が僕に掴む勇気をくれる。

 

「無個性でも関係ない。僕はみんなを!ヒーローもヴィランも関係なく全員を助けられるようなヒーローになりたい!!!」

 

 

これが僕のオリジン。

ヒーローとしての始まり。

 

無個性だ、みんなと比べて力がない。

でも、それでも今日ヒミコちゃんを助けられた。

 

彼女のヒーローになれたんだ。

 

それを、なかったことになんてしたくない。

 

「・・・・」

 

僕の答えを聞いてオールマイトは黙る。

やがてゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・君の答えを聞かせてもらった。だがその道は茨の道だ、私が歩んできた道よりも遥かに険しく長い道のりになるだろう、おまけに君は無個性、進みを速めてくれる力は何もない」

 

「・・・・」

 

「だが、それでも君はその道を行くのかい?全員を、ヴィランさえも助ける道を」

 

「うん」

 

「・・・・」

 

僕が頷くとオールマイトは再び口を閉ざす。

そしてしばらく何かを考えているかのように目を閉じ、そして次に目を開けてグラントリノを見た。

 

視線を受けたグラントリノはため息を吐いて口を開く。

 

「お前の好きにすればいい。いやもう決めたんだろ?」

 

「・・・・はい」

 

わからないやり取りをした後、オールマイトは僕へと向き直る。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

「転弧少年――――――私の力を受け取ってほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無個性でも関係ない。僕はみんなを!ヒーローもヴィランも関係なく全員を助けられるようなヒーローになりたい!!!」

 

転弧少年のその言葉を聞いて、私の中で何かが熱く震えたのを感じた。

目を見ればわかる、彼が本気でそんなヒーローを目指していることを。

 

とても険しい道だ。私が選んだ道よりも遥かに。

 

全員救うと言うが、ヴィランの中にも本当に救いようのない連中はいる。

 

私は頭の中にその筆頭である男、オールフォーワンの姿が浮かぶ。

 

その姿を消しながらもう一度考え、そして思い出す。

 

自身のヒーロー名を。

 

オールマイト。

 

全てを救う。そう決意しつけたヒーロー名だった。

 

平和の象徴になるとそう決意し、ひた走ってきた。

みんなの不安を和らげるために、ヴィランと戦い、困っている人たちに手を差し伸べて来た。

 

・・・・しかし、今思えば私は全員を助けられていない。

 

もちろん目が届かない人たちもそうだが・・・・戦ってきたヴィラン達に手を差し伸べたことなどなかった。

 

オールマイト―――全員を救う。

 

とんだ笑い話だ、救えてなんていなかったのだから。

 

・・・・すまない、緑谷少年。

 

私はまだ見ぬ後継者の少年に頭を下げる。

 

エンデヴァーから聞いた未来で私が出会う少年。

 

彼から聞いた話だけでわかる。その子はとても勇敢で優しくお節介で、私が求めるヒーロー像に合致していると。

 

きっとそんな彼に力を渡すべきなのだろう、いずれ表舞台に姿を現すやつとの決着をつけるためにも。

 

力を受けとった緑谷少年は私の使う純粋な力だけじゃなく、過去の継承者たちの個性すらも発現させていたという。

それを聞いて驚いた。ならば力を託し、私が引退するという未来だけを回避すればいいと思った。

 

それがベストで、私も校長もエンデヴァーも納得した。

 

 

 

 

しかし。

 

 

「・・・・」

 

目の前でじっと私を見つめる少年。

 

私は目の前の少年、志村転弧にこの力を託したい。

 

グラントリノへと視線を向ければため息を吐きながら好きにしろと言ってくれた。

その言葉を聞いて私は決意と共に口を開く。

 

 

「転弧少年――――――私の力を受け取ってほしい」

 

 

「……えっと、オールマイトの力?」

 

「そう、私の個性。ワンフォーオールだ」

 

私は転弧少年に説明する、この力について。

 

「私の個性は、聖火のごとく引き継いできたものなんだ」

 

個性を譲渡する個性、それこそは私の中に宿るワンフォーオールの力。

 

一人が力培い、その力を一人に渡し、また次へ、紡がれてきた力の結晶。

 

「そ、そんな個性があるんだ。しかもそれを僕に!?オールマイトの個性なのに!?」

 

「ああ、君なら私の個性を引き継ぐに値する。新たな平和の象徴に、君ならなれる!!」

 

「っ!?」

 

私の言葉に彼は大きく目を見開く。

そしてしばらく固まり、やがて。

 

「受け継ぐよ、その個性!!僕に受け継がせてほしい!助けを求めているみんなに手を伸ばしてあげるために!!」

 

覚悟の籠った声が彼から発せられる。

その覚悟に笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「いい返事だ。だが、この個性を受け取るには準備がいる」

 

「・・・・準備?」

 

「そう、この力を受け取るための身体を作らなければならないんだ」

 

ワンフォーオールは力の結晶、いわば何人もの身体能力が一つに収束されている。

 

生半可な身体では受け止めきれず、身体が爆散してしまう!

 

「身体を鍛えればいいんだ、だったらこのまま続けていれば!」

 

「ああ、俺も変わらず協力する。明日からさらにハードになるから覚悟しとけ」

 

「うん!」

 

グラントリノの言葉に転弧少年は嬉しそうに笑う。

それを見ながら私は彼に一歩近づく。

 

「ともかく、今から君は私の後継者だ。宜しく頼むよ転弧少年!」

 

「っ!!うん!!!」

 

私がその言葉と共に手を差し伸べる。

それを見て彼はいい声と共に私の手を掴んだ。

 

そう、手を差し伸べるのは何も君だけじゃない。

 

君が他者に手を伸ばすのなら、私が君に手を伸ばそう。

そうすれば、困っている人全員だって助けられるはずだ。

 

「正直いますぐ力を渡したいが、今は身体づくりに専念だ!今からなら二年くらいで渡せるはず・・・・んんんん?」

 

「えっと、どうしたのオールマイト?」

 

言葉の途中で妙な感覚に襲われた。

 

まるで何か力を譲渡してしまったような、そんな感覚。

 

 

 

 

 

んんん?何かを、譲渡した感覚??

 

 

 

「いやいやいや、そんなわけが」

 

この力を譲渡する条件は二つ。

 

一つ、私自身が力を譲渡したいという意思があること。

そして私のDNAが入った何かを取り込むこと。

 

この二つがないと譲渡は出来ない。

 

一つ目は確かにクリアしている。正直今すぐ渡したいくらいの気持ちだからね。

だが二つ目はまだのはずだ。

 

だってDNAが入ったものなんて渡していない。

そう、髪の毛や爪なんかを渡したならわかるけど、そうじゃないんだ。

 

笑いながら気のせいだと彼と手を離す。

 

そして念のため接触した手を見ていた。

 

「・・・・・転弧少年、なんか怪我してた?」

 

「え、うん。訓練で怪我してた。あ、ヒミコちゃんが血を吸った傷口の血がオールマイトの手についちゃってた!?ごめんなさい!!」

 

「ああいやいいんだ」

 

そうか、これは転弧少年の血か。

うん、なら問題ないね。私の血ならまずかったが。

 

そう思いながらもう一度よく掌を見てみる。

 

・・・・爪は、大丈夫だ変わっていない。

・・・・皮膚も、特に変化ないな。

 

・・・・・・・・・・・・汗は、かいてるな。

 

転弧少年の話に感動して、手を握り締めていたせいかがっつりと。

 

「・・・・」

 

いやいやいや、汗から摂取できるDNAのパーセントはそうとう低かったはずだ。

 

たとえ握手した際に私の汗が彼の傷口に接触して、取り込んでしまっていたとしても、そんな低い可能性を引き当てて力が譲渡してしまっているわけが。

 

「・・・・」

 

「おい俊典、顔が真っ青だぞ。それに汗も滝のようだ。なにやらかしやがった」

 

「・・・・転弧少年、今からすごく、すご―――く大事な話をするから落ち着いて聞くんだ!」

 

「え?え?」

 

「なんか、私の個性、君に譲渡しちゃったみたい、今」

 

「あれ?まだ僕の身体じゃオールマイトの個性を受け止めきれないんじゃ」

 

「「「・・・・」」」

 

全員が無言で顔を見合わせる。

 

 

そして全員が顔を真っ青にさせた。

 

「バカ野郎!!なにやってたんだ俊典!!志村の孫を爆散させるつもりか!!」

 

「え?え?僕爆散するの!?」

 

「お、お、落ち着くんだ転弧少年!いいかい、君は今確かに私の個性を受け取った。だが幸い問題なく受け取れてはいる!力を発動させなければ大丈夫!!だから絶対個性を発動させちゃダメだぞ!絶対だからな!ぜーったい!発動させちゃダメだぞ!!」

 

「バカかお前は!!」

 

グラントリノから個性つきの蹴りをくらう。

そして私が蹴りをくらっている間に転弧少年が口を開く。

 

「そんなこと言われても無個性だからよくわから、あれ?なんか身体が熱く」

 

「おいおいおいおいおい!!待て転弧!落ち着け!!」

 

「ノォォォォォォォォォォ!!?」

 

私とグラントリノの絶叫がこだました次の瞬間。

 

 

 

転弧少年が空中へと浮かび上がった。

 

「「っ!?」」

 

突如として高く空へと浮かび上がった転弧少年に私とグラントリノは口を開けたまま固まる。

これは、ワンフォーオール。いや、これは。

 

「お師匠の個性!!」

 

お師匠の個性『浮遊』。

 

空に浮かぶことが出来る力。

 

なぜ今転弧少年にこの力が、いや血縁関係である以上発現自体は不思議ではないが、どうして今。

 

空へ浮かび続ける転弧少年を私とグラントリノは見続けていた。

 

 

 

 

「え?え?僕、空飛んでる!?」

 

オールマイトから意図せず個性を受け取ったという僕はわけもわからず慌てていた。

 

そして身体の奥から熱が上がってきて、次の瞬間には空にいた。

 

下を見れば二人の姿が見える。

 

「これ、どうやったら降りれるんだろう?」

 

『身体の力をゆっくり抜くんだ。ゆっくりね』

 

「え?」

 

困った状況にパニックになっていると、横からそんな声が届く。

 

その声に反応して横を向く、すると知らない女の人が浮いていた。

 

『まったく俊典のバカ、私の大事な孫を爆散させるつもりか。私らが飛び起きて溢れる力を抑えられたからよかったものの、あの二人には説教がいるな』

 

そう言ってそのお姉さんは下でこちらを見ているオールマイトとグラントリノを睨みつけている。

孫?あれ、よく見たらこの人、見覚えがある気がする。

 

記憶に該当する人を探していると、一枚の写真が浮かび上がった。

 

あの日、オールマイト達が帰った後にお父さんが見せてくれたおばあちゃんの写真。

そのおばあちゃんに、目の前の女の人はそっくりだった。

 

「お、おばあちゃん?」

 

『・・・・・っ』

 

僕がそう言うと、下を向いていたお姉さんは僕へと向き直る。

 

『ええ、初めまして転弧。私は志村奈々、あなたのおばあちゃんだよ』

 

『やっぱり!お父さんが写真を見せてくれたんだ!ヒーローだったんでしょ!僕それがすっごく嬉しくて、おばあちゃんのこと大好きだったんだ!』

 

『―――――っ、うん、うん!!ありがとう転弧。私もあなたのことが大好き、こうして会えて、本当にうれしいわ』

 

僕がそう言うとお姉さん、いやおばあちゃんが僕を抱きしめながらそう返してくれる。

でも、なんでおばあちゃんがいきなり現れたんだろう?

 

それにいくらなんでも若すぎる気が、お母さんと一緒ぐらいじゃない?

 

『そう言った理由は後で説明するよ、これからはずっと一緒なんだから。それにあなたの想いは私達にも伝わってるよ、これからいっぱいあなたをサポートするからね』

 

そう言って優しく微笑むおばあちゃんに僕もつられて笑う。

そうしていると、下からオールマイト達の心配した声が聞こえた。

 

『さーて!あのバカ二人にお説教の時間だ』

 

そう言って笑うおばあちゃんと一緒に教えられた通り身体の力を抜いてゆっくりと降りていく。

 

いきなりのことが多すぎて、たぶん今の状況を一割も理解できていないだろう。

 

でも、今この時、僕のヒーローとしての物語が始まったのはわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

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