僕の昔話をしようと思う。
子供の頃、かっちゃん達と森の中を探検していた時の話。
なんでもない日常の中に起こった異常。
僕に初めて個性が目覚めた日であり。
僕が初めて人を――――日だ。
そして僕が――――られた日。
これは、僕のオリジンの話だ。
「いいなぁ、かっちゃんすごいなぁ!僕も早く個性出ないかなぁ」
「出久がどんな個性でも、俺には一生かなわないさ!」
2人で森の中を歩きながらしたそんな話。
それから程なくして、僕は自身が無個性だと知った。
「・・・・お母さん、オールマイトはね、どんなに困ってる人でも笑顔で助けちゃうんだよ」
僕のあこがれのオールマイト。
その彼のデビュー動画を見つめる。
何万回と見たその映像、今はどうしてか霞んで見えない。
「超カッコいいヒーローさ、僕も、なれるのかなぁ」
僕がそう言うと、お母さんは謝りながら抱き締めてくれた。
違うんだ、違うんだよお母さん。
あの時僕が言ってほしかったことは。
「可哀そうに、泣いてるのかい?」
無個性だとわかってから時が経ち、ヒーローへの思いを引きずったままの僕の前に、おじさんは現れた。
泣いていないのに、まるで僕の心を見透かすようにそう指摘して。
「っ、あの、おじさんは誰、ですか?」
「名乗るほどの者じゃないさ。ただ泣いてる君を放っておけなくてね、よかったら僕に話を聞かせてくれないかい?」
そう言って微笑むおじさんに僕は、
おじさんは僕の話を聞いて、微笑みながら僕の頭を撫でる。
「大丈夫さ、個性なんかなくたって君はヒーローになれる」
「・・・・ほんと?」
「もちろんさ、僕にはわかる……君の奥底に宿るものは僕の知り合いによく似ている。君たちは困っている人には手を伸ばさずにいられない」
「うん、だってヒーローは困ってる人を助けるんだから」
「その想いがある限り、君はヒーローさ。
そうして僕はおじさんと話をする。
いい人だな、泣いてる僕を励ましてくれる。
「おじさんもヒーローなの?泣いてる僕に手を伸ばしてくれた」
まるで僕の心の中でも読んでいるかのようにおじさんは僕のほしい言葉をくれた。
「――――あはは!僕は違うさ!!むしろ今とても困っていて助けてほしいくらいだ」
「そう、なの?」
「そう、だからね、君には僕のヒーローになってほしいんだ」
そう言って微笑むおじさんに僕は固まる。
ヒーロー、僕が、おじさんの。
その言葉を聞いて、僕の身体が熱くなった。
「うん!僕おじさんのヒーローになる!」
「そうか、ありがとう」
そう言っておじさんは僕の手を握ってくれる。
いい人だなぁ、えへへ僕がヒーローかぁ。
「これからも困っている人に手を伸ばすといい、君の奥底に宿る力はその想いに応えてくれるだろう」
「僕の、力?」
「そう、困っている人を前に願えばきっとね」
そう言っておじさんは歩いて行ってしまった。
まるで先ほどまでの出来事は夢だったんじゃないかと錯覚するような一瞬の出来事。
その後、僕はいつものようにかっちゃん達と森の中を探検していた。
そしたらかっちゃんが川に落ちたんだ。
それを見て気が付いたら僕は川へと降りてかっちゃんの方へと向かっていた。
「大丈夫?立てる?」
そしてかっちゃんへと手を伸ばした。
かっちゃんが強いことはよくわかってた、だけどそんなことは関係なくて。
おじさんの言葉が無意識に頭の中で蘇る。
その時、かっちゃんを助けるために言われていた力を望んでいたのかもしれない。
本当に僕にそんな力はあるとは思ってはいなかったし、あっても精神的な力だと思った。
でも僕のそんな思いとは裏腹に、その力は発現した。
だけど、その力は僕が望んでいたようなものではなく、むしろ逆で。
人を破滅させてしまうものだった。
「っ!!俺に手を伸ばしてんじゃねぇよ!!」
一瞬呆けた顔をしていたかっちゃんだったけど、すぐに見たことないほどの怒気を宿して
その時に火花も少し出て、僕は驚いて後ずさる。
そのまま何歩か後ずさり、川の石に足を取られてこけてしまった。
「いたた、ひどいよ、かっちゃん」
「うるせぇ!デクが余計なことするからだろ!!」
そう言いながら川から歩いて出ていこうとするかっちゃん。
でも、
「っ!?いっってぇ、は?なんだ?」
かっちゃんが急に手を押さえて呻く。
見れば、かっちゃんの手から血が出ていた。
「だ、だいじょ」
僕のその言葉は続かなかった。
足を取られてこけた僕。
その手は川の中で、その地面へと触れていた。
瞬間、地面が爆ぜた。
「っ!!?は!?」
僕を基点に突如起こった衝撃。
地震でも起こったかのように川が揺れる。
「な、なにこれ!?何が起こってるの!!?」
僕自身何が起こっているか理解できず、その場から動くこともできなかった。
混乱によって回る視界の中、川の中で大小ある石が粉々になっていくのが見えた。
いや、それだけじゃない。地面も、水すらもまるで
その見えない力は川だけじゃなく、それ以外の地面、僕とかっちゃん以外の子達がいる場所にも及ぼうとしていた。
いや、それよりも危険な場所があった。
「あっっっ、か、かっちゃっん!に、にげてぇ!!はやく!!!」
何が起こっているのか全くわかっていなかった。
でも、そんな頭が真っ白の状況の中、かっちゃんが一番危ないということだけは理解していた。
「っ!うぅっ!?」
僕の声が届いていないのか、かっちゃんは動けていなかった。
顔を青ざめ、震えてすらいたその姿に、僕は涙を流しながら動こうとするけど、身体は思う通りに動いてはくれない。
やがて、かっちゃんのいる場所まで力が迫る。
それを見て、僕は心から叫んだ。
「あ、ああ、あ、だ、誰か、かっちゃんを、かっちゃんを助けてぇぇぇぇぇ!!」
人のいない森の中、当然僕の声を聞くのはかっちゃん達しかいない。
でもみんなその場から動けていなかった。
助けはこない。
そのまま力の波はかっちゃんへと伝わって。
「大丈夫だよ!僕が来たから!!」
「っ!!?」
瞬間、暴風が吹き荒れた。
その発生した風に思わず目を閉じる。
何が起こったかわからず、再び目を開けた時。
「っ、え?そ、空を飛んでる!?」
気が付けば僕は空にいた。
驚きながらもかっちゃんや他のみんなを探せば僕と同じように空を飛んでいた。
というより上から伸びている何か黒いロープのようなものに掴まれてるみたいだ。
僕はその黒いロープの先を辿っていく、すると。
「大丈夫?ケガはなかった?」
優しい笑顔を浮かべた男の子がそこにいた。
その人は僕らよりも高い空を浮いていて、そして彼の手から黒いロープが伸びていた。
「っ、い、いたぁぁ・・・・感じたことないくらい大きい危機感知が出たからグラントリノをおいて飛ばしてきたけど、正解だったみたいだね」
「あ、あの」
「あ、ごめんね。今降ろすから」
そう言った後、黒いロープが伸びて僕ら四人全員を地面へと降ろす。
地面から降りた後、僕はすぐにかっちゃんに近づいた。
「かっちゃん!?だ、大丈夫!?それにみんなも!」
「っうるせぇな!お前に心配されるほど弱くねぇよ!」
いつも通り悪態をつくかっちゃんに安心からため息が漏れる。
2人も確認したけど呆然としているだけで怪我はしていなかった。
でも、かっちゃんの右手からは血が滴っていた。
「かっちゃん血が!?」
「別に大したことない、そんなことより・・・・さっきのはデクがやったのか」
「え、ぼ、僕?」
かっちゃんの突然の言葉に思わずそんな声が漏れる。
僕の手と自分の手を見比べながら、かっちゃんは口を開く。
「・・・・俺がデクの手を弾いた後に手がこんななった。しかも川に手を突っ込んでいたところから地面が消し飛んでいっていたように見えた」
「そ、そんな」
かっちゃんの言葉に頭を殴られたような衝撃を受ける。
な、なにがどうなって。
「聞く限り・・・・個性の暴走が原因みたいだね」
混乱する僕に助けてくれたお兄さんが答えをくれる。
いろいろ衝撃を受けすぎていて、僕は彼にお礼も名前を聞くのも忘れてその言葉に耳を傾けていた。
「こ、個性の暴走?でも、僕は無個性で」
「・・・・個性の発現は突然なんだって。今まで個性が発現していなかっただけで、それが今タイミング悪く発動、暴走してしまった可能性が高いっておばあちゃん達が、あ、僕はそう思うな」
「・・・・デクに個性が」
「すげーじゃん!」
「川を砕いちまったぜ!出久の個性すげぇ!!」
2人の言葉にかっちゃんは顔をしかめる。
でも、僕は2人みたいに喜ぶ気分にはなれなかった。
「・・・・じゃあ、僕の個性は」
その言葉に、納得すると同時に絶望が僕を襲った。
もう少しで僕はかっちゃんに取り返しのつかないことをしていたんじゃないか?
僕らがいた川の方へ目を向ければ、そこには変わり果てた光景が広がっている。
怖い、こんな危険なものが僕の個性なの?
もし・・・・かっちゃんが僕が伸ばした手を掴んでいたら。
頭の中でかっちゃんが崩れる姿が映りこんだ。
「ひっ!?」
自分の視界に映りこんだ手から目を背ける。
せっかく、せっかく個性が出たのに。
「・・・・なんで?こんな力なの?これじゃあ、みんなを助けるヒーローになんて」
怖くて涙が溢れそうになった。
ずっとほしかった個性、誰かを助けるために使うはずだった力で、かっちゃんを、人を傷つけてしまった。
こんなんじゃ、ヒーローになんて僕は。
「そんなことないよ、君のは人の役に立てるすごい個性だ」
「・・・・え?」
「さっきちらっと見たけど、手に物が触れることでそれを粉々に出来るのかな?災害救助とかで大活躍だ。ほら、人が埋まった瓦礫を粉々にして助けるとかさ」
「あっ、た、確かに」
助けてくれた男の子の言葉に頷く。
確かにそういう使い方はできるけど、この力が人に向かったら。
「でもさっき僕はかっちゃんを」
「はぁ!?デクが俺をなんだって!?」
僕の言葉にかっちゃんは反応して睨みつけてくる。
いやでも、僕は本当に。
「調子に乗るなよ!!俺は避けられたんだからな!」
「で、でもかっちゃんあの時動けてなかったよ」
「っ!だったら今すぐ勝負だ!個性使えよデク!!それを倒して俺が勝つ!それで俺の方が上だってわからせてやる!」
「ええ!?で、出来ないよ!かっちゃんがもし、それに僕のせいで手を怪我して」
「・・・・とりあえず手当して包帯巻いとくね?」
僕とかっちゃんのやりとりに苦笑いをしながらかっちゃんに包帯を巻いてくれる。
かっちゃんはそれに舌打ちしながら抵抗しなかった。
僕がそんな2人を見ながら自分の手に目を向ける。
かっちゃんを、人を殺すところだった。
先ほどの光景がフラッシュバックして冷や汗が流れる。
僕がかっちゃんを助けようと手を伸ばしたから、こんなことになった。
・・・・僕が助けようとしたせいで。
かっちゃんが落ちた時、考える前に川に降りていた。
助けなきゃ、って思ったんだ。
けど、そのせいでかっちゃんを。
「・・・・」
「君は間違ってないよ」
僕の耳に優しい声が届いた。
そして、僕の両手を彼の両手が包み込んでくれたんだ。
「っ!?あ、危ないです!!早く離さないと!!」
「・・・・でも、君は今、泣きそうな顔をしてるよ」
「え?」
その言葉に僕は固まる。
そして、僕に微笑みながら彼は優しい言葉を送ってくれた。
「僕は泣いて助けてって手を伸ばしている人の手は絶対に離さないって決めてるんだ。見たわけじゃないけど、きっと彼を助けようとしていたんだよね?」
「は、はい!」
「あ!?助けなんて求めてなかったし!!」
僕が頷くと、かっちゃんが歯をむき出しにして吠える。
「ていうか出久が個性が発動したのってかっちゃんをやっつけようとしたからじゃない?」
「あーかっちゃん、出久に酷いもんね。恨みが個性に宿ったみたいな」
「ち、違うよ!!」
僕はただ、かっちゃんを助けようとしただけで。
不意にまたおじさんの言葉が蘇った。
やっぱり、あれがきっかけだったのかな。
「うん、違うよ。この子に悪意はなかった」
「えぇ、なんでわかるんだよ」
みんなの言葉を僕が否定すると、彼が手を握ったまま肯定してくれる。
それに対し、理由を求められた彼は自分の個性について説明した。
「僕の『危機感知』は敵意や害意からなる危険を感知する個性でね、逆に言えばそれらがなかったら感知は働かない。それで、この子からは感知が働かなかったから悪意や敵意を持ってそこの彼を傷つける気はなかったんだ」
「そ、そうなんですね」
彼の個性を聞いて、納得する。
あれ、じゃあさっきの黒いロープとか空を飛んでいたのは何だったんだろう?サポートアイテムかな?
そんな僕の疑問をよそに、かっちゃんが彼を睨みつけながら口を開く。
「・・・・じゃあ何であんたはここに来れたんだよ」
「え?かっちゃん?」
「この森で俺達以外の人を見たことない、なのに今日に限ってあんたがいて、それに、その感知の個性も発動しなかったんだろ?なのにどうしてここに来れたんだよ」
あ、確かにそうだ。
僕もこの森で僕ら以外の人を見たことがない。
「・・・・」
かっちゃんの言葉に彼は黙る。
そうした後、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・・・ごめん、怖がらせるから黙ってた。僕がここに来れたのは『危機感知』が働いたからなんだ」
「で、でも僕には働かなかったって」
「
そう言って彼は僕ら全員を背中に庇いながら森の奥を睨みつける。
「このまま気がついてないフリをしていれば消えてくれると思ってたけどそうはいかないか」
彼が睨む森の先、その闇の中から何かがゆっくりと現れてくるのが見えた。
「まさか君に邪魔をされるとはね、志村転弧」
「・・・・」
闇の中から現れたのは知らないおじさんだった。
ただおじさんの浮かべる微笑みにどこかで見たこともあるような気がした。
「・・・・オールフォーワン」
「僕を知っているのかい?ああ、先代たちから聞いたんだね?ワンフォーオール九代目継承者」
「・・・・」
「だんまりか、つれないねぇ。でも話さなくても感じるよ、君の隣に並ぶ先代たちの姿を!」
なにが起こってるのかわからなかった。
お兄さんの言葉の後すぐに出てきたおじさん。
あの人を見ていると、どうしてか背筋が凍るのを感じた。
みんなも、僕と同じように動けずにいた。
「君とは一度ゆっくり話したかったんだ。僕は君をよく調べていてね、ヒーローもヴィランも全員救うんだろ?志村転弧くん」
「・・・・そうだよ、僕は助けてほしくて伸ばされた手は全員掴む」
「なら僕は助けてくれないのかい?とても困っていてるんだ、助けてくれよヒーロー」
そう言って微笑みを浮かべてままお兄さんに手を伸ばすおじさん。
その手を見ながら彼は口を開く。
「うん、助けるよ。何に困ってるの?」
「お、お兄さん?」
てっきり断ると思っていた僕はお兄さんの対応に思わずそんな声が漏れる。
おじさんも少し目を見開きながらも続いて口を開いた。
「弟を取り戻したいんだ。昔、君の隣にいるその男に奪われてしまってね。僕の物なんだ、取り返すのは当然だろう?」
「・・・・与一さんを取り返したら満足するの?」
「いいや、むしろそれが始まりさ。僕が最高の魔王になることへのね」
「・・・・」
おじさんが微笑みながら語る言葉。
その一つ一つに寒気を覚えた。
わからない、今まで困ってる人は助けるものだって思ってた。
でも、この人は助けてなんて言ってるけど、本当に助けてほしいの?
そんな疑問を僕が持つ中、お兄さんがおじさんの言葉に答える。
「・・・・みんなは一人のために。それが、あなたの『普通』なんだね」
「ああそうだよ」
お兄さんの言葉におじさんは頷く。
その頷きにお兄さんは少し黙った後に再び口を開いた。
「・・・・その普通を受け入れてくれる人はいない。だからあなたは自分の普通をみんなに押し付ける」
「何が言いたいのかな?」
「・・・・この一年と少し、オールマイトに連れられて色々な性格な人、悩みを持つ人に会ってきたんだ」
「・・・・」
「みんなそれぞれに自分の普通があって、それを受け入れてほしがってた。でも周りの人達はそれを受け入れることが出来なくて、会ってきた人たちはそれを無理やり押し付けてしまっていたんだ」
「僕が、その人間たちと同じだと?」
「うん、あなたは魔王なんかじゃない。
お兄さんのその言葉におじさんは口元を押さえる。
見ればずっと浮かべていた微笑みが消えていて、ゾッとするような無表情がそこにあった。
「ごめん、まだあなたの手を掴むことは出来ない。でも、いつか必ずあなたを助けるよ」
そういうと同時にお兄さんの身体から電気のような光が漏れ始めた。
それを見ていたおじさんは口元から手を離し、再びその顔に微笑みを浮かべる。
「・・・・僕の物になれ
「・・・・やれるものならやってみなよ」
2人の間になにかが渦巻くのを感じた。
それが怖くて、僕たちはただただ震えていた。
あのかっちゃんですら何もできず震えていたんだ。
そんな中、お兄ちゃんが僕らの方に少しだけ顔を向ける。
「大丈夫だよ、僕がみんなを守るから」
「――――あ」
とても危険な状況だっていうことは身体がわかっていた。
けれど、振り返って見たお兄さんが浮かべていた笑顔を見て、身を支配していた恐怖が消えたのを感じた。
「・・・・」
それを無言で見ていたおじさんが不意に顔を上空へと向ける。
その後、小さくため息を吐いて伸ばしていた手を下ろした。
「・・・・残念ながら今日はやめておこう。それに君は今じゃない、ほしかった個性もようやく手に入ったんだ、
そう言った後、おじさんは闇の中へと消えていった。
それをお兄さんは何もせず見送る。
やがてその姿が完全に見えなくなり、場の空気が和らいだと認識できた瞬間、お兄さんは膝から崩れ落ちた。
「っっ、はぁ、っ」
「あ、あの大丈夫ですか!?」
荒い息を吐き、顔からは玉のような汗を流すお兄さんに驚く。
さっきまであれだけ余裕そうだったのに。
「うん、大丈夫。心配させてごめんよ」
汗を浮かべながら微笑むお兄さんに何も心配の言葉が言えなくなる。
かわりに出たのは全く違う言葉だった。
「・・・・あの、僕には、さっきの人が助けてほしそうには見えなかったん、です。でも、お兄さんはどうしてあんなことを」
「・・・・なんでだろうね、色々な人を見てきたからかな。僕はあの人がすごく寂しがりやな人に見えたんだ。寂しくて暴れてる。だから、助けてあげたいって思った。それが求められてなかったとしても」
「も、求められてなかったとしてもですか?」
僕の言葉に笑顔でうなずくお兄さん。
そして続けてその言葉を彼は僕に送った。
「知ってる?余計なお世話はヒーローの本質なんだって」
そう言って彼は笑う。
そんなお兄さんを見て、子供だった当時の僕はこう思ったんだ。
カッコいいって。
そう思った直後、僕の口は動いていた。
「ぼ、僕もあなたみたいなヒーローになれますか?」
「え?」
「こ、こんな危険な個性だけど、お兄さんみたいにカッコいいヒーローになれますか?」
今思えば、あの時の彼はまだヒーローではなかったのかもしれない。
年上だったけど学生だっただろうし、ヒーロー免許も持っていなかったはずだ。
だけど、あの時のお兄さんは、オールマイトと同じくらいカッコいいヒーローに、僕は見えたんだ。
僕の質問にお兄さんは僕の頭を撫でながら答えてくれた。
「君はもう十分すぎるくらいヒーローだよ」
「え?」
「あっちの彼を助けるために川に入ってたんだよね?彼は聞く限り助けなんか求めてなかったようだけど、君は助けなきゃって思って、いや、身体が勝手に動いたんじゃない?」
「――――あ」
あの時の状況を思い出し、小さな声が漏れた。
そんな僕を見ながら彼は微笑む。
「余計なお世話上等、君はもう立派なヒーローだ」
「――――うん!!」
お兄さんの言葉に僕は笑顔で頷いて答えた。
あれ?そういえばかっちゃん達がずっと静かだけど。
気になって後ろにいるかっちゃん達の方へと視線を向ける。
「・・・・あ、もう話を聞いて大丈夫?転弧少年」
「あ、はい。待ってもらってすいませんオールマイト」
「・・・・・んん!!??」
僕の後ろにいるはずがないヒーローがいた。
かっちゃん達も目を見開き、大口を開けたまま固まっていた。
「・・・・どうやら、相当まずい状況だったみたいだな。今すぐ私自身とあの男を殴り飛ばしたいところだが、今はここから離れよう」
「……そうですね。あ、たぶん僕の右足折れてるんで空飛んでいきます」
「ええ!?折れてるんですか!?」
オールマイトの登場と彼の予想外の発言に慌てる僕に彼が手を振りながら笑顔で応える。
今日、この日が僕のオリジンとなった日。
あの日から全てが変わった。
転弧さんにヒーローについて教えられた。
オールマイトと、そしてエンデヴァーにこの個性をコントロールできるようにトレーニングしてもらった。
焦凍くんと友達になれた。
かっちゃんとヒーローへの道を競うライバルになれた。
なんでもない日常の中に起こった異常。
僕に初めて個性が目覚めた日であり。
僕が初めて人を傷つけた日だ。
そして僕が助けられ、ヒーローを目指すと決められた日。
これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語だ。