カードゲーム世界で、俺はカードだけを集めたい 作:パワカもぐもぐ
学校が終わり、とっとと家に帰ろうとした矢先、ある生徒たちに呼び出しを食らった。
彼らは俺が通う淡井小学校の四天王と呼ばれる奴らだ。四天王というだけあって『パラ・リチュアル』の実力は高く、タツミも唸らせるほどの腕前だ。なおタツミは全員撃破済みである。
放課後の空き教室で、俺は四天王の3人と対面した。
「ごきげんよう。はじめまして、ですわね? わたくしは淡井小四天王の一人にしてリーダーを務めている有野ルナですわ」
「ククク、同じく淡井小四天王の一人、多田メガオ」
「淡井小四天王! 剛山タケル!」
有野ルナは金髪縦ロールのいかにもなお嬢様。
多田メガオは「ここで〇〇のカードをプレイする確率80%」とか言いそうな眼鏡男子。
剛山タケルはタッパのでかいガキ大将のような風貌をしている。
見事なまでにコテコテなキャラだ。
「さっそく本題に入りたいんだが、対戦しようってわけじゃなさそうだよな」
俺が呼び出しに普通に対応した理由は、何か面倒事が起きそうな気がしたからだ。
面倒事なら断ればいいと思ったかもしれないが、ここはカードゲームの世界。近くで世界の命運をかけた戦いが勃発するかもしれないようなことを俺は無視できない。関わるかどうかは置いておいて事情は把握しておいた方がいい。
「察しがいいですわね。今回あなたを呼び出したのは他でもない。春賀エドさん、あなたを淡井小四天王の新たなメンバーに抜擢しますわ!」
「あっ、結構です。じゃあ」
「ちょっと!? 何帰ろうとしてますの!」
大したことじゃなさそうと帰ろうした俺を有野は必死に引き止める。速攻で帰ろうとした俺を見て多田と剛山は引いていた。
仕方ないと俺は少し話を聞くことにした。
「新たな四天王って一人やめたのか?」
「ククク、学校を卒業したのさ。その空席を埋めるために君を誘ったわけだが……」
「どうして断りますの!? 四天王ですわよ! 四天王!」
「そうだ! そうだ!」
「いや、俺は四天王になりたいとは思ってないし」
四天王ってガラじゃないよ俺は。こんなキモオタデッキで四天王なんてやったら確実にイロモノ枠じゃん。
俺の言葉に有野は信じられないような目で俺を見る。
「あの炎堂タツミのライバルと聞いていたのに、向上心0……!」
「タツミのライバルはナオヤだろ。つーか、強さだけならあの二人のどっちかを誘えばいいのに」
「炎堂タツミはわたくしに許せないことをしましたわ……氷室ナオヤも態度が気に入りません」
二人に対して怒りを露わにする有野。
あの中二病全開のナオヤはともかく、タツミは何をしたらこんなに怒らせるんだよ。
「ハンデス! 大型ユニット! ボコボコ!」
「序盤にハンデスしてメタ引いた感じか、どんまい」
「むきーっ!」
思ったよりしょうもなかった。でもタツミの運命力は異常だから怒りたくなる気持ちもわからんでもない。
「まあ事情は理解したけど、俺じゃなくて良くないか?」
「いいえ。そろそろ四天王交流戦があるため、半端な人を誘うわけにはいきませんわ」
隣町の弓月小学校と毎年やってる交流戦だったか。聞いた話では昔は公園で内々でやってたのに、気付けばお互いの学校の敷地内で交互に開かれるようになったらしい。
俺は興味ないのだが、みんな盛り上がってるんだよな。
「今年はわたくしたちの学校で開催されます。失態を晒すのはごめんですわ」
「ククク、今年の弓月小の四天王は精鋭揃い。中途半端では飲まれてしまう可能性は大きい」
「負けるのは嫌だ!」
3人も使命感ゆえか、やる気がみなぎっている。
しかし話を聞いても俺のモチベーションは上がらない。観戦はしたくなったけど、俺が参加するのはなあ……。
まだいまいち乗り気でない俺を見て、有野はカバンからあるカードを取り出した。
「なっ!? そのカードは、北海道のイベント限定でしか手に入らない『ビューティー・スノー』!」
「もし四天王になってくださるなら、このカードを差し上げますわ」
有野はひらひらとカードを見せつけてくる。
こいつ俺を買収しようというのか!?
『ビューティー・スノー』は地域限定のプロモとかいうクソ仕様のせいで、希少な上にシングルカードもそんなに出回っていない。結構荒れたから何かしらの形で販売することが発表されたが、時期は不明。ここで逃せば手に入れるのは困難だ。
「ぐぎぎぎぎぎ……」
「ククク、悩みすぎてとんでもない顔になってる」
「すげえ怖い!」
「あなたがこの手のカードを好んでいることはリサーチ済みですわ。さらに追撃といきましょうか。あなたが交流戦に勝利すれば、もう1枚差し上げてもよろしくてよ?」
保存用観賞用!
いつもは大会に出るとタツミも出るせいで、1枚手に入るかも怪しいプロモカードが1枚は確定で、勝てばもう1枚。
俺は悪魔に魂を売るべきなのか。
「中々強情ですわね」
「そりゃあ欲しいけど、貴重なプロモカードをタダ同然にくれるなんて言う奴に従いたくない気持ちと責めぎあってる」
「貴重? わたくしはこのカードなら36枚持ってますわよ」
「は?」
なんてことないような有野の言い草に苛立ちを覚える。
さすがに地域イベント限定のせいか、イベント期間が長かったとはいえ、36枚?
「だから遠慮はしなくてよくってよ」
「……そうか、わかった。有野、俺と勝負だ」
「はい?」
「有野が勝ったら、俺は潔く四天王になろう。俺が勝ったら……何もいらない」
「あの、どういうことですの?」
「リチュアル・ボードを構えろ、有野ルナ」
困惑する有野に対戦の準備を強要する。
有野に悪気がないことはわかっているが、俺は大変虫の居所が悪い。
カードゲーム世界に転生してまで資産ゲーを見せつけられたらイラつくに決まってるだろ。
なぜ俺が怒り出したのかわからない有野は、戸惑いながらもリチュアル・ボードを構えた。
□
「『強欲を貪りしミミック』でトドメだ」
「きゃー!!」
ミミックの中身による鋭い一撃で、有野の体力は0になった。
無事俺が勝利したわけだが、いざすっきりすると有野に申し訳なくなってきた。
この対戦は俺のやつあたりのようなものだし、有野も俺の気迫に押され気味だった。
それに気になることがある。有野が俺が思ってたより強くないことだ。炎堂から聞いた話のテンション的には、もっと骨がある奴のはず。なんとなく思い当たる節はあるし、言っておいた方がいいか。
「訳もわからぬまま、負けてしまいましたわ」
「有野、少しいいか?」
「なんですの?」
「お前のデッキ、それ使いたくて使ってるのか?」
「何を言うと思えば、当然ですわ。相手のリソースを削りながら、わたくしはリソースを稼いでアドバンテージを稼ぐ。わたくしの理想ですわ」
有野のデッキは予想していた通り、コントロールデッキだった。普通にやれば苦戦を強いられるデッキだが、今回に関してはそうではなかった。
「嘘だな。お前の動きはあまりにも教科書通りだ」
「そ、それのどこが悪いのですか! 基本を抑えてこそのリチュアルでしてよ」
「俺のデッキの止めどころ、わからなかっただろ?」
「っ……!」
有野は俺の言葉に苦い表情を浮かべる。
コントロールデッキは、ただ妨害札を撃てばいいわけではない。相手に致命的なところで打ってこそ、アドを稼ぐことができる。
俺のデッキは変なデッキなので、止めどころを迷うのは確かだ。
しかしそれは他のデッキにも言えることで、予想外のことを含めても対処できるようにするのが当たり前だろう。
有野はおそらくコントロールデッキを長く握っているはずなのに、単純に妨害札を切っているようにしか見えなかった。
「勝つためのデッキを使うことを俺は否定しない。だけどそこにお前の気持ちが籠もってなかったら、勝てるもんも勝てないぞ」
この世界では特定のデッキタイプが流行ることはあっても、特定のデッキ自体が流行ることはない。
世界チャンピオンのデッキは、世界チャンピオンが使うこそ強いのであって、同じデッキを使えば同じように勝てるという話ではないのだ。
有野の方に目を向けると、俯いたまま微動だにしない。言い過ぎたか?
「ククク、ルナさん大丈夫か?」
「ルナ! 起きろ!」
「……わたくしなら問題ないですわ」
有野は顔を上げると、まっすぐ俺の方を見てきた。対戦を始める前の自信満々な表情に戻っている。
「まさかこんなことを言われるなんて、思いませんでしたわ。気持ちが籠もってない……思えばわたくしは義務感でこのデッキを使ってましたわ」
「ルナさん……」
「ルナ!」
「わたくし、本当はまっどろこしいコントロールなんて嫌でしたの! 『パラ・リチュアル』は相手の体力を0にすれば勝ち! なら攻めて攻めて攻めまくるのが王道でしょう!」
「ルナさん!?」
「ルナ!?」
途中までいい雰囲気だったのに、急にブレーキを外してきたぞ、このお嬢様。四天王二人も突然の変貌に驚いてるし。
「ありがとうございます、エド。おかげでわたくしは大切なことに気付けましたわ。それと、負けた手前、言いづらいのですが……」
「なんだ?」
「交流戦の間だけでも四天王になってくれませんか? わたくしは勝ち負け云々ではなく、あなたのリチュアルを見たくなりました。身勝手なことは承知していますが、どうかお願いしますわ」
そう言って有野は深々と頭を下げてきた。それに釣られるように多田と剛山も頭を下げてくる。
ここまで真摯に頼まれては断りづらい。
「わかった、やるよ。ただし交流戦の間だけな」
「よろしいのですか!?」
「二言はない。3人ともよろしく頼む」
俺が承諾したことで、3人の表情が明るくなる。あまりにも嬉しかったのか、3人は大はしゃぎだ。
結果的に臨時四天王と交流戦が決まったが、たまにはこういうのもいいだろう。
しかしこのイベント、本当はタツミが参加するものだったのでは? という疑惑がある。
まあタツミには交流戦に出ることを話して観戦で控えてもらえば、何かあったとしてもなんとかなるか。
「そうでしたわ。エド、これを」
有野は思い出したかのように『ビューティー・スノー』を手渡してきた。
「『ビューティー・スノー』はなくても俺はやるぞ」
「これは友情の証ですわ。このカードがなければ、わたくしは殻に閉じこもったままでした。受け取ってくださいまし」
「お、おう。なら頂戴するか」
「ところであなたはさっきどうして怒ってましたの? それだけはわたくしわかりませんでしたわ」
有野に触れられたくないところを触れられてしまった俺は、どう誤魔化したものかと思案するのだった。
カード用語解説
ダメージ・カウンター:相手ターンに相手から自分の体力にダメージを与えられた時、このカードを魔力0でプレイすることができる。
カード紹介
ビューティー・スノー
レアリティ:PR
コスト:6
魔法カード
効果:ダメージ・カウンター
相手のユニットは、次のターンの終了時まで、攻撃できない。
フレーバーテキスト:あまりにも美しい光景に、人々は目を離せなかった。
強欲を貪りしミミック
レアリティ:SR
コスト:7
ユニットカード
種族:悪魔
攻撃力/体力:2/2
効果:ダメージ・カウンター
このカードを場に召喚した時、相手のユニットを1体選び、破壊することができる。
フレーバーテキスト:「人間ってバカだからオシャレしたらすぐ引っかかるんだ」ー強欲を貪りしミミック