環境としては新章デュエルマスターズでサッヴァークが出た頃と考えていただければ。
「…はぁ。」
彼女巫冬華は何も起きずただ過ぎ行く平和な日々に退屈を感じていた。彼女自身、今のようなぬいぐるみを抱きかかえ、気の抜けた時間を過ごすのは嫌いというわけではないのだが、どこにも向けようのない虚無感を感じている。
コトン、とポストから何かが放り込まれたかのような音がした。
冬華は抱き抱えていたコッコルピアの大きなぬいぐるみを隣に置き、居間を出る。そして学生寮の部屋に個別に取り付けられているのドアの郵便受けに手を突っ込む。そこから出てきたのは一通の手紙らしき封筒だった。
「あれ?送り主の名前も宛名も書いてない…?」
宛名が書いていない封筒に冬華は一抹の不安を覚える。
(きっと誰かのいたずらね。仕方ない、付き合ってあげますか。)
そう考えた彼女は、薄ら笑いを浮かべながら封筒の封を開く。そこから出てきたのはスリーブにカードを4枚まとめて入れた束ふたつと手紙のような紙が1枚。
「えっと…?『アルジェニック・ワン』に『純白の守護者パルディア』?どちらも聞いたことないカードね…少し調べてみようかな。」
冬華はスマホで2種類のカードを検索した。
「えっと…え、該当なし?ネット上にすら情報がないってわけ?妙ね…」
冬華の中で葛藤が湧き上がった後、彼女は光文明のカードを収納しているストレージを開く。
「早速デッキを作りましょう。明日みんなに見せてあげないと…」
そんなことをぶつぶつ言いながら冬華はカードとにらめっこする。そんな時間が数時間と続き。
気がついた頃には日が昇っていた。
「できた、私の新しいデッキ…!あれ、そういえば時間は…ってもうこんな時間!?遅刻確定じゃん!」
そう言うと、冬華は急いで制服に着替え、玄関から一目散に飛び出していく。
学校に彼女が着いたのは1時間目が終わった直後だった。
「あれ?冬華、遅刻なんて珍しいじゃん、どうしたの?」
「妙なカード見つけたからデッキ構築してたら気づいたら朝だった…」
「ええ…」
彼女の友人は呆れたような表情で冬華を見る。
「だってさぁ、唯。こんなカード見たことある?なくない?」
冬華はデッキケースの中からアルジェニック・ワンを出す。
「こんなカード初めて見た。どこで手に入れたの?」
「家に郵送で来たんだよねー、宛名は書いてなかったけど。」
「ええ…それ本当に大丈夫?何かに巻き込まれたりしない?」
唯は心配そうな表情で冬華を見つめる。
「大丈夫だって。…多分」
冬華は目を泳がせる。そんな彼女を唯は軽く睨むのだった。
「あっ、そういえば話変わるけどさ、最近校内でも流行ってる真のデュエルって知ってる?」
真のデュエルなんて聞いたことがない。ただ、「真のデュエル」という名前の響きが彼女の心を震わせたようで、冬華は尋ねる。
「知らない。なに?その真のデュエルって。」
「なんかねー、クリーチャーとか呪文が実体化して迫力凄いんだってー!ただ、その裏で賭け事とかしてることもたまにあるらしくてわりとアングラみたいだけど…」
「時折アングラな賭け事ねぇ…。まあいいや、巻き込まれたら面倒そうだからパスかな。」
冬華はそう言いながらデュエルランキング専用のデバイスを見つめる。
(ページ変え)
その日の放課後、なんだかんだ言って真のデュエルが気になる冬華は誰かが話をしているのを傍聴しようとスニーキングしていた。
「おい、体育館で真のデュエルしてるらしいぜ、見にこうぜ!」
ふとそんな声が聞こえる。話していた男子が去った後、冬華は体育館へと駆けていく。
「っ!?」
冬華が体育館に入ると、青年が地に伏していた。青年の顔色は明らかに悪く、様子もどこかおかしい。そのような状態で、青年は彼を見下す女子を睨む。
「あんた弱すぎ。真のデュエルやめたら?」
女子生徒は嘲笑いながら青年を見下す。そんな様子を見ていた冬華は憤怒の感情で溢れていた。
「あんた、いい加減にしなよ。」
ドスの効いた声で冬華は吐き捨てる。
「はあ?あんた誰よ。」
「巫冬華。今からあなたをぶちのめす女よ。」
そう言って冬華は腰に備え付けているデッキケースからデッキを取り出す。
「あんた、真のデュエリスト?それならランキングのために相手してやるわ。」
「はあ、真のデュエリストじゃないわよ。だから…」
冬華は青年の前に落ちていたデュエルデバイスを手に取る。
「ちょっと借りるわ。」
そう言うと、冬華は慣れた手つきでデュエルテーブルにデバイスを挿入する。
「…いいでしょう。その代わり先行は貰うわ。アツトをチャージしてターンエドロー。
相手のデッキは墓地ソース。そう考えた冬華はそれに合わせた動きを考えるべく、思考を巡らせる。
「私のターン、ドロー。アクロアイトをマナゾーンに、ターンエンド。」
「ふぅん…私のターン、ドロー。シンカイタイフーンをチャージして2コスト。オニカマスを召喚するわ。これによってあなたが踏み倒してクリーチャーを出しても置換効果で手札に戻るわ。」
次の瞬間、魚のオニカマスを人型にしたようなデザインのクリーチャーが目の前に現れる。
「これ、ホログラフィックじゃない!?」
「いえ。それはホログラムよ。ただし、このクリーチャーからの攻撃を受けると痛みを伴う。本当のクリーチャーとともに戦っているような感覚になれる、それが真のデュエルよ。」
女子生徒はニヤニヤと勝ち誇ったような表情で冬華を見つめる。
(2ターン目にオニカマス…抜かりないわね。)
「私のターン、ドロー。ヤマトをチャージして2コスト。アクロアイトを召喚。これで私の各ターン1体目の光のクリーチャーのコストは1少なくなるわ。ターンエンド。」
アクロアイトは冬華の方をちらりと見る。
「うん、頼りにしてるからね、アクロアイト。」
その言葉を聞いたアクロアイトは静かに頷く。
「ふん、何クリーチャーと馴れ合ってんの?キモ、所詮はホログラム。実態を伴わない映像なのに。ドロー、ラフルルをチャージして2コスト。ノロン⤴︎召喚よ。効果で…イワシン2枚を捨てて二枚ドロー。さらに捨てた2枚のイワシンの効果で1ドロー1ディスを2回行うわ!」これであっという間に墓地のクリーチャーは4枚。行きなさい、オニカマス。シールドブレイク。」
オニカマスの槍が冬華のシールドを貫く。そしてそのホログラムの槍は冬華の肩口を掠める。その次の瞬間、冬華の肩口に激痛が走る。
「っ!?」
冬華はあまりの痛みに自身の肩口をみる。しかし、そこは服すら敗れておらず、全くの無傷であった。
「あら、初めて攻撃のダメージをもらって声1つ出さないなんて、強いじゃない。ターンエンドよ。」
女子生徒は面白くなさそうな様子でターンエンドを宣言する。
「…なるほど。確かにこれはクリーチャーと一緒に戦ってる感があるわ…!」
冬華は苦しさの中に楽しみを見出したかのような様子でニヤッと笑みを浮かべる。
「なに?あんたマゾか何か?キショいんですけど…」
女子生徒はそんな冬華の様子に戦慄していた。
「私のターン、3枚目のアクロアイトをチャージして1コス軽減2コスト、着任せよ、自由の守護者パノディア!」
冬華の頭上に巨大な戦艦が出現する。
「この子は光文明コスト3のブロッカー、さらにこの子を破壊することでアークコンパスを種族に持つクリーチャーのコストを2少なくする効果を持ってるの。さあ、どうくる?」
「消し炭にしてあげるわ!ホネンビーをマナチャージしてアッツトを2体召喚、手札を2枚捨てて二枚ドロー。これを2回行うわ。そしてグラビティ0、百万超邪_クロスファイアをタダで召喚。クロスファイアはスピードアタッカーよ。Wブレイク!」
クロスファイアの攻撃が眼下に迫る。冬華は後ろに飛び退るも、クロスファイアの剣をもろに受けてしまう。
「…っ!シールドトリガー、DNAスパーク!あなたのクリーチャーの行動を止めて、盾を1枚増やす。」
相手のクリーチャーは鎖に縛られたように動かなくなる。
「運に救われたようね。私はこれでターンエンド。」
「…あなたは私のことを舐めているようだけど。あなたは私の戦術すら読めないようね。」
そう言いながら冬華はカードをドローする。
「パノディアをチャージして場のパノディアを破壊!これでこの子のコストは2軽くなり、更にアクロアイトの効果で1コス軽減。自由の剣よ、今ここに顕現せよ!自由なる銀閃機 アルジェニック!」
次の瞬間、穹の果てから光の筋が落ちてきて、そこから一体の機神が姿を顕す。
「あれって世界に数枚しかないって言う伝説のカードじゃ…」
ギャラリーがざわつき始める中、冬華は淡々と宣言する。
「効果であなたのコスト5以下のクリーチャー…つまるところクロスファイア以外のクリーチャーを全てシールド送りにするわ。更に、自分より相手のシールドの枚数が多い時、アルジェニックは効果の対象にならず、場を離れないわ。私のシールドは3,あなたのシールドは8。よってこのクリーチャーは不死身よ。」
「クソ、見下すんじゃないよ!私のターン、マナチャージしてクロスファイアで攻撃!」
「ブロックはしないわ。」
クロスファイアの剣が冬華を貫く。しかし、冬華は痛がるどころか、身動ぎすらしない。
「…くっ、ターンエンド!」
「私のターン、DNAスパークをチャージ、パノディアとオリオティスを召喚。アルジェニックワンでシールドを攻撃、この時、クロスファイアを対象に効果発動。アルジェニックは攻撃時に一体相手をタップさせられるのだけど、タップしているクリーチャーを対象に取った時、その効果はフリーズへと変わるわ。そのままシールドをブレイク。」
アルジェニックは腰に携えた剣にビームを纏わせ女子生徒を貫く。
「グワッ!?シールドトリガー、
その攻撃、盾で受けるよ。」
冬華の盾はゼロになった。それなのに冬華は表情一つ変えない。
「私のターン。パノディア3体目と3体目のオリオティスを召喚。召喚済のパノディアでクロックに攻撃して、破壊。さらに、アクロアイトとアルジェニックで攻撃。アルジェニック効果でクロスファイアをフリーズ。さあ、次のターンがあなたのラストターンよ。」
「…ちっ、これ以上やってられるか、投了だ。」
女子高生は付き合ってられない様子で体育館を去っていく。
「ありがとう、普通にしくじって負けてカードも取られるところだった。」
男子生徒は試合直後の冬華に声をかける。
「どういたしまして。真のデュエルって楽しいのね。」
冬華はデバイスを男子生徒に返す。
「君、これからもバトルしたい?したいなら登録しに行こうか。」
「…それはどうも。」