「勢いで参加しちゃった…」
冬華は真のデュエマ専用のデバイスを見つめるなり、ため息をつく。というのも、あの1戦が終わった直後勢いに任せて冬華は真のデュエマのプレイヤー登録をしてしまったのだ。相手の悪意次第でアンティルールと化してしまう殺伐とした戦場に軽い気持ちで飛び込んでしまったことを冬華は後悔していた。
「ちょっと、そこのアンタ、何を俯いてんの?」
冬華は声のした方をちらりと見る。そこには金髪ショートの女子生徒の姿があった。
「…誰?」
冬華は思わず口に漏らす。冬華にとって全く面識のない少女だったのだから無理はない。
「あれって足立千夏じゃない?」
「うわ、本当だ、やっぱりこうして見ると可愛いな…」
「隣にいるのはさっきのデュエルの冬華か?」
周囲がざわめき始める。
「足立千夏…あ、 ネットで話題の人気YouTuberのあの足立さん?」
「半分正解半分不正解ってところかな。こっちでも無双してるんだから!」
そう言いながら千夏はデバイスを強調するように振る。
「こっち…ってあなたも真のデュエリスト?」
「ここは人が多いな〜、冬華っち、午後の授業ブッチしてカフェでも行こっか。」
千夏はそう言い、悪そうな笑みを浮かべるなり、冬華の手を取り、駆け出す。
「うわっ!?ちょ、ちょっと!?」
冬華はされるがままに引っ張られて行った。
「さっきの答えとしては正解だよ。私も真のデュエリスト。」
カフェに着くなり、千夏は直ぐに答える。
「こんな所まで連れてくるなんて…何のつもり?」
冬華は警戒した様子で千夏を睨みつける。
「いやー、芸能科って真のデュエマみたいなアングラに近い遊びは不適格だーって言って禁止されててね?私は成績トップだからお目こぼしされてるけど、現場なんか取り押さえられたら大変だから…だからごめん!」
千夏は思い切り頭を下げる。
「そっか。それならいいんだけど授業サボって大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、芸能科の授業って普通科みたいな勉強じゃなくて実技だからさ〜、私みたいな憑依型からしてみると大体どうにかなっちゃうんだよね。」
「聞いた私が馬鹿だった…」
冬華は頭を抱える。
「話が大筋からそれちゃったね。それでなんだけどさ、真のデュエルにはタッグバトルレギュレーションっていうのがあるんだけどね?私とタッグになってくれない?《氷界の女帝》さん!」
「…氷界の女帝?」
「うん、なんか色んなところでそうよばれてたから!さっきのデュエマ凄かったからねー、あれ結構痛いのに声1つ出さないなんて!」
「ていうかタッグマッチってなに?そんなレギュレーションあったっけ?」
「2人1組でチームを組んでバトルするの。盾はお互い5枚づつ、合計10枚を2人の盾としてカウントする感じ!」
「その感じだと私の戦術は自ら盾を詰められてギリギリまでダメージ受ける前提みたいなところあるから結構痛い目にあうと思うけど大丈夫?」
「うげ、それはちょっと嫌かも…」
千夏は顔色が悪くなる。
「でも正直あなたのデュエマに見惚れたんだよね、だからタッグ組みたいの!」
「そういうことなら…悪い気はしないけど」
冬華は頬を赤く染める。
「やったね。じゃあこれからよろしく、冬華っち!」
「こちらこそ、よろしく。足立さん。」
2人は固く握手を交わした。
「…とは言ったけどさ…なんでショッピング付き合わされてるの!?」
冬華は人目も気にせず叫んだ。
「えー?ショッピング付き合ってくれるくらいいいでしょー?相棒〜」
「まだ相棒ってほど友好深めてないんだけど…」
冬華は呆れた様子で千夏をじっと見る。
「えー?でも冬華っち、さっきぬいぐるみ見てキャッキャしてたじゃん。ああいう可愛いの好きなんでしょ…」
「そ、それは…」
冬華は口ごもる。
「あんな過激なデュエマしてたのにギャップすごいよね〜どっちが素なの?」
「足立さん、あなたらぐいぐい来すぎだよ?もうちょい距離感を…」
「あ、次はあっちに行こ!」
話も聞かずぐいぐいと引っ張る千夏に冬華は諦めを覚えた。
「はぁ…」
そんな時、強面の男が千夏にあたり、千夏は倒れ込む。
「おい、前くらい見て歩けよ、お前の目はどこについてんだ?」
男は倒れる千夏を威圧する。千夏は完全に萎縮してしまった様子で動かない。
「よく見ると可愛いやつだな…ボス、こいつさらいますか?」
取り巻きが何か言っている。ぶつかった強面の男はどうやらなにかのグループの頭らしい。服装を見るにどこかの高校の生徒だろう。そんなことはどうでも良くなる程に冬華は静かに激昂していた。出会って少ししか経っていないものの、一緒にいて居心地も悪くないし、むしろいい気すらする、そんな相方を男たちは今まさに陵辱せんとしているのだ。
「なに私の
「お前も良い奴だな。2人まとめて連れていくぞ!」
「はい!」
男2人は殴りかかってくる。しかし何故だろうか、冬華にはその攻撃の軌道が手に取るように分かった。片方は右、それに合わせるかのようなキック。冬華は軌道に合わせて攻撃を避ける。
「そこ!」
それだけでは留まらず、片方の男に持ち前の運動神経からはなたれる回転蹴りをねじ込む。男は吹き飛び壁にぶつかる。
「はぁ、はぁ…」
息が上がる。いつ殴りかかって来るかもしれない男を目の前に冬華の心は恐怖に呑み込まれつつあった。
「こいつやべえよ…ずらかるぞ!」
幸いにも男達は小物だったようで逃げ帰っていく。
「大丈夫?足立さん。」
冬華は千夏の方を見るなり、手を差し伸べる。
「…ははは、すごいんだね、冬華っち。…あと千夏って呼んでくれたら完璧なんだけどな…」
千夏は少し残念そうにその手を掴んだ。
「分かったよ、その…千夏。」
「なに?恥ずかしがんなくてもいいじゃんか。」