結城悠真は勇者である   作:ヘイル

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1話 日常

ついさっきまで建物としてそこに形を為していた残骸、見る影もないほどに曲げられた鉄柱、そして…おびただしい程の数の化け物によって蹂躙されたもはや原型をとどめていない数え切れない程の亡骸とおびただしい血痕。

そこには、つい目を背けたくなるような、フィクションと信じ込みたくなるような凄惨な光景が広がっていた。でも、辺りから聞こえてくる悲鳴や怨嗟の声、血の臭い、何より僕の中から溢れ出す恐怖心が、「これは夢なんかじゃなくて現実なんだ」と切実に訴えかけてくる。

ふと化け物と目が合った。まずい、こちらに向かってくる。

(早く逃げないと。)

ダメだ、足がすくんで動かない。化け物はもう眼と鼻の先まで迫ってきている。次の瞬間、化け物は口を開く。

 

「来るなああああ!?!?っ痛ったあ!?」

僕はじんじんと痛む頭を軽く抑えながら辺りを見渡すと、先程までの惨状は一切広がっておらず。そこは至って普通の部屋だった。どうも先程までの地獄絵図は夢で、驚いて起き上がった拍子に僕は二段ベッドの上の段で頭をぶつけたらしい。

「悠真君、何かあった〜?なんかさっきから叫んだり壁どついたりでうるさいんだけど…」

双子の妹、花音が眠そうに目を擦りながらベッドの上からひょこっと顔を出す。

「ごめんごめん、変な夢見ちゃってベッドの上で思いっきり頭ぶつけちゃってね…って花音、準備しないで大丈夫なの?もう7時回ってるけど…」

「へっ…?まじじゃん、ヤバいよー、悠雅君、なんで起こしてくれなかったの!?」

「だって起こせって言われてなかったし…朝ごはん食べてから僕2度寝したし…」

「もー先行ってて、後で追いかけるから!」

焦った様子で風花はそういった。

「全く仕方ないなぁ…朝ごはん食べるなら机の上においてるから、あっためて食べといてね、それじゃお先!」

僕はそう伝えると、ベッドの横に置いていた荷物を取り、部屋を出た。

(ページ変え)

丸亀城の内装をこれでもかと言うほど徹底的に改装された、もはや現代版テセウスの船と言っても過言ではない建物。それが訳あって今の僕らの教室になっている。

(まあ、このことは()()の人には伝わっていないんだけどね。)

心の中でそう呟きながら僕は教室の扉を開けた。かけてある時計を見ると、時刻は7時半。始業時間まではまだ随分時間がある。

「…誰もいないよね。」

僕は誰もいないことを確認するとうっすらと笑みを浮かべ、息を思いっきり吸い込む。そしてー

「愚かしくも麗しい人生が息苦しくてもー」

思うがままに歌いはじめた。朝イチから周りを気にせず高音を響かせるのはただひたすらに気持ちよかった。

「ふぅ…満足満足。丸亀城の本丸。そのまわりの人を気にしないでいい環境で全力で歌うのは楽しいね。」

僕は息をきらしながら呟く。

「やっぱり結城さんだったか。相変わらず朝から凄いな、お前は。」

声のした方に振り向くと、そこには半ば呆れた様子の若葉の姿があった。

(あれ?これもしかして…聞かれてた!?)

そう悟った瞬間、恥ずかしさで顔が赤くなる。

「あの…聞いてた?」

そっと若葉に尋ねてみる。

「ああ。相変わらず上手いと思いながら聞いてたぞ。」

「…はぁ、いるならいるって先に行ってくれよ…」

「ははっ、すまないな、これからは先に聞くこととするよ。」

「マジで頼むよ…若葉は今日はあれ?えっと…そう、諏訪との定期連絡。」

「ああ、そうだ。そっちはなんで来たんだ?今日は訓練休みの日だが…」

「え、マジで…?」

僕は呆気にとられて焦りながらメールアプリを開き大量の未読メールを読み散らかしていく。

「これじゃない、これじゃない、えっと、8月18日は…道場管理者ふ…ざいにつき"特別休暇とする"」

内容を読んだ途端に血の気が引いていくのがわかった。

「お、おい、どうしたんだ?そんなこの世の終わりみたいなかおをして…」

「今朝爆睡してた花音を不測の事故で起こした挙句に急かしちゃったんだけど…」

ガサッと背後から物音が聞こえる。

「悠真くん、さっきの話ほんとなの?」

思わず振り返ると、そこには花音の姿があった。

「…マジですんませんした。」

「はぁ…」

呆れたように息をつくと、続けるようにして花音はいった。

「もう、せっかく準備したのに…仕方ないなぁ、今から一緒に出かけよ?悠真君。それでチャラにしてあげる。」

…え?そんなのでいいの?思わずそんな言葉を口走ってしまいそうだったが何とかこらえる。

「あ、ありがとうございます…」

そう言って花音の方を見ると、少し満足げな様子だった。

ページ替え

市街地に出ると、今は夏休みの期間だからかな、今日は平日にも関わらず子連れの人で賑わっている。

「悠真君、次こっち行くよー!」

「ちょっと待ってよ、すぐ行くから!」

 今思うとこの時の僕は完全に忘れていたのかもしれない。幸せな日常が崩れるおそろしさを。

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