トリニティ総合学園パソコン研究会   作:ヤキブタアゴニスト

11 / 13
第十一話 アリウス行き超特急

ナギサのリーダーシップによってブラックマーケットでの騒乱には方がつき、トリニティとゲヘナによる支援のもとで付近の自治区に再編入されることが決まる。力の空白を埋めるためのトリニティとゲヘナによる新たな影響圏の調整が互いの了承を得るところまで行く頃には、今度はトリニティ内部がきな臭い状態になっていた。

 

 

「ミカさん…、一体誰がこんなことを……」

 

ナギサが衝撃を受けたのは自分より先に自分の幼馴染が攻撃を受けたことだった。狙われるとしたら先に自分であろうと考えていたナギサにとって、ミカが襲われることは悪夢に等しい出来事だ。

 

ミカが受けた攻撃というのは水道管を経由して流し込まれた汚水により地下で鉄砲水に襲われるというもので、ピンポイントでの狙いとよりによって汚水の使用という2点から明らかに攻撃を意図しているものだった。

 

幸いにして、ミカはこれを持ち前の身体能力で回避しており難を逃れていたが、水没ではミカの力を活かすことは難しい。犯人の狙いはこの上なく明確であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタコンベ、それはトリニティの地下に広がる大迷宮とも呼べる代物であり、古代よりその全貌を誰も知らないと言われている。あるものはアビドスに古代に作られたと言われる迷宮ラビリンスを模して作った要塞であると言い、あるものは古代の墓地であるとも主張する。

かつて様々なものを飲み込んだその迷宮は古代からの亡霊かローテクゆえの頑健さかは分からないが、あらゆる調査を跳ね除けてそこに存在していた。しかし、今となっては不気味で暗いだけのその場所はトリニティの生徒にとって大した関心ごとでは無くなっていた。

 

 

そんなカタコンベが最近俄かに騒がしくなっている。ここ最近の掲示板での言及の多さに気がついたナナコはその監視をしていた。議論の流れを追ってみると、その関心の大半はある人物とある組織に集約されていた。

 

それはティーパーティーの生徒会長の1人である聖園ミカと学内で隠然たる勢力を持つシスターフッドのシスターたちであった。どうやらここ最近彼女たちがカタコンベの周辺で活動しているところが目撃されているようで、何かを探しているのではないかとの憶測が飛び交っている。その中でも、カタコンベの奥に隠された聖なるなにかを探しているというのが有力なようだった。

 

 

 

「それこそ最高のゲームを作るための伝説の聖なる書、G.Bibleと並びたつもう一つの性なる書、H.Bibleに違いない。是非とも手に入れたい。」

 

その噂を聞いたリリアは思い出した。とある少女によればミレニアムの廃墟にはG.Bibleと呼ばれるゲーム作りの真髄が書かれた一冊の書が隠されているという噂を。

 

そして考えた。なぜ、”G”なのかを。

 

普通に考えればこれはゲームの頭文字のGだろう。

しかし、これを隠した先人は果たしてそんな安直な名前付けをするだろうか。リリアは自分に置き換えて考える。

そう、Gの次はHである。つまり、エ〇ゲの真髄が書かれた幻の本たるH.Bibleを隠し、いつの日にかその存在に気が付いた同志のために偉大な先人が 「あっ、いてっ」

 

「落ち着きなさい。そんなものをミカ様やシスターフッドが調べているはずは無いでしょう。」

 

妄想を始めたリリアをヒサコが止めに入るが、その熱はすでに部員たちに感染していた。というよりは弄繰り回せる手頃なおもちゃが出てきたので遊ぼうとしているというのが正しい表現だったが、ともかくなし崩し的に部員たちはカタコンベへの侵入を試み始める。

 

 

「えっと……、周りにカメラは無さそうです。ましてやこの中となると……」

 

しかし、カタコンベなど所詮はトリニティ内部、それも旧時代の遺物だなどと舐めてかかっていたパソコン研究会の面々はそこで思わぬ手詰まりに頭を悩ませることになる。なにしろ、カタコンベにはハッキングを仕掛ける対象もなければ、入り口以外は電波も碌に届かない。インドア派のパソコン研究会にとっては通信インフラの広がりこそが世界である。その意味で、カタコンベはもはやこの世のものではなかった。

 

 

パソコン研究会の面々は自分のこだわり以外に対してはあまりにも冷めやすい。

物理的にその場に行くというのにものすごく高いハードルを感じる面々は、既に諦めムードを漂わせていた。サエなどは

 

「いっそのこと会長に突入してもらいませんか?会長なら多少迷ったり何かに襲われてもどうせ裸になるだけなんですし。」

 

とまで言い出す始末であった。

 

実際に、カタコンベの探索はこれまで多くの挑戦者をして成功していない。小型ドローンや改造したラジコンといった小型の機械に探索を任せたいところだが、薄暗い内部の抜け道まで探すのは中々に難しそうだった。

 

そんな手詰まりな状況を打ち砕いたのは古地図をなんとなく見まわしていたナナコであった。前回のブラックマーケットと同じように、今回も水道管が何かに使えないかと見まわしていたのだ。

 

「ここに書かれているこれは今は使われていない水道管だと思います。古代からあるということはカタコンベに繋がっているのかもしれません。」

 

ナナコが指差す先にはクロアカ・アンティカと書かれた一本の線が走っており、その片方の端はカタコンベ内部に通じており、もう片方はいくつかの配管を辿ってトリニティの水道管と接続されているようだった。

 

それを見たヒサコは少し感心したように頷く。

 

 

「なるほど、迷宮を解くのは別に水でもいいってわけね。流し込んだあとで流れを追っていけば自然とゴールに行き着くと。幅優先探索のことを水を流すようにとは言うけど実際に流すのは初めてだわ。」

 

そう、彼女たちが考えたのは水道管からの水をカタコンベに流し込むことだった。カタコンベの奥に広大な空間が広がっているならば、やがてはそこへの流れ以外は止まるはず。あとはそこにボートを送り込めばいちいち探索していくより遥かに楽なのかもしれない。

物理的実態を気にせず、迷宮をプログラミングの課題のように見なしていた彼女たちにとって、興味本位のために水道管から大量の水を古代の遺物に流し込むことは微塵も抵抗を感じる行為ではなかった。

 

 

 

 

 

「ここと、ここを開けて!! それからこっちとえーっと、この仕切り弁1852号を閉める?ややっこしいなー!!」

 

「いや、そっちじゃなくて、ここからこう流すから、1854号を閉めるのがいいんじゃないですか?1536は今開いてる?って、ユウキ!?1534は汚水と雨水を繋いでるバルブ!!!」

 

そうと決まれば上水道から古代の水道管まで水を導いてあげる必要がある。しかし、やたらとややこしい配管と自動化された複雑なバルブ群は制御システムを乗っ取ったユウキの処理を追いつかなくさせるのに十分だった。

 

「あ... 開けたの1534でした… それに、エラーがでて閉じれません。」

 

だからこそ、間違いが生じることは必然だった。上水からきれいな水を流し込むはずが、どこをどう間違ったのか汚水管とカタコンベが接続されてしまう。さらに悪いことに、汚水管と雨水管をつなぐバルブを開けてしまったうえ、勢いよく流れ出た水勢のせいか閉じようにも閉じられない。こうなってしまうと、無理に汚水がカタコンベに流出するのを止めると汚水管が逆流してトリニティ中のトイレから汚物が噴出しかねない。

 

雨が降りやむかバルブが修理されるまで、カタコンベは今や新たな汚水管として大量の汚水が流れ込む地獄と化していた。

 

「会長!!やまない雨は無いって言いますし、きっとそのうちどっかから排水されるはずです!!」

 

すべてを悟ったパソコン研究会の面々はそこで作戦を中止した。その流れの先に何があるかを考えず、カタコンベに汚水が垂れ流されるのを傍観することに決めたのだった。

 






お気に入り、感想、どうぞよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。