トリニティ総合学園パソコン研究会   作:ヤキブタアゴニスト

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第十二話 迫りくる胃痛

 

ティーパーティーの制服はただでさえ上質な素材で作られている一般のトリニティ生徒向けの制服よりもさらに一等上質でかつ高品質な一品である。美しさや肌触り、耐久性や防弾性などの厳しい性能要件を満たす制服は、トリニティの権威の象徴であった。それは着用するだけでトリニティのみならずその周辺の自治区からも羨望の眼差しを受け、ミレニアムやゲヘナですらも一目置かれるほどである。

 

そんなトリニティの権威たるこの制服にはしかし、その威厳とは裏腹にとんでもない機能も搭載されていた。

 

「ヒサコさん、エデン条約まででもかまいません。以前のようにティーパーティーに復帰していただくことはできませんか? 実務にも明るいヒサコさんがいると非常に心強いのですが...」

 

「そうおっしゃって頂けるのは身に余る光栄です。しかし、......」

 

その機能を知る1人であるヒサコはティーパーティーへの所属を迫る桐藤ナギサからの攻勢を必死に防いでいた。目の前にいるこの方がこの機能を知った時の反応は賭け事の対象にはよさそうだなと頭の中で算盤を弾いているヒサコであったが、いくらヒサコでもそれは憚られることである。

 

 

そう、ティーパーティーの制服に余計なものを追加したのはヒサコの親友であるリリアである。そして、その機能とは特定の偏光パターンの強い光を受けることで一瞬だけ可視光を通すようになると言うものだった。

 

これはこちらから偏光光源を照射することで盗撮し放題というリリアの夢を叶えた一品であり、ミレニアムの伝手を頼ってようやく実現したものだった。制服を納入する業者から攻略の糸口を見出したリリアがねじ込んだものだったが、素材自体は良いものであるために一度決まればそのまま納入され続けていた。

 

ティーパーティーをモデルにしたゲーム開発のために必要不可欠だったと言い訳をしているが、その後もミレニアムとの関係を深めようとしているあたりヒサコはこの件についてリリアのことを全く信用していなかった。

 

なお、ヒサコはこれを知った日にリリアを叩き潰し、翌日にティーパーティーから正式に抜けている。

 

 

とはいえ、現ティーパーティーホストのナギサからのたっての願いと言われてしまえば、断る理由をさして持っていないヒサコにとって拒否し続けるのは難しい。事実、今もティーパーティーの仕事を手伝うこともあるほどなのだ。

最近なぜか元気がないナギサのことを後輩として心配していたヒサコは、結局制服のデザインを自分で決めるということを条件にティーパーティーへの復帰を承諾することにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パソコン研究会にどう対処するか、それはナギサにとって目下喫緊の課題であった。ブラックマーケットで露呈した彼女たちの能力と攻撃性がいつ自分に向くのかということに戦々恐々としながらも、エデン条約を前にここまで明白な脅威を放置するわけにもいかない。

 

強権を持って押さえつけようにも、彼女たちの長い手は学内のあらゆるところに伸びている可能性が高い。迂闊な動きをして暴発させてしまうことだけはなんとしてでも避ける必要がある。ナギサは密かにそれと気付かれずにこの脅威を取り除かなくてはならなかった。

 

そんなナギサが狙ったのが、パソコン研究会の会長たるリリアである。ナギサの見立てによれば、パソコン研究会の方向性を定めているのは彼女であり、今回の暴走もリリアによる暴走ではないかと推測していた。

 

だとすれば、リリアから残りの4人をそれとなく引き剥がしていけば良い。特に、ヒサコは親交も深くかつ元ティーパーティーであるし、サエについても正実の一員であるから引き込める可能性は十分にあった。

もちろん、これは楽観的な見方であることは間違いない。しかし、だからといって他に有効な手立てがあるわけでもない。そうなれば、やるしかないと考えることができることがナギサの長所であり短所であった。

 

そうと決まればナギサの行動は素早い。

まずは手始めとして、ティーパーティー麾下にエデン条約対処のための部局を設置、そしてそこの長として親交のあるヒサコをあてがった。その後、機密性に問題があるとしてエデン条約向けのシステム開発をパソコン研究会からこのエデン条約対策室に移管する。その上で、一年生であるナナコとユウキをその下につけて開発の継続を進める体制を固めた。

さらに、正義実現委員会側にもサイバー戦への対策を行うように指示し、間接的にサエの仕事量を増やして釘付けにする。

 

少々強引ながらも矢継ぎ早に行われた施策は、少なくとも外からはエデン条約へ向けてさらなる体制の強化を図ったように見えたかもしれない。しかし、当の実行者のナギサはこれが十分でないことを自覚していた。ただ、ナギサにはパソコン研究会以外の多くの問題が山のように積まれていた。

蠢動するシスターフッド、消えた救護騎士団長、ミカへの襲撃とトリニティの裏切者。問題はあまりに多く、そして対処できる人員はあまりに少なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

在原リリアは嘆いていた。

 

いつものことであるが、今回は割とまともな理由で嘆いていた。

 

それは、後輩たちがティーパーティー区画に出向き、そこで居心地良さそうに楽しくやっているからである。もちろんナギサが話した理由はリリアにとって納得できるものであったし、彼女に頭を下げられたら否というわけにはいかない。既にこちらで作業していた分に上乗せして報酬も払われているわけで、文句を言う立場にも無かった。

 

 

もとよりトリニティは権威主義の派閥主義。リリアがどう思おうが、ティーパーティー直下となればそれだけ箔というものがつくもの。一定以上の財力を有していれば、次に求めるものはまさにその箔であった。そう、トリニティではそれは重要だった。

 

という理由で後輩たちが向うに行くのなら悔しくはない。そうではなく、ヒサコと三人で意気揚々とバックドアを仕込み、裏コマンドを準備する後輩たちがうらやましく、エデン条約にむけて自分だけが空回りしていることが明らかであったからである。

 

 

しかし、リリアはそこでは終わらない。リリアは自分なりにできることを考えた。考えに考えて出てきたのがエデン条約に敵対しそうな人物の調査であった。

 

これならばナギサ様に協力できると考えるリリアに、普段ならサエが「18禁ゲームの題材にしてよくそんなことが言えますね。」と突っ込むところだったが、残念ながら今のサエは急遽湧いてきた仕事をさばいていて忙しかった。

 

そして、残念ながらリリアはネットワークを通じた情報収集には慣れていた。普段からゲーム作成のためにモデルとなる人物をそのようにして監視していたからだ。

 

そうして次々とエデン条約に敵対しそうな人物を炙り出していったリリアの前に、一際疑わしい行動をとっている人物が現れる。その人物はエデン条約に敵対する動機と力をあわせ持っており、その点においても現状への説明に十分たりうる。

 

これはリリアにとって最悪の事態だった。

そう、リリアは以前自分が出したゲームが解釈違いのナマモノという最悪の代物であることを認めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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