トリニティ総合学園パソコン研究会   作:ヤキブタアゴニスト

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第十三話 暗鬼の作り方

 

仮想通貨MANESはヒサコにとってまさしく失敗だった。ヒサコが丹精込めて作ったその仮想通貨は闇市場の決済需要によって瞬く間に信用を獲得し、正しく新しい通貨の道を走り出してしまった。これでは暴落と高騰に一喜一憂し、騙し騙されでいつ売り抜けるかのドキドキチキンレースなど生じようもない。そういう意味で、MANESはヒサコの期待する投機対象とはなれなかった。

 

もちろん、一度失敗したからといってこれで引き下がるヒサコではない。MANESをもとに更なる仮想通貨、ZURVANとAHRIMANを生み出そうとしていた。これは所謂混ぜ物型のステーブルコインのペアであり、そのステーブルという名とは裏腹に必ず暴落が生じる仕掛けを孕んでいる。

ヒサコが考えた仕組みはこうだった。まず、仮想通貨ZURVANは所持しているだけで利息としてAHRIMANを生み出すことができる。このAHRIMANはMANESと合わせることで新たなZURVANを生成することが可能なのだ。最初のころはZURVANから生み出されるAHRIMANが少なく、市場参加者の増加とともに価値があがるものの多くの人がZURVANをもてばいずれ外部からのMANESが枯渇する。そうなればコインはポンジスキームとして機能し、手を引くのが早いか遅いかで天国と地獄が生まれるのだ。サエは何か言いたげであったが、これはまさしくヒサコの完璧な作戦であった。

 

 

そんな新通貨の準備としてMANESのやり取りを監視していたヒサコはある違和感を感じることになる。それは、取引記録の計算において連続していくつかの矛盾が生じていたことだった。それはブロックチェーンで保証されている価値の源泉を脅かすものになりかねない。

 

「これは.... もしかしてブロック再編成をしようとした?それとも単なるバグ?」

 

もちろん、こういった計算での矛盾は小さいものであれば珍しくない。しかし、これは仮想通貨全体への攻撃としても利用できるため、ヒサコはこれを詳しく調べることにした。

 

まずはダメ元で実行者を調べてみると、驚くことにあっけなくその実行者が使用している端末が分かってしまった。ハニートラップ入りのアプリを仮想マシンでなく実機で動かしている。そんな間抜けな相手が攻撃を行うなんて考えにくいが、急いで勉強して中途半端に知識をつけたのなら分からなくはないかとヒサコは考えを進める。

 

似たような挙動をした端末をピックアップし、辿れるものはネットワーク上の痕跡を遡ることで突き止めていった。また、いくつかの攻撃に便利なツールはヒサコ自身が公開しており、それをあえて使わせることでプロキシサーバーによる妨害を貫通することができた。

 

そうして残された多くの手がかりから明らかになったのは、いくつかの端末から仮想通貨への何らかの攻撃が試みられたという事実と、それらの端末が特定の組織、シスターフッド管理下のものであるということだった。

 

「どうしてシスターフッドが? それも組織として仮想通貨に手を出すなんて......」

 

ヒサコにとってシスターフッドは関わりの深い組織ではないが、それにしても仮想通貨に関わってくるような人種に思えなかった。むしろ、そういったものをあまり好んでいないようなお堅い人種であり、享楽的な金銭のやり取りには反対意見を表明している。その点で、緩和を表明するヒサコとは対立を孕んだ立場にあることも少なくなかった。

 

 

 

 

これがただの客であれば胴元の吟醸にかけて拒否はしない。親の敵であろうと客は客として扱うのがヒサコのスタンスだ。

けれども、どうもそんなに簡単な話ではなさそうだった。シスターフッドの動きに不信感を感じたヒサコは早速シスターフッド上層部の監視を始める。

 

監視といっても、シスターフッドは秘密主義でアナログな部分が多い。ティーパーティーや正義実現委員会のようには行かない。

 

ここで、懺悔室の盗聴のために配線に仕掛けた盗聴器が大きな役割を果たした。最低限の情報収集のためとはいえ、あちらこちらの壁の中に埋め込まれた盗聴器は互いの情報を使うことでノイズを丁寧に除去できる。こうすることで会話の中身を部分的に聞き取ることが出来たのだ。その中から仮想通貨について話されている部分を探し出す。

 

「......という仮想通貨.....が、古の.........に記録が..... 」

 

「......の名を騙って、このような...............ナギサ様..........」

 

「サクラコ様..............きっと仮想通貨を.............そのものをティーパーティーに.............」

 

 

ヒサコが断片的に聞き取れたその会話は、シスターフッドが仮想通貨そのものに対して敵視し、ティーパーティーに仮想通貨を禁止させるように動くという内容であった。このままでは早晩、シスターフッドから正式な提案がなされるのは確実だ。

 

ここで最悪なのは何もしないことだ。おそらくはシスターフッドからの提案で仮想通貨取引は禁止され、これまでのグレーが完全な黒になってしまう。不良やヘルメット団ならばティーパーティーに禁止されたから何なのだと思うものは少なくない。しかし、大金を投じるような立場の者にとってグレーと黒の違いは果てしなく大きい。ヒサコはグレーも黒もどちらも差配しているものの、参加する人数でいえば前者が圧倒的に後者を上回っている。それでも黒に需要があるのはそれだけ大きな快感を得られるためであるが、仮想通貨という新規しかいない場合においてはその快感をアピールする場に欠けていた。

 

次にマシなのが、サクラコからナギサに提案があった後に反論することだ。もちろん、サクラコと正面から対立するという構造は好ましくない上に、ナギサにどちらかを却下するという判断を迫ることは二重によろしくない。あくまでやられるがままというのを回避するという程度であり、今は誤魔化されている他のグレーゾーンにも議論が及ぶというリスクもあった。

 

もっといい手段はこちらから先手を打つことだろう。サクラコからの話を聞く前にナギサに不信感を植え付けることが出来るならば、内容如何に関わらず議論になる前に潰してしまえる。仮にサクラコが無理に提案を通そうとすればナギサは却って怪しく思うだろう。内容を聞く前に発言者の信用問題に焦点をずらすことがこの手段の肝だ。

 

しかし、直接告げるのだと効果は薄いことをヒサコは知っていた。ヒサコが突然シスターフッドの動きを報告してくるなど怪しさ満点だ。ナギサの信頼を得るにはティーパーティーの情報局といった信頼されている情報源からの報告に混ぜこむのが最適だろう。

 

とはいえ、情報局内部は流石のヒサコでもおいそれと干渉できる場所ではない。特に、のぞくことは出来ても書き換えることは難しい。

けれども、ナギサの近くにいることが多かったヒサコはその情報伝達オペレーションの脆弱性を良く知っていた。情報局からの報告は直接ではなく報告書として印刷されてナギサの手に渡る。印刷機からナギサの手元までは一般のティーパーティーの生徒が運ぶため、その中身がナギサ以外に見られることはない。すなわち、印刷機との通信に割り込んでファイルにシスターフッドの動向のページを増やしてしまうという単純な手法が十分に可能であった。

 

ただ、それだけを増やすのはナギサに違和感を持たれるかもしれない。そのため、ヒサコは適当に何人かの生徒の悪事を混ぜこむことにした。いずれも監視カメラの情報に基づいており、あながち嘘というわけでもないのがヒサコの性質の悪いところだった。

 

 

かくしてナギサの手元にはトリニティ総合学園に蔓延る裏切り者についての情報が山のように寄せられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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