トリニティ総合学園パソコン研究会   作:ヤキブタアゴニスト

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第三話 夢の超法規機関

ハスミとスズミによってシャーレからお持ち帰りされたリリアはトリニティ上層部への報告に同行したあと、その足でパソコン研究会の部室に顔を出していた。破れた制服は諦めて体操服姿になったリリアは一際その幼さを際立たせている。

 

 

「ううっ、酷い目にあった。」

 

そう呟くリリアの目にはどこか満足そうなものがあった。それが故か、部員たちは呆れたような目をリリアに向けている。もっとも、元から変態であることは百も承知なので今更と言えば今更なのだが。

 

 

「ところで会長。その先生というのはどういう存在なわけ?」

 

そうだなぁと一言呟き、リリアは語り始める。

 

「連邦生徒会長が失踪前に招いていた大人で、本人曰くキヴォトスの外から来たらしい。先生というのは連邦捜査部、シャーレというところの先生という役職につくと言ったところかな。あの狐と私が戦っていたところ、あれがまさにシャーレのオフィスだよ。」

 

要点を付いているのかいないのか分からない回答に周りの部員が首を傾げる。ある程度の前提知識が無いものにとっては謎の言葉が謎の言葉で説明されても理解できる訳ではない。しかし、数少ない理解可能な捜査という単語でサエは詳しく知らねばならないと確信していた。

 

 

「うーん、なんかよく分からないですね。シャーレって何をする所なんですか?なんか捜査とかいう不穏な単語が付いてますけど。もしかして、詐欺とかを摘発しようっていうことですか?」

 

 

何しろ、捜査機関と言うのは彼女の趣味と致命的なまでに相性が悪いものである。よもや治安維持の一環として詐欺の類を狙った悪質な特務機関ではないかとサエは警戒していた。

 

 

「別にヴァルキューレの真似事をするわけじゃなくて、いろんな学園に口出しできる超法規的組織って感じだろうか。かなり強い権限があるみたいだ。全く連邦生徒会長は自分の権限をこの先生に握らしてトンズラとは中々の根性だな。」

 

 

返ってきた返答はサエの目を強く見開かせるのに十分だった。超法規的というのは法律の林の中で生活しているサエのような存在にとってあまりに魅力的すぎる言葉だ。心なしか1年生のナナコとユウキも身を乗り出しているように見える。

 

 

 

「ちょっ、超法規的組織ってほんとですか?それって連邦法とか自治区法とかの鬱陶しい法律を気にしなくていいって事ですよね?いいなぁ、私もそうなったら堂々とカモちゃんからお金引っ張って来れるんですよね。」

 

すかさずサエは皮算用で頭を満たし始める。詐欺師とはただ騙すだけでは成立しない。長くやるためには非合法をギリギリ合法にしたり、捕捉されないために多大な努力をしたりするものだ。それらがなくて済むなら詐欺の本質である他人を騙すことだけを愉しむことが許される。それはサエにとっての楽園かもしれない。

 

 

 

「サエ…… あくまで自治区の紛争や治安維持といった目的のためになら事前の手続きを省略して権限を得られるだけで、なんでもしていい訳ではないらしいぞ。お前がよく利用というか悪用しているヴァルキューレの捜査での各種の細かい規制を無視できるだけだ。それに何より、先生はそういうことをする方じゃ無い...... と思う。」

 

 

しかし、その楽園は到達する前に打ち砕かれた。むしろ、捜査機関側にかかる制約が緩くなるとなれば法律の不備に潜り込むサエにとってはある種の悲報でしかない。法律とは犯罪を咎めるものである一方で、権力に対する首枷でもある。サエも多くの法律を盾にして戦ってきているのだ。

 

 

「ええっー、じゃあ囮捜査とか強引な開示請求が出来ちゃうじゃ無いですか。そんなの無いですよーー!!連邦法と自治区法の隙間こそが私の居場所なのに、連邦生徒会長には清き流れに住みかねる私みたいな生徒の気持ちが分からないんですかね?」

 

と主張するも、リリアすら少し引きながら

 

 

 

「快楽詐欺師とか概念だけでドン引きだと思うぞ。」

 

 

と返すのだった。

 

 

 

「そんな強い権限があるなら、シャーレに今のうちに侵入しておけば…… 今ならまだ防御を固められていないかも……」

 

一方で、ユウキはそんなサエとリリアを横目にシャーレへの侵入経路を探っていた。各学園に大きな力を発揮できる可能性のある機関に影響を及ぼすことが出来れば、エデン条約に潜り込むのと同じかそれ以上の効果をもたらす事も可能かもしれない。

 

 

「やめとけやめとけ。先生はサンクトゥムタワーを動かしてる。あれが先生に与えられた権限なのか脆弱性から潜り込んで鍵を突破したのかは分からないが、迂闊に手を出していい相手じゃなさそうだぞ。」

 

 

暴走しそうな後輩を止めたのはリリアだった。ユウキは自身が突破出来なかったサンクトゥムタワーを先生が動かしたと聞いた途端に探索の手をぴたりと止め、攻撃準備の痕跡を消し始める。

 

 

 

 

「それでだ、先ほどティーパーティーから帰る途中でヒサコと話してこれからの方針を固めてきた。」

 

 

リリアがホワイトボードの前に立つと、プリプリと怒るサエと顔を青くしたユウキも一旦手を止めてリリアに向き直る。

 

 

「ヒサコはティーパーティーに呼び出されていたからあまり詳しい話は出来なかったが、概ね連邦生徒会長の失踪前と変える必要はないと言う結論になった。辛うじてエデン条約の成立は出来るだろうとのヒサコの見立てだ。それに、シャーレの先生もエデン条約にとって薬にはなっても毒になるとは思えないと言うのが理由だな。まあ、実質的にはETO向けの開発は今のままで進めるということだけ覚えておいてくれればいい。先生に関してもしばらくは手出しは無しだ。特にサエは気を付けるように。」

 

「私に名指しですか?!」

 

ともかく、パソコン研究会としての対応が決まったことでその場は収まり、再び各自が自分の趣味に没頭するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ、ヒサコちゃん。なんだか随分お疲れの様ですが?どうされましたか?」

 

連邦生徒会長の失踪から数日、表向きの仕事であるエデン条約機構のシステム開発についての調整に託けてナギサにこき使われたヒサコは事態の収集に目処が付いたことでようやく休みを得ることが出来たのだった。なし崩しにティーパーティーの制服に着せ替えられることだけは阻止したものの、連邦生徒会長なき今、ナギサにとって使えるものはなんでも使うという方針は今後も変わらないだろう。

 

セイアとミネに加えて連邦生徒会長まで姿を消した現状、ティーパーティーの法務局で1年間務めてエデン条約の実務に深く携わったヒサコを伏せ札にする選択肢はあまりにも贅沢にすぎるものだった。趣味の時間も削られた中でゲヘナや連邦生徒会との調整に勤しむ日々はヒサコをして昼寝に誘うに十分な負荷を成していた。

 

 

そんなヒサコに見兼ねて声をかけたその少女は阿慈谷ヒフミ。クリーム色のツインテールを弾ませながらクラスメイトの惨状を心配して声をかけた彼女は、普通を自認している女の子だ。しかし、彼女とヒサコとの出会いがティーパーティーでのお茶会というところからも、その設定には無理があるとヒサコは考えているものの、未だに突っ込むタイミングを掴めていなかった。

 

「ああ、いや、連邦生徒会長の失踪以来、治安の悪化が酷くなっていて......。パソコン研究会としてティーパーティーや正義実現委員会に協力していろいろ......。ヒフミちゃんも危ない場所には近づかない方がいいわよ。」

 

「あはは… ありがとうございます。気をつけます。エデン条約、大変なのでしょうか?」

 

 

ヒサコはそう返す友人がときにブラックマーケットに行き、ときにナナコの運営するオンライン上の闇市場に出入りしていることを知っている。そしておそらく、こういう注意をしてもそれらをやめない事も。しかし、だからと言ってヒフミは根っからの悪人ではないとヒサコの直感は告げていた。だからこそ、ヒサコはヒフミと友人であり続けるし、決して深くは探らない。自分にも公にできない悪癖があるのだ。ある意味でお似合いの友人なのかもしれない。

 

 

「まあナギサ様が動かれてるから何とかなると思う。あとはゲヘナ側がどうかは分からないけどね。……えっとそれは?」

 

だからこそ、このくらいは問題ない。そう思った矢先、ヒフミのリュックにぶら下がる新しいぬいぐるみが目に入る。前までは確かになかった平べったいペロロのぬいぐるみ、それは最近ナナコの裏市場で違法改造弾取引のカモフラージュのための容器として用いられていることをヒサコは知っていた。連邦生徒会長の失踪前後から急速に悪化した治安によってその流通量を急激に増加させたそれは、はじめは攻撃手段として、次に自衛手段として様々な生徒が購入していた。

 

ヒフミは自身の活動の隠れ蓑としてモモフレンズのキャラクターを使っているものの、彼女がそのファンである事も間違いなく確かである。そんな彼女だからこそ、ペロロを銃弾の容器とすることを思いついたのか、もしくは、単に彼女は購入しただけなのか。問い詰めるほどの元気はヒサコには残されていなかったが、それを知ってか知らずにヒフミはいつものモモフレンズグッズと同じようにヒサコに猛プッシュを掛けてくる。

 

 

「分かってくれますか!!! このペロロ様は最近ゲヘナで人気なんです!!!!その名も銃弾を飲み込んだペロロ様です。トリニティでは中々販売されてないのですが、いろいろと伝手をあたりまして...... 中に本物の銃弾が入っているところが拘りポイントなんです!! 最近なぜか偽造品が大量に出回っているのでなかなか巡り合うことができず.......................... ………。」

 

ヒフミは元来モモフレンズを嫌う人には熱弁を振るうことはない。ヒサコが毎回律儀にヒフミの新グッズに反応することは、ヒフミの暴走スイッチを押しているようなものなのだがそのことにヒサコはまだ気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 






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