「すっかり落ち着いたわね。連邦生徒会長が失踪した時はどうなることかと思ったけど、案外高い犯罪率も日常になり得るのね。まあ、中小の自治区だとこう言ってられない所も多いみたいだけど。」
正実のシステムから吸い上げた会話ログの分析をしていた副会長、ヒサコが呟く。最近追加した過去の犯罪発生から危険度を推測するシステムは正実でも中々受けが良いらしく、トリニティの平和に一役買っている。パソコン研究会としても、自分たちが活動するときによく使う場所を安全判定にすることで正実の見回り頻度を下げれるのでwin-winの関係だ。
そんなシステムがあっても全体的な犯罪は以前と比べて格段に多く、特に自治区の境界近くはその傾向が強い。これは、隣接する中小自治区の治安維持が破綻し、そこを拠点にトリニティに進出してくる例が跡を断たないことも大きな要因だ。
キヴォトスの権威と実務の頂点が一度に消失したことは思ったより大きいようだ。ヴァルキューレや各自治区の治安組織に物理的な損害はないにもかかわらず、犯罪発生率の劇的な上昇や治安維持の破綻が生じることを考えると連邦生徒会長の権威がいかに有効かがよく分かる。
その点、ティーパーティーの権威が健在なトリニティはその点で中小の自治区よりも効果的に治安の維持を図ることが可能だった。
そんなヒサコの呟きを拾ったリリアは先ほどまで見ていた手元のクロノスの報道に目を落とす。そこにはシャーレについての新しい動きが示されていた。
「その事だけど、早速シャーレの先生が動いたらしい。アビドスっていう自治区の救援要請に応えたみたいだ。流石は先生、動きが早いな。」
シャーレに対してキヴォトス中が注視する中で先生がアビドスへ向かったことは各学園にそれぞれの形で受け入れられた。三大校はシャーレの中小自治区への介入方針を、中小自治区はシャーレがどこまで助けてくれるのかを注意深く見守っている。
「へー…、 意外とちゃんと動いてくれるんですねー。ところでアビドスってどこかで聞いたような…」
サエは取り敢えず特殊詐欺の摘発を始めたわけではないことに少し安心している。たが、サエは一つだけ忘れていた。
「うん?こういうのにあまり興味のないサエが知っているとは意外だな。昔は大きかったみたいだが、今は砂漠化が進んで殆ど無人になっているはずだ。まだ生徒が残っているとは知らなかった。トリニティからもそれなりに距離があるのもあって交流がある生徒も皆無だろうし。とはいえ、昔はそれこそ、トリニティ、ゲヘナと並ぶ 「ああーーーーーっ!思い出しました!ちょっと待って下さいね。あったあった!」
そう言ってサエが開いたのはある1人の生徒の情報だった。そこにはサエがこれまで仕掛けた詐欺とその反応や結果が分析されており、サエの詐欺師人生の結晶ともいえるデータである。
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黒見セリカ
所属 アビドス高等学校1年生
■判定
資産ランク E: 目立った財産がなく、稼得能力も低い。
騙しやすさ A: 殆どの新規形態に抵抗力無し。
社会的繋がり D: 友人関係が強固で相談により発覚しやすい。
承認欲求 C: 稼げることを他人に顕示したがる。ネットワークビジネス適性が高い。
金銭欲求 B: 大金よりも小規模な儲け話を好む傾向。
■総評
儲かりそうな話には目が無く、あらゆる新形態の詐欺が有効。ただし、元手は少ないのでバイトや多少の借金で引っ張れる範囲にしないと諦める傾向がある。また、一旦疑うと迅速に周囲に相談するため、早めに手を引いて次の弾を準備することが有効。危機感を煽るタイプは効きが悪いのでNG。物品販売系は周囲に気が付かれやすいため注意が必要。
■対応要旨
・ゲルマニウムブレスレット販売
ミレニアム擬似科学部と共同で実施。ミライ部長を前に立てて広告活動。ネットワークの拡大には失敗。
・レントゲニウムブレスレット
ミレニアム擬似科学部と共同で実施。ゲルマニウムブレスレットに続いて実行。セット販売に成功。ただし分割払いが数回までで停止。周囲から制止された可能性。
・自治区還付金
アビドス自治区から連邦生徒会への支援要請を逆用。周囲の生徒に相談して途中で発覚するも連邦生徒会との亀裂のために捜査されず。話を大きくし過ぎると周囲に相談する傾向。
・ペタペタビジネス タイプR-3
URL収集アプリを購入させる事に成功。2ヶ月ほどでアップグレードを仕掛けるも失敗。中断理由は元手不足。
・キャッシュカード詐欺
番号と暗証番号の取得に成功するも、口座に資産無し。
・音読ビジネス 継続中
録音ソフトを購入させることに成功。案件を絞って稼げることを理解させてからグレードアップの案内を検討させる必要性。
■調査資料リンク
・事例研究:黒見セリカ
・モモトーク会話履歴一覧
・モモッター関係アカウント一覧
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「うわぁ、これは酷いわね。細かいのばっかり何個仕掛けてるのよ....」
「しょうがないじゃ無いですか!!お金持ってないんで大きいの仕掛けてもしょうがないんですから。目の前に騙され待ちの子がいるのに詐欺を働かないなんて詐欺師の風上にもおけないですよ!!据え膳食わぬは詐欺師の恥です!!」
サエの開いたページに記載された情報に、ヒサコは思わず絶句する。彼女が相手とのやり取りから相手のパーソナリティを見極めて詐欺に及んでいることは当然知っていたものの、その執念深さには感心するほかない。ヒサコも大口の客のデータは収集しているものの、全くもってサエのものには及ばない。詐欺そのものよりもそのために集めた情報を売る方が儲かりそうだが、ヒサコはそれは口には出さなかった。
「この子どんだけ引っかかるんだ。しかも一個は継続中って。というか、先生がアビドスに行ったということはお前先生経由でバレないか?なにしろ先生はあのサンクトゥムタワーを動かせるほどの腕前だしな。」
そう話すリリアはどことなくうれしそうで、その後も先生の凄さを強調してやまない。先生がアビドスのどんな問題を解決しに行ったのかは分からないものの、リリアの誇張は置いておいても、サエの詐欺行為もついでに摘発される恐れも無いとは言えないというのは確かに事実だった。
「えっ、まずいですよね!!! ミレニアムとか手を出したら怒られそうなとこには仕掛けないようにしていたのに、なんでこんなことに........ どっ、どうすれば。今のうちに手を引けば大丈夫ですかね!?」
いつもはリリアをからかうことも多いサエであるが、守りに入ると弱いのもまたサエであった。
「どういう詐欺かというのかによっても話が変わってくると思います。とりあえず、サエ先輩、この音読ビジネスってどういものなんですか?」
テンパリ始めるサエに向かって助け舟を出したのはナナコだった。少し落ち着いたサエは混乱しながらも音読ビジネスの説明を始める。
「えっ、逆に辿られて袋叩きにされませんよねっ!? あー、えっと、音読ビジネスっていうのはまあ、こっちから指定した文章を音読したものを録音してもらって、それに対して対価をお支払いするというものです。録音してもらったデータはAIの学習に使用されて、そのAIが使用されるごとになんと著作権料も入ってくるという一石二鳥のビジネスなのです。隙間時間にできて不労所得も手に入るという夢のビジネス、それが音読ビジネスです!」
しかし、途中からスイッチが入ってしまったらしく、今度は音読ビジネスの素晴らしさを語り始める。それを、ヒサコがなだめすかして話を進めさせる。
「それで?どうやって儲けてるの?」
「えーっとですね、録音には専用のソフトウェアがありまして始めるには初期投資として購入してもらう必要が… それから、さらに質が良い録音のためのソフトウェアを買っていただけると録音の買い取り単価が倍になります。」
すこし戸惑いながらサエが答える。宣伝文句と違って説明の練習をしていないために少したどたどしくなっている。
「それで、何回か録音したところでドロンって訳ね。こんなのに引っかかる子がいるものなのね。で、これをアビドスの生徒に仕掛けたと。先生に相談されたら下手打てばこっちまで丸裸にされてもおかしくないわよ。例えるなら各務チヒロの管理するサーバに対してハッキングする様なものよ。」
「それから怪しいブレスレットの販売、よりにもよって疑似科学部ってこれ二つの意味で大丈夫か?他のも.... うん、というかここまで騙されるものなのか?」
ヒサコとリリアの追撃に言葉を窮したサエにもしかし、一つだけ反論したいことがあった。
「みっ、ミライ部長は信頼できる方です!!詐欺まがいの絶妙な商品の開発にかけてはエンジニア部を凌ぐ程です。あれほど詐欺師にピッタリな方はいません。詐欺の収益を回して支援していますけど、一度だって期待を裏切るようなまともな品はありませんでした!!」
それでいいのか?と思ったヒサコとリリアだったが、構っていると時間が無くなるので先に進めることにした。
1時間ほどの話し合いの後、
「いっそのこと、諦めてお金払ってあげればいいんじゃない?そしたら詐欺じゃないし」
という言葉に従い、サエは詐欺広告で示した音読ビジネスの報酬を払い続けることで詐欺ではないという形にすることにした。結果的に黒見セリカは思わぬ高収入バイトを手にし、サエの元には可愛らしい音読データが積みあがるのだった。
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