「あっ、きたきた。おーい!こっちこっち!!」
「お姉ちゃん、ちょっと落ち着いて!」
ある休日、夜更かしなリリアにしては珍しく朝からミレニアムへと向かっていた。定期的に交流をもっているミレニアムのゲーム開発部の面々に招かれてのことで、珍しくまともな用事での外出にパソコン研究会のメンバーには首を傾げられている。
電車から降りて部室近くまでくると、ゲーム開発部の双子、モモイとミドリが飛び出してきた。パソコン研究会の後輩たちとは違い、ゲーム開発部の割にはアウトドア派な彼女たちと挨拶をかわしつつ部室へと向かう。
「それにしても、リリアが私たちの部室に来るのは初めてだよね?いつもは私たちがトリニティの方に行っていたし...」
相変わらずフランクに話すモモイのおしゃべりでリリアはモモイたちと出会ったころを思い出していた。最初のきっかけはリリアの趣味であるいかがわしいゲーム作り、ではなく、そのための技術習熟としてリリアが簡単で健全なRPGを作ったことだった。
ゲームの大半はゲームとして成立させるための浅いストーリーに拘りのないアセットの使いまわしだったものの、習得したかったゲームバランスと達成時スチルの質感だけには全力を注いでいた。結果として意外に遊べるゲームとなったそれを、気の迷いかリリアはパソコン研究会としてリリース。それを目にとめた双子がリリアのもとに連絡をとったのが始まりだった。
「最初はお前たちがいきなりトリニティに押し寄せてきてたからな。それに、ミレニアムには色々とややこしい事情があって来にくかったんだよ。」
そんなリリアがミレニアムに来る気になったのは大きく分けて二つの理由がある。一つ目はミレニアムの生徒会にあたるセミナー、リリアはここをモデルにしたゲームを作ることを目指していた。ナマモノ好きかつ製作においては綿密な取材を欠かさないことをモットーにするリリアにとって、もっとも題材として適切なのはもちろんトリニティだ。しかし、既に大半の組織をモデルにしてしまっておりネタ切れ感が否めないのが現状だった。そんななかで、モモイからセミナーの会計を務めるユウカが頻繁に部室に来ることを聞いたのだ。
「リリアさんはユウカにあったこと無いですよね?前からお姉ちゃんが言ってた件なんですけどちょっとお願いというか、少しでいいので部員のふりをして欲しくて。」
「ヴェリタスのハレやマキから大魔王だとかなんとかと話は聞いているけど、直接会ったことは無いはずだ。というかお前たちなんかやばいことやってるのか?」
自分の所業を棚に上げて呟いたこれはしかし、リリアにとって最も聞きたかったものの一つだった。自分の嗅覚に自信のあるリリアにとってゲーム開発部はあまりにも怪しい部活である。ゲーム開発部と名乗ってはいるものの、活動実績と呼べるものは数か月前に発表されたテイルズ・サガ・クロニクルというRPGのプロトタイプのみであり、新興の部活としてはおかしい訳ではない。問題はそのプロトタイプの中身であった。
TSCと題されたそのゲームは多くのゲーマーにとって、本編を待つ必要もなくクソゲーと断じるのに十分過ぎる性能を誇っていた。その威力は凄まじく、今年中に本編がでれば今年の、来年出れば来年のクソゲーランキングの一位を間違いなく取るだろう。しかし、リリアの見方は違った。なぜならリリアも似たようなことをしていたからだ。
つまり、リリアはTSCをなんらかの準備としての技術検証やシステムの実験であると考えていた。
その証拠として、TSCではゲーム性が破綻していてもバグによる破綻は見当たらない。そして遊んで5分でわかる程度のゲーム性の破滅的な悪さ、理不尽さというのは明らかに意図的なものだ。リリアの勘はこのゲームの裏に狂人になりすましたクリエイターを見ていた。
そう、リリアから見て未だ会ったことのないユズという少女はいかがわしいゲームを作ることを目指した同志であった。
そんなわけで、部室で完成間近のTSC本編をプレイしたリリアはそれを完成したゲームではなく、次へ向かうための偉大な階段としてみていた。だからこそ、あまりにも理不尽なゲームであっても普通に遊んでしまった、否、遊べてしまった。それも当然だ。難易度やゲームバランスは意図的に壊しているわけだからそこを評価するはずもない。むしろ、理不尽だからこそのギミックの新鮮さや複雑な実装に思いを馳せ、裏の意図をくみ取ろうとゲーム開発部と会話しながら進めていく。
いつの間にかユズもロッカーから這い出してきて、4人でゲームについて談笑しながら遊び始める。そして、おしゃべりはいつしかお互いのゲーム製作にかける思いやキャラクターやシチュエーションに対する愛についての議論に発展していた。
「モーモーイ!また部室にだれかを連れ込んだって..... あれ?」
そこに現れたのはモモイに魔王扱いされているユウカだった。
その時、リリアの頭に雷が落ちた。そこにあったのはまさに奇跡のバランスを持った太ももであった。後にリリアは語る。彼女に次回作を決意させたのはまさにこの時だったと。これはかの名作「太もも妖怪とETD」が世に出る実に三ヶ月前のことであった。
と、それはおいておいてリリアが状況の把握をしているうちになぜかミドリに上着を掛けられる。
「ユウカ、聞いてよ。ついにゲーム開発部に新入部員が入ったんだよ。これで4人になったから正式な部室使用許可が降りるよね?」
モモイの言を聞くに、どうやら部員不足をリリアで補うつもりらしい。部員のふりをしてほしいといったことを言っていたが、まさかセミナー相手にどう考えてもすぐにバレる詐欺を働くとは肝の据り具合が半端ではない。
「そんなわけないでしょ。こんなかわいい子を私が知らないはず...... ってトリニティの在原リリア?何でここに?まさかモモイ、ついにミレニアムの外からの誘拐を」
案の定あっさりとユウカに看破されるどころかユウカはリリアのことを認識しているようだった。
「違うよユウカ、ここにいるのはえーっと、業原リナっていうミレニアム生でゲーム開発部の新入部員だよ!!在原リリアとかいう生徒とは別人だよ!!」
なおも勝ち目のない戦いを続けるモモイだったが、残念ながらユウカはリリアとあったことがあると無慈悲に告げる。リリアはあまり覚えていなかったが、シャーレ前でワカモに丸裸にされた(ワカモにそのつもりは毛頭なかっただろうが...) 時に駆け付けた生徒の一人がユウカであった。
思わず廃部を宣告しそうになるユウカに対し、ここで立ち上がったのはリリアであった。ゲーム開発部とユウカとの関係はリリアには分からなかったが、ここでゲーム開発部に地下に潜られては追うのが難しくなるのは自明の理である。なんとしても説得してゲーム開発部の裏にあるものを暴きたいとリリアは感じていた。
「ゲーム開発部のゲームは確かに今は理解されていない点が多い。全体の完成度、一つの製品として見れば未熟な点はいくらでも挙げることが出来る。しかし、その基礎技術というのは目を見張るものがあると私は思う。」
リリアという外部の学生にもかかわらずか、逆にトリニティでそれなりに知られているリリアからの意見とあってなのか、意外にもユウカは真剣に取り合ってくれているとリリアは感じていた。モモイやヴェリタスからの冷徹な算術妖怪のイメージとは裏腹に話をきちんと聞いてくれる人物のようだ。
ユウカから具体的な説明を求められたリリアは先ほどまで遊んでいた画面を見せて説明を再開する。
「例えば、このバトルでの駆け引きというのは一見見慣れないものだが、味方の攻撃順序を装備によって上手く調節することによって前線に立つキャラを随時変更できるということに気が付けばクリアは十分可能だ。このゲームは確かに理不尽だが、バグによる理不尽ではなくゲーム設計として理不尽をベースにしたゲームなのだ。これの受けが悪いのはレトロゲー好きにこういう設計のゲームを好む層が少ないだけで、言われているほど酷いわけではない。そして、ここまで複雑な実装をなんなくこなすのは並大抵の腕ではない。それから、バランスについて..................」
最終的にユウカはどこか納得して部室から去っていき、ゲーム開発部には再び平和が戻る。リリアは新作のアイディアを持ち帰り、ホクホク顔でミレニアムを去るのだった。
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