トリニティ総合学園パソコン研究会   作:ヤキブタアゴニスト

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モブちゃん、可愛すぎる。







第六話 襲撃!覆面水着団☆

謎の覆面集団がブラックマーケット最大の銀行を襲い、現金を奪って逃走中。

 

表ではあまり報道されないものの、この驚くべきニュースは燎原の火の如くキヴォトスの薄暗い領域に燃え広がった。それはゲヘナの不良たちからトリニティで掲示板に潜り込んだ生徒たちまでであり、面白いニュースだと聞き流すものから準備を始めるものまで様々だ。

 

それもそのはず、ブラックマーケットは無政府状態アナーキーではなく秩序だった無法地帯であり、そこには自治区に匹敵する中央権力が君臨している。彼らは連邦生徒会や他の自治区に対しては法を破るものの、ブラックマーケットを統治するためには法と治安維持機関を用いる統治者の側面がある。それらの治安維持機関は高度に組織化し、その中でも精鋭のマーケットガードと呼ばれるものたちは他自治区の正規部隊と戦えるほどの力がある。

 

そんなブラックマーケットの中核、心臓に当たるのが銀行だ。一説ではキヴォトスの犯罪の3割がここを介して行われているといい、ブラックマーケットで最も警備が厳重な場所だろう。そこを襲うというのはティーパーティーや万魔殿を攻撃するのに近い衝撃を与える行為だ。

 

 

そんなニュースはもちろんパソコン研究会にも届いていた。どころか、混乱に乗じてユウキがブラックマーケットの監視カメラを乗っ取り、一部始終を確認していた。

 

 

その状況を部室でその映像を確認しながら一番喜んでいるのはサエだった。

 

「もっとやって倒産させてもいいんですよ!!私の詐欺を真似して小金を稼いでいるのは大体ここを使っている奴らなのでいい気味です!!!あんな三流詐欺師どもが報いを受けるといいんですよ。ユウキちゃん、いっしょにここの融資や口座情報を攻撃して無茶苦茶にしちゃいませんか?」

 

サエのライバルである特殊詐欺をはたらく連中はその多くがブラックマーケットやその周辺に存在しており、必然としてその詐欺に関わる取引をこの銀行に任せているものが多かった。サエにとって目ざわりな銀行ではあるものの、セキュリティがやたらと固く迂闊に手を出せないでいたのだ。というのの逆説として、それ以外の銀行はサエの攻撃を受けて詐欺師たちからの信頼を失っていたのだ。

 

なお、詐欺師たちがサエのスキームを真似していることが多いのは事実だが、それ以上にサエも相手を真似しているのでお互い様というものである。

 

 

そんなサエと面白半分で攻撃を始めたユウキをよそに、ヒサコは何度も映像を細かく見直していた。そこに写っている5人の生徒、そのうちの一人に明らかに見覚えがあったのだ。

 

顔にこそ5と書かれた紙袋をかぶってはいるものの、そこから飛び出した二本の髪束にトリニティの制服、愛用しているアサルトライフルは間違いなくヒサコのよく知る一人の人物をさしていた。

 

「ヒフミちゃん......。いやなんで、だけど」

 

そう、身体的特徴からアイテムにいたるまで映像のすべての情報が彼女が阿慈谷ヒフミであると示唆していた。あまりにも簡単な変装であるせいでヒフミに何かしらを押し付けるための仕掛けかと疑ったが、そんな付け焼刃ではどうにもならないほど彼女はヒフミとしか思えない。

 

要所要所で指示を繰り出して強盗を主導し、実際の攻撃を部下に任せて犯行現場全体を見回して適切な対処を行うその姿は間違いなくそういった類の任務に慣れていることを思わせる。ヒサコは以前から自分が抱いていた直観が正しかったことを認識し、同時にヒフミを統御しているであろうナギサの思惑を図りかねていた。

 

今回の襲撃でブラックマーケットの銀行が失ったものは金額としては大きくない。高々数億円というのはこの銀行では日常的に取引される金額であるし、今後強化されるであろうセキュリティには奪われた以上の額がつぎ込まれるのは間違いない。

しかし、この襲撃はこの銀行がもつ最大の資産、すなわち信用を地の底にまで叩き落とした。ブラックマーケットの銀行は何があろうと安全である。これがブラックマーケットが犯罪の温床になる元凶であり、それらの犯罪の大前提であった。

どんな手段でも金さえ手に入ればこの銀行によってそれを保持することができる。そう思うからこそこの闇市に集う者たちは非合法な手段での金銭を求めてきた。しかし、それがなくなれば誰が他人に怪しい金を預けたりするだろうか。

 

そこまで考えてヒサコはある結論に至る。

 

この襲撃が止めたもの、それはブラックマーケットの心臓に流入する血液であると。すなわち銀行に流し込まれる犯罪からの資金、これが尽きることでブラックマーケットに集う企業への流入は完全に停止する。銀行が信用によって創造していた”価値”、それを崩壊させかねない攻撃だったのだと。

 

つまり、これはある種の宣戦布告である。そして、エデン条約発効前のこの時期においてそれを行う理由とはすなわちただ一つ。エデン条約機構による治安回復の成果を上げるための都合の良い敵としてブラックマーケットを見定めたのだろう。

 

ヒサコがこの推理をリリアに語り、この事件の真相を読み解こうとしている横でナナコは自身の掲示板にあふれる情報を操ろうと必死になっていた。当初は全体をうっすらと把握できる規模だった掲示板はいつの間にか膨張しており、爆発した情報は整理されることも把握されることもなく解放された場所で暴れまわっていた。

 

ナナコは困惑した。そして怒っていた。

ナナコにとって、掲示板とは裏庭である。自分の裏庭で自由に発言できる場を提供していたのだ。来るもの拒まず去る者は追わずで運営を続け、狭くなったら新たに領域を広げて快適に過ごせるように心掛けていた。

しかし、今そこにあるのは無意味な連投、スパム、意味不明の流言に誹謗中傷であり、ナナコの裏庭はバカが周りの迷惑も考えずに騒ぎ立てる場所になっている。裏庭が小さかったときにはナナコが秩序を管理していたがこの規模になるとそれは甚だ困難である。

 

ナナコは思った。必要なのは軸であり方向性であると。

オピニオンリーダーがいることで初めてそこに議論の軸が生まれる。それがあってこそ、意味を持った発言ができる場所になるとナナコは考えた。

 

こうして、ナナコは固定ハンドルネームの導入と画像の添付、そして議論をまとめるまとめサイト作成の機能を追加する。そして、その最初の実験として、リリアとヒサコが話していたブラックマーケット銀行への襲撃事件の意見構成を試みたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の午後、ナギサがいつものようにティーパーティーの執務室でエデン条約への準備を進めていると、焦ったようにティーパーティーに所属する一年生が駆け込んでくる。おもわずその行いに注意しようとするナギサの前に、機先を制するように一枚の紙が差し出される。

 

「... ナギサ様、こちらを」

 

「うぐっっつ」

 

それを見たナギサは、慌てて口を抑える。口に含んでいた紅茶を噴出さなかったことが奇跡といえるほど、その内容は過激なものだった。

 

クロノスジャーナリズムスクールが出した新聞、そのトップには

「トリニティ総合学園がブラックマーケットに宣戦布告。エデン条約との関係に迫る。」

という全く身に覚えのない内容が書かれていたのである。

 

記事にはトリニティ総合学園の特殊部隊がブラックマーケットの銀行を襲撃してその機能を麻痺させた上に多額の現金を奪い去ったことが書かれており、銀行への取り付け騒ぎが発生したとも記されている。ご丁寧なことに銀行内部からのものと思われる画像までもが載せられており、画質が悪いものの生徒の一人が確かにトリニティの制服のようなものを着ている。

 

 

突然降って湧いたニュースに驚いたナギサは直ちに火消を指示。クロノスジャーナリズムスクールへ記事の差し止めと訂正を求めた。しかし、ナギサは見誤っていた。火種がまさか足元にあるとは全くもって考えていなかったのである。

 






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