正義実現委員会押収物管理室、サエを通じてそこに電子管理システムを導入させたリリアにとって、そこの記録を盗み見ることは誰にも邪魔されない至高の時間であった。そのほとんどは違法な銃器や銃弾、犯行に使用した工具や機器類であってリリアにとってはなんの面白味もないものであったが、リリアの目的は時たま回収される風紀を乱しかねない物品の数々である。
小説や漫画、写真集といった情報媒体、振動する器具、アブノーマルなプレイのための拘束具。記録された物品の数々はリリアの想像心を掻き立て、新作への意欲を燃やすための燃料として機能していた。
そんな憩いの場に最近、ある異変が起きていた。
没収されるもののうち、小説や漫画といった本の類が激減していたのである。
これまで毎月だいたい同じような量が押収されていたのが、ここ数か月は以前の2割ほどにとどまっていた。初めのころはそんなこともあるのかなと思っていたリリアだが、その減少が一過性の現象ではないことは明らかだった。トリニティでそういった本の需要が減っているのかというと、そうでもない。リリアのようにオンライン上でそういうものを楽しむ生徒が増えたかといって紙の本の需要が減るというわけでもない。なぜなら、同時にサイトによってそういうことに興味を持つ人も増えていることで相殺されているからだ。そのあたりの分析においてリリアの右に出るものはいないはずだ。
であるからして、生徒の所持数が減ったとは考えにくい。では、取締りが甘くなったかというとそうでもない。
そして、リリアはある一つの事実を発見した。
異変が起きたまさにそのタイミングで一人の少女が押収物管理室に配属されていた。その少女の名は下江コハル。リリアと同じく小柄なピンク頭であり、頭の中身までピンクであったらいよいよリリアとそっくりだ。
コハルに同志の香りを感じたリリアの行動は早かった。
コハルの巡回経路を始めとした学内の各所にそういった類の漫画や小説、ポスターをばら撒いたのだ。これからのことを考えて性癖調査も兼ねていたので、リリアは可能な限り多様なブツを取り揃えていた。
イチャラブものから強引なもの、露出徘徊ものやSM系と流石にリリアだけあって取り揃えは豊富だ。
もっともポスターに関してはリリアが去年作成したゲームの宣伝ポスターを流用したもので、成績優秀かつ品行方正な生徒が露出徘徊に目覚めて…という作品だ。本番シーンよりもシチュエーションに全力投球したこの作品はしかし、今ほどプラットフォームに人を呼べていなかった時期だけあって一部の熱狂的マニアから愛されるに留まっていた。つまりはここで多くの人の目に触れれば一石二鳥というわけだ。
作戦決行は深夜、いよいよ日付も変わろうかという頃だ。大量のポスターと漫画、小説を抱えたリリアは監視カメラを操作しつつ無人の校内に侵入し、至る所にそれらをばら撒いたのだった。
翌朝、深夜にあれだけ動いたにもかかわらず、リリアは早朝に目覚めていた。早速、寝ぼけた頭で押収物管理室のカメラを起動して様子を確認する。
そこはリリアの想像するような顔を赤らめた少女が確かにいたが、こっそりバッグにしまうような余裕は無かった。
「エッチなのは駄目!!死刑!!禁止!!って何で今日だけこんなに多いのよ!!!」
朝から校内で大量の押収物が見つかるせいでコハルは巡回どころでなく、押収物管理室に次々と持ち込まれる押収物の管理に手一杯になっていた。発見された場所や時間、周囲の状況など記録のための情報交換で忙殺されたコハルには、たとえ意図があっても横領ができる時間がなかった。
やっと押収物の山を片付けた頃には、机の上には書類の類が降り積っており、コハルはその上に倒れ込んでいたのだった。普段は元気に死刑を宣告するコハルだが、その声にはもはやそれだけの迫力が伴っていなかった。
これではコハルが白か黒かも分からなければ、何が好きなのかも分からない。困ったリリアは今度はどう攻めるか思案する。
今度はばら撒く場所を変えようかと思案するリリアの前に、怒りを露わにした一人の生徒が現れた。
「やっぱり会長だったんですねー!!どうせこんなことだろうと思って調べましたけど、うちの可愛いコハルちゃんに何てことしてくれたんですかーー?」
怒りながら現れた彼女の名は四条サエ。パソコン研究会の会計にして、正義実現委員会の電子取引管理室室長を務めている。コハルとは一人部署同士の先輩後輩ということで親しくしており、ちょっかいをかけてきた相手を調査していたのだ。
普段から詐欺を働いておいて都合の良い時には正実の肩書きを持ち出すなとリリアは思ったが、言ってもろくなことにならないので心のうちで留めた。それに、そもそも正実と兼任で良いからと言ってサエを引き入れたのはリリア自身であった。
「あんな純粋で騙しやすい良い子なのに。会長が変なことして耐性がついちゃったらどうしてくれるんですかーー!」
せめてもの抵抗に思わずお前の方が邪悪じゃないかと呟いたリリアだったが、サエによってお宝の焼却処分が行われるに至って首を垂れたのだった。
水着での深夜徘徊、いつの頃からか癖になっていたそれはハナコにとって抵抗であり解消だった。君子や聖人でもなく、狂人にもなれず、さりとて仙人にもなれない。昼間と違い、深夜に行う徘徊はそんなハナコの葛藤を飲み込むのに有効な手段であった。
「ひぃっ」
しかし、そんな平穏な時間は終わりを告げていた。ハナコの目の前にあるポスター。僅かな非常灯の微かな灯りでそれを見たハナコは悲鳴を抑えることが出来たのが奇跡のようなものだった。
そこには、ピンクの長い髪を膝の辺りまで伸ばした豊満な胸を持つ少女、ハナコそっくりのイラストが描かれていた。パッと見て異なる点といえばアホ毛の有無や制服のデザインくらいで、太もものほくろまで同じ位置に存在している。誰が見ても浦和ハナコをモデルにしていることは明らかだった。
目を凝らして見るとスカートが短すぎて下着が見えており、イラストの少女は顔を赤らめて恥ずかしがっている。デカデカと示されたイラストの側には「徘徊委員長、忍び寄る影」と銘打たれており、これが何かのタイトルであることが示されていた。
それが何を意味しているかは分からないが、あまりにも不気味だとハナコは感じた。徘徊は一旦忘れて一刻も早く校舎から出る方向へと進路を変える。
次の曲がり角に来た時、ハナコは本当の意味で恐怖を知った。
そこにはハナコに似た水着の少女が何者かに襲われようとしているイラストが描かれていた。
物音一つしない校舎。しかしそこには確かにハナコを認識している存在がいるはずだ。暗闇の中を今もハナコを付け狙っているのかも知れない。
ハナコは思わず走り出し、一目散に出口へと駆け出した。しかし、その道の左右にハナコに似た少女が存在していた。その度に道を変え、慣れたはずの校舎を逃げ回る。
やっと、裏口から校舎を出たハナコの前には、月明かりに照らされて1冊の官能雑誌が置かれていた。
その後、ハナコは自らの淫らなポスターを校舎に貼って回ったとして正義実現委員会に引き立てられるも、一言としてそれについて話すことはなかった。
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