「ひっ、ヒサコちゃん。お願いします。私のお友達を助けるのに手を貸して下さい。」
ナギサ様から緊急の呼び出しを受けてティーパーティーに向かっていると、突然ヒフミから声をかけられる。それもかなり緊迫した内容だ。
すこし声が上擦ったヒフミから話を聞き出すと、ヒフミの友人であるアビドス高校の生徒がカイザーコーポレーションの一味に囚われたために助け出したいとのことだった。
察するに、捕まったのはこの間の銀行強盗をともに行ったメンバーであるようで、それをやったカイザーはブラックマーケットとの関わりが非常に深い連中だ。間違いなくこの間の襲撃の報復といったところだろう。
ヒフミは「ナギサ様に話をしたのですが時間が欲しいと言われてしまって」と話すが、ナギサ様ならある程度こういう事態も想定していたに違いない。私を呼び出したことも含めて、間違いなく本気で潰しにかかる気だろう。そして、ここ最近ティーパーティー麾下の部隊の動きが少なかったのも、相手に先手を渡して引っ張り出してそれを武力で叩き潰すために違いない。
あくまでも私の予想としてそこまでをヒフミに話し、その上で私個人としても協力することを告げるとナギサ様の元へと向かう。
執務室に入るとナギサ様はどこか上機嫌なようで、微笑みながら砲兵隊の幹部と話し合っていた。どうやらヒフミ側の対処にはティーパーティー麾下の部隊で対応するようだ。正実の本隊を手元に残すということはまあそういうことだろう。
「ナギサ様、遅くなって申し訳ありません。ヒフミさんからあらましは聞いております。」
と切り出すと
「結構です。では大体の事情をご存知のようですね。」
として机の上にある書類の束を私に渡してくる。表紙を見るとタイトルが
"戦域の拡張と戦略の策定に対する提言:ハイブリッド戦の戦域としてのサイバー空間をめぐって"
と随分とものものしい。正義実現委員会電子取引管理室という名義で出されてはいるのでサエが書いたのだろうが、こんなものを纏めるほど殊勝な性格ではないことをヒサコはよく知っていた。
許可を取って少し中身を見ると提言や全体の論理はよく纏まっており、サエの実力を感じさせるものである。しかし同時に、あちらこちらに事実誤認や過度な誇張が存在していることからヒサコはサエの意図を読み取っていた。
おそらく計算資源やネットワーク資源をティーパーティーからせしめる為に作った資料だろう。人を騙す為でなければサエがここまでの完成度で仕事をするわけがない。
私が内容を把握したと言うと、ナギサ様はとんでもないことを言い出した。
「大変素晴らしく有用なレポートでした。我がトリニティは伝統を重んじていますが、だからと言って最新の技術を疎かにするわけには行きません。直ちにサイバー戦用の部隊を作りたいところですが、残念ながら今回の件には間に合いません。
はい、その顔ですとお分かりのようですね。此度のカイザーコーポレーション基地への派遣、パソコン研究会にはそこで想定されるカイザー側からのサイバー戦に対抗していただきたいのです。もちろん、今そちらで管理していただいているティーパーティーや正義実現委員会のサーバやデータセンターをご利用いただいて構いません。追加で必要でしたら検討しますので遠慮せずに。」
予想していたとは言ってもここまで全面的にGOを出されると却って申し訳なくなってくる。それだけブラックマーケットとの戦いに本気であるということなのだろう。
あくまで主軸は基地攻撃の援護、そしてトリニティに行われる可能性のあるカイザーからの攻撃への対応。ナギサ様はそうおっしゃるが紅茶を嗜みながら微笑む姿は言外にその先へを見据えていることを伝えていた。その証拠としてナギサ様はどこまでやってよいかはあえて明言を避けているように思える。
「相手は黒い噂の絶えないカイザーコーポレーションです。くれぐれもよろしくお願いいたします。」
私はナギサ様の命じた通り、徹底的にブラックマーケットを破壊することを心に決めた。
その日、パソコン研究会の部室では対ブラックマーケット戦へ向けての作戦会議が開かれていた。
「よし!皆集まったな、それではブラックマーケットとの戦いにむけた作戦会議を始める。ナギサ様から直々にトリニティの敵を叩き潰せとの命令が下ったのだ。とことん破壊し尽くす必要がある。」
リリアのその言葉に重ねて、ヒサコからも状況を説明する。
「ナギサ様からお墨付きを貰ってきたわ。今までコソコソやってきたけれど正実やティーパーティー、その他のトリニティ管轄下のデータセンターも攻撃に使い放題。最低限のラインは砲兵隊の隠蔽だけど、ブラックマーケットの機能を停止させるくらいやってしまっても構わないわ。正実が突入する頃にはあらかた方がついているのが望ましいわ。」
「うむ、補足ご苦労!!では、意見があるものは挙手!!」
そう宣言したリリアに対し、最初に答えたのはサエだった。
「はーい!やっぱり銀行から潰すのがいいと思いまーす。あとついでにカイザーローンも潰しましょう。適当な会社使ってあそこから10億くらい引っ張ってるから今潰せばお得です。」
サエの出した案はある意味で王道のもので、重要機関を撃ち抜くという方針だ。私怨というか私事が漏れているものの、ブラックマーケットの存在意義を破壊すると言う意味では有効になる一手だろう。
しかし、王道ということは相手も分かっているのだから、それだけ防御も硬いということ。
「襲撃以降、より一層セキュリティを高めている情報もあるし、搦手がないと厳しいわ。それに、そこだけの攻撃ではこちらが勝利したことを見せつけられない。もっと徹底的に攻撃する必要があるわ。」
サエとヒサコが議論を交わし、リリアが分かった顔で頷いている中、地図を見ながら何かを考えていたユウキがおもむろに口を開く。
「あの…、あえて銀行は攻撃対象から外して、インフラから攻撃しませんか?浄水場を見たんですけど、昔のものを無理やり流用してるので攻撃しやすいと思います。」
ユウキからのそれは、インフラへの攻撃だった。物理的な損害を与えるのには最も効果的なそれはしかし、大きな難点を抱えていた。それは、ブラックマーケットに隣接する複数の自治区をも巻き込んでしまうことであり、これまでのパソコン研究会であれば自重した行いだった。彼女たちはあくまで小悪党を自称しており、どこかの自治区と敵対するような度胸も理由も持ち合わせていなかった。
しかし、今は状況が違った。錦の御旗を掲げて自由にできると勘違いしてしまった彼女たちにとって、普段はできないことを好き勝手にできることは好奇心のみによって肯定されてしまう。結果として、ある程度の攻撃が終わったら、そこからは各自が好き勝手に攻撃するという計画が練りあがったのだった。
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