トリニティ総合学園パソコン研究会   作:ヤキブタアゴニスト

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第九話 獅子身中の熊

「ええいっ、何をやっている!!出せる部隊からどんどん出せ!!」

 

カイザーPMCの基地は不意の襲撃で混乱の極みにあった。アビドス生徒会の最後の一人にしてキヴォトス最高峰の神秘を持つ小鳥遊ホシノを手中に収めたが、その代償にアビドスの生徒たちからの襲撃を受けていたのだ。

正面から殴りこんできたのはたった5人という小勢だったものの、現場の混乱で迎撃は遅れに遅れた。本来ならすぐさま外に展開するはずの部隊もそれぞれがトラブルに遭って足止めされていた。

 

 

「なぜか隔壁が降りてきて閉じ込められました。至急解除願います。」

 

「エレベーターが途中で停止して孤立しています。救援願います。」

 

「通信状態が悪すぎて聞こえません。敵の襲撃は南からで間違いないでしょうか?」

 

指令室に飛び込んでくる報告はどれも混乱を示すものだった。事態を収集しようと指示を出すも、遅れたり届かなかったり、挙句の果てには間違った情報や間違った相手に伝わり、余計に混乱を深めていた。

 

いつの間にか開かれていた正面ゲートからバラバラに出てくる兵士たちはアビドスの4人からの集中砲火を受けるハメになり、一方的なはめ殺しが成立してしまっていた。

 

 

「例の量産機は出せんのか!!?一体どうなっている!!」

 

「それが、格納庫と連絡がつきません。状況確認のために今直接向かわせていますが…。それに、基地の防御力が低下してしまいます。」

 

 

司令室では怒号が飛び交うも、神経と血管がやられていれば脳がいくら頑張ったところで無駄である。それなりの数が迎撃に出ているのに一向にそれらの部隊との連絡が取れない。徐々に削れる戦力と一向に好転しない状況に苛立った司令室では無茶な作戦が指示されていた。

 

「構わん、全戦力をメインゲートに回させろ。連絡がつく連中全てだ。大兵力でテロリストどもを叩き潰してやれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、敵さん怒ってますねーー。ちょうどいいです。一箇所に集まってもらいましょう。」

 

パソコン研究会の部室で指揮をとっていたサエは司令室の様子を確認してから即座に次の手を打っていた。正義実現委員会で小部隊の指揮経験があるサエに今回の指揮を任せたのは正解だったとヒサコは拗ねているリリアを撫でながら確信していた。

 

「ユウキちゃん、この通信を通してあげてください。そろそろまとめて始末しちゃいましょう!!ヒサコちゃん、砲兵隊の方はどうですか?」

 

「準備は完了していて攻撃開始のタイミングを伺っているわ。攻撃する座標を送ってあげれば、この距離からなら観測射すら無く初弾から命中させれる練度はあるはずよ。」

 

 

「では、5分後にメインゲートの裏側に叩きこむようにお願いして下さい。ナナコちゃん!!! 適当なところでゲートを閉じちゃって下さい。さあ、一気に行っちゃいましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっ、すごい。次々と倒れていきます。流石は先生の指揮ですね。」

 

「ゲートから少しちょっとずつ出てくるから倒しやすいわね。」

 

囚われたホシノを救うためにカイザーPMCの基地を攻撃しているアビドスの生徒たちは思わぬ抵抗の少なさに少々面食らっていた。敷地内への侵入こそかなわないものの、落ち着いてゲートから出てくる敵を排除していれば一方的に撃破が可能だった。敵は意外に襲撃を想定していないのか小規模な部隊が散発的に出てくるだけだ。

 

とはいえ、ホシノを救い出すためには基地に侵入する必要がある。それは非常に困難だった。

 

「あっちもゲートから無理に出てこない。ここは私が無理やり突入する...」

 

外に出て戦うのが不利と見るや、カイザーPMCの兵士たちはゲートの内側でこちらを迎撃する態勢を整えつつあった。そして、突入をためらっているうちにもどんどん兵力は増強されていき......

 

 

ガガガガガガ ガッシャン

 

 

「ゲートが閉じた!?」

 

ついには唯一の侵入口であるゲートまで閉じられる。

 

 

ゴォオオ……シュウゥゥン……!

 

次の瞬間突破口を失ったアビドスの面々、その後ろから独特な音が通り過ぎていく。そして、そのまま基地の中へと吸い込まれていったそれは

 

バァンッ!

 

という炸裂音とともに基地内で爆発を起こした。それは次から次へと雨あられと降り注いでいき、基地内は怒号と爆音がとどろく阿鼻叫喚の世界と化した。

 

それを引き起こしたのが榴弾砲だと気が付いたアビドスの生徒たちが砲弾の飛んできたほうを見ると、そこには高台から基地を見下ろしながら目標の修正を指示する一人の生徒、ファウストがそこにいた。

 

 

その後、到着したゲヘナの風紀委員会とともに突入したアビドスの面々は榴弾で穴だらけになった基地からなんとかホシノを救出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ時刻、ブラックマーケットは大混乱に陥っていた。

 

水道からは水が出ず、代わりに下水管からは汚水が噴出し始めた。ガス管も供給がストップしており、街角の信号は支離滅裂に点滅している。かろうじて電力は維持されているものの、ほとんどの通信網がダウンするか非常に込み合っている。マーケットガードが保有する装甲車は操作を受け付けなくなり、急発進と急停車を繰り返して周囲の破壊を始めていた。鉄道は非常信号で動かず、交通の混乱で移動もままならない。

 

そんなカオスの中でかろうじて生きていたのがセキュリティを強化していたいくつかの金融機関だった。辛うじてネットワークを遮断して切り抜けた彼らだったが、血に飢えたハイエナに狙われていることには気が付いていなかった。

 

そう、サエはサイバー攻撃が困難と判断したいくつかの施設について、ブラックマーケットの不良を雇って攻撃させることにしたのだった。銀行をはじめとしたいくつかの施設はすでに銃を構えて目をぎらつかせる不良たちに囲まれており、そこに乗っかって略奪のおこぼれをもらおうとする連中まで集まってくる。

 

この状況ではマーケットガードも対処しきれず、銀行に不良たちが雪崩れ込み略奪が開始される。威容を誇っていたブラックマーケットの心臓部は無惨にも無法者たちに占拠されつつあった。

 

 

 

 

 

「はははは!!!いい気味です!!もっと壊して貰います!!三流詐欺師と鬱陶しいマーケットガードにも賞金をかけて追い散らします!!」

 

一通り混乱をもたらしたことに満足したサエはしかし、まだまだ攻撃が足りないと考えていた。確かに混乱はもたらしたし主要機関の幾つかは暴徒によって襲われたが、立ち上がれないほどのダメージではない。

 

サエはカイザーローンから迂回融資させた潤沢な資金を元手に不良やヘルメット団を傭兵に仕立て上げ、ブラックマーケットに点在する治安機関の拠点を破壊していった。

 

そんな中で、どこからともなく各地で火災が発生し、それと同時にガスの供給が再開される。激しい戦闘で破壊されたガス管から地上に放出されたガスは取り返しがつかないレベルにまで火災を激甚化させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティーパーティーの執務室で状況を見守っていたナギサは上機嫌だった。砲兵隊とパソコン研究会の報告ではヒフミに貸し与えた砲兵はカイザーPMCの基地に効果的にダメージを与えており、練度の高さを見せつける結果となった。

 

さらに、成り行きとはいえゲヘナの風紀委員まで動いており、意図せずに合同での治安回復作戦を実行したことになる。エデン条約に向けてこの実績がいかに有効かをナギサはよく理解していた。

 

 

 

 

「ナギサ様、パソコン研究会から追加の報告です。」

 

そう、だからこそナギサは受け入れ態勢がないままに報告書を手に取ってしまった。

 

 

A4数枚にまとめられた報告書にはカイザーPMCの基地ではなく、何故かそこから少し離れたブラックマーケットでの作戦が記されている。初めは困惑していたナギサだったが、次第に独断専行で攻撃範囲を広げて戦争を起こしかねない行為に紅茶を持つ手がワナワナと震えてくる。

 

しかし、後半になるにつれて抑揚なく書かれるブラックマーケットの悲惨な状況がナギサに恐怖を抱かせることになる。まるで虫を殺す子供の無邪気な残酷さのように、淡々と作戦の意図や結果ぎ綴られる。

 

報告書の最後は

 

"ブラックマーケットの主要機関は壊滅状態にあり、組織的抵抗力を消失していると判断できる。"

 

と結論付けられており、即応状態にある正義実現委員会を進めれば占領は容易であると締められていた。

 

 

キヴォトスに点在するブラックマーケットの中でも最大規模を誇り、自治区を凌ぐほどの力を持った組織が完全に破壊された。それも軍事力も用いない小規模集団によって。

 

高度に自動化され、ほとんどのものがネットワークに接続されているキヴォトス中央部において、セキュリティさえ突破されればあらゆる組織は崩壊を免れない。この攻撃が非合法組織故の脆弱性を突いており、常に同様の攻撃が成立するわけではない。

 

しかし、クーデターに用いるならば話は変わってくる。

 

トリニティの行政府と軍事組織は漏れなくパソコン研究会のシステムを利用しており、彼女たちが撹乱しようとすればそれはあまりに容易である。大体の端末には彼女たちの作ったアプリが入っており、あっという間に分断されて各個撃破されるのは目に見えている。酷ければ疑心暗鬼から同士討ちも起きるだろう。

 

その時、ナギサは思い出した。密かに捜査の手を広げてきた百合園セイア襲撃の犯人のことを。

 

そう、セイアから襲撃した理由、間違いなくそれは予知能力を封殺するため。そして、それを封じたい相手は誰か、ナギサの目は肝心の足元を見落としていた。敵が内側にいる可能性は前々から覚悟してきたが、あくまでどこかの外部勢力の手先であると信じ込んでいた。

 

敵が取り返しのつかないところまで入り込んでいる。その可能性が高いことを認識したとき、ナギサはお腹を抑えて蹲ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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