下北沢には天使が住んでいる   作:通りすがりの邪教徒

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やっぱりきらら系といったら日常シーンを大切にしたいよな。

今回は前回の話しの虹夏ちゃん視点版をお送りします。



天使の姉はサプライズ好き

 

 いつも通りの朝。

 

 寝返りを打つと、カーテンの隙間から差し込む光が、ちょうど顔にあたって目が覚めたと同時に、アラームに設定したお気に入りのロックバンドの曲が流れ、私の朝は始まる。

 

「う、う〜ん……もう朝か……」

 

 眠い目を擦り、ベッドから体を起こしてカーテンを開けると、朝日が部屋全体を明るくしてくれる。

 

「朝ごはん……作らないと」

 

 朝日を浴びて気持ちを切り替えた私は、キッチンに向かって愛用してるエプロンを身に纏い、早速朝ごはんの支度に取り掛かった。

 

 今朝のメニューは焼き鮭、出汁巻き卵、味噌汁、白ごはんとシンプルに和食だ。

 

 味噌汁やその他主菜が完成した頃には、ご飯も炊きあがって、出来上がった料理を次々とご飯を食べる用の卓上へと運んだ。

 

 そろそろお姉ちゃんが起きる頃かな? あっ来た来た。

 

「おはよう……虹夏」

「おはよう、お姉ちゃん。はい、目覚めの一杯だよ!」

「ん、サンキュ」

 

 欠伸をしながら椅子に座って、眠そうな顔で湯呑みに淹れた緑茶をちびちびと啜ってホッと息を吐くお姉ちゃん。

 

「今日はいつもより早く起きたね」

「何組かのバンドが昼過ぎにライブしに来るからな。客もそれなりに来そうだし、早めに準備しないとなんだよ。いただきます」

 

 そう、今日の日程のことを話しながら、私が作った朝ごはんを美味しそうに食べ始める。

 私もさっきからお腹が空いちゃってるので、いただきます。

 

 出汁巻き卵を一口食べて、我ながら美味しいと自画自賛しながらも今日は何時もより忙しくなるんだな〜と思いながら、お姉ちゃんの方を見る。

 

「お姉ちゃん。忙しくなるなら、掃除の他にもドリンクカウンターの受付もやるよ!」

「ん? あぁ……だったら今日は掃除だけで良いよ。受付は私がやって、他はPAと大学時代の後輩にヘルプしてもらうから」

「え〜!? なんで!?」

「別に良いだろ。兎に角、今日はライブハウスの掃除が終わったら、その後は自由にして良いから」

 

 う〜ん……だとしたら今日は何しようかな?

 

 特にやる事が……折角だからリョウと楽器を見に御茶ノ水とかって考えたけど、また無駄遣いして金欠になった後にお昼ご飯奢るとか嫌だしなぁ。

 

 仕方ない。今日は食材品の買い出しにスーパー行ったり、家の片付けしたり、高校の入学式の数日後に学力テストがあるみたいだから、その勉強でもしよかな。

 

 今日やる事を頭の中で整理しながら、朝ごはんを食べ続ける。

 

「なぁ虹夏、雄馬のこと覚えているか?」

「もちろんだよ。昔はよく遊びに行ってたからね!」

 

 雄馬くんとは私のひとつ年下の従弟で、フルネームは鈴代雄馬くん。

 

 私は末っ子だから、初めて会った時から雄馬くんを弟のように可愛がっていた。

 日が暮れるまで近くの公園で遊んだり、一緒にお風呂入ったり一緒に寝てたりとかしてたの懐かしいなぁ〜。

 

 お母さんが亡くなってしまった時のお葬式で泣いていた私を、ずっとそばで慰めてくれた、とても優しい子だ。

 

「何で急に雄馬くんのことを?」

「いや、聞いてみただけだ。最近会ってないから元気にいてるかなって思ってさ」

 

 確かに。納骨祭の時から疎遠になってるから、今頃何してるんだろうってのは気になる。

 

 来年度から雄馬くんは受験生だから忙しくなるかもだし、あまり会って遊ぶなんてあまり出来ないから、春休み中に彼の家に遊びに行っても良いかも。

 

「ごちそうさま。じゃあ私、先にライブハウスの方に行ってるから、後はよろしく」

「分かったよ」

 

 こうしてお姉ちゃんは、ご飯を食べ終えた食器を台所へと持って行き、ライブハウスへと向かった。それに続いて私も食べ終わったので、お皿洗いなどの後片付けを済ませて、掃除をしに急いで後を追った。

 

 掃除用具入れからモップを引っ張り出して、先ずはステージの床磨きから取り掛かる。

 ここを掃除していると、私が未来のバンドメンバー達と大勢のお客さんの目の前で、一緒にライブをしている光景を想像してしまう。

 

 私も早くバンド組んでライブしたいけど、先ずはメンバー探ししないとだね。

 私はドラムが出来るから、残るはギター、ベース、ギターボーカルあたりだよね。

 本当はベースをリョウにしたかったけど、もう別でバンド組んでるから誘えないし、メンバー募集の張り紙とか作ってお店の壁に貼ろうかな?

 

「おはようございまーす」

「おはようございます、PAさん!」

 

 掃除をしていると、このライブハウスで音響スタッフをしているPAさんがやって来た。

 この人、初対面の時は耳と口元にピアスを付けて見た目怖そうなのに性格はおっとりしてたり、本名が不明だったりで、謎多きお姉さんといった印象を最初から持っている。

 

「いっけね、電球切れかけてるなぁ……。今から買ってくるか〜?」

「お姉ちゃん、それ私が行ってくるよ! 掃除終わったらスーパー行くし、序でに電気屋さん寄るから」

「あぁ、頼んだ」

 

 ライブハウスの掃除が終わったので、電気屋でお姉ちゃんからの買い物を済ませた後に、食料品の買い出しも完了。

 

 スーパーから帰宅して、お姉ちゃんに電球を渡したら、残りの予定を次々とこなしていった。特にやる事が〜って思ったけど、案外やる事多かった。

 

 伊地知家の家事は私が殆どやってるからね。忙しくしてるお姉ちゃんの代わりに、私が頑張らないと。

 

 

 

 

 

 

 χ

 

 

 

 

 

 

「よし、洗濯もお終い! う〜ん……よしっ、勉強しよ〜っと!」

 

 洗濯物を干し終えて、天気の良さと一通りの家事が終わった気持ちよさで、大きな背伸びをする。

 その後に、冷蔵庫で冷やしてある麦茶をコップに注いで、自室の机に向かって勉強する事にした。

 

 リョウはちゃんと勉強……絶対してないよなぁ〜。受験の時もギリギリまで詰め込んで何とか同じ高校に合格はできたけど、今後のテストも一夜漬けコースで挑むのだろうか? 受験した時は中1の範囲ですらおぼつかなかったし、本当にあの変人ベーシストは脳みそが小さいんだから。

 

 一緒に勉強しようって誘っても「勉強したら音楽のこと忘れちゃうんだよね」とか「私は特別だから、一夜漬けすれば大抵何とかなるから」とか言って断ってくるに決まってる。リョウとは付き合いが長いから、私にはリョウの考えている事がだいたい分かる。

 

「よし、今日はここまでにしようかな。あっもうこんな時間か」

 

 時計を見ると、昼過ぎになったことに気づく。そういえばお昼ご飯も食べてないな。買い物したり、家事したり、勉強したり、リョウの事考えてたりですっかり忘れてた。

 

 取り敢えず夕飯の支度でもしようかなとキッチンへと向かうと、呼び鈴が鳴ったのを聞き取ったので、出る事にした。

 

「はーい!」

 

 誰だろう? お姉ちゃんが宅配便で何か頼んだとかかな? と思いながら扉を開けると、大荷物を持った背の高い男の子が立っていた。

 

「えっと……どちら様ですか?」

 

 と、言った後に男の子の顔をよく見てみると、何処か懐かしい面影と記憶が頭を過った。

 

「って、君はもしかして!?」

「久しぶり、虹夏ちゃん」

「やっぱり雄馬くんだ! 久しぶり〜!」

 

 思った通り。私より背は高くなったけど、顔つきは昔と余り変わっていない。

 雄馬くんだと認識するのに一瞬間があったけど、久しぶりの彼との再会は凄く嬉しくなり、つい気にせず詰め寄ってしまった。

 

 それにしても背伸びだなぁ〜! 昔は私よりもちっちゃかったのに、いつの間にか私が見上げるまでに育っちゃって〜! これひょっとすると、リョウよりも高いかもしれない。

 

 何で急に家に来たのか聞いたら、なんと今日からここに住む事になったとか言ってきたので、頭の中ではてなマークがいくつも浮かんだ。

 雄馬くんは、お姉ちゃんから何か聞いてないの? って言ったけど、そんな事は当の本人からはこれっぽっちも聞いておらず、混乱した頭を整理したかったので、取り敢えず落ち着いて話すために家の中へ通した。

 

「それにしても……大きくなったね〜! 完全に越されちゃったよ。それと何だかカッコよくなったね!」

「かっ、カッコいい!?」

「うんうん! 男らしくなってる! 今何センチあるの?」

「168センチはあると思う」

 

 カッコよくなったねと褒めたら、顔をちょっと赤くしてた。照れちゃった? やっぱり私の従弟は昔から可愛い。

 あとやっぱり身長はリョウよりも高かった。来年度から中学3年だし、その平均身長よりもちょっと上だね。

 

 玄関からリビングへと案内して、荷物を置いた雄馬くんを席に座らせた私は、彼にとっておきの静岡産の緑茶を淹れてあげた。これは静岡に行って買ったとかでは無く、銀座のアンテナショップで買ったものだ。

 

 すると雄馬くんから旅行に行った際のお土産として、うなぎパイを差し出してきたので、静岡に行ってきたんだねって言ったらヘルニア? ヘルエスタ? に行ってきたとゴリ押しで話しを進めた。

 

 うなぎパイのパッケージにはガッツリ“ヘルエスタ名産”と書かれていたので、本当に実在するんだと思った私は、後で調べてみようかなと思いながら、雄馬くんが持ってきたうなぎパイを食べた。

 ちょうどお昼食べてなかったから、小腹を満たすって感じては良いね。私の分もお茶淹れちゃお〜っと。

 

 湯呑みにお茶を淹れて、雄馬くんの隣に座って、家に住む経緯を聞いた。

 

「それで……どうして家に?」

「ザックリ話すと、親父が海外転勤するって先月急に言ってさ。俺が海外行きたくないって駄々捏ねたら、お前を日本に残す代わりに虹夏ちゃん家に住まわせるって話になったのよ」

 

 成る程ね。まぁ海外に行くなんて言われたら、不安になっちゃう気持ち分かるよ。

 日本と勝手が違かったり、その国の人と会話するの大変だったり想像しちゃうもん。

 

 雄馬くんも大変だなぁ〜と思って、昔みたいに彼の近くに寄り添って頭を優しく撫でてあげた。

 すると、さっきカッコいいと褒めた時と同様に、気恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

 可愛い……つい揶揄いたくなってしまう。

 

 そんな事はさておき、雄馬くんがお姉ちゃんに顔合わせしたいと言ったので、時計を見たらそろそろライブが終わる時間だったので彼をライブハウスに連れて行こうという事になった。

 

 それと同時に、お姉ちゃんが今朝突然話した雄馬くんの話題と「今日の手伝い掃除だけで後はいい」と言っていた理由が頭の中で繋がってやっと理解した。

 雄馬くんが来るから、ライブハウスの手伝いはしないで家で待ってろって事だったのか。

 

 も〜う……お姉ちゃんってば! それならそうとハッキリ言ってよ! サプライズのつもりか!? 

 

 こうしてお互いにお茶を飲み干して、雄馬くんをライブハウスへと連れて行った。

 





虹夏ちゃんに褒められたりお世話して欲しい人生でした。

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