下北沢には天使が住んでいる   作:通りすがりの邪教徒

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距離の近い虹夏ちゃんに耐えられる人ってこの世に居ないと思う。


天使な従姉がドラマーになってた

 

「あ〜……久しぶりに飲み過ぎた……」

「お〜い星歌姉さん、大丈夫か〜?」

「まったく……お姉ちゃんってば。ごめんね雄馬くん、肩借りちゃって」

「良いの良いの。俺も楽しかったしな」

 

 現在。焼肉屋を出た俺たちは、酔った星歌姉さんを肩で担いで、家への帰路を歩っている。

 星歌姉さん、普段はそんなにお酒を飲まないらしいが、俺が来たからせっかくと称して酔い潰れる寸前まで飲んでしまって、この状態である。

 

 にしても星歌姉さんってこんなに軽かったっけ? 単に俺の力が上がっただけかもしれんな。

 

 しばらく歩いて家に到着し、星歌姉さんをソファに座らせて休ませる。

 酔った人を介抱するの初めてだけど、相手が星歌姉さんならそんなに苦では無い。

 

「お姉ちゃん、作り置きしておいたしじみの味噌汁。良かったら飲む?」

「ん、ありがと。……ふぅ、肝臓に染みる〜」

「それ、虹夏ちゃんが作ったの?」

「そうだよ。雄馬くんも飲んでみる?」

 

 虹夏ちゃんの手作り味噌汁か……せっかくだし頂こうかな。

 

「じゃあ、お願い」

「はい、どうぞ!」

「いただきま〜す」

 

 う、美味い! 俺の従姉は天使みたいに可愛くなったうえに料理まで出来るようになってるとか最高かよ。

 てことは……これから毎食、大好きな従姉の手料理食って生きてくってコトォ!? 父よ、改めてありがとう。

 

「どう?」

「出汁が効いてて美味しいよ。良い腕してんね」

「良かった〜! これから更に作り甲斐が増してきたよ!」

 

 この感じだと、伊地知家の家事は殆ど虹夏ちゃんがやってるんだろうな。

 僕は星歌姉さんの力になりたいけど、虹夏ちゃんの力にもなりたい。これからは俺も居るわけだし、家事も当然お手伝いさせていただきます。

 

「ごちそうさまでした。ふぅ……美味かった」

「あっ雄馬くん、丁度お風呂も沸いたみたい。お姉ちゃんは私が見てるから、先に入ってきて良いよ」

「分かった。先に入って来るね」

 

 星歌姉さんの面倒を虹夏ちゃんに引き継いで、荷物の中から着替えを引っ張り出して、お風呂を先に頂かせてもらった。

 

「ふぅ……今日は何だか疲れた気がする。大荷物持ってたからかな?」

 

 温かい風呂に浸かりながら、今日の事を振り返りつつ、これからの生活についても考えるようになった。

 

 受験する高校、どうすっかな〜。虹夏ちゃんと同じ下北沢高校にしようと思うけど、あそこ調べたら進学校で偏差値高めだし……でも第一志望こ候補としてあげとくかな。

 

 あと秀華高校ってのがあるみたいだし、そこも一応候補に入れておこうかな。

 

「さてと、そろそろ髪でも洗うかな……あれ?」

 

 シャンプーってこれで合ってるよね? 明らかに女性用な気がするけど、見た感じこれしか無いじゃん……。

 こればっかりはしゃーない……こいつを使うしか無いよな。これ使い続けると、俺も女性みたいに髪サラサラになりそうだな。

 

「ふぅ……良い湯だった」

 

 風呂から出て、何時も家で着ている部屋着に着替えてリビングへと向かった。

 

「あっ星歌姉さん起きた? 具合はどうだ?」

「ああ……酔いはちょっとだけ覚めた。雄馬、帰りはごめんな……」

「俺は大丈夫だよ。落ち着いて良かったね」

「さてと、次は私が風呂に入って来るか……」

 

 星歌姉さんは重い腰を起こして、ゆっくりと風呂場へと向かった。

 

「雄馬くん、シャンプーとか女の子用しか無かったけど大丈夫だった?」

「何とかなったけど、あれ使い続けるのはちょっとな〜」

「じゃあ明日は、男女兼用の洗浄剤でも買いにショッピングモールにでも行こっか?」

「せやな。虹夏ちゃん、牛乳とかあったりする?」

「冷蔵庫にあるから飲んで良いよ」

「おう、ありがと」

 

 冷蔵庫から出した牛乳をコップに注いで、飲みながら寝る場所どうしようと考えていると、虹夏ちゃんがテーブルを指でトントンと叩いていた。

 

「虹夏ちゃん、何してんの?」

「ドラムの練習」

「ドラムって太鼓とかがいっぱいあるやつ? 楽器やってんだ」

「うん。バンドはまだ組んで無いけど、組みたいって思ってるんだ。いつか来る未来のための練習!」

 

 従姉は家庭的になっただけじゃなくてドラマーにもなってたんだね。

 そう言えば、星歌姉さんって昔ギターやってた気がするけど、今はやって無いのかな?

 

「雄馬くんって、普段はどんな音楽聴くの?」

「アニソンとかVtuberさんの曲かな。虹夏ちゃんは?」

「私はメロコアとかいわゆるジャパニーズパンク系かな」

 

 メロコア? ジャパニーズパンク? 聞いたこと無いジャンルだな。

 ロックに関しては無知なんで、すんません。ちょっとだけ話を合わせるために調べてみようかな。

 

 それにしても、音楽に限らず色んな分野において、様々なジャンルがあるって面白いよな。追求すればするほど奥が深くて、例えるなら底なし沼みたいな感じ。

 

「俺、ロックあまり知らないけど、良い曲ある?」

「じゃあ今度聴かせてあげるね。雄馬くんのお気に入りのアニソンとかも聴いてみたいな〜。序でにアニメも幾つか観てみたいかも!」

 

 アニソンはどれも良い。アニメのために作られたという確固としたあるから、そのアニメの世界観や物語の核心とかが曲に反映されてて、入り込みやすいのがいい所だ。

 それでいうと特撮ソングも好きで、聴いてると懐かしさやノスタルジーを感じたり、感情がポジティブになるような曲がいっぱいある印象を持つ。

 

「良いよ。そこらの知見は少しだけ知ってる方だから任せて」

「まぁまぁって……本当は詳しいんでしょ〜? 私、知ってるよ。少ししか知りませんって言う人ほど実は詳しかったりするの」

「そういう人居るよね。でも本当にまぁまぁだから!」

 

 嘘は吐いてない筈だ。何気にきらら系の作品は全部見とるし、最近はメイアビにどっぷりハマってるし……うん、嘘は吐いてない。

 

 

 

 

 

 

 Ψ

 

 

 

 

 

 

「あっ雄馬くんの寝る場所なんだけど」

「音楽の話ですっかり忘れてた。どうしよ?」

「空いてる部屋はあるけど、来客用布団とかもないし……久しぶりに一緒に寝る?」

 

 ふぁっ!? い、今一緒に寝るっつった!? 俺の耳が悪くなければ確かにそう聞こえたような……。

 

「い、一緒に?」

「うん! 昔はよく寝てたじゃん!」

 

 何の躊躇もなく繰り出される従姉からの無自覚YESサインに、さっきから動揺が止まらない。

 たっ、確かに昔はよく一緒にくっ付いて寝てたけど、今の俺は思春期真っ盛りの中学生男子な訳ですし……てか虹夏ちゃん! そんな事気軽に言うもんじゃありませんよ! 

 

「雄馬くん、お願い……。私、雄馬くんをソファとかで寝かせて風邪引かせたくないよ……?」

 

 そんな上目遣いで頼んで来ないで!? ゔっ……何処でそんな高等テクを学んで来たって言うんだ。

 

「わ、分かった。一緒に寝ようっか」

「やったー!」

「上がったぞ、虹夏」

「あっお姉ちゃん! じゃあ雄馬くん、私の部屋行ってていいよ!」

 

 そう言い残して、虹夏ちゃんはお風呂場へと姿を消して行った。

 

「そうだ雄馬。お前の部屋になる場所案内するよ」

「あっはい……」

 

 風呂上がりの星歌姉さんに部屋へと案内されると、勉強が出来そうな机や服をしまえるクローゼットや箪笥、まだシーツや布団などが敷かれていないベッドが置かれていた。

 両親曰く、元の家で使っていた寝具達は宅急便で送るとのことだったので、それが届くまでは虹夏ちゃんの部屋で世話になりそうだ。 

 

 それにしても良かった。もし、寝具が無かったら出費がかさむ所だったし。

 まだまだ自分が使っていた私物も追々送られて来るみたいだし、それも楽しみ。

 

「どうだ?」

「うん、良い部屋だ。ありがとう、星歌姉さん!」

「気に入ったみたいだな。そう言えば、虹夏がさっき部屋で何とかって言ってたが」

「久しぶりに一緒に寝ないかと誘われて」

「おお、そうかそうか。なら虹夏の部屋は隣だ。最初に言っとくが……今は間違っても手出すなよ」

「従姉だぜ? そんな事……無いよ……」

「お前、虹夏と結婚するとか昔私の前で言ってたよな? ちゃ〜んと覚えてるんだぞ?」

 

 俺、そんな事言った覚えな……あっそう言えば行った記憶があるような。

 純粋無垢だった頃の俺ぇ! なんて事言ってんだ! 今直ぐ過去に戻ってその行動阻止してぇわ。

 

「ま、虹夏が何処の馬の骨とも知らんやつと付き合うよりは、雄馬の方が私としては安心するけどな」

 

 星歌姉さんってもしかしてシスコンって奴なのかな? 俺以外の男と付き合わせるつもりが無いって言ってる時点でシスコンだ! 良いじゃないの、そういう姉妹関係は結構好きよ。

 

「じゃ、私は先に寝るわ。おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

 自室になる部屋を出て、歯磨きも済ませた俺は、虹夏ちゃんの部屋でVtuberのコラボ配信を見ながら待機する。

 にしても可愛らしい部屋だな。至る所に女子力を感じるというか、そもそも女子の部屋すら初めてだからスゲー緊張するな。

 

「雄馬くん、お待たせ〜! な〜に観てるの?」

「んっ!? あぁ……ぶ、Vtuberの生配信だよ」

 

 後ろから抱きつかないで! 甘い香りと女の子の感触が体全体に伝わって来て……こ、これは非常に不味い。

 

「へぇ〜。あっこの人達って2432の? 私の友達が好きなんだ」

 

 そ、そうなんだ……。とか考えてる暇もなく、虹夏ちゃんの感触が気になりすぎて頭がパンクしそうだ。

 何だか俺の中の何かが壊れそうで、今にも新しい扉が開きそう。

 

 天使みたいに可愛くなった従姉が、無自覚に俺の癖を破壊する。

 なんかラノベのタイトルにありがちなこと言ってしまった。

 

 ここは話題を変えて一旦離れてもらおう。

 

「虹夏ちゃん。あの細長いケースは?」

「これはね〜。じゃじゃーん! ドラムスティックが入ってるんだ!」

 

 ほへぇ〜……この細長いのでドラム叩くんか。実際に近くで見るのは初めてだ。

 

「虹夏ちゃんがドラムやる所、見てみたいな〜」

「私、そんな上手くないよ?」

「良いじゃん別に。最初は皆、そんなもんなんだしさ。な? たのむぅ〜」

「う〜ん……分かったよ! 今度見せてあげる。それよりも雄馬くん、そろそろ寝るよ?」

 

 そう言って虹夏ちゃんはベッドの中に入り、隣においで〜とポンポンと叩く。

 

「ほら早く!」

「うわぁ!?」

 

 ベッドに入るのを躊躇ってると、腕を掴まれて無理矢理引き摺り込まれた。

 

「う〜ん……この感じ、懐かしいね!」

「そ、そうだな……。虹夏ちゃん、狭くない?」

「全然。雄馬くんの背中、落ち着く……」

 

 俺は落ち着かねぇよ!

 

 結局今夜は、一睡も出来ずに朝を迎えた。

 星歌姉さんからは「体調悪そうなら今日は家でゆっくりしな」と言われたので、その日に届いた寝具や私物を自室で整理整頓して一日中惰眠を貪った。

 





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