禁書の魔女と世話焼き女侯爵   作:第616特別情報大隊

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学会発表に向けて

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 ──学会発表に向けて

 

 

 私は研究をすることが仕事だ。

 

 だから、研究の進捗を報告することもまた私の義務であった。

 

 帝国アカデミーでは研究者に定期的な研究発表を求めている。彼らは研究者に金を出し、私たち研究者はその金を使って研究を行っているのだから当然だ。

 

「さて、そろそろ学会の時期か」

 

 私の研究している悪魔学がそれだけで学会が開けるほど大きくはない。なので、魔術学の分野に居候させてもらっている。アーミテイジ博士とウォード博士の研究している基礎神秘学も同様だ。

 

 私の研究はと言えば、シャーロットがパトロンになってくれたおかげで、貴重な資料を取り寄せることができるようになりかなり進んでいる。

 

 私は魔除けの紋様の数学的な解析と民俗学的な解析を組み合わせた研究で、ひとつの論文ができていた。世界各地にある魔除けの紋様のパターンを解析し、共通する事項を見つけようとする試みだ。

 

「シャーロット。私は来週は学会でストラスミアに行くんだが、君はどうする?」

 

「もちろん博士についていきますわ」

 

「そうか」

 

 ストラスミアは北の方にある都市で、ストラスミア大学を有する都市だ。経済規模と人口ともに北部では最大であり、歴史もある街、だと前に誰かに聞いた。

 

「では、準備をしないといけませんね」

 

「ああ。学会は3日で、最終日にはパーティがある。パーティは欠席するつもりだが」

 

「いけませんわ、博士。博士の研究をちゃんと知ってもらわないと」

 

「しかし……」

 

「またわたくしが付き合いますから」

 

「分かった。降参だ」

 

 これまで学会のあとのパーティは全て欠席してきた。

 

 人が多くて眩暈がするし、人と喋るのは面倒だし、何か有意義なことがあるとは思えなかったからである。

 

 だが、シャーロットがついて来てくれるなら、行ってもいいかもしれない。彼女は以前のアカデミーでのパーティでも私のことをアピールしてくれたから。

 

 シャーロットのおかげでいろいろなことが変わった。

 

 

 * * * *

 

 

 学会のためにストラスミアへと向かう日。

 

 私たちはルンデンウィックの中心部にあるクイーンズセンター駅で電車に乗り込み、北部を目指す。流石に北部のストラスミアまでは自動車では遠すぎる。

 

「たまにはこんな鉄道の旅もいいですね」

 

「そうだな」

 

 電車に揺られながらシャーロットが言うのに私が頷く。

 

「博士は以前もこのように遠出されたことはあるのですか?」

 

「ああ。遠い場所だと新大陸まで船で行ったこともある。新大陸には独自の魔術学の考えがあって、なかなかにユニークだった」

 

「新大陸に……」

 

 シャーロットは少し驚いて様子だった。

 

「新大陸はどんな場所でした?」

 

「あらゆるものが真新しい感じだったというべきか。あるいは古いものが残るほどの歴史がなかったというべきか。ルンデンウィックにもないような摩天楼があって、雑多な人種が暮らす場所だったよ」

 

 私は新大陸で経験したことをシャーロットに語った。

 

 ひとつの街に複数の人種が暮らしており、賑やかであったこと。都市は計画されて建設されており、広大であったこと。そして、何より魔術学について新大陸は慎重な姿勢を見せているということを。

 

「魔術学に慎重と言いますと?」

 

「彼らは旧大陸の人間より信心深い。彼らは神を我々よりも信じている。そうであるが故にかつては悪魔のもたらしたものとされていた魔術学を扱う姿勢が違う。彼らは神の名の下に魔術を解明しようとしている」

 

「なるほど。学問も場所によっては捉え方がことなるのですね」

 

「そのような地域差を調べるのも私の研究のひとつだ」

 

 悪魔学は自然科学的な要素と社会科学的な側面がある。

 

 悪魔に関する様々な事象もいずれは自然科学へと至るが、それを解き明かすまでには人類の悪魔に対する接し方とそれによって起きた社会学的な側面を分析しなければならないということ。

 

 多くのパータンから共通の法則を見つけ出す。それが必要なのだ。

 

 それから私たちの乗せた鉄道は来たに向かい、ストラスミアの駅に到着した。

 

 

 * * * *

 

 

 学会はストラスミア大学の大講義室とホテルのレセプションルームで開かれることになっていた。

 

 初日2日の発表は大学で、その後の懇親会はホテルでというわけだ。

 

 なので私たちはまず滞在するホテルのチェックインすることに。ホテルの予約はシャーロットに任せていたので、私はどういうホテルに泊まるのかをまだ知らない。

 

 タクシーで向かった先に確かにホテルはあったのだが……。

 

「このホテルに? ここはかなり高いホテルのはずでは……」

 

 以前ストラスミアに来たときに見たことのある、とても豪華な高級ホテルにタクシーは止まった。私は思わずシャーロッチに間違いではないかと思い尋ねる。

 

「ええ。ここですよ。博士には快適に過ごしていただきたいですからね!」

 

 シャーロットはそう言っててきぱきとチェックインを済ませてしまった。

 

「部屋は最上階のロイヤルスイートですわ」

 

「それはかなり高額だったのでは……」

 

「博士に2度も命を救っていただいた恩に比べれば安いものです」

 

 私は悪い気がしたが、今日は私だけではなくシャーロットも同行している。そう考えればいつも私が利用する安宿ではなく、ちゃんとしたところの方がいいはずだと私は自分に言い聞かせることにした。

 

 広いロイヤルスイートの部屋は落ち着かなかったが、シャーロットは荷物をほどき、すぐに学会に向かえるように私の世話をしてくれた。具体的には学会に持っていく資料の確認とドレスアップだ。

 

 いつものようにシャーロットに化粧してもらいながらも、私はいつかちゃんと自分で化粧の方法も覚えなければと思っていた。

 

 それからフォーマルな学会発表に相応しい服装を纏う。ロングスカートとブラウスにジャケットだ。どれもシャーロットに選んでもらい、買ってもらったものである。

 

「では、行きましょうか、博士?」

 

「ああ」

 

 そして、私たちはストラスミア大学へと向かう。

 

 ストラスミア大学は歴史ある大学で、その歴史は私の出身校であるカーブリッジ大学にも匹敵する。だが、この大学が強いのは医学と生物学分野であり、自然科学系の学部が強い大学だ。

 

 魔術学のカテゴリーにある悪魔学には先ほど述べたように、自然科学的な側面と社会科学的な側面がある。なので、今回はストラスミア大学で学会が開かれたのだ。

 

 私とシャーロットは大学守衛に学会への招待状を見せて中に入り、それから学会が開かれる大講義室へと向かった。

 

 発表するべきことは整理できており、問題なく発表そのものは終わるだろうと思われていた。問題は学会が終わったあとのパーティについてだ。

 

 私は未だにあの手のパーティが苦手なのだが、シャーロットがいてくれればどうにかなるかもしれないという気持ちと、それでもダメではないだろうかという不安が混ざり合っていた。

 

「では、博士。発表、頑張ってください」

 

「ああ。頑張るよ」

 

 私は励ましてくれるシャーロットに向けて微笑むと大講義室に入った。

 

 しかし、まさかこのあとにあんなことが起きるとは思ってもみなかった。

 

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