ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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真実の夜

その夜はやけに静かだった。

普段ならば遠くから夜行性のポケモンの鳴き声やざわめきが聞こえてくる。

しかし、その夜は風すら止んだ静かな夜だった。

 

 

 

ゆえに、村の誰もがその"異変"に気付いた。

 

 

 

 

「ザザドララララララァァァ!!」

 

夜の静寂を掻き消す何者かの咆哮。

何事かと慌てて外へ出る者もいれば、窓から様子をうかがう者もいる。

 

"彼"は後者だった。

 

次の瞬間目に飛び込んできたのは赤黒い閃光。

そして、窓が割れるほどの音と衝撃波だ。

幸い彼に怪我は無かったものの、子供部屋に飛び込んできた父親は頭から血を流していた。

 

「起きるんだ!!」

 

「な、何があったの!!?」

 

父親は乱暴に彼の布団を引き剥がし、急いで靴を履かせた。

 

「ねえ、何があったの!!?」

 

彼はまだ幼かった。

まだ10歳にも達していない。

父親の緊迫した様子。

外から聞こえる悲鳴。

そして、その喧騒さえも掻き消す何者かの咆哮。

まだ10歳にも達していない少年にですら"答え"は明白だった。

 

「…………ポケモンだ……!!」

 

わかりきっていた答えでも、聞いた瞬間に全身を流れる血が凍り付く感覚が走った。

父親は彼の手を引き、既に逃げる準備を整えていた母親と合流し、家を飛び出した。

 

幼い頃、夜は未知の世界が広がっていると信じていた。

だが、それは神秘的な世界であって、"あんなもの"ではなかったはずだ。

 

赤だ。

黒いはずの夜が赤に染まっていた。

それが燃え盛る炎だと気付くのに時間がかかった。

村の家や畑、小屋、木々が燃えている。

燃え盛る炎が夜を赤に照らし出している。

 

「川だ!!川に逃げろ!!」

 

誰かが叫んだ。

誰が先導する訳でなく、村人達は一斉に川に向かって逃げる。

 

1人を除いて。

 

その頭上を黒い影が飛び越し、村人達の前に立ちはだかった。

彼が見えたのは3つの頭があり、6つの紅い眼光を放ち、6枚の翼で宙に浮かぶ見たこともない化け物の姿。

化け物は6つの眼光で村人達を睨みつけると、再び咆哮を轟かせた。

 

「逃げろ!!」

 

村人達が再び逃げ出そうとすると、化け物の3つの頭が村人達の行く手を阻むように赤黒い閃光を放った。

爆発と爆風と熱と悲鳴。

化け物は逃げ惑う村人達を弄ぶかのように村の上空を旋回し、逃げ出そうとする村人達の行く手を阻むように赤黒い閃光を放った。

彼は逃げ惑う村人達に押し出されて、気が付けば村の外れに追いやられていた。

近くに両親の姿は無く、見えるのは化け物と炎だけ。

 

 

 

村が跡形もなくなった頃、化け物は飽きたように夜の闇へと消えていった。

去り際の化け物の鳴き声は無力な人間を嘲笑うように聞こえた。

 

 

 

夜が明けると村の有り様に愕然とした。

時々近くの森から現れるポケモンによって畑が荒らされることはあったが、その比ではない。

かつて、そこに人間の営みがあったことさえわからない程に何も残ってはいなかった。

彼には自分の家がどこにあったのかさえもわからない。

そして、彼は両親を探すものの、決して見つけることは出来なかった。

 

燃える家の下敷きになってしまったのかも知れない。

赤黒い閃光を浴びたのかも知れない。

逃げ惑う村人達に押し潰されたのかも知れない。

しかし、不思議とどこかへ逃げ延びたという考えは浮かばなかった。

浮かぶのは村を焼き払い、家族を奪った化け物、いや、ポケモンへの憎しみだけだった。

 

彼は割れんばかりの声で叫んだ。

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