ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜 作:影山ザウルス
ズルッグの一件から数日。
3人は任務の無い日はこっそりと街に出掛けては"奉仕活動"を行い、それが終われば研究所前の開けた場所でポケモン同士の戦闘訓練を行っていた。
フキヨセでの一件で、連携の大切さや状況に合わせてポケモンに指示を出す難しさなど、自分達の実力不足を実感している。
特に最初に作戦を立案し、実行したソリダゴは自分の未熟さを痛感している。
座学と実戦は別物なのだ。
そのため、ズルッグが加わってからは連携を考慮した2対2の戦闘訓練が主である。
「これよりテフラ対ソリダゴ・ハナナペアによる使用ポケモン二匹ずつの戦闘訓練を行います!!」
ニールが両者の間に立ち、訓練内容を告げる。
訓練では連携を考慮するため、自陣の二匹の内どちらかのポケモンが片方でも倒れたら終了である。
闇雲に突撃しても、防戦一方になってもいけないのがこの訓練の難しさだ。
それらを理解するポケモン使いと両者のポケモンは既に出揃っている。
いつでも戦闘開始可能だ。
「それでは、commencer!!」
ニールの掛け声と共に戦闘が始まる。
「アチャモ、火の粉!!」
ハナナの指示で火の粉を放つ。
それにわずかに遅れて、ソリダゴがニャオハに指示を出す。
「ニャオハ、火の粉に合わせて木の葉!!」
ニャオハが巻き起こした木の葉にアチャモの火の粉が引火し、無数の火の玉となってゼニガメとズルッグに襲いかかる。
「ゼニガメ、水鉄砲!!」
しかし、テフラは落ち着いて襲いかかる火の玉をゼニガメの水鉄砲で消し去る。
「アチャモ、ゼニガメに電光石火!!」
アチャモは鋭い爪で地面を蹴り、凄まじい速さで走り、ゼニガメに迫った。
「ゼニガメ、殻にこもる!!ズルッグ、頭突き!!」
ゼニガメは間一髪の所で、アチャモの攻撃を殻にこもることで身を守り、背後から現れたズルッグがアチャモに頭突きを食らわせた。
テフラは高い防御を誇るゼニガメにズルッグを守る役割を与え、ゼニガメよりもやや攻撃的なズルッグに接近戦を任せている。
ズルッグの頭突きを受けたアチャモは小石のように地面を転がるが、すぐに体勢を立て直して、ズルッグと向き合う。
「ゼニガメ、アチャモに高速スピン!!」
殻にこもるゼニガメが回転を始めて、アチャモへと突進する。
ズルッグとの接近戦に持ち込みたい所ではあるが、距離が離れている場合にはゼニガメの高速スピンを利用して、攻撃を仕掛ける。
無論、水鉄砲という決定打があるものの、アチャモの後ろにはニャオハが控えている。
「ニャオハ、援護!!」
ソリダゴの指示を受けたニャオハが放つ木の葉がゼニガメに襲いかかり、高速スピンは不発に終わった。
ポケモンの相性を考えると、テフラはゼニガメでアチャモを攻略したい所だが、ゼニガメの攻撃をニャオハで防ぐことでソリダゴはズルッグ対アチャモの構図を作り出している。
「アチャモ、ズルッグにひっかく!!」
アチャモが走り出し、助走を付けて飛び上がると鋭い爪でズルッグの頭をひっかいた。
ズルッグはアチャモの攻撃で仰け反ってしまう。
「アチャモ、畳み掛けて!!」
アチャモは鋭い爪で何度もズルッグをひっかく。
ズルッグは素早い動きで攻撃してくるアチャモに対して防戦一方。
ゼニガメを援護に向かわせたい所だが、ゼニガメが動けばニャオハの攻撃が来る。
かと言って、ゼニガメ対ニャオハは分が悪い。
ゼニガメとニャオハは睨み合いながら、こう着状態に陥る。
この状況を打開するには、ズルッグとアチャモの戦闘に掛かっている。
「ズルッグ、睨みつける!!」
ズルッグは防御する腕の隙間から鋭い目付きでアチャモを睨みつける。
その瞬間、ほんのわずかな時間アチャモの攻撃が止まり、テフラはその瞬間を逃さなかった。
「ズルッグ、頭突き!!」
ズルッグはアチャモに頭から飛びつき、渾身の頭突きを食らわせた。
アチャモは軽々と宙を飛び、ハナナの足元に転がり落ちた。
一度起き上がろうとするアチャモだったが、そのまま倒れてしまう。
「Fin de la formation。そこまで」
アチャモの気絶を確認したニールが訓練を終了させた。
ゼニガメとズルッグは先日のヨノワールと呼ばれるポケモンとの戦闘で、負けはしたものの経験を積み、その指示を的確に出していたテフラもまたポケモン使いとしての経験を積んでいた。
一方でハナナとアチャモはフキヨセ村での一件以来、実戦経験が無く、ポケモン使いとしてもポケモンとしても経験で遅れを取っている。
そんなハナナのサポートをするのがソリダゴの役目であった。
アチャモに有利に出れるゼニガメをニャオハに釘付けにすることも、アチャモを援護することも出来ていたはず。
「フシャァァァァ!!」
突然ニャオハが全身の毛を逆立てて威嚇をし始める。
「ニャオハ、訓練は終わりだよ」
ソリダゴはニャオハに歩み寄り、ニャオハを抱きかかえる。
しかし、ニャオハはソリダゴの腕の中で暴れ出し、ソリダゴから離れるとゼニガメやズルッグ、更にソリダゴにまで威嚇し始めた。
「随分血気盛んのようだな」
突然、4人の前に大柄な若い男が現れた。
彼は昨年訓練課程を終了して、騎士になったソリダゴ達の先輩だ。
成績も優秀で困った後輩に手を差し伸べる優しく頼りになる先輩騎士、という訳では無い。
成績は悪くは無いのだが、自分よりも好成績を出しているソリダゴに何かと対抗心を燃やす、正直面倒な先輩騎士だ。
「俺は明日からの任務でポケモンを貸し与えられた。どうだろう?任務前に少し肩慣らしに協力してくれないかな?」
先輩騎士はソリダゴに詰め寄る。
「貴殿のポケモンもそれで落ち着くやも」
横目で、自分に向かって威嚇するニャオハを見下ろす。
これは罠、あるいは単純な嫌がらせであることは明白だった。
おそらく先輩騎士にはニャオハに勝つ算段があり、わざと挑発的な口調と態度でソリダゴに訓練を持ちかけている。
あるいは、単純に性格が悪いだけか。
「……どうか、未熟な自分に、稽古を付けていただけますでしょうか?」
ソリダゴは恭しくお辞儀をする。
安い挑発ではあるものの、先輩騎士との訓練でニャオハが落ち着くのであれば結果がどうあれソリダゴには利がある。
先輩騎士は嫌らしい笑みを浮かべて、位置につく。
「……それではこれより戦闘訓練を行います。使用するポケモンは一匹でよろしいですね?」
ニールは両者の間に立ち、ルールの確認を行った。
ソリダゴと先輩騎士は頷く。
「それでは、commencer!!」
開始の号令と共に先輩騎士はモンスターボールからポケモンを繰り出した。
灰色と黒い羽根で全身が覆われ、目元に紅い模様のある鳥ポケモン、ハトーボーだ。
ハトーボーはノーマル・飛行タイプのポケモンで、草タイプのニャオハには相性が悪い。
加えて、マメパトから1段階進化したこともあり、ニャオハの勝算はほぼ無いと言ってもいいだろう。
「行くぞ、ハトーボー!!電光石火!!」
ハトーボーは凄まじい速さでニャオハに突進してくる。
ゼニガメの高速スピンなどで素早い動きへの対応の訓練はしているが、速度の"格"が違う。
「ニャオハ、木の葉で応戦!!」
ソリダゴはニャオハの木の葉でハトーボーの勢いを殺そうと考えていた。
しかし、ニャオハはその指示を無視して、ハトーボーへ真っ向勝負を挑んだ。
「ニャオハ!!?」
ニャオハはその小さな手に閉まっている爪を剥き出し、攻撃の予備動作に入った。
しかし、ニャオハの攻撃の予備動作が終わる前にハトーボーの電光石火がニャオハに直撃する。
ニャオハが地面を2、3度転がるが、体勢を立て直して、ソリダゴの指示を待たずに再びハトーボーに攻撃を仕掛けた。
繰り出した技はひっかく。
確かにひっかくならば木の葉と違い、有効打ではあるものの、威力が弱い。
それでも執拗にニャオハはひっかくを使い、その全てを嘲笑うようにハトーボーが避ける。
ハトーボーが単に飛んでいるから、ニャオハの攻撃が当たらないのではない。
ハトーボーは自分が飛ぶ高さをニャオハの跳躍では届かない高さを見極めて、その高さを維持するように旋回しているからだ。
「ハトーボー、電光石火!!」
先輩騎士の指示を受け、ハトーボーは大きく旋回して、ニャオハとの距離を取った場所から電光石火を繰り出した。
距離が長い分、加速も加わり、最初の一撃よりも強力な電光石火がニャオハを襲う。
ニャオハは先程同様に地面を転ぶが、今度はなかなか立ち上がれない。
「ニール博士、訓練を終了してください」
ソリダゴはニールに訓練終了を進言した。
自分の指示を聞かない。
相手はニャオハに不利なタイプ。
進化していることで戦闘力も高い。
勝てる要素が何一つ無い状況で、このまま続けても意味が無いだろう。
加えて、先輩騎士は単純にソリダゴに嫌がらせをしにきただけならば、これ以上訓練を続けるだけ無駄だろう。
「Non!!訓練は続行です」
しかし、返ってきた答えは意外なものだった。
ソリダゴはニールを見た。
ニールはと言えば、ソリダゴの視線に気付いてウインクしてみせる有り様で、本当に訓練を続行させる意味があるのかどうかも疑わしい。
その視界の端に、ニャオハの様子を固唾をのんで見守る幼馴染の姿が入った。
テフラ。
この幼馴染は先日ヨノワールという、ハルモニア王国で未確認の強力なポケモンと戦った。
結果は負けだ。
ゼニガメは戦闘不能になり、ズルッグも動けなくなってしまった。
その結果はきっとテフラだってわかっていたはずだ。
しかし、テフラは戦ったのだ。
ソリダゴは視線を目の前の訓練に向けた。
ニャオハがふらつく脚でなんとか立ち上がり、その姿を嘲笑うように眺める先輩騎士とハトーボー。
ソリダゴは落胆した。
現状、ニャオハが勝つ要素は確かに無い。
だが、あの夜のテフラは今よりももっと絶望的な状況で立ち向かっていた。
ソリダゴは両手で力いっぱい自分の頬を叩いた。
バチンッ!!
大きな音にニャオハが驚いて振り向く。
「すみません、前言を撤回します。訓練続行をお願いします!!」
ソリダゴはその瞳に闘志を燃やして、先輩騎士とハトーボーを見つめた。
気合を入れた所で勝つ要素はやはり無い。
だが、ソリダゴとニャオハには相手に"勝っている要素"が一つだけある。
「redémarrage!!訓練再開!!」
ニールの掛け声が響いた。
「ニャオハ!!一つだけでいい!!俺の指示を聞いてくれ!!」
「フニャッ!!」
気合を入れ直したソリダゴとニャオハ。
その瞳は勝利よりも大事な"何か"を諦めていない。
それが先輩騎士には腹立たしかった。
確かに自分は優秀な騎士ではない。
だが、厳しい訓練課程を修了して正式に騎士なったのだ。
特例で騎士になったソリダゴとは違う。
日々の訓練も続けている。
明日からは"騎士として"正式な任務に出発する。
"特例"や"特別扱い"されているソリダゴとは違うはずだが、考えれば考えるほど、先輩騎士の苛立ちは募る。
「ハトーボー、風起こしで一気に決めろ!!」
ハトーボーはニャオハに向かって、翼を羽ばたかせ強風を巻き起こす。
「ニャオハ!!全力で木の葉を巻きちらせ!!」
「フニャァァァァァァァァァ!!」
ニャオハは大量の木の葉をハトーボーが起こした強風にぶつけた。
その瞬間、木の葉が周囲に飛散して、ハトーボーの視界を埋め尽くした。
驚いたハトーボーは風起こしを止めて、周囲を見渡すが、見えるのは木の葉ばかりでニャオハの姿は見えない。
「ハトーボー、落ち着け!!エアカッターで木の葉を打ち落とせ!!」
指示を受け取ったハトーボーは風の刃で次々と木の葉を打ち落としていく。
やがて、視界が開ける。
しかし、ニャオハの姿はどこにもいない。
今度はハトーボーだけでなく、先輩騎士もニャオハを探して周囲を見渡した。
ソリダゴとニャオハが先輩騎士とハトーボーに勝つ要素はどこにも無い。
しかし、唯一"勝っている要素"がある。
それは今訓練を行っているのが、調査隊の研究所前の開けた場所であること。
つまり、地の利はソリダゴとニャオハにある。
ニャオハはハトーボーが自分を見失っている隙に研究所の壁を垂直に駆け上がり、屋根へとたどり着いた。
ハトーボーとの距離は少し遠いが、それでもニャオハに届かない距離ではない。
「ニャオハ!!キミのやりたいことを見せてくれ!!」
ソリダゴの声がニャオハを奮い立たせる。
ニャオハは助走を付けて、屋根からハトーボーに向かって跳躍する。
その小さな手から爪を剥き出し、攻撃の予備動作で白い光を帯びる。
しかし、白い光は徐々に緑色に変化していく。
白い光はノーマルタイプの技の予備動作だが、緑色の光は"草タイプ"の技の予備動作だ。
「ハトーボー、後ろだ!!」
ニャオハの存在に気づいた先輩騎士が指示を出すが、既にニャオハはハトーボーのすぐ後ろに迫っている。
そして、ニャオハの爪が遂にハトーボーを捕らえた。
その場にいる全員がそう思った瞬間、ニャオハの爪に集まっていた光が突然弾け飛び、ニャオハの爪から光が消えた。
「ニャ?」
ハトーボーまであと僅かという空中でニャオハの跳躍が止まり、そのまま垂直に落下する。
幸い、着地自体には問題無い。
「ハトーボー……エアカッター……」
「ボ、ボォォ!!」
ハトーボーが巻き起こした風の刃がニャオハに直撃し、ニャオハは気絶した。
「Fin de la formation。そこまで」
訓練はなんとも呆気ない間の抜けた幕引きとなった。
訓練後の研究所ではニャオハがニールの診察を受けている。
訓練でハトーボーから受けた怪我自体は傷薬を使うことですぐに治すことが出来たが、問題は最後のニャオハの技が不発に終わったこと。
ニールはニャオハの口の中や目の動き、爪、聴診器を持ち出して呼吸や心音まで細かく確認する。
3人はニャオハの診察が出るのを固唾をのんで見守っている。
「うん、異常無し!!」
ニャオハはニールから離れて、ソリダゴの腕の中へと戻っていく。
その診察結果にやや不安げな3人。
「ニール博士、異常無しって……技も不発だったし、指示も聞かなかったし……」
「まあまあ、その理由は今から説明するよ。いや、技の不発の件はともかく、指示を聞かなかったことには心当たりがあるんじゃないかな?Monsieur ソリダゴ」
ニールの言葉にソリダゴは頷いた。
ソリダゴがニャオハと出会ってから、二人は来たる任務に向けて訓練を続けていた。
それはフキヨセ村での失敗を経て、ハナナとテフラと行う訓練とは別に毎日続けている。
それはあくまでもソリダゴとニャオハだけの訓練で、他者との連携を考えない一対一の戦闘を想定した訓練だった。
その訓練の中では、的を狙えば百発百中、技の威力もゼニガメくらいならば一撃で倒せるくらい強化している。
しかし、肝心の連携となるとニャオハは訓練で鍛えた力を充分に出しきれずにいた。
ソリダゴも連携のことばかり考えていて、十分にニャオハに指示を出せない状況が続いていた。
その苛立ちが爆発してしまったのだ。
「ボクは戦闘のことはわからないけど、今のニャオハはスッキリした様子に見えるよ」
ニールがニャオハに視線を向けると、ソリダゴの腕の中で自分の匂いを擦り付けるニャオハの姿があった。
訓練とは言え、戦闘で負けたばかりとは思えないほど安心しきった顔をしている。
「俺、連携や勝てない状況に消極的になってたんだと思います。相手に合わせなきゃいけないとか、勝てない状況をどうやり過ごそうかとか……でも、テフラを見て思ったんです。これじゃダメだって」
テフラがヨノワールと対峙した時に比べれば今日の訓練の状況はあまりにも"楽"な状況にも関わらず、自分が最初から諦めていることにソリダゴは気づいた。
「だから、止めないでくれてありがとうございました」
ソリダゴは頭を下げ、ニールは微笑んだ。
「でも、ニャオハの技が出なかったのはどうしてだろ?」
ハナナが今回の訓練の1番の謎に食い込んだ。
あの時のニャオハは確かに全力でハトーボーに立ち向かい、ソリダゴもそれに応えようとしていた。
しかし、技は不発だった。
「その答えを言う前にキミ達に問題。ヒトとポケモンの違いを"3つ"答えて」
"3つ"という数に3人は顔をしかめた。
訓練課程の座学でもポケモンとヒトの違いを習うことはあったが、その数は"2つ"だ。
「ハイ!!」
ハナナが学生のように挙手をする。
「mademoiselle ハナナ」
「ポケモンは技を使います」
「c'est exact。正解です」
ポケモンが技を使うのはヒトとの大きな違いだ。
例えば体当たり一つでも、人間が体当たりする場合とポケモンが体当たりする場合とでは威力が異なる。
例えばズルッグのように小柄なポケモンでも大人1人を軽々と倒せる威力が"技"にはある。
加えて、技には謎の部分が多い。
例えばゼニガメの水鉄砲の水が体のどこで生成されているのか厳密にはわかっていない。
様々な点においてポケモンが技を使えるのは人間との大きな違いと言える。
「2つ目はポケモンは進化します」
テフラが答えようとしたが、ソリダゴに先を越された。
「c'est exact。正解です、Monsieur ソリダゴ」
訓練のハトーボー然り、ポケモンの中には進化するポケモンが数多く存在する。
進化することで変わるのは見た目とポケモンの戦闘能力。
特に戦闘能力は進化することで飛躍的に強化される。
特に有名なのはコイキングとギャラドスだろう。
コイキングは世界で最も弱いポケモンと評されるが、進化したギャラドスは全てのポケモンの中でも屈指の凶暴性を持つ強いポケモンになる。
これは進化し、戦闘能力が向上したことが関わっていると言われている。
ここまでは訓練課程で教わった内容で、テフラもわかっている内容だった。
しかし、残った3つ目は訓練課程では習っていない内容で、テフラには見当もつかない。
当然ハナナとソリダゴにもわからない。
「3つ目はね……環境の影響を受けやすい、だよ」
そう言いながら、ニールは一冊の本を取り出すと、あるページを開いて3人に見せた。
そのページにはロコンとサンドが描かれている。
一見するとハルモニア王国で見られる姿と変わりない。
「これはアローラという地方で見られるロコンとサンドなんだけど、見た目はほとんど変わりないよね?でも、次のページを開いてみて」
そう言われて、ページをめくると、ナッシーというハルモニア王国では見られないポケモンの絵が描かれている。
見開いた片方のページには樽のような胴体に脚が生えていて、木の実のような3つの頭があるポケモンが描かれている。
そして、もう片方のページには3つの頭はよく似ているが、首が恐ろしく長いポケモンが描かれている。
「これって同じポケモンなんですか!!?」
「Oui mademoiselle ハナナ」
アローラと呼ばれる地方では、それ以外の地方で見られるナッシーとは大きく見た目が異なる。
先に紹介したロコンとサンドも含めたこれらのポケモンは見た目だけでなく、タイプも異なる。
「これらのポケモンは環境に適応した姿、リージョンフォルムと呼ばれていてね、ナッシーで言えばアローラの日差しの強さが進化に影響して、こういう長い首になったと考えられているんだ」
3人が訓練課程で学んでいる座学はあくまでもハルモニア王国に限った内容だが、世界には3人の知らないポケモンの世界が広がっていると感じた。
「でも、これらがニャオハの技が不発だったこととどう関わるんですか?」
「ああ~……結論を言うとね、進化の兆しだよ」
随分勿体ぶらせておきながら、結論は呆気ないものだった。
ニールの話では、ニャオハの技が不発だったのは新しい技を出すための力が不足していたためで、そうした現象は進化や新しい技の習得の際によく見られる。
ニャオハが訓練の最後に出した技はひっかくの予備動作から、草タイプの技でひっかくに似ている技を出そうとしていた。
「たぶん、あの技はリーフブレードかな」
リーフブレードという強力な技を出すためには、如何に訓練を重ねているニャオハと言えど力不足だった。
そのために不発だったのだ。
しかし、ここまでは技が不発だった理由にしかなっていない。
「では、どうして進化の兆候と言えるのか?それはね、そもそもニャオハは進化してもリーフブレードを本来覚えないんだ」
「本来覚えない技?」
「そう。そこで関係するのが環境の影響」
ポケモンは進化することで進化前には覚えない技を覚えたり、覚える技の幅が広がる。
そのためニャオハが本来覚えないリーフブレードを使おうとしていたことが、進化の兆候と言えるだろう。
加えて、リージョンフォルムと同じように環境が違うことで、これまでニャオハやその進化形であるニャローテが覚えないリーフブレードを使おうとしていたと考えられる。
しかし、環境の何が影響しているのかはニールにもわからないのが実情だ。
「いずれにせよ、今回の訓練やこれまでの訓練は決して無駄ではなかったって言うことだよ」
ソリダゴは腕の中で寝息を立てるニャオハに視線を向けた。
進化を目前に控えているニャオハに対して、自分にはまだまだ未熟なことが多いと痛感する。
いや、これからもきっとニャオハの進化や様々な任務を通じて、自分が知らない自分の未熟さを思い知ることになる予感がある。
それはきっと辛いことばかりではなく、自分が前進している喜びにも繋がっている。
「だからこそ……」
ソリダゴはその先の言葉を飲み込んだ。