ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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不穏な閃き

翌日のシーカー4人は王都東部にある工業地域、通称クラフトストリートに来ていた。

この場所では家具や日用雑貨、騎士団で使う防具などの様々な物が製造されている。

中でも有名なのが、プラズマ騎士団で使われる全てのモンスターボールの製造を担っている"大工房"。

二十年ほど前にモンスターボール職人であるマスター・コウテツがこの国を訪れ、この国にモンスターボール製造の技術を伝えたことに始まる。

ポケモンの生態調査をするニールにとっても、マスター・コウテツは弱ったポケモンがぼんぐりの中で療養するという偉大な発見をしたグランドマスター・インテツの門下生。

是非一度会って、グランドマスター・インテツの話を聞きたいと思っていたのだが、フキヨセでの一件以来忙殺されていたため今まで叶わなかった。

そのためなのか、まるで踊るような軽やかな足取りで歩いている。

 

 

 

事の始まりは数時間前の朝食の時の会話だ。

 

「もしニャオハが進化したら訓練はどうするの?」

 

ハナナのそんな些細な問いかけがキッカケだった。

ニャオハが進化し、ニャローテになった場合、ポケモン同士の能力に差が大きくなるため連携の訓練は難しくなるだろう。

一対一の戦闘訓練でも、ニャローテという1段階進化したポケモンが相手では他3匹では難しい。

かと言って、ニャローテ対他3匹となるとニャローテが不利になってしまう。

 

「それなら新しいポケモンを捕まえるのはどうかな?」

 

ニールはご尤もな結論を提示した。

戦力が偏る、戦力が不足するのであれば、ポケモンを捕まえて戦力を強化するというのは至極当然な話ではある。

 

「それは、そうなんですけど〜、モンスターボールが1個じゃ心もとないな〜って思うんです」

 

「仕方ないだろ?モンスターボールは任務に出る団員に支給される。でも、シーカーにはその任務が回ってこないんだからモンスターボールも支給されない」

 

今あるのはフキヨセでの一件の報酬でもらったモンスターボールをソリダゴとハナナが1個ずつ。

テフラに至っては、ズルッグの捕獲に使ったためモンスターボールを持っていない。

 

「"大工房"に行ったら余ってるモンスターボールとかもらえないかな〜」

 

「それはさすがに図々しいだろ」

 

「ん?"大工房"って?」

 

「あれ?博士まだ行ったことないんですか?ハルモニア王国が誇るモンスターボール製造所"大工房"」

 

「マスター・コウテツっていうボール職人が……」

 

コウテツの名前を聞いた瞬間、ニールは立ち上がった。

 

「ボクとしたことが!!マスター・コウテツ!!?グランドマスター・インテツの門下生じゃないか!!行こう!!すぐ行こう!!dépêche-toi!!」

 

こうして、3人は半ば強引にニールを大工房へと案内することになったのだ。

 

 

 

 

そして、現在4人は巨大な煙突がそびえ立つ大工房へとたどり着いた。

中には鉄を熔かすための熔鉱炉やモンスターボールを製造に使うであろう様々な道具が並んでいる。

しかし、誰もいない。

熔鉱炉にも火は点いていない。

工房の隅にはぼんぐりと鉄鉱石があるようだが、モンスターボールの製造が行われている様子は無い。

 

「Bonjour!!どなたかいらっしゃいませんか!?」

 

逸る気持ちを抑えきれないニールが叫んだ。

しかし、返ってくるのはニールのこだまだけ

留守にしている可能性も考えられるが、モンスターボールはプラズマ騎士団の必需品。

そんな大事な物品を製造している大工房が、材料があるにも関わらず、製造を停めることなど考えにくいことだった。

すると、ようやく工房の奥から足音が聞こえてきた。

ニールは遂に念願のマスター・コウテツに会えると思い、身だしなみと背筋を正した。

しかし、現れたのは日々のボール製造で鍛えられたであろう屈強な体をした40歳くらいの男性。

コウテツはジョウトと呼ばれる東洋の異国から来た60歳を超える老人のはずだった。

 

「ようこそ、大工房へ……アンタ達は?」

 

「Bonjour。ボクはプラズマ騎士団ポケモン調査隊シーカーのカンパ・ニール!!」

 

「シーカー?……ああ、あの町で噂になってる"便利屋"か?」

 

シーカーの名前が妙な知れ渡り方をしていることにソリダゴは頭を痛めた。

仮にも奉仕活動は中止命令が出ているにも関わらず、あくまでも個人として活動を続けている。

いつかバレるかも知れない。

いや、もうバレているかも知れない。

 

「…………まあ、立ち話もなんだ。付いて来な」

 

男に案内されて、工房の奥の休憩室へと案内された。

案内された休憩室は見たことがない植物が織り込まれた床で、男は休憩室に入る前にブーツを脱いで、休憩室へと上がった。

 

「悪いが、靴を脱いでくれ。タタミが汚れる」

 

言われる通り、4人は靴を脱いで休憩室へと上がる。

休憩室はここがハルモニア王国だと言うことを忘れてしまう程、異国の作りになっていた。

 

「それで……騎士団のシーカーの面々が大工房に何の御用で?まさかモンスターボールの催促じゃないだろ?」

 

休憩室の奥であぐらをかく男は鋭い視線を4人に向ける。

ソリダゴ、ハナナ、テフラはその威圧的な視線に気後れするが、ニールだけは休憩室を忙しなく見渡している。

 

「この造りは……オザシキ……ですか?」

 

「ん?ああ、マスターの国の部屋の造りを模したそうだ。俺もよくわからないが、床や地べたで休むより柔らかいし、いいよな」

 

男の顔から威圧感が消え、愛おしそうにタタミを撫でている。

 

「ああ、まだ名乗ってなかったな。俺はシルフ。ニールだっけ?アンタ、変わってるな」

 

「そんなことはありませんよ」

 

褒められている訳では無いはずなのに、ニールは嬉しそうに照れ笑いする。

それを見たシルフはまるで警戒するのがバカバカしくなり、ニールと一緒に笑った。

 

「ああ、ボクらがここへ来たのはマスター・コウテツにお会いしたいと思ったからです、Monsieur シルフ。モンスターボールの催促……では、ありませんが、今日は作られていないんですか?材料はあるようですが?」

 

ニールがここへ来た用件を伝えると、シルフは目を丸くして驚くが、すぐに何かを納得したように頬杖を付いて呆れた様子でニールを見た。

 

「思い出したよ。変わったやつが騎士団に入ったって話。アレだろ?僻地の村をポケモンに守らせるって言ったんだろ?おかげでコッチはモンスターボールの受注が増えて大変だったんだぞ?」

 

フキヨセ村での一件でニールが提案したポケモンを使った村の防衛手段、通称フキヨセプランは僻地の村々で行われることが決まっていた。

プランでは村の作物を狙うポケモン達に作物を与えることで、村を守ってもらうという簡単な内容だが、それではポケモンが暴走した時の対策が甘いとされていた。

そこで僻地の村々にモンスターボールを配り、もしもポケモンが暴走するようなことがあれば、モンスターボールに戻すように一部見直されている。

当然、そのモンスターボールを作っているのは大工房の職人達であり、その1人がシルフだった。

 

「ただでさえ、"玉石(たまいし)"が無いのによ……」

 

「玉石が無い?」

 

玉石はモンスターボール作りに必要な素材の一つだ。

確かにぼんぐりや鉄鉱石があったが、玉石が入った木箱は見当たらなかった。

 

「アンタ達、ホント何も知らされてないんだな……まあいい。俺の知ってる範囲のことは教えてやるけど、あまり言いふらすなよ?」

 

シルフはどこから話すか迷いながらも、知っていることを包み隠さず言おうと姿勢を正した。

 

「今、大工房ではモンスターボールの素材に使う玉石が無くてモンスターボールが作れない。それから、マスターに会いたいようだが、マスターはもうここにはいない」

 

 

 

 

 

 

二十年程前の話。

それまでハルモニア王国で作られていたモンスターボールは、ポケモンに投げると上手く開閉装置が起動せず壊れたり、無事捕獲出来たとしてもボールからポケモンを出そうとするとボールが砕けたりと粗悪な物が多かった。

それを知ってか知らずか、ある日モンスターボール職人であるマスター・コウテツが王国を訪れた。

コウテツはハルモニア王にモンスターボールの製造方法とその担い手の育成を申し出てた。

もちろん、無償の慈善活動という訳では無く、一つ条件を出した。

コウテツは師であるグランドマスター・インテツの夢のどんなポケモンでも"必ず捕まえる"モンスターボールの製造を模索していた。

その製造の鍵はモンスターボールの製造過程で使う鉱石やその配合比率だと考えていた。

そのため、モンスターボールの製造方法と担い手の育成の報酬として、ハルモニア王国で採掘される鉱石を譲ることを条件とした。

ハルモニア王は当時抱えていたポケモンからの被害を食い止める要因になればと、コウテツの出した条件を快諾する。

以降、十年の歳月を掛けて、多くのモンスターボール職人を育成し、その技術でプラズマ騎士団が使うモンスターボールを大量生産する大工房まで作った。

しかし、それだけの成果を上げたにも関わらず、待っていた報酬はコウテツの望む物ではなかった。

確かに報酬で得られた鉱石はこれまでコウテツが渡り歩いてきたホウエンやカロスで見つけた鉱石とは違った。

ホウエンやカロスで見つけた鉱石は硬過ぎて加工に適さない上に採掘される数も多くないため、モンスターボールの試作や、その先の量産には向かないため物だったそうだ。

しかし、ハルモニア王国で採掘される鉱石は採掘量も多く、安定して試作ができ、モンスターボールが完成すれば量産するには十分な量があった。

ただ報酬の鉱石をどんな配合比率を試そうと"必ず捕まえる"モンスターボールには程遠い物にしかならなかった。

それから更に5年。

王国で採掘される様々な鉱石を様々な配合比率で試行するも望んだ結果が出せない。

そんなある日、大工房に一通の置き手紙を残して、コウテツは大工房から去ることになる。

 

『我が師の夢を叶えたく進み幾星霜。

進む我が道は険しく、道半ば。

日々研鑽を積み、日々熟考を重ねても尚届かね我が願い。

我が道が過ちである可能性に目を背け、錆びていくこの体は進むことも、また帰ることさえ叶わぬ。

ならば、余生は深き山懐にて過ごし候。

諸君らにおいては、我が技術の全てを授けた。

決して楽しき事ばかりでは無かったであろうと思う。

だが、どうか愚かな私の最後の我儘を我が師の言葉を借りて贈りたい。

 

モンスターボールを世に広めよ。』

 

 

 

 

「以来、モンスターボールの製造は俺達が行っている」

 

遺書とも読める置き手紙を見ながら、3人は神妙な面持ちで見つめ合った。

 

 

 

 

コウテツがいなくなったことが世間に知られてしまうと、モンスターボールの信用とそれを扱う騎士団の信用に影響が出る恐れがあったため、大工房の職人と一部の騎士団員と王族にしかこの事を知らない。

もちろん、コウテツがいなくなった後の5年間のモンスターボールの製造で問題は今まで無かった。

しかし、数週間前、何の前触れも無く、業者からの素材の仕入れが止まった。

幸い、ぼんぐりならば王都周辺にも自生しているため、採集することが出来た。

鉄鉱石もまた他の鉄工所や金物店から融通してもらえたのだが、玉石だけはモンスターボールの製造にしか使わない。

その玉石の仕入れが止まったことで、大工房ではモンスターボールを作ることが出来なくなった。

 

 

 

 

 

「最初の内は事前に作っておいたモンスターボールを納品してた。そしたらプランがどうとかで、残ってた玉石を使って、なんとかモンスターボールを作ることが出来たが、それで完全に玉石の在庫が無くなったからな。以前から依頼していた玉石の採掘任務の部隊が今朝方出掛けたそうだぜ」

 

マスター・コウテツの不在と玉石の不足によるモンスターボール製造の停止、そして、玉石の採掘。

どれもシーカーには伝えられていない情報だ。

どれも気になる話ではあるが、1番に口火を切ったのはハナナだ。

 

「あの、その後マスター・コウテツはどうなったんですか?」

 

5年も前にいなくなったとなれば、安否が不安になる。

もしかすると最悪の事態だって考えられる。

 

「ああ、大丈夫だよ、嬢ちゃん。マスターは高齢だが、冬のネジ山でツンベアー相手に試作したモンスターボールのテストを生身でするような方だ。今はカナワ盆地にいるそうだ」

 

カナワ盆地という地名を聞いて、土地勘のある3人は青ざめる。

カナワ盆地は王国の北西部に位置する周囲を山々に囲まれた盆地だ。

かつて鉄鉱石や石炭などの採掘を試みたことがあったそうだが、悪路と野生ポケモンの多さから断念した経緯がある曰く付きの未開拓地だ。

そんな所に60歳を過ぎた老人が1人とは考えられないが、当のシルフは笑いながら過去のコウテツの武勇伝を話している。

 

「あ、あの!!」

 

「なんだい?」

 

「本当に大丈夫なんですか?だって、カナワ盆地ですよね?」

 

「ああ。マスターはモンスターボール職人であると同時にポケモン使いだからな。相棒のマグカルゴがいるし、出て行った後にケンホロウを捕まえたらしくて、ケンホロウを遣いに出して時々酒やら食料の買い出しを頼まれるんだ。俺や他の職人達には真似出来ねえよ」

 

そう言って、シルフは大笑いする。

にわかには信じられない内容だが、大工房の職人が言うのだから、そうなのだろうと苦笑いするしかない3人。

その一方でずっと唸りながら何かを考えるニール。

コウテツの話や安否ならば割って入る勢いで話すと思われる彼が無言だった。

 

「ニール博士?どうかしましたか?」

 

「ん?ああ~ちょっとね。Monsieur シルフ、玉石は普段どこから採掘されるのですか?」

 

話が突然玉石の話に変わった。

 

「え?玉石?ああ……"ダンゴロ洞窟"だ。ちょっと待ってな」

 

そう言って、シルフは休憩室を離れると、どこからかハルモニア王国の地図を持ってきて、4人の前に広げた。

 

「ダンゴロ洞窟はここだ」

 

シルフが指さしたのは地図の右下の隅。

つまり、王国の南東部を指した。

ダンゴロ洞窟はその名の通り、ダンゴロが多く生息する洞窟だ。

 

「随分王都から離れていますね」

 

「ああ。ネジ山や電気石の洞穴の方が近いが、ネジ山は強いポケモンが多くて行けないし、電気石の洞穴はそもそも玉石の採掘量が少ないそうだ。だが、ダンゴロ洞窟は安定して玉石を採掘出来るし、近くのシッポウタウンから鉄道が走ってる。その先は港からホドモエまで海路で運搬するから、離れていても十分な量を王都に運べる訳だ」

 

シルフは指で地図をなぞりながら、運搬経路を説明する。

ダンゴロ洞窟のある南東部に繋がる陸続きの道はあるものの、開拓されていない部分もあり、鉄道や海路を使った方が早くて多くて確実と言える。

 

「何か原因があるんですか?」

 

「それがわかれば苦労してねえよ。採掘を委託していた"ホワイト・ゴード社"に聞いても門前払いさ」

 

ホワイト・ゴード社。

ハルモニア王国のあちこちで採掘事業を行う企業で、玉石だけでなく、鉄鉱石や石炭などの採掘も行っている。

そんな信頼される企業から突然の納品の停止。

何か理由があるのだろうが、残念なことにこの場にいる全員が"商売"に関しては専門外だ。

だからこそ、ニールだけが自分の専門分野で現状を考えることが出来ていた。

しかし、答えを導き出すには情報が少ないのか、眉間にシワを寄せて、腕組みをして再び考え事を続けている。

 

「アンタ達、騎士団なんだろ?一つ頼まれてくれないか?」

 

考え事を始めるニールを横目にシルフは胸から1枚の封筒を取り出した。

 

「マスターに宛てた手紙を届けてほしいんだ。ケンホロウに頼めたらよかったんだが、次にいつ来るかわからないからな」

 

ハナナは差し出された手紙を受け取った。

ハルモニア王国にも郵便局はあり、近隣の村や町から集めた手紙を王都の郵便局で仕分けした後に宛先に届けるのだが、カナワ盆地には届けられないだろう。

僻地であることも理由の一つではあるが、何より野生のポケモンへの対応が郵便局員には出来ない。

こういう手紙の配達は騎士団に頼むのが、確実ではある。

ただ、騎士団は便利屋ではない。

届けないことは無いが、優先順位が低い任務として扱われることがある。

しかし、差出人は大工房の職人となれば優先順位は高くなるだろう。

 

「なるべく早く頼めるか?」

 

「準備もあるので、出発は明日になると思いますが、必ずお届けします!!」

 

ハナナは手紙をしっかりと鞄の中に入れた。

 

 

 

 

その後、考え事を続けるニールをハナナが引っ張り、テフラが押して、帰路へとついた。

ソリダゴはそんな3人を誘導する係だ。

そのせいなのか、それとも昼時で小腹が空いてきたせいか、ソリダゴの案内は大通りへと向かっている。

たどり着いたのは、ナンディナ商会青果店。

今日も人だかりが出来ており、大盛況のようだ。

 

「さあさあ!!先日皆様にご好評いただきましたトロピカルフルーツの先行販売!!ご好評につきまして本日もトロピカルフルーツの先行販売をご用意させていただきました!!」

 

よく通る透き通った女性の声。

紅い髪が美しいナンテン女将が店の前で客引きをやっている。

ソリダゴは自分の懐の財布に手を伸ばした。

 

「3人はここで待ってな。俺、買ってくるから」

 

そう言って、そそくさと先行販売の人だかりに割り込んでいく。

先日の先行販売の効果もあってか、客の目当てはトロピカルフルーツばかり。

 

「数は十分にご用意出来ましたので、ご安心くださ〜い」

 

ナンテン女将が客に安心して買い物が出来るように声をかけるが、トロピカルフルーツは飛ぶように売れていく。

そして、ようやくソリダゴの順番が回ってきた。

 

「いらっしゃ……あら?こないだのお兄さん!!」

 

「ど、どうも……」

 

「お兄さんのおかげで、前回も今回も大盛況です。本当にありがとうございました」

 

「い、いえ……自分は何も……」

 

ソリダゴは思わずナンテン女将から目を背けてしまった。

 

「あ、ト、トロピカルフルーツ……えっと、六本いただけますか?」

 

「ハイ、トロピカルフルーツ六本」

 

ナンテン女将はカゴからトロピカルフルーツを六本取り出して、ソリダゴに手渡した。

六本ともなれば、1人で持つのは少し大変な量で、ソリダゴは危うくトロピカルフルーツを落としてしまいそうになる。

しかし、ナンテン女将が落ちないように手を添えた。

その瞬間、わずかにナンテン女将の指先がソリダゴの手に触れる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ハ、ハイ!!大丈夫です!!あ、お代です!!」

 

ソリダゴはすぐに支払うことが出来るようにと握りしめていた硬貨を差し出し、ナンテン女将がその硬貨を掬うように丁寧に受け取った。

 

「毎度ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 

丁寧にお辞儀をするナンテン女将。

微かに甘い花の蜜のような香りが漂い、ソリダゴは逃げるようにその場から立ち去った。

胸が走るように打ち、顔が熱くなる。

そんな自分の姿を見られたくなかった。

 

 

人だかりから抜け出し、自分の戻りを待つ3人の元に帰る。

ニールは相変わらず考え事を続けている。

 

「おかえり、ダゴ兄」

 

「あ、ああ……」

 

ソリダゴはハナナにトロピカルフルーツを一本渡し、テフラには二本渡した。

 

「一本はゼニガメ達の分だからな」

 

テフラは頷き、モンスターボールから二匹を出した。

 

「ゼニゼニィ」

「ズルッグ〜」

 

テフラはトロピカルフルーツの皮を剥き、一本を半分にするとゼニガメとズルッグに手渡した。

 

「ゼニィ」

「ルッグゥ」

 

二匹とも美味しそうにトロピカルフルーツを頬張っている。

それを見ながら、テフラもトロピカルフルーツを頬張る姿は微笑ましい。

ソリダゴはモンスターボールからニャオハを出して、トロピカルフルーツの半分を渡した。

 

「フニャ〜」

 

ニャオハも嬉しそうにトロピカルフルーツにかぶりつく。

残ったもう半分はハナナに渡す。

ハナナもまたモンスターボールからアチャモを出して、食べやすいように千切って食べさせる。

 

「チャモモ〜」

 

アチャモは美味しさを全身で表現するように飛び跳ねる。

残った2本の内、1本はソリダゴが自分の鞄にしまい、最後の1本の皮を剥くとニールに差し出した。

 

「merci」

 

ニールはうわの空でトロピカルフルーツを口に運ぶ。

 

「ん〜!!C'est très bon!」

 

ようやく普段のニールが戻ってきた。

4人と4匹のポケモンが町中で果物を摘む光景はまだまだ異様なこの時代。

しかし、確かにこの空間だけは彼らにとっての理想的な日常の光景だった。

 

「そうだ……キミ達の中でダンゴロ洞窟に行ったことがある人は?」

 

ニールが最後の一口を飲み込んだ後に3人に問いかける。

ダンゴロ洞窟は王国の南東部の僻地。

騎士団に入っているとは言え、3人にはそんな遠くまで遠征する機会は無く、また騎士団に入る前には行くことすら出来ない場所だ。

3人は一様に首を振り、その姿を見たニールは手帳を取り出し、何かを書き始めた。

 

「ソリダゴ。ダンゴロ洞窟の内部がわかる資料ってどこにあるかな?」

 

「洞窟の資料……たぶん、騎士団の資料室にあると思います」

 

「Génial ! では、ソリダゴには資料室でダンゴロ洞窟の資料を探してきてもらおう。それから、ハナナとテフラには以前採掘をしていたというホワイト・ゴード社に行ってきてほしい。このnoteに書かれた内容について聞いてきてほしいんだ」

 

そう言うと、ニールは先ほどから何かを書いていた手帳のページを破り、ハナナに渡した。

 

「博士、急にどうしたんですか?」

 

大工房から様子がおかしいと感じていたが、今は何かを閃いたような様子で動き出している。

 

「…………ソリダゴ、ハナナ。そして、テフラ。もちろん、これは憶測に過ぎないし、単なるボクの早とちりならいいんだ。でも、もしも万が一の場合…………採掘隊の命が危ない」

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