ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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2つの道〜遭遇編・1〜

ハルモニア王国北西部のカナワ盆地は未開拓地で、当然街道の整備は行われていない。

ハナナとテフラは地図を見ながら、磁石で自分達の位置を確認しながら道無き道を進む。

行く手を阻むように広がる名も無い森。

木々の間から差し込む光が森を照らし出し、油断していると光の方へと誘われてしまいそうになる。

しかし、ハナナとテフラには訓練の経験がある。

現実と見分けがつかない幻影を見せるというゼロアやゼロアークが人間を惑わそうとしない限り、2人が迷うことはない。

ハナナは座学で優秀な成績を修めているし、テフラは訓練課程で優秀とは言えない成績だったものの、シーカーとしての活躍、特に戦闘面ではシーカーの3人の中で一歩先を進んでいる。

そのため、ハナナは道案内を担当し、テフラが護衛を担当して、この長い道のりを進んでいる。

とは言え、ゼブライカという気性も荒いポケモンに乗っていることで、接近してくる野生のポケモンはいない。

余程のことが無い限り、野生のポケモンは進んで危険に近寄ることなど無い。

そのためカナワ盆地への道中で野生のポケモンとの戦闘は無く、王都の出発から3日目の昼前にはカナワ盆地を形成する山々の麓までたどり着くことが出来た。

ここからは出発前に大工房のシルフからもらったコウテツの居場所が分かる地図を頼りに進むことになる。

 

「なんとか今日中には見つけたいね」

 

ハナナはもらった地図を見ながら、テフラに声を掛ける。

地図によるとコウテツはカナワ盆地の内側ではなく、外側にいることがわかった。

地図にはカナワ盆地を形成する山々や方角や目印となる太陽の絵とアーボのような川の絵が描かれ、その1点にバツ印が書いてある。

バツ印と川はカナワ盆地の東側に描かれているため、コウテツはカナワ盆地の外側の東部、川の近くにいるようだ。

 

「まずは山の麓を歩きながら、川を探そう」

 

ハナナは地図を鞄に入れて、ゼブライカを歩かせる。

その後ろをゼブライカに乗ったテフラが続く。

普段であれば、2人の前にはソリダゴがいて、2人はその背中を追い掛けるだけで目的地に到着する。

しかし、今はそのソリダゴがいない。

そして、自分達のいる場所は詳しい地図が無い未開拓の土地。

知らない場所を進む興奮と未知への恐怖、そして、ソリダゴがいないことの不安が入り混じる奇妙な高揚感が2人の胸の奥でうごめいている。

 

 

しばらく進むと、突然ゼブライカの足が止まった。

2人は無理に歩かせようとはせずに、ゼブライカの様子を伺い、足踏みを始めた。

ゼブライカは気性の荒いポケモンで、いくら調教師による調教を受けていようと生まれ持った本能にはなかなか抗うことが出来ない。

縄張りの異変を察知すれば、電光石火の速さで走るのがゼブライカの本来の習性だ。

しかし、調教されたこのゼブライカ達は周囲に異変を察知すると、立ち止まり、周囲を警戒し、何かがあればその場で足踏みをする。

 

『騎士団のゼブライカ達に乗る機会があれば、行動をよく見ていろ。異変を察知して、足踏みをするなら慌てずその場から離れろ』

 

ナルカミ教官の言葉を思い出した2人は顔を見合わせ、一度来た道を引き返す。

この足踏みは単なる異変を察知する合図ではない。

これは本来のゼブライカが異変の元へと向かおうとする本能を、理性で抑えるというゼブライカにとっては耐え難い状況でもある。

足踏みした場所から離れるのは、そんなゼブライカを落ち着かせる必要があるからだ。

ゼブライカが足踏みをした場所から十分に離れた2人は、一度鞍から下りて、ゼブライカを落ち着かせるように体を撫でた。

これも訓練通りだ。

 

『離れた後は異変の確認。もしも自分達で対応出来るなら対応してもいいが、対応出来ないと判断したら迷うことなく迂回、または撤退しろ。それからゼブライカを自分の戦力として数えるな。あくまでもゼブライカは移動手段。足が無くなれば、帰還や任務の遂行に支障が出る。わかったな!?』

 

耳の奥で蘇るナルカミ教官の教え。

2人はゼブライカが落ち着いたのを確認すると、先程ゼブライカが異変を感じた場所まで徒歩で向かう。

異変の正体がわからない以上、なるべく音を立てないように慎重に進む2人。

こまめに互いに顔を見合わせ、手信号を用いて会話をする。

 

〔異変 確認 可能 ?〕

 

ハナナにはまだ異変を確認出来ていない。

テフラは目を閉じ、何か異変を感じるか確認するが、今の所何もわからない。

 

〔前進 我 後続〕

 

ハナナは戦闘面で自分よりも優秀で経験豊富なテフラの先行を促した。

もしも、野生のポケモンと遭遇した場合、テフラの方が状況を判断出来ると考えたからだ。

その提案にテフラも手信号で了解を伝えて、先に進む。

静かな森。

風が木々の間を駆け抜け、葉を揺らす。

微かに聞こえる物音は野生のポケモンがうごめく音。

鳴き声も聞こえる。

 

「ーーーーーーー!!」

 

森の中に明らかに、この場所にそぐわない"声"が聞こえた。

テフラは振り向き、ハナナを見た。

ハナナにも"声"が聞こえたようだ。

 

〔確認 続行〕

 

聞こえてきたのは"声"。

ポケモンの鳴き声ではなく、"人間の声"だ。

声との距離がまだあるのか、何を言っているのかわからない。

未開拓の土地に聞こえる声として考えられるのは、カナワ盆地のどこかに隠居するコウテツが真っ先に思い浮かぶ。

しかし、声に近付くに連れて、その可能性は低くなる。

声は比較的若い男の声。

コウテツである可能性は消える。

他に考えられるのは、遭難者が助けを求める声。

 

「クソ!!クソ!!クソ!!何でこんなことばっかりしなきゃならねえんだ!!」

 

ようやく声が聞き取れるくらいの距離まで近付き、聞こえてきたのは酷い悪態をつく男の声。

遭難者でもない。

2人は茂みの奥から声のする方を覗き込んだ。

 

 

そこは大量のぼんぐりの木の群生地で見渡す限り、ぼんぐりの木で埋め尽くされている。

その内の1本に2人の男が立ち、2人で必死にぼんぐりを集めている。

1人の男が木を揺らし、もう1人が落ちてきたぼんぐりをカゴに入れて、近付くの荷車に積み込んでいる。

それだけなら、騎士団でも行っているから珍しい光景ではない。

しかし、問題なのはぼんぐりを集めている男達が騎士団ではないということと、必要以上にぼんぐりの木を揺らして、熟しきっていないぼんぐりまで集めようとする姿。

ぼんぐりは成熟が早く、モンスターボールに加工するならば熟して地面落ちた物や、木を軽く揺らして落ちてくる物が丁度いいとされている。

対して、今木を揺らしている男は木の幹を蹴るわ、体当たりをするわで、熟しきれていないぼんぐりまでも無理矢理落としている。

 

「無駄口言ってる暇があったら、そろそろ代われ。腰が痛ぇんだよ」

 

「でもよ、アニキ……俺達もっとビッグに大儲けするために入ったはずなのに、来る日も来る日も、ぼんぐり集めばっかりじゃねえですか?無駄口だって出ます、ぜ!!」

 

弟分の男が最後の一蹴りをいれるが、ぼんぐりは落ちてこなかった。

この木で採れる分を採り尽くしてしまったようだ。

男達はぼやきながらも、ぼんぐりを拾い集めて、カゴに入れると荷車に積み込んだ。

 

「俺達ぁ、まだ新入りの下っ端なんだ。こんなんでも、金払いはいいし、その内デケー仕事だって回してもらえるさ」

 

「でも、どうせならもっとド派手なことしたいぜ、"ファイヤワークス"に入ったんだから、よ!!」

 

 

 

「ファイヤワークス!!?」

 

 

 

茂みの奥に身を潜めて、男達の様子を確認していたハナナとテフラだったが、ファイヤワークスという単語を聞いて、ハナナが思わず叫んでしまった。

ファイヤワークスと言えば、ホワイト・ゴード社に代わって、ダンゴロ洞窟で採掘を行っている企業の名前だ。

 

「誰だ!?」

 

ハナナの声に気付いた男達は振り向いて、2人が隠れている茂みを睨みつけている。

ハナナとテフラは互いに顔を見合わせ、頷くと、茂みの中から姿を現した。

 

「プ、プリャズマ騎士団です!!」

 

ハナナが名乗りをあげるが、噛んでしまう。

 

「こ、ここは、国有地です!!国有地での資源の乱獲は……犯罪です!!ほ、法に則り、ほほ、捕縛します!!」

 

ハナナは緊張のあまり言葉が吃ってしまう。

テフラは捕縛用のロープを見せて、捕縛する意思を見せる。

対する男達はきょとんとした様子で互いに顔を見合わせ、そして、腹を抱えて笑い出した。

 

「こ、これはこれは……プ、プラズマ騎士団の方ですか。クククッ……ああ、失礼。あまりにも小さい騎士達だと思いまして」

 

兄貴分の男が笑いながら答える。

確かにハナナとテフラは15歳。

しかし、15歳と言えど騎士団である以上、違法行為をする人間を捕縛する権限を持っている。

対する男達は子どもだと油断しているのか、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。

 

「も、もう一度言います!!国有地での資源の乱獲は、犯罪です!!法に則り捕縛します!!お、大人しく捕縛されなさい!!」

 

「ケッ!!何が捕縛だ?そんなプルプル震えちゃってよ?大人しくしないならどうすんだ?え?」

 

弟分の男がハナナを茶化すように笑う。

ハナナとテフラはもちろんこういう時のための訓練は受けている。

ソリダゴくらい体格や筋力があれば、対人格闘による制圧も可能だが、騎士団にはハナナやテフラと同じ年頃の少年少女もいれば、年上でも体格や筋力に性別差のある女性騎士もいる。

そんな時に使う方法は1つしかない。

ハナナとテフラはベルトからモンスターボールを取り出した。

 

「大人しく捕縛されないなら、ポケモンを使用します!!」

 

これはあくまでも警告。

ポケモンの恐さなら誰もが知っている。

ポケモンの力を使えば、相手がたとえ自分よりも体格や筋力が勝る相手でも制圧が出来る。

しかし、目の前の男達はまるでそれを待っていたと言わんばかりに嫌な笑みを浮かべる。

 

「ちょうど、憂さ晴らしがしたかったんだ。いいよな、アニキ?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

そう言いながら、男達も腰から彼らが持っているはずの無い物を取り出した。

 

モンスターボールだ。

 

正確にはモンスターボールによく似たボール。

騎士団が使うモンスターボールは赤と白の塗装と光沢があるボールだが、男達の持つモンスターボールは木目が丸見えで、亀裂も走っている粗悪なボールだ。

しかし、確かにモンスターボールだ。

 

「「行けぇ!!」」

 

ファイヤワークスの男達が勝負を仕掛けて来て、男達は持っている粗悪なモンスターボールを地面に投げつけた。

粗悪なモンスターボールはその見た目通り、脆く砕け散り、大量の煙が噴き出した。

ハナナとテフラも男達に遅れて、アチャモとゼニガメを繰り出し、戦闘態勢に入る。

ハルモニア王国のポケモン使いは騎士団に所属している。

そのため騎士団で団員同士でポケモンを使った戦闘訓練は行っているものの、"騎士団以外"の人間とのポケモン戦闘はおそらく誰も経験したことが無いだろう。

男達が地面に投げつけたボールから出た大量の煙が徐々に晴れていき、ポケモンが姿を現した。

赤黒い頭と毒々しい緑色の体色をしていて、黄色い眼球と2本の触角が特徴的な2匹の"虫ポケモン"。

獰猛な性格で猛毒を持つフシデだ。

ハナナが繰り出したアチャモにとっては、相性の良いポケモンだからか、アチャモは自分に任せろと言わんばかりに胸を膨らます。

 

「チャンモ!!」

 

戦闘の状況は整った。

後は指示を待つばかり。

相手のフシデも指示を待っているようで、両者の睨み合いが続く。

しかし、待てども主人であるハナナからの指示は無く、不審に思ったアチャモは後ろを振り向いた。

そこには、さっきまで立っていたはずのハナナの姿が無い。

 

「チャモ!?チャモモ!!?」

 

アチャモが慌てて周囲を探すとテフラの遥か後方の茂みの中を走っているハナナの姿が見えた。

その姿がどんどん遠ざかっていく。

 

「ダッハハハハハ!!逃げてやんの!!」

 

弟分の男が腹を抱えて笑っている。

 

「笑っている場合か?仲間が他にいたら面倒だ。さっさと追いかけろ」

 

兄貴分の男が弟分の男の頭を叩いて、指示を出す。

 

「へいへい。おら、お前も行くんだよ」

 

弟分の男は厚手の革のブーツでフシデを蹴り飛ばしながら指示を出す。

地面を転がるフシデは弟分の男を睨みつける。

 

「なんだ、その目は?ああん?」

 

フシデはどこか悔しそうにしながら、男の言う通りにハナナを追い掛ける。

テフラが追跡を阻止しようとゼニガメに指示を出そうとした瞬間、兄貴分の男のフシデが放った毒針で妨害されてしまう。

 

「おっと……お前の相手は俺だ」

 

その隙に弟分とフシデは茂みの奥へと走り去る。

残されたアチャモは自分がどうすればいいのかわからず、ハナナの走り去った方を見たり、テフラを見たりしている。

 

「ゼニゼニィ」

 

慌てふためくアチャモに声を掛けるゼニガメは、その小さな親指を立てて見せた。

 

「チャモ〜……チャモ!!」

 

それを見たアチャモは焦りや迷いを振り払い、ハナナを追って茂みへと走っていく。

 

「チャモモ〜!!」

 

その場に残ったのはテフラとゼニガメ、ファイヤワークスの男とフシデ。

 

「フシデ、毒針攻撃!!」

 

「フシャァァァ!!」

 

フシデは触覚をゼニガメに向けて、その先端から無数の毒針を射出した。

 

「ゼニガメ、殻にこもる!!」

 

「ゼニィ!!」

 

対するゼニガメは手足と頭を甲羅に引っ込めることによって、毒針で受けるダメージを最小限に抑える。

 

「ゼニガメ、高速スピン!!」

 

ゼニガメの甲羅が回転を始め、そのままフシデに突進していくテフラとゼニガメのお馴染みの戦法だ。

甲羅に籠もることで、相手の攻撃から受けるダメージを最小限にしつつ、次の攻撃へと繋げることが出来る。

加えて、高速スピンを繰り返すことでゼニガメの速さが増す。

仮に攻撃が外れても、高速スピンで攻撃する度に素早くなっていくゼニガメをフシデには捉えることが出来ない。

フシデは自分の周囲を縦横無尽に走り回るゼニガメに翻ろうされ、攻撃の機会を見つけ出せずにいる。

ゼニガメは十分に加速した状態で、フシデに攻撃を開始した。

前方からの真っ向勝負、側面からの不意打ちに、吹き飛ばした先に先回りしてのトドメの一撃。

 

「フシ〜〜!!」

 

フシデは何も出来ないまま吹き飛ばされ、地面に転がり、気絶した。

テフラはファイヤワークスの男に視線を向ける。

 

「なに勝ち誇った気でいるんだ?」

 

ファイヤワークスの男は余裕の笑みを浮かべている。

その時、テフラの足元にゼニガメが擦り添ってきた。

足元のゼニガメに視線を向けると顔色が悪く、険しい表情をしている。

動く度に体に激痛が走るようで、必死に痛みを堪えるように体が短く震える。

これは"毒状態"の症状だ。

 

「カッハハハハ!!どうした?いつの間に毒状態にさせられたかわからないってツラしてんじゃねえか?」

 

ファイヤワークスの男は挑発的な笑みが浮かべている。

図星だった。

確かにフシデからの毒針攻撃を受けてはいたが、その時にゼニガメが毒状態になった様子は無かった。

 

「教えてやるよ、騎士殿。フシデに触れるとな、毒状態になる時があんだよ!!カッハハハハ!!そんなことも知らずに、お前と来たらあんなに連続で攻撃すりゃ、毒状態にしてくださいって言ってるようなもんじゃねえか」

 

ファイヤワークスの男は気絶したフシデに歩み寄っていく。

 

「よくやったぞ、フシデ……役立たずのザコにしては上出来だ!!」

 

ファイヤワークスの男は気絶して無反応のフシデをいきなり蹴り飛ばして、茂みの方へと追いやった。

 

「さぁて……その状態でどこまで保つかな?」

 

そう言って、男はベルトからまた粗悪なモンスターボールを取り出し、ボールを地面に叩きつけた。

煙の奥から現れたのは再びフシデ。

テフラには毒消しも傷薬もあるが、接近戦を封じられている以上、ズルッグには交代出来ない。

 

「ゼ、ゼニガメ?」

 

「ゼ、ゼニィ……!!」

 

本当は今すぐにでも毒消しを使いたい所だが、万が一また毒状態になった時のことを考えると、今使うのは得策とは言えない。

 

「フシデ、毒針攻撃!!」

 

「ゼニガメ、水鉄砲!!」

 

「フシャァァァァァァ!!」

「ゼニィィィィィィ!!」

 

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