ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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2つの道〜遭遇編・2〜

15年前。

ハルモニア王国北部に位置する村、ビレッジブリッジ。

川に架かる大きな橋の上とその周辺に民家が建ち並ぶ小さな村にハナナとテフラが生まれた。

この小さな村の中で育った子供たちは皆幼馴染で、兄弟姉妹のように育つ。

中でも2歳年上のソリダゴ、同い年のハナナとテフラの3人は特に仲が良く、いつも遊んでいた。

村の中心を横断する川にはコイキングやオタマロと言った比較的安全なポケモンが住んでおり、周囲の森にもポケモンが住んでいるというポケモンに囲まれた村で育ったせいか、それとも他の要因のせいか、3人はポケモンへの警戒心よりも好奇心が強く育まれていた。

その好奇心のせいで、今から10年程前に"ある事件"が起きた。

その日、村に住む他の子供たちと一緒に3人はかくれんぼをしながら遊んでいた。

鬼はソリダゴ。

小さな村とは言え、隠れる場所はたくさんあるのだが、ソリダゴが鬼だとすぐに全員見つかってしまう。

そんなソリダゴに一泡吹かせようと思ったハナナは、村の周囲を取り囲む塀の隙間をすり抜けて森の方に隠れていた。

大人達からは「遊ぶ時に塀の先には行ってはならない」と教えられていたのだが、隠れたのは塀のすぐ外側の木の陰。

何かあってもすぐに逃げられる自信と、すぐそばに村がある安心が幼いハナナにはあった。

 

「ここなら見つからないでしょ」

 

そんな得意げな笑みと共に、普段は塀越しにしか見えない森を眺めていた。

そんな彼女の前に一匹のポケモンが現れた。

黄色い頭に青々とした葉で器用に服を作ったポケモン、クルミルだ。

 

「かわいい〜!!」

 

幼いハナナは近付いてきたクルミルをぬいぐるみのように抱きかかえた。

クルミル自体も大人しいポケモンで危険性は無い。

しかし、ポケモンはポケモンだ。

不思議な力を持ち、謎がまだまだ多いポケモンをハナナは抱きかかえてしまったのだ。

クルミルは突然自分よりも大きな生き物であるハナナに抱きかかえられてしまったことで、身の危険を感じ、幼いハナナの胸で泣き叫んだ。

その姿はまるで赤ん坊のようで、幼いハナナは赤ん坊のようにあやしてみる。

しかし、当然それで泣き止むはずもなく、クルミルの泣き声は勢いを増した。

その声は命の危険と助けを求める声。

小さくて戦う力も弱いクルミルのようなポケモンの生存戦略は"群れで行動する"こと。

群れの誰かが助けを求めれば、すぐさま群れが押し寄せる。

幼いハナナは抱きかかえているクルミルに気を取られ、いつの間にか自分がクルミルの大群に囲まれていることに気づかなかった。

そして、クルミルの大群は幼いハナナに粘着力のある糸を一斉に吹き掛けた。

 

「え?きゃぁぁぁ!!」

 

幼いハナナは突然のことで慌てて村に逃げようとするが、糸が絡まって転び、ネバネバする糸から逃れようと暴れて、更に糸が絡まっていった。

幸い、声を聞きつけた大人の手によってすぐに助け出された。

しかし、幼いハナナにとってその僅かな時間の出来事がどれほどの恐怖だったのか計り知れない。

以来、ハナナは虫ポケモンがトラウマになってしまい、現在も虫ポケモンへの恐怖心は拭えていない。

 

 

 

 

 

そして、現在。

ハナナはファイヤワークスが繰り出したフシデに対する恐怖心から、テフラやアチャモを置いて逃げていた。

身を隠せそうな太い木を見つけると、その陰に隠れて息を潜めた。

 

隠れなきゃ……

 

ハナナは身体能力は高くないが、体力だけには自信がある。

しかし、そんなハナナが今は呼吸が荒くて、静かにしないといけないのに、体が空気を求めている。

 

息が苦しい……

 

そんな相反する思考と体の反応で、頭がクラクラし始める。

その時、近くの茂みで物音がした。

ハナナは反射的に音が聞こえた方を見る。

落ち着いていればアチャモならこの状況を対応出来るとわかっていただろうが、今のハナナにはそんな思考の余裕すら無い。

木の陰から物音がした茂みの方を伺うと、青々とした茂みの奥で毒々しい赤と緑色の物体がうごめくのが見えた。

フシデだ。

野生のフシデなのか、それともファイヤワークスのフシデなのかもわからないが、確かにフシデだ。

ハナナは再び木の陰に隠れて息を潜める。

目を閉じて、フシデの動きに聞き耳を立てる。

フシデが通ったことで揺れる葉の音が確かにフシデの存在を感じさせる。

近づいているのか遠さがっているのかもわからない。

途端、茂みからの物音が消えた。

聞こえるのは自分の心音と濁流のように流れる血液の音。

状況がわからない。

フシデが茂みから抜けて、近付いてきたのだろうか?

それともフシデが遠ざかって行ったのか?

確かめるには、目で確認するしか方法が無い。

ハナナはゆっくり目を開き、呼吸を整える。

全身から嫌な汗が溢れる。

急激に冷えた体を温めようと、全身の筋肉が震える。

ハナナはゆっくり、フシデがいることを考慮して気付かれないように静かに木の陰から顔を出そうとする。

 

「フシャァァァ!!」

 

その瞬間、フシデが目の前に現れる。

 

「イヤァァァ!!」

 

ハナナは恐怖で悲鳴をあげ、突然目の前に現れたフシデから離れるために後ろに飛び退く。

 

「ダッハハハハハ!!嬢ちゃん、フシデが苦手なんだな?ほらほら!!」

 

フシデに遅れて現れたファイヤワークスはフシデの背中を掴み上げ、ハナナにその姿を見せびらかすように、近づけて見せた。

フシデは背中を鷲掴みにされているせいで、痛みでもがき、男の手から逃れようと小さな足をばたつかせる。

その不規則な足の動きがハナナに一層の恐怖を与えた。

唯一ファイヤワークスだけがハナナの様子を楽しみ、フシデの痛みなど気にも止めずにハナナに近づけて見せる。

 

「ダッハハハハハ!!たまんねぇな!!そうだ。頭に置いたらどうなっちまうんだ?え?へへへへへへ」

 

ファイヤワークスはフシデをハナナの頭に近づける。

ハナナは必死に後退るが、フシデが、ファイヤワークスの悪意が容赦なく迫ってくる。

その瞬間、茂みの奥から物凄い速さでオレンジ色の物体が飛び出し、ファイヤワークスの腕を掠める。

直後、ファイヤワークスは腕に激痛が走り、フシデを掴み上げていた腕を引っ込め、痛みの場所を確認する。

腕には一筋の切り傷。

茂みから現れたのはハナナのアチャモだ。

 

「ア……アチャモ……?」

 

アチャモはハナナに駆け寄り、丸い目でハナナの様子を確認する。

ハナナには怪我は見られないが、汗をかき、息も荒れて、物凄く疲れているように見える。

アチャモには、どうしてこうなったのかわからないが、"何が"ハナナをこうしたのかはわかる。

アチャモの視線はファイヤワークスとその手の中でもがくフシデに向けられた。

 

「チャモチャモ!!チャモモ!!」

 

アチャモは脚を広げて、姿勢を低くして威嚇するように鳴いた。

 

「イッテ〜な……邪魔したのはてめぇか?」

 

「チャモ!!」

 

「ったく……これからがお楽しみだってのによ……ふざけんじゃねえ!!」

 

ファイヤワークスは激昂し、掴み上げていたフシデを地面に叩きつけ、アチャモの方へと蹴り飛ばした。

 

「おら、フシデ!!さっさとそのムカつく奴をやっつけろ!!」

 

フシデは痛みに歪んだ顔でファイヤワークスを睨みつける。

 

「あぁん?んだよ、その目ぇ!!"アイツ"がどうなってもいいのか!!?」

 

ファイヤワークスのその一言でフシデの顔からファイヤワークスへの怒りが消え、アチャモへ視線を向ける。

その目には戦意はあるものの、戦いたくないという躊躇いも見え隠れする。

しかし、アチャモにはハナナを苦しめた原因であるフシデや、その主人と思われるファイヤワークスを許すことは出来ない。

 

「チャモォ!!」

 

アチャモは全身にを赤く発光させながら、フシデに向かって突進した。

 

「フシデ、毒針攻撃!!」

 

「フシャァァァ!!」

 

フシデは触角から無数の毒針を放つ。

しかし、アチャモはその毒針を進行方向を直角に曲がって避ける。

避けた後は急停止して、再び体を赤く発光させながら、フシデに突進する。

 

「ア、アチャモ……」

 

アチャモの攻撃で吹き飛ばされたフシデを、更に素早い動きで追撃する。

攻撃を繰り返せば繰り返す程に増す速度。

ニトロチャージ。

アチャモはフシデの周囲を直線的に、かつ縦横無尽に走り抜け、反撃の隙を与えずに攻撃を繰り返す。

その姿はまるで高速スピンを繰り返すゼニガメのようだ。

ハナナにはアチャモの攻撃が毒状態にする危険性を高めていることがわかっている。

しかし、指示が出せない。

そんなハナナを安心させようとしているのか、それとも怒りで我を忘れているのか、アチャモは攻撃の手を休めない。

 

「な、何やってる!!?さっさと反撃しろ!!」

 

ファイヤワークスもまともな指示が出せない。

フシデはアチャモの攻撃でひたすら宙を舞い、反撃の糸口などありはしない。

加えて、ニトロチャージは炎タイプの技のため、虫タイプのフシデには効果抜群の技だ。

おそらく既にフシデには攻撃する体力も残っていない。

 

「や、やめ……」

 

攻撃するアチャモの顔が苦痛で歪む。

既にアチャモは毒状態になっている。

しかし、それでも攻撃を止めない。

宙を舞うフシデの表情や体から力が抜けている。

もう戦いは終わっているのだ。

それでも、アチャモが止まらない。

 

「ア、アチャモ……や、やめ……止めてぇ!!」

 

渾身の声を振り絞るハナナ。

その声が届いたのか、アチャモの動きが止まった。

追撃が止まったことで、フシデはそのまま力無く茂みの方へと転がっていく。

 

「チッ!!役立たずが!!」

 

ファイヤワークスは転がったフシデには目もくれずにハナナに向かって歩みを進める。

このままハナナを放置して、もしも兄貴分の言う通り仲間を呼ばれては自分の身が危ない可能性がある。

フシデの回収は惜しくもあるが、ハナナの確保が優先だろう。

幸い、ハナナは腰が抜けてまだまともに歩けないようだ。

しかし、自分と少女の間には虫の息のアチャモが立ちはだかっている。

毒が全身に回り、体力も立っているのがやっとという状態だ。

ファイヤワークスは先程アチャモが現れた時に腕を切られた"借り"がある。

 

「虫の息のポケモン一匹くらい素手で……」

 

ファイヤワークスは指の関節を鳴らしながら威圧するが、対するアチャモは姿勢を低く構えて、いつでも攻撃出来る状態を保っている。

ファイヤワークスの視界に自分の腕の傷が入った。

切り傷自体は浅いが、フシデを吹き飛ばす突進力と反撃の隙を与えないあの速さ。

そして、立っているのもやっとという状態で尚、闘争心を剥き出しの眼差し。

 

「クッ……クソッ!!」

 

ファイヤワークスは次の一歩を踏み出すことが出来ず、アチャモに背を向けて逃げ出した。

ファイヤワークスの後ろ姿が見えなくなると、アチャモも遂に力尽きて倒れた。

 

「アチャモ!!」

 

ハナナはまだまともに歩けない脚を引きずりながら、アチャモに近寄る。

 

「チャ……チャモモ……」

 

「……うん!!大丈夫!!……大丈夫だよ!!」

 

ハナナは急いで鞄から毒消しを取り出し、アチャモの口に流し込んだ。

 

「お願い……お願い、飲んで!!」

 

アチャモは流し込まれる毒消しをなんとか飲み込む。

毒消しの効果自体はすぐに現れ、全身から激痛が消え、アチャモの顔から苦痛が消える。

 

「……チャモモ?」

 

「……アチャモ!!ありがとう!本当にありがとう……!!」

 

ハナナは毒が綺麗に無くなったアチャモを力いっぱい抱きしめた。

ふわふわした羽毛とアチャモの体温が気持ち悪い汗で冷え切ったハナナの体を温める。

しばらくアチャモの体温を感じていたハナナだが、毒消しでは体力を回復出来ない。

ハナナは鞄から傷薬を取り出し、アチャモに飲ませて、回復を待った。

その間、ハナナの視線はアチャモが吹き飛ばしたフシデの方に向けられている。

フシデはアチャモからあれだけの攻撃を受けたから万が一にも動き出して、反撃されるとは思えない。

ハナナはなんとか立ち上がり、ゆっくり恐る恐る茂みの方へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毒状態になったゼニガメは接近戦を止めて、水鉄砲での遠距離攻撃による戦闘に切り替えて戦っていた。

その中でゼニガメはささやかな発見をした。

それは四つん這いになることで、水鉄砲の射撃の精度が上がること。

二足で踏ん張るよりも安定するため、より強い威力の水鉄砲を精密に発射することが出来る。

そのため、2匹目のフシデもなんとか倒すことに成功した。

しかし、その体力も限界を迎えようとしている。

 

「チッ……さすがは騎士団か?だが、これでどうだ!!」

 

ファイヤワークスは腰から再びボールを取り出し、地面に叩きつけた。

煙が晴れると3匹目のフシデが現れる。

テフラもこれ以上ゼニガメに戦闘を続けさせるのは困難と判断し、ベルトからズルッグの入ったモンスターボールを取り出した。

ズルッグの使える技は全てが接近戦の技だ。

毒針を受けても毒状態になり、接近戦でフシデに触れても毒状態になってしまう。

加えて、ゼニガメをこれ以上戦わせることは出来ない。

 

「ゼニガメ……戻って」

 

「ゼニ!?」

 

ゼニガメはその指示に一瞬戸惑うものの、毒は既に全身に回りつつあるため、ファイヤワークスの動きを警戒しつつ、ゆっくりとテフラの元へと戻る。

テフラはゼニガメが自分の所にまで戻って来るのを確認すると、ズルッグを繰り出した。

 

「ズルッグ!!」

 

気合い十分のズルッグだが、テフラはゼニガメの二の舞いを避ける必要があった。

鞄には確かに毒消しはあるが、1つだけ。

この毒消しを今ゼニガメに使うため、ズルッグが毒になった時は、この広大なカナワ盆地からモモンの実など解毒効果がある木の実を探す必要がある。

 

「ズルッグ、回避に専念して」

 

今はゼニガメの治療もしつつ、ズルッグの戦闘の指示もしているため、気合い十分なズルッグとは裏腹にテフラは戦闘に消極的だ。

少し不満げな表情をするズルッグだが、目の前のフシデと向き合い、気合いを入れ直す。

 

「悪いが、さっさと片付けるぞ!!フシデ、転がる!!」

 

ファイヤワークスはこれまでの毒針攻撃と違う攻撃を指示してくる。

しかも、転がるという技は攻撃を繰り返す度に威力が増す技だ。

最初のフシデ2匹で相手であるテフラのポケモンを弱らせ、そこで決着が付かなかった時の3匹目であり、短期決戦するための技の選択。

このファイヤワークスはポケモン使いとしての心得のある人間だ。

ファイヤワークスとは一体何者なのか、テフラの頭には、そんな疑問が浮かび上がる。

 

「ズッ……ル!!」

 

体を球状にして迫ってくるフシデに対して、ズルッグは足を一歩前に踏み出し、体を大きく仰け反らして、迫りくるフシデに強烈な頭突きをぶつけた。

フシデはまるでボールのように吹き飛ばされるが、依然として球状を保ち、再びズルッグに迫る。

その攻撃をズルッグは再び頭突きで真っ向勝負する。

テフラはズルッグを毒状態になるのを避けることばかりを考えていたが、ズルッグは指示を無視して真っ向勝負を挑んだ。

それはズルッグがどんなに強い相手でも真っ向勝負をする度胸と根性のあるポケモンだと言うことをテフラに思い出させた。

 

「ズルッグ……」

 

2度目の真っ向勝負もズルッグに軍配が上がるも、転がるの威力が増してる分、吹き飛ばす距離が短くなっている。

3度目はどうなるかわからない。

しかし、ズルッグの真っ向勝負の姿勢は崩れていない。

 

「ズルッグ、頭突き!!」

 

テフラに出せる指示はこれだけだ。

ズルッグも任せろと言っているように親指を立てて見せる。

速度と共に威力を増して転がるフシデに対して、ズルッグは四つん這いになり、低い姿勢のまま迫りくるフシデに飛び掛かる。

狙うは球状の体と地面が接している部分よりもやや上。

球状のフシデを下から突き上げるように、頭突きを繰り返すズルッグ。

転がるフシデは、まるでジャンプ台から飛び立つように木々よりも高く宙を舞う。

宙を舞ったことで、フシデの球状が解けてしまうが、その一瞬だけ、フシデは今まで自分が見たことない広大な森を目にすることが出来た。

どこまでも続く木々の緑に、澄み切った空の青は普段フシデが地面から見るどんな景色よりも美しかった。

しかし、その感動は長くは続かない。

急速に視界が動き、直後全身を地面に打ち付けた激痛が走る。

霞む視界で見える世界はいつもの地獄のような世界。

 

「何やってる!!?さっさと起きて、攻撃しろ!!毒針だ、毒針!!」

 

嫌な人間の声がするが、正直このまま気を失う"ふり"をしてしまえば、解放されるかも知れない。

幸い、ズルッグとズルッグを使う人間は自分の様子を見ているだけで、攻撃をする素振りが無い。

このまま気絶しよう。

そう決めた瞬間だった。

 

「"アイツ"がどうなっても良いのか?」

 

嫌な人間の一言がフシデの投げ捨てようとした意識を無理矢理拾い上げて、押し付けてきた。

フシデはひっくり返っている自分の体を元に戻し、激痛でまともに動けない触角をズルッグに向けると毒針攻撃の予備動作に入った。

 

「いいぞ、虫けら!!そのまま毒針攻撃だ!!」

 

一方のズルッグも、そして、テフラも覚悟を決めている。

 

「ズルッグ、頭突き!!」

 

フシデが放つ無数の毒針に対して、ズルッグは体に毒針が刺さるのもお構い無しに真正面から突進してくる。

そして、強烈な頭突きをフシデに叩きつけた。

フシデはそのまま気絶して、もう動くことはなかった。

しかし、何本もの毒針を真正面から受けたからなのか、フシデに頭突きをしたせいなのか、ズルッグも毒状態になってしまった。

テフラと治療を終えたゼニガメがズルッグに駆け寄る。

ズルッグを抱きかかえると、毒が回り始めたようで、苦痛で表情が歪んでいる。

残念ながら毒消しはもう無い。

可能性があるとすれば、このカナワ盆地のどこかにあるだろうモモンの実を探すことだろう。

幸い、ポケモンをモンスターボールに戻せば毒の回りは停止する。

テフラはズルッグをモンスターボールに戻そうとするが、ズルッグはそれを拒んだ。

その様子を見ていたファイヤワークスは複雑な面持ちをしている。

当初彼の予定では1匹目のフシデでゼニガメを毒状態にして、2匹目のフシデでゼニガメを仕留めるはずだった。

ところが、ズルッグという2匹目のポケモンが出てきたことで予定が狂ってしまった。

ズルッグとの戦闘中にゼニガメは毒消しと傷薬で治療を終えてしまった。

幸い、ズルッグは毒状態だから戦わせ続けることは出来ないだろう。

ファイヤワークスにとって、ゼニガメをもう一度戦闘不能に追い込むことさえ出来れば勝利だ。

そして、ファイヤワークスにはとっておきの"一匹"が残っている。

勝利はほぼ確実とも言える状況ではあるが、この状況はファイヤワークスが避けたい状況でもあった。

 

「……おい、ガキ!!……これ以上首を突っ込むならただじゃ済まねえ。だが、ここで退くなら見逃してやる」

 

テフラは撤退することも考えていた。

ファイヤワークスという謎の組織がこの未開拓の僻地でぼんぐりを乱獲しているのと、ダンゴロ洞窟の一件は無関係ではないだろう。

ここは1秒でも早く王都へと戻り、事の次第を報告するのが最優先だろう。

しかし、テフラには撤退という選択肢は選べなかった。

周囲を見れば、モンスターボールに戻す訳でもなく、倒されたままのフシデ達。

倒したのは確かにテフラではあるものの、倒れたポケモンをそのまま放置しているファイヤワークスをやはり許せなかった。

 

「どうした?早くポケモンをボールに戻さないと、毒が回るぞ?」

 

ファイヤワークスはテフラに撤退を促すように声を掛ける。

 

「ズルズル、ズッズ」

 

「ゼニ?」

 

ズルッグとゼニガメが何かを話し始める。

ズルッグはゼニガメに背中を指差し、自分の方に向けるような仕草をし、理由もわからないゼニガメは不安そうに背中、いや甲羅を向ける。

ズルッグはよろめきながら立ち上がると、ゼニガメの甲羅の縁を掴んでいきなり頭突きを食らわせた。

 

「ゼニッ!!?」

 

ゼニガメは突然の攻撃に驚いて手足を引っ込め、ズルッグは自分でやった頭突きの反動で仰け反って倒れてしまう。

一見、意味不明な光景だが、どこかで見た記憶がテフラにはあった。

起き上がったズルッグはゼニガメの甲羅に打ち付けた頭をむず痒そうに弄っている。

 

「な、何やってんだ、お前ら!!?」

 

ファイヤワークスの声などお構い無しにズルッグは弄っていた頭から全身の皮を一瞬で脱ぎ捨てた。

ヨノワールに氷付けにされたゼニガメを助け、火傷を負った自分の皮を脱ぎ捨てたあの時と同じように。

ズルッグの顔から毒状態の症状が無くなり、もう大丈夫と言うように小さな両腕で力こぶを見せるようなポーズを取った。

 

「な、なんだよ……毒はどうした?」

 

ズルッグはファイヤワークスを見ると、教えるつもりがないと言っているように、ベロを出した。

これでテフラには全回復したゼニガメと、全快とは言えないものの毒が消え去ったズルッグの2匹が揃った。

テフラ達はまだまだ戦える。

 

「あ、アニキ〜!!」

 

そこへハナナを追っていた弟分が戻ってきて、兄貴分の方へと駆け寄った。

 

「いいとこに戻ってきたな!!」

 

兄貴分は弟分の肩を掴み、詰め寄った。

 

「お前に貸したフシデを返せ!!」

 

「へ?ああ、すいやせん、アニキ。さっきヤラれちまって。だから、アニキのフシデを……ちょ、痛えってアニキ」

 

兄貴分は弟分の肩を掴む力が強まり、わなわなと震え出した。

 

「この……役立たずが!!」

 

兄貴分は突然弟分を力いっぱい殴り飛ばした。

 

「どいつもこいつも役立たずが!!もういい……"コイツ"を使ってやる」

 

兄貴分はベルトから再びモンスターボールを取り出した。

それを見た瞬間、弟分の顔が青ざめていく。

周囲を見渡すと倒れたフシデが3匹。

 

「ちょ!!アニキ、それはヤバいですって!!」

 

「うるせぇ!!てめぇがガキ1人にヤラれちまってんのが悪いんだよ!!」

 

兄貴分は弟分の制止を振り切り、モンスターボールを地面に叩きつけた。

再び立ち込める煙はフシデを出した時よりも黒く、多く、そして、広範囲に広がった。

煙が晴れ、その中から現れたのは巨大な2本の角と毒々しい赤紫色の巨体が特徴的なポケモン。

 

「ペンドラァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

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