ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜 作:影山ザウルス
ペンドラー。
フシデがホイーガへの進化を経て、更にもう一段階進化したポケモンで狂暴な性格に加えて、フシデよりも強力な猛毒を持っているとされる。
当然、ゼニガメとズルッグの2匹が力を合わせても敵わない相手だ。
ヨノワールの時も敵わないとわかる相手ではあったが、ペンドラーの場合はその危険性からもテフラ達を怯ませるには十分だ。
加えて、フシデの進化形ということは毒状態にされる可能性もある。
毒消しはもう無い。
傷薬ではペンドラーの攻撃で受けたダメージを回復しきれない。
「さあ、ペンドラー!!お前の力を見せてやれ!!」
兄貴分が遂に指示を出した。
ゼニガメとズルッグは攻撃に備えて身構える。
しかし、ペンドラーは動かない。
いや、兄貴分の指示に従わずに自分勝手に動き出した。
向かった先は先程倒したフシデ達。
ペンドラーは鼻先でフシデを小突き、フシデの反応を伺う。
もう戦うことは出来ない状態ではあるものの、弱々しく動き、生きていることを確認した。
「ドラァ……」
ペンドラーは倒れている3匹のフシデの生存を次々に確認する。
どのフシデも気絶しているだけで、確かに生きている。
その様子をテフラもファイヤワークスの2人も黙って見ているしか出来ない。
3匹の安否を確認し終えたペンドラーは再び周囲を見渡し、ようやくゼニガメとズルッグの存在に気がついたように視線を向ける。
その瞬間、兄貴分が声をあげる。
「そ、そうだ!!ソイツらがお前の"子供たち"をこんな目に遭わせたんだ!!」
ペンドラーの視線が兄貴分に向けられた。
嘘は言っていない。
確かにフシデと戦ったのはゼニガメとズルッグ。
その指示を出したのはテフラだ。
ペンドラーの視線が再びゼニガメとズルッグに向けられる。
ゼニガメとズルッグは恐怖で体を小刻みに震わせているが、いつでも戦えるように身構えている。
ペンドラーの視線がテフラに向けられる。
テフラもこの絶望的状況で尚、活路を見出そうとしている。
どうしたって自分には敵わないであろう矮小な存在が、自分から一瞬足りとも目を離そうとしない。
ペンドラーは目を閉じて、脚を曲げ、首を曲げた。
その姿はまるでお辞儀をしているようだ。
「お、お前、何やって……!?」
兄貴分が驚いて一歩前に踏み出した瞬間、ペンドラーは頭を素早く持ち上げ、口から毒針を放った。
フシデの放った毒針とは比べ物にならないほど巨大で、強力な威力で放たれた毒針が兄貴分の足元に突き刺さる。
まるで、近付くなと警告しているかのようだ。
「な、なんだよ……何なんだよ!!?その反抗的な目はなんだ!!そのガキはお前のガキをあんなんにしたんだぞ?悔しいだろ?悲しいだろ?……だったら、そのガキとポケモンを攻撃しろ!!」
兄貴分は何としてもペンドラーにテフラ達を攻撃させようとするが、それに対してペンドラーは一切聞く耳を持たない。
一体何が起こっているのかテフラにはわからない。
「あ、アニキ……やっぱりアイツは言うこと聞かないんじゃ……」
「うるせぇ!!黙ってろ!!言うこと聞かねえなら、聞くようにするだけだ!!」
兄貴分は鞄からモンスターボールを取り出した。
どうやらまだポケモンが入っていないモンスターボールのようで、それをフシデに向けて投げつけようとした。
何故フシデを捕まえようとしているのかはテフラにはわからないが、気絶しているフシデならば簡単に捕まえられるだろう。
加えて、兄貴分の発言からこのフシデ達とペンドラーは親子関係のようだ。
人質という言い方が適切かわからないが、もしもフシデが人質にされてしまったら、脅されたペンドラーが攻撃してくる可能性もある。
そうなってしまえば、手の打ちようが無い。
しかし、ペンドラーは至って冷静だった。
ペンドラーは兄貴分がモンスターボールを投げる直前に毒針を放った。
毒針はモンスターボールを貫通し、そのまま兄貴分の手に突き刺さった。
「ぎゃあああ!!」
フシデよりも強力な猛毒を持つペンドラーの毒針は兄貴分の掌さえ貫通している。
「テフラ!!」
その瞬間、茂みの奥からハナナが現れ、兄貴分の方へと駆けていく。
テフラは自分が何をすべきか瞬時に理解して、ペンドラーとファイヤワークスの間に両手を広げて立ち塞がった。
兄貴分に駆け寄ったハナナは急いで毒針を抜いた。
「オジサン、ベルト外して!!」
ハナナは弟分にベルトを外すように請うが、呆気に取られる弟分は呆然と立ち尽くしている。
「早く!!」
ハナナが再度促すと、弟分はようやく自分のズボンのベルトを外してハナナに手渡した。
ハナナは受け取ったベルトで、兄貴分の腕を縛り上げた。
これで毒針からの毒が体の方へと流れるのを防ぐことが出来る。
あとは毒消しを使うことで、毒を中和することが出来る。
「テフラ、毒消しは!!?」
テフラは首を横に振る。
「オジサン達、毒消しは!!?無いならモモンの実でもいいです!!」
「ど、毒消しなんて持ってねえよ……モモンの実だって、あんな甘ったるいの食えるかよ」
「あのフシデ達のご飯は!!?」
「ボ、ボールに入れてりゃ腹も減らないんだろ?」
ハナナは弟分の話を聞いて愕然とした。
ポケモン使いならば、ポケモンが状態異常に陥った時のために毒消しや麻痺治しなどの薬を持つのが常識である。
特に毒消しは毒タイプのポケモンを使うポケモン使いならば、自分がポケモンの毒に侵されても良いように準備するのが鉄則だ。
「じゃ、じゃあ、早くモモンの実を取ってきて!!」
「モモンの実っつったってどこにあるか……俺達、ぼんぐりしか見てなかったから……」
ハナナの頭が真っ白になった。
騎士団の訓練では、常に周囲に注意を配ることを教えられる。
それは遭難の防止や必要な物を現地調達するために必要な知識だが、このファイヤワークスの弟分はそれらの知識が全くない。
「お、おい……アニキ、どうなるんだ?」
あまりにも無責任な問い。
しかし、そんな問いかけに答える余裕はハナナには無い。
今すべきことは、急いで毒消しかモモンの実を用意すること。
テフラにはペンドラーの足止めをしてもらっている以上、ハナナが用意するしか方法が無い。
「お、おい……どど、どうなるんだ?」
兄貴分がハナナに問いかけてきた。
「す、すぐモモンの実を見つければ……助かります……」
「す、すぐに見つからなかったら?」
「それは……」
ハナナは言葉に詰まった。
その様子を見た兄貴分は突然立ち上がった。
「あ、安静にしてください!!毒が……!!」
「い、嫌だ……死にたくない……まだ死にたくねえよ!!うわあああああああ!!」
兄貴分は毒が回らないように縛ったベルトを更に縛り上げて、森の奥へと走り出した。
「ま、待ってくれよ〜!!アニキ〜!!」
弟分もその後を追って走り去る。
テフラはペンドラーの動きを注視していて、動けない。
ハナナはただでさえ虫ポケモンにトラウマがあるが、トラウマに関係無くペンドラーという危険なポケモンがいることで、まともに歩けない。
緊急事態が起きたため、なんとか木陰に隠れていた所から、兄貴分の所まで駆け寄ることは出来たものの、もう脚が動かない。
そうこうしている内にファイヤワークスの姿は木々の向こう側に消えていった。
もう声も届かないだろう。
残ったのは、ペンドラーとシーカーの2人。
「テ、テフラ……ごめん……」
テフラは背後で泣き崩れるハナナの気配を感じ、ペンドラーから視線を外さないように静かに後退り、ハナナに近寄った。
しかし、ハナナの初期対応は素早く適切だった。
毒針を先に抜くことで、体内に流入する毒の量を最低限にし、ベルトで腕を縛り上げることで毒の広がりを抑えた。
毒消しやモモンの実の話もしている。
無責任かも知れないが、あとは逃げ出したファイヤワークスの運次第だろう。
テフラはハナナを抱きしめて、慰めるように背中を擦った。
それにまだ騎士団としての責務は終わっていない。
「うん……そうだね……テフラ、肩、貸して」
テフラの肩を借りて、ハナナは立ち上がり、ゆっくりとした動きでペンドラーに歩み寄る。
ペンドラーからは敵意は感じられないが、その巨体と眼光が相手に与える威圧的な印象は簡単に拭えるものでは無い。
ハナナは腰のベルトから1個のモンスターボールを取り出した。
ファイヤワークスの使っていた木目が見える亀裂の入ったボールで無く、王都の大工房で作られた赤と白の正式なモンスターボールだ。
ハナナはモンスターボールを地面に置いて、開閉スイッチを押すと中から一匹のフシデが現れた。
フシデは周囲を見渡し、目の前のペンドラーに気付くと目を潤ませ、ペンドラーの脚に擦り寄る。
ペンドラーもまたフシデを愛おしい様子で鼻先で小突く。
「さっきの……私を追いかけてきた方のファイヤワークスとの戦闘後に、取り残されてたフシデが気になって……それで、少し治療をしてモンスターボールに入れて連れてきたの……」
ハナナが経緯を説明する声は震えている。
きっと治療をするのも四苦八苦、いやそんな簡単な言葉で片付けられない程大変な思いだっただろう。
「テフラ……他のフシデも……」
テフラは頷いた。
本当は今も逃げ出したい気持ちを堪えているのだろう。
だが、これもプラズマ騎士団の責務だ。
そこからは手分けをして負傷したフシデ達の治療を行った。
ズルッグは周辺からオレンの実を探し集め、ゼニガメとアチャモはクスリソウを探し出した。
集まった素材でハナナが傷薬を調合する。
最後にテフラが負傷したフシデ達の体に傷薬を塗布して、治療を行う。
治療を終えたフシデ達は一度は周囲やテフラ達を警戒するが、ペンドラーに気が付くと嬉しそうにペンドラーの脚に擦り寄った。
経緯がどうかわからないが、ファイヤワークスの話を思い出すと、どうやらペンドラーとフシデ達は親子関係なのだろう。
親を人質に取られたフシデ達は反抗的な態度を見せながらもファイヤワークスの言いなりになっていたのだろう。
治療を終えたとは言え、まだ負傷が癒えていないフシデ達をペンドラーの背に乗せると、ペンドラーはお辞儀をして、ゆっくりと森の奥へと姿を消した。
その瞬間、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れたように2人はその場に座り込んだ。
ファイヤワークスという謎の組織との遭遇と戦闘という全く想定していない事態が起きたせいで、時間と体力と精神力さえも根こそぎ削ぎ取られたのだ。
山の東側にいることもあるからか、日は沈んでいる。
今日中にコウテツを探し出す予定だったが、明日に持ち越しになるだろう。
とりあえず休憩を挟んだら、ゼブライカ達を連れてこないといけない。
それから野宿の準備と食事の準備。
訓練で何度も繰り返してはいるものの、疲れているこの状況では、やる気もなかなか起きない。
「騒がしいと思って来てみたら、騎士団がこんなとこに何用じゃ?」
茂みの奥から突然聞こえてきた老人の声。
2人が視線を向けると、そこには1人の老人が立っている。
顔に刻まれた深いシワに白髪頭と長くたくわえた白いヒゲ。
何より見たことが無い異国の服、作務衣。
「あ、あなたはひょっとして……マスター・コウテツ?」
「ん?如何にも。ワシがコウテツじゃが?お主らは?」
今日はもう会うことが出来ないと思っていたコウテツ本人の登場によって、ハナナとテフラはその場に大の字に倒れ込んだ。
根こそぎ削ぎ取らた体力と精神力に安心と任務の終了の開放感が流れ込む。
ただ1人、コウテツだけを置き去りにして。