ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜 作:影山ザウルス
〜"あの夜"から30年後〜
ハルモニア王家が統治するハルモニア王国。
その王都はポケモンの侵入を防ぐための塀で囲まれており、出入り口は王城の正面に見える大きな門だけだ。
「開門!!」
門番の一声で重々しい門が開き、大勢の騎士が王都へと凱旋した。
国民の多くは英雄達の凱旋を一目見ようと王城に続く沿道に集まり、騎士団の凱旋を讃えた。
「お帰りなさい!!」
「よくぞ、帰って来ました!!」
「お待ちしておりました!!」
「「「プラズマ騎士団、万歳!!」」」
ハルモニア王家に従うポケモン討伐部隊、その名もプラズマ騎士団。
騎士達は沿道に集まった人々に手を振り、歓声に応える。
中でも沿道の人々の注目は騎士団の先頭でウインディにまたがる男に向けられている。
過酷な遠征であったにも関わらず、表情に疲労一つ見せない”彼”。
プラズマ騎士団団長ボルツ。
騎士団の鎧の上からでもわかる筋肉と長年ポケモンと戦い続けた歴戦の猛者であることを物語る風貌は、多くの国民の憧れの的だ。
ボルツの姿を見て、騎士団を目指す者は少なくない。
そんなボルツの脇をゆっくりと随行する一匹のポケモンがいる。
種族名で言えば、そのポケモンはオノノクスと呼ばれるポケモンではあるが、その体の色は、まるで血を啜りすぎて、赤を通り越したような黒い鱗に覆われている。
頭部の両脇には血のように紅く、斧のように鋭い牙が陽光を跳ね返して煌めいている。
一見すると誰もが恐怖するオノノクスの見た目ではあるが、過去最強の騎士と謳われるボルツが従えることによって神々しくも見える。
騎士団が王城に到着するとボルツは団員達に解散を告げ、副団長と共にハルモニア王との謁見に臨んだ。
謁見室に入ると玉座に座る王と、その最側近の大臣が何やら話しているのが目に入った。
王は若い。
いや、幼いと言っても過言ではない。
確か今年で10歳になる。
前ハルモニア王と王妃は数カ月ほど前に不慮の事故で身まかった。
王位に空白を作らないために幼い王子が国王に即位するも、国政を担うにはその体はあまりに小さい。
そこで白羽の矢が立ったのが大臣だ。
「え、遠征、えっと、大義であった!!」
幼い国王は慣れない言葉で王らしく振る舞うもぎこちない。
ボルツは跪き、頭を下げた。
「勿体なき御言葉」
目を閉じ、幼い国王からの言葉を噛み締めつつ、様子をうかがった。
聞き取ることは出来ないものの、大臣が幼い国王に対して何か耳打ちをしているのがわかる。
いつものことだ。
幼い国王にとって、国を治めるのは難しい。
そこで白羽の矢が立ったのが大臣。
大臣は前王の叔父にあたる人物で、正真正銘の王族だ。
王族の血縁に遺伝する緑色の髪がそれを物語っているものの、国王ではなく、大臣という立場に収まっているのがきな臭い。
しかし、ボルツには王族のゴタゴタなどには興味もない。
「ああ、ボルツよ。此度の遠征もご苦労であった。王も大変喜ばれておる」
大臣はまるでカビゴンのように太っている。
カビゴンほど愛嬌は無いが。
「陛下と国民をポケモンから守るのが我々プラズマ騎士団の役目。我々がポケモンと戦う剣となり、ポケモンから守る盾となりましょう」
「心強い言葉ですな、ハルモニア王」
「うん!!あ、いや、ウム!!」
まるで、ごっこ遊びに付き合わされているような気分だ。
「ボルツよ。此度の遠征で捕まえたポケモンはいつも通り保管庫へ」
「……かしこまりm」
「その件ですが、以前から進言しておりますように、騎士団の戦力増強のためどうか騎士団に支給してはいただけないでしょうか?」
ボルツの後ろで跪く副団長が声をあげた。
言葉を遮られたボルツは振り向き、副団長を睨みつけた。
鋭い眼光に副団長は身震いするが、副団長も退くわけにはいかない理由がある。
ボルツを初めとするプラズマ騎士団がポケモンを使う"ポケモン使い"だ。
副団長や騎士団の部隊長を務めるポケモン使いは皆がハルモニア王国でも指折りの猛者達ではあるものの、王国全土を包括するには人員も強いポケモンも足りていない。
そのため遠征の際に捕獲した強いポケモンを団員に支給することで戦力の増強を図り、より広い範囲を守りたいと副団長は考えている。
「副団長、その話は以前決着したはずだ。ハルモニア王の御前であるぞ?」
ボルツの一喝に副団長は完全に萎縮してしまった。
過去に何度もボルツと副団長はこの話題で話し合いを重ねている。
結論を言えば、実力が伴わない団員に強いポケモンを支給すれば団員にも周囲の人間にも危険が伴う。
そのため副団長の考えは幾度と無く却下されている。
「も、申し訳……ございません」
「……陛下、部下の非礼をお詫び申し上げます」
「ウム、許す!!」
子供ゆえの裏表の無い言葉にボルツと副団長は再び頭を下げる。
「ええっと、では、ボルツよ。ええと、次の任務まで、ゆっくり、え?エイキ?をやしなう、といい!!」
大臣に耳打ちされた台詞を伝えると満足げに笑う国王。
「ありがたき御言葉。では、失礼いたします」
二人は立ち上がり、一礼すると、謁見室から出ていった。
広い廊下にはボルツと副団長の足音が響き渡る。
「あ、あの……」
口火を切ったのは副団長。
ボルツは足を止め、副団長と向き合った。
このやり取りは二人の間で何度も行われている。
「副団長、お前の言うことは確かに一利あるだろう。戦力を増強した騎士団員を各地に配置することで王国の広範囲を守ることが出来る」
「では!!」
「一方で、一部隊が……あるいは特定の個人が際限なく戦力を増強すれば、どんな危険が伴うかわからない。そうなれば、俺ですら止められないだろう」
実力が伴わない団員への強いポケモンの支給によるポケモンの暴走。
ポケモンという”力”を得たことによる団員の暴動。
残念なことに、騎士団の目の届く所で管理することが現状出来うる最善の策だ。
「しかし、それでは僻地の村が!!そのことは誰よりも団長が!!」
副団長は慌てて口を紡いだが、もう遅い。
ボルツは30年前、僻地の村で暮らす少年だった。
そして、”あの夜”、あるポケモンの襲撃で村は壊滅。
その際にボルツの両親が亡くなっている。
自分と同じ思いをする人を1人でも多く減らそうとプラズマ騎士団に入団したボルツだが、真実とは残酷なものだった。
かつてボルツも副団長と同じことを考えていた。
強いポケモン使いが僻地で村人達を守る。
そんな理想を掲げていた。
しかし、騎士団としての務めを果たしていく中で、その理想が敵わないという真実を知る。
「どんなに崇高な理想を掲げようと、真実の前に理想は無力だ」
ボルツは真実を知る者だからこそ、その重みを痛感している。
窓の外では訓練兵がポケモンの攻撃を避けたり、ポケモンを捕獲するためのボール、モンスターボールが先端に付いた投げ縄を使い、的に当てる訓練をしている。
「人とポケモンは共存出来ない」
真実を知る者は語った。