ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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閑話〜脳髄と神経と手〜

2人組の男達は森の中を走っている。

1人はペンドラーという猛毒を持つポケモンの毒針を受けて、その毒が体に回らないようにベルトで腕をしっかりと縛り上げているため、ベルトより先の方は赤黒く染まっている。

もう1人は毒針を受けた男を兄貴分として慕っている弟分の男。

2人はこの未開拓のカナワ盆地の森の中をひたすら走っている。

ただ、2人は決して恐怖で混乱して闇雲に走っている訳ではなく、しっかりとした"目的地"があった。

 

カナワ盆地。

 

ここには手つかずの資源が眠っているとされるが、王都や物流の拠点となるホドモエシティからの距離があり、加えてポケモンも多く生息している。

そのため、カナワ盆地の開拓には時間と労力、そして野生のポケモンを退ける戦力が多く必要とされる。

そこに莫大な資源が眠っているのに、そこにたどり着くためのあらゆる物が足りていないため、カナワ盆地は未開拓の土地とされている。

 

だが、それは表向き。

 

男達が息も絶え絶えになりながら到着した盆地の”内側”には、大量の荷物を積み込んだ機関車が蒸気を上げる車両基地があった。

何人も立ち寄ることの出来ない未開拓地はある組織によって秘密裏に、周辺の資源調達と運搬を担うアジトになっていた。

 

組織の名はファイヤワークス。

 

このカナワ盆地のにある資源は木材や石炭、鉄鉱石、ぼんぐり、そしてカナワ盆地周辺に住む野生のポケモンなど多岐にわたる。

それらの採集採掘の状況と運搬の確認などを管理する男がいる。

車両基地の周囲で働く彼の部下達に比べて、身なりも良く、それでいて若干20歳の青年だ。

青年は車両基地を見渡すことが出来る位置に事務所を設け、そこから部下達の働きを監視しながら自分の仕事も熟している。

そんな時、車両基地の一角で人だかりが出来ているのが目に入った。

青年はため息をつき、椅子から立ち上がると屈強な側近2名を連れて、人だかりの方へと向かう。

この車両基地に集まっている人員は等しくファイヤワークスの一員ではあるものの、実際の所、社会から弾き出された人間達の寄せ集めだ。

そんな連中が集まれば喧嘩は日常茶飯事。

しかし、今回は喧嘩ではないようだ。

 

「お前ら、退け!!」

「さっさと仕事に戻れ!!」

 

側近2名が人だかりを散らしていき、青年は拓けた道をゆったりとした動きで歩く。

その道の先には2人の男が泣きながら何かを訴えている。

 

「リ、リーダー!!だずげで!!だずげでぐだざい!!」

 

大の男がガキのように泣きじゃくっている。

 

「リーダー!!あ、アニキが!!アニキが!!」

 

もう片割れの男も助けを請うように泣いているが、正直うるさい。

青年は側近2名に視線を送ると、側近2名は速やかに男2人を取り押さえ、2人の口を布で縛った。

これで多少静かになる。

青年は男2人の状態をサングラス越しに”眺めた”。

そして、空を見上げてカナワ盆地の上空で見張りをさせているバルジーナ達の様子を確かめる。

 

「……プラズマ騎士団と交戦。フシデが全滅したため、ペンドラーを使用するもペンドラーの毒針を受け、負傷。騎士団に初期対応をしてもらうが、途中で逃げて来た……と言った所か?」

 

青年はまるで2人のことをどこかで見ていたかのように言い当てる。

 

「安心しろ、ペンドラーの毒は強力だが、それで死にはしない。せいぜい三日三晩激痛で苦しむくらいだ」

 

青年の言葉に再び暴れ出す男。

布で口を押さえられているために何を言っているかはわからないが、おそらく毒消しを要求している。

 

「残念だが、毒消しはもう意味が無い。正確には毒消しで毒は消せるが、そのベルトで締め上げていた腕はもう手遅れだ」

 

毒を堰き止めるためにきつく縛り上げたベルトは確かにペンドラーの毒が体へと流れるのを留めてくれていた。

しかし、同時に長時間縛り上げていたことで血液や酸素といった細胞に必要な物が届けられず、二酸化炭素などの不要な物が滞り、結果男の腕はその機能を失っていた。

突きつけられた現実に呆然とする男に対して、青年は騎士団の対応の途中で逃げなければ良かっただろうにと呆れた様子で、自分のベルトから赤と白のモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押した。

中から現れたのは、頭や胴体に三日月状の刃のあるポケモン、キリキザン。

 

「キリキザン、辻斬り」

 

青年の指示が発されるや、キリキザンは一切の躊躇も無く、男の毒に侵された腕を切り落とした。

 

「ん〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

激痛の叫びが車両基地に響き渡り、大量の血が流れる。

 

「おい、お前……」

 

青年はもう1人の男を指差した。

 

「コイツを医務室に連れていけ。傷薬を使えば、"傷口だけ"は治せる。そしたら、ぼんぐりを回収してこい」

 

青年がそう言うと、用事が済んだように2人を押さえていた側近から解放され、腕を切られていない方は、腕を切られた方へと駆け寄る。

 

「あ、あんまりじゃねえか!!?」

 

医務室に連れていくように指示をした男が青年に怒鳴りつけた。

 

「俺達は道具じゃねえ!!こんなのあんまりだ!!」

 

「…………ああ、そうだ。お前達は道具じゃない。お前達は"手"だ」

 

「……"手"?」

 

「我々ファイヤワークスの社長は"脳髄"だ。そして、俺達各支部を取り仕切るリーダーは"脳髄"から発せられた電気信号という命令を"手"に伝え、"指"を動かす"神経"だ。お前達は与えられたポケモンもろくに使いこなせずに返り討ちに遭った挙げ句、与えられた仕事すら全う出来ない手はお前達に口答えするのか?"手"は黙って手を動かせ。さっさとソイツを医務室に放り込んで、ぼんぐりを取ってこい。いいな」

 

男は悔しさに表情を歪ませながら必死に腕を切り落とされた男を担ぎ、医務室へと向かう。

青年にとってこの2人の価値は毛ほども無い。

腕を切り落とす指示を出すのも、せいぜい散髪する程度の気分だ。

だが、2人がもたらした情報には価値がある。

男に与えたフシデが全滅。

ペンドラーの毒への初期対応。

そして、異変を察知していないバルジーナ。

フシデを生身の人間が相手取るのは難しいことは無いが、全滅となると相手は騎士団のポケモン使いが推測される。

ペンドラーを出す状況に陥っている時点で、騎士団ということは確定だが、ペンドラーを見て逃げるではなく、負傷者の救護という選択肢を取れるのも騎士団だからこそだ。

しかし、同時に騎士団としての経験の浅さや目的がこのファイヤワークスのハルモニア北部基地ではないことは、異変を察知していないバルジーナから推測出来る。

少なくとも、相手はまだ騎士になって経験の浅い団員2人程度で、カナワ盆地に来た目的もこの北部基地以外。

 

「コウテツか……」

 

青年は側近の2人を連れて事務所へと戻る。

青年には自分の推測に絶対の自信がある。

故に構えない。

基地の放棄は自分の一存で決められる訳では無い。

決めるのはあくまでも"脳髄"だから。

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