ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜 作:影山ザウルス
時間はテフラがペンドラーに乗って、ダンゴロ洞窟に向けて再出発した時から遡ること、シーカーの4人がカナワ盆地とダンゴロ洞窟の2か所に向けて王都から出発した直後まで戻る。
ソリダゴはバッフロンに荷車を引かせて、その手綱を任されている。
もちろん、こういう時のための訓練は行なっているため、なんて事のないことではある。
「バフフ〜」
「バフフ〜ン」
「フロォォォン」
「フロォォォン」
ソリダゴとニールを乗せた荷車を引くバッフロンは一匹なのだが、なぜか鳴き声だけは2匹分ある。
どこか軽快な会話を楽しむような2匹の会話だが、街道の両端に広がっている平原にもバッフロンはおらず、しかし、バッフロンの鳴き声だけが2匹分ハッキリと聞こえる。
「ペラップは凄いでしょ?どんなポケモンとも初対面で仲良くなれるんだからね」
荷車の荷台の方で休憩しているニールが話しかける。
現在バッフロンは一匹だけだが、鳴き声は2匹分ある。
一匹は荷車を引くバッフロンの鳴き声だが、もう一匹はバッフロンの頭の上にいるペラップと呼ばれるポケモンが出す鳴き声だ。
ペラップは人間だけでなく、多種多様なポケモンの声真似をすることが出来るポケモンだ。
自然界に置いて、ポケモンの生存率はそのポケモンの強さに依存することが大きい。
強いポケモンは生き残り、弱いポケモンは生き残れない。
そのため、弱いポケモンは自分の生存率を高めるために様々な方法を身に付けている。
例えば弱さを数で補うポケモン。
例えば弱さを逃げることで補うポケモン。
例えば弱さを毒や硬さなどの体の仕組みで補うポケモン。
そして、ペラップというポケモンは自分よりも強い相手の声を真似することで、外敵から身を守ったり、外敵の仲間として紛れることで身を守っている。
「でも、その根幹にあるのはペラップというポケモンのコミュニケーション能力の高さによるものが大きいとボクは考えているんだ。実際、それで助けられたこともあるしね」
ポケモン調査隊として活動を始めた頃からニールとペラップが一緒にいることはソリダゴも知っている。
しかし、ニールとペラップのことはちゃんと聞いたことがない。
「何があったんですか?」
「それでは旅のお供にお聞かせしましょう。ボクとペラップの出会いの物語を」
まるで吟遊詩人のように仰々しくニールは話し始めた。
それはボク、ポケモン生態学の博士であるカンパ・ニールが博士になりたての頃の話。
ハルモニア王国に来る十年以上前の話。
今でもポケモンは恐ろしい存在として、人間とポケモンの道は分かたれている。
その十年以上前ともなれば、場所によれば今よりも拒絶的で、ポケモン生態学なんてものは学問の異端であり、その博士であるボクはと言えば、変人か狂人扱いされていた。
ただ同時にその変人狂人の持つ知識を悪巧みに使おうとする連中も、純粋に自分達の生活に役立てたいと考える人達も少なくない。
ボクは後者の人達のために知識を広め、故郷のカロス地方を回り歩いた。
ただ求められる知識はいつでもポケモンの撃退方法や近寄らせない方法、どんなポケモンがその周辺にいて、どんな生態をしているかということ。
それを聞いた農夫や鉱夫が罠を仕掛けるという流れが一般的だった。
確かに住み分けは大事なことだ。
無尽蔵に湧くポケモンを人間の作物では養うことが出来ない。
野生のポケモンは野生から食べる物を得て、それを子孫へと受け継ぐのが自然の流れだ。
だから、住み分けのためと割り切って罠の考案をしていた時期もあった。
しかし、いつももどかしく感じていたのも事実。
イワークのような巨大なポケモンの力を使えば、農地の開墾は何倍も向上する。
ペリッパーのように空から雨を降らすことが出来れば水やりの手間も減る。
ドテッコツのような怪力を持つポケモンに荷物運びを手伝わせることで人間への負担が減る。
そして、人間は出来上がった作物を調理してポケモン達に提供することで、人間もポケモンも喜ぶ。
そんな共存が出来る世界がボクの理想だった。
でも、当時のボクに出来たのは、その理想と反対の行動。
どうすれば、世界をボクの理想に近付けられるのか?
そんな方法は今でもわからないけど、より多くの知識を集め、広めることが必要だと思った。
だから、ボクは旅に出ることにした。
まず向かおうとしたのはガラル地方。
ガラル地方に向かう商船に乗せてもらえないか交渉して、下働きの手伝いを条件に乗せてもらえることが決まった。
その日の天気は快晴で、海も穏やか。
まるで、ボクの航海を祝福しているかのような日だった。
なのに。
「俺達はウェルテクス海賊団!!命が惜しけりゃ、この商船の荷物全てと1人ずつ自分の命の値段に見合う金目の物を出せ!!」
船出から数日。
あと1日もあればガラル地方に到着という時期に、商船はウェルテクス海賊団という集団に襲撃された。
甲板に集められた商船の職員とボク。
海賊団の1人が端から順繰りに金品の徴収を行なっている。
さすがは商船の職員ともなれば、指輪や時計や貨幣などは持っていて当たり前。
でも、ボクだって命に見合う価値ある物は持っていたんだ。
「おら、お前の番だ……」
下っ端らしき男がボクの前に来た。
ボクは意気揚々と鞄から一冊の本を取り出して、下っ端に渡した。
「……何だコレ?」
「何って図鑑だよ、encyclopédie!!ポケモン生態図鑑!!……本当は渡したくはないんだけど、内容なら一言一句覚えているから大丈夫!!知識は財産!!誰にも奪われない宝だよ!!」
だからこそ、わからなかった。
その後、ボク"だけ"が海賊船に乗せられ、地図にも載っていない孤島に連れて行かれて、孤島の沖合に点在する小島の一つに置き去りにされた。
「その自慢の財産とやらがいくらなもんか楽しみだな!!」
海賊達はそんなことを言いながら笑い、孤島の方向へと去っていった。
こういう時にこそ知識の真価が発揮されるのは知っている。
ボクは落ち着いて周囲を確認した。
直径10m少々の小島には僅かな野草が生えていたけど、食べられそうにない。
周囲の海にはサメハダーが泳いでいて、遠くの方にホエルオーが見える。
ホエルオーの力を借りれば、孤島どころか、ガラル地方にだって行けるだろうけど、距離があるから、ホエルオーの力を借りることは出来ない。
孤島自体は小島から目と鼻の先だけど、サメハダーが泳いでいる人間を見逃すはずがないから泳いで孤島にたどり着くのは不可能だろう。
鞄の中にあった食べ物と飲み物は海賊がご丁寧に奪っていっているから、天候次第だけど、飲まず食わずで保つのは3日が限度だろう。
いっそのことサメハダーを手懐けるという方法もあるけど、時間が掛かる。
他にもタマンタ、キャモメ、チョンチーなど人間に友好的なポケモンがいるにも関わらず、ボクに寄ってくる気配は無い。
人間に慣れていないのか、別の理由で人間を警戒しているのか、いずれにせよ海賊と無縁ということは無いだろう。
ならば、ポケモンを頼らない方法を考えるしかない。
幸い、小島には木が3本生えている。
この3本の木でイカダを〜と思ったけど、時間も材料も道具も足りない。
仮にイカダを作れたとしても、やっぱりサメハダーが立ち塞がるのは目に見えている。
「瞬間的に加速出来れば、避けられそうだけど……まあ無理か」
鞄の中にはポケモン生態図鑑、ペンとインクと紙、金属製のスプーンとフォークが1セット。
フォークで木の皮を剥いで、紐状にした先にスプーンを付けるのはどうだろうか?
ひょっとしたらタマンタが近寄ってきてくれるかも知れない。
いや、一緒にサメハダーも付いてくる可能性もある。
考えれば考えるほど、上手くいかない可能性ばかり考えてしまう。
そして、ああでもないこうでもないと考えていると、あっという間に3日が経過していた。
この3日間少しでも可能性の高い方法を考えて実践してみた。
例えば木の枝で水面を叩いて、水ポケモンのおびき出す。
これは海に棲むポケモンが海に落ちた木の実を食べに集まる習性を利用しているのだけど、タマンタなどの温厚なポケモンは寄ってこないで、サメハダーが集まってくる。
当然と言えば当然だ。
この広大な海に落ちた木の実を判別するには匂いが重要だけど、これは枝で海面を叩いているだけなのだから。
他には木の皮を剥ぎ取って、結んで紐状にした物の先端にフォークを結びつけた手作りの釣り竿でポケモンを釣る方法も試した。
これはタマンタやチョンチーが集まってきたようだったけど、集まったポケモンをサメハダーが狙うため、やはりダメだった。
何度も何度も繰り返しフォークを海に投げて、温厚なポケモンが食いつくのをひたすら待ったけど、次第に投げ込まれたフォークに近付くとサメハダーに狙われることをポケモン達が学習したのか、しばらくすると手応えが全く無くなった。
そうして、3日が過ぎた。
フォークを投げる力も無く、照り付ける日差しが容赦なく体の水分を奪っていく。
「み……水……」
ここから助かる方法を考えることも出来なくて、ただただ水が欲しかった。
お腹も空いた。
そんなボクの顔のそばに何かが落ちた。
紺色の楕円形の物体。
優しい酸味のある匂いが鼻に届いて、喉の奥から水分を絞り出した。
オレンの実だった。
ボクはなんとかオレンの実を拾い上げて、砂が付いてるのも気にしないで、かじりついた。
口の中に広がる酸味と甘味が混ざった果汁と果肉。
砂が混ざってちょっとだけジャリジャリしたけど、久しぶりの食べ物を無心に頬張った。
「おいしい……おいしい……」
どこかもたらされた木の実なのかわからないけど、食べ物の有り難みを噛みしめると涙が溢れた。
「オーイシ!!オーイシ!!」
誰かがボクの声を真似ているのが聞こえた。
近くの木の枝に視線を向けると音符のような頭が特徴的な鳥ポケモンが留まっている。
「ペラップ?」
ボクは不思議に思った。
この孤島がどこにあるのかわからないけど、ガラル近海であることは確かだ。
しかし、ガラル地方にはペラップの目撃例は無いはず。
「ミ、ミズ!!ミ、ミズ!!タベモノ!!タベモノ!!」
ペラップはどうやらボクがうなされている時のうわ言を聞いて、どこからかオレンの実を持ってきてくれたようだ。
「Merci beaucoup。キミが助けてくれたんだね?」
「メルシーボク!!メルシーボク!!」
ペラップはボクの問いかけを肯定するように翼を羽ばたかせた。
その返事が嬉しかったのは本当だったんだけど、オレンの実1個だけではとても足りない。
「ペラップくん、もしよかったらボクのワガママを聞いてくれるかい?」
「ワガママ!!ワガママ!!」
「ほんと、ワガママだよ。……木の実、いっぱい、水、欲しい」
「……キノミ、イッパイ、ミミズズ、ホシ」
「そう。木の実、いっぱい、水、欲しい。コレを誰か近くにいる人間に伝えて」
「ツタエル!!イッパイキノミ、ホシミミズズ!!」
最後はなんだか変になってしまったけど、飛び立ったペラップにボクは賭けるしかなかった。
それからペラップが飛んで行った方向を眺めながら戻って来るのを待った。
日が傾き、西に太陽が沈もうとした頃、ペラップが自分の体よりも大きな荷物を必死に運んで来るのが見えた。
帰ってきたペラップは疲労困憊で声を真似する余裕すら無い。
でも、それだけ多くの食料が入った麻袋を持ってきてくれた。
時間が掛かったのは、この量を用意してくれたどこかの誰かと、この量をポケモンの中では決して怪力には分類されない非力なペラップが必死に運んで来てくれたからだ。
「ありがとう……ありがとう、ペラップ!!」
「ペ……ペラッ……プ〜……」
ボクは疲れ切ったペラップを膝に乗せて、ペラップが食事が出来るくらいに元気になるのを待ってから、一緒に持ってきてくれた多種多様な木の実を食べた。
それからペラップは毎日どこかに飛んで行き、木の実と水を持ってきてくれた。
最初の夜の時のように大量にではなく、少しずつ、その日1日食べるのに困らない量を持ってきてくれた。
そのおかげでボクは体力も回復し、ペラップという強い味方ができた。
残念ながらペラップの飛行能力は高くはない。
そのため、ボクを抱えてガラルまで飛ぶことは難しい。
それならば、ペラップの得意分野を活かせばいい。
ペラップがホエルオーや周辺の鳥ポケモンに助けを求めるのだ。
ポケモン同士ならば求めに応じてくれる可能性は十分にあるし、ペラップというポケモンは声真似をすることで生存競争を生き抜いているポケモンだ。
でも、助けに応じるポケモンはいなかった。
ボクの誤算だった。
ペラップはガラルにいないポケモン。
つまり、このガラル近海の孤島にも本来いないポケモンなのだ。
孤島という閉鎖的な環境で"余所者"の求めに応じるポケモンはいないだろう。
数日かけて孤島のあちこちでポケモンに助けを求めたようだが、良い返事は得られず、時には傷を負うこともあった。
「……この方法は使いたくなかったけど、仕方ない。明日、いつも木の実と水を持たせてくれる人達に助けを求めよう」
「タスケテ!!タスケテ!!」
「そう。それで船で迎えに来てもらうんだ」
「タスケテ!!タスケテケスタ!!」
ボクが最初からペラップが木の実をもらって来る場所に助けを求めなかったのには理由がある。
もしも、近くの商船から商品の一部をもらっていれば、商品を弁償しなければならない。
ガラル本土のどこかの商店からもらってきていたなら、当然その商店に弁償しなければならない。
でも、今はお金を持ってない。
後ろめたさもある。
だけど、ボクの予想では、その可能性は低かった。
最初にペラップが木の実をもらって来た日を除いて、ペラップが木の実を貰いに行って、帰って来る時間があまりにも早かったからだ。
飛んで行った方向もガラル本土のある西側ではなく、目の前の孤島の方向に飛んで行き、孤島の方向から帰ってきた。
つまり、孤島にいる"何者か"から木の実や水をもらって来ていたことになる。
そして、ガラル近海の孤島に住んでいる"何者"が誰かなんて答えは1つしかない。
「俺様に懐いてたペラップが助けを求めるから来てみれば……いつぞやの学者先生だったとはな~」
「アハハ……Cela fait longtemps」
現れたのは、ボクが乗っていた商船を襲撃したウェルテクス海賊団。
その船長がボクの目の前で酒を飲みながら、睨みつけてくる。
ボクがペラップに木の実をもらって来る場所に助けを求めなかった理由が"コレ"だ。
孤島はウェルテクス海賊団の根城で、ペラップがもらって来ていた木の実はボクが乗っていた商船や別の商船から強奪した積み荷だったのだろう。
ポケモンが棲む孤島に住む人間がまともな人間な訳がない。
おそらく、ポケモンを退けることが出来る腕っぷしを持つ集団がいると思っていた。
それがウェルテクス海賊団だ。
「お前が言ってた財産とやらも、まんざら役立たないって訳じゃないのはわかったぜ……だがな、この海で必要なのは金と暴力さ」
船長は下っ端に視線を送ると、下っ端が頷き、海中へと続くロープを引っ張った。
最初は下っ端が何かを引っ張っているようだったが、しばらくするとロープの先にいる何かがボクらのいる小島に上がってきた。
ボクは目を疑った。
現れたのは頭に大きな星があり、巨大なハサミを持つポケモン、シザリガーだ。
水辺に棲むポケモンの中でも狂暴なポケモンに分類されるシザリガーがウェルテクス海賊団に従っている。
「Ça alors……!!」
「さあ、シザリガー!!その舐めた野郎をぶちのめせ!!」
船長が得意げに指示を出した。
たぶん、これまでこのシザリガーで物を壊したり、人間を叩き伏せてきたのだろう。
だけど、問題はそこじゃない。
現れたシザリガーは体のあちこちから大量の海藻が生えていて、重そうに海藻を引きずっている。
加えて、目も虚ろで船長の指示が届いていないようだ。
「どうしたシザリガー!!?さっさと……」
「Arrête!!」
ボクはシザリガーに駆け寄って、体から生えている海藻を見た。
シザリガーの甲羅の凹凸からはもちろん、甲羅と甲羅の間や関節部からも海藻が生えている。
「こんな……いや、船長!!ナイフと綺麗な布を用意して!!それから……ラムの実!!ラムの実をありったけ用意してくれ!!」
「なっ……!?お前、俺様に指図を……!!」
僕は船長にシザリガーから引き剥がされて、その頑強な拳で頬を殴られた。
「俺様はこの海域を牛耳るウェルテクス海賊団の船cy……」
「そんなことどうでもいい!!その子が、シザリガーが死んでもいいのか!!?」
「…………は?」
コイキングは川や湖など、いわゆる淡水に棲む水棲ポケモンで有名だけど、進化したギャラドスは川や湖はもちろん、海にも棲息している。
これは進化したことで淡水にも海水にも適応出来るようになった一例だ。
だけど、全ての水棲ポケモンがコレに該当する訳ではない。
多くの野生の水棲ポケモンがある程度の適応力を持ち、淡水と海水の行き来を可能にしている。
そして、淡水と海水を行き来することで体内の塩分濃度を一定に保つだけでなく、病気にかかりにくくしていると考えられている。
逆に言えば、本来淡水に棲む水棲ポケモンが長期間海水に浸かる状況になると、体に付いた海藻の胞子がポケモンを苗床に成長する病気になる。
「人間とポケモンが徐々に共生することで生まれた弊害です」
僕はガラル本土に向かう海賊船の船室で、シザリガーの甲羅に付いた海藻を削り取っていた。
「シザリガーは特に適応力が強いポケモンではあるけど、本来淡水に棲むポケモンなんです。それをこんなになるまで……」
船長の話では、シザリガーはもう何年も常に海の中で過ごさせていて、潮で流されないよう縄で繋いでいたという。
「知らなかったんだ……仕方ねえだろ」
「海藻が生え始めて、おかしいとは思わなかったのかい?いや、答えなくていい。どうせ、海賊っぽくて良い見た目になったとか思ってたんでしょう?」
僕の指摘は的中したようで、船長の表情が険しくなった。
一通りの海藻を取り除いたあとは、ラムの実の搾り汁に浸した(なるべく)綺麗な布を海藻の根があった所に貼り付けた。
ラムの実は様々な状態異常の治療に用いられる。
応急処置はこれで十分だが、関節部の隙間から生えている海藻は根が深く、ここでは治療出来ない。
まずは淡水に浸けて、海藻の胞子や根を体から除去する必要がある。
孤島にも小川はあったけど、今のシザリガーには潮風も毒になる。
だから、ガラル本土に向かってもらっていた。
シザリガーの状態は酷かったけど、決して海賊達がシザリガーを蔑ろにしていた訳ではないことはわかる。
「俺は……どうすればいい?どうすれば良かった?」
船長は思い悩んだ面持ちで、シザリガーを見つめていた。
「……超古代ポケモン、カイオーガ……その昔、大雨を降らせて海を広げたと言われるポケモン。その力があればひょっとしたら淡水と海水の境が減って、シザリガーが住みやすくて海賊も続けられるかも知れません。でも、言っておいて言うのもなんですが、現実的じゃないでしょうね。だから、シザリガーと別れて海賊を続けるか、海賊を辞めてシザリガーと暮らすかのどちらかでしょうね」
僕は確かにそう言ったんだ。
その後、僕らはガラル本土に上陸して、シザリガーの治療を続けた。
海から離れた湖の畔で、シザリガーの体を淡水で拭き、ラムの実の搾り汁に浸した布を貼り付け、その行程を繰り返した。
そして、3日後。
「シザァァァ!!」
「シザリガー!!」
シザリガーは無事回復した。
船長を含めて海賊達はシザリガーの回復を喜んでいた。
「今後はずっと海で過ごさせないように。もし孤島で過ごすなら海から帰ってきた後は小川で過ごさせていれば大丈夫でしょう。長期間の航海なら1週間に一度は淡水で全身を洗ってあげれば、海藻塗れにはならないはずです。もちろん、シザリガーと一緒にこれからも海賊を続けるなら、ですが」
「……礼を言うぜ、先生。それから、先生の財産は"奪わないでおいてやる"。さっさと行きな」
「Au revoir」
僕は海賊達に一礼して、歩き始めた。
その肩にはペラップも一緒にいた。
遠くから、船長の声が聞こえた。
「野郎共!!次のエモノが決まったぜ!!次のエモノは……k…………」
「ニール博士」
現在。
バッフロンの引く荷台に揺られながら目的地に向かうソリダゴとニール。
「もうすぐです」
「merci」
ニールの昔話はとっくに終わっていた。
ニールがソリダゴに伝えたかったのは、分かり合えない相手でも"話す"ことが大事だということ。
相手が言葉の伝わないポケモンでも、言葉が通じても話を理解しない連中が相手だとしても、話さなければ伝わらないことがあること。
それは、言葉が通じ合って、話をしなくても互いを理解出来る相手であっても同じということ。
だが、ソリダゴはまだ何かを考え中のようだ。
だから、ニールは説き伏せるようなことはしなかった。
バッフロンの引く荷車は炭鉱夫が何度も往復することで出来たであろうワダチを進んでいる。
この先にダンゴロ洞窟がある。
既に先発した騎士団は無事に採掘を始めている頃だろうか?
2人は推測が当たらないことを願いながら進むが、どうやらニールの推測は当たってしまったようだ。
ダンゴロ洞窟に到着した2人の目に飛び込んできたのは、負傷した大勢の騎士団員の姿だ。