ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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理想を追う者

ボルツが視線を向ける訓練兵が訓練を重ねる最中、王城の端に設けられた屋内訓練場に3人の訓練兵が呼び出されていた。

1人は灰色の髪が特徴的な訓練兵。

もう1人は金髪に眼鏡をかけた快活そうな少女。

3人目は他の2人に比べて長身で黒髪の少年。

この3人は幼馴染で、同時期にプラズマ騎士団の訓練兵として入団し、厳しい訓練を乗り越えてきた。

 

「ねえ、何で呼び出されたと思う?」

 

金髪の少女が2人の幼馴染の顔を覗き込みながら問いかける。

思い当たる節が無いと言えば、きっと嘘になるだろう。

灰色の髪の訓練兵と長身の少年は顔をしかめた。

その時、訓練場の扉が開き、屈強な大男とその肩に乗ったエモンガが入ってきた。

大男の名前はナルカミ。

かつてプラズマ騎士団の副団長を務め、現役を退いてからは後継の育成を務める教官だ。

現役を退いたとは言え、その鍛え抜かれた体は現役の団員とも引けを取らない。

しかし、注意すべきはナルカミの肩に乗るエモンガ。

可愛い見た目に反して、訓練で遅れている訓練兵に対して容赦なく電気技を浴びせるところから”カミナリ教官”と呼ばれている。

 

「気をつけ!!」

 

ナルカミの入室に気付いた長身の少年が号令し、3人は一斉に姿勢を正して、ナルカミを迎えた。

 

「ああ、休んでよし」

「エモ、エモモ」

 

ナルカミは3人に休めの姿勢を取らせた。

厳つい見た目ではあるものの、なんだか気が重そうに見える。

それを察してか肩に乗るエモンガはナルカミを慰めるように頭を撫でている。

 

「ああ、さてお前達。お前達がなぜ呼び出されたかわかるか?」

 

ナルカミは腕組みをして、威圧するように横に並ぶ3人の前を往復する。

しかし、3人には答えられない。

だが、雰囲気から察するにあまり良い理由ではないのは明白だ。

 

「まず、ソリダゴ」

 

ナルカミは長身の少年の前で立ち止まった。

長身の少年ソリダゴは他の2人より2歳年上ということもあり、長身ではあるものの、ナルカミはそんな彼ですら見上げる程に大きい。

加えて、屈強な肉体が威圧感を増長させている。

 

「お前は座学、身体能力共に優秀だ。しかしだ。騎士団の任務においては連携が大事なのに対して、お前は独断先行が過ぎる。それではいつか仲間だけでなく、自分を危険に晒すことになる」

「エモッ」

 

肩に乗るエモンガがナルカミと同じように腕を組み、ソリダゴを睨みつける。

 

「そして、ハナナ」

 

ナルカミは眼鏡をかけた金髪の少女に視線を向ける。

 

「お前も座学は優秀だが、ポケモンの扱いが壊滅的だ。加えて、お間抜けが過ぎる」

「エモエモ」

 

ハナナが少女ということもあってか言い方は和らげているが、ポケモン使いで構成されるプラズマ騎士団にとってポケモンの扱いが下手なのは致命的だろう。

 

「最後に〜、テフラ」

 

ナルカミは最後に灰色の髪の訓練兵に立った。

そして、他の2人以上に困った顔をしながら、ようやく言葉を振り絞った。

 

「お前は〜その〜…………ハァ……成績が悪い」

「エンモ」

 

ナルカミはそれ以上のことを言いたげではあったが、大きな手を額に押し付け、言葉を飲み込んだ。

エモンガもナルカミの真似をする。

 

「つまり、お前達は……訓練兵の落ちこぼれ達だ」

 

3人の思い当たる節は見事に的中していた。

ソリダゴはポケモンの扱い自体はともかく、訓練兵複数人編成で行う訓練では成功した試しがない。

ハナナはポケモンの戦闘訓練の際に一度も勝ったことがない。

そして、テフラは座学の成績は最下位という訳ではないが、中間よりもやや下だ。

ポケモンの扱いも悪くはないものの、際立って良いわけでもない。

ナルカミは落ちこぼれと言われて落ち込む3人の顔を見渡し、次の一言を発しようと息を吸った。

しかし、その瞬間大きな音を起てて、訓練場の扉が開き、緑色と朱色と茶色の3つの影が訓練場に飛び込んできた。

3つの影は落ちこぼれ3人組の周囲を回り、その後訓練場を我が物顔で縦横無尽に駆け巡った。

緑色の影は訓練場の柱を駆け上がり、天井を支える梁の上で止まると、挑発的な視線を向けた。

その姿は子猫のようだ。

朱色の影は訓練場をひたすら走り回っている。

その姿は小鳥のようだ。

最後の茶色の影はボールのように訓練場の隅で丸くなっており、時折周囲をうかがっている。

その姿は子亀のようだ。

 

「え?なになに!!?ポケモン!?」

 

「何で城内にポケモンが!!?」

 

慌てる3人に追い打ちをかけるように、開きっぱなしの扉から一匹の鳥ポケモンと1人の白衣を着た風変わり男性が入ってきた。

 

「ニゲタ!!ニゲタ!!ポケモンガガガガガァ!!」

 

「Pardon!!その子達を捕まえてください!!」

 

その言葉を聞いた瞬間3人が動いた。

ソリダゴは持ち前の身体能力の高さを活かし、訓練場の壁に向かって助走し、壁を蹴り上げて、緑色のポケモンがいる梁に飛び移った。

緑色のポケモンはついさっきまで見下ろしていたはずの人間が目の前にいることに驚き、威嚇しようとするが、足を滑らせ梁から落ちてしまった。

 

「危ない!!」

 

ソリダゴは躊躇わず自分も梁から飛び降り、緑色のポケモンを空中で捕まえると、着地後の衝撃を和らげるように一回転してみせる。

着地後、ソリダゴは胸の中のポケモンを持ち上げ、怪我が無いことを確認し、満足げに微笑んだ。

 

「怪我がなくてよかった」

 

緑色のポケモンは自分が梁から落ちたとしても、問題なく着地することが出来たが、そんな自分を自らの危険を顧みず助けた人間の行動に驚き、キョトンとしている。

しかし、微笑む人間を見て、自然と笑顔になった。

 

「フニャ〜」

 

一方ハナナは朱色のポケモンを追いかけている。

ハナナが朱色のポケモンを捕まえようと何度も飛び掛かるも、朱色のポケモンは挑発するように避けてみせる。

しかし、避けられては立ち上がり、再び避けられても立ち上がり、ハナナは決して諦めることなく朱色のポケモンに飛びかかった。

やがて、朱色のポケモンが疲れ果てて動きを止めてしまった所をハナナに抱きかかえられた。

 

「キミ、スッゴい元気だね!!」

 

ハナナの顔は朱色のポケモンに避けられた時に床で擦ったような跡があるも屈託のない笑顔を見せた。

朱色のポケモンも疲れ果てていたが、つられて笑顔になる。

 

「チャモチャモ」

 

最後のテフラは訓練場の隅で丸くなっているポケモンに歩み寄る。

楕円形の形をしており、モンスターボールのように上下で色が異なっている茶色のポケモン。

色が上下で異なっているのは背中と腹部の違いなのだろう。

この楕円形の部分はこのポケモンの胴体にあたる部分で、手足や頭を胴体に引っ込めているのだ。

そして、近づいてよく見ると、楕円形の胴体は小刻みに震えている。

 

怯えている。

 

テフラはそのことを察して、優しく胴体に、いや、そのポケモンの茶色い甲羅を優しく撫でた。

しばらくは震えていたが、やがて震えが止まり、青い手足と尻尾を突き出し、立ち上がった。

頭だけまだ甲羅の中にあったため、バランスを崩して、後ろに転びそうになるのをテフラが抱え上げた。

そして、ようやくポケモンが甲羅から頭を見せてくれた。

まだ怯えが拭いきれていない、そのポケモンにテフラは優しく微笑みかける。

 

「ゼニィ……」

 

ポケモンの茶色い瞳がまるで宝石のように煌めく。

 

 

 

落ちこぼれの3人にはそれぞれ欠点がある。

しかし、同時にこの3人にしかない才能もある。

それは初めて会うポケモンとも心を通わせることだ。

 

 

「Qu’est ce que c’est bien!」

 

白衣を着た風変わりな男が盛大な拍手をした。

3人はそれぞれが捕まえたポケモンを抱えて、風変わりな男の前に並んだ。

 

「うんうん!!キミ達、最高だね!!」

 

風変わりな男はソリダゴの前に立った。

 

「Monsieur。キミは、ポケモンの危機に対して躊躇なく飛び込む勇気がある!!ニャオハもキミにメロメロじゃないか!!」

 

ソリダゴの腕の中で、ニャオハと呼ばれるポケモンは自分の匂いを擦り付けるように頬ずりをしている。

風変わりな男は次にハナナの前に立ち、膝を曲げて、視線をハナナより低くして話しかけた。

 

「Mademoiselle。キミは何度転んでも、どんなに傷付いても、その度に立ち上がる気高い心がある。アチャモも満足そうだね」

 

ハナナの腕の中のアチャモと呼ばれるポケモンは本当に満足そうな笑みを浮かべている。

そして、最後にテフラの前に立ち、その腕の中にいるポケモンを見つめる。

 

「Oh la la……ゼニガメ」

 

風変わりな男がゼニガメと呼ばれるポケモンの頭を撫でようとすると、怯えて頭を甲羅に引っ込めてしまった。

 

「このゼニガメはこの通り臆病でね。でも、こんなゼニガメもキミには心を許しているようだ。Qu’est ce que c’est bien!」

 

テフラがなだめるように甲羅を撫でるとゼニガメが再び頭を出した。

 

「Monsieur ナルカミ。実に……実に素晴らしい子達だ!!是非この子達を調査隊に!!」

 

風変わりな男は目を輝かせながらナルカミに詰め寄った。

 

「い、いいのですか、ムッシュー?紹介しておいて何だが、この子達は訓練兵でも落ちこぼれで……」

 

「Non!!この子達は落ちこぼれなんかじゃない!!天才だよ!!ボクが探していた逸材だよ!!」

 

「う、ウイ……ウイ、ムッシュー」

 

大男のナルカミが彼より小柄な男に詰め寄られて困っている様子を初めて見る3人は唖然とした。

何より、2人が何の話をしているのか全くわからない。

 

「ああ……紹介が遅くなったな。彼は……」

 

「ボクはカンパ・ニール!!ポケモンの研究者だよ!!ニールと呼んでくれ!!」

 

「にーる!!にーる!!」

 

音符のような頭をした鳥ポケモンがニールの頭に止まった。

 

「この子はペラップ。ボクのcher ami、トモダチさ」

 

「ともDATI!!ともDATI!!」

 

3人は呆気に取られている。

それもそのはず。

このハルモニア王国において、ポケモンをモンスターボールから出して連れ歩くのは騎士団団長のボルツや、ナルカミのような実力者ぐらいなものだ。

しかし、ニールがそれほどの実力者には到底思えない。

加えて、ポケモンを"トモダチ"と表現する人間を初めて見る。

 

「ボクはね、ポケモンの生態を調査して、人間とポケモンが共存する方法を研究しているんだ」

 

その言葉を聞いた瞬間、3人の表情が強張った。

 

「博士……その話は……」

 

既に遅いが、ナルカミがニールの言葉を塞いだ。

3人にとって、いや、このハルモニア王国の国民にとってポケモンとの共存は危険視されている。

それはかつてボルツの村がポケモンによって襲撃された"あの夜"も含めて、ポケモンによる被害を多く被って来たからだ。

騎士団の団員の中にもポケモンによる被害を受けた者も少なくない。

そして、多くの団員がポケモンから国民や自分の大事な家族や故郷を守りたいという気持ちで入団している。

 

ポケモンは恐ろしい生き物だ。

 

「…………キミ達はポケモンが嫌いかい?」

 

ニールは先ほどと異なり、真剣で、だが、決して誰かを責めるつもりのない優しい口調で3人に問いかける。

団員の中には「嫌いだ」と即答する者もいる。

団員の中にはポケモンを戦うための道具だと思っている者もいるだろう。

団員の中にはポケモンを扱わずに盾などの防具や投石器を使ってポケモンを追い払う者や、先端にモンスターボールが付いた投げ縄でポケモンを捕まえること"だけ"に専念する者もいる。

だが、3人はそのどれにも当てはまらない。

ハナナのアチャモを抱く腕に力が入った。

 

「…………きです」

 

「Mademoiselle?」

 

「わ、私!!ポケモンが好きです!!」

 

ハナナの声が訓練場に響いた。

 

「Trévian」

 

「お、俺は……いえ、自分は……ポケモンは凄い生き物だと思っています。だから、もっとポケモンを知りたい!!……と思っています」

 

「Trévian」

 

ニールはハナナとソリダゴに拍手を送り、視線をテフラに向けた。

 

「キミはポケモンが好きかい?」

 

テフラはその問いかけに笑顔で頷いた。

 

「Trévian!!」

 

「とれびあん!!とれびあん!!」

 

ペラップが羽ばたきながら叫ぶ。

団員の中には極少数だが、ポケモンが好きで、ポケモンのことをもっと知りたくて、騎士団に入団している者もいる。

 

「さっき言ったようにボクはポケモンとの共存を研究している。ポケモンの生態の調査はその過程に過ぎない。もちろん、共存するにしても何も今日明日に共存出来るようにしようって言ってるんじゃない。10年20年、あるいは100年先の未来で共存出来るように、その一歩目を研究しているんだ」

 

ニールはニャオハ、アチャモ、ゼニガメの三匹に視線を向けた。

 

「その子達もキミ達を気に入っているみたいだ」

 

ニールは姿勢を正して、もう一度3人と向き合った。

 

「ボクはハルモニア王に許可をいただいて、ポケモン調査隊"シーカー"を立ち上げた。でも、立ち上げたばかりで隊員はいないし、ボク、戦闘も捕獲も全然ダメでね。ペラップも戦うのはちょっとね」

 

「チョッとね。チョッとね」

 

「だから、改めてキミ達にお願いします。ボクの研究を手伝ってください!!」

 

カンパ・ニール。

彼はこの時代では珍しい理想を掲げ、理想を追う者だ。

3人はお互いの顔を見合わせる。

生まれた頃からの付き合いの3人には言葉は不要だった。

 

「「「はい!!」」」

 

3人の返答はナルカミも予想が出来ていた。

今日より遡ること数日前に突然王命で調査隊の発足と人員の選定を命じられた時には、頭を抱えた。

しかも、人員にはポケモンから好かれ、ポケモンが好きな者をと難題のオマケが付いている。

そんな人員の心当たりは、ソリダゴ、ハナナ、そしてテフラの3人以外思い浮かばない。

しかし、同時に訓練兵の落ちこぼれでもある3人をカロスからはるばるやって来たという風変わりな男に預けるのは気が引けたのも事実。

 

「杞憂だったな」

 

「エンモ」

 

「ああ、3人共整列!!」

 

和気あいあいとした雰囲気にナルカミの声が響く。

3人は慌てて整列するも、ソリダゴはニャオハを床に置くも、ニャオハの方は足元に匂いを擦り付けるように頬ずりを続けている。

ハナナはアチャモを抱きかかえたままで、テフラのゼニガメはテフラにしがみついて離れようとしない。

閉まりが悪いのは3人らしい。

 

「異例ではあるが、ソリダゴ、ハナナ、テフラ、以上の3名は本日を以て訓練課程を修了とし、本日付けでプラズマ騎士団ポケモン調査隊シーカーへの配属を命じる!!諸君らの健闘を期待する!!」

 

「「「はい!!」」」

 

3人はナルカミに敬礼をし、ナルカミもまた敬礼を返す。

 

 

 

配属命令が下った一行は"用意されている"というニールの研究室に向かっていた。

しかし、3人ともそんな物が建てられている所を見たことがない。

 

「ちょうど、さっきの訓練場の反対側にあるって聞いたよ?」

 

「訓練場の……反対側?」

 

3人は嫌な予感がした。

いや、予感の的中を確信している。

 

「ああ、ここだ、ここ」

 

ニールの案内で到着したのは屋内訓練場の反対側に設けられている厩舎。

その脇の物置として使われている小屋だ。

既に誰かが片付けを始めているようで、小屋の中身が外に出ている。

 

「ンしょっと!!」

 

小屋から埃を被った男が現れた。

 

「ン?おめぇだぢ、ひょっどしで、この小屋使うって人だちか?いきなし、かだつげろって言われて参ってたンだ」

 

男は厩舎番。

小屋の隣の厩舎にいるポケモンの世話をしている男だ。

3人の予感は的中した。

ポケモンとの共存は出来ないとするプラズマ騎士団やハルモニア王国の考えとは反対側に立つ、謂わば異端者にわざわざ研究室なんて立派な物が用意される訳が無い。

しかし、ニールは笑っていた。

 

「あっはははは!!他所者の異端者に小屋を用意してくれるだけ上々さ!!」

 

追い求める理想への道はまだまだ遠い。

 

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