ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜 作:影山ザウルス
シーカーが発足して数日が経過している。
ここ数日のシーカーの活動記録は以下の通りである。
・厩舎の隣にある小屋の掃除と研究室としての模様替え。
・早速王都近隣の調査に出掛けようとするも、許可が下りずに王城内で待機。
・待機継続中。
以上。
はっきり言って、調査隊として何もやっていない。
その理由は調査の許可が下りないということもあるが、それを良いことにニールは城内を駆け回り、騎士団が捕獲し、管理しているポケモンのことを聞いて回っているということもある。
本来生態調査ならば、ポケモンの生息地や種類など調べることが多いと思われるが、それらに関しては過去にプラズマ騎士団によって調査がされている。
そのため、調査の初歩が既に終了していると言っても過言ではない。
こうして、弄ぶ時間が不本意ながら出来てしまった3人は、この数日の間にポケモンとの戦闘訓練を繰り返し行っている。
「ゼニガメ、水鉄砲!!」
テフラの指示で、ゼニガメは口から大量の水を噴き出した。
「ニャオハ、木の葉で押し返せ!!」
ソリダゴの指示を受けたニャオハは大量の木の葉を水鉄砲に向けて飛ばし、指示通りゼニガメの水鉄砲を押し返してみせる。
ゼニガメは迫りくる大量の木の葉を見て、慌てて、甲羅の中に手足と頭と尻尾を引っ込める。
その直後、大量の木の葉がゼニガメに押し寄せる。
「ゼニガメ!!?」
木の葉が止むとテフラはゼニガメに駆け寄った。
甲羅に隠れたお陰で戦闘不能には陥らなかったものの、完全に戦意は喪失している。
「テフラ、確かにゼニガメに対して俺のニャオハは有利だ。だが、だからといって、前線ではいつでも自分に有利な状況で戦える訳じゃない。不利な状況でも戦えるようにするのも立派な訓練だ」
ここ数日、3人は不利な状況でどう戦うか考えながら訓練を重ねている。
しかし、元々成績優秀なソリダゴにとっては実入りのある訓練にはなっていない。
ハナナとテフラとでは、相性の関係でテフラのゼニガメが有利ではあるが、ハナナの"壊滅的"と評されるポケモンの扱いが、幸か不幸かゼニガメに勝利することもある。
テフラは鞄から傷薬と取り出し、木の葉で傷付いたゼニガメの手当てを行った。
「おうい!!2人とも〜!!」
遠くからハナナの声がした。
2人が慌てて声のした方を見ると、ハナナが何やら大量の書類を抱えて、走ってくるのが見えた。
「ハナナ、走るな!!」
「え?うわわ!!」
突然ソリダゴに呼び止められたせいか、それとも天性のドジっぷりのせいか、ハナナは盛大に書類を撒き散らしながら転んだ。
小屋の中でソリダゴに擦り傷の手当てを受けながらハナナは怒っている。
「さっきのはダゴ兄のせいだからね!!」
「ごめんごめん」
こうしてハナナの擦り傷の手当てをするのも慣れたものだ。
ハナナは小さい頃からよく転ぶ。
その度にハナナが母親から手当てを受けているのを見て、自然と手当ての仕方を覚えたソリダゴは、訓練兵の時にもよくハナナの手当てをしている。
ハナナが撒き散らした書類はテフラが回収してきた。
「それより、どうしたんだ、この書類?」
テフラが回収してきた書類に目を通し始めるソリダゴ。
対して、ハナナは自信ありげに胸を張った。
「騎士団には毎日何十件もの依頼が舞い込んでるの!!だから、その依頼を受けるついでにポケモンの調査のために王都の外に出ようって思ったの!!名案でしょ!?」
ハナナの言う通り、騎士団には毎日何十件もの依頼が舞い込む。
その中にはポケモンの討伐や王都の外でしか採れない植物の採取の依頼がある。
確かにそれらの任務の課程でポケモンの調査を行うことは出来るだろう。
しかし、問題が一つある。
「ハナナ、この依頼書の内容は見たか?」
「ううん、まだ」
ソリダゴはため息をついて頭を抱えた。
「よく見てみろ」
ハナナはソリダゴが突き出した依頼書の依頼内容を読み上げた。
「えっと……庭園の水やり、カマドの火起こしの手伝い、赤ちゃんの面倒、子供達の遊び相手、泥棒を捕まえてくれ、溝浚い、城内の廊下掃除の手伝い、商品の荷下ろしの手伝い、クスリソウの収穫を手伝い、屋外訓練場の草むしり…………ポケモンと関係ない依頼ばっかり……」
ソリダゴは頷いた。
騎士団に届く依頼の中にはこうしたポケモンと関係ない依頼が紛れている。
いくら騎士団が王国と国民を守る組織であっても、当然緊急性の低い依頼やポケモンとは関係ない依頼は騎士団の事務で弾かれている。
騎士団は便利屋ではないのだ。
「で、でも!!困っている人達を助けるのも騎士団の……仕事……だよ、ね?」
さっきまで自信満々だったハナナは、すっかり自信を失い、助けを求めるようにテフラに視線を向ける。
「だ、だって、ほら!!私達、調査隊!!プラズマ騎士団なんだよ!!ポケモンもいる!!ポケモンがいるからこそ出来ることも!!……ある、よね?」
テフラは今にも泣き崩れそうなハナナの問いに頷いた。
それはハナナに同調したからではなく、ハナナの言うことに”同意”したからだ。
その様子を見ていたソリダゴは深いため息を付いた。
ここ数日のことを思えば、訓練の実入りは少ない。
かと言って、ニールの言うポケモンの生態調査があるわけでもない。
何かを変える必要がある。
そう思ったソリダゴはハナナから依頼書を受け取り、その内容を精査し始めた。
「火起こしや子供の遊び相手にはハナナとアチャモが適任だろう。俺は溝浚いや商品の荷下ろしで、赤ん坊の面倒はニャオハに任せようと思う。テフラとゼニガメは王城の庭園の手入れの手伝いと掃除の手伝いを頼めるか?」
ソリダゴは3人と三匹の適性に合う依頼を大量の依頼書から見つけて仕分けした。
幼馴染の3人でソリダゴだけが他の2人より2歳年上だった。
そのせいか、困ったことがあればソリダゴはいつも2人を助けるようにしている。
2人も何かあればソリダゴが助けてくれると信じている。
「俺達はシーカーである前に、プラズマ騎士団の一員だ。そのことを忘れないようにな」
仕分けを終えた依頼書をハナナとテフラに渡した。
「ありがとう、ダゴ兄!!」
ハナナはソリダゴを抱きしめると、アチャモと一緒に依頼書に書かれている食堂に向かって走り出した。
「テフラは城内の依頼が多い。いきなり大勢の見知らぬ人間に囲まれたらゼニガメも力を出せないだろうから気をつけるんだぞ?」
ソリダゴから依頼書を受け取ったテフラは力強く頷き、ゼニガメと一緒に城内の庭園に向かって歩き出した。
「さてと、俺達も行こうか、ニャオハ」
「フニャ〜」
ニャオハは軽い身のこなしで、ソリダゴの肩に乗ると一緒に依頼書に書かれている住所に向かった。
王都の一角にある民家にたどり着いたソリダゴは緊張しながらも意を決してドアをノックする。
ドアの向こうから足跡と赤ん坊の泣き声が聞こえる。
「はぁい?」
ドアから現れたのは若い女性。
腕には泣きじゃくる赤ん坊を抱えている。
「プ、プラズマ騎士団調査隊シーカーから参りました、ソリダゴであります」
「なあに?シーカー?」
「は、はい、赤ん坊の件で伺いました」
女性は怪訝そうな視線を浴びせる。
「ああ、あれ?騎士団はベビーシッターじゃないってやつ?わざわざ家にまで来て、文句言いに来たの!?」
明らかに機嫌の悪い女性は語気を強めてソリダゴを威嚇する。
母親の不機嫌を感じ取ったのか赤ん坊がさらに大泣きする。
「ああもうほら!!この通り、子育てって大変なのよ!!文句だったら聞き飽きたわ!!帰ってちょうだい!!」
「あの話だけでも……!!」
女性がドアを閉めようとした瞬間、ソリダゴの足元にいたニャオハが彼の肩に飛び乗った。
「え?ポケモン!?」
「フニャ〜」
「何でポケ、モ……ンが?……あら、何かいい匂い」
つい先程まで感情的になっていた女性が、あっという間に落ち着いていく。
それは女性が抱えている赤ん坊も同じだ。
二人とも表情が柔らかくなり、赤ん坊に至っては眠り始めた。
ソリダゴは普段からニャオハのそばにいるため、気付いていなかったが、ニャオハの体からは特殊な匂いが漂っており、その匂いにはリラックス効果があるということが後の研究で明らかになる。
「赤ちゃんの様子はこのニャオハが見てくれます。何かあれば、お知らせしますので、子育てのお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます。では、自分はこの周辺の溝浚いがありますので、夕方頃伺います」
「はあい、頑張ってね〜」
ソリダゴは肩に乗るニャオハを持ち上げると、女性の足元に置いた。
「なるべく早く戻ってくるからな。ニャオハ、任せたぞ」
ニャオハの頭を撫でて、ソリダゴは走り去った。
ニャオハは主の不在が心細さを感じるも、任された以上は自分に出来ることを最大限努めようと気を引き締める。
「いやあ、助かったわ〜。"この子達"、一度泣きだすと止まらなくて〜」
この子……"達"?
ニャオハは女性の案内で家の奥の部屋に連れて行かれると、そこには別の赤ん坊やまだハイハイを始めたばかりの子供、その子達よりも少し成長して歩き出すようになった子供がいる。
子供達は見慣れない生き物に興味を示し、ジリジリと近づいてくる。
「じゃあ、お願いね〜」
女性は部屋の扉を閉めて、どこかへ行ってしまう。
残ったのはニャオハとニャオハに興味津々な子供たち。
逃げ出したいが、もう逃げ場は無い。
依頼のあった食堂の前にたどり着いたハナナは、その場から動けずにいた。
理由は目の前に立つナルカミを思わせる屈強で鋭い目付きの強面店主が立ち塞がっているからだ。
「あ、あああ、あの……プププ、プリャジュマきしだん、シーカーででです……」
強面店主は何も言わずに、店の扉を開けて、顎でハナナを店の中に入るよう促した。
ハナナは促されるまま、意を決して前に踏み出すが、動きがぎこちない。
強面店主に案内されて、店の奥にある厨房へと進むハナナ。
このまま自分が料理されるのではないだろうかとさえ思った。
厨房はこじんまりとしているものの、整理整頓がされ、調理器具も手入れが行き届いている。
強面店主が調理器具の中から、火打ち石のような物、いや、砕けてしまった火打ち石を取り出してハナナに見せた。
「火打ち石が壊れて、火が起こせないんですね?」
ハナナの問いに強面店主が頷く。
「ま、任せてください……!!」
ハナナは鞄からアチャモが入ったモンスターボールを取り出し、中からアチャモを呼び出した。
「チャモチャモ!!」
意気揚々のアチャモだったが、視界の巨大な壁に気付き、ゆっくりと見上げた。
その視線の先には恐ろしい人間の顔がくっついている。
見上げた高さがあまりに高くアチャモは尻もちを付きながら気絶して固まってしまった。
「アチャモ!!?」
ハナナが慌てて駆け寄り、アチャモの体を揺らすとアチャモは意識を取り戻した。
「だ、大丈夫。アチャモ、落ち着いて。カマドに火を点けるだけだから」
そう伝えて、アチャモをカマドの前に立たせる。
アチャモは不安げに強面店主の方を見ようとするが、慌てて、視線をカマドに戻す。
「行くよ、アチャモ!!火の粉!!」
ハナナの指示を受けて、アチャモは大きく息を吸い込み、ありったけの力で火の粉を放った。
ハナナのポケモンの扱いが壊滅的な理由。
それは単純に指示が下手という訳ではない。
狙いを外すことも確かにあるのだが、壊滅的の由縁はそこではない。
ハナナがポケモンに指示を出すと、どういう訳か普段よりも技の威力が"大幅に"上昇するのだ。
技の威力が大幅に上昇する原因はわからないが、今回の場合であれば、ハナナもアチャモも早くこの場を去りたいという一心だったからかも知れない。
故に、アチャモの放った火の粉、もとい"火の玉"はカマドに積み上げられていた薪を一瞬で消し炭にしてしまった。
これには強面店主も驚きを隠せずにいた。
「チャモ!!」
アチャモはどんなもんだと言わんばかりに、その小さな胸を張ってみせるが、強面店主の顔から驚きが消えるのを見ると、一気に萎んでしまった。
「す、すみません!!もも、もう一回お願いします!!」
強面店主は無言のまま消し炭になった薪を集め、店の裏に捨てると新しい薪を用意した。
「アチャモ、あの薪に火を点けるの。だから、さっきより弱く出来る?」
「チャモチャモ!!」
「今度こそ、弱く火の粉!!」
ハナナの指示を受けて、アチャモは大きく息を吸い、そして、一気に吐き出すのではなく、さえずるようにソッと火の粉を放った。
しかし、今度は弱すぎて、火が点かないどころか、火の粉すら見えない。
「もうちょっと強く!!」
アチャモは息継ぎをして、再び火の粉を放った。
それでも弱い。
「もっと!!」
「チャ〜〜〜〜モ!!」
息が切れる寸前に肺に残っているありったけの空気と体温を合わせて、最初の時より小さく、それでいて薪を消し炭にしない、ちょうどいい火の粉を噴き出した。
薪にはアチャモのような朱色の火が点いている。
それを見た強面店主は満足そうに頷く。
そして、ハナナとアチャモはようやく安堵の息を漏らした。
強面店主はその後、火加減を見ながら開店のための仕込みを始めた。
ハナナとアチャモはその様子を見て、お互いの顔を見合わせた。
本来なら火打ち石で事足りる準備が、遅れてしまっているのにはハナナとアチャモにも責任がある。
ハナナ自身、火を点けるくらいアチャモと自分となら簡単だろうと思っていた。
だが、実際にはちょうどいい火加減を出す指示が難しく、アチャモもまた適切な火加減の火の粉を出す難しさを痛感した。
「あ、あの……」
ハナナの呼びかけに強面店主が視線を向けた。
「わ、私達に何か手伝えることはありますか!?」
強面店主はそのまま黙々と仕込みを続けている。
その手際の良さは正直ハナナには真似出来ない。
料理も訓練兵の時の炊き出しくらいでしかやったことがない。
しかし、強面店主は仕込みを続けながら、厨房の隅のバケツを指差した。
バケツの端には布巾が掛けられている。
ハナナはそれ見て何かに気が付く。
「て、テーブル!!テーブル拭いてきます!!」
強面店主が大きく頷く。
ハナナは厨房の裏手から井戸に向かって走っていく。
残ったアチャモも自分に何が出来るか考えていると、強面店主がアチャモを呼ぶように足先を鳴らした。
アチャモが音のした方を見ると、カマドの火加減が弱まっていることに気付いた。
アチャモはカマドの前に立ち、火の勢いを強めるために火の粉を放った。
火の勢いが簡単に弱まらないようになるべく一定の火加減で、長く火の粉を出し続ける。
しかし、そうすると薪がどんどん無くなっていく。
アチャモは厨房の裏手に走り、薪の束を見つけると転がしながら厨房に戻ってきた。
強面店主の様子を伺うと、「その通り」と言っているようにウインクをしてみせた。
水汲みから戻ってきたハナナはすぐさまテーブルを布巾で拭き始めた。
やがて、時刻は昼時。
仕事の昼休憩を使って、強面店主の食堂で昼食を摂る常連客が来店してくる。
テフラは依頼書に書かれている場所に向かって歩いている。
その脇をゼニガメが見慣れていない王城を瞳を輝かせながら歩いている。
凝った廊下の造りや歴代のハルモニア王の肖像画、何を描いたかわからない古びた絵画に価値がわからない調度品の数々。
その全てのゼニガメにとって見慣れていない物で、ポケモンが人間の文化や生活を知る一助になっている。
まあ、王城という特殊な環境を人間の生活様式と一括りにするのは偏りが強過ぎるが。
2人がたどり着いた先には、大きな剪定鋏を杖のように使う老人が椅子に腰をかけていた。
「おお、お主ら、騎士団から手伝いに来てくれたのか?」
優しい笑みを浮かべる老人にテフラとゼニガメは頷いた。
「ワシはスギジ。早速で悪いが、ちと肩を貸してくれんか?足を痛めての」
テフラは快く肩を貸し、スギジの案内で王城の庭園へと向かった。
普段騎士団やテフラ達は王城に併設されている屋内訓練場とそこへ繋がる廊下、王城の敷地内に設けられている兵舎と厩舎、そして厩舎横の調査隊の研究室ぐらいしか歩かない。
そのため、王城にどんな所があるのか知っていても実際に訪れるのは今日が初めてという場合もある。
その1つが王城の庭園である。
テフラは植物に詳しくないが、多種多様で多彩な植物で埋め尽くされる庭園は、王城の廊下で見てきた価値がわからない芸術とは比べ物にならないほど美しかった。
「ゼニィ……」
ゼニガメもそう感じているのか、うっとりとした瞳で庭園を見回している。
「さて、と。本当は剪定もしたいところなんじゃが、この足ではな。お主らにはまず水撒きを頼むよ」
テフラとゼニガメは自信ありげに頷くと庭園の中へと進んだ。
「ゼニガメ、水鉄砲!!」
ゼニガメは大きく息を吸い、近くの草木に向かって水鉄砲を噴こうとしたが、テフラが慌てて間に立った。
ゼニガメの口の中が行き場を失った水で膨らみ、ゼニガメはなんとか溢れそうなのを手を使って押さえている。
テフラは急いで、人差し指で上、空を指した。
それを見たゼニガメは頷いてから、頭を上に向けて、改めて水鉄砲を噴き出した。
草木に直接水鉄砲を当ててしまっては、その威力で草木が傷んでしまう恐れがあった。
しかし、上から優しく水を浴びせることで、草木を傷めることなく水撒きが出来る。
青空の下、綺麗な虹ができ、ゼニガメは楽しそうに水鉄砲を噴き出しながら庭園の水撒きを行った。
一通り終わるとスギジの元に戻る。
「お主ら……水遊びに来たのか?」
スギジの表情は穏やかな笑顔で、声音も変わっていないものの、機嫌が悪いのは雰囲気から感じ取った2人。
首を横に振ってみせるが、スギジは杖代わりの剪定鋏の先端で庭園の一カ所に指した。
「よく見てみなさい。水が十分に届いてない場所がある。一方で余分に水を浴びた部分もある。植物にとって水が無ければ枯れ、多ければ腐れる」
スギジは深いため息を付き、ポケットから王城の見取り図を取り出した。
「……この場所に小屋がある。そこから、じょうろとバケツを持ってきなさい。井戸の場所はわかるね?水やりが不十分な所に水を撒きなさい。そしたら次の場所に行くからね」
テフラはスギジの持つ見取り図を見て、改めて自分達が水撒きをしようとしている範囲を知った。
庭園だけでもかなりの広さがあり、加えて騎士団の医療部がクスリソウを栽培している畑も水撒きの範囲に含まれている。
ゼニガメがどれくらい水鉄砲を撃てるかわからないが、全てを回る前にゼニガメが干上がるのは間違いない。
「さあ、早く道具を取っておいで」
テフラとゼニガメは走り出し、庭園から少し離れた小屋からバケツとじょうろを持ち出し、急いで井戸に向かった。
バケツとじょうろにありったけの水を入れると、スギジの元へ戻り、改めて水撒きを行った。
その光景をたまたま見た商人がいて、ゼニガメがじょうろを使って、庭園の水撒きをしている姿に大変感銘を受けたそうだ。
その商人は国に戻って、ゼニガメ型のじょうろ、その名もゼニガメじょうろを作って、大層儲かったとか儲からなかったとか。
夕暮れ時、何十、あるいは何百回も井戸と庭園や畑の間の行き来した2人が水撒きを終えて、じょうろなどの道具を片付ける最中だった。
庭園を囲むように植えられた木々の一本、その根元に小さな植物の芽を見つけた。
小さな芽は今にも枯れてしまいそうにうなだれている。
「ゼニガメ、水鉄砲」
「ゼニィ」
ゼニガメは口笛を吹くような優しい水鉄砲を小さな芽に浴びせた。
心なしか、芽が元気を取り戻したように夕日を反射する。
2人は顔を見合わせ、また見に来ようと思いながら道具を片付けて行った。
その日も訓練場やポケモンの保管庫を散々歩き回り、いろいろな話を聞いて回ったニールは、その内容が書かれたメモを見ながら研究所へと戻る。
日はすっかり沈み、消灯時間を過ぎている。
そんな時間に研究所に淡い明かりが点いている。
研究所の前には厩舎番が中を覗き込んでいる。
「厩舎番くん、どうしたんだい?」
少し離れた所から大きな声で声を掛けられたせいで、厩舎番は驚きて、振り向いた。
ニールの姿を確認すると、厩舎番は慌てて人差し指を口に当てた。
それは静かにするようにという仕草だ。
ニールは言われるまま静かに研究所へと近づき、厩舎番と一緒に中を覗き込んだ。
そこにはソファの上で眠るシーカーの3人とそのトモダチの三匹のポケモンが無防備な姿で眠っている。
ニールは3人が今日何をしていたのかわからないが、その緊張と疲労から解放された幸せそうな寝顔を見れば、何か良い経験を積んだことはすぐにわかる。
「ペラップ、今日は久しぶりに野宿だ」
「NOJUKU、NOJUKU」
厩舎番とニール、そして、ペラップは静かにその場を立ち去った。