ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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初任務〜中編〜

あれから数日。

この数日の間、シーカーの3人は騎士団では取り扱わない緊急性重要性の低い依頼を熟していた。

ある日は商店の商品の荷下ろし。

ある日は孤児院の子供達の遊び相手。

ある日は王城の廊下の掃除。

ある日は溝浚い。

ある日はクスリソウを栽培する畑の草むしり。

人を替え、ポケモンを替え、方法を替え、毎日毎日依頼を熟していた。

 

 

しかし、今日3人と3人を管理する立場にあるカンパ・ニール博士は王城の中に設けられている、プラズマ騎士団団長ボルツの執務室の前に立っていた。

緊張する3人とは裏腹にニールは普段と変わらない様子でいるのは肝が座っているためだろうか?

まだ子供の3人にはわからない。

ソリダゴは意を決して、執務室のドアをノックする。

 

「ポケモン調査隊シーカーより、ソリダゴ、ハナナ、テフラ、及びカンパ・ニール博士、以上4名参上しました!!」

 

広い廊下にソリダゴの声が響き渡る。

王城の外から大量のポケモンの足音が聞こえてくる。

 

「…………入れ」

 

部屋からボルツの声が聞こえ、4人は執務室へと入った。

執務室は王城の一室を使っているということもあり、シーカーの研究所よりも広く、豪華な造りだ。

ボルツは部屋の奥の机に座り、大量の書類と格闘している。

1枚の書類を取ると、書類に目を通し、最後に書類にサインを書く。

そして、次の書類を取り、同じ動作を繰り返す。

外がやたら騒がしく、話が始まらない。

呼び出された理由があるとすれば、便利屋紛いの任務を行ったこと。

無論、依頼である以上騎士団が自主的に遂行するのは問題がない。

しかし、騎士団はポケモンから王国と国民を守る組織だ。

つまり人が人の力でもって人を救う。

 

「最近王都内で3人の騎士団員が活動しているという報告を耳にする」

 

外が静かになったところで、ボルツが話し始めた。

 

「報告では、その3人は見慣れないポケモンを連れていたとも聞く」

 

作業の手を止め、鋭い眼差しで3人を見つめる。

 

「団員の中にはポケモン使いもいる。その内の誰かがポケモンと協力して依頼を遂行する……それも問題ではない。では、なぜ君たちはここに呼ばれたかわかるか?」

 

ボルツの口調は穏やかだが、その奥に憤りの炎がくすぶっている。

ボルツは視線をソリダゴ、ハナナ、テフラへと向けるが、3人は答えられない。

 

「君たち3人がポケモンの誤った知識を国民に与えているからだ」

 

ボルツが"あの夜"の数少ない生き残りということは有名な話だ。

"あの夜"、謎のポケモンの襲撃により村1つが焼け野原になる大きな被害が出た。

それまでもポケモンに田畑を荒らされたり、ポケモンに襲われ怪我をすることはあったものの、村1つとそこに住む住人数十人が犠牲になる大きな被害は後にも先にも"あの夜"だけである。

そのため、ハルモニア王国の人々は皆が”あの夜”のことを知っている。

当然、ソリダゴ、ハナナ、テフラの3人も知っている。

そのためボルツは、ポケモンと人間の共存はありえないと豪語している。

 

「ポケモンは危険な存在だ。確かにポケモンの中には友好的なポケモンもいれば、無害なポケモンもいる。しかし、一方で村1つを容易く焼き払うことが出来るポケモンもいる。無害なポケモンと有害なポケモン、その区別はどうやって行う?その使役はどうする?誰が使役する?」

 

ボルツは立ち上がり、ゆっくりと4人に歩み寄る。

 

「ポケモン使いとしての実力が無い者が実力以上のポケモンを扱えば、その被害は周囲に及ぶ」

 

ボルツの視線がハナナに向けられる。

ハナナの壊滅的な指示でこの数日何度も想像しているよりも大きな威力の火の粉が出たことを思い出した。

誰かに怪我を負わせることは無かったものの、一歩間違えればそういう危険性があってもおかしくはない。

 

「また実力があっても周囲との協調性を欠く者は、やはり騎士団全体に被害をもたらす」

 

次に視線をソリダゴに向ける。

ソリダゴは他の2人よりも大変そうな依頼を率先して遂行したが、その傍らでニャオハは赤ん坊の面倒を見たりと別行動を取ることが多かった。

 

「誤った知識、浅はかな考えを持った人々がポケモンを扱えば一体どれほどの"過ち"を引き起こすか考えたか?」

 

最後にテフラの前に立ち、鋭い眼差しで見下ろした。

テフラは庭園の水撒きを思い出した。

ただ水を撒くだけならゼニガメの水鉄砲で十分だと思っていた。

しかし、実際は水撒きに"ムラ"が出来てしまい、あのまま続けていたら庭園の景観が損なわれていただろう。

 

「何より、我々プラズマ騎士団は慈善団体ではない。これ以上シーカーの勝手な活動は認めない」

 

ボルツは再び机に戻り、椅子に深く腰掛けた。

それは事実上解散命令に等しかった。

まだ調査隊として何一つ成果を上げていないどころか、何一つ調査隊らしい任務を受けられていない。

調査隊の知名度を上げるため、困っている人達を助ける騎士団としての務めを果たしたつもりでいたが、そうではなかった。

 

「そこで……」

 

ボルツは机の引き出しから1枚の封筒を取り出し、差し出した。

ソリダゴが躊躇いがちに封筒を受け取った。

 

「正式に任務を与える」

 

それを聞いた3人は目を見開いて驚いた。

 

「勘違いするな。君たち3人にこれ以上勝手な真似をされて、国民がポケモンに親しみを持たないようにするため、ポケモンと人間が共存出来るなどという愚かな理想を抱かせないための措置だ」

 

ボルツは再び立ち上がり、改めて4人と向き合う。

 

「プラズマ騎士団調査隊シーカーに命じる。任務を遂行しろ。以上だ」

 

「「「ハッ!!」」」

 

"3人"が一糸乱れぬ動きで敬礼し、執務室を後にする。

ニールだけが執務室に残った。

 

「どうした?ようやくポケモン調査が出来るぞ?早く行ったらどうだ?ムッシュー」

 

ボルツは再び書類の山との格闘を始めていた。

 

「随分回りくどいやり方ですね」

 

「何がだ?」

 

「ポケモンとの共存を研究しているボクが気に食わないのはわかります。なら、ボクにだけ嫌がらせをすればいい!!わざわざ研究室まで与えて、人員も与えて、そこまでお膳立てしたにも関わらず、調査には出掛けさせない。だから、あの子達は団員として出来ることを必死にやっていた!!それを……!!」

 

「苦情が来ている」

 

「え?」

 

「国民からではない、他ならぬ団員からだ」

 

ボルツは封筒が入っていた引き出しとは別の引き出しから大量の書類を取り出して、それを投げつけるようにニールに渡した。

 

「同期の訓練兵はもちろん、団員に正式に入団した者達からの苦情だ」

 

『実力に見合わない』

『なぜ自分より先に落ちこぼれ3人が』

『自分の努力は何なのでしょうか?』

『安全な場所で楽をしている』

『職務の邪魔だ』

『何もしていない』

『穀つぶし』

『陛下に上手く取り入った他所者』

 

見渡す限りの書類には、ニール自身に対する苦情も調査隊の3人に対する苦情も書き殴られている。

 

「確かに調査隊への調査許可を出さなかったのは、他ならぬ私だ。私が博士に期待するのは、どうやったらこの国をポケモンから守れるか?……それだけだ。だが、博士はポケモンとの共存を望み、幼い陛下もそれに同調し、研究室と調査隊を作られた。王命でなければ到底受け入れられない!!いや、今も受け入れられていない!!」

 

普段は落ち着いた雰囲気のボルツがここまで感情を露わにするのをほとんどの団員が見たことがないだろう。

 

「博士。今回の任務の成果次第では、私は調査隊の解散を陛下に直訴する。まあ、せいぜい頑張るといい」

 

普段温厚なニールもまたこの時ばかりは頭に血が登るのを感じた。

 

「…………Bien sûr. Monsieur ボルツ」

 

 

 

 

 

自分の憤りを落ち着かせようとするニールとは裏腹に、耳の奥で繰り返されるボルツの言葉の一つ一つが神経を逆撫でする。

ゆっくり呼吸を整えながら、研究室に向かって歩いた。

ニールが研究室に到着すると、せっかくの初任務だというのに意気消沈した3人の姿が飛び込んできた。

 

「Ce qui s'est passé?どうしたの、皆?せっかくの初任務だって言うのに〜。あ、わかった、初任務で緊張してるんだな〜」

 

ニールは先程のボルツとの会話を悟られないように平静を装った。

しかし、どうも様子がおかしい。

テフラが先程渡された依頼書をニールに渡した。

 

『依頼主 フキヨセ村村長

 依頼内容

 畑を荒らすポケモンの討伐』

 

そこまでは普通の内容だった。

問題は備考欄に書かれている内容だ。

 

『例年通り、またミネズミなどのポケモンが湧く季節になりました。昨年同様に団員を派遣していただくように収穫時期の前からご依頼しておりますが、一向に団員が来ません。お忙しいことと存じておりますが、何卒早急な対応をお願い致します』

 

依頼書が届いたのは昨日のようだが、依頼書が届くまでの時間を考えると、その切迫した状況がわかる。

 

「こ、これは、急いだ方がいいんじゃないかな?」

 

ニールは至極真っ当なことを言った。

 

「博士、フキヨセ村ってどこにあるか知ってるのか?ハルモニア王国の西部の山の向こうにある僻地だ!!どんなに急いで行っても3日はかかる!!」

 

ニールは自分の無責任な発言に胸を痛めた。

ニール自身、カロス地方から来たばかりの異邦人。

土地勘があるわけでもない人間よりも、土地勘のある人間が3日かかると言えば、きっとそれくらいかかるのだろう。

 

「す、すまない。でも、ゼブライカ達に乗せてもらえば……」

 

いや、3人もそれくらいのことは考えられるだろう。

何より、研究所の隣の厩舎がやけに静まり返っている。

ニールは慌てて、外に出て、厩舎の中を覗いた。

 

「ン?どうしたんだ、先生?」

 

厩舎の中には厩舎番がいるだけでゼブライカもバッフロンも一匹もいない。

 

「ど、どうして?」

 

「ああ、なんか今朝いきなし緊急出動だ〜とかで、皆連れてっちまったんだ」

 

執務室にいる時に聞こえてきた外の音を思い出した。

あの音はポケモン達の足音。

それも相当数の足音だった。

 

「je ne peux pas le croire……ここまでするのか……」

 

きっとこれは妨害工作の一つだろう。

ニールは膝から崩れ落ちた。

それを見た厩舎番は慌てて駆け寄った。

 

「どした?具合ぇ悪いんか?」

 

確かにあまりの出来事で目の前が真っ暗になるような感覚はある。

 

「だ、大丈夫。ただ、せっかくの初任務だって言うのに、移動手段がね……」

 

「移動?じゃっ!!んなことが!!んだば、オラに任せろじゃ!!」

 

厩舎番はポケットからおもむろにモンスターボールを取り出すと、中から緑色のポケモンが現れた。

 

「こ、このポケモンは!!?」

 

「ニールさんなら知ってっべ?カロスのポケモンだもんな!!」

 

崩れ落ちたニールは勢いよく立ち上がり、研究所に戻った。

まだ3人は落ち込んでいる。

 

「皆!!落ち込んでいる暇は無いよ!!急いで出発の準備だ!!」

 

ニールはハナナとテフラの手を引き、それをソリダゴが追いかける。

研究所の外は快晴の青空。

降り注ぐ陽光を受けて、青々と煌めく一匹のポケモンが3人を待ち受けている。

そのポケモンを3人は知らない。

だが、ニールは知っている。

四足歩行に立派な角が生えたポケモン。

その名はゴーゴート。

ハルモニア王国にはいないポケモンだ。

そんなポケモンが何故ここにいるのか?

何故厩舎番がこんなポケモンを持っているのか?

そんな疑問は今は置いておこう。

 

「ほら、急ぎてぇんだべ?んだば、あべあべ(行こう行こう)」

 

厩舎番はゴーゴートに手綱と荷車を付けて、出掛ける準備を整えている。

4人は急いで、鞄に荷物を詰め込んで、荷台に飛び乗った。

 

「んだば、ゴーゴート、頼んだじゃ!!」

 

ゴーゴートは気合いを入れるように一声嘶くと、軽快な足音を響かせながら荷台引いて走り出した。

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