ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜 作:影山ザウルス
ハルモニア王国西部に聳える山。
ネジ山。
どうしてそう呼ばれているのかは定かでは無いが、そのネジ山を越えた先にフキヨセ村がある。
王都を出発した一行はゴーゴートのお陰でなんとか夕暮れ前にフキヨセ村に到着することが出来た。
しかし、僻地ということもあり、道中はほぼ獣道のような悪路を通っていたせいで、3人は乗り物酔いを起こしていた。
一方のニールは乗り物酔いは無い。
以前乗った船が嵐に遭った時よりはずっと快適だと笑っていた。
「あなた達は、もしやプラズマ騎士団の……?」
1人の老人が一行の到着に気付き、歩み寄ってきた。
「Bonjour grand-père プラズマ騎士団cy」
「おお!!やっと来てくださった!!おおい!!プラズマ騎士団が来てくださったぞ!!」
ニールが名乗り終える前に老人が村に向かって大声で叫んだ。
それを聞いた村人達が村の奥から現れた。
皆、どことなく安堵した表情でニールを見つめている。
「申し遅れました。私はこの村の長を務めております、デューと申します」
デューは長年農業で培われた頑丈な手でニールの手を握りしめた。
「Monsieur デュー。お会いできて光栄です。ボク達はプラズマ騎士団ちょ」
「いえいえ、こちらこそ何とお礼を言ったものか!!こんなにお若い分隊長殿と団員の面々を引き連れていただけるなんて!!皆様を派遣していただいたボルツ騎士団長様の御慈悲にも重ね重ね感謝を申し上げます!!これで安心して農作業を続けられます!!」
デューは満面の笑みでニールに感謝を伝え続ける。
「毎年この時期になると周辺の森からミネズミが収穫間近の作物を食い荒らしていくんです!!そこで騎士団に相談したところ、当時まだ分隊長であったボルツ騎士団長様が村に来てくださったんです!!それからというもの、毎年毎年欠かさず団員を派遣してくださいまして……しかし、今年はどういう訳か連絡も無く、何かあったのではとも思いつつも、私ら村人達にはポケモンを追い払う力は無くて。しかも、奴らと来たらすばしっこい上に連携というんですか?見張りをしている奴らと作物を食い荒らす奴らと役割分担しているみたいに動くこともありました。以前、そういう奴らが出た時は騎士団の面々も大変苦労されておりましたが、なんとか無事に追い払うことが出来ました。ボルツ騎士団長様の時は簡単に追い払っていましたが……ああ、いえ決して騎士団のお務めを軽んじている訳ではございません!!分隊長殿も来てくださったということは、きっと万全を期す体勢でおられるということ!!いやぁ、心強い限りでありますな!!」
デューの熱弁はその後も続き、その話を熱心に聞くのはニールただ1人。
村人達も、その聞き飽きた話に耳を傾ける者はおらず、そそくさと作業へと戻っていく。
その中の1人がソリダゴ、ハナナ、テフラの3人に近づいてくる。
「はじめまして。私は村長の息子のブリーズと言います。騎士団の方々ですよね?」
「はい、プラズマ騎士団調査隊シーカーから参りました。ソリダゴです」
ブリーズは調査隊の名を聞いて顔をしかめた。
「ちょう、さ隊?シー……カー?とは何でしょうか?」
「シーカーは発足して間もない部隊です。一応、ポケモンの生態の調査、研究を目的として発足されました」
ソリダゴはあえて"共存"の話は伏せた。
もし伝えたとして、一体どんな反応をされるかわからない。
ただでさえ、調査隊やシーカーの名を伝えただけで怪しんでいる様子が見て取れた。
ブリーズの視線は調査隊3人の胸にある騎士団の紋章に注がれている。
騎士団が着ている制服には騎士団の紋章が刺繍されている。
複雑な紋章のため複製が難しい。
そのため紋章の有無は騎士団の証明とも言える。
「父はあの通り、話し始めると止まりませんので、私から依頼の詳細をお伝えします。どうぞ、こちらへ」
フキヨセ村。
ネジ山の麓にある村で、ネジ山や近隣の山から栄養豊富な水が流れ着く場所にあり、その水を利用した野菜を多く栽培している。
ネジ山や周辺の山々に囲まれているため陸の孤島とも言える、このフキヨセ村。
周囲の森には把握しきれない程のポケモンがいるとも言われている。
収穫前から少しずつ被害が出ており、収穫を目前に控えた今時分が特に被害が多く、村人達だけでは手に負えなくなる。
そこで毎年騎士団に討伐の依頼を出しているという訳だ。
ブリーズは村と村周辺の地図を持ち出し、特に被害が多い畑を案内した。
「被害が多いのはやはり村と森の境界の畑が多いです。私達も柵を設けて、侵入を阻もうとしているのですが……」
案内された畑の周囲を守るように作られた木の柵は子供の背丈ほどあるが、効果は薄いようだ。
それもそうだ。
ミネズミの前歯は木々を削ることなど容易く、木の柵ぐらいなら簡単に壊せるだろう。
ひょっとしたら飛び越えることも出来るかも知れない。
しかし、一方で戦闘力という点においては、ポケモン使いが戦術的に攻めてくるならまだしも、野生のミネズミが相手なら問題無いだろう。
加えて、3人とも訓練兵時代にミネズミを使った戦闘訓練も受けている。
勝算は十分にある。
「ボク達に任せてください。必ずや討伐してみせます!!」
ソリダゴは胸を張って宣言した。
ハナナもテフラもそれを倣った。
ブリーズには一抹の不安があるものの、自分達農夫が手出ししたことで、痛い目に遭うことを知っているため任せる他無かった。
「……よろしくお願いします」
ミネズミが現れるのは決まって夜だと言う。
人間が夜闇の中で広い畑を見張るのは当然難しい。
手薄になる夜を狙って、野菜を奪うのは合理的とも言える。
加えて、一匹一匹が弱いからこそ、相手が人間だとしても確実に食べ物にありつける夜を狙うのはポケモンの習性なのだろう。
ソリダゴが立てた作戦は以下の通りだ。
・聴覚が鋭いニャオハに警戒してもらう。
・目標が現れたらソリダゴとニャオハが奇襲を仕掛ける。
・ハナナとテフラはソリダゴが倒しきれなかった目標を各個撃破していく。
というシンプルなものだった。
不測の事態に陥ったら、互いに笛で合図することになっている。
しかし、ソリダゴには自分1人で任務を遂行出来るという自信とその義務があった。
ソリダゴは血の繋がりこそ無いものの、昔からハナナとテフラの兄として2人を守るように努めていた。
騎士団に入団したのも2人をポケモンから守るためのはずだった。
しかし、2人も入団することになり、ソリダゴは2人が入団出来る年齢になるのを待ってから3人で入団することにした。
無論、その間を無駄に過ごしていた訳ではない。
出来るだけ多くのポケモンの知識と入団後に役立つ知識や技術を独学で学んでいた。
それは、兄として、2人を守るための努力だった。
そんな物思いに耽っていると、ニャオハの耳が動いた。
「来たか?」
「ニャッ」
ニャオハは音のする方向を見据えている。
やはり村と森の境界に近い、あの柵から近づいてくるようだ。
目を凝らすと黒い影が柵の上に立っているのが見えた。
ミネズミだ。
ミネズミはその大きな目で周囲を見渡した後、柵の奥からさらに二匹のミネズミが現れた。
それ以上は現れないようだ。
相手が三匹ならニャオハだけでも対応可能だと思ったソリダゴはミネズミ達に気づかれないように柵の方へと進んだ。
そして、ミネズミの背後に回り込み完全に退路を塞いだ瞬間、ニャオハに指示を出そうとした。
しかし、ソリダゴは背後から近づく存在に気付かず、ニャオハが何者かに体当たりされた。
「ニャオハ!!?」
幸い、戦闘は継続出来るものの、不意を突かれたことでニャオハはふらついている。
ソリダゴの頭の中では何故?どうして?何が起きた?などの疑問が浮かぶが、それらを振り払い、ニャオハの不意を突いた存在に集中した。
それは四匹目のミネズミ。
不意を突くはずが、逆に不意を突かれてしまった以上、奇襲は失敗だ。
しかし、相手は四匹。
目の前のミネズミを倒して、すぐに前の三匹を追えば間に合う。
そう判断した矢先に"2カ所"から笛の音が夜闇に響き渡った。
倒しきれなかった場合に備えているハナナとテフラの笛の音だ。
「きゃぁぁぁ!!アチャモ、火の粉!!」
ハナナの叫び声と共に、あの壊滅的な火の粉、もとい火の玉が周囲を明るくした。
ほんの一瞬の出来事ではあったが、ハナナの周囲に数匹のミネズミの姿が見えた。
「ぜ、ゼニガメ、高速スピン!!」
続いて、テフラの指示が聞こえる。
その直後、何か妙な音が聞こえる。
その音はポケモン同士がぶつかったような音でなく、もっと柔らかく、繊維が引きちぎられるような音だ。
ソリダゴの顔から血の気が引いた。
おそらく、ゼニガメの高速スピンで野菜を薙ぎ倒している音だ。
「ふ、2人とも、落ち着け!!」
慌てて叫ぶも、その間にニャオハが目の前のミネズミに攻撃を受けている。
「クッ!!ニャオハ、木の葉で押し切れ!!」
「フニャァァァ!!」
目の前のミネズミをなんとか木の葉で吹き飛ばすも、ミネズミが吹き飛んだ先には畑。
収穫を目前に控えた守るべき対象。
「アチャモ、火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉火の粉、火の粉ぉ!!」
狙いもままならない状態で噴き出した火の粉は畑に降り注いだ。
その火の粉のお陰で、現状がはっきりと見えた。
驚くべきは、畑に押し寄せているミネズミの数。
森側から来た数匹だけでなく、ハナナとテフラの背後からも十匹を超えるミネズミが押し寄せていた。
森から来たミネズミを背後から奇襲するつもりが、逆に奇襲された上に、その混乱で畑に火の粉が降り注ぎ、野菜が次々と薙ぎ倒されていく。
さすがに火の粉が降り注いだ畑から野菜を盗む余裕が無いのか、ミネズミ達は退散していく。
しかし、混乱し続けるアチャモとゼニガメのせいで畑への被害が広がっていく。
「ニャオハ、まずはゼニガメを止める!!木の葉だ!!」
翌朝。
村人達、特に村長のデューは特に落胆していた。
収穫間近の野菜が焦げている。
収穫間近の野菜が潰れている。
収穫間近の野菜が折れている。
収穫間近の野菜が砕けている。
野菜を守るはずだった騎士団員3人は泥と灰に塗れていた。
ミネズミが走り去った後、なんとかゼニガメに火を消させ、混乱して暴れ回るアチャモをなんとか制止させた。
その有り様だった。
最早、ミネズミに食い荒らされる以上の被害が出ている。
「どうして……どうしてこうなったんじゃ!!?これまでの騎士団員はここまで被害を出したことは無かったぞ!!?分隊長……あの分隊長はどこじゃ!!?」
デューはソリダゴの胸倉を掴み上げて詰め寄る。
しかし、3人もニールの居場所を知らない。
それどころか一緒に来たはずの厩舎番の姿も見当たらない。
「お前達、本当に騎士団の人間か!?」
「俺達を騙したな!!?」
「偽物め!!」
激しい罵倒が飛んでくる。
ソリダゴはその罵倒を一身に受けるために、2人を自分の背後に立たせている。
ハナナはその後ろ姿を見ることしか出来ず、テフラは一緒に前に立とうとするも、ソリダゴに止められる。
「出てけ!!もう2度と騎士団には頼らん!!」
デューがそう吐き捨てるとどこからか拍手が聞こえてきた。
拍手のする方を見ると、そこにはニールと厩舎番の2人が立っている。
「très bien Monsieur デュー!!素晴らしい覚悟です!!」
ニールの姿を見るや、デューの眼球が血走りニールに駆け寄り、その胸倉を掴んだ。
「今更何しに出てきた!?この役立たずの分隊長め!!ボルツ騎士団長様に訴えてやるからな!!」
「Oh la la.それは少し困りますね。ですが、これも作戦の内なんです」
「作せ……ふざけるな!!役立たずの団員のせいで野菜はダメになっちまったじゃないか!!あれを見ろ!!」
デューが指差した方向には食べれる状態にない野菜が山積みになっている。
しかし、ニールは落ち着いている。
「Monsieur デュー。もう一晩、ボク達にもう一晩いただけませんか?あと一晩でこの村が抱えている問題を恒久的に解決してみせましょう。使うのも、あの畑だけで十分です」
ニールは笑顔で提案する。
デューや村人達から向けられる嫌悪の視線などどこ吹く風という様子だ。
「……あんた達、王都の人間にゃ僻地の苦しみがわからんだろ?あの野菜は自分達が食べるためだけじゃない。ホドモエの市場で金に換えて、冬を越す蓄えにしなきゃならん。びた一文でも村人達の命に関わるんだ。たかが畑の一部じゃねんだぞ!?」
「確かにボクには畑の価値がわかりません。ただ、この畑が皆さんの大事なものだということはわかります。だからこそ、万全を期して、これから先、ポケモンに怯えなくていいようにしたいんです」
デューに向けられる真っ直ぐで静かな瞳には嘘や誤魔化しなどはなく、誠意が伝わってくる。
デューは掴んでいたにの胸倉を放した。
「使いたきゃ使え。私は……疲れた」
憔悴しきったデューはおぼつかない足取りで、家の方へと戻っていった。
他の村人達も後に続いて、無事だった畑で農作業を始めた。
「……ごめんね、キミ達だけに任せちゃって」
ニールは3人に歩み寄ると優しく3人を抱きしめた。
しかし、それで3人の気持ちが晴れる訳が無い。
特にソリダゴは作戦を立案し、実行し、失敗した。
出来たことと言えば、混乱する2人とポケモンを止めて、火事の拡大を防いだこと。
ミネズミには手も足も出なかった。
「博士……私達、やっぱり落ちこぼれ」
「Non!!ハナナ、それは違う。ここに来るまであちこち旅してきたボクが言うんだ。キミ達は天才だ。ボクが探していた逸材だよ。ソリダゴは相性の不利をものともせずにアチャモを止めた。ゼニガメに消火作業を指示出来たのはソリダゴの判断があってこそ。テフラも消火作業頑張ってくれたんだよね?」
テフラの手は泥まみれだった。
燃える火に泥を撒いたのだろう。
「大丈夫。今度は上手く行くよ。だから、少し休もう」
ニールの言葉はただただ暖かった。
そして、運命の夜。
昨夜、食べ物にありつけなかったミネズミは森の中から畑の見える距離に集まっていた。
今夜は"あの匂い"がしない。
昨夜は不思議な"匂い"がしたため、群れの数匹が木に登り、見張りをすることになった。
案の定、見知らぬポケモンと3人の人間が待ち構えているのがわかり、陽動と奇襲をかけたのだった。
しかし、人間側にいるポケモンの反撃で退却を余儀なくされ、結果群れは空腹状態。
加えて本来なら森に自生する木の実を食べる所だが、なぜか木の実が見つからず、こうして2日連続で人間の畑を襲うことになってしまった。
畑を見ると、ミネズミの群れは生唾を飲み込む光景を目にした。
そこには大量の野菜と、森に自生するはずの木の実が文字通りの山積みになっている。
空腹のミネズミは一斉に走り出し、柵を飛び越え、ご馳走の山の麓にたどり着いた。
一瞬辺りを見渡すが、何もいない。
ミネズミ達は大量のご馳走に一斉にかぶり付いた。
木の実は後で食べるように頬袋に入れて、野菜で空腹を満たしていく。
このミネズミ達にとって、久しぶりの食事だった。
「ニャオハ、木の葉!!」
人間の叫び声が響いた。
その瞬間、ご馳走の山の頂上から"あの匂い"のポケモンが飛び出した。
しかし、ポケモンの攻撃はミネズミの頭上を通り過ぎ、人間の声のした方へと飛んでいく。
外したのか、それとも仲間割れか?
安心するミネズミもいれば、嘲笑うミネズミもいるし、とにかく食べるのを止めないミネズミもいる。
ミネズミ達は気にせず、食事を続ける。
ミネズミの群れがご馳走に群がった瞬間からニールの考えた作戦が始まった。
ソリダゴは予め用意していた松明に火を灯した。
それを合図にご馳走の山に隠れているニャオハが顔を出す。
ニャオハをご馳走の中に隠していたのはニャオハが放つ独特な匂いを誤魔化す必要があったためだ。
加えて、ニャオハには高い場所から木の葉を撒き散らす役割があった。
「ニャオハ、木の葉!!」
合図と共に飛び出たニャオハは目印の松明に向かって、木の葉を放つ。
ソリダゴはその高い身体能力を活かして、ご馳走の山の周囲を走り、ニャオハの放つ木の葉がご馳走の山の周囲に広がった。
「ニャオハ、戻れ!!」
ソリダゴの合図でご馳走の山から飛び降り、食事に夢中になっているミネズミの頭を踏み台に自分の主の元へと駆けていく。
ミネズミの群れはまだ食事に夢中だ。
続いてハナナとアチャモの出番。
「アチャモ、火の粉!!」
アチャモは先程ソリダゴとニャオハが撒き散らした木の葉に向かって、火の粉を噴いた。
アチャモの噴いた火の粉は小さな火種ではあるが、火は一瞬で燃え広がり、ミネズミを取り囲む炎の檻となった。
これはソリダゴがニャオハが放った木の葉に松明に使う油を撒いていたからだ。
ミネズミは突然炎の檻の中に閉じ込められて行き場を失い、慌て始めるが、もう遅い。
どこを見ても火、火、火。
火に飛び込んで逃げることも出来たかも知れないが、混乱したミネズミにその選択肢を選ぶ余裕は無い。
「ミミィィィィィィ!!」
降参を宣言するような叫び声が夜闇に響き渡る。
翌朝。
村人達、特に村長のデューは愕然としていた。
そこには、木の実や野菜はたらふく食べて満足そうに眠るミネズミの群れの姿があった。
数匹は起きて、騎士団が連れてきたであろうポケモン達と戯れている。
しかし、驚くべきはミネズミの数。
20匹はいるだろうか?
「Bonjour フキヨセ村の皆さん。ボク達、プラズマ騎士団調査隊シーカーの成果は如何ですか?」
ニールがまるで手品師が手品を披露したように、両手を広げて、村人達に成果を披露した。
「い、一体何が起きてるんじゃ!?」
「Monsieur デュー。それでは、ご説明致します。まずはミネズミというポケモンについてから」
ミネズミというポケモンは群れで生活するポケモンで、雑食性という特徴がある。
そのため、ミネズミの生息範囲はほぼハルモニア王国全土に及んでいる。
一方でそれだけ広い生息範囲を群れ単位で生息しているということは、そこには縄張りがあり、より食べ物が豊富な縄張りを巡って、あるいは外部から来た別の群れから縄張りを守るために野生のミネズミやミルホッグは縄張り争いを日々繰り広げていることになる。
「ここまでは、ミネズミというポケモンの概要に過ぎません。重要なのは……ミネズミの個体差、性格と言い換えてもいいでしょう」
人間がそうであるように、同種のポケモンでも様々な"性格"が存在する。
意地っ張りで、自分が認めた相手にしか心を開かないポケモン。
わんぱくで、とにかく遊びたい気持ちが抑えきれないポケモン。
臆病で、自分の殻に引きこもってなかなか出て来ないポケモン。
一括りにミネズミというポケモンを分類することは簡単だとしても、一匹一匹の性格まではわからない。
「今回、いえ、過去十数年に渡り、フキヨセ村からの依頼で捕獲したミネズミ。また類似した依頼で全く別の地域で捕獲されたミネズミを調査したところ。非常におとなしく、戦いを好まない性格のミネズミが多いことがわかりました」
調査隊が発足してからの数日、ニールは過去に騎士団で捕獲されたミネズミの性格や捕獲された場所を調査していた。
その中で気付いたことが二つ。
一つはおとなしく戦いを好まない性格のミネズミが多いこと。
「これは推測の域を出ませんが、おそらく騎士団で捕獲したミネズミの多くが、性格かそれ以外の何らかの理由で群れから抜ける。あるいは追い出されたと考えられます。群れを抜ければ、食べ物にありつくのは難しい。そこで手っ取り早く食べ物にありつくために狙ったのが、フキヨセ村や僻地に点在する村々の畑という訳です」
そのため全く別々の僻地の村々に現れたミネズミを捕獲したはずなのに、自然と似通った性格のミネズミが多くなることに繋がる。
「そして、二つ目に気付いた点が実に興味深い」
二つ目に気付いた点。
それは全く別々の場所で捕まえたはずのミネズミが大量に集まっているプラズマ騎士団の内部で、ミネズミ同士の仲違いが起きていないこと。
ミネズミは本来縄張り意識が強いポケモンで、自分の縄張りに別の群れが入ると縄張り争いに発展する。
しかし、プラズマ騎士団という野生よりも更に狭い空間にいるにも関わらず、ミネズミ同士での争いは見られない。
「ポケモン使いに従順だからということ考えられますが、もう一つの可能性があります。それは、このプラズマ騎士団という環境が縄張りを持たないミネズミ達の新たな縄張りになったということです」
あまりに突拍子も無い可能性で、聞く者は唖然とした。
「考えてみていただきたい。捕獲されたミネズミに食事を与える人間。その人間に従って戦うミネズミ。いや、自分の縄張りとそこに住む仲間ために戦うミネズミと考えるとどうでしょうか?縄張りに住む仲間のために互いに互いにを助け合う"共生"、あるいは"共存"が成り立っているのではないでしょうか?」
ニールが演説するこの場所は王都の王城にある謁見室。
周囲にはプラズマ騎士団の団長を初めとする分隊長、そして、ハルモニア王も在席している。
「それで、フキヨセ村の人達にはなんと?」
「簡単です。このフキヨセ村をミネズミ達の新たな縄張りにすることで、恒久的な問題解決になると伝えました」
謁見室に集まった面々がざわめき出した。
「ミネズミに住む場所と食事を与えることで、縄張りとして機能させられるのはプラズマ騎士団のこれまでが証明してくれています。そして、新たな縄張りを得たミネズミ達は縄張りを守るため、外部から訪れた他の群れや、あるいは他のポケモンから縄張りを、フキヨセ村を守ってくれるでしょう」
ニールの言葉には自信が溢れている。
「食料はどうなる?」
前代未聞の報告にざわめく中で唯一ボルツだけが冷静だった。
その通り。
これまでフキヨセ村で栽培してきた野菜は自分達で食べるだけでなく、他の生活必需品との交換がされる。
そこへミネズミが増えれば、結果食料の自給率が減り、困窮に陥ることをボルツは見事に指摘した。
「ミネズミ達に食事を与えることで、一時的に食料が減ることは否定出来ません。しかし、ミネズミの排泄物、つまり糞が畑の肥料になり、来年以降は今年以上の収穫が期待出来ます。加えて、ミネズミとの共存する中で開墾する範囲が広まれば、食料自給率が消費量を上回る見込みです」
ニールの話は確かに根拠に基づく希望的観測ではあった。
しかし、次の言葉が謁見室に集まった面々にトドメを刺すことになる。
「自分達の村を自分達と一緒に暮らすポケモンとで守る。それはこの十数年続けてきた僻地への派遣を減少させ、より重要な任務に人員を割くことにも繋がります」
これは以前、副団長がハルモニア王やボルツに対して進言していた内容に通じるものがある。
しかも、ニールの案が採用される場合、団員1人1人の戦力増強は必要なく、ボルツが懸念していた個人の戦力の肥大化を防ぐことにも繋がる。
まさに一石二鳥であろう。
「以上で、ポケモン調査隊シーカーの初任務のご報告を終了致します。ご清聴ありがとうございました」