ポケモン LEGENDS KYUREM 〜英雄、二人〜   作:影山ザウルス

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泥棒ポケモンを追え〜前編〜

初任務を終えて、王都へ帰還した翌日。

シーカーの姿は再びボルツの執務室にあった。

だが、今回は前回と用向きが異なる。

 

報酬の受領だ。

 

騎士団には賃金が支払われるが、それとは別に依頼を達成することで内容に見合う報酬が得られる。

 

「ソリダゴ、ハナナ、テフラ、以上3名にフキヨセ村での功績を讃えて、報酬を授与する」

 

ボルツがそう言うと脇から現れた副団長が報酬を乗せた立派な盆を持って、3人の前に立った。

3人は胸を高鳴らせながら盆の中を見た。

しかし、そこにあったのは、たった3つのモンスターボール。

3人は意味がわからないまま、とりあえず恭しくモンスターボールを受け取った。

 

「以上で報酬の授与を修了する。シーカーには今後より一層の活躍を期待する」

 

ボルツの言葉に3人は呆気にとられた。

失敗はあったものの、あれだけ頑張って、報酬がたったモンスターボール3個というのは納得がいかない。

 

「そんな顔をしているから、説明してやろう。確かにキミ達の活躍は他に類を見ないものだ。ニール博士の作戦立案もあってのことだろう。しかし、一方でキミ達はフキヨセ村の作物を損壊させている。村の作物は村とそこに住む村人の財産。その損壊させた財産分を今回の報酬から天引きし、足りない分を騎士団より補填した」

 

つまり、シーカーの初任務での報酬は"0"どころか、"マイナス"になっているということになる。

 

「任務によって壊した家屋の修繕や今回のように財産の補償などは珍しくはない。一方で昨日のニール博士の報告は我々プラズマ騎士団に有益だと判断した。その功績と先行投資として、モンスターボールを授与する。以上だ」

 

 

 

 

3人の頭の中では理屈がわかっているつもりだ。

要は、今回の働きはモンスターボール3個分の評価だということ。

これからも頑張れということ。

 

「でも、納得いかない〜!!」

 

ハナナの声が狭い研究室に響いて、驚いたペラップが羽ばたいた。

 

「まあ、そうだね。ほら、行く前に厩舎のゼブライカ達がいなくなってたのも緊急時を想定した訓練だったそうだよ?『我々騎士団は如何なる状況でも対応しなくてはならない〜』って団長さんが」

 

ボルツの口調をやや嫌味ったらしくモノマネするニールも不満を抱えている1人だ。

それもそのはず。

昨日の報告で、フキヨセ村での一件が今後の騎士団にとって有益と判断されたことで、類似する依頼が来た場合の手引書の作成を命じられている。

騎士団の誰もが、どこに生息する、どんなポケモンでも、どういう方法を取ればいいのかということを事細かくまとめる必要がある。

しかし、そんな手引書の作成などほぼ不可能に近い。

団員が違えば実力やポケモンに対する考えや扱いが違う。

生息場所やポケモンが違えば対応策も異なる。

フキヨセ村では上手くいく見込みがあるものの、他の場所がそうであるかは実際に調査する必要がある。

 

「まあ、とにかく、初任務お疲れ様。これはボクからの皆への報酬。少ないけど、美味しい物でも食べてきてよ」

 

「オイシオイシ、オイシモノ!!」

 

ニールはソリダゴに自分の財布を渡した。

確かに期待出来ない重さではあったものの、どんな報酬よりも重みを感じた。

 

「「「ありがとうございます!!」」」

 

3人はニールにお礼を言って、街へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

と思ったのだが、王城の門の脇にある小門から出ると、何やら正門の前に十人程度の人だかりが出来ているのに3人は出くわした。

人だかりは口々に何か訴えているようだが、門番をしているのはカイとヘイという双子の門番。

ポケモン使いとしての実力も副団長並みと言われる双子の門番だが、恐るべきはそこではない。

 

「「我々プラズマ騎士団はポケモンから人々を守る存在!!ポケモンとの関連の低い依頼はお受け出来ません!!お引き取りください!!」」

 

実力もさることながら、融通の利かなさはハルモニア王国随一だろう。

数日前にシーカー3人が行った"慈善活動"のせいで騎士団では本格的にポケモンと関係ない依頼を受け付けなくなってしまった。

その命令が下った以上、カイとヘイはポケモンと関係が低いと思われる依頼を持ってくる人達を追い返していると聞く。

 

「だ・か・ら!!ポケモンのことで困っているんだ!!」

 

先頭に立つ男が叫んだ。

 

「「王都の防備は万全でございます!!コラッタ一匹侵入することはありません!!お引き取りください!!」」

 

鉄仮面姿の双子の門番に根負けした集団は渋々街へと戻ろうとした。

しかし、その中に見知った男の顔があった。

 

「あれ?店主さん!?」

 

ハナナが以前手伝った食堂の強面の店主。

彼の鋭い視線が、ハナナの姿を見つけると、その巨体に似つかわしくない素早い動きでハナナに駆け寄った。

店主は相変わらず無口ではあったが、その目が助けを求めているのがわかった。

 

「ダゴ兄、テフラ、お願い」

 

ハナナの真剣な眼差しに2人は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

3人と王城の正門前に集まっていた十人は強面店主の店へと訪れた。

 

「君らが有名なシー……?」

 

「シーカーね」

 

「そうそう!!騎士団の便利屋!!」

 

有名と言われる割には曖昧な認識をされていることにため息が漏れるソリダゴ。

しかし、彼らが困っているのに騎士団に文字通りの門前払いを受けたのには少なからずシーカーの3人に責任がある。

道中に聞いた話によると、彼らは王都で露店を営んでいる人達だ。

強面店主はその露店で食材や調理器具を調達している。

そんな彼らの露店では最近泥棒による被害を受けているそうだ。

その泥棒がどうやらポケモンらしいという話だった。

 

「俺達だって信じられねえよ?王都にポケモンなんて。なあ?」

 

王都の周囲はポケモンの侵入を阻むように塀で囲まれている。

塀を飛び越えられる鳥ポケモンで言えば、マメパトなどが王都に入ってくることはあるものの、露店から物を盗むなんて話は聞かない。

人に害をもたらす可能性がある鳥ポケモンの場合は、塀に常駐している騎士団が追い払っている。

 

「でも、マメパトじゃないわ」

 

王都周辺ではモグリューは見られないが、地中を進むことが出来るポケモンの対策として、塀自体を地中深くから建てている。

そのためモグリューのような地中を進むポケモンということも考えにくい。

イワークやボスゴドラなどの大型のポケモンならば、この程度の騒ぎでは済まない。

 

「小さいポケモンだったよな?」

 

小さいポケモンと言われると該当するポケモンが多すぎる。

しかし、そんな小さいポケモンが塀を登ってこれるとも思えない。

 

「黄色かったよね?」

 

小さくて黄色いと言えば、ピカチュウだが、王都周辺にピカチュウの生息は確認されていない。

 

「なんかズボンみたいなの履いてたよな?」

 

「いや、あれは袋じゃないか?ぶかぶかだったぞ?」

 

「頭が丸くて、目付きが悪かったわ」

 

「そうそう!!あとアレよね!!」

 

十人の露店商達は皆同意するように頷いた。

どうやら一番の特徴なのだろう。

 

「「「「赤いトサカ!!」」」」

 

露店商の話をまとめると黄色くて丸い頭に赤いトサカのあり袋のような物を履いている目付きの悪い小さいポケモンということになる。

ソリダゴにはそんなポケモンの覚えはない。

ハナナもテフラにも無いため、まだ見ぬ新種のポケモンの可能性も捨て切れない。

 

「とにかく早く捕まえてくれ!!」

 

「でないと、ナンディナ商会との差が開く一方だわ!!」

 

ナンディナ商会は30年ほど前に起業した比較的新しい商会だが、ハルモニア王国で知らない者はいないほどの大きな商会だ。

取り扱ってる品々はどれも珍しく、品質も良い。

騎士団でも一部の備品はナンディナ商会から仕入れている。

一方の露天商は長く王都や違う街での商売をしており、安さが自慢でもある。

方や個人経営の露天商と方や王国全土に販路のある大商会。

それぞれにそれぞれの強み弱みがあるものの、露天商の客の多くがナンディナ商会に移っていき、ここに来ての泥棒騒ぎ。

このまま泥棒騒ぎが続けば露天商の廃業も十分にあり得る。

強面店主の食堂のように露天商から食材を仕入れている客にとって、露天商の廃業は大きな痛手となる。

加えて、露天商が商品を仕入れている生産者にとっても収入が減るため、泥棒騒ぎを早急に解決する必要がある。

 

「わ、わかりました。一度騎士団に戻り、泥棒ポケモンの捜索に着手するように報告します」

 

騎士団としても王都へのポケモンの侵入は見過ごすことの出来ない案件である。

侵入経路を早急に特定しなくては、今後更に多くのポケモンの侵入を許す可能性がある。

 

 

3人は食堂を後にして、王城への帰路についた。

ソリダゴの頭の中では、露天商から聞いた情報の整理とポケモンの正体、対応について誰に報告すべきかということでいっぱいだった。

ニールに報告すれば、きっとポケモンの正体はわかるかも知れないが、王都で暮らすポケモンの生態調査と称して問題解決が後回しにされそうだ。

加えて、今は今で手引書の作成に追われているニールに面倒事を報告するのは気が引ける。

ボルツに報告すれば、動いてくれる可能性は十分あるが、信ぴょう性に欠けると一蹴されることも考えられる。

ソリダゴがそんなことを考えていると、3人はいつの間にか王城に向かう大通りに来ていた。

大通りには露天商とは違ういろんな商店があり、ほとんどがナンディナ商会の傘下の店だという。

そんな大通りの一角に大勢の人だかりが出来ている。

 

「なんだろう?行ってみよ!!」

 

「ハナナ、それより報告しに……ってもういない」

 

ソリダゴがハナナを制止する前に既にハナナは人だかりに紛れていた。

彼女を追いかけ、ソリダゴとテフラも人だかりに入っていく。

 

「さぁさぁ!!今日はナンディナ青果店にようこそおいでくださいました!!」

 

店の前では眼鏡をかけた赤い髪の美女が商品の宣伝を行っている。

 

「今日はなんと新商品のご案内です!!」

 

美女は持っているカゴから果物のような物を取り出した。

人だかりに集まる誰も見たことの無い商品に興味津津だ。

その果物のような物は三日月のような形をしており、全体が黄色い。

 

「取り出しましたるこの果物は、遥か南国の眩しい太陽と大地の栄養をたらふく溜め込んだ、その名もトロピカルフルーツ!!一口食べれば、蕩けるような甘さが口に広がり、一本食べれば元気がみなぎる逸品!!おや、そこの物珍しそうにこちらを見ているお兄さんお嬢さんの3人組、よろしければどうぞ前の方へ!!」

 

美女が店頭からソリダゴ、ハナナ、テフラの3人を手招きすると、3人を通すように道が開く。

美女はおもむろに、トロピカルフルーツの黄色い"皮"を剥くと、中から白い実だけを取り出す。

その実をカゴから取り出した皿に乗せると、一口大の大きさに輪切りにして、3人に差し出した。

 

「さぁ、召し上がれ」

 

ちょうど小腹が吸いていたこともあり、ハナナは迷わず1つを手に取り、口へと運んだ。

 

「んんんん〜〜〜〜〜!?なにこれ、美味しい!!」

 

ほっぺたが落ちるというのは、こういうことを言うのだろうか?

ハナナは頬が落ちないように両手で手を押さえている。

それだけ美味しいのだろう。

しかし、ソリダゴはトロピカルフルーツの試食に手を伸ばさなかった。

ナンディナ商会の商品は珍しく品質も良いが、その分価格が高い。

ハナナの様子を見れば食べたくなるが、食べたら最後、散財しかねない。

と思いつつもトロピカルフルーツが並ぶ棚の値札がソリダゴの視界に入った。

 

「え!!?安い!!」

 

思わず叫んでしまった。

それを聞いた人達や美女の視線がソリダゴに向けられる。

 

「あっははは!!先に言われちゃいましたね〜。そう、このトロピカルフルーツ、今日はとってもお買い得になっています!!」

 

ソリダゴは出掛ける前にニールから渡された財布の中身を確認した。

中身自体は心許ない金額だが、それでもトロピカルフルーツを4人分買ってお釣りが出る。

 

「実はこのトロピカルフルーツ……今は旬の果物ではございません」

 

人だかりからどよめきが起きた。

 

「ただ皆さんにどうしても一口味わっていただきたくて、年2回の収穫時期前の物をご用意させていただきました。今回の価格は今回限り、数量限定とさせていただきます。そして、旬を迎えた際にはいち早くナンディナ青果店にて販売させていただきます!!」

 

ハナナがトロピカルフルーツを食べた表情も相まって、店の前に集まった人達の購買意欲は最高潮に達している。

 

「お兄さんもお一つ如何?」

 

美女が一本のトロピカルフルーツをソリダゴに差し出した。

 

「よ、4つお願いします」

 

自分達3人と一本はニールへのお土産だ。

ソリダゴは頬を赤らめながらお代を美女に渡した。

 

「毎度ありがとうございます」

 

美女の絹のような手がお代を受け取り、トロピカルフルーツ4つを置いた。

 

 

 

買い物を終えた3人はナンディナ商会の前から離れた。

その時、40代くらいの男性達の話し声がソリダゴの耳に届いた。

 

「いやぁ、さすがはナンディナ商会のナンテン女将。旬じゃないのにあんなに美味しい物を食べたら病みつきになっちまうよな」

 

「ホントホント。それにあんな美人なら毎日店に通っちまうよな」

 

「ああ。それによ?あんな美人なのに俺の女房と同じ40歳だなんて信じられねえよ」

 

その言葉に耳を疑ったソリダゴは振り向いて、接客中の美女、ナンディナ商会のナンテン女将に視線を向けた。

とてもそんな年齢には見えない。

すると、ナンテン女将がソリダゴの視線に気付いたのか、一瞬2人の目が合い、ナンテン女将が微笑んだ。

 

「ダゴ兄?」

 

ハナナの声で我に返ったソリダゴは慌てて2人の後を追いかけた。

 

 

 

3人はナンディナ青果店から離れた場所で座れる場所を見つけて、早速トロピカルフルーツを食べようとしていた。

口の中では唾液が溢れ出し、目の前のご馳走を食べる準備が整っていく。

しかし、いざ皮を剥いて食べようとした瞬間だった。

何か黄色い物がテフラのそばを横切った。

一瞬の出来事で呆然とするテフラ。

その手にトロピカルフルーツは無くなっており、代わりに何者かの手に収まっていた。

テフラのトロピカルフルーツを持っているのはポケモン。

黄色くて頭が丸く、袋のような物を履いているように見える、目付きの悪いポケモン。

 

「「「あ、赤いトサカ!!」」」

 

3人が見たそのポケモンは露天商達が言っていたポケモンの特徴に一致する。

そのポケモンの名前を3人は知っている。

そのポケモンの名前はズルッグ。

ズルッグが露天商の言っていた泥棒ポケモンだったのだ。

ズルッグはテフラから盗んだトロピカルフルーツをダボダボの皮の中に入れて、最後に3人を嘲笑い、走り出した。

 

「ズ〜ルズルズルズルズル」

 

もちろん、ズルッグが露天商達が言う泥棒ポケモンで無かったとしても、テフラのトロピカルフルーツを盗んだことは間違いなく、この王都にいてはならない野生のポケモンだ。

 

「ま、待て!!」

 

3人は逃げるズルッグを追い、走り始めた。

 

 

 

一方でトロピカルフルーツの先行販売は大盛況の内に、いつの間にか完売していた。

惜しくも買えなかった人もいるが、次の入荷で必ずや購入すると意気込んでいた。

 

「毎度ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」

 

ナンディナ商会の女主人ナンテンは晴れやかな笑顔でお客様を見送る。

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