チュートリアルが終わらない 作:サバンナ気候
あ、俺死んだなと最初に思った。次に、あの鋭い爪で切り裂かれるのは痛いだろうなと思った。
ああ、なんで俺はこんな馬鹿な事をしているんだろう。そんな性格じゃなかった筈だ。間違い無く、命を賭けて誰かを守ろうなんて言う性格
では無い。なのに、今の俺はどうだろう?魔物を前にして立ち塞がり、後ろの冒険者達を逃す俺の姿はまさにあり得ない姿だった。
『……はぁ、まるで物語の英雄気取りか?』
きっと。いや、確実に此処で俺は死ぬだろう。でも、それでも構わない。
手に持って振るった剣は、既に折れている。せめて彼らが遠くまで逃げられるぐらい時間を稼げれば、充分だ。
《グルルルルルルルル》
獣が大きな口を開け、その口から涎がぽたりと垂れた。死が身近に近づいて、走馬灯の様に今までの記憶が流れて来た。
産まれ、そして剣を振る、あれ?振る、振るわないな。あれ?アレ、これってもしかして。あ、スマホだ。あ。
──あ。え?え、嘘でしょ。俺ってもしかして"転生者"なのか?嘘だろ?え?待ってこのまま潔く死のうと思ったんだけどさ。死ねないじゃん。
ええ、やだなぁ俺。二度目でしょ?いや、確かに人を救って死ぬって言うのは悪くはないとは思う。けどさ。
童貞だし、と言うか女の子と喋った事無いんだが。行為って言うか好意を抱く女の子すらいない。お爺ちゃん、お婆ちゃん達がいっぱいの村で女の子なんて居なかった。うわぁ、嫌だなぁ。どうしよう。さっきの冒険者達の中にいた女の子に声掛ければ良かったな。お婆ちゃん達にイケメンって言われてたし、そんなに顔は悪くない筈だし。ワンチャンあったかもしれない。
悔いが残りまくりだ、此処で死ぬと思うと。あぁ、ごめん。
『悪りぃな、俺はまだ死ねねえ』
美味い飯は食いたいし、友達と馬鹿やりたいし、と言うか友達もいないなこの世界では。彼女も欲しいし、それに親孝行だってしたい。
《グオオオオオオオオオオオ!!!!》
目の前の魔物に対して目を向けていると、やがて最悪な事に気づいた。おいおい、待てよ。待てよ俺。待ってくれ。冒険者を先に逃して、魔物を前に折れた剣で時間を稼ぐこの展開、そして
『まさか、此処は。俺は"チュート君"なのか!?』
それに気づいた時、奴への反応が遅れる。戦闘中での油断は命を捨てるに等しい。奴が手を広げ、俺へ向けて空間を切り裂いたかと思えば。
いつの間にか俺は細切れになって死んでいた。
「し、死んでる!?」
少し残った意識の中、誰かのそんな声が聞こえた。聞いた事があるな。ああ、主人k……。
《"主人公"の"死亡"により.チュートリアルが失敗しました。"世界"を
『……』
あれ。俺、アイツに殺されたんじゃ……。
まるで何も無かったかの様に、俺は庭で剣を振るっていた。傷も無く、剣も折れている様子が無い。
『どう言う事だ?』
あの時の感覚は間違い無かった。細切れになったのも、あの声も間違い無い筈だ。でも、俺は生きてる。
夢オチ?いや、そんな訳は無い。と言うか、そうだ。
『夢だとしたら何処から夢なんだよ』
全てが夢であって欲しい。最初から最後まで。
『……生まれたと同時に親が死に、天涯孤独。老人しかいない村に住んでおり、チュートリアルの初めての戦闘の時怪物に負けそうな主人公を見かけ、その場を引き受け主人公を助ける。その後は生死不明』
チュートリアル時のお助けキャラだから、チュート君って呼ばれてた訳だけど。まんまだな。前世の記憶通りなら、恐らくここはソシャゲの世界で、俺は主人公のお助けキャラに転生したんだと思う。
けど、何で死んだ筈なのに甦ったのかは謎である。蘇ったのかなんなのか分からないけど。死に戻りか?もしくは他の何かか。もしかして。それは多分夜になれば分かるか、主人公が森に来て。奴も現れればそうだろう。これがチュート君のスキルなのかもしれない。