魔都精兵と狐面(二代目)   作:北斗七星

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書き始めた経緯

ある作品で天花さんの存在を知る
     ↓
気になって原作を読み始める
     ↓
あらやだとっても私好み
     ↓
何か書きたくなってきた
     ↓
ところでギーツ格好いいよね
     ↓
ギーツの力を持ったオリ主突っ込もう

こんなかんずぃ

頑張って書いていこうと思います


転生S(新世界):創世神に弟子入

「おめでとう。今日から君は仮面ライダーだ」

 

「……は?」

 

 目の前にいる人物の言葉に口から間抜けな声が漏れる。若くも年老いても見える、美しいような醜いような、男とも女とも取れる、人の形をしていることしか分からない『何か』は心底愉しそうに、ワクワクしながら話し続けた。

 

「あの世界での君の人生は終わった。酔っ払い運転で突っ込んできた車に撥ねられて、呆気なくね」

 

 思い出す。ホワイトかブラックかと聞かれたら若干ホワイト寄りとしか答えようのない微妙な評価の会社からの帰り道、けたたましいクラクションを鳴らして歩道に突っ込んできた大型車に轢かれたのだ。

 

「あぁ、余りにも可哀想な君。何の山も谷も無い、味気ないお麩のようなありふれた人生を歩いてきた君。劇的なことなど何も無く、ただ無意味に生きて何を遺すことも無く唐突に終わった下らない人生。そんな無価値な物語を紡いできた君の魂を僕が救い上げたのさ、文字通りにね」

 

 嬉々として己の人生を貶めてくる『何か』に怒りすら湧いてこずただただ呆然とする。理解することすら拒否した脳裏に浮かんだのは、つい数日前に家族と交わした極々普通のどこにでもあるような約束だった。

 

「ち、ちょっと待ってくれ。明日は約束があるんだ。これから連休になるから久し振りに実家に顔出して、それで母さんが見たいって言ってた映画を皆で身に行こうって……」

 

 最近の健康診断の結果に落ち込んでいた父と、久々に顔を見れると喜んでいた母と、実家に同居している兄夫婦と甥と。映画を一緒に見て、帰り道に夕飯を食べながら感想を話したり、仕事の愚痴を言ったり、そんなごく普通の当たり前な日が待っているのに。

 

「そんなどうでもいいこと、忘れるに限るよ。君がこれから行く世界で体験できる素晴らしい出来事に比べたらゴミみたいなもんだよ。何せ、君は世界を救うヒーローになるんだ」

 

 急激に自分という存在が薄れていくのを感じる。何故だかは分からないが、理屈抜きでこの世界から消えようとしているのだと理解できた。平凡で細やかな、だが掛け替えのない喜びを分かち合える家族のいるこの世界から。

 

「や、やめてくr」

 

「転生特典の仮面ライダーの力は誰のにしようか。やっぱ令和ライダーがいいかな。あのベルトがどんどん喧しくなっていくの、好きなんだ……あ、メールの受信音、ギーツの変身音なんだね。じゃあ、ギーツに決定! いいよね、ギーツ。最強フォームのマークⅨも格好いいけど、個人的にはレーザーブーストのほうが好きかな。白と緋の色合いが僕的にツボでさ」

 

 こちらの都合も想いも全て無視した一方的な会話のドッジボール。諸々の作業を終えた『何か』がこちらを見てくる。その目は玩具を目の前にしたような、これから始まる映画に出てくる登場人物に向けているようなものだった。

 

「これから君が行く世界には様々な困難が待ち受けているだろう。だけど恐れないで。君には力がある。そして仲間となる人々の存在もね。力を合わせて、愛と勇気を抱いて共に敵に立ち向かうんだ。旅立つ君に最後にこの言葉を贈ろう。プルスウルトラ!」

 

 それが彼に知覚出来た『何か』の最後の言葉だった。

 

 

 

 

「……よし、ちゃんと送れたね。良かった~、流石に十人連続で転生失敗は萎えるからな~。さてさて、第一段階は完了。次の準備を始めなきゃ……最高のエンターテイメントを期待してるよ。僕の仮面ライダー」

 

 

 

 

 

「あの映画、面白かったのかな。もう、タイトルも思い出せなくなっちゃったけど……母さん、ちゃんと見れた? また、映画館に行くタイミング逃してる内に公開期間終わってなきゃいいけど」

 

 沈みゆく夕陽に照らされる一本の銀杏の樹。公園の片隅にポツンと寂しげに立つ樹の半ば辺りの枝に一人の少年が腰かけていた。両足をプラプラさせ、ぼーっと町をオレンジに染める夕日を眺めていた。

 

 あの『何か』に転生されてから早六年。前世も合わせれば精神年齢三十手前になった元青年(現少年)の名は浮野(うきの)詠龍(えいる)。今日も今日とてクラスメイツの六歳児達と一緒に小学校一年生の授業を受けるという精神的拷問を切り抜けてきた、背中から疲れ切ったオーラを漂わせる転生者である。

 

「というかるって、えいるって。龍ってかいてるとは読まないだろ……いや、でも前世でもそんな感じの名前の子供って普通にいたし、気にしてる俺のほうがおかしいのか?」

 

 ぶつぶつと呟く。特に意味の無い、ただの現実逃避だ。こうして何でもいいから考えたり、行動したりしていないと前世の様々なことを思い出して涙が溢れてしまいそうになる。実際、一年くらい前まではよく泣いていた。

 

 ただ、最近では泣きそうになることも少なくなってきた。それは(彼ら目線では)理由もわからず泣き出してしまう詠龍と根気よく向き合い、惜しみなく愛情を注いでくれる両親と。

 

「こらぁ~、何してんの詠龍! そんなとこ危ないから早く下りてきな!」

 

 樹の根元から大声で呼びかけてくる彼女のおかげだろう。視線を向ければ詠龍よりも二、三歳ほど年上の少女が両手を腰に当てて怒っていた。

 

「あ、うん。分かったよ」

 

 特に反抗するでもなく、詠龍はスルスルと樹を下りていく。

 

「こんの、散歩に行くって言って全然戻ってこないから心配したでしょうが」

 

「あたた。ごめん、ごめん」

 

 樹から下りた途端、ヘッドロックをかけてくる少女の腕に慌ててタップする。まぁ、加減はしてくれているので痛くとも何ともないが。この二人にとってはじゃれ合いの延長でしかなった。

 

「ごめんって、青葉姉さん」

 

「分かればよろしい」

 

 偉そうな顔でヘッドロックを解いた少女の名は和倉青葉。お隣に住む、所謂幼馴染というやつだ。詠龍のことを何くれと気にかけ、前世のことで引きこもりがちになっていた彼を連れ出したり面倒を見てくれていた。

 

 初めて顔を合わせたのは二年前。たまたま出かけるタイミングが一緒だった詠龍のことを一目で気に入ったようだ。こんな弟が欲しかったと抱き締められたことは記憶に新しい。それ以降、浮野家と和倉家の交流が始まり、今では時たま一緒にご飯を食べるほど良好な関係を築いていた。

 

「ほら、帰るわよ。おばさんが今日のご飯はカレーだって」

 

「そっか。なら早く帰らないと」

 

 差し出された手を掴めばぐいと引っ張られる。これも詠龍にとっては日常となっていることだった。何時だって彼女は強引に、こちらの意見など知るかと言わんばかりに連れ回す。だが、詠龍の手を握る彼女の手は何時も優しかった。

 

「あんたもおばさんの特製カレーと同じくらい美味しいの作れるようになりなさいよ。そして、イの一番に私にご馳走すること」

 

 前世のことを思い出して涙を零しそうになる時もあるが、今世の両親と青葉がいてくれるおかげで段々と前向きに生きていこうと考えられるようになってきた。

 

「分かった。その時は青葉姉さんに一番に食べてもらうよ。ただ、母さんくらい美味しいってなると難しいだろうから時間がかかっても怒んないでね?」

 

「期限は五年以内」

 

「厳しくない?」

 

 青葉の無茶振りに振り回されながら、両親と穏やかに生きていく。どうかこの日々が続きますように、と青葉と共に帰路につく詠龍は願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「やっぱりヒーローには凄惨な過去と悲劇的な体験が不可欠だよね♪」

 

 

 

 

 その日は詠龍の小学校卒業と中学校入学を祝うパーティをすることになっていた。その際、詠龍の制服姿をお披露目する(青葉の激烈な要望により)予定だったのだが、水を差すように隣町の服屋から連絡が入る。当日配送予定だった制服が店側のミスで届くのが数日遅れるとのことだ。

 

 ここで不満を漏らしたのが詠龍の制服姿を誰よりも楽しみにしていた青葉。今日見たいと駄々を捏ねだす始末。そこで詠龍は隣町の服屋まで行って直接制服を受け取ってくることにした。

 

 普段から何かと世話を焼いてくれる姉の我儘の一つや二つ、聞いてやるべきだろう。そういう考えを自然とするくらいに詠龍は青葉にせんn、しつk、きょういk……恩を感じていた。

 

 服を受け取るだけなら大丈夫と詠龍は一人で服屋に向かった。自転車に乗り、片道一時間ほどかけて服屋に到着。店員から制服を受け取って家への帰路につこうとしたその時、スマホがけたたましく鳴り始めた。

 

「うおぉ、何!?」

 

 慌ててスマホの画面をタップし音を止めようとし、画面を見て動きを止める。浮かんでいるのは魔都災害警報の文字。そして場所は、つい一時間前までいた自分の住む町だった。

 

 自転車に飛び乗り、力の限りペダルを漕ぐ。もと来た道を信号も道路交通法も無視して只管に飛ばした。視線の先、我が家のある方角では幾つもの火の手と煙が上がっていた。

 

 激しく脈動する心臓が握り締められるような感覚。どんどん乾いていく喉に無理矢理空気を通し、痛みと疲労で重くなっていく四肢を遮二無二に動かして我が家の前に辿り着いた。

 

「……なんで」

 

 そこに十数年家族と共に過ごした家は無く、生きている人の気配が無い瓦礫の山だけがあった。服屋に向かう前のパーティ準備中に漂っていた楽しげな雰囲気は完全に押し潰され無くなっていた。

 

「何でこんなことに」

 

 つい先日、いや、つい数時間前までこの町にあった当たり前が無くなっていく。この町に住んでいる人々が持っていた明日の予定、明日の約束。落ち込んだり喜んだりした昨日。その全てが理不尽に奪い取られ、これといった理由も無く踏み躙られていく。

 

「俺のせいなのか」

 

 膝から崩れ落ち、呆然と呟く。町の人達の怒号と悲鳴、醜鬼の暴れ回る音。全て遠くに感じながらうわ言のように繰り返した。

 

「俺のせいなのか? 俺なんかが、転生者(おれ)なんかが産まれたから、皆は……」

 

 数十分後、駆け付けた魔防隊が事態を収束しても詠龍はその場から動けず、瓦礫の山の前に膝を突いていた。

 

 

 

 

 

「こっち来るなよ、死神!」

 

 投げられた小石が頭に直撃した。咄嗟に小石の当たった部分を手で押さえる。痛みに呻きながら小石の飛んできた方を見れば同年代の子供たちがニタニタ笑っていた。

 

 町を襲われた事件から数か月の時が経っていた。町に住んでいた人達はほぼほぼ全滅。死体が発見されれば死亡者にかぞえられ、それ以外は行方不明という扱いの、被害状況もろくに確認できないような酷い有り様だった。そしてこの行方不明の中には詠龍の両親、青葉とその家族も含まれていた。

 

 保護者を失った詠龍は住んでいた町から車で二、三時間ほどの距離に住んでいる親戚に引き取られた。父方か母方、どちらの親戚だったか説明はあったような気がするが、呆然自失としていたので覚えていない。

 

 かくして通うはずだった中学とは別の中学へと入学することになった詠龍だが、その生活は最悪の一言を尽きるものだった。

 

 あの襲撃でほぼ唯一の生存者となった詠龍を誰かが死神、疫病神と噂するようになった。噂は瞬く間に広まり、大人達は縁起の悪い疫病神、災いを招く死神とひそひそと陰口を言うようになった。

 

 子供はもっと露骨だ。無視したり避けたりするのはまだ良心的な反応で、面と向かって死神だ疫病神だと好き勝手に罵声を浴びせてくる。お前のせいで皆死んだ、と心を深々と抉ってくる言葉の数々を子供特有の無邪気さと残忍さで次々に。

 

 今みたいに石を投げつけてきたり攻撃してくる者もおり、そして中には死神、疫病神退治と称して集団で襲い掛かってくるような連中もいた。

 

 早い話、詠龍は学校の内外問わずいじめを受けていた。そして教師たちはこのことについて知らん顔を貫いている。これに関しては何の相談もしない詠龍側にも問題があるのだろうが。

 

 そう、詠龍は毎日のように聞かされる陰口悪口、振り翳される暴力を甘んじて受け入れていた。彼自身、両親や青葉とその家族。そしてあの町に住んでいた人達が魔都災害によって蹂躙されたのは他ならぬ転生者(じぶんじしん)のせいだと考えていたから。

 

 自分のようなこの世界には本来いないはずの異物がいたからあの町の人々は災厄に巻き込まれた。そんな考えが頭から離れず、己に降りかかる理不尽も仕方ないと受け入れる、というより諦めていた。

 

「……何なんだろうな、俺」

 

 この世界に自分を転生させたあの何かは世界を救うヒーローになる、と言っていた。ならばあの襲撃も、今こうして降りかかる理不尽もヒーローになるための試練と言うことになるのだろうか? だとしたら、だとしたら。

 

「くそったれが」

 

 そう呟かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 夜、引き取り先の家……の庭にある物置。そこが部屋として詠龍に与えられた空間だった。最低限の寝具、ランプ、机代わりの段ボール。屋根があるところに置いてやるだけ感謝しろというのが引き取り先のありがたい言葉だった。今、彼が置かれている状況は全てにおいて最悪だ。それは詠龍を引き取った家族との関係も例外ではない。

 

「まだ夏とはいえ、そろそろ寒くなってくるな。去年拾ってきた半纏はもう小さいし、またゴミ捨て場で新しいの見繕ってこないと。綺麗なのが見つかればいいんだが。ボロボロだった時のために針と糸も用意しておかなきゃな」

 

 現状、自分のものと呼べるものをリスト化してノートにまとめる。衣服類や文房具、防寒グッズや暑さ対策グッズなどetcetc。持ち物をきちんと把握しておかないと冗談抜きで死んでしまう。これから季節が秋、冬に移り変わっていくので防寒着の用意は必須。何度も自殺を考えた身空だが、流石にこんな物置の中で凍死はごめんだった。

 

「流石に今日はもう遅いし、寝るか」

 

 ぐしぐしと眉間を揉み、薄暗いランプの灯りを消して敷きっぱなしのペラペラ布団に横になる。お世辞にも寝心地が良いとは言えなが。こまめに日干ししたり洗ったりしているので不快な臭いをしていないのがせめてもの救いだ。

 

 嘆息一つ、目を閉じる。幾らもしない内に睡魔が訪れる……ことはなく様々な思い出が浮かび上がってきた。前世、今世の家族との記憶。平凡だが、だからこそ眩しく見える、誰に対しても素晴らしい思い出と言い切れるものが脳裏に浮かんで消えなかった。

 

 頭を乱暴に振り、濡れそうになる目尻を拭って今度こそ頭を空っぽにして寝ようとして、ふと何かが手に当たった。片手で握れるほどの大きさの馴染みの無い感触。こんなものノートリストの中には無かったはずだ。頭に?を浮かべながら正体を確かめるべくランプを付けた。

 

「……これは」

 

 小さな灯りに照らされ、現れたものを見て息を呑む。非常に簡素な見た目の装置。左右にはとある装置を取り付けるためのコネクタ。コネクタに挟まれた中央のソケット、そしてそこに嵌め込まれた狐のようなマークが刻まれたIDコア。

 

「デザイアドライバー」

 

 仮面ライダーギーツにおいて使用者を仮面ライダーに変身させるためのベルトである。物心ついた頃から詠龍の手許にあった、彼が紛れも無い転生者だと示すこの世界には存在するはずの無いアイテムだ。

 

「またかよ……」

 

 うんざりと、げんなりとしながら手の中にある装置を見つめる。何度もこれを捨ててきた。時に学校の焼却炉、時に遠くの山の土の中、時に川の中。だというのに気が付けば詠龍の手許に、それも無傷の汚れ一つない状態で戻ってきていた。お前は転生者の運命から逃れられないと言わんばかりに。

 

 何時もなら次はどこに捨てれば今度こそ戻ってこなくなるかを考えるのだが今回は違った。ぼんやりと、握ったドライバーをまじまじと見つめる。

 

「……お前をきちんと使って仮面ライダーになってれば、こんなことにはならなかったのか?」

 

 仮面ライダーとなり戦ってさえいれば、今も自分は家族たちと過ごすことが出来ていたのだろうか? あの悲劇は仮面ライダーになることを選ばなかった自分が招いたものなのだろうか?

 

 答えは当然返ってこない。暫くの間、ランプに照らされたドライバーを見続けていたが、遅れてやってきた眠気には逆らえず詠龍はそのまま眠りへと落ちた。

 

 

 

 

「ここは?」

 

 気が付けば何もない空間に立っていた。あの神様のような『何か』に転生させられた時もこんな場所だったような、と慌てて周囲を見回す。しかし、そこには誰もいなかった。ほっとするのと同時に何でこんな場所にと考えを巡らせ始めた時、背後に誰かの気配を感じた。

 

「おい。何でそれを持ってるんだ、お前?」

 

 また『何か』が現れたのかと身を竦ませるも、その声は『何か』と違ってはっきりと男性だと分かるものだった。恐る恐る振り返れば、そこには一人の青年。自信に満ち溢れた端正な顔立ちに黒髪、胡乱げな目と険しい表情をこちらに向けるのは、

 

「浮世、英寿……」

 

 仮面ライダーギーツの主人公。母に会いたいというたった一つの願いのために様々な時代を戦い勝ち続け、やがては創世の神へと至った男、浮世英寿その人だった。

 

「おいおい、俺を知ってるのか。ますます怪しいな。それとも、『スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ』としての輝きが眩しすぎて記憶すら超えた領域に俺の存在を刻み込んでしまったか? まぁ冗談はさておきお前、いくら相手が有名人、それも世界的超有名人だからって呼び捨てにするのはいただけないな」

 

「あ、はい、そうですよね。ごめんなさい」

 

 素直にぺこりと頭を下げる。もっと捻くれた反応を想定していたのか、英寿は毒気を抜かれた顔で腰を曲げたままの詠龍を見ていた。

 

「あ~……まぁ、俺も初対面、それも子供にいきなりおいなんて声かけた訳だし、お互い様だな。する必要はないと思うけど、改めて名乗っておく。俺は浮世英寿。デザイアドライバー(それ)を持っているならこう名乗ったほうがいいか? 仮面ライダーギーツだ」

 

「はい、知ってます。俺は……浮野詠龍っていいます」

 

 おいおい、そっくりな名前だな、と軽くおどけた様子を見せながら英寿は目の前の少年が持つ装置、デザイアドライバーを見る。それを持っているのはまだいい。自分のどこか知らない世界で、自分の知らない運営が、自分の知らないデザイアグランプリを開催している可能性は零とは言い切れないのだから。だが、ドライバーの中央に嵌め込まれているIDコアの存在を見過ごすことは出来なかった。

 

「それ、(ギーツ)のIDコアだよな?」

 

 問いかけに静かな首肯で応じる。やっぱりか、と英寿は顎に手を当て考え込む。そもそも彼がこの空間にやって来たのは詠龍の持つIDコアの存在を感じたからだ。以前、世界滅亡ゲームなるドたわけたことをやり始めた男、メラのように自分の力を悪用しようとする者が現れたのではないかと飛んできたのだが……。

 

(どう見てもそんなことする奴には見えないな。系統は違うだろうがタイクーンと似たようなタイプと見た)

 

 目の前に現れたのは妙に礼儀正しい、そして幼い容姿に似つかわしくない諦観の雰囲気を醸し出す少年だった。悪意とは無縁のその姿、これには流石の神も困惑気味。

 

「聞かせてもらってもいいか? 何でお前がそんなものを持っているのか?」

 

「……そうしたいのは山々なんですけど、どこから話せばいいものか。そもそも荒唐無稽すぎて話すのも馬鹿らしいというか、聞かせるのも申し訳ないというか……」

 

 弱々しく消え入りそうな囁き。そこに誤魔化したりはぐらかそうとする気配は微塵も無かった。

 

 英寿は静かに笑うと、小さく腕を一振りした。すると何も無かった空間に小さな丸テーブル、それを挟むように椅子が二脚現れた。

 

「聞かせてくれよ。その荒唐無稽で話すのも馬鹿らしいお前のことを。それに人々の記憶から消したはずの俺を何で知っているのか」

 

 驚く詠龍を尻目にさっさと椅子に腰かける英寿。

 

「意外かもしれないが、神様ってのは結構暇なんだ。こうして会えたのも何かの縁、神様の暇つぶしに付き合ってくれ」

 

 最初に浮かべていた険しい猜疑の表情とは打って変わった穏やかな微笑に詠龍の緊張も解れていく。一言断ってから椅子に腰かけ、ポツリポツリと語り始めた。

 

 

 

 

 

「……俄かには信じ難いな」

 

 時間の流れがどうなっているか分からない空間の中、詠龍は長々と話した。

 

 『仮面ライダーギーツ』という作品を通して英寿を始めとした仮面ライダー達の活躍を見ていたこと。交通事故で死んだ自分を神のような『何か』がギーツの能力をつけて転生させたこと。転生した先の世界で家族を喪ったこと。そして今現在、理不尽な環境の中で諦めに塗れて生きていること。

 

「俺達の戦いが映像作品として、か。そしてお前がいた世界の日本では娯楽として放送されていた。やっぱり、簡単には信じられないな。まるで」

 

「狐に化かされた気分、ですか?」

 

 本当に知っているんだな、と英寿は驚嘆の表情を浮かべる。何とも複雑そうな顔で聞かされたことを反芻する英寿の様子に詠龍は話すべきではなかったかと後悔した。誰だってあずかり知らぬところで、自分達の戦いを娯楽として消費されていたと知るのは気分のいいものではないだろう。

 

 無言になることおよそ一分、英寿はゆっくりと詠龍の方へ向き直る。両手を組んで瞳を閉じる姿からは異様な圧が放たれていた。

 

「詠龍、一つ質問をさせてくれ。とても重大かつ、限りなく真剣な質問だ。嘘偽りなく、心の底からの本音で答えて欲しい」

 

「え? は、はい!」

 

 唐突に訪れたシリアスな雰囲気。姿勢を正し、表情を引き締めて英寿の重大かつ真剣な質問に備えた。

 

「お前が見た作品の中での俺は……格好良かったか?」

 

「……へ?」

 

 間抜けな声、というか音が唇から漏れる。え、何その質問。場を和ませるためのゴッドジョーク? しかし、目の前の創世の神の顔には誠心誠意答えねばならないと思わせる凄味があった。

 

「仮面ライダーギーツという作品の中に登場した俺の、浮世英寿の生き様はお前の目にどう映った?」

 

「どうって、それは……」

 

 

『さぁ、ここからがハイライトだ!』

 

 

「痺れるくらい格好良かったです!」

 

 その一言に尽きた。

 

「そうか、痺れるくらい格好良かったか。そうかそうか……あぁ、悪くない表現だ」

 

 返ってきた答えを噛み締め、口角を僅かに持ち上げながら何度も頷き反芻する。詠龍の心からの言葉は目の前の神を満足させるに足るものだったようだ。少なくとも唐突なフィンガースナップを決めさせる程度には。

 

「さて、さっき一つ質問をさせてくれといったが……すまん、もう一つある。こっちもさっきの質問と同じくらい重大かつ真剣なやつだ。少なくともお前にとって、な」

 

「俺にとって、ですか?」

 

「あぁ、詠龍。お前はどうしたいんだ? 今生きている人生の中で何がしたい?」

 

 いや、この言い方は少し違うな、と創世の神は問いかける言葉を正した。

 

「お前は何を願う?」

 

 すぐに答えは返せなかった。無いわけではない。かつて、胸に抱いていた矮小だが確かな、今世の家族と共に穏やかに生きたいという願いはあった。

 

 しかし、その願いはあの日の災害によって叩き壊された。そしてその後に続く不条理な日々の中で影も残らぬほどに磨り潰されてしまった。

 

「願いなんて……無いですよ、何も」

 

 陰鬱な笑みを顔に貼りつけて首を振る。

 

「そんなもの、もう俺の中のどこにもありません。願う心も、願う資格も……」

 

「嘘だな」

 

 一言。バッサリと、願いを叶えるための戦いに挑み、勝ち続け、何度も叶えた男はそう断じた。

 

「もし本当にお前の中に何の願いも、叶えたいという望みすら残ってないならそいつはとっくの昔にお前の下から消えてなくなっているはずだ」

 

 いまだ詠龍が放さず握り続けている物、デザイアドライバーを指し示す。

 

「お前はお前を転生させた『何か』が与えてきた能力の一部だからデザイアドライバーが無くならないと考えているみたいだが、それは何の関係も無い。そいつは最初から、お前の中にある強い願いに呼応し続けているんだ。お前に願いを叶えさせるためにな」

 

 願いを叶えるために戦う、そのためのデザイアドライバー。己の役割を果たすため、その装置は何度捨てられようとも持ち主の下へと戻り続けた。本人すら気付かぬ内に蓋をして目を逸らした、なのに未練がましく燻らせている願いのために。

 

「もう一度聞くぞ、浮野詠龍。お前は、その世界で何を願う?」

 

「……さっきも話したと思うんですけど、俺が生きている世界には醜鬼っていう怪物がいるんです。魔都っていう異空間にいるそいつらは、門って呼ばれるところから時々現世に出てきては悪さをするんです」

 

 何の脈絡も、何の理由も無い。醜鬼は人を襲い、町を壊し、そこに当たり前にある日々の営みを理不尽に踏み躙る。それがどれだけ大切で、どれ程掛け替えのないものなのかを理解もせずに。

 

「俺はそれが許せない、納得ができない」

 

 言葉に宿った熱が加速度的に上がっていく。少年の放つ熱が、少年自身を取り巻いていた諦めを焼き尽くしていく。

 

「あんな奴らのために、もう誰かが泣くのは見たくない」

 

「一人でも多くの人に笑顔でいて欲しい。一人でも多くの人を、理不尽な悲しみから護りたい……!」

 

 さっきまでの諦観と厭世の雰囲気は消え失せ、少年らしい無鉄砲で暑苦しいくらいの活気と使命感が溢れていた。この空間で最初に出会った時、数秒後には自ら命を絶ちかねないほど昏い目をしていた少年の豹変に英寿は、

 

「そうか。青臭いが、悪くない願いだ」

 

 小さく、だが満足そうに笑った。

 

「だったら、まずはお前が今置かれている状況をなんとかしないとな」

 

 立ち上がり、軽く伸びをして体を解す英寿の言葉に詠龍は疑問符を浮かべる。

 

「自分に降りかかってくる理不尽を跳ね除けられないような奴が、他人を理不尽から護れる訳ないだろ」

 

 まずは自分を大切にして、自分自身を護れ。話はそれからだと英寿は言う。

 

「自分の所為で大勢の人が、何て思ってるのかもしれないが安心しろ。そいつはただの思い上がりだ。お前は偶々性質の悪い神に選ばれた、前世の記憶と多少特別な力を持って産まれただけの人間さ」

 

 別に神や仏でもないのだから世界に起こる悲劇の責任を背負い込む必要など無い。

 

「お前は普通に生きて、自分のやりたいと思ったこと、願ったことのために生きていいんだよ」

 

 神の口から、今最も欲しかった言葉をかけられ詠龍は言葉を詰まらせた。俯いて歯を食い縛り、肩を震わせて嗚咽を漏らす少年の頭を神は落ち着くまで撫で続けた。

 

「随分、長々と話したな。ほら、子供がこんな時間まで夜更かしするんじゃない。さっさと寝ろ」

 

 いや、寝ろも何もここ夢の中だろうからとっくの昔に体は眠ってますけど、と思わず突っ込んでしまう。

 

「それに子供って言っても前世合わせると俺の精神年齢アラサーくらいありますよ?」

 

「アラサー程度が生意気言うな。俺なんてアラトゥーサウザンドだぞ」

 

 語呂悪っ、と率直な感想を漏らせば黙らっしゃい、と滅茶苦茶不条理な言葉が返ってきた。酷い、と言えば神様だからな、とぐうの音も出ない言い回しをされる。

 

 数秒の沈黙、詠龍は小さく噴き出し、やがて体を震わせて笑い始めた。他者と久方ぶりに交わしたしょうもないやり取りに薄らと目尻に涙が浮かぶほど笑った。

 

「俺、こんなに笑ったの久しぶりです」

 

「笑ってる方がいいぞ、お前。辛気臭い顔よりもそっちの方がよっぽど似合ってる」

 

 ぽん、と肩を軽く叩き、詠龍に背を向ける。

 

「また会おう、詠龍。お前が自分の願いを叶えるための一歩を踏み出した、その後でな」

 

「英寿さん。あの、ありがとうございました!」

 

 頭を下げる詠龍に気にするなと背中越しに軽く手を振る。小さくなっていく英寿の後ろ姿を見送りながら改めてデザイアドライバーを握り締めた。願いを叶えるための力を宿した、仮面ライダーの証を。

 

「やってみるよ。父さん、母さん、青葉姉さん、おじさん、おばさん……」

 

 静かな呟きに決意を乗せる。活き活きと輝く瞳から英寿の姿が消えるのと同時、詠龍の意識はぷっつりと途切れた。

 

 

 

 

「神様ってのは基本的にろくでなしなんだな」

 

 俺以外は、と嘯きながら歩みを止める英寿。さっきまで背後に感じていた少年の気配は既に無い。

 

 詠龍が身の上を話していた時、特に神様のような『何か』にギーツの力を与えられ、今いる世界に転生されたという部分。ここを聞いていた時、英寿は非常に嫌なものを感じていた。

 

 神様になる前、人間時代に繰り返していた輪廻転生でも何度も味わった不快感。他者の人生を玩弄し、繰り広げられる悲劇と惨劇を観て嗤う悪党を前にした時の嫌悪感。正にそれだ。

 

「詠龍が家族を喪う原因になった、魔都災害だったか? それにその後の理不尽な扱いや環境諸々。裏で糸を引いているのは間違いなく……ふざけたことをするもんだ」

 

 唇に浮かんだ笑みは冷え冷えと。だが、マグマの如き煮え滾る怒りを宿して。英寿は腹部に右手をかざした。

 

『DESIRE DRIVER』

 

 さっきまで何も無かった腹部にベルトが巻かれる。それこそは仮面ライダーの証。中央には本家本元、ギーツIDコアが嵌め込まれていた。

 

 掲げた右手に蒼炎が宿る。燃え上がる蒼白い狐火が消えるのと入れ替わりに現れる最強の証明。

 

『MARK Ⅸ』

 

『SET IGNITION』

 

 二つに分かれたバックルをドライバーの左右にセット、眼前に浮かび上がった円盤状の蓋を捻り開けた英寿の右背部にロゴマークが展開される。銘は『BOOST MARK Ⅸ』。

 

 壮大なファンファーレが鳴り渡る。響く音楽に誘われるように九尾の白狐が英寿の傍らに鎮座していた。パチン! と小気味よい音を立ててフィンガースナップが決まる。

 

「変身!」

 

『REVOLVE ON』

 

 ドライバーを一回転。バックルに収納されていた九本の尾が姿を現し、スロットルレバーの起動に合わせて蒼白い炎を噴き上がらせた。

 

『DYNAMITE BOOST!!』

 

 ロゴマークが装甲へと変わり、一声鳴いた白狐が英寿の周囲を駆け巡る。後を追うように光の柱が地面を突き破りそそり立つ。その数は白狐の尻尾と同じ九本。

 

 エントリーフォーム、黒いスーツを身に纏った英寿の体を装甲へと変化した白狐とロゴマーク、光の柱が包み込んだ。

 

『GEATS Ⅸ』

 

 白亜の体、赤いライン。世界を塗り潰さんばかりに光り輝くエネルギーがその背に九尾を合わせた如き形状のマントを形成する。これこそ仮面ライダーギーツ最強形態、ギーツⅨである。

 

『READY FIGHT!!!』

 

「人だろうが神だろうが、悪いことした奴にはお仕置きしないとな」

 

 跳び上がる。白い流星が蒼炎の軌跡を描いて空間を切り裂いていく。ギーツは圧倒的なスペックを以て世界を飛び越えていった。

 

 

 

 

 その日、一柱の神が世界から消えることになるが、とても些細なことなので割愛させていただく。

 

 

 

 

 仮面ライダー本人に出会うという文字通り夢のような出来事を経た詠龍の生活は劇的な変化を迎えていた。

 

 英寿に言われた自らに降りかかる理不尽を払い除ける、を実践してまず無抵抗であることを止めた。死神、疫病神と呼ばれれば俺は死神でも疫病神でもない、と真っ向から言い返すようになった。陰口、流言の類は録音してこんなこと言っていいの? 晒すよ? それが嫌ならこんなこと止めようね、と逆に脅して止めさせた。

 

 直接的な攻撃に対しても同じことをした。石を投げられればキャッチして相手の顔にかするように投げ返す。集団で暴力を振るってこようとする奴らは適当にいなし、現場の証拠を取っておいて陰口流言の時同様に晒すよ? の一言で大体片が付いた。

 

 基本、詠龍が何もやり返してこないのをいいことにいじめをしていたような連中だ。詠龍が反撃しだした途端、ぱったりと関わってこなくなった。相手がどれだけ傷つくのは構わないが、自分に少しでも被害が出るのは嫌なようだ。

 

 しかし、中にはそれでも詠龍にちょっかいを出してくる嫌な方向に行動力のある馬鹿共もいた。口で言っても分からない連中には(本気で気が進まなかったが)最低限の実力行使で分からせた。

 

 そうしたら保護者(嗤)がしゃしゃり出てきてギーギー騒いできたが、証拠を出して進学先にこれ見せるよ? で大体黙った。

 

 子供の方が関わってこなくなると自然と大人も陰で噂するのを止めていった。時折、嫌な目を向けてひそひそと話している連中もいたが、じっと睨み返してやれば気まずそうにそそくさと退散していく。気にするのも馬鹿らしいし、直接の被害がある訳でもないので詠龍はそれ以上何もしなかった。

 

 次に引き取り先の環境についてだが、こちらも簡単に解決した。詠龍を引き取った夫婦、子供のいない彼らは揃って不倫をしていた。まじか~、と呆れながら詠龍は証拠を集め、それぞれに突き付けてばらされたくなかったら人並みの生活をさせろと要求。はれて物置小屋生活を脱した。

 

 今現在、詠龍は中学三年に上がる直前。人間らしい生活を取り戻した彼は願いを叶えるために己を鍛える生活を続けていた。

 

 

 

 

「この感覚……デジャヴ」

 

 日課の筋トレと走り込みを終え、風呂に入ってベッドに横になった詠龍は何もない空間で目覚めた。そう、一年近く前に英寿と出会ったあそこだ。

 

「ここに来たってことは」

 

「よぉ、久し振りだな」

 

 振り返ればそこには一年ぶりの神がいた。片手にスーパーのビニールをぶら下げて。

 

「お久し振りです、英寿さん……あの、そいつは?」

 

「ん、これか? 見れば分かるだろ。ちょっと待ってろ、今準備するから」

 

 およそ十分後、そこには仲良く鍋をつつく二人の姿があった。

 

「態々食材とか買って作るんですか? 創世の力でちょちょいと出来立ての料理作れそうですけど」

 

「出来ないことはないんだが、それだと妙に味気ないんだ」

 

「やっぱり自分で、というか人の手で作るのが大事なんですかね」

 

「神だろうが何だろうが美味しいものを食べたきゃ手間暇かけろってことかもな……で、最近どうなんだ? ここにまた来たってことはある程度進展があったんだろ?」

 

「あ、はい、お陰様で。今は人並みの生活送りながら筋トレとかしてます」

 

 凍死するかもしれない物置で寝泊まりしていた頃に比べれば信じられないほど生活レベルは上がった。いや、前までが酷過ぎただけだが。

 

「そいつは良かった。それで、お前の願いは叶えられそうか?」

 

「そのことなんですけど、英寿さんにお願いがあります」 

 

 橋と椀を置いて英寿を真剣な顔で見詰める。英寿も手を止め、真っ直ぐな瞳を見詰め返した。一呼吸置き、詠龍は深々と頭を下げた。

 

「俺にギーツの力を使わせてください」

 

 何の縁も連絡を取る手段も無いならともかく、こうして変身者に会えているのだ。力を使うのであれば本人に許可を取るのが仁義というものだろう。という詠龍に対して英寿は呆れたような感心したような顔をしていた。

 

「おいおい、態々俺から許可貰うつもりだったのか? 律儀というか、少し真面目過ぎだろ」

 

 勝手に与えられた、というより押し付けられた力を使うのに許可も何も無い。そもそもそんな考えが英寿の頭の中には無かった。

 

 何か戦い方のアドバイスくらいしてやるか、と軽い気持ちで詠龍に会いに来たのだが、これは思った以上に世話がかかりそうだ。ふむ、と思案顔をしていた英寿。やがていいだろう、と頷いた。

 

「俺からの修行を受けてもらう。それがお前がギーツになるための条件だ」

 

「え、俺が英寿さんの?」

 

「あぁ。無様な戦い方なんてされたら本家の沽券に係わるからな。で、どうする?」

 

「ぜ、ぜひお願いします!」

 

 前触れなく転がってきたチャンスに一も二も無く飛びついた。本来の変身者から鍛えてもらえる。こんな僥倖あるだろうか、いや、無い。かくして、夢の中限定の師弟関係が産まれた。

 

「で、英寿さん。早速相談させて欲しいんですけど……バックルとかってどうすればいいでしょうか?」

 

 現在、詠龍が持っている変身ツールはデザイアドライバーのみ。これだけで変身できるのはエントリーフォームという『仮面ライダーギーツ』の中で最弱の姿だ。まぁ、人間目線で見れば十二分な性能をしているが、醜鬼と戦うのにはどうかと言われれば首を傾げざるを得なかった。

 

 戦闘力向上のためにはレイズバックルと呼ばれる変身アイテムの存在が不可欠だ。詠龍的にはかなり深刻な相談だったが、英寿はこともなげに答えた。

 

「作ればいいだろ。お前、出来るぞ」

 

「ふぁっ!?」

 

 曰く、詠龍が転生特典として与えられた力はギーツへの変身能力だけでなく、英寿の創世の力も含まれているそうだ。なのでバックル程度なら作ろうと思えば作れるとのこと。

 

「そうだったんだ、知らなかった……」

 

「そこら辺は追々教えてやるよ。まずはアイテムの使い方よりも地力を鍛えないとだ」

 

 立ち上がる英寿。その腰にはドライバーが巻かれていた。そしていつの間にか詠龍にも。

 

「え、修行ってもしかして今からですか?」

 

「あぁ、善は急げって言うだろ。予め言っておくが、俺は結構スパルタだ」

 

 弟子一号、と笑みを浮かべる英寿。その余裕と自信に満ちた表情を前に詠龍の脳裏に過ぎる『仮面ライダーギーツ』における浮世英寿の圧倒的な強さ。今からそれが自分に向けられる。背筋を冷たいものが走った。

 

「お、お手柔らかにお願いします」

 

「それはお前の頑張り次第、だ。変身!」

 

 かくして詠龍は只管師匠にボコボコにのされる日々を送ることとなった。

 

 

 

 

「ま、これだけ出来るようになれば上出来だろ」

 

「お、おっす……」

 

 時が経つのは早いもの。英寿の修行を受け始めてから一年近くの時が流れていた。まぁ、修行というか可愛がり、一年通して只管にボコボコにされる毎日だった。せめてもの救いは修行を通して成長している実感がちゃんとあったことか。

 

「もう、やり過ぎですよ英寿。大丈夫ですか、詠龍さん」

 

「あ、はい。ありがとうございます、ツムリさん」

 

 キボウノハナー、とBGMが流れてきそうな体勢でぶっ倒れていた詠龍を助け起こしたのは元デザイアグランプリ運営、現創世の神の巫女、ツムリであった。英寿が手伝いとして、他の仲間と合わせて呼んだのである。

 

 最初、呼ばれた時、俺の弟子だと英寿から詠龍を紹介された時は度肝を抜かれ、丁寧な言葉遣いだったが英寿(こんなの)の弟子になって大丈夫? と本気で心配していたツムリ。今では詠龍を実の弟のように可愛がっていた。何事も素直な反応を示す詠龍の態度が好感触だったようだ。そのおかげで英寿に妬けるな、とからかわれたりもしたが今は関係ないのでその話は置いておく。

 

「免許皆伝は到底与えられないが、及第点にはギリギリ達しているってとこだな」

 

「そこは素直に合格と言ってあげましょうよ。詠龍君、これをどうぞ」

 

 ツムリが小さな箱を詠龍に差し出した。それは仮面ライダーギーツ劇中に登場する、レイズバックルが入っているものと酷似していた。一点違うのは、蓋中央にギーツのイラストが描かれている所か。

 

「英寿からの合格祝いです」

 

 合格祝い。この言葉が示すことは。

 

「俺からの修行はここまでだ。よく弱音一つ吐かずにやり切ったな。大した奴だよ、お前」

 

 ポン、と軽い微笑みと共に肩を叩かれる。途端、脳裏に溢れる一年間、死に物狂いで駆け抜けた修行の日々。エントリーフォームでボコられ、マグナムブーストフォームで蜂の巣にされ、ブーストフォームマークⅡで引きずり回され、レイザーブーストで滅多打ちにされ、最終的にはギーツⅨでしばき倒される、その他色々etcetc……何故だろう、涙が止まらなかった。

 

「ふ、師匠からの贈り物に感動で声も出ないか」

 

「絶対違うと思います」

 

 箱を一旦脇に抱え、ツムリは取り出したハンカチで詠龍の涙を拭いてあげた。果てしなく辛く苦しい英寿との修行の日々を耐えられたのは彼女の細やかな気配りと優しさがあってこそだろう。

 

「ツムリさん、本当にありがとうございました」

 

「おい。まず最初は師匠に礼を言うべきだろ」

 

「ふふ、どういたしまして。私もお手伝い出来て楽しかったです」

 

「無視? 無視なのか? 酷いなこの弟子一号と姉さん」

 

 咳払い一つで英寿は弛緩しだしていたその場の空気を引き締めた。

 

「ツムリ」

 

「はい。詠龍さん、改めてこちらをどうぞ」

 

 改めて差し出された箱を受け取る。合格祝い、どれ程の物を渡されるのかとドキドキしながら蓋を開けた。

 

「これは」

 

「俺が作ったバックルだ」

 

 これといった特徴の無い、掌サイズに収まる程度の真っ白なレイズバックルだった。どういった効果、能力があるのかも見た目からはまるで判断がつかない。辛うじて接続部分があることからデザイアドライバーにセット出来るものだと分かる代物だ。

 

「あえて名づけるならブランクレイズバックルってとこか。お前の想いが最高潮に達した時、それに応える形でそいつは姿を変える。その時のお前に相応しい能力を備えてな」

 

 誰かの盾となる守護者となるか、それとも全てを打ち砕く破壊者となるのか。未来は詠龍次第だ。

 

「想いが最高潮に……具体的にはどんな時なんでしょう?」

 

「さぁな、そいつは自分で確かめろ。予言は専門外だ」

 

 投げっ放し過ぎないかこの神様? 弟子のジト目と姉の呆れた表情を笑って受け流す。基本、神様とは自分勝手なものだ。

 

「この俺が認めたんだ、素質は十分ある。胸張ってしっかりやれ、二代目ギーツ」

 

 その言葉は冗談めかさず真剣に。自分が認めた男を、ギーツを名乗る(己の名を託す)に足る弟子を真っ直ぐ見詰めて伝えた。

 

 二代目ギーツ。聞いた途端、手にしていたバックルがズシリと一気に何倍もの重さになったように感じた。思わず落としてしまいそうになるほどその名は重かった。だが、

 

「はい!」

 

 認められた証(バックル)をしっかりと握り締め、掌にのしかかる重さも受け止めて快活に応えた。仮面ライダー、そして自分を強くしてくれた人達に恥じぬようにと決意を込めて。

 

 頭を下げ、夢の中から去っていく詠龍を見送る二人。

 

「寂しくなりますね」

 

 手を振って少年を見送ったツムリの顔は言葉通りの表情を浮かべていた。対してそうか? と笑みを浮かべる英寿は彼女とは真逆の思いを抱いていた。

 

「俺はむしろワクワクしてるよ。俺が鍛えた弟子が一体どんな風に生きてくのかってな」

 

「俺が、じゃなくて俺達がだろうが」

 

 英寿とツムリ以外の第三者の声が聞こえた。四つの人影が二人へと歩み寄ってくる。それは英寿が詠龍の修行相手にと呼んだかつて競い合い、助け合い、騙し合い、紆余曲折在りながら共に戦った仲間達だ。即ち、

 

 仮面ライダーバッファ、吾妻道長。

 仮面ライダータイクーン、桜井景和。

 仮面ライダーナーゴ、鞍馬祢音。

 仮面ライダーパンクジャック、晴家ウィン。

 

「ていうか、詠龍君もう行っちゃったの? 最後に挨拶の一つもさせてくれないとか酷くない!?」

 

「そうだよ、英寿! 私達だって詠龍の師匠なのに」

 

「あいつを待たせるのも悪かったからな。それに最後なんかじゃない。会おうと思えば何時でも夢の中で会えるし、その気になればあいつがいる世界にも行ける」

 

 食って掛かる景和と祢音を悪びれもせずに受け流し、腕を一振りする英寿。途端、周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。ゆがみが治まるのを待てば、そこには高級なソファーのある、ハイソな空間に変わっていた。かつてデザイアグランプリを楽しんでいたオーディエンス達の使っていたものと雰囲気が似ている。

 

 英寿が腰かければソファーから見やすい位置に立体映像が浮かび上がる。映像の中身は夢から醒めて起床した詠龍の姿だった。

 

「こうやって我らが弟子の活躍も見れるしな」

 

 ちなみに詠龍の許可はプライバシーの侵害にならない程度で、という条件で既に取ってあった。寝起きとか思いっきりプライバシーでは? と思うだろうが今のはあくまでデモンストレーション。英寿はすぐに映像を切った。

 

「え、でもこれ、覗き見してるみたいで詠龍君に悪い気がするんだけど……」

 

「だよねぇ……」

 

 二人は余り乗り気ではなさそうだ。

 

「じゃあ、鑑賞会には呼ばなくていいのか?」

 

「「絶対に呼んでください」」

 

 前言撤回、超乗り気だった。デザイアグランプリに関わるまでは一般人として生きていた二人。人生で初めて出来た弟子という存在に内心超舞い上がっていた。

 

「はっ、下らん。そんな趣味の悪い見世物、見る気も無い……お前等なんだ、その目は?」

 

 斜に構えた態度で鼻を鳴らす道長に五人からの生暖かい視線が注がれる。

 

「とか言いつつ間違いなく見に来るよね、道長さん」

 

「うん。英寿に詠龍の修行相手頼まれた時、何で俺がガキのお守みたいな真似、とか文句言ってたくせにいざやるとなると一番熱心だったし」

 

「修行相手、とだけしか言われてないのに休憩時間にもご自身の建築現場についての知識を熱心にご教授されてましたし」

 

「エルちゃんに一番首ったけだったのは間違いなくお前さんだよ」

 

 一番文句を口にしながら、でも詠龍に対して最も親身になっていたのは間違いなく道長だった。持ち前の面倒見の良さを遺憾なく発揮し、仮面ライダーの戦い方だけでなく自身の知る現実で役に立つ技術や知恵を詠龍に伝えていた。

 

「別に熱心になんか教えてない。ただ、あいつの生きている世界じゃ少しでも役に立つ事を覚えた方がいいと思ったから教えてやってただけで、そのにやけ面止めろ!」

 

 ニヤニヤニヤ×五。ツンデレを体現したような道長の台詞に五人とも可愛らしいものを見る顔をしていた。猛る闘牛よろしく息を荒げる道長の声を流し、ウィンは英寿に訊ねる。

 

「でも実際どうなんだよ英寿。エルちゃんの生きてる世界って男に産まれただけで人生ハードモードとか言われるようなとこなんだろ? ちゃんとやっていけるのかね? エルちゃん、かなりのお人好しというか、結構損する性格してるし」

 

「ウィンさん、何でそこで俺を見るの?」

 

 大丈夫だろ、と英寿はウィンの心配をきっぱりと切り捨てる。魔都と呼ばれる異空間、そこに現れた女性のみに異能をもたらす桃という存在によって男女の力関係が崩壊した世界。男にとって生き辛い場所ではあるのだろうが、

 

「基本的に何でもそつなくこなすからな、あいつ。そこら辺の世渡りも上手にやるだろうさ。それと、戦闘の方はもっと問題無しだ。この間、あいつのいる世界を軽く見てきたけど、そこまで強い奴はいなかった」

 

 あの世界における詠龍の実力は上澄も上澄。少なくとも、為す術も無く手も足も出ないで敗れるような事態にはならないだろう。

 

「わざわざ世界を渡ってまで確認してくるなんて、お前の方が俺よりよっぽど熱心じゃないか」

 

「まぁな、なんせ初めての弟子だ。多少なりとも過保護になるさ」

 

 それだけが理由じゃないが、という呟きは他の誰にも聞こえなかった。

 

 あの世界に渡った力は詠龍の持つギーツのものだけではない。もう一つ、あの世界に存在しないはずの力が何処かへと流れていた。

 

 弟子が上手くやっていけそうか確認するついでにその正体不明の力も破壊しようとわざわざあの世界へと足を運んだが、破壊するどころかどんなものなのか確認することすら出来なかった。

 

(ギーツと対になる力、順当に考えればジャマトか? 他の仮面ライダーの敵って可能性も無くはないか)

 

 英寿に祓われたあの神の最後っ屁なのだろう。詠龍の手でなければ破壊できないように運命づけたのだ。だから英寿には見つけ出すことは出来なかった。

 

「本当、碌でもないな」

 

「何か言いましたか、英寿?」

 

 無意識に口から言葉が零れていたようだ。ツムリの問いを薄い笑みで誤魔化す。

 

「とにもかくにも、ここから先はあいつの物語だ。俺達は後方師匠面で弟子の活躍を楽しみにしていよう」




本当に久しぶりにハーメルン様に投稿したけど、色々と機能が追加されてハイカラになってるのね。時代の流れについていけない原始人な気分の今日この頃。

R-18なのも書く予定ではいます。何時になるかはさっぱりだけど。

投稿頻度についてのアンケートです。お答えいただければ何よりです

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  • 時間がかかってもきっちり書いて投稿
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